説明

車両用シート固定構造

【課題】積荷の衝突等に起因した車両用シートの後方固定部分への入力を緩和することができる車両用シート固定構造を得る。
【解決手段】リヤシート10後方のHV電池24にはブラケット28が一体に延出して設けられており、このブラケット28がリヤシート10の後方シートヒンジ部20と一体に固定ボルト30によって共締め固定されている。積荷34がシートバック14に衝突すると荷重F1がシートバック14に加わり、後方シートヒンジ部20に上方向へ向けて荷重F2が作用する。またこれと同時に、HV電池24には、車両前方へ向けた慣性モーメントが作用し、これがブラケット28を介して後方シートヒンジ部20に下方向へ向けた荷重F3として作用する。したがって、荷重F2と荷重F3とが互いに相殺し合い、結果的に後方シートヒンジ部20に入力される荷重が低減、抑制されることになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両における車両用シート固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、近年、省エネのために所謂ハイブリット(以下、HVという)カーが提案されている。この種のHVカーはHV電池を搭載しており、特に「セダンタイプ」のHVカーにおいては、一般的に、ラゲージスペースのリヤシート後方側に当該HV電池を搭載固定している。
【0003】
すなわち、図2に示す如く、一般的な「セダンタイプ」のHVカーにおいては、リヤシート40が前方シートヒンジ部42及び後方シートヒンジ部44によって車体フロア45に固定されており、このリヤシート40の後方側にHV電池46が搭載されている。このHV電池46は、前方固定部48及び後方固定部50によって車体フロア45に固定されている。HV電池46の上部は荷室の床面52を兼ねており、この床面52に積荷54を載置することができるようになっている。
【0004】
ところで、このようなHV電池46搭載車両においては、当該HV電池46のために、ラゲージスペースにおける荷室の床面52が比較的高く設定された構成となっており、例えば仮に車両急減速時に積荷54が車両前方(矢印FR方向)へ移動してリヤシート40に衝突すると、リヤシート40の上部位置(スパンS)に衝突して荷重P1がリヤシート40に加わる。このため、リヤシート40に加わった荷重P1によって、このリヤシート40を固定する後方シートヒンジ部44の固定ボルト56等に、上方向に大きな荷重P2(モーメント荷重)が作用することになる。したがって、このような大荷重P2(入力)に対応して固定ボルト56の破断や車体フロア45の持ち上がり変形等を防止できるように、リヤシート40(特に、後方シートヒンジ部44部分)の固定強度を大きく設定する必要があった。このため、コストや重量の増加の原因であった。
【0005】
一方、このようなHV電池を搭載した車両において、バッテリーカバーに補強材を設けると共に、この補強材にリヤシートを取り付けるように構成したバッテリー搭載構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、前記特許文献に示すようなバッテリー搭載構造では、補強材によってリヤシートの後方固定部分の強度は当然ながら向上するものの、仮に積荷がリヤシートに衝突した際にリヤシートの後方固定部分に作用する大荷重(入力)は依然として何ら低減・緩和することができず、このような事態では依然としてボルト等に大きな荷重が作用することになる。したがって、補強材の強度を大きく設定する必要がある等の欠点は解消されておらず、より一層好適な対策が求められていた。
【特許文献1】特開平11−99832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事実を考慮し、後方側に固定装備品が搭載固定された車両用シートにおける積荷の衝突等に起因した当該車両用シート後方固定部分への入力を緩和することができる車両用シート固定構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明の車両用シート固定構造は、少なくとも後部をシートヒンジ部によって車体に固定された車両用シートと、前記車両用シートの後方側に搭載固定された固定装備品と、前記固定装備品の前方側に前記車両用シートへ向けて一体に延出して設けられたブラケットと、を有し、前記ブラケットを前記シートヒンジ部と一体に共締め固定した、ことを特徴としている。
【0009】
