車両用シート装置
【課題】第1操作レバーの操作を通じたシートバックの傾斜角度調整に際し、シートスライド装置においてスライド移動の規制が解除されるのを抑制する。
【解決手段】車両用シート装置は、シートバック、ロック機構、シートスライド装置69及び切替え制限機構を備える。シートバックは、着座領域及び前倒れ領域を傾動領域とし、操作軸16Aを支点としてシートクッションに対し傾動する。ロック機構は、シートクッションに対するシートバックの傾動を規制するロック状態、及び同傾動を許容するアンロック状態を、第1操作レバー61及び第2操作レバーの操作に応じた操作軸16Aの回動により切替え得る。シートスライド装置69は、シートクッションのスライド移動を規制・解除する。切替え制限機構は、第1操作レバー61の操作時には、ロック機構によるロック状態及びアンロック状態の切替えを、シートバックが着座領域内で傾動するときのみに制限する。
【解決手段】車両用シート装置は、シートバック、ロック機構、シートスライド装置69及び切替え制限機構を備える。シートバックは、着座領域及び前倒れ領域を傾動領域とし、操作軸16Aを支点としてシートクッションに対し傾動する。ロック機構は、シートクッションに対するシートバックの傾動を規制するロック状態、及び同傾動を許容するアンロック状態を、第1操作レバー61及び第2操作レバーの操作に応じた操作軸16Aの回動により切替え得る。シートスライド装置69は、シートクッションのスライド移動を規制・解除する。切替え制限機構は、第1操作レバー61の操作時には、ロック機構によるロック状態及びアンロック状態の切替えを、シートバックが着座領域内で傾動するときのみに制限する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォークイン機構を備える車両用シート装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
傾斜角度調整のための着座領域と、その着座領域の前側の前倒れ領域とからなる傾動領域内で、操作軸を支点としてシートバックをシートクッションに対し傾動させるようにした車両用シート装置として、シートリクライニング装置及びシートスライド装置を備えるものがある。
【0003】
シートリクライニング装置には、シートクッションに対するシートバックの傾動を規制するロック状態と、同傾動を許容するアンロック状態とを、第1操作レバー及び第2操作レバーの操作に応じた操作軸の回動により切替えるロック機構が設けられている。
【0004】
また、シートリクライニング装置には、上記ロック機構に加え、第2操作レバーの操作により作動するメモリ機構が組み込まれたものもある。メモリ機構は、着座領域から前倒れ領域へシートバックを傾動させる動作(前倒し)を行なう直前のシートバックの角度位置、すなわち、アンロック状態への切替え直前のロック状態におけるシートバックの角度位置を記憶する。また、メモリ機構は、前倒れ領域から着座領域へのシートバックの引き起こしにより、アンロック状態のシートバックが、記憶した前記角度位置へ傾動したときにのみロック状態への復帰を許容する。このメモリ機構を有するシートリクライニング装置によれば、シートバックの引き起こし操作を行なうのみで、その前倒し直前の着座領域でのシートバックの角度位置が再生されるため、シートバックの引き起こしを伴う再着座時の操作性が改善される。
【0005】
一方、シートスライド装置は、少なくとも着座領域では、シートクッションの車両フロアに対するスライド移動を規制する。また、シートスライド装置は、シートバックが着座領域から前倒れ領域へ傾動(前倒し)されることに連動して、前記スライド移動の規制を解除する(特許文献1参照)。この規制を解除された前席のシートが前方へスライド移動させられることで、乗員の後席への乗降性向上が図られる。このように、シートバックが着座領域から前倒れ領域へ前倒しされることに連動して車両用シート装置を前方へスライド移動させる機構は、ウォークイン機構とも呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−273350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記特許文献1も含め従来の車両用シート装置のロック機構では、シートバックが上記傾動領域のどの角度位置にあるときにも、同シートバックをロック状態に切替えることのできる仕様となっている。そのため、シートバックの傾斜角度調整に際し、第1操作レバーの操作が前倒れ領域で行なわれると、シートスライド装置におけるスライド移動の規制が意図せず解除されるおそれがある。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、第1操作レバーの操作を通じたシートバックの傾斜角度調整に際し、シートスライド装置においてスライド移動の規制が解除されるのを抑制することのできる車両用シート装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、傾斜角度調整のための着座領域、及び同着座領域の前側の前倒れ領域を傾動領域とし、操作軸を支点としてシートクッションに対し前記傾動領域内で傾動するシートバックと、前記シートクッションに対する前記シートバックの傾動を規制するロック状態、及び同傾動を許容するアンロック状態を、第1操作レバー及び第2操作レバーの操作に応じた前記操作軸の回動により切替え得るロック機構と、少なくとも前記着座領域では、前記シートクッションのスライド移動を規制し、前記第2操作レバーの操作に応じて前記ロック機構が前記アンロック状態へ切替えられ、前記シートバックが前記着座領域から前記前倒れ領域へ前倒しされることに連動して前記規制を解除するシートスライド装置とを備える車両用シート装置であって、前記第1操作レバーの操作時には、前記ロック機構による前記ロック状態及び前記アンロック状態の切替えを、前記シートバックが前記着座領域内で傾動するときのみに制限する切替え制限機構をさらに備えることを要旨とする。
【0010】
シートスライド装置は、シートバックが少なくとも着座領域で傾動されるとき、シートクッションのスライド移動を規制する。また、シートスライド装置は、第2操作レバーの操作に応じてロック機構がアンロック状態へ切替えられ、シートバックが着座領域から前倒れ領域へ前倒しされると、その前倒しに連動して前記スライド移動の規制を解除する。この規制解除により、シートクッションのスライド移動が可能となる。
【0011】
ここで、一般的なシートリクライニング装置と同様、シートバックが傾動領域のどの角度位置にあるときにも、ロック機構におけるロック状態及びアンロック状態を第1操作レバーによって切替えることのできる仕様になっているものとする。この場合には、シートバックの傾斜角度調整に際し、第1操作レバーの操作が前倒れ領域で行なわれると、シートスライド装置におけるスライド移動の規制が意図せず解除されるおそれがある。
【0012】
この点、請求項1に記載の発明では、第1操作レバーの操作時には、ロック機構におけるロック状態及びアンロック状態の切替えが、切替え制限機構により、シートバックが着座領域内で傾動するときのみに制限される。そのため、前倒れ領域では、ロック機構によるロック状態及びアンロック状態の切替えが不可となる。その結果、第1操作レバーを操作してシートバックの傾斜角度を調整する際に、誤ってシートバックを前倒れ領域で傾動させることがなく、シートスライド装置におけるスライド移動の規制が解除されることがなくなる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ロック機構は、前記シートクッション及び前記シートバックの一方に取付けられ、かつ前記操作軸の回りに内歯車を有する第1部材、及び他方に取付けられ、かつ前記操作軸を中心として前記第1部材に対し回動し得る第2部材と、前記第2部材に取付けられ、前記内歯車に対向する外歯をそれぞれ有する複数のロック部材とを備え、前記各ロック部材を径方向外側へ押圧して前記外歯を前記内歯車に噛合させることで前記シートバックを前記ロック状態にするとともに、前記操作軸の回動により、前記各ロック部材を径方向内側へ移動させて前記外歯の前記内歯車との噛合を解除することで前記シートバックを前記アンロック状態にするものであることを要旨とする。
【0014】
上記の構成によれば、第2部材に取付けられている各ロック部材を径方向外側へ押圧して、ロック部材毎の外歯を第1部材の内歯車に噛合させることにより、シートバックがロック状態にされる。このロック状態では、シートクッションに対するシートバックの傾動が規制される。
【0015】
このロック状態にされているシートバックを、傾動を許容されるアンロック状態に切替える場合には、操作軸が回動されることにより、各ロック部材が径方向内側へ移動させられる。この移動により各ロック部材が径方向内側へ移動させられ、外歯の内歯車との噛合が解除される。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記アンロック状態への切替え直前のロック状態における前記シートバックの角度位置を記憶するとともに、前記アンロック状態の前記シートバックが、記憶した前記角度位置へ傾動したときにのみ前記ロック状態への復帰を許容するメモリ機構をさらに備え、前記第2操作レバーは、前記メモリ機構を作動させる際に操作されて前記操作軸を回動させるものであることを要旨とする。
【0017】
上記の構成によれば、第2操作レバーが操作されて操作軸が回動されると、ロック機構でのロック状態及びアンロック状態の切替えが行なわれるほか、メモリ機構が作動させられる。メモリ機構では、アンロック状態への切替え直前のロック状態におけるシートバックの角度位置が記憶されるとともに、アンロック状態のシートバックが、記憶した角度位置へ傾動したときにのみ、ロック機構によるロック状態への復帰が許容される。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記メモリ機構は、前記第1部材に設けられた円筒状の収納凹部と、一箇所において分断された円環状をなし、縮径された状態で前記収納凹部に収納されるとともに、周方向について互いに異なる箇所に一対の被係合部を有するメモリプレートと、前記複数のロック部材のうち一対のロック部材に設けられ、同ロック部材の径方向への移動に伴い前記被係合部に係脱する係合部とを備え、前記アンロック状態は、前記係合部が対応する前記被係合部に対し径方向に半係合させられ、この状態で前記被係合部が前記係合部により周方向へ押圧され、前記収納凹部に対し前記メモリプレートが前記ロック部材と一体で回動させられることにより、前記角度位置を記憶せずに前記シートバックの傾動を許容するものと、前記係合部が前記被係合部を乗り越え、前記メモリプレートを前記収納凹部に対し回動不能に係止させた状態で、同メモリプレートの内周面上で摺動させられることにより、前記角度位置を記憶したうえで前記シートバックの傾動を許容するものとからなることを要旨とする。
【0019】
上記の構成によれば、ロック機構によるシートバックのアンロック状態には、メモリ機構により角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するものと、メモリ機構により角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するものとがある。
【0020】
前者のアンロック状態は、ロック部材の係合部が対応する被係合部に対し径方向に半係合させられ、この状態で被係合部が係合部により周方向へ押圧され、収納凹部に対しメモリプレートがロック部材と一体で回動させられることにより生ずる。
【0021】
後者のアンロック状態は、上記係合部が対応する被係合部を乗り越え、メモリプレートを収納凹部に対し回動不能に係止させた状態で、メモリプレートの内周面上で摺動させられることにより生ずる。
【0022】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記切替え制限機構は、前記第1部材内に一体回動可能に設けられ、かつ前記係合部が摺動する前記メモリプレートの前記内周面と同一径の内周面を有する回動規制部を備え、前記第1操作レバーの操作時には、半係合状態の前記係合部の前記回動規制部との当接により、前記メモリプレートを伴う前記ロック部材の回動が規制されて、前記シートバックの前記着座領域から前記前倒れ領域への傾動を阻止され、前記第2操作レバーの操作時には、前記係合部が前記被係合部及び前記回動規制部を乗り越えて前記メモリプレートの前記内周面上で摺動されることにより、前記シートバックの前記着座領域から前記前倒れ領域への傾動を許容されるものであることを要旨とする。
【0023】
上記の構成によれば、第1操作レバーを操作して、シートバックを着座領域から前倒れ領域へ傾動させようとすると、両領域の境界部分において、半係合状態の係合部が回動規制部に当接する。この当接により、メモリプレートを伴うロック部材のそれ以上の回動が規制され、すなわち第1部材に対する第2部材の回動が規制され、シートバックの前倒れ領域への傾動が阻止される。
【0024】
これに対し、第2操作レバーを操作して、シートバックを着座領域から前倒れ領域へ傾動させようとすると、両領域の境界部分において、係合部が被係合部及び回動規制部を乗り越えてメモリプレートの内周面上で摺動される。この摺動により、ロック部材の回動が許容され、すなわち第1部材に対する第2部材の回動が許容され、シートバックの着座領域から前倒れ領域への傾動を許容される。
【0025】
請求項6に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記切替え制限機構は、前記シートバックに設けられ、同シートバックの傾動に伴い変位する被当接部と、軸により傾動可能に支持され、前記被当接部との当接により前記シートバックの傾動を規制する当接位置、及び前記当接位置から退避した非当接位置の間で傾動する可動ストッパと、前記操作軸に一体回動可能に連結され、前記第1操作レバー及び前記第2操作レバーの操作に伴う前記操作軸の回動を前記可動ストッパに伝達し得るリンク部材と、角度位置を記憶せずに前記シートバックの傾動を許容する前記アンロック状態を生じさせるための角度だけ前記操作軸を回動させる前記第1操作レバー及び前記第2操作レバーの操作が行なわれるときには、前記リンク部材の回動が前記可動ストッパへ伝達されるのを遮断し、前記可動ストッパを前記当接位置に位置させて前記シートバックの前方への傾動を規制することにより、前記ロック機構での前記ロック状態及び前記アンロック状態の切替えを、前記シートバックが前記着座領域内で傾動するときのみに制限する一方、前記第2操作レバーについて、角度位置を記憶せずに前記シートバックの傾動を許容する前記アンロック状態を生じさせるときよりも多く前記操作軸を回動させる操作が行なわれるときには、前記リンク部材の回動を前記可動ストッパに伝達し、同可動ストッパを前記非当接位置に後退させて前記シートバックの前方への傾動規制を解除することにより、前記シートバックの前記着座領域から前記前倒れ領域への前倒しを許容する回動伝達制御手段とを備えることを要旨とする。
【0026】
上記の構成によれば、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせるための角度だけ操作軸を回動させる第1操作レバー及び第2操作レバーの操作が行なわれるときには、リンク部材の回動が可動ストッパへ伝達されることが、回動伝達制御手段によって遮断される。この遮断により可動ストッパが当接位置に位置して被当接部に当接することで、同被当接部、ひいてはシートバックの前方への傾動が規制される。この規制により、ロック機構によるロック状態及びアンロック状態の切替えは、シートバックが着座領域内で傾動するときのみに制限される。
【0027】
第2操作レバーについて、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせるときよりも多く操作軸を回動させる操作が行なわれると、リンク部材の回動が可動ストッパに伝達され、同可動ストッパが非当接位置に後退する。この後退により、シートバックの前方への傾動規制が解除され、シートバックの着座領域から前倒れ領域への前倒しが許容される。
【0028】
上記回動伝達制御手段としては、例えば請求項7に記載の発明によるように、前記可動ストッパ及び前記リンク部材の一方に形成されたカム孔と、他方に設けられて前記カム孔に挿通されたピンとを備えるものを採用することができる。
【0029】
この場合、第1操作レバーが操作されると、リンク部材が操作軸と一体回動する。これに伴い、カム孔内におけるピンの位置が操作軸の回りで変化する。このときには、リンク部材の回動は、ピン及びカム孔を通じて可動ストッパに伝達されない。表現を変えると、リンク部材の回動が可動ストッパへ伝達されることが、カム孔内でのピンの移動によって遮断される。この遮断により、可動ストッパが当接位置に位置して被当接部に当接することで、同被当接部、ひいてはシートバックの前方への傾動が規制される。この規制により、ロック機構によるロック状態及びアンロック状態の切替えは、シートバックが着座領域内で傾動するときのみに制限される。
【0030】
第2操作レバーについて、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせるときよりも多く操作軸を回動させる操作が行なわれると、同第1操作レバーが操作されるときよりもリンク部材が多く操作軸と一体回動する。このリンク部材の回動がピン及びカム孔を通じて可動ストッパに伝達され、同可動ストッパが非当接位置に後退する。この後退により、シートバックの前方への傾動規制が解除され、シートバックの着座領域から前倒れ領域への前倒しが許容される。
【発明の効果】
【0031】
本発明の車両用シート装置によれば、第1操作レバーの操作を通じたシートバックの傾斜角度調整に際し、シートスライド装置においてスライド移動の規制が解除されるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態において、車両用シート装置の骨格部分を示す正面図。
【図2】同じく車両用シート装置の骨格部分を示す側面図。
【図3】シートバックの傾動領域を説明する側面図。
【図4】シートリクライニング装置の分解斜視図。
【図5】同じくシートリクライニング装置の分解斜視図。
【図6】シートリクライニング装置の正面図。
【図7】図6のA−A線断面図。
【図8】図7の一部を拡大して示す部分断面図。
【図9】図8に対応する図であり、シートリクライニング装置の比較例を示す部分断面図。
【図10】図7のB−B線断面図。
【図11】図7のC−C線断面図。
【図12】図7のシートリクライニング装置を矢印D方向から見た状態を示す背面図。
【図13】図7のシートリクライニング装置中のメモリプレートを矢印D方向から見た状態を示す背面図。
【図14】車両用シート装置の右側の操作軸、及びその周辺部分の構造を示す部分側面図。
【図15】図14の状態から第1操作レバーが解除位置へ操作されたときの、車両用シート装置の右側の操作軸、及びその周辺部分の構造を示す部分側面図。
【図16】車両用シート装置の左側の操作軸、及びその周辺部分の構造を示す部分側面図。
【図17】図16の状態から第2操作レバーが引上げ操作されたときの、車両用シート装置の左側の操作軸、及びその周辺部分の構造を示す部分側面図。
【図18】図6のE−E線断面図。
【図19】図18のF−F線断面図。
【図20】図10の状態から操作軸が回動されて、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態に切替えられたシートリクライニング装置を示す断面図。
【図21】図20の状態からさらに操作軸が回動されて、角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するアンロック状態に切替えられたシートリクライニング装置を示す断面図。
【図22】図21の状態からさらに操作軸が回動されて、シートバックが前方へ傾動させられたときのシートリクライニング装置を示す断面図。
【図23】本発明を具体化した第2実施形態において、切替え制限機構の構造を示す部分側面図。
【図24】図23の状態から第2操作レバーが操作されたときの切替え制限機構の状態を示す部分側面図。
【図25】図8に対応する図であり、収納凹部の別例を示す部分拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(第1実施形態)
以下、本発明を、ウォークイン機構を備えた車両用シート装置に具体化した第1実施形態について、図1〜図22を参照して説明する。
【0034】
なお、以下の記載において、車両の前進方向を前方(車両前方)として説明し、車両の後進方向を後方(車両後方)として説明する。また、以下の記載における上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車両の車幅方向であって車両前進時の左右方向と一致するものとする。
【0035】
本実施形態では、車両として、2ドア車、ワンボックスカー等、ドアを開けたときに乗降用スペースが充分広くないタイプの車両を想定している。
図1及び図2に示すように、車両用シート装置の骨格部分は、車幅方向でそれぞれ対をなすロアレール11A,11B及びアッパレール12A,12Bと、シートクッションフレーム14と、シートバックフレーム15とを備えている。
【0036】
ロアレール11A,11Bは、その長手方向が車両の前後方向(図2の左右方向)に一致する態様で、ブラケット13A,13Bを介して車両フロア(図示略)に固定されている。アッパレール12A,12Bは、ロアレール11A,11Bに対し前後方向にスライド可能に設けられている。
【0037】
シートクッションフレーム14は、乗員が着座するシートクッションの骨格部分をなすものであり、車幅方向で対をなすロアアーム14A,14B、及び両ロアアーム14A,14Bを後端部で連結する連結ロッド14C、各ロアアーム14A,14Bの後端部に固定された一対の支持ブラケット14D,14E(図14、図15参照)等を有している。シートクッションフレーム14は、ロアアーム14A,14Bにおいてそれぞれアッパレール12A,12Bに支持されている。
【0038】
シートバックフレーム15は、ロアアーム14A,14Bの後端部においてシートクッションフレーム14に回動可能に連結されている。シートバックフレーム15は、乗員の上半身を後側から支えるシートバック(背もたれ)の骨格部分をなすものであり、車幅方向で対をなすサイドフレーム15A,15Bと、両サイドフレーム15A,15Bを上端部で連結するアッパパイプ15Cと、アッパパイプ15Cに固定された横長の架設部材15Dとを有している。
【0039】
図3に示すように、シートバック(シートバックフレーム15)は、傾斜角度調整のための着座領域と、同着座領域の前側の前倒れ領域とを傾動領域とし、この傾動領域内で、操作軸16A,16Bを支点としてシートクッション(シートクッションフレーム14)に対し傾動し得るように構成されている。この傾動領域は、シートバックが起立状態にされた「アップライト位置」を基準とする。着座領域は、上記「アップライト位置」と、それよりもシートバックが後方へ大きく傾斜させられた「大倒し位置」とによって挟まれた領域である。なお、図中、実線で示されるシートバックフレーム15の角度位置は、一般的な乗員が着座したときに最も多く採られるシートバックの角度位置(以下「ニュートラル位置」という)である。また、前倒れ領域は、上記「アップライト位置」と、それよりもシートバックが前傾させられた「前倒し位置」とによって挟まれた領域である。
【0040】
そして、着座領域から前倒れ領域の「前倒し位置」まで傾動させられるシートバックの動作は、「前倒し」と呼ばれる。
また、ウォークイン機構は、2ドア車においてドアを開いてセカンドシートへ乗降する場合や、ワンボックス車においてリヤドアからサードシートへ乗降する場合等に、乗降スペースを確保するために、シートバックの前倒しに連動して、シートクッションを車両フロアに対し前方へスライド移動させる機構である。
【0041】
図1及び図2に示すように、車両用シート装置は、車幅方向についての両側にそれぞれシートリクライニング装置20A,20Bを備えている。両シートリクライニング装置20A,20Bは、シートクッションに対するシートバックの傾斜角度を調整・保持するためのものであり、互いに同一の構成を有している。
【0042】
各シートリクライニング装置20A,20Bは、シートクッションフレーム14の支持ブラケット14D,14Eとシートバックフレーム15のサイドフレーム15A,15Bとの間に配置されており、渦巻きばね(図示略)、ロック機構30及びメモリ機構50を備えている。
【0043】
渦巻きばねは、シートバックを前傾方向に付勢するためのものであり、線材を渦巻き状に曲成することにより成形されている。渦巻きばねの一端部はシートクッションフレーム14に係止され、他端部はシートバックフレーム15に係止されている。
【0044】
ロック機構30は、シートクッションに対するシートバックの傾動を規制するロック状態と、その傾動を許容するアンロック状態とを、操作軸16A,16Bの回動に応じて切替えるための機構である。
【0045】
左側のシートリクライニング装置20Aにおける操作軸16Aと、右側のシートリクライニング装置20Bにおける操作軸16Bとは、共通のロッド22(図1参照)によって互いに一体回動可能に連結(剛結合)されている。ここで、操作軸16A,16Bに沿う方向を「軸方向」というものとする。
【0046】
図4〜図7に示すように、ロック機構30は、シートバックフレーム15のサイドフレーム15A,15Bに取付けられる第1部材31と、シートクッションフレーム14の支持ブラケット14D,14Eに取付けられる第2部材32と、これら第1部材31及び第2部材32に装着されるホルダ33とを備えている。さらに、ロック機構30は、第1部材31及び第2部材32間に配設された、カム34及び複数(3つ)のロック部材としてのポール35と、第2部材32の軸方向についての一側(図4、図5の右側)に配設された渦巻きばね36とを備えている。
【0047】
第2部材32は、半抜き加工(ハーフブランキング)により成形されたものであり、円環状に形成されている。この第2部材32は、軸方向についての一側(図7の右側)で支持ブラケット14D,14Eに接合されることで、実質的にシートクッションフレーム14に一体化されている。
【0048】
また、第2部材32の軸方向についての他側(図4、図7の左側)には、円形の凹部37が形成されている。図4、図10及び図11に示すように、凹部37には、軸方向の段差分だけ底壁部から突出する複数(3つ)のガイド壁部38が所定角度毎に形成されている。これらガイド壁部38は、隣り合うガイド壁部38で対をなしている。ガイド壁部38は、対をなす隣のガイド壁部38との間で平行になるように径方向に真っ直ぐに延びる側面38Aを有している(図11参照)。そして、各隣接する側面38A間は、径方向に延びるガイド溝をなしている。このガイド溝は、ポール35の径方向の移動(進退)を案内するためのものである。
【0049】
図5及び図7に示すように、第1部材31は、上記第2部材32と同様、半抜き加工により成形されたものであり、前記凹部37の内周面37Aの内径と同等の外径を有する円環状に形成されている。第1部材31は、軸方向についての他側(図7の左側)でサイドフレーム15A,15Bに接合されることで、実質的にシートバックフレーム15に一体化されている。
【0050】
第1部材31は、前記第2部材32に対してその外周面31Aが内周面37Aと摺接するように装着されている。すなわち、第1部材31は第2部材32に軸支されている。この軸支により、シートバックフレーム15は、ロック機構30の第1部材31及び第2部材32を介してシートクッションフレーム14に対し回動可能に連結されている。
【0051】
第1部材31は、シートバックフレーム15が前方へ傾動するときには、図10において反時計回り方向へ回動(前方回転)する。これとは逆に、第1部材31は、シートバックフレーム15が後方へ傾動するときには、図10において時計回り方向へ回動(後方回転)する。
【0052】
また、第1部材31の軸方向についての一側(図7の右側)には、第2部材32と同心で円形をなす第1凹部39が形成されている。この第1凹部39において、操作軸16A,16Bを中心とする内周面には内歯車39Aが形成されている。従って、第1部材31が第2部材32に装着された状態では、前記ガイド溝の径方向に内歯車39Aが対向する。
【0053】
第1凹部39には、同第1凹部39と同心で、同第1凹部39よりも小径の円形の第2凹部41が形成されている。第1凹部39及び第2凹部41は、第1部材31が第2部材32に装着された状態において、凹部37とともにカム34及びポール35の収容空間を形成する。
【0054】
ホルダ33は円環状に形成されており、第1部材31と、これに装着された第2部材32とに対し、それらの径方向外側から装着されている。第1部材31及び第2部材32は、このホルダ33により相対回動を許容された状態で軸方向に抜け止めされている。
【0055】
図4及び図5に示すように、カム34は、その回動中心から所定角度ごとに複数(3つ)のカム部34Aを有しており、これらカム部34Aの外側面はカム面34Bを形成している。各カム部34Aには、軸方向と平行に突出する突起34Cが形成されている。カム34は、第2部材32及び第1部材31間に収容される態様で第2部材32に対し回動可能に連結されている。カム34は、後述する第1操作レバー61及び第2操作レバー62の操作に連動して操作軸16A,16Bと一体となって、一側(図10において時計回り方向、図11において反時計回り方向)に回動する。
【0056】
図4、図5及び図12に示すように、前記渦巻きばね36の外端は第2部材32に係止されており、内端はカム34に係止されている。カム34は、第1操作レバー61及び第2操作レバー62の操作が解放されたときに、渦巻きばね36により他側(図10において反時計回り方向、図11において時計回り方向)に回動するように付勢されている。この付勢方向は、カム34により、後述するポール35の外歯35Aを第1部材31の内歯車39Aに噛合させてシートバックをロック状態にする方向である。
【0057】
なお、渦巻きばね36の外端は、第2部材32に代えて、シートクッションフレーム14の支持ブラケット14D,14Eに係止されてもよい。
図4、図5、図10及び図11に示すように、複数(3つ)のポール35の各々は、前記ガイド溝の周方向の幅(隣合うガイド壁部38間の間隔)よりも若干小さい幅を有する矩形の板状に形成されている。各ポール35はガイド溝にそれぞれ配置されており、両側面38A(図11参照)と摺接することで径方向へ案内される。各ポール35の径方向についての外端部には、第1部材31の内歯車39Aと噛合する外歯35Aが形成されている。また、各ポール35の内端部には、厚さ方向に貫通するカム孔35Bが形成されている。各カム孔35Bは周方向に対して傾斜しており、各ポール35は、カム孔35Bにカム34の突起34Cが挿入されることで、これと係合する。
【0058】
さらに、各ポール35において、外歯35Aとカム孔35Bとの間には段差部が形成されている。この段差部の径方向に対向する端面は、ポールカム面35Cを形成している。このポールカム面35Cは、ポール35の側面を横切るように、かつ、外歯35Aのピッチ円に対して傾斜角を持つように延びている。ポール35は、ポールカム面35Cに前記カム34のカム面34Bが当接することで、これと係合する。
【0059】
ここで、第2部材32及び第1部材31間(収容空間)にカム34及びポール35が収容された状態において、カム34が操作軸16A,16Bと一体で一側(図10において時計回り方向)に回動するとき、ポール35は、カム孔35Bがカム34の突起34Cに押圧されることで、ガイド溝に沿って径方向に引き込むように移動する。このとき、ポール35の外歯35Aと第1部材31の内歯車39Aとの噛合が解除されることで、同第1部材31は第2部材32に対して回動可能になり、シートバックがアンロック状態にされる。
【0060】
一方、カム34が他側(図10において反時計回り方向)に回動するとき、ポール35は、ポールカム面35Cがカム面34Bに押圧されることで、ガイド溝に沿って径方向に飛び出すように移動する。このとき、ポール35の外歯35Aが第1部材31の内歯車39Aに噛合し、同第1部材31は第2部材32に対して回動不能になり、シートバックがロック状態にされる。
【0061】
メモリ機構50は、アンロック状態への切替え直前のロック状態におけるシートバックの角度位置を記憶するとともに、前倒しされたアンロック状態のシートバックが、記憶した前記角度位置へ傾動したときにのみロック状態への復帰を許容するための機構である。
【0062】
メモリ機構50は、一対のポール35にそれぞれ設けられた係合部53A,53B、収納凹部51、メモリプレート52及び一対の被係合部52A,52Bを備えて構成されている。
【0063】
図10に示すように、係合部53A,53Bは、複数(3つ)のポール35のうち、隣合う一対(図10の上側及び左側)のポール35にそれぞれ設けられている。より詳しくは、図4及び図5に示すように、ポール35において、ポールカム面35Cとは軸方向に反対側であって、外歯35Aとカム孔35Bとの間に段差部54が形成されており、この段差部54に係合部53A,53Bが設けられている。本実施形態では、一方の係合部53Aが他方の係合部53Bよりも段差部54から径方向外側へ多く突出している。
【0064】
図8に示すように、収納凹部51は、軸方向(図8の左右方向)であって、内歯車39Aの外歯35Aとの噛合部分よりも第2部材32から遠ざかる側(図8の左側)に隣接して設けられている。すなわち、収納凹部51は、第1凹部39よりも第2部材32側から遠ざかる側に隣接して設けられている。収納凹部51は、第1凹部39と同心で、内歯車39Aの歯先円と同一径の内周面51Aを有している。
【0065】
図10及び図13に示すように、メモリプレート52は、一箇所において分断された円環状をなしており、径方向内側へ弾性変形することで縮径可能であり、径方向外側へ弾性変形することで拡径可能である。メモリプレート52は、分断部分Sを両係合部53A,53B間に位置させ、かつ縮径された状態で、収納凹部51に対し周方向への摺動可能に収納されている。
【0066】
被係合部52A,52Bは、両係合部53A,53B間において、メモリプレート52の各係合部53A,53Bに隣接した箇所から径方向内側へそれぞれ突出している。両被係合部52A,52Bは、ポール35の径方向への移動に伴い係合部53A,53Bが係脱される箇所である。
【0067】
本実施形態では、シートバックを前傾させる際に第1部材31が回動(前方回転)する方向についての前側の被係合部52Bが、メモリプレート52の一方の端部に設けられており、同前側の係合部53Bに隣接している。また、シートバックを前傾させる際に第1部材31が回動する方向についての後側の被係合部52Aが、メモリプレート52の他方の端部に設けられており、同後側の係合部53Aに隣接している。
【0068】
被係合部52A,52Bの径方向の長さは、上記係合部53A,53Bの段差部54からの突出量とともに、係合部53A,53Bが被係合部52A,52Bを乗り越えて摺動できるかどうか、すなわちシートバックの角度位置を記憶できるかどうかを決定する要素である。ここでは、被係合部52Bの径方向の長さは、段差部54からの突出量の少ない係合部53Bが乗り越えることのできる長さに設定されている。また、被係合部52Aの径方向の長さは、上記突出量の多い係合部53Aが乗り越えることのできない長さに設定されている。
【0069】
また、被係合部52A,52Bの周方向の長さは、メモリ機構50によって記憶できるシートバックの傾動範囲を決定する要素である。ここでは、係合部53Bが乗り上げて摺動する被係合部52Bは、周方向に長く形成されている。また、係合部53Aが乗り上げることのない被係合部52Aは、周方向に短く形成されている。
【0070】
上述したロック機構30によるアンロック状態は、次の2つの態様からなる。
態様1:両係合部53A,53Bが被係合部52A,52Bに対し径方向に半係合させられ、この状態で被係合部52A,52Bが係合部53A,53Bにより周方向へ押圧され、収納凹部51に対しメモリプレート52がポール35と一体で回動させられることにより、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容する態様(図20参照)。
【0071】
態様2:係合部53Bが被係合部52Bを乗り越え、メモリプレート52を収納凹部51に対し回動不能に係止させた状態で、その被係合部52Bの内周面52C上で摺動させられることにより、角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容する態様(図22参照)。この態様は、メモリプレート52の外周面52Dと、収納凹部51の円形の内周面51Aとの間で生ずる摩擦抵抗が、被係合部52Bの内周面52Cと係合部53Bとの間で生ずる摩擦抵抗よりも大きいときに生ずる。
【0072】
ここで、図13に示すように、メモリプレート52において、周方向に長い方の被係合部52Bが設けられている箇所の外周部には、円弧状の切欠き部52Eが設けられている。この切欠き部52Eにより、メモリプレート52の径方向の厚みt1は、メモリプレート52のうち周方向についての両被係合部52A,52B間の箇所52Fと、両被係合部52A,52Bのうち、角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するアンロック状態のときに係合部53Bが摺動する箇所とで同一に設定されている。係合部53Bが摺動する箇所とは、周方向に長く径方向に短い方の被係合部52Bである。なお、図13中の52Gは、係合部53Bが被係合部52Bの内周面52C上を摺動する際に、その被係合部52Bが径方向外側へ撓むのを規制するための脚部である。
【0073】
図1及び図2に示すように、車両用シート装置は、上記シートリクライニング装置20A,20Bのほかに、第1操作レバー61(ロック解除操作レバー)、第2操作レバー62(メモリ操作レバー)及びシートスライド装置69を備えている。
【0074】
第1操作レバー61は、操作軸16A,16Bを回動させることにより、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせる際に操作されるレバーである。第1操作レバー61は、シートクッションの幅方向についての一側部(本実施形態では右側部)に配設されている。
【0075】
図14及び図15に示すように、シートクッションの幅方向について、第1操作レバー61と同じ側(右側)の支持ブラケット14Eからは、同第1操作レバー61と同じ側(右側)に配置されているシートリクライニング装置20Bの操作軸16Bの一部が突出している。第1操作レバー61は、この操作軸16Bに対し回動可能に支持されている。第1操作レバー61と操作軸16Bとの間には、その第1操作レバー61の動きを操作軸16Bに伝達する機構が設けられているが、これについては後述する。
【0076】
図1に示すように、第2操作レバー62は、その操作に応じて、操作軸16A,16Bを回動させることにより、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせ得る。この第2操作レバー62の主な機能は、上記アンロック状態のときよりも多く操作軸16A,16Bを回動させる操作を行なうことにより、角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせることである。第2操作レバー62は、シートバックの幅方向についての一側部(第1操作レバー61と同じ側:右側)に設けられている。
【0077】
第2操作レバー62は、車両用シート装置上部の架設部材15Dに対し、軸63により上下方向への回動可能に支持されている。第2操作レバー62は、復帰ばね64により常に下方へ回動付勢されている。架設部材15Dにおいて、第2操作レバー62の上側及び下側には、ストッパ67A,67Bが設けられていて、第2操作レバー62の操作範囲が、これらのストッパ67A,67Bによって規定されている。
【0078】
図16及び図17に示すように、シートクッションの幅方向について、第2操作レバー62と反対側(左側)の支持ブラケット14Dからは、同第2操作レバー62と反対側(左側)に配置されているシートリクライニング装置20Aの操作軸16Aの一部が突出している。この操作軸16A上には、リンク部材65が一体回動可能に連結されている。リンク部材65は、上述した渦巻きばね36(図4、図5参照)により、シートバックをロック状態にする際の操作軸16Aの回動方向(図16、図17において反時計回り方向)へ常に付勢されている。
【0079】
リンク部材65の外端部と、同リンク部材65から遠く離れた箇所に配置されている上記第2操作レバー62とは、ケーブル68によって駆動連結されており、第2操作レバー62の操作に応じた同第2操作レバー62の動きがケーブル68及びリンク部材65を介して操作軸16Aに伝達されるように構成されている。なお、図1〜図3では、ケーブル68の中間部分の図示が省略されている。
【0080】
図1及び図2に示すシートスライド装置69は、車両フロアに対するシートクッションのスライド移動(ロアレール11A,11Bに対するアッパレール12A,12Bのスライド移動)を選択的に規制及び許容する周知のスライドロック機構(図示略)を備えている。このスライドロック機構は、少なくとも前記着座領域では、シートクッションの車両フロアに対するスライド移動を規制する。また、スライドロック機構は、第2操作レバー62の操作に応じてロック機構がアンロック状態へ切替えられ、シートバックが着座領域から前倒れ領域へ前倒しされることに連動して前記規制を解除する。この規制解除により、車両フロアに対するシートクッションのスライド移動が許容される。
【0081】
図14及び図15に示すように、車両用シート装置は、シートクッションの幅方向について、第1操作レバー61と同じ側(右側)に操作範囲制限手段70及びロストモーション機構75を備えている。
【0082】
操作範囲制限手段70は、第1操作レバー61と同じ側(右側)の支持ブラケット14Eにおいて、操作軸16Bの上方に固定された固定ストッパ71と、第1操作レバー61の操作軸16B周りであって、周方向に互いに離間した箇所から径方向外側へ突出する一対の可動ストッパ72A,72Bとを備えている。第1操作レバー61の回動操作範囲αは、可動ストッパ72Aが固定ストッパ71に当接するロック位置(図14参照)と、可動ストッパ72Bが固定ストッパ71に当接する解除位置(図15参照)との間に制限される。この制限は、第1操作レバー61の操作に応じた操作軸16A,16Bの回動により、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を発生させるために必要である。ロック位置では、各ポール35の外歯35Aが第1部材31の内歯車39Aに噛合して、第1部材31が第2部材32に対して回動不能になり、シートバックがロック状態にされる。また、解除位置では、外歯35Aと内歯車39Aとの噛合が解除されて、第1部材31が第2部材32に対して回動可能になり、シートバックがアンロック状態にされる。
【0083】
第1操作レバー61は、支持ブラケット14Eと同第1操作レバー61との間に張設された復帰ばね73によって、常にロック位置側へ回動付勢されている(引っ張られている)。
【0084】
ここで、角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するアンロック状態のための操作軸16A,16Bの回動量は、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態のための操作軸16A,16Bの回動量よりも多い。