請求項1記載の車両用シート固定構造では、車両用シートの後方側に固定装備品が搭載固定されており、この固定装備品にはブラケットが一体に延出して設けられている。さらに、このブラケットが車両用シートの後方側のシートヒンジ部と一体に共締め固定されている。
【0010】
ここで、例えば仮に車両急減速時等において、車両用シート後方に搭載された積荷が前方へ移動して当該車両用シートに衝突すると、この車両用シートを固定するシートヒンジ部に上方向へ向けて荷重(モーメント荷重)が作用する。またこれと同時に、車両用シートの後方側に搭載固定された固定装備品には、車両前方へ向けた慣性モーメントが作用し、これがブラケットを介してシートヒンジ部に下方向へ向けた荷重として作用する。したがって、積荷の衝突による上方向への荷重とブラケットを介して作用する下方向への荷重が互いに相殺し合い、結果的にシートヒンジ部に入力される荷重が低減、抑制されることになる。
【0011】
このように、固定装備品自体の重量をブラケットを介して入力低減力として作用させるため、換言すれば、固定装備品自体がシートヒンジ部への入力の低減、抑制に寄与するため、他の特別な補強材等によってシートヒンジ部の固定強度を大きくする必要が全く無く、コストや重量の増加の原因となることもない。また、シートヒンジ部の必要最小限の強度設定で大荷重に対応することが可能になり、シートヒンジ部のボルトの破断やフロアの持ち上がり変形等を防止することができる。
【0012】
請求項2に係る発明の車両用シート固定構造は、請求項1記載の車両用シート固定構造において、前記固定装備品は、ハイブリット電池とされる、ことを特徴としている。
【0013】
請求項2記載の車両用シート固定構造では、車両用シートの後方側に搭載固定された固定装備品がハイブリット電池とされるため、比較的大重量の当該HV電池自体がシートヒンジ部への入力の低減、抑制に大きく寄与することになり、より一層効果的である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明の車両用シート固定構造は、固定装備品自体をシートヒンジ部(車両用シート後方固定部分)への入力の抑制に寄与させ、積荷の衝突等によるシートヒンジ部への入力を緩和することができ、シートヒンジ部のボルトの破断やフロアの持ち上がり変形等を防止することができるという優れた効果を有している。
【0015】
請求項2に係る発明の車両用シート固定構造は、比較的大重量のHV電池自体をシートヒンジ部への入力の抑制に寄与させることができるという優れた効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図1を用いて、本発明の実施形態について説明する。なお、図中において矢印FRは車両前方向を示し、矢印REは車両後方向を示している。
【0017】
図1には本発明の実施形態に係る車両用シート固定構造が適用された車両用シートとしてのリヤシート10及び周辺部品の全体構成が概略的な側面図にて示されている。
【0018】
リヤシート10は、シートクッション12、シートバック14、及びヘッドレスト16を備えており、シートクッション12が、前方シートヒンジ部18及び後方シートヒンジ部20によって車体フロア22に固定されている。
【0019】
一方、リヤシート10(シートバック14)の後方側には、固定装備品としてのHV電池24が搭載されている。このHV電池24は、後方固定部26によって車体フロア22に固定されている。
【0020】
さらに、HV電池24の前部には、リヤシート10のシートバック14へ向けてブラケット28が一体に延出して設けられている。ブラケット28の先端部分はリヤシート10の後方シートヒンジ部20に達しており、このブラケット28の先端部分が固定ボルト30によって後方シートヒンジ部20と一体に共締めして車体フロア22に固定された構成となっている。
【0021】
また、HV電池24の上部は荷室の床面32を兼ねており、この床面32に積荷34を載置することができるようになっている。
【0022】
以下に、本第実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0023】
上記構成のリヤシート10の固定構造においては、リヤシート10(シートバック14)の後方側にHV電池24が搭載固定されており、このHV電池24にはブラケット28が一体に延出して設けられている。さらに、このブラケット28がリヤシート10の後方シートヒンジ部20と一体に固定ボルト30によって共締め固定されている。
【0024】