【0085】
一方、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態は、主として第1操作レバー61の操作によって生じさせられ、角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するアンロック状態は、第2操作レバー62の操作のみによって生じさせられる。従って、第2操作レバー62の操作による操作軸16A,16Bの回動量は、第1操作レバー61の操作による操作軸16A,16Bの回動量よりも多くなる。
【0086】
さらに、第1操作レバー61の操作によって回動される操作軸16A,16Bと、第2操作レバー62の操作によって回動される操作軸16A,16Bとは一体で回動するもの(共通の軸)である。
【0087】
ロストモーション機構75は、操作レバー61,62の操作によって共通の軸(操作軸16A,16B)を回動させるものにおいて、第2操作レバー62を操作するときには、第1操作レバー61に動きが伝達されることを規制して、第1操作レバー61を操作するときよりも多く操作軸16A,16Bを回動させることを可能とするための機構である。
【0088】
そのために、ロストモーション機構75は、角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するアンロック状態を発生させるための第2操作レバー62の操作が少なくとも行なわれるときには、その第2操作レバー62の動きを第1操作レバー61に伝達せずに同第1操作レバー61を休止させる。
【0089】
本実施形態では、ロストモーション機構75は、第2操作レバー62の操作が行なわれるときには、その第2操作レバー62の動きが第1操作レバー61に全く伝達されないように構成されている。
【0090】
より具体的には、ロストモーション機構75は、リンク部材76、長孔77及びピン78と、第2操作レバー62及び操作軸16A(リンク部材65)間を連結する上記ケーブル68とを備えて構成されている。上述したように、第1操作レバー61が操作軸16Bに対し回動可能に支持されているのに対し、リンク部材76は操作軸16Bに一体回動可能に連結されている。また、リンク部材76は、上記渦巻きばね36(図4、図5参照)により、シートバックをロック状態にする際の操作軸16Bの回動方向(図14、図15において時計回り方向)へ常に付勢されている。
【0091】
長孔77はリンク部材76に設けられ、操作軸16Bを中心とする円弧状をなしている。ピン78は、第1操作レバー61に固定されており、長孔77内に周方向への移動可能に挿通されている。
【0092】
上記構成のロストモーション機構75では、回動操作範囲α内(ロック位置−解除位置間)で第1操作レバー61が操作されるときには、ピン78が長孔77の一方の端部(前端部)に押圧される。リンク部材76に対し、渦巻きばね36による図14の時計回り方向の付勢力が作用しているからである。そのため、リンク部材76は第1操作レバー61と一体となって回動する。また、リンク部材76の上記回動に伴い、操作軸16B、ロッド22、操作軸16A及びリンク部材65が一体となって同方向へ回動する。このとき、リンク部材65は図16の状態から時計回り方向へ回動するが、ケーブル68が撓むため、この回動は第2操作レバー62に伝達されない。
【0093】
また、第2操作レバー62が操作されるときには、長孔77内でのピン78の移動が許容される。長孔77内におけるピン78の位置が変化することにより、第2操作レバー62の動きが第1操作レバー61に伝達されず、第1操作レバー61が休止される。
【0094】
さらに、図5、図18及び図19に示すように、車両用シート装置は、第1操作レバー61の操作時には、ロック機構30によるロック状態及びアンロック状態の切替えを、シートバックが前記着座領域内で傾動するときのみに制限する切替え制限機構80を備えている。
【0095】
切替え制限機構80は、第1部材31内に一体回動可能に設けられた回動規制部81を備えている。より詳しくは、回動規制部81は、第2凹部41の内周面から径方向内側へ突出する円弧状の突起からなる。
【0096】
この回動規制部81は、第1部材31の周方向については、次の条件を満たす箇所に設けられている。その条件とは、「角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態でシートバックが着座領域で傾動していて、前倒れ領域との境界部分のアップライト位置まで前傾したとき、被係合部52Bを押してメモリプレート52と一体で回動しているポール35の係合部53Bに当接する位置である」ことである。この回動規制部81との当接により、係合部53B及びメモリプレート52について、同方向へのそれ以上の回動が規制されて、シートバックの着座領域から前倒れ領域への傾動を阻止される。
【0097】
このように、回動規制部81は、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態で、シートバックが着座領域から前倒れ領域へ傾動する際に、メモリプレート52を伴って回動するポール35に当接して、同方向へのそれ以上の回動を規制する。この規制により回動規制部81は、ロック機構30によるロック状態及びアンロック状態の切替えの上記制限を行なう。
【0098】
また、回動規制部81は、係合部53Bが摺動する被係合部52Bの内周面52Cと同一径の内周面81Aを有する。このように内周面52Cと内周面81Aとで径を同一とするのは、次の理由による。第2操作レバー62の操作時に、係合部53Bが被係合部52B及び回動規制部81を乗り越えて同被係合部52Bの内周面52C上で摺動するのを許容することで、シートバックの着座領域から前倒れ領域への傾動を許容するためである。
【0099】
なお、回動規制部81が設けられた第2凹部41は、メモリプレート52が収納されている収納凹部51よりも第2部材32から遠ざかる側に位置するため、この回動規制部81が、収納凹部51内でのメモリプレート52の回動を妨げることはない。
【0100】
ところで、既述したように、一方の係合部53Aは段差部54から径方向外側へ多く突出している。この係合部53Aに隣接する被係合部52Aは周方向に短く、径方向に長い。これに対し、他方の係合部53Bは段差部54から径方向外側へ少なく突出している。この係合部53Bに隣接する被係合部52Bは周方向に長く、径方向に短い。このような設定を行なっているのは、1つには、シートバックが前方へ傾動する際には、突出量の少ない係合部53Bが径方向に短い被係合部52Bを乗り越えるのを許容して、シートバックの角度位置を記憶させるためである。また、シートバックが後方へ傾動する際には、突出量の多い係合部53Aが径方向に長い被係合部52Aを乗り越えるのを阻止して、シートバックの角度位置を記憶させず、任意の角度位置でシートバックをロック状態にするためである。
【0101】
上記のようにして第1実施形態の車両用シート装置が構成されている。次に、この車両用シート装置の作用について説明する。
図13に示すように、この車両用シート装置のメモリプレート52において、角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するアンロック状態のときにポール35の係合部53Bが摺動する箇所は、径方向内側へ突出する被係合部52Bの内周面52Cの一部である。同摺動箇所は、メモリプレート52のうち周方向についての両被係合部52A,52B間の箇所52Fよりも径方向内側に位置する。
【0102】
ここで、仮に、メモリプレート52の外径が周方向のどの箇所でも同じであるとすると、径方向の厚みt1は、前者(係合部53Bが摺動する被係合部52B)において後者(両被係合部52A,52B間の箇所52F)よりも大きくなる。厚みt1の大きな箇所は、小さな箇所よりも径方向に撓みにくい。そのため、メモリプレート52を収納凹部51に組み込むために径方向内側へ撓ませながら縮径させる際に、同メモリプレート52がいびつな円環状となり収納凹部51に嵌りにくくなるおそれがある。
【0103】
この点、第1実施形態では、メモリプレート52のうち周方向についての両被係合部52A,52B間の箇所52Fと、係合部53Bが摺動する被係合部52Bとで厚みt1が同一に設定されている。そのため、メモリプレート52を収納凹部51に組み込むために径方向内側へ撓ませながら縮径させる際に、同メモリプレート52がいびつな円環状になりにくい。
【0104】
また、上記車両用シート装置では、シートクッションの幅方向についての両側に設けられたシートリクライニング装置20A,20Bは、ともに同一のロック機構30及び同一のメモリ機構50を備えた同一の構造を有している。しかも、各シートリクライニング装置20A,20Bにおいて、ロック機構30及びメモリ機構50の作動に関わる操作軸16A,16Bはロッド22によって互いに一体回動可能に連結されている。そのため、第1操作レバー61及び第2操作レバー62が操作されて操作軸16A,16Bが回動されると、両シートリクライニング装置20A,20Bにおけるロック機構30が同期して作動するとともに、メモリ機構50が同期して、次のように作動する。
【0105】
図10及び図11は、シートバックが着座領域のニュートラル位置でロック状態にされているときのシートリクライニング装置20A,20Bの状態を示している。このロック状態では、第2部材32に取付けられている各ポール35がカム34によって径方向外側へ押圧されて、ポール35毎の外歯35Aが第1部材31の内歯車39Aに噛合している。これらの噛合により、第1部材31及び第2部材32の相対回動が規制され、シートクッションに対するシートバックの傾動が規制されている。
【0106】
このとき、復帰ばね73によって図14の時計回り方向に回動付勢されている第1操作レバー61は、同図14の左方の可動ストッパ72Aが固定ストッパ71に当接することにより、ロック位置に静止している。
【0107】
また、渦巻きばね36によって図14の時計回り方向に回動付勢されているリンク部材76は、長孔77の前端部が第1操作レバー61のピン78に当接する位置で静止している。
【0108】
上記ロック状態から、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態に切替えて、シートバックの傾斜角度を調整する場合には、ロック位置にある第1操作レバー61を把持し、復帰ばね73に抗して上方へ回動操作(引き上げ操作)する。第1操作レバー61の上方への回動は、図14の右方の可動ストッパ72Bが固定ストッパ71に当接する解除位置(図15参照)で停止する。
【0109】
上記のように、第1操作レバー61が、ロック位置から解除位置へ向けて操作されるときには、リンク部材76に対し、渦巻きばね36による図14の時計回り方向の付勢力が作用していることから、ピン78は長孔77の前端部に位置し続ける(長孔77内で移動しない)。そのため、リンク部材76は第1操作レバー61と一体となって回動する。また、リンク部材76の上記回動に伴い、操作軸16B、ロッド22、操作軸16A及びリンク部材65が一体となって同方向へ回動する。このリンク部材65は図16の状態から時計回り方向へ回動するが、ケーブル68が撓むため、この回動は第2操作レバー62に伝達されない。
【0110】
上記第1操作レバー61のロック位置から解除位置への回動操作に伴い、各カム34が操作軸16A,16Bと一体で図20の時計回り方向に回動されると、各ポール35は、カム孔35Bがカム34の突起34Cに押圧されることでガイド溝に沿って径方向内側に引き込むように移動する。この移動期間の初期に、各ポール35の外歯35Aと第1部材31の内歯車39Aとの噛合が解除されることで、同第1部材31は第2部材32に対して回動可能になり、シートバックがアンロック状態にされる。
【0111】
各ポール35の径方向内側への上記移動に伴い、同ポール35の係合部53A,53Bもまた径方向内側へ移動する。これらの係合部53A,53Bの移動により、同係合部53A,53Bと隣接する被係合部52A,52Bとの係合量が少なくなる。
【0112】
第1操作レバー61が解除位置まで回動操作されたときには、図20に示すように、ポール35の係合部53A,53Bと隣接する被係合部52A,52Bとの係合量は、前記ロック状態のときの半分程度となる。すなわち、両係合部53A,53Bが隣接する被係合部52A,52Bに対し径方向に半係合させられた状態となる。
【0113】
このように、第1操作レバー61の操作に応じて前記操作軸16A,16Bが回動されることにより、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態が生ずる。
【0114】
このアンロック状態で、渦巻きばねにより前傾方向へ付勢されているシートバックが前方へ傾動させられると、第1部材31が図20の反時計回り方向へ回動(前方回転)し、周方向に長く径方向に短い被係合部52Bが係合部53Bによって押圧される。上記とは逆に、シートバックが後方へ傾動させられると、第1部材が図20の時計回り方向へ回動(後方回転)し、周方向に短く径方向に長い被係合部52Aが隣接の係合部53Aによって押圧される。
【0115】
シートバックが前方及び後方のいずれの方向へ傾動させられたときにも、係合部53A,53Bの押圧力が、メモリプレート52の外周面52Dと収納凹部51の内周面51Aとの間の摩擦抵抗に打ち勝つことにより、メモリプレート52がポール35と一体で回動させられる。この回動時には、メモリプレート52が収納凹部51の内周面51A上を摺動する。
【0116】
ここで、一般的なシートリクライニング装置と同様、シートバックが傾動領域のどの角度位置にあるときにも、ロック機構30におけるロック状態及びアンロック状態を第1操作レバー61によって切替えることのできる仕様になっているものとする。この場合には、第1操作レバー61を操作してシートバックの傾斜角度を調整する際、誤ってシートバックを前倒れ領域で傾動させた場合、シートスライド装置のスライドロック機構(図示略)によるスライド移動の規制が意図せず解除されるおそれがある。
【0117】
この点、本実施形態では、ニュートラル位置にあるシートバックの前方への傾動及び後方への傾動は、着座領域内(アップライト位置−大倒し位置間)で許容される。この着座領域でシートバックが傾動されるときには、第1部材31内の回動規制部81が、図10において二点鎖線で示すように、被係合部52Bを押してメモリプレート52と一体で回動しているポール35の係合部53Bと当接することがない。すなわち、回動規制部81が、ポール35の係合部53B及びメモリプレート52の一体回動を妨げることがないからである。
【0118】
これに対し、シートバックがニュートラル位置からアップライト位置まで前傾すると、図19に示すように、回動規制部81が、被係合部52Bを押してメモリプレート52と一体で回動しているポール35の係合部53Bと当接する。この当接により回動規制部81は、係合部53B及びメモリプレート52が、引き続き同方向へそれ以上回動するのを規制する。そのため、アップライト位置よりも前側の傾動領域である前倒れ領域内(前倒し位置−アップライト位置間)で、ロック機構30によるロック状態及びアンロック状態の切替え、ひいては傾斜角度の調整を行なうことが不可となる。
【0119】
ここで、本実施形態では、メモリプレート52の分断部分Sが、隣合う一対のポール35毎の係合部53A,53B間に位置している。また、メモリプレート52の一対の被係合部52A,52Bは、両係合部53A,53B間において、各係合部53A,53Bに隣接した箇所に位置している。すなわち、被係合部52Aは、分断部分Sと係合部53Aとの間に位置し、被係合部52Bは、分断部分Sと係合部53Bとの間に位置している。
【0120】
これらのことから、一方の係合部53Aが隣接の被係合部52Aを周方向(図19の反時計回り方向)へ押圧するときには、他方の係合部53Bが隣接の被係合部52Bを周方向へ押圧することはない。一方の係合部53Aが被係合部52Aを周方向に押圧する方向は、メモリプレート52の分断部分Sの間隔を狭める方向である。また、上記とは逆に、他方の係合部53Bが隣接の被係合部52Bを周方向(図19の時計回り方向)へ押圧するときには、一方の係合部53Aが隣接の被係合部52Aを周方向へ押圧することはない。他方の係合部53Bが被係合部52Bを周方向に押圧する方向は、メモリプレート52の分断部分Sの間隔を狭める方向である。これらの分断部分Sの間隔を狭める方向の押圧力が加わることで、シートバックが傾動させられるときにはメモリプレート52が縮径させられる。この縮径に伴い、メモリプレート52の外周面52Dと収納凹部51の内周面51Aとの間に生ずる摩擦が小さくなる。
【0121】
また、本実施形態では、メモリプレート52のうち周方向についての両被係合部52A,52B間の箇所52Fと、両被係合部52A,52Bのうち係合部53A,53Bが摺動する箇所(係合部53Bが摺動する被係合部52B)とで厚みt1が同一に設定されている(図13参照)。そのため、係合部53Bから被係合部52Bに対し、分断部分Sの間隔を狭める方向の上記押圧力が加わって、収納凹部51に対しメモリプレート52がポール35と一体で回動させられるときにも、メモリプレート52がいびつな円環状に縮径されにくい(均一な円環状に縮径される)。そのため、メモリプレート52の外周面52Dと収納凹部51の内周面51Aとの間において、周方向のどの箇所においても局所的に過大な摩擦力が生じてしまうことが抑止される。
【0122】
シートバックが所望の傾斜角度になったところで、図14及び図15に示すように、第1操作レバー61の上方への回動操作(引き上げ操作)を止めると、復帰ばね73により回動付勢されている第1操作レバー61は下方へ回動させられる。第1操作レバー61の下方への回動は、図14の左方の可動ストッパ72Aが固定ストッパ71に当接するロック位置で停止する。
【0123】
上記のように、第1操作レバー61が、解除位置からロック位置へ復帰されるときには、リンク部材76に対し、渦巻きばね36による図14の時計回り方向の付勢力が作用していることから、ピン78は長孔77の前端部に位置し続ける(長孔77内で移動しない)。そのため、リンク部材76は第1操作レバー61と一体となって図14の時計回り方向へ回動する。また、リンク部材76の上記回動に伴い、操作軸16B、ロッド22、操作軸16A及びリンク部材65が一体となって同方向へ回動する。このリンク部材65は図17の状態から反時計回り方向へ回動するが、撓んでいたケーブル68が引っ張られるため、この回動は第2操作レバー62に伝達されない。
【0124】
上記第1操作レバー61の解除位置からロック位置への復帰に伴い、渦巻きばね36の付勢力を受けたカム34が図20の反時計回り方向に回動されると、各ポール35は、ポールカム面35Cがカム面34Bに押圧されることでガイド溝に沿って径方向に飛び出すように移動する。この移動により、ポール35の外歯35Aと第1部材31の内歯車39Aとが噛合すると、同第1部材31は第2部材32に対して回動不能になり、所望の傾斜角度となったシートバックがロック状態にされる。
【0125】
各ポール35の径方向外側への上記移動に伴い、同ポール35の係合部53A,53Bもまた径方向外側へ移動する。この係合部53A,53Bの径方向外側への移動により、同係合部53A,53Bと、隣接する被係合部52A,52Bとの係合量が多くなる。すなわち、係合部53A,53Bがロック状態のときの位置に戻る。
【0126】
ところで、上記図10及び図11のニュートラル位置でのロック状態から、角度位置(ニュートラル位置)を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するアンロック状態に切替えて、シートバックを前倒し位置まで傾動させる場合には、図1に示す第2操作レバー62を把持し、復帰ばね64に抗して同第2操作レバー62を上方へ操作する。この操作に伴う第2操作レバー62の上方への動きは、ケーブル68を介して左側のシートリクライニング装置20Aのリンク部材65に伝達され、同リンク部材65が操作軸16Aを伴って、図16及び図17の時計回り方向へ回動する。この操作軸16Aの回動はロッド22を通じて、右側のシートリクライニング装置20Bの操作軸16Bに伝達される。この伝達により、操作軸16Bがリンク部材76と一体となって図14及び図15の反時計回り方向へ回動する。リンク部材76は、長孔77及びピン78を介して第1操作レバー61に連結されているため、長孔77の後端部がピン78に当接しない限り、リンク部材76の回動は第1操作レバー61に伝達されない。すなわち、長孔77の前端部に位置するピン78が同長孔77内を移動する期間は、操作軸16Bは回動するが第1操作レバー61は回動を休止させられる。
【0127】
上記第2操作レバー62の操作に応じた両操作軸16A,16Bの回動に伴い、各カム34が操作軸16A,16Bと一体で、第1部材31に対し、図20の時計回り方向に回動されると、各ポール35は、カム孔35Bがカム34の突起34Cに押圧されることで、ガイド溝に沿って径方向内側に引き込むように移動する。この移動期間の初期に、各ポール35の外歯35Aと第1部材31の内歯車39Aとの噛合が解除されることで、同第1部材31は第2部材32に対して回動可能になり、シートバックが前記アンロック状態にされる。
【0128】
第2操作レバー62が引上げられるに従い、各ポール35が径方向内側へ移動する。ポール35毎の係合部53A,53Bもまた径方向内側へ移動する。この移動により、係合部53A,53Bと隣接の被係合部52A,52Bとの係合量が少なくなる。
【0129】
上側のストッパ67Aに当接するまで第2操作レバー62が引上げ操作されると、図21に示すように、一方のポール35の係合部53Bは、隣接の被係合部52Bに対し係合しなくなり、同被係合部52Bを乗り越えた状態となる。各ポール35をメモリプレート52に対し図21の時計回り方向へ回動させること(第1部材31をメモリプレート52に対して図21の反時計回り方向へ回動させること)が可能となる。これらの回動方向は、シートバックを前方へ傾動させる方向である。
【0130】
なお、このときには、他方のポール35の係合部53Aは隣接の被係合部52Aに対し依然として係合しており、同被係合部52Bを乗り越えない。そのため、第2操作レバー62の引上げ操作によっても、各ポール35をメモリプレート52に対し図21の反時計回り方向へ回動させること(第1部材31をメモリプレート52に対して図21の時計回り方向へ回動させること)はできない。これらの回動方向は、シートバックを後方へ傾動させる方向である。従って、シートバックを後方へ傾動させるときには、シートバックの角度位置を記憶させることができず、任意の角度でシートバックをロック状態にすることができる。
【0131】
係合部53Bが被係合部52Bを乗り越えた上記状態では、上述した半係合の場合とは異なり、一方の係合部53Bが被係合部52Bを周方向に押圧することがない。従って、メモリプレート52が係合部53Bの押圧によって縮径させられることがなく、縮径に伴い、メモリプレート52の外周面52Dと収納凹部51の内周面51Aとの間に生ずる摩擦が小さくなって、摺動抵抗が少なくなることはない。
【0132】
このように、メモリプレート52の外周面52Dと収納凹部51の内周面51Aとの間の摩擦抵抗が大きい。このため、前記の状態で、渦巻きばねにより前傾方向へ付勢されているシートバックが前方へ傾動させられる(前倒しされる)と、図22に示すように、メモリプレート52が収納凹部51に対し回動不能に係止された状態で、係合部53Bが被係合部52Bの内周面52C上を摺動するようになる。
【0133】
なお、第1部材31に設けられた回動規制部81が被係合部52Bの内周面52Cと同一径の内周面81Aを有していることから、係合部53Bは、図22において二点鎖線で示す回動規制部81の内周面81A上を摺動可能である。回動規制部81は、被係合部52Bの内周面52Cでの係合部53Bの摺動を妨げることはない。回動規制部81による回動規制がなく、シートバックの着座領域から前倒れ領域への傾動が許容される。
【0134】
そして、上記のようにメモリプレート52が第1部材31に対し回動しないことから、両被係合部52A,52Bは、アンロック状態への切替え直前のロック状態のときの位置に保持される。このようにして、アンロック状態への切替え直前のロック状態におけるシートバックの角度位置が記憶される。
【0135】
従って、特許文献1とは異なり、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態のために、メモリプレート52と収納凹部51との間の面圧を小さくして、メモリプレート52及び収納凹部51間の摩擦を小さくしなくても、シートバックを所望の傾斜角度となるように調整する際の操作荷重を適切にすることが可能となる。上記面圧を小さくした場合には、角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するアンロック状態の際に、メモリプレート52を収納凹部51に対し回動不能に係止させ続けることが難しく、メモリプレート52がポール35と一緒に回動(共回り)するおそれがある。しかし、本実施形態では、このような現象が起こりにくく、本来のメモリ機能が発揮される。
【0136】
上記前倒しに連動して、シートスライド装置69におけるスライドロック機構(図示略)によるスライド移動の規制が解除される。この規制解除により、車両フロアに対し、シートクッションが前方へスライド移動する。
【0137】
前倒し位置からシートバックを引き起こす(後方へ傾動させる)と、メモリプレート52が収納凹部51に対し回動不能に係止された状態で、係合部53Bが被係合部52Bの内周面52C上を、上記前倒し時とは逆方向に摺動する。このときには、両被係合部52A,52Bは、アンロック状態への切替え直前のロック状態のときの位置に保持されている。
【0138】
そして、シートバックの傾斜角度が、記憶している前倒し直前の傾斜角度になって、係合部53Bが被係合部52Bを通過すると、渦巻きばね36の付勢力を受けたカム34が、第1部材31に対し図21の反時計回り方向に回動される。この回動により、各ポール35では、ポールカム面35Cがカム面34Bに押圧されることでガイド溝に沿って径方向に飛び出すように移動する。この移動により、ポール35の外歯35Aと第1部材31の内歯車39Aとが図10に示すように噛合すると、同第1部材31は第2部材32に対して回動不能になり、シートバックは、前倒し直前の角度位置(ニュートラル位置)でロック状態にされる。
【0139】
ここで、図8に示すように、軸方向であって、内歯車39Aの外歯35Aとの噛合部分よりも第2部材32から遠ざかる側(図8の左側)に隣接して設けられた収納凹部51にはメモリプレート52が、周方向への摺動可能に収納されている。このメモリプレート52と第2部材32との間には、内歯車39Aに対向する外歯35Aを有するポール35が位置している。各ポール35は径方向に移動することで、外歯35Aを内歯車39Aに噛合させたりその噛合を解除させたりするものであるため、各ポール35の周囲には、径方向の移動を可能にするための隙間が少なからず存在する。
【0140】
例えば、図9に示すように、収納凹部51の内周面51Aが内歯車39Aの歯先円よりも小径であるとすると、径方向について収納凹部51と内歯車39Aとの間であって、軸方向について収納凹部51とポール35との間に隙間G1が存在する。
【0141】
また、縮径された状態で収納凹部51に収納されたメモリプレート52は、自身の弾性復元力により拡径しようとする。メモリプレート52は、この拡径しようとする力により傾いて収納凹部51から外れた場合、図9において矢印で示すように上記隙間G1に入り込み、ロック機構30やメモリ機構50の作動に支障を及ぼすおそれがある。
【0142】
この点、本実施形態では、図8に示すように、内歯車39Aの外歯35Aとの噛合部分よりも第2部材32から遠ざかる側(図8の左側)に隣接して設けられた収納凹部51が、内歯車39Aの歯先円と同一径の内周面51Aでメモリプレート52の外周面52Dを支持する。従って、本実施形態では、径方向について収納凹部51と内歯車39Aとの間であって、軸方向について収納凹部51とポール35との間に、上記のような隙間G1が存在しない。そのため、たとえメモリプレート52が拡径しようとする力により、軸方向へ傾いて収納凹部51から外れても、ロック機構30やメモリ機構50の作動に支障を及ぼすおそれがない。
【0143】
以上詳述した第1実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)第1操作レバー61の操作時には、ロック機構30によるロック状態及びアンロック状態の切替えを、シートバックが着座領域内で傾動するときのみに制限する切替え制限機構80を設けている(図18、図19)。
【0144】
そのため、第1操作レバー61を操作してシートバックの傾斜角度を調整する際に、誤ってシートバックを前倒れ領域で傾動させて、シートスライド装置69のスライドロック機構によるスライド移動の規制が解除されるのを抑制することができる。
【0145】
(2)切替え制限機構80として、第1部材31内に、係合部53Bが摺動する被係合部52Bの内周面52Cと同一径の内周面81Aを有する回動規制部81を設けている(図18、図19)。そして、第1操作レバー61の操作時には、半係合状態の係合部53Bを回動規制部81と当接させて(図19)、メモリプレート52を伴うポール35の回動を規制して、シートバックの着座領域から前倒れ領域への傾動を阻止する。また、第2操作レバー62の操作時には、係合部53Bに被係合部52B及び回動規制部81を乗り越えさせて被係合部52Bの内周面52C上で摺動させる(図22)ことにより、シートバックの着座領域から前倒れ領域への傾動を許容するようにしている。
【0146】
このため、第1部材31内に回動規制部81を設けるといった簡単な構成により、上記(1)に記載した効果を確実に得ることができる。
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態について、図23及び図24を参照して説明する。
【0147】
第2実施形態は、切替え制限機構80をシートリクライニング装置20A,20Bの外部に設けている点において、内部に設けている第1実施形態と大きく異なっている。対象となるシートリクライニング装置は、ケーブル68及びリンク部材65を介して操作軸16Aに第2操作レバー62が駆動連結されている側(左側)のシートリクライニング装置20Aである。
【0148】
第2実施形態での切替え制限機構80は、被当接部91、可動ストッパ92、上記リンク部材65及び回動伝達制御手段95を備えて構成されている。
被当接部91は、シートバックフレーム15の左側のサイドフレーム15Aに固定されており、シートバックの傾動に伴い、操作軸16Aの周りを変位する。
【0149】
可動ストッパ92は、左側の支持ブラケット14Dであって、操作軸16Aの前方となる箇所に軸93により支持されている。この可動ストッパ92は、被当接部91との当接によりシートバックの傾動を規制する当接位置(図23参照)と、その当接位置から操作軸16A側に退避した非当接位置(図24参照)との間で傾動する。
【0150】
リンク部材65は、第2操作レバー62の操作に伴う操作軸16A,16Bの回動を可動ストッパ92に伝達し得る。
回動伝達制御手段95は、可動ストッパ92に形成されたカム孔96と、カム孔96に挿通された状態でリンク部材65に固定され、同リンク部材65の回動に伴い操作軸16Aの周りを変位するピン97とからなる。
【0151】
上記カム孔96は、次の条件を満たす形状に形成されている。
条件1:角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせるための角度だけ操作軸16A,16Bを回動させる第1操作レバー61及び第2操作レバー62の操作が行なわれるとき(回動操作範囲α内で回動されるとき)には、リンク部材65の回動を可動ストッパ92に伝達しない。
【0152】
条件2:角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせるときよりも多く操作軸16A,16Bを回動させる第2操作レバー62の操作が行なわれるときには、リンク部材65の回動を可動ストッパ92に伝達する。
【0153】
上記条件1が満たされることにより、可動ストッパ92が当接位置に位置し、シートバックの前方への傾動が規制される。この規制により、ロック状態及びアンロック状態の切替えが、シートバックが着座領域内で傾動するときのみに制限される。
【0154】
上記条件2が満たされることにより、可動ストッパ92が非当接位置に後退し、シートバックの前方への傾動規制が解除される。シートバックの着座領域から前倒れ領域への前倒しが許容される。
【0155】
上記以外の構成は第1実施形態と同様である。そのため、第2実施形態において、第1実施形態と同様の部材、箇所等については同一の符号を付し、詳しい説明を省略する。
上記のように構成された第2実施形態では、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせるための角度だけ操作軸16A,16Bを回動させる第1操作レバー61及び第2操作レバー62の操作が行なわれるときには、図23に示すように、リンク部材65が操作軸16Aと一体で回動する。これに伴い、ピン97が図23において二点鎖線で示すように、カム孔96内において操作軸16Aの回りを移動する。このときには、リンク部材65の回動は、ピン97及びカム孔96を通じて可動ストッパ92に伝達されない。表現を変えると、リンク部材65の回動が可動ストッパ92に伝達されることが、ピン97がカム孔96内で移動することによって遮断される。この遮断により、可動ストッパ92が当接位置に位置して被当接部91に当接することで、同被当接部91、ひいてはシートバックの前方への傾動を規制する。この規制により、第1操作レバー61によるロック状態及びアンロック状態の切替えは、シートバックが着座領域内で傾動するときのみに制限される。
【0156】
第2操作レバー62について、図24において実線で示すように、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせるときよりも多く操作軸16A,16Bを回動させる操作が行なわれると、第1操作レバー61が操作されるときよりもリンク部材65が多く操作軸16A,16Bと一体で回動する。このリンク部材65の回動がピン97及びカム孔96を通じて可動ストッパ92に伝達され、同可動ストッパ92が図24の非当接位置に後退する。この後退により、シートバックの前方への傾動の規制が解除され、第2操作レバー62によるシートバックの着座領域から前倒れ領域への前倒しが許容される。
【0157】
従って、第2実施形態によれば、第1実施形態の上記(1)と同様の効果が得られるほか、次の効果が得られる。
(3)切替え制限機構80として、シートリクライニング装置20A,20Bの外部に、被当接部91、可動ストッパ92、リンク部材65及び回動伝達制御手段95を設けている(図23、図24)。
【0158】
そのため、第1部材31内に回動規制部81を設ける第1実施形態とは異なる構成ではあるが、上記(1)に記載した効果を確実に得ることができる。
(4)回動伝達制御手段95を、可動ストッパ92に形成されたカム孔96と、リンク部材65に設けられてカム孔96に挿通されたピン97とによって構成している(図23、図24)。
【0159】
そのため、このような簡単な構成でありながら、回動伝達制御手段95を成立させることができる。
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
【0160】
・両係合部53A,53B間で同係合部53A,53Bに隣接する箇所であることを条件に、被係合部52A,52Bの少なくとも一方を、メモリプレート52の端部とは異なる箇所に設けてもよい。
【0161】
・メモリプレート52における被係合部52A,52Bを、上記第1及び第2実施形態とは異なる形態に変更してもよい。例えば、メモリプレート52の内周側に凹部を設け、これを被係合部としてもよい。
【0162】
・ロック機構30の構成を適宜変更してもよい。例えばカム34のカム部34Aやこれと係合するポール35の数を変更してもよい。また、カム34のカム部34A、ポール35のカム孔35Bの形状についても適宜変更してもよい。
【0163】
・ロストモーション機構75における長孔77を第1操作レバー61に設け、ピン78をリンク部材76に設けてもよい。
・第1実施形態では、シートリクライニング装置20A,20B毎の操作軸16A,16Bを、それらの間に配置したロッド22によって一体回動可能に連結したが、操作軸16A,16Bを共通(1本)のロッドによって構成してもよい。
【0164】
・第2実施形態とは逆に、カム孔96をリンク部材65に形成し、ピン97を可動ストッパ92に設けてもよい。
・上記第1及び第2実施形態とは逆に、第1部材31をシートクッション側の部材(例えば、支持ブラケット14D,14E)に取付け、第2部材32をシートバック側の部材(例えば、サイドフレーム15A,15B)に取付ける構成に変更してもよい。
【0165】
・被係合部52Aの径方向の長さについても、被係合部52Bと同様、係合部53Aが乗り越えることのできる長さに設定してもよい。こうすると、シートバックを前方に傾動させる場合だけでなく、後方に傾動させる場合にも、そのシートバックの角度位置を記憶することができる。
【0166】
・図25に示すように、内歯車39Aにおいて、軸方向(図25の左右方向)であって、同内歯車39Aの外歯35Aとの噛合部分よりも第2部材32から遠ざかる側(図25の左側)の部分を、収納凹部51としてもよい。この場合、収納凹部51は、内歯車39Aの歯先でメモリプレート52の外周面52Dを支持することとなる。
【0167】
このようにしても、径方向について収納凹部51と内歯車39Aとの間であって、軸方向について収納凹部51とポール35との間に、隙間G1が存在しない。そのため、上記第1及び第2実施形態と同様、メモリプレート52が、拡径しようとする力により傾いて収納凹部51から外れても、ロック機構30やメモリ機構50の作動に支障を及ぼさないようにすることができる。
【符号の説明】
【0168】
16A,16B…操作軸、30…ロック機構、31…第1部材、32…第2部材、35…ポール(ロック部材)、35A…外歯、39A…内歯車、50…メモリ機構、51…収納凹部、52…メモリプレート、52A,52B…被係合部、52C,81A…内周面、53A,53B…係合部、61…第1操作レバー、62…第2操作レバー、65…リンク部材、69…シートスライド装置、80…切替え制限機構、81…回動規制部、91…被当接部、92…可動ストッパ、93…軸、95…回動伝達制御手段、96…カム孔、97…ピン。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォークイン機構を備える車両用シート装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
傾斜角度調整のための着座領域と、その着座領域の前側の前倒れ領域とからなる傾動領域内で、操作軸を支点としてシートバックをシートクッションに対し傾動させるようにした車両用シート装置として、シートリクライニング装置及びシートスライド装置を備えるものがある。
【0003】
シートリクライニング装置には、シートクッションに対するシートバックの傾動を規制するロック状態と、同傾動を許容するアンロック状態とを、第1操作レバー及び第2操作レバーの操作に応じた操作軸の回動により切替えるロック機構が設けられている。
【0004】
また、シートリクライニング装置には、上記ロック機構に加え、第2操作レバーの操作により作動するメモリ機構が組み込まれたものもある。メモリ機構は、着座領域から前倒れ領域へシートバックを傾動させる動作(前倒し)を行なう直前のシートバックの角度位置、すなわち、アンロック状態への切替え直前のロック状態におけるシートバックの角度位置を記憶する。また、メモリ機構は、前倒れ領域から着座領域へのシートバックの引き起こしにより、アンロック状態のシートバックが、記憶した前記角度位置へ傾動したときにのみロック状態への復帰を許容する。このメモリ機構を有するシートリクライニング装置によれば、シートバックの引き起こし操作を行なうのみで、その前倒し直前の着座領域でのシートバックの角度位置が再生されるため、シートバックの引き起こしを伴う再着座時の操作性が改善される。
【0005】
一方、シートスライド装置は、少なくとも着座領域では、シートクッションの車両フロアに対するスライド移動を規制する。また、シートスライド装置は、シートバックが着座領域から前倒れ領域へ傾動(前倒し)されることに連動して、前記スライド移動の規制を解除する(特許文献1参照)。この規制を解除された前席のシートが前方へスライド移動させられることで、乗員の後席への乗降性向上が図られる。このように、シートバックが着座領域から前倒れ領域へ前倒しされることに連動して車両用シート装置を前方へスライド移動させる機構は、ウォークイン機構とも呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−273350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記特許文献1も含め従来の車両用シート装置のロック機構では、シートバックが上記傾動領域のどの角度位置にあるときにも、同シートバックをロック状態に切替えることのできる仕様となっている。そのため、シートバックの傾斜角度調整に際し、第1操作レバーの操作が前倒れ領域で行なわれると、シートスライド装置におけるスライド移動の規制が意図せず解除されるおそれがある。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、第1操作レバーの操作を通じたシートバックの傾斜角度調整に際し、シートスライド装置においてスライド移動の規制が解除されるのを抑制することのできる車両用シート装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、傾斜角度調整のための着座領域、及び同着座領域の前側の前倒れ領域を傾動領域とし、操作軸を支点としてシートクッションに対し前記傾動領域内で傾動するシートバックと、前記シートクッションに対する前記シートバックの傾動を規制するロック状態、及び同傾動を許容するアンロック状態を、第1操作レバー及び第2操作レバーの操作に応じた前記操作軸の回動により切替え得るロック機構と、少なくとも前記着座領域では、前記シートクッションのスライド移動を規制し、前記第2操作レバーの操作に応じて前記ロック機構が前記アンロック状態へ切替えられ、前記シートバックが前記着座領域から前記前倒れ領域へ前倒しされることに連動して前記規制を解除するシートスライド装置とを備える車両用シート装置であって、前記第1操作レバーの操作時には、前記ロック機構による前記ロック状態及び前記アンロック状態の切替えを、前記シートバックが前記着座領域内で傾動するときのみに制限する切替え制限機構をさらに備えることを要旨とする。
【0010】
シートスライド装置は、シートバックが少なくとも着座領域で傾動されるとき、シートクッションのスライド移動を規制する。また、シートスライド装置は、第2操作レバーの操作に応じてロック機構がアンロック状態へ切替えられ、シートバックが着座領域から前倒れ領域へ前倒しされると、その前倒しに連動して前記スライド移動の規制を解除する。この規制解除により、シートクッションのスライド移動が可能となる。
【0011】
ここで、一般的なシートリクライニング装置と同様、シートバックが傾動領域のどの角度位置にあるときにも、ロック機構におけるロック状態及びアンロック状態を第1操作レバーによって切替えることのできる仕様になっているものとする。この場合には、シートバックの傾斜角度調整に際し、第1操作レバーの操作が前倒れ領域で行なわれると、シートスライド装置におけるスライド移動の規制が意図せず解除されるおそれがある。