ここで、例えば仮に車両急減速時等において、リヤシート10の後方の床面32に載置された積荷34が車両前方(矢印FR方向)へ移動してこのリヤシート10のシートバック14に衝突すると荷重F1がシートバック14に加わる。このため、シートバック14に加わった荷重F1によって、このリヤシート10を固定する後方シートヒンジ部20に上方向へ向けて荷重F2(モーメント荷重)が作用する。
【0025】
またこれと同時に、リヤシート10の後方側に搭載固定されたHV電池24には、車両前方(矢印FR方向)へ向けた慣性モーメントが作用し、これがブラケット28を介して後方シートヒンジ部20に下方向へ向けた荷重F3として作用する。したがって、積荷34のシートバック14への衝突による上方向への荷重F2とブラケット28を介して作用する下方向への荷重F3とが互いに相殺し合い、結果的に後方シートヒンジ部20に入力される荷重が低減、抑制されることになる。
【0026】
したがって、後方シートヒンジ部20の固定ボルト30の破断や車体フロア22の持ち上がり変形等を防止することができる。
【0027】
このように、本実施形態に係るリヤシート10の固定構造では、HV電池24自体の重量をブラケット28を介して入力低減力として後方シートヒンジ部20に作用させるため、換言すれば、HV電池24自体が後方シートヒンジ部20への入力の低減、抑制に寄与するため、他の特別な補強材等によって後方シートヒンジ部20の固定強度を大きくする必要が全く無く、コストや重量の増加の原因となることもない。また、後方シートヒンジ部20の必要最小限の強度設定で大荷重に対応することが可能になり、後方シートヒンジ部20の固定ボルト30の破断や車体フロア22の持ち上がり変形等を防止することができる。
【0028】
しかもこの場合、リヤシート10の後方側に搭載固定された固定装備品として、HV電池24を適用した構成であるため、比較的大重量の当該HV電池24自体が後方シートヒンジ部20への入力の低減、抑制に大きく寄与することになり、より一層効果的である。さらに、HV電池24の上方に設定されたラゲージスペースを不要に侵食することもない。
【0029】
このように、本第実施形態に係るリヤシート10の固定構造では、固定装備品としてのHV電池24自体を後方シートヒンジ部20(リヤシート10の後方固定部分)への入力の抑制に寄与させ、積荷34のシートバック14への衝突等による後方シートヒンジ部20への入力を緩和することができ、後方シートヒンジ部20の固定ボルト30の破断や車体フロア22の持ち上がり変形等を防止することができるという優れた効果を有している。
【0030】
なお、本実施形態においては、固定装備品としてHV電池24を適用すると共に当該HV電池24に本車両用シート固定構造を適用した例を説明したが、固定装備品としてはこれに限らず、リヤシート10の後方側に搭載固定される他の固定装備品であっても適用することができ、特に、重量のある固定装備品の場合には一層顕著な効果を得ることができる。
【0031】
さらに、本実施形態においては、車両用シートとしてリヤシート10を適用した例を説明したが、これに限らず、例えばフロントシート等の他の車両用シートであっても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係るに係る車両用シート固定構造が適用されたリヤシート及び周辺部品の全体構成を示す概略的な側面図である。
【図2】従来の車両用リヤシート取付構造及び周辺部品の全体構成を示す概略的な側面図である。
【符号の説明】
【0033】
10 リヤシート(車両用シート)
18 前方シートヒンジ部
20 後方シートヒンジ部
22 車体フロア
24 HV電池(固定装備品)
28 ブラケット
30 固定ボルト
F1 荷重
F2 荷重
F3 荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも後部をシートヒンジ部によって車体に固定された車両用シートと、
前記車両用シートの後方側に搭載固定された固定装備品と、
前記固定装備品の前方側に前記車両用シートへ向けて一体に延出して設けられたブラケットと、
を有し、前記ブラケットを前記シートヒンジ部と一体に共締め固定した、
ことを特徴とする車両用シート固定構造。
【請求項2】
前記固定装備品は、ハイブリット電池とされる、ことを特徴とする請求項1記載の車両用シート固定構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−89635(P2010−89635A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261539(P2008−261539)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】