【0012】
この点、請求項1に記載の発明では、第1操作レバーの操作時には、ロック機構におけるロック状態及びアンロック状態の切替えが、切替え制限機構により、シートバックが着座領域内で傾動するときのみに制限される。そのため、前倒れ領域では、ロック機構によるロック状態及びアンロック状態の切替えが不可となる。その結果、第1操作レバーを操作してシートバックの傾斜角度を調整する際に、誤ってシートバックを前倒れ領域で傾動させることがなく、シートスライド装置におけるスライド移動の規制が解除されることがなくなる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ロック機構は、前記シートクッション及び前記シートバックの一方に取付けられ、かつ前記操作軸の回りに内歯車を有する第1部材、及び他方に取付けられ、かつ前記操作軸を中心として前記第1部材に対し回動し得る第2部材と、前記第2部材に取付けられ、前記内歯車に対向する外歯をそれぞれ有する複数のロック部材とを備え、前記各ロック部材を径方向外側へ押圧して前記外歯を前記内歯車に噛合させることで前記シートバックを前記ロック状態にするとともに、前記操作軸の回動により、前記各ロック部材を径方向内側へ移動させて前記外歯の前記内歯車との噛合を解除することで前記シートバックを前記アンロック状態にするものであることを要旨とする。
【0014】
上記の構成によれば、第2部材に取付けられている各ロック部材を径方向外側へ押圧して、ロック部材毎の外歯を第1部材の内歯車に噛合させることにより、シートバックがロック状態にされる。このロック状態では、シートクッションに対するシートバックの傾動が規制される。
【0015】
このロック状態にされているシートバックを、傾動を許容されるアンロック状態に切替える場合には、操作軸が回動されることにより、各ロック部材が径方向内側へ移動させられる。この移動により各ロック部材が径方向内側へ移動させられ、外歯の内歯車との噛合が解除される。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記アンロック状態への切替え直前のロック状態における前記シートバックの角度位置を記憶するとともに、前記アンロック状態の前記シートバックが、記憶した前記角度位置へ傾動したときにのみ前記ロック状態への復帰を許容するメモリ機構をさらに備え、前記第2操作レバーは、前記メモリ機構を作動させる際に操作されて前記操作軸を回動させるものであることを要旨とする。
【0017】
上記の構成によれば、第2操作レバーが操作されて操作軸が回動されると、ロック機構でのロック状態及びアンロック状態の切替えが行なわれるほか、メモリ機構が作動させられる。メモリ機構では、アンロック状態への切替え直前のロック状態におけるシートバックの角度位置が記憶されるとともに、アンロック状態のシートバックが、記憶した角度位置へ傾動したときにのみ、ロック機構によるロック状態への復帰が許容される。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記メモリ機構は、前記第1部材に設けられた円筒状の収納凹部と、一箇所において分断された円環状をなし、縮径された状態で前記収納凹部に収納されるとともに、周方向について互いに異なる箇所に一対の被係合部を有するメモリプレートと、前記複数のロック部材のうち一対のロック部材に設けられ、同ロック部材の径方向への移動に伴い前記被係合部に係脱する係合部とを備え、前記アンロック状態は、前記係合部が対応する前記被係合部に対し径方向に半係合させられ、この状態で前記被係合部が前記係合部により周方向へ押圧され、前記収納凹部に対し前記メモリプレートが前記ロック部材と一体で回動させられることにより、前記角度位置を記憶せずに前記シートバックの傾動を許容するものと、前記係合部が前記被係合部を乗り越え、前記メモリプレートを前記収納凹部に対し回動不能に係止させた状態で、同メモリプレートの内周面上で摺動させられることにより、前記角度位置を記憶したうえで前記シートバックの傾動を許容するものとからなることを要旨とする。
【0019】
上記の構成によれば、ロック機構によるシートバックのアンロック状態には、メモリ機構により角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するものと、メモリ機構により角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するものとがある。
【0020】
前者のアンロック状態は、ロック部材の係合部が対応する被係合部に対し径方向に半係合させられ、この状態で被係合部が係合部により周方向へ押圧され、収納凹部に対しメモリプレートがロック部材と一体で回動させられることにより生ずる。
【0021】
後者のアンロック状態は、上記係合部が対応する被係合部を乗り越え、メモリプレートを収納凹部に対し回動不能に係止させた状態で、メモリプレートの内周面上で摺動させられることにより生ずる。
【0022】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記切替え制限機構は、前記第1部材内に一体回動可能に設けられ、かつ前記係合部が摺動する前記メモリプレートの前記内周面と同一径の内周面を有する回動規制部を備え、前記第1操作レバーの操作時には、半係合状態の前記係合部の前記回動規制部との当接により、前記メモリプレートを伴う前記ロック部材の回動が規制されて、前記シートバックの前記着座領域から前記前倒れ領域への傾動を阻止され、前記第2操作レバーの操作時には、前記係合部が前記被係合部及び前記回動規制部を乗り越えて前記メモリプレートの前記内周面上で摺動されることにより、前記シートバックの前記着座領域から前記前倒れ領域への傾動を許容されるものであることを要旨とする。
【0023】
上記の構成によれば、第1操作レバーを操作して、シートバックを着座領域から前倒れ領域へ傾動させようとすると、両領域の境界部分において、半係合状態の係合部が回動規制部に当接する。この当接により、メモリプレートを伴うロック部材のそれ以上の回動が規制され、すなわち第1部材に対する第2部材の回動が規制され、シートバックの前倒れ領域への傾動が阻止される。
【0024】
これに対し、第2操作レバーを操作して、シートバックを着座領域から前倒れ領域へ傾動させようとすると、両領域の境界部分において、係合部が被係合部及び回動規制部を乗り越えてメモリプレートの内周面上で摺動される。この摺動により、ロック部材の回動が許容され、すなわち第1部材に対する第2部材の回動が許容され、シートバックの着座領域から前倒れ領域への傾動を許容される。
【0025】
請求項6に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記切替え制限機構は、前記シートバックに設けられ、同シートバックの傾動に伴い変位する被当接部と、軸により傾動可能に支持され、前記被当接部との当接により前記シートバックの傾動を規制する当接位置、及び前記当接位置から退避した非当接位置の間で傾動する可動ストッパと、前記操作軸に一体回動可能に連結され、前記第1操作レバー及び前記第2操作レバーの操作に伴う前記操作軸の回動を前記可動ストッパに伝達し得るリンク部材と、角度位置を記憶せずに前記シートバックの傾動を許容する前記アンロック状態を生じさせるための角度だけ前記操作軸を回動させる前記第1操作レバー及び前記第2操作レバーの操作が行なわれるときには、前記リンク部材の回動が前記可動ストッパへ伝達されるのを遮断し、前記可動ストッパを前記当接位置に位置させて前記シートバックの前方への傾動を規制することにより、前記ロック機構での前記ロック状態及び前記アンロック状態の切替えを、前記シートバックが前記着座領域内で傾動するときのみに制限する一方、前記第2操作レバーについて、角度位置を記憶せずに前記シートバックの傾動を許容する前記アンロック状態を生じさせるときよりも多く前記操作軸を回動させる操作が行なわれるときには、前記リンク部材の回動を前記可動ストッパに伝達し、同可動ストッパを前記非当接位置に後退させて前記シートバックの前方への傾動規制を解除することにより、前記シートバックの前記着座領域から前記前倒れ領域への前倒しを許容する回動伝達制御手段とを備えることを要旨とする。
【0026】
上記の構成によれば、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせるための角度だけ操作軸を回動させる第1操作レバー及び第2操作レバーの操作が行なわれるときには、リンク部材の回動が可動ストッパへ伝達されることが、回動伝達制御手段によって遮断される。この遮断により可動ストッパが当接位置に位置して被当接部に当接することで、同被当接部、ひいてはシートバックの前方への傾動が規制される。この規制により、ロック機構によるロック状態及びアンロック状態の切替えは、シートバックが着座領域内で傾動するときのみに制限される。
【0027】
第2操作レバーについて、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせるときよりも多く操作軸を回動させる操作が行なわれると、リンク部材の回動が可動ストッパに伝達され、同可動ストッパが非当接位置に後退する。この後退により、シートバックの前方への傾動規制が解除され、シートバックの着座領域から前倒れ領域への前倒しが許容される。
【0028】
上記回動伝達制御手段としては、例えば請求項7に記載の発明によるように、前記可動ストッパ及び前記リンク部材の一方に形成されたカム孔と、他方に設けられて前記カム孔に挿通されたピンとを備えるものを採用することができる。
【0029】
この場合、第1操作レバーが操作されると、リンク部材が操作軸と一体回動する。これに伴い、カム孔内におけるピンの位置が操作軸の回りで変化する。このときには、リンク部材の回動は、ピン及びカム孔を通じて可動ストッパに伝達されない。表現を変えると、リンク部材の回動が可動ストッパへ伝達されることが、カム孔内でのピンの移動によって遮断される。この遮断により、可動ストッパが当接位置に位置して被当接部に当接することで、同被当接部、ひいてはシートバックの前方への傾動が規制される。この規制により、ロック機構によるロック状態及びアンロック状態の切替えは、シートバックが着座領域内で傾動するときのみに制限される。
【0030】
第2操作レバーについて、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせるときよりも多く操作軸を回動させる操作が行なわれると、同第1操作レバーが操作されるときよりもリンク部材が多く操作軸と一体回動する。このリンク部材の回動がピン及びカム孔を通じて可動ストッパに伝達され、同可動ストッパが非当接位置に後退する。この後退により、シートバックの前方への傾動規制が解除され、シートバックの着座領域から前倒れ領域への前倒しが許容される。
【発明の効果】
【0031】
本発明の車両用シート装置によれば、第1操作レバーの操作を通じたシートバックの傾斜角度調整に際し、シートスライド装置においてスライド移動の規制が解除されるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態において、車両用シート装置の骨格部分を示す正面図。
【図2】同じく車両用シート装置の骨格部分を示す側面図。
【図3】シートバックの傾動領域を説明する側面図。
【図4】シートリクライニング装置の分解斜視図。
【図5】同じくシートリクライニング装置の分解斜視図。
【図6】シートリクライニング装置の正面図。
【図7】図6のA−A線断面図。
【図8】図7の一部を拡大して示す部分断面図。
【図9】図8に対応する図であり、シートリクライニング装置の比較例を示す部分断面図。
【図10】図7のB−B線断面図。
【図11】図7のC−C線断面図。
【図12】図7のシートリクライニング装置を矢印D方向から見た状態を示す背面図。
【図13】図7のシートリクライニング装置中のメモリプレートを矢印D方向から見た状態を示す背面図。
【図14】車両用シート装置の右側の操作軸、及びその周辺部分の構造を示す部分側面図。
【図15】図14の状態から第1操作レバーが解除位置へ操作されたときの、車両用シート装置の右側の操作軸、及びその周辺部分の構造を示す部分側面図。
【図16】車両用シート装置の左側の操作軸、及びその周辺部分の構造を示す部分側面図。
【図17】図16の状態から第2操作レバーが引上げ操作されたときの、車両用シート装置の左側の操作軸、及びその周辺部分の構造を示す部分側面図。
【図18】図6のE−E線断面図。
【図19】図18のF−F線断面図。
【図20】図10の状態から操作軸が回動されて、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態に切替えられたシートリクライニング装置を示す断面図。
【図21】図20の状態からさらに操作軸が回動されて、角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するアンロック状態に切替えられたシートリクライニング装置を示す断面図。
【図22】図21の状態からさらに操作軸が回動されて、シートバックが前方へ傾動させられたときのシートリクライニング装置を示す断面図。
【図23】本発明を具体化した第2実施形態において、切替え制限機構の構造を示す部分側面図。
【図24】図23の状態から第2操作レバーが操作されたときの切替え制限機構の状態を示す部分側面図。
【図25】図8に対応する図であり、収納凹部の別例を示す部分拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(第1実施形態)
以下、本発明を、ウォークイン機構を備えた車両用シート装置に具体化した第1実施形態について、図1〜図22を参照して説明する。
【0034】
なお、以下の記載において、車両の前進方向を前方(車両前方)として説明し、車両の後進方向を後方(車両後方)として説明する。また、以下の記載における上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車両の車幅方向であって車両前進時の左右方向と一致するものとする。
【0035】
本実施形態では、車両として、2ドア車、ワンボックスカー等、ドアを開けたときに乗降用スペースが充分広くないタイプの車両を想定している。
図1及び図2に示すように、車両用シート装置の骨格部分は、車幅方向でそれぞれ対をなすロアレール11A,11B及びアッパレール12A,12Bと、シートクッションフレーム14と、シートバックフレーム15とを備えている。
【0036】
ロアレール11A,11Bは、その長手方向が車両の前後方向(図2の左右方向)に一致する態様で、ブラケット13A,13Bを介して車両フロア(図示略)に固定されている。アッパレール12A,12Bは、ロアレール11A,11Bに対し前後方向にスライド可能に設けられている。
【0037】
シートクッションフレーム14は、乗員が着座するシートクッションの骨格部分をなすものであり、車幅方向で対をなすロアアーム14A,14B、及び両ロアアーム14A,14Bを後端部で連結する連結ロッド14C、各ロアアーム14A,14Bの後端部に固定された一対の支持ブラケット14D,14E(図14、図15参照)等を有している。シートクッションフレーム14は、ロアアーム14A,14Bにおいてそれぞれアッパレール12A,12Bに支持されている。
【0038】
シートバックフレーム15は、ロアアーム14A,14Bの後端部においてシートクッションフレーム14に回動可能に連結されている。シートバックフレーム15は、乗員の上半身を後側から支えるシートバック(背もたれ)の骨格部分をなすものであり、車幅方向で対をなすサイドフレーム15A,15Bと、両サイドフレーム15A,15Bを上端部で連結するアッパパイプ15Cと、アッパパイプ15Cに固定された横長の架設部材15Dとを有している。
【0039】
図3に示すように、シートバック(シートバックフレーム15)は、傾斜角度調整のための着座領域と、同着座領域の前側の前倒れ領域とを傾動領域とし、この傾動領域内で、操作軸16A,16Bを支点としてシートクッション(シートクッションフレーム14)に対し傾動し得るように構成されている。この傾動領域は、シートバックが起立状態にされた「アップライト位置」を基準とする。着座領域は、上記「アップライト位置」と、それよりもシートバックが後方へ大きく傾斜させられた「大倒し位置」とによって挟まれた領域である。なお、図中、実線で示されるシートバックフレーム15の角度位置は、一般的な乗員が着座したときに最も多く採られるシートバックの角度位置(以下「ニュートラル位置」という)である。また、前倒れ領域は、上記「アップライト位置」と、それよりもシートバックが前傾させられた「前倒し位置」とによって挟まれた領域である。
【0040】
そして、着座領域から前倒れ領域の「前倒し位置」まで傾動させられるシートバックの動作は、「前倒し」と呼ばれる。
また、ウォークイン機構は、2ドア車においてドアを開いてセカンドシートへ乗降する場合や、ワンボックス車においてリヤドアからサードシートへ乗降する場合等に、乗降スペースを確保するために、シートバックの前倒しに連動して、シートクッションを車両フロアに対し前方へスライド移動させる機構である。
【0041】
図1及び図2に示すように、車両用シート装置は、車幅方向についての両側にそれぞれシートリクライニング装置20A,20Bを備えている。両シートリクライニング装置20A,20Bは、シートクッションに対するシートバックの傾斜角度を調整・保持するためのものであり、互いに同一の構成を有している。
【0042】
各シートリクライニング装置20A,20Bは、シートクッションフレーム14の支持ブラケット14D,14Eとシートバックフレーム15のサイドフレーム15A,15Bとの間に配置されており、渦巻きばね(図示略)、ロック機構30及びメモリ機構50を備えている。
【0043】
渦巻きばねは、シートバックを前傾方向に付勢するためのものであり、線材を渦巻き状に曲成することにより成形されている。渦巻きばねの一端部はシートクッションフレーム14に係止され、他端部はシートバックフレーム15に係止されている。
【0044】
ロック機構30は、シートクッションに対するシートバックの傾動を規制するロック状態と、その傾動を許容するアンロック状態とを、操作軸16A,16Bの回動に応じて切替えるための機構である。
【0045】
左側のシートリクライニング装置20Aにおける操作軸16Aと、右側のシートリクライニング装置20Bにおける操作軸16Bとは、共通のロッド22(図1参照)によって互いに一体回動可能に連結(剛結合)されている。ここで、操作軸16A,16Bに沿う方向を「軸方向」というものとする。
【0046】
図4〜図7に示すように、ロック機構30は、シートバックフレーム15のサイドフレーム15A,15Bに取付けられる第1部材31と、シートクッションフレーム14の支持ブラケット14D,14Eに取付けられる第2部材32と、これら第1部材31及び第2部材32に装着されるホルダ33とを備えている。さらに、ロック機構30は、第1部材31及び第2部材32間に配設された、カム34及び複数(3つ)のロック部材としてのポール35と、第2部材32の軸方向についての一側(図4、図5の右側)に配設された渦巻きばね36とを備えている。
【0047】
第2部材32は、半抜き加工(ハーフブランキング)により成形されたものであり、円環状に形成されている。この第2部材32は、軸方向についての一側(図7の右側)で支持ブラケット14D,14Eに接合されることで、実質的にシートクッションフレーム14に一体化されている。
【0048】
また、第2部材32の軸方向についての他側(図4、図7の左側)には、円形の凹部37が形成されている。図4、図10及び図11に示すように、凹部37には、軸方向の段差分だけ底壁部から突出する複数(3つ)のガイド壁部38が所定角度毎に形成されている。これらガイド壁部38は、隣り合うガイド壁部38で対をなしている。ガイド壁部38は、対をなす隣のガイド壁部38との間で平行になるように径方向に真っ直ぐに延びる側面38Aを有している(図11参照)。そして、各隣接する側面38A間は、径方向に延びるガイド溝をなしている。このガイド溝は、ポール35の径方向の移動(進退)を案内するためのものである。
【0049】
図5及び図7に示すように、第1部材31は、上記第2部材32と同様、半抜き加工により成形されたものであり、前記凹部37の内周面37Aの内径と同等の外径を有する円環状に形成されている。第1部材31は、軸方向についての他側(図7の左側)でサイドフレーム15A,15Bに接合されることで、実質的にシートバックフレーム15に一体化されている。
【0050】
第1部材31は、前記第2部材32に対してその外周面31Aが内周面37Aと摺接するように装着されている。すなわち、第1部材31は第2部材32に軸支されている。この軸支により、シートバックフレーム15は、ロック機構30の第1部材31及び第2部材32を介してシートクッションフレーム14に対し回動可能に連結されている。
【0051】
第1部材31は、シートバックフレーム15が前方へ傾動するときには、図10において反時計回り方向へ回動(前方回転)する。これとは逆に、第1部材31は、シートバックフレーム15が後方へ傾動するときには、図10において時計回り方向へ回動(後方回転)する。
【0052】
また、第1部材31の軸方向についての一側(図7の右側)には、第2部材32と同心で円形をなす第1凹部39が形成されている。この第1凹部39において、操作軸16A,16Bを中心とする内周面には内歯車39Aが形成されている。従って、第1部材31が第2部材32に装着された状態では、前記ガイド溝の径方向に内歯車39Aが対向する。
【0053】
第1凹部39には、同第1凹部39と同心で、同第1凹部39よりも小径の円形の第2凹部41が形成されている。第1凹部39及び第2凹部41は、第1部材31が第2部材32に装着された状態において、凹部37とともにカム34及びポール35の収容空間を形成する。
【0054】
ホルダ33は円環状に形成されており、第1部材31と、これに装着された第2部材32とに対し、それらの径方向外側から装着されている。第1部材31及び第2部材32は、このホルダ33により相対回動を許容された状態で軸方向に抜け止めされている。
【0055】
図4及び図5に示すように、カム34は、その回動中心から所定角度ごとに複数(3つ)のカム部34Aを有しており、これらカム部34Aの外側面はカム面34Bを形成している。各カム部34Aには、軸方向と平行に突出する突起34Cが形成されている。カム34は、第2部材32及び第1部材31間に収容される態様で第2部材32に対し回動可能に連結されている。カム34は、後述する第1操作レバー61及び第2操作レバー62の操作に連動して操作軸16A,16Bと一体となって、一側(図10において時計回り方向、図11において反時計回り方向)に回動する。
【0056】
図4、図5及び図12に示すように、前記渦巻きばね36の外端は第2部材32に係止されており、内端はカム34に係止されている。カム34は、第1操作レバー61及び第2操作レバー62の操作が解放されたときに、渦巻きばね36により他側(図10において反時計回り方向、図11において時計回り方向)に回動するように付勢されている。この付勢方向は、カム34により、後述するポール35の外歯35Aを第1部材31の内歯車39Aに噛合させてシートバックをロック状態にする方向である。
【0057】
なお、渦巻きばね36の外端は、第2部材32に代えて、シートクッションフレーム14の支持ブラケット14D,14Eに係止されてもよい。
図4、図5、図10及び図11に示すように、複数(3つ)のポール35の各々は、前記ガイド溝の周方向の幅(隣合うガイド壁部38間の間隔)よりも若干小さい幅を有する矩形の板状に形成されている。各ポール35はガイド溝にそれぞれ配置されており、両側面38A(図11参照)と摺接することで径方向へ案内される。各ポール35の径方向についての外端部には、第1部材31の内歯車39Aと噛合する外歯35Aが形成されている。また、各ポール35の内端部には、厚さ方向に貫通するカム孔35Bが形成されている。各カム孔35Bは周方向に対して傾斜しており、各ポール35は、カム孔35Bにカム34の突起34Cが挿入されることで、これと係合する。
【0058】
さらに、各ポール35において、外歯35Aとカム孔35Bとの間には段差部が形成されている。この段差部の径方向に対向する端面は、ポールカム面35Cを形成している。このポールカム面35Cは、ポール35の側面を横切るように、かつ、外歯35Aのピッチ円に対して傾斜角を持つように延びている。ポール35は、ポールカム面35Cに前記カム34のカム面34Bが当接することで、これと係合する。
【0059】
ここで、第2部材32及び第1部材31間(収容空間)にカム34及びポール35が収容された状態において、カム34が操作軸16A,16Bと一体で一側(図10において時計回り方向)に回動するとき、ポール35は、カム孔35Bがカム34の突起34Cに押圧されることで、ガイド溝に沿って径方向に引き込むように移動する。このとき、ポール35の外歯35Aと第1部材31の内歯車39Aとの噛合が解除されることで、同第1部材31は第2部材32に対して回動可能になり、シートバックがアンロック状態にされる。
【0060】
一方、カム34が他側(図10において反時計回り方向)に回動するとき、ポール35は、ポールカム面35Cがカム面34Bに押圧されることで、ガイド溝に沿って径方向に飛び出すように移動する。このとき、ポール35の外歯35Aが第1部材31の内歯車39Aに噛合し、同第1部材31は第2部材32に対して回動不能になり、シートバックがロック状態にされる。
【0061】
メモリ機構50は、アンロック状態への切替え直前のロック状態におけるシートバックの角度位置を記憶するとともに、前倒しされたアンロック状態のシートバックが、記憶した前記角度位置へ傾動したときにのみロック状態への復帰を許容するための機構である。
【0062】
メモリ機構50は、一対のポール35にそれぞれ設けられた係合部53A,53B、収納凹部51、メモリプレート52及び一対の被係合部52A,52Bを備えて構成されている。
【0063】
図10に示すように、係合部53A,53Bは、複数(3つ)のポール35のうち、隣合う一対(図10の上側及び左側)のポール35にそれぞれ設けられている。より詳しくは、図4及び図5に示すように、ポール35において、ポールカム面35Cとは軸方向に反対側であって、外歯35Aとカム孔35Bとの間に段差部54が形成されており、この段差部54に係合部53A,53Bが設けられている。本実施形態では、一方の係合部53Aが他方の係合部53Bよりも段差部54から径方向外側へ多く突出している。
【0064】
図8に示すように、収納凹部51は、軸方向(図8の左右方向)であって、内歯車39Aの外歯35Aとの噛合部分よりも第2部材32から遠ざかる側(図8の左側)に隣接して設けられている。すなわち、収納凹部51は、第1凹部39よりも第2部材32側から遠ざかる側に隣接して設けられている。収納凹部51は、第1凹部39と同心で、内歯車39Aの歯先円と同一径の内周面51Aを有している。
【0065】
図10及び図13に示すように、メモリプレート52は、一箇所において分断された円環状をなしており、径方向内側へ弾性変形することで縮径可能であり、径方向外側へ弾性変形することで拡径可能である。メモリプレート52は、分断部分Sを両係合部53A,53B間に位置させ、かつ縮径された状態で、収納凹部51に対し周方向への摺動可能に収納されている。
【0066】
被係合部52A,52Bは、両係合部53A,53B間において、メモリプレート52の各係合部53A,53Bに隣接した箇所から径方向内側へそれぞれ突出している。両被係合部52A,52Bは、ポール35の径方向への移動に伴い係合部53A,53Bが係脱される箇所である。
【0067】
本実施形態では、シートバックを前傾させる際に第1部材31が回動(前方回転)する方向についての前側の被係合部52Bが、メモリプレート52の一方の端部に設けられており、同前側の係合部53Bに隣接している。また、シートバックを前傾させる際に第1部材31が回動する方向についての後側の被係合部52Aが、メモリプレート52の他方の端部に設けられており、同後側の係合部53Aに隣接している。
【0068】
被係合部52A,52Bの径方向の長さは、上記係合部53A,53Bの段差部54からの突出量とともに、係合部53A,53Bが被係合部52A,52Bを乗り越えて摺動できるかどうか、すなわちシートバックの角度位置を記憶できるかどうかを決定する要素である。ここでは、被係合部52Bの径方向の長さは、段差部54からの突出量の少ない係合部53Bが乗り越えることのできる長さに設定されている。また、被係合部52Aの径方向の長さは、上記突出量の多い係合部53Aが乗り越えることのできない長さに設定されている。
【0069】
また、被係合部52A,52Bの周方向の長さは、メモリ機構50によって記憶できるシートバックの傾動範囲を決定する要素である。ここでは、係合部53Bが乗り上げて摺動する被係合部52Bは、周方向に長く形成されている。また、係合部53Aが乗り上げることのない被係合部52Aは、周方向に短く形成されている。
【0070】
上述したロック機構30によるアンロック状態は、次の2つの態様からなる。
態様1:両係合部53A,53Bが被係合部52A,52Bに対し径方向に半係合させられ、この状態で被係合部52A,52Bが係合部53A,53Bにより周方向へ押圧され、収納凹部51に対しメモリプレート52がポール35と一体で回動させられることにより、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容する態様(図20参照)。
【0071】
態様2:係合部53Bが被係合部52Bを乗り越え、メモリプレート52を収納凹部51に対し回動不能に係止させた状態で、その被係合部52Bの内周面52C上で摺動させられることにより、角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容する態様(図22参照)。この態様は、メモリプレート52の外周面52Dと、収納凹部51の円形の内周面51Aとの間で生ずる摩擦抵抗が、被係合部52Bの内周面52Cと係合部53Bとの間で生ずる摩擦抵抗よりも大きいときに生ずる。
【0072】
ここで、図13に示すように、メモリプレート52において、周方向に長い方の被係合部52Bが設けられている箇所の外周部には、円弧状の切欠き部52Eが設けられている。この切欠き部52Eにより、メモリプレート52の径方向の厚みt1は、メモリプレート52のうち周方向についての両被係合部52A,52B間の箇所52Fと、両被係合部52A,52Bのうち、角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するアンロック状態のときに係合部53Bが摺動する箇所とで同一に設定されている。係合部53Bが摺動する箇所とは、周方向に長く径方向に短い方の被係合部52Bである。なお、図13中の52Gは、係合部53Bが被係合部52Bの内周面52C上を摺動する際に、その被係合部52Bが径方向外側へ撓むのを規制するための脚部である。
【0073】
図1及び図2に示すように、車両用シート装置は、上記シートリクライニング装置20A,20Bのほかに、第1操作レバー61(ロック解除操作レバー)、第2操作レバー62(メモリ操作レバー)及びシートスライド装置69を備えている。
【0074】
第1操作レバー61は、操作軸16A,16Bを回動させることにより、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせる際に操作されるレバーである。第1操作レバー61は、シートクッションの幅方向についての一側部(本実施形態では右側部)に配設されている。
【0075】
図14及び図15に示すように、シートクッションの幅方向について、第1操作レバー61と同じ側(右側)の支持ブラケット14Eからは、同第1操作レバー61と同じ側(右側)に配置されているシートリクライニング装置20Bの操作軸16Bの一部が突出している。第1操作レバー61は、この操作軸16Bに対し回動可能に支持されている。第1操作レバー61と操作軸16Bとの間には、その第1操作レバー61の動きを操作軸16Bに伝達する機構が設けられているが、これについては後述する。
【0076】
図1に示すように、第2操作レバー62は、その操作に応じて、操作軸16A,16Bを回動させることにより、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせ得る。この第2操作レバー62の主な機能は、上記アンロック状態のときよりも多く操作軸16A,16Bを回動させる操作を行なうことにより、角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせることである。第2操作レバー62は、シートバックの幅方向についての一側部(第1操作レバー61と同じ側:右側)に設けられている。
【0077】
第2操作レバー62は、車両用シート装置上部の架設部材15Dに対し、軸63により上下方向への回動可能に支持されている。第2操作レバー62は、復帰ばね64により常に下方へ回動付勢されている。架設部材15Dにおいて、第2操作レバー62の上側及び下側には、ストッパ67A,67Bが設けられていて、第2操作レバー62の操作範囲が、これらのストッパ67A,67Bによって規定されている。
【0078】
図16及び図17に示すように、シートクッションの幅方向について、第2操作レバー62と反対側(左側)の支持ブラケット14Dからは、同第2操作レバー62と反対側(左側)に配置されているシートリクライニング装置20Aの操作軸16Aの一部が突出している。この操作軸16A上には、リンク部材65が一体回動可能に連結されている。リンク部材65は、上述した渦巻きばね36(図4、図5参照)により、シートバックをロック状態にする際の操作軸16Aの回動方向(図16、図17において反時計回り方向)へ常に付勢されている。
【0079】
リンク部材65の外端部と、同リンク部材65から遠く離れた箇所に配置されている上記第2操作レバー62とは、ケーブル68によって駆動連結されており、第2操作レバー62の操作に応じた同第2操作レバー62の動きがケーブル68及びリンク部材65を介して操作軸16Aに伝達されるように構成されている。なお、図1〜図3では、ケーブル68の中間部分の図示が省略されている。
【0080】
図1及び図2に示すシートスライド装置69は、車両フロアに対するシートクッションのスライド移動(ロアレール11A,11Bに対するアッパレール12A,12Bのスライド移動)を選択的に規制及び許容する周知のスライドロック機構(図示略)を備えている。このスライドロック機構は、少なくとも前記着座領域では、シートクッションの車両フロアに対するスライド移動を規制する。また、スライドロック機構は、第2操作レバー62の操作に応じてロック機構がアンロック状態へ切替えられ、シートバックが着座領域から前倒れ領域へ前倒しされることに連動して前記規制を解除する。この規制解除により、車両フロアに対するシートクッションのスライド移動が許容される。
【0081】
図14及び図15に示すように、車両用シート装置は、シートクッションの幅方向について、第1操作レバー61と同じ側(右側)に操作範囲制限手段70及びロストモーション機構75を備えている。
【0082】
操作範囲制限手段70は、第1操作レバー61と同じ側(右側)の支持ブラケット14Eにおいて、操作軸16Bの上方に固定された固定ストッパ71と、第1操作レバー61の操作軸16B周りであって、周方向に互いに離間した箇所から径方向外側へ突出する一対の可動ストッパ72A,72Bとを備えている。第1操作レバー61の回動操作範囲αは、可動ストッパ72Aが固定ストッパ71に当接するロック位置(図14参照)と、可動ストッパ72Bが固定ストッパ71に当接する解除位置(図15参照)との間に制限される。この制限は、第1操作レバー61の操作に応じた操作軸16A,16Bの回動により、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を発生させるために必要である。ロック位置では、各ポール35の外歯35Aが第1部材31の内歯車39Aに噛合して、第1部材31が第2部材32に対して回動不能になり、シートバックがロック状態にされる。また、解除位置では、外歯35Aと内歯車39Aとの噛合が解除されて、第1部材31が第2部材32に対して回動可能になり、シートバックがアンロック状態にされる。
【0083】
第1操作レバー61は、支持ブラケット14Eと同第1操作レバー61との間に張設された復帰ばね73によって、常にロック位置側へ回動付勢されている(引っ張られている)。
【0084】
ここで、角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するアンロック状態のための操作軸16A,16Bの回動量は、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態のための操作軸16A,16Bの回動量よりも多い。
【0085】
一方、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態は、主として第1操作レバー61の操作によって生じさせられ、角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するアンロック状態は、第2操作レバー62の操作のみによって生じさせられる。従って、第2操作レバー62の操作による操作軸16A,16Bの回動量は、第1操作レバー61の操作による操作軸16A,16Bの回動量よりも多くなる。
【0086】
さらに、第1操作レバー61の操作によって回動される操作軸16A,16Bと、第2操作レバー62の操作によって回動される操作軸16A,16Bとは一体で回動するもの(共通の軸)である。
【0087】
ロストモーション機構75は、操作レバー61,62の操作によって共通の軸(操作軸16A,16B)を回動させるものにおいて、第2操作レバー62を操作するときには、第1操作レバー61に動きが伝達されることを規制して、第1操作レバー61を操作するときよりも多く操作軸16A,16Bを回動させることを可能とするための機構である。
【0088】
そのために、ロストモーション機構75は、角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するアンロック状態を発生させるための第2操作レバー62の操作が少なくとも行なわれるときには、その第2操作レバー62の動きを第1操作レバー61に伝達せずに同第1操作レバー61を休止させる。
【0089】
本実施形態では、ロストモーション機構75は、第2操作レバー62の操作が行なわれるときには、その第2操作レバー62の動きが第1操作レバー61に全く伝達されないように構成されている。
【0090】
より具体的には、ロストモーション機構75は、リンク部材76、長孔77及びピン78と、第2操作レバー62及び操作軸16A(リンク部材65)間を連結する上記ケーブル68とを備えて構成されている。上述したように、第1操作レバー61が操作軸16Bに対し回動可能に支持されているのに対し、リンク部材76は操作軸16Bに一体回動可能に連結されている。また、リンク部材76は、上記渦巻きばね36(図4、図5参照)により、シートバックをロック状態にする際の操作軸16Bの回動方向(図14、図15において時計回り方向)へ常に付勢されている。
【0091】
長孔77はリンク部材76に設けられ、操作軸16Bを中心とする円弧状をなしている。ピン78は、第1操作レバー61に固定されており、長孔77内に周方向への移動可能に挿通されている。
【0092】
上記構成のロストモーション機構75では、回動操作範囲α内(ロック位置−解除位置間)で第1操作レバー61が操作されるときには、ピン78が長孔77の一方の端部(前端部)に押圧される。リンク部材76に対し、渦巻きばね36による図14の時計回り方向の付勢力が作用しているからである。そのため、リンク部材76は第1操作レバー61と一体となって回動する。また、リンク部材76の上記回動に伴い、操作軸16B、ロッド22、操作軸16A及びリンク部材65が一体となって同方向へ回動する。このとき、リンク部材65は図16の状態から時計回り方向へ回動するが、ケーブル68が撓むため、この回動は第2操作レバー62に伝達されない。
【0093】
また、第2操作レバー62が操作されるときには、長孔77内でのピン78の移動が許容される。長孔77内におけるピン78の位置が変化することにより、第2操作レバー62の動きが第1操作レバー61に伝達されず、第1操作レバー61が休止される。
【0094】
さらに、図5、図18及び図19に示すように、車両用シート装置は、第1操作レバー61の操作時には、ロック機構30によるロック状態及びアンロック状態の切替えを、シートバックが前記着座領域内で傾動するときのみに制限する切替え制限機構80を備えている。
【0095】
切替え制限機構80は、第1部材31内に一体回動可能に設けられた回動規制部81を備えている。より詳しくは、回動規制部81は、第2凹部41の内周面から径方向内側へ突出する円弧状の突起からなる。
【0096】
この回動規制部81は、第1部材31の周方向については、次の条件を満たす箇所に設けられている。その条件とは、「角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態でシートバックが着座領域で傾動していて、前倒れ領域との境界部分のアップライト位置まで前傾したとき、被係合部52Bを押してメモリプレート52と一体で回動しているポール35の係合部53Bに当接する位置である」ことである。この回動規制部81との当接により、係合部53B及びメモリプレート52について、同方向へのそれ以上の回動が規制されて、シートバックの着座領域から前倒れ領域への傾動を阻止される。
【0097】
このように、回動規制部81は、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態で、シートバックが着座領域から前倒れ領域へ傾動する際に、メモリプレート52を伴って回動するポール35に当接して、同方向へのそれ以上の回動を規制する。この規制により回動規制部81は、ロック機構30によるロック状態及びアンロック状態の切替えの上記制限を行なう。
【0098】
また、回動規制部81は、係合部53Bが摺動する被係合部52Bの内周面52Cと同一径の内周面81Aを有する。このように内周面52Cと内周面81Aとで径を同一とするのは、次の理由による。第2操作レバー62の操作時に、係合部53Bが被係合部52B及び回動規制部81を乗り越えて同被係合部52Bの内周面52C上で摺動するのを許容することで、シートバックの着座領域から前倒れ領域への傾動を許容するためである。
【0099】
なお、回動規制部81が設けられた第2凹部41は、メモリプレート52が収納されている収納凹部51よりも第2部材32から遠ざかる側に位置するため、この回動規制部81が、収納凹部51内でのメモリプレート52の回動を妨げることはない。
【0100】
ところで、既述したように、一方の係合部53Aは段差部54から径方向外側へ多く突出している。この係合部53Aに隣接する被係合部52Aは周方向に短く、径方向に長い。これに対し、他方の係合部53Bは段差部54から径方向外側へ少なく突出している。この係合部53Bに隣接する被係合部52Bは周方向に長く、径方向に短い。このような設定を行なっているのは、1つには、シートバックが前方へ傾動する際には、突出量の少ない係合部53Bが径方向に短い被係合部52Bを乗り越えるのを許容して、シートバックの角度位置を記憶させるためである。また、シートバックが後方へ傾動する際には、突出量の多い係合部53Aが径方向に長い被係合部52Aを乗り越えるのを阻止して、シートバックの角度位置を記憶させず、任意の角度位置でシートバックをロック状態にするためである。
【0101】
上記のようにして第1実施形態の車両用シート装置が構成されている。次に、この車両用シート装置の作用について説明する。
図13に示すように、この車両用シート装置のメモリプレート52において、角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するアンロック状態のときにポール35の係合部53Bが摺動する箇所は、径方向内側へ突出する被係合部52Bの内周面52Cの一部である。同摺動箇所は、メモリプレート52のうち周方向についての両被係合部52A,52B間の箇所52Fよりも径方向内側に位置する。
【0102】
ここで、仮に、メモリプレート52の外径が周方向のどの箇所でも同じであるとすると、径方向の厚みt1は、前者(係合部53Bが摺動する被係合部52B)において後者(両被係合部52A,52B間の箇所52F)よりも大きくなる。厚みt1の大きな箇所は、小さな箇所よりも径方向に撓みにくい。そのため、メモリプレート52を収納凹部51に組み込むために径方向内側へ撓ませながら縮径させる際に、同メモリプレート52がいびつな円環状となり収納凹部51に嵌りにくくなるおそれがある。
【0103】
この点、第1実施形態では、メモリプレート52のうち周方向についての両被係合部52A,52B間の箇所52Fと、係合部53Bが摺動する被係合部52Bとで厚みt1が同一に設定されている。そのため、メモリプレート52を収納凹部51に組み込むために径方向内側へ撓ませながら縮径させる際に、同メモリプレート52がいびつな円環状になりにくい。
【0104】
また、上記車両用シート装置では、シートクッションの幅方向についての両側に設けられたシートリクライニング装置20A,20Bは、ともに同一のロック機構30及び同一のメモリ機構50を備えた同一の構造を有している。しかも、各シートリクライニング装置20A,20Bにおいて、ロック機構30及びメモリ機構50の作動に関わる操作軸16A,16Bはロッド22によって互いに一体回動可能に連結されている。そのため、第1操作レバー61及び第2操作レバー62が操作されて操作軸16A,16Bが回動されると、両シートリクライニング装置20A,20Bにおけるロック機構30が同期して作動するとともに、メモリ機構50が同期して、次のように作動する。
【0105】
図10及び図11は、シートバックが着座領域のニュートラル位置でロック状態にされているときのシートリクライニング装置20A,20Bの状態を示している。このロック状態では、第2部材32に取付けられている各ポール35がカム34によって径方向外側へ押圧されて、ポール35毎の外歯35Aが第1部材31の内歯車39Aに噛合している。これらの噛合により、第1部材31及び第2部材32の相対回動が規制され、シートクッションに対するシートバックの傾動が規制されている。
【0106】
このとき、復帰ばね73によって図14の時計回り方向に回動付勢されている第1操作レバー61は、同図14の左方の可動ストッパ72Aが固定ストッパ71に当接することにより、ロック位置に静止している。
【0107】
また、渦巻きばね36によって図14の時計回り方向に回動付勢されているリンク部材76は、長孔77の前端部が第1操作レバー61のピン78に当接する位置で静止している。
【0108】
上記ロック状態から、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態に切替えて、シートバックの傾斜角度を調整する場合には、ロック位置にある第1操作レバー61を把持し、復帰ばね73に抗して上方へ回動操作(引き上げ操作)する。第1操作レバー61の上方への回動は、図14の右方の可動ストッパ72Bが固定ストッパ71に当接する解除位置(図15参照)で停止する。
【0109】
上記のように、第1操作レバー61が、ロック位置から解除位置へ向けて操作されるときには、リンク部材76に対し、渦巻きばね36による図14の時計回り方向の付勢力が作用していることから、ピン78は長孔77の前端部に位置し続ける(長孔77内で移動しない)。そのため、リンク部材76は第1操作レバー61と一体となって回動する。また、リンク部材76の上記回動に伴い、操作軸16B、ロッド22、操作軸16A及びリンク部材65が一体となって同方向へ回動する。このリンク部材65は図16の状態から時計回り方向へ回動するが、ケーブル68が撓むため、この回動は第2操作レバー62に伝達されない。
【0110】
上記第1操作レバー61のロック位置から解除位置への回動操作に伴い、各カム34が操作軸16A,16Bと一体で図20の時計回り方向に回動されると、各ポール35は、カム孔35Bがカム34の突起34Cに押圧されることでガイド溝に沿って径方向内側に引き込むように移動する。この移動期間の初期に、各ポール35の外歯35Aと第1部材31の内歯車39Aとの噛合が解除されることで、同第1部材31は第2部材32に対して回動可能になり、シートバックがアンロック状態にされる。
【0111】
各ポール35の径方向内側への上記移動に伴い、同ポール35の係合部53A,53Bもまた径方向内側へ移動する。これらの係合部53A,53Bの移動により、同係合部53A,53Bと隣接する被係合部52A,52Bとの係合量が少なくなる。
【0112】
第1操作レバー61が解除位置まで回動操作されたときには、図20に示すように、ポール35の係合部53A,53Bと隣接する被係合部52A,52Bとの係合量は、前記ロック状態のときの半分程度となる。すなわち、両係合部53A,53Bが隣接する被係合部52A,52Bに対し径方向に半係合させられた状態となる。
【0113】
このように、第1操作レバー61の操作に応じて前記操作軸16A,16Bが回動されることにより、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態が生ずる。
【0114】
このアンロック状態で、渦巻きばねにより前傾方向へ付勢されているシートバックが前方へ傾動させられると、第1部材31が図20の反時計回り方向へ回動(前方回転)し、周方向に長く径方向に短い被係合部52Bが係合部53Bによって押圧される。上記とは逆に、シートバックが後方へ傾動させられると、第1部材が図20の時計回り方向へ回動(後方回転)し、周方向に短く径方向に長い被係合部52Aが隣接の係合部53Aによって押圧される。
【0115】
シートバックが前方及び後方のいずれの方向へ傾動させられたときにも、係合部53A,53Bの押圧力が、メモリプレート52の外周面52Dと収納凹部51の内周面51Aとの間の摩擦抵抗に打ち勝つことにより、メモリプレート52がポール35と一体で回動させられる。この回動時には、メモリプレート52が収納凹部51の内周面51A上を摺動する。
【0116】
ここで、一般的なシートリクライニング装置と同様、シートバックが傾動領域のどの角度位置にあるときにも、ロック機構30におけるロック状態及びアンロック状態を第1操作レバー61によって切替えることのできる仕様になっているものとする。この場合には、第1操作レバー61を操作してシートバックの傾斜角度を調整する際、誤ってシートバックを前倒れ領域で傾動させた場合、シートスライド装置のスライドロック機構(図示略)によるスライド移動の規制が意図せず解除されるおそれがある。
【0117】
この点、本実施形態では、ニュートラル位置にあるシートバックの前方への傾動及び後方への傾動は、着座領域内(アップライト位置−大倒し位置間)で許容される。この着座領域でシートバックが傾動されるときには、第1部材31内の回動規制部81が、図10において二点鎖線で示すように、被係合部52Bを押してメモリプレート52と一体で回動しているポール35の係合部53Bと当接することがない。すなわち、回動規制部81が、ポール35の係合部53B及びメモリプレート52の一体回動を妨げることがないからである。
【0118】
これに対し、シートバックがニュートラル位置からアップライト位置まで前傾すると、図19に示すように、回動規制部81が、被係合部52Bを押してメモリプレート52と一体で回動しているポール35の係合部53Bと当接する。この当接により回動規制部81は、係合部53B及びメモリプレート52が、引き続き同方向へそれ以上回動するのを規制する。そのため、アップライト位置よりも前側の傾動領域である前倒れ領域内(前倒し位置−アップライト位置間)で、ロック機構30によるロック状態及びアンロック状態の切替え、ひいては傾斜角度の調整を行なうことが不可となる。
【0119】
ここで、本実施形態では、メモリプレート52の分断部分Sが、隣合う一対のポール35毎の係合部53A,53B間に位置している。また、メモリプレート52の一対の被係合部52A,52Bは、両係合部53A,53B間において、各係合部53A,53Bに隣接した箇所に位置している。すなわち、被係合部52Aは、分断部分Sと係合部53Aとの間に位置し、被係合部52Bは、分断部分Sと係合部53Bとの間に位置している。
【0120】
これらのことから、一方の係合部53Aが隣接の被係合部52Aを周方向(図19の反時計回り方向)へ押圧するときには、他方の係合部53Bが隣接の被係合部52Bを周方向へ押圧することはない。一方の係合部53Aが被係合部52Aを周方向に押圧する方向は、メモリプレート52の分断部分Sの間隔を狭める方向である。また、上記とは逆に、他方の係合部53Bが隣接の被係合部52Bを周方向(図19の時計回り方向)へ押圧するときには、一方の係合部53Aが隣接の被係合部52Aを周方向へ押圧することはない。他方の係合部53Bが被係合部52Bを周方向に押圧する方向は、メモリプレート52の分断部分Sの間隔を狭める方向である。これらの分断部分Sの間隔を狭める方向の押圧力が加わることで、シートバックが傾動させられるときにはメモリプレート52が縮径させられる。この縮径に伴い、メモリプレート52の外周面52Dと収納凹部51の内周面51Aとの間に生ずる摩擦が小さくなる。
【0121】
また、本実施形態では、メモリプレート52のうち周方向についての両被係合部52A,52B間の箇所52Fと、両被係合部52A,52Bのうち係合部53A,53Bが摺動する箇所(係合部53Bが摺動する被係合部52B)とで厚みt1が同一に設定されている(図13参照)。そのため、係合部53Bから被係合部52Bに対し、分断部分Sの間隔を狭める方向の上記押圧力が加わって、収納凹部51に対しメモリプレート52がポール35と一体で回動させられるときにも、メモリプレート52がいびつな円環状に縮径されにくい(均一な円環状に縮径される)。そのため、メモリプレート52の外周面52Dと収納凹部51の内周面51Aとの間において、周方向のどの箇所においても局所的に過大な摩擦力が生じてしまうことが抑止される。
【0122】
シートバックが所望の傾斜角度になったところで、図14及び図15に示すように、第1操作レバー61の上方への回動操作(引き上げ操作)を止めると、復帰ばね73により回動付勢されている第1操作レバー61は下方へ回動させられる。第1操作レバー61の下方への回動は、図14の左方の可動ストッパ72Aが固定ストッパ71に当接するロック位置で停止する。
【0123】
上記のように、第1操作レバー61が、解除位置からロック位置へ復帰されるときには、リンク部材76に対し、渦巻きばね36による図14の時計回り方向の付勢力が作用していることから、ピン78は長孔77の前端部に位置し続ける(長孔77内で移動しない)。そのため、リンク部材76は第1操作レバー61と一体となって図14の時計回り方向へ回動する。また、リンク部材76の上記回動に伴い、操作軸16B、ロッド22、操作軸16A及びリンク部材65が一体となって同方向へ回動する。このリンク部材65は図17の状態から反時計回り方向へ回動するが、撓んでいたケーブル68が引っ張られるため、この回動は第2操作レバー62に伝達されない。
【0124】
上記第1操作レバー61の解除位置からロック位置への復帰に伴い、渦巻きばね36の付勢力を受けたカム34が図20の反時計回り方向に回動されると、各ポール35は、ポールカム面35Cがカム面34Bに押圧されることでガイド溝に沿って径方向に飛び出すように移動する。この移動により、ポール35の外歯35Aと第1部材31の内歯車39Aとが噛合すると、同第1部材31は第2部材32に対して回動不能になり、所望の傾斜角度となったシートバックがロック状態にされる。
【0125】
各ポール35の径方向外側への上記移動に伴い、同ポール35の係合部53A,53Bもまた径方向外側へ移動する。この係合部53A,53Bの径方向外側への移動により、同係合部53A,53Bと、隣接する被係合部52A,52Bとの係合量が多くなる。すなわち、係合部53A,53Bがロック状態のときの位置に戻る。
【0126】
ところで、上記図10及び図11のニュートラル位置でのロック状態から、角度位置(ニュートラル位置)を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するアンロック状態に切替えて、シートバックを前倒し位置まで傾動させる場合には、図1に示す第2操作レバー62を把持し、復帰ばね64に抗して同第2操作レバー62を上方へ操作する。この操作に伴う第2操作レバー62の上方への動きは、ケーブル68を介して左側のシートリクライニング装置20Aのリンク部材65に伝達され、同リンク部材65が操作軸16Aを伴って、図16及び図17の時計回り方向へ回動する。この操作軸16Aの回動はロッド22を通じて、右側のシートリクライニング装置20Bの操作軸16Bに伝達される。この伝達により、操作軸16Bがリンク部材76と一体となって図14及び図15の反時計回り方向へ回動する。リンク部材76は、長孔77及びピン78を介して第1操作レバー61に連結されているため、長孔77の後端部がピン78に当接しない限り、リンク部材76の回動は第1操作レバー61に伝達されない。すなわち、長孔77の前端部に位置するピン78が同長孔77内を移動する期間は、操作軸16Bは回動するが第1操作レバー61は回動を休止させられる。
【0127】
上記第2操作レバー62の操作に応じた両操作軸16A,16Bの回動に伴い、各カム34が操作軸16A,16Bと一体で、第1部材31に対し、図20の時計回り方向に回動されると、各ポール35は、カム孔35Bがカム34の突起34Cに押圧されることで、ガイド溝に沿って径方向内側に引き込むように移動する。この移動期間の初期に、各ポール35の外歯35Aと第1部材31の内歯車39Aとの噛合が解除されることで、同第1部材31は第2部材32に対して回動可能になり、シートバックが前記アンロック状態にされる。
【0128】
第2操作レバー62が引上げられるに従い、各ポール35が径方向内側へ移動する。ポール35毎の係合部53A,53Bもまた径方向内側へ移動する。この移動により、係合部53A,53Bと隣接の被係合部52A,52Bとの係合量が少なくなる。
【0129】
上側のストッパ67Aに当接するまで第2操作レバー62が引上げ操作されると、図21に示すように、一方のポール35の係合部53Bは、隣接の被係合部52Bに対し係合しなくなり、同被係合部52Bを乗り越えた状態となる。各ポール35をメモリプレート52に対し図21の時計回り方向へ回動させること(第1部材31をメモリプレート52に対して図21の反時計回り方向へ回動させること)が可能となる。これらの回動方向は、シートバックを前方へ傾動させる方向である。
【0130】
なお、このときには、他方のポール35の係合部53Aは隣接の被係合部52Aに対し依然として係合しており、同被係合部52Bを乗り越えない。そのため、第2操作レバー62の引上げ操作によっても、各ポール35をメモリプレート52に対し図21の反時計回り方向へ回動させること(第1部材31をメモリプレート52に対して図21の時計回り方向へ回動させること)はできない。これらの回動方向は、シートバックを後方へ傾動させる方向である。従って、シートバックを後方へ傾動させるときには、シートバックの角度位置を記憶させることができず、任意の角度でシートバックをロック状態にすることができる。
【0131】
係合部53Bが被係合部52Bを乗り越えた上記状態では、上述した半係合の場合とは異なり、一方の係合部53Bが被係合部52Bを周方向に押圧することがない。従って、メモリプレート52が係合部53Bの押圧によって縮径させられることがなく、縮径に伴い、メモリプレート52の外周面52Dと収納凹部51の内周面51Aとの間に生ずる摩擦が小さくなって、摺動抵抗が少なくなることはない。
【0132】
このように、メモリプレート52の外周面52Dと収納凹部51の内周面51Aとの間の摩擦抵抗が大きい。このため、前記の状態で、渦巻きばねにより前傾方向へ付勢されているシートバックが前方へ傾動させられる(前倒しされる)と、図22に示すように、メモリプレート52が収納凹部51に対し回動不能に係止された状態で、係合部53Bが被係合部52Bの内周面52C上を摺動するようになる。
【0133】
なお、第1部材31に設けられた回動規制部81が被係合部52Bの内周面52Cと同一径の内周面81Aを有していることから、係合部53Bは、図22において二点鎖線で示す回動規制部81の内周面81A上を摺動可能である。回動規制部81は、被係合部52Bの内周面52Cでの係合部53Bの摺動を妨げることはない。回動規制部81による回動規制がなく、シートバックの着座領域から前倒れ領域への傾動が許容される。
【0134】
そして、上記のようにメモリプレート52が第1部材31に対し回動しないことから、両被係合部52A,52Bは、アンロック状態への切替え直前のロック状態のときの位置に保持される。このようにして、アンロック状態への切替え直前のロック状態におけるシートバックの角度位置が記憶される。
【0135】
従って、特許文献1とは異なり、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態のために、メモリプレート52と収納凹部51との間の面圧を小さくして、メモリプレート52及び収納凹部51間の摩擦を小さくしなくても、シートバックを所望の傾斜角度となるように調整する際の操作荷重を適切にすることが可能となる。上記面圧を小さくした場合には、角度位置を記憶したうえでシートバックの傾動を許容するアンロック状態の際に、メモリプレート52を収納凹部51に対し回動不能に係止させ続けることが難しく、メモリプレート52がポール35と一緒に回動(共回り)するおそれがある。しかし、本実施形態では、このような現象が起こりにくく、本来のメモリ機能が発揮される。
【0136】
上記前倒しに連動して、シートスライド装置69におけるスライドロック機構(図示略)によるスライド移動の規制が解除される。この規制解除により、車両フロアに対し、シートクッションが前方へスライド移動する。
【0137】
前倒し位置からシートバックを引き起こす(後方へ傾動させる)と、メモリプレート52が収納凹部51に対し回動不能に係止された状態で、係合部53Bが被係合部52Bの内周面52C上を、上記前倒し時とは逆方向に摺動する。このときには、両被係合部52A,52Bは、アンロック状態への切替え直前のロック状態のときの位置に保持されている。
【0138】
そして、シートバックの傾斜角度が、記憶している前倒し直前の傾斜角度になって、係合部53Bが被係合部52Bを通過すると、渦巻きばね36の付勢力を受けたカム34が、第1部材31に対し図21の反時計回り方向に回動される。この回動により、各ポール35では、ポールカム面35Cがカム面34Bに押圧されることでガイド溝に沿って径方向に飛び出すように移動する。この移動により、ポール35の外歯35Aと第1部材31の内歯車39Aとが図10に示すように噛合すると、同第1部材31は第2部材32に対して回動不能になり、シートバックは、前倒し直前の角度位置(ニュートラル位置)でロック状態にされる。
【0139】
ここで、図8に示すように、軸方向であって、内歯車39Aの外歯35Aとの噛合部分よりも第2部材32から遠ざかる側(図8の左側)に隣接して設けられた収納凹部51にはメモリプレート52が、周方向への摺動可能に収納されている。このメモリプレート52と第2部材32との間には、内歯車39Aに対向する外歯35Aを有するポール35が位置している。各ポール35は径方向に移動することで、外歯35Aを内歯車39Aに噛合させたりその噛合を解除させたりするものであるため、各ポール35の周囲には、径方向の移動を可能にするための隙間が少なからず存在する。
【0140】
例えば、図9に示すように、収納凹部51の内周面51Aが内歯車39Aの歯先円よりも小径であるとすると、径方向について収納凹部51と内歯車39Aとの間であって、軸方向について収納凹部51とポール35との間に隙間G1が存在する。
【0141】
また、縮径された状態で収納凹部51に収納されたメモリプレート52は、自身の弾性復元力により拡径しようとする。メモリプレート52は、この拡径しようとする力により傾いて収納凹部51から外れた場合、図9において矢印で示すように上記隙間G1に入り込み、ロック機構30やメモリ機構50の作動に支障を及ぼすおそれがある。
【0142】
この点、本実施形態では、図8に示すように、内歯車39Aの外歯35Aとの噛合部分よりも第2部材32から遠ざかる側(図8の左側)に隣接して設けられた収納凹部51が、内歯車39Aの歯先円と同一径の内周面51Aでメモリプレート52の外周面52Dを支持する。従って、本実施形態では、径方向について収納凹部51と内歯車39Aとの間であって、軸方向について収納凹部51とポール35との間に、上記のような隙間G1が存在しない。そのため、たとえメモリプレート52が拡径しようとする力により、軸方向へ傾いて収納凹部51から外れても、ロック機構30やメモリ機構50の作動に支障を及ぼすおそれがない。
【0143】
以上詳述した第1実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)第1操作レバー61の操作時には、ロック機構30によるロック状態及びアンロック状態の切替えを、シートバックが着座領域内で傾動するときのみに制限する切替え制限機構80を設けている(図18、図19)。
【0144】
そのため、第1操作レバー61を操作してシートバックの傾斜角度を調整する際に、誤ってシートバックを前倒れ領域で傾動させて、シートスライド装置69のスライドロック機構によるスライド移動の規制が解除されるのを抑制することができる。
【0145】
(2)切替え制限機構80として、第1部材31内に、係合部53Bが摺動する被係合部52Bの内周面52Cと同一径の内周面81Aを有する回動規制部81を設けている(図18、図19)。そして、第1操作レバー61の操作時には、半係合状態の係合部53Bを回動規制部81と当接させて(図19)、メモリプレート52を伴うポール35の回動を規制して、シートバックの着座領域から前倒れ領域への傾動を阻止する。また、第2操作レバー62の操作時には、係合部53Bに被係合部52B及び回動規制部81を乗り越えさせて被係合部52Bの内周面52C上で摺動させる(図22)ことにより、シートバックの着座領域から前倒れ領域への傾動を許容するようにしている。
【0146】
このため、第1部材31内に回動規制部81を設けるといった簡単な構成により、上記(1)に記載した効果を確実に得ることができる。
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態について、図23及び図24を参照して説明する。
【0147】
第2実施形態は、切替え制限機構80をシートリクライニング装置20A,20Bの外部に設けている点において、内部に設けている第1実施形態と大きく異なっている。対象となるシートリクライニング装置は、ケーブル68及びリンク部材65を介して操作軸16Aに第2操作レバー62が駆動連結されている側(左側)のシートリクライニング装置20Aである。
【0148】
第2実施形態での切替え制限機構80は、被当接部91、可動ストッパ92、上記リンク部材65及び回動伝達制御手段95を備えて構成されている。
被当接部91は、シートバックフレーム15の左側のサイドフレーム15Aに固定されており、シートバックの傾動に伴い、操作軸16Aの周りを変位する。
【0149】
可動ストッパ92は、左側の支持ブラケット14Dであって、操作軸16Aの前方となる箇所に軸93により支持されている。この可動ストッパ92は、被当接部91との当接によりシートバックの傾動を規制する当接位置(図23参照)と、その当接位置から操作軸16A側に退避した非当接位置(図24参照)との間で傾動する。
【0150】
リンク部材65は、第2操作レバー62の操作に伴う操作軸16A,16Bの回動を可動ストッパ92に伝達し得る。
回動伝達制御手段95は、可動ストッパ92に形成されたカム孔96と、カム孔96に挿通された状態でリンク部材65に固定され、同リンク部材65の回動に伴い操作軸16Aの周りを変位するピン97とからなる。
【0151】
上記カム孔96は、次の条件を満たす形状に形成されている。
条件1:角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせるための角度だけ操作軸16A,16Bを回動させる第1操作レバー61及び第2操作レバー62の操作が行なわれるとき(回動操作範囲α内で回動されるとき)には、リンク部材65の回動を可動ストッパ92に伝達しない。
【0152】
条件2:角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせるときよりも多く操作軸16A,16Bを回動させる第2操作レバー62の操作が行なわれるときには、リンク部材65の回動を可動ストッパ92に伝達する。
【0153】
上記条件1が満たされることにより、可動ストッパ92が当接位置に位置し、シートバックの前方への傾動が規制される。この規制により、ロック状態及びアンロック状態の切替えが、シートバックが着座領域内で傾動するときのみに制限される。
【0154】
上記条件2が満たされることにより、可動ストッパ92が非当接位置に後退し、シートバックの前方への傾動規制が解除される。シートバックの着座領域から前倒れ領域への前倒しが許容される。
【0155】
上記以外の構成は第1実施形態と同様である。そのため、第2実施形態において、第1実施形態と同様の部材、箇所等については同一の符号を付し、詳しい説明を省略する。
上記のように構成された第2実施形態では、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせるための角度だけ操作軸16A,16Bを回動させる第1操作レバー61及び第2操作レバー62の操作が行なわれるときには、図23に示すように、リンク部材65が操作軸16Aと一体で回動する。これに伴い、ピン97が図23において二点鎖線で示すように、カム孔96内において操作軸16Aの回りを移動する。このときには、リンク部材65の回動は、ピン97及びカム孔96を通じて可動ストッパ92に伝達されない。表現を変えると、リンク部材65の回動が可動ストッパ92に伝達されることが、ピン97がカム孔96内で移動することによって遮断される。この遮断により、可動ストッパ92が当接位置に位置して被当接部91に当接することで、同被当接部91、ひいてはシートバックの前方への傾動を規制する。この規制により、第1操作レバー61によるロック状態及びアンロック状態の切替えは、シートバックが着座領域内で傾動するときのみに制限される。
【0156】
第2操作レバー62について、図24において実線で示すように、角度位置を記憶せずにシートバックの傾動を許容するアンロック状態を生じさせるときよりも多く操作軸16A,16Bを回動させる操作が行なわれると、第1操作レバー61が操作されるときよりもリンク部材65が多く操作軸16A,16Bと一体で回動する。このリンク部材65の回動がピン97及びカム孔96を通じて可動ストッパ92に伝達され、同可動ストッパ92が図24の非当接位置に後退する。この後退により、シートバックの前方への傾動の規制が解除され、第2操作レバー62によるシートバックの着座領域から前倒れ領域への前倒しが許容される。
【0157】
従って、第2実施形態によれば、第1実施形態の上記(1)と同様の効果が得られるほか、次の効果が得られる。
(3)切替え制限機構80として、シートリクライニング装置20A,20Bの外部に、被当接部91、可動ストッパ92、リンク部材65及び回動伝達制御手段95を設けている(図23、図24)。
【0158】
そのため、第1部材31内に回動規制部81を設ける第1実施形態とは異なる構成ではあるが、上記(1)に記載した効果を確実に得ることができる。
(4)回動伝達制御手段95を、可動ストッパ92に形成されたカム孔96と、リンク部材65に設けられてカム孔96に挿通されたピン97とによって構成している(図23、図24)。
【0159】
そのため、このような簡単な構成でありながら、回動伝達制御手段95を成立させることができる。
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
【0160】
・両係合部53A,53B間で同係合部53A,53Bに隣接する箇所であることを条件に、被係合部52A,52Bの少なくとも一方を、メモリプレート52の端部とは異なる箇所に設けてもよい。
【0161】
・メモリプレート52における被係合部52A,52Bを、上記第1及び第2実施形態とは異なる形態に変更してもよい。例えば、メモリプレート52の内周側に凹部を設け、これを被係合部としてもよい。
【0162】
・ロック機構30の構成を適宜変更してもよい。例えばカム34のカム部34Aやこれと係合するポール35の数を変更してもよい。また、カム34のカム部34A、ポール35のカム孔35Bの形状についても適宜変更してもよい。
【0163】
・ロストモーション機構75における長孔77を第1操作レバー61に設け、ピン78をリンク部材76に設けてもよい。
・第1実施形態では、シートリクライニング装置20A,20B毎の操作軸16A,16Bを、それらの間に配置したロッド22によって一体回動可能に連結したが、操作軸16A,16Bを共通(1本)のロッドによって構成してもよい。
【0164】
・第2実施形態とは逆に、カム孔96をリンク部材65に形成し、ピン97を可動ストッパ92に設けてもよい。
・上記第1及び第2実施形態とは逆に、第1部材31をシートクッション側の部材(例えば、支持ブラケット14D,14E)に取付け、第2部材32をシートバック側の部材(例えば、サイドフレーム15A,15B)に取付ける構成に変更してもよい。
【0165】
・被係合部52Aの径方向の長さについても、被係合部52Bと同様、係合部53Aが乗り越えることのできる長さに設定してもよい。こうすると、シートバックを前方に傾動させる場合だけでなく、後方に傾動させる場合にも、そのシートバックの角度位置を記憶することができる。
【0166】
・図25に示すように、内歯車39Aにおいて、軸方向(図25の左右方向)であって、同内歯車39Aの外歯35Aとの噛合部分よりも第2部材32から遠ざかる側(図25の左側)の部分を、収納凹部51としてもよい。この場合、収納凹部51は、内歯車39Aの歯先でメモリプレート52の外周面52Dを支持することとなる。
【0167】
このようにしても、径方向について収納凹部51と内歯車39Aとの間であって、軸方向について収納凹部51とポール35との間に、隙間G1が存在しない。そのため、上記第1及び第2実施形態と同様、メモリプレート52が、拡径しようとする力により傾いて収納凹部51から外れても、ロック機構30やメモリ機構50の作動に支障を及ぼさないようにすることができる。
【符号の説明】
【0168】
16A,16B…操作軸、30…ロック機構、31…第1部材、32…第2部材、35…ポール(ロック部材)、35A…外歯、39A…内歯車、50…メモリ機構、51…収納凹部、52…メモリプレート、52A,52B…被係合部、52C,81A…内周面、53A,53B…係合部、61…第1操作レバー、62…第2操作レバー、65…リンク部材、69…シートスライド装置、80…切替え制限機構、81…回動規制部、91…被当接部、92…可動ストッパ、93…軸、95…回動伝達制御手段、96…カム孔、97…ピン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜角度調整のための着座領域、及び同着座領域の前側の前倒れ領域を傾動領域とし、操作軸を支点としてシートクッションに対し前記傾動領域内で傾動するシートバックと、
前記シートクッションに対する前記シートバックの傾動を規制するロック状態、及び同傾動を許容するアンロック状態を、第1操作レバー及び第2操作レバーの操作に応じた前記操作軸の回動により切替え得るロック機構と、
少なくとも前記着座領域では、前記シートクッションのスライド移動を規制し、前記第2操作レバーの操作に応じて前記ロック機構が前記アンロック状態へ切替えられ、前記シートバックが前記着座領域から前記前倒れ領域へ前倒しされることに連動して前記規制を解除するシートスライド装置と
を備える車両用シート装置であって、
前記第1操作レバーの操作時には、前記ロック機構による前記ロック状態及び前記アンロック状態の切替えを、前記シートバックが前記着座領域内で傾動するときのみに制限する切替え制限機構をさらに備えることを特徴とする車両用シート装置。
【請求項2】
前記ロック機構は、前記シートクッション及び前記シートバックの一方に取付けられ、かつ前記操作軸の回りに内歯車を有する第1部材、及び他方に取付けられ、かつ前記操作軸を中心として前記第1部材に対し回動し得る第2部材と、前記第2部材に取付けられ、前記内歯車に対向する外歯をそれぞれ有する複数のロック部材とを備え、前記各ロック部材を径方向外側へ押圧して前記外歯を前記内歯車に噛合させることで前記シートバックを前記ロック状態にするとともに、前記操作軸の回動により、前記各ロック部材を径方向内側へ移動させて前記外歯の前記内歯車との噛合を解除することで前記シートバックを前記アンロック状態にするものである請求項1に記載の車両用シート装置。
【請求項3】
前記アンロック状態への切替え直前のロック状態における前記シートバックの角度位置を記憶するとともに、前記アンロック状態の前記シートバックが、記憶した前記角度位置へ傾動したときにのみ前記ロック状態への復帰を許容するメモリ機構をさらに備え、
前記第2操作レバーは、前記メモリ機構を作動させる際に操作されて前記操作軸を回動させるものである請求項2に記載の車両用シート装置。
【請求項4】
前記メモリ機構は、前記第1部材に設けられた円筒状の収納凹部と、一箇所において分断された円環状をなし、縮径された状態で前記収納凹部に収納されるとともに、周方向について互いに異なる箇所に一対の被係合部を有するメモリプレートと、前記複数のロック部材のうち一対のロック部材に設けられ、同ロック部材の径方向への移動に伴い前記被係合部に係脱する係合部とを備え、
前記アンロック状態は、前記係合部が対応する前記被係合部に対し径方向に半係合させられ、この状態で前記被係合部が前記係合部により周方向へ押圧され、前記収納凹部に対し前記メモリプレートが前記ロック部材と一体で回動させられることにより、前記角度位置を記憶せずに前記シートバックの傾動を許容するものと、前記係合部が前記被係合部を乗り越え、前記メモリプレートを前記収納凹部に対し回動不能に係止させた状態で、同メモリプレートの内周面上で摺動させられることにより、前記角度位置を記憶したうえで前記シートバックの傾動を許容するものとからなる請求項3に記載の車両用シート装置。
【請求項5】
前記切替え制限機構は、前記第1部材内に一体回動可能に設けられ、かつ前記係合部が摺動する前記メモリプレートの前記内周面と同一径の内周面を有する回動規制部を備え、
前記第1操作レバーの操作時には、半係合状態の前記係合部の前記回動規制部との当接により、前記メモリプレートを伴う前記ロック部材の回動が規制されて、前記シートバックの前記着座領域から前記前倒れ領域への傾動を阻止され、
前記第2操作レバーの操作時には、前記係合部が前記被係合部及び前記回動規制部を乗り越えて前記メモリプレートの前記内周面上で摺動されることにより、前記シートバックの前記着座領域から前記前倒れ領域への傾動を許容されるものである請求項4に記載の車両用シート装置。
【請求項6】
前記切替え制限機構は、
前記シートバックに設けられ、同シートバックの傾動に伴い変位する被当接部と、
軸により傾動可能に支持され、前記被当接部との当接により前記シートバックの傾動を規制する当接位置、及び前記当接位置から退避した非当接位置の間で傾動する可動ストッパと、
前記操作軸に一体回動可能に連結され、前記第1操作レバー及び前記第2操作レバーの操作に伴う前記操作軸の回動を前記可動ストッパに伝達し得るリンク部材と、
角度位置を記憶せずに前記シートバックの傾動を許容する前記アンロック状態を生じさせるための角度だけ前記操作軸を回動させる前記第1操作レバー及び前記第2操作レバーの操作が行なわれるときには、前記リンク部材の回動が前記可動ストッパへ伝達されるのを遮断し、前記可動ストッパを前記当接位置に位置させて前記シートバックの前方への傾動を規制することにより、前記ロック機構での前記ロック状態及び前記アンロック状態の切替えを、前記シートバックが前記着座領域内で傾動するときのみに制限する一方、前記第2操作レバーについて、角度位置を記憶せずに前記シートバックの傾動を許容する前記アンロック状態を生じさせるときよりも多く前記操作軸を回動させる操作が行なわれるときには、前記リンク部材の回動を前記可動ストッパに伝達し、同可動ストッパを前記非当接位置に後退させて前記シートバックの前方への傾動規制を解除することにより、前記シートバックの前記着座領域から前記前倒れ領域への前倒しを許容する回動伝達制御手段と
を備える請求項4に記載の車両用シート装置。
【請求項7】
前記回動伝達制御手段は、前記可動ストッパ及び前記リンク部材の一方に形成されたカム孔と、他方に設けられて前記カム孔に挿通されたピンとを備える請求項6に記載の車両用シート装置。
【請求項1】
傾斜角度調整のための着座領域、及び同着座領域の前側の前倒れ領域を傾動領域とし、操作軸を支点としてシートクッションに対し前記傾動領域内で傾動するシートバックと、
前記シートクッションに対する前記シートバックの傾動を規制するロック状態、及び同傾動を許容するアンロック状態を、第1操作レバー及び第2操作レバーの操作に応じた前記操作軸の回動により切替え得るロック機構と、
少なくとも前記着座領域では、前記シートクッションのスライド移動を規制し、前記第2操作レバーの操作に応じて前記ロック機構が前記アンロック状態へ切替えられ、前記シートバックが前記着座領域から前記前倒れ領域へ前倒しされることに連動して前記規制を解除するシートスライド装置と
を備える車両用シート装置であって、
前記第1操作レバーの操作時には、前記ロック機構による前記ロック状態及び前記アンロック状態の切替えを、前記シートバックが前記着座領域内で傾動するときのみに制限する切替え制限機構をさらに備えることを特徴とする車両用シート装置。
【請求項2】
前記ロック機構は、前記シートクッション及び前記シートバックの一方に取付けられ、かつ前記操作軸の回りに内歯車を有する第1部材、及び他方に取付けられ、かつ前記操作軸を中心として前記第1部材に対し回動し得る第2部材と、前記第2部材に取付けられ、前記内歯車に対向する外歯をそれぞれ有する複数のロック部材とを備え、前記各ロック部材を径方向外側へ押圧して前記外歯を前記内歯車に噛合させることで前記シートバックを前記ロック状態にするとともに、前記操作軸の回動により、前記各ロック部材を径方向内側へ移動させて前記外歯の前記内歯車との噛合を解除することで前記シートバックを前記アンロック状態にするものである請求項1に記載の車両用シート装置。
【請求項3】
前記アンロック状態への切替え直前のロック状態における前記シートバックの角度位置を記憶するとともに、前記アンロック状態の前記シートバックが、記憶した前記角度位置へ傾動したときにのみ前記ロック状態への復帰を許容するメモリ機構をさらに備え、
前記第2操作レバーは、前記メモリ機構を作動させる際に操作されて前記操作軸を回動させるものである請求項2に記載の車両用シート装置。
【請求項4】
前記メモリ機構は、前記第1部材に設けられた円筒状の収納凹部と、一箇所において分断された円環状をなし、縮径された状態で前記収納凹部に収納されるとともに、周方向について互いに異なる箇所に一対の被係合部を有するメモリプレートと、前記複数のロック部材のうち一対のロック部材に設けられ、同ロック部材の径方向への移動に伴い前記被係合部に係脱する係合部とを備え、
前記アンロック状態は、前記係合部が対応する前記被係合部に対し径方向に半係合させられ、この状態で前記被係合部が前記係合部により周方向へ押圧され、前記収納凹部に対し前記メモリプレートが前記ロック部材と一体で回動させられることにより、前記角度位置を記憶せずに前記シートバックの傾動を許容するものと、前記係合部が前記被係合部を乗り越え、前記メモリプレートを前記収納凹部に対し回動不能に係止させた状態で、同メモリプレートの内周面上で摺動させられることにより、前記角度位置を記憶したうえで前記シートバックの傾動を許容するものとからなる請求項3に記載の車両用シート装置。
【請求項5】
前記切替え制限機構は、前記第1部材内に一体回動可能に設けられ、かつ前記係合部が摺動する前記メモリプレートの前記内周面と同一径の内周面を有する回動規制部を備え、
前記第1操作レバーの操作時には、半係合状態の前記係合部の前記回動規制部との当接により、前記メモリプレートを伴う前記ロック部材の回動が規制されて、前記シートバックの前記着座領域から前記前倒れ領域への傾動を阻止され、
前記第2操作レバーの操作時には、前記係合部が前記被係合部及び前記回動規制部を乗り越えて前記メモリプレートの前記内周面上で摺動されることにより、前記シートバックの前記着座領域から前記前倒れ領域への傾動を許容されるものである請求項4に記載の車両用シート装置。
【請求項6】
前記切替え制限機構は、
前記シートバックに設けられ、同シートバックの傾動に伴い変位する被当接部と、
軸により傾動可能に支持され、前記被当接部との当接により前記シートバックの傾動を規制する当接位置、及び前記当接位置から退避した非当接位置の間で傾動する可動ストッパと、
前記操作軸に一体回動可能に連結され、前記第1操作レバー及び前記第2操作レバーの操作に伴う前記操作軸の回動を前記可動ストッパに伝達し得るリンク部材と、
角度位置を記憶せずに前記シートバックの傾動を許容する前記アンロック状態を生じさせるための角度だけ前記操作軸を回動させる前記第1操作レバー及び前記第2操作レバーの操作が行なわれるときには、前記リンク部材の回動が前記可動ストッパへ伝達されるのを遮断し、前記可動ストッパを前記当接位置に位置させて前記シートバックの前方への傾動を規制することにより、前記ロック機構での前記ロック状態及び前記アンロック状態の切替えを、前記シートバックが前記着座領域内で傾動するときのみに制限する一方、前記第2操作レバーについて、角度位置を記憶せずに前記シートバックの傾動を許容する前記アンロック状態を生じさせるときよりも多く前記操作軸を回動させる操作が行なわれるときには、前記リンク部材の回動を前記可動ストッパに伝達し、同可動ストッパを前記非当接位置に後退させて前記シートバックの前方への傾動規制を解除することにより、前記シートバックの前記着座領域から前記前倒れ領域への前倒しを許容する回動伝達制御手段と
を備える請求項4に記載の車両用シート装置。
【請求項7】
前記回動伝達制御手段は、前記可動ストッパ及び前記リンク部材の一方に形成されたカム孔と、他方に設けられて前記カム孔に挿通されたピンとを備える請求項6に記載の車両用シート装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2012−144224(P2012−144224A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6221(P2011−6221)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
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