車両用ステアリング装置
【課題】コラム側ブラケットを溶接でアウタコラムに固定する際の溶接変形によるコラム側ブラケットのガタを抑制し、製造工程数及び部品点数の増大を抑制して製造コストの低減化を図ることができる車両用ステアリング装置を提供する。
【解決手段】被溶接部34aがアウタコラム12bの上下方向におけるコラム軸P付近であってコラム軸P方向に延在するように、コラム側ブラケット25Aをアウタコラム12bの車幅方向両側に配置する。そして、被溶接部34aの一端に向けてレーザ光照射装置38のレーザ光39を照射し、レーザ光照射装置38を被溶接部34aの他端側に移動させることで、被溶接部34a及びアウタコラム12bの間に隅肉溶接部40を形成する。
【解決手段】被溶接部34aがアウタコラム12bの上下方向におけるコラム軸P付近であってコラム軸P方向に延在するように、コラム側ブラケット25Aをアウタコラム12bの車幅方向両側に配置する。そして、被溶接部34aの一端に向けてレーザ光照射装置38のレーザ光39を照射し、レーザ光照射装置38を被溶接部34aの他端側に移動させることで、被溶接部34a及びアウタコラム12bの間に隅肉溶接部40を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装備されるステアリング装置に係り、特に、ステアリングコラムを手動で傾動又は伸縮させるチルト・テレスコ機構を備えたステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ステアリング装置は、ステアリングホイールを車両後方端に装着したステアリングシャフトと、このステアリングシャフトを回転自在に支持するステアリングコラムとを備えている。
ステアリングコラムを手動で傾動又は伸縮させる位置調整式のステアリング装置として、例えば特許文献1、2の装置が知られている。
【0003】
これら特許文献1、2の装置は、ステアリングコラムを、円筒形状のインナコラムと、このインナコラムに対してコラム軸方向に摺動自在に外嵌している円筒形状のアウタコラムとで構成し、テレスコ調整用溝を形成したコラム側ブラケットをアウタコラムに固定し、チルト調整用溝を形成した車体側ブラケットを、コラム側ブラケットに外側から摺動自在に当接させて車体側部材に固定し、コラム側ブラケットのテレスコ調整用溝及び車体側ブラケットのチルト調整用溝に、締付け手段の締付けボルトを挿通した構成としている。そして、締付けボルトをテレスコ調整用溝及びチルト調整用溝に沿って移動させながら、アウタコラム及びインナコラムをコラム軸方向に相対移動してステアリングホイールのテレスコ位置を調整し、或いは、ステアリングコラムを上下方向に移動させてチルト位置を調整し、締付け手段の締付け力を車体側ブラケットを介してコラム側ブラケットに伝達し、アウタコラムを縮径させてインナコラムに密接させることで、コラム軸方向及び上下方向に相対移動不能としたアウタコラム及びインナコラムを車体側ブラケットに固定する装置である。
【0004】
ところで、特許文献1,2の装置は、コラム側ブラケットをアウタコラムにアーク溶接で固定するので、溶接変形によりガタが生じやすい。
そこで、特許文献1の装置は、車体に固定された車体側ブラケットに対して、アウタコラムに固定されたコラム側ブラケットが高精度に摺動するように、コラム側ブラケットの矯正作業を行なっている。
また、特許文献2の装置は、締付け手段を構成するクランプボルトに一体回転自在なガタ取りカムを備えることで、互いに係合する車体側ブラケット及びコラム側ブラケットのガタを吸収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO 2009013457A1
【特許文献2】特許3783524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の装置は、アウタコラムに固定したコラム側ブラケットの矯正作業が必要となり、製造工程数の増大により製造コストが高騰するおそれがある。
また、特許文献2の装置は、クランプボルトにガタ取りカム等のガタ吸収部材が必要となり、部品点数の増大により製造コストが高騰するおそれがある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、コラム側ブラケットを溶接でアウタコラムに固定する際の溶接変形によるコラム側ブラケットのガタを抑制し、製造工程数及び部品点数の増大を抑制して製造コストの低減化を図ることができる車両用ステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る請求項1記載の車両用ステアリング装置は、ステアリングシャフトを回転自在に支持し、互いに軸方向に摺動自在に嵌合されているインナコラム及びアウタコラムと、左右に一対の対向側壁部を有し、当該一対の対向側壁部にチルト調整用溝を形成して車体側部材に固定されたチルトブラケットと、前記チルトブラケットの前記一対の対向側壁部間に、テレスコ調整用溝を形成した側壁部が摺接して配置され、前記側壁部に一体形成した固定部が前記アウタコラムの車幅方向両側に固定されている一対のコラム側ブラケットと、前記チルト調整用溝及び前記テレスコ調整用溝に通挿された締付けロッドを有する締付け機構と、から成り、前記締付け機構により前記アウタコラムのチルト・テレスコ位置を調整して前記一対のコラム側ブラケットの前記側壁部を前記チルトブラケットの前記対向側壁部に締付けてチルト・テレスコ位置の締付けを行う一方、前記締付け機構による締付けを解除してチルト・テレスコ位置を解除するようにした車両用ステアリング装置において、前記一対のコラム側ブラケットの前記固定部は、上下方向における前記軸付近である前記アウタコラムの車幅方向両側にレーザ溶接により固定されている。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の車両用ステアリング装置において、前記一対のコラム側ブラケットは、前記アウタコラムの外周に当接する連結ブラケットを介して一体に形成されている。
また、請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の車両用ステアリング装置において、前記一対のコラム側ブラケットの前記固定部及び前記アウタコラムの車幅方向両側は、隅肉溶接により固定されている。
さらに、請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載の車両用ステアリング装置において、前記一対のコラム側ブラケットの前記固定部及び前記アウタコラムの車幅方向両側は、重ね合わせ溶接により固定されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両用ステアリング装置によると、一対のコラム側ブラケットの固定部は、アウタコラムの車幅方向両側にレーザ溶接により固定されているので、従来装置のアーク溶接による固定と比較して、溶接変形によるガタが生じにくい。
したがって、本発明の車両用ステアリング装置は、従来装置のように、チルトブラケットに対して高精度に摺動するようにガタを矯正する必要がなく、ガタを吸収するためのガタ取りカム等の部品も不要となるので、製造工程数が増大せず、部品点数の増大も抑制して製造コストの低減化を図ることができる。
【0010】
また、ステアリングシャフトから軸受、インナコラムを介してアウタコラムに入力した外部荷重は、コラム側ブラケットからチルトブラケットに伝達されるが、本発明の一対のコラム側ブラケットの固定部は、上下方向における軸付近でアウタコラムの車幅方向両側に固定されており、インナコラムから入力する外部荷重に対して大きな反力を作用するので、ステアリングシャフトの支持剛性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るステアリング装置を搭載した車両を示す全体構成図である。
【図2】本発明に係る第1実施形態の車両用ステアリング装置を示す斜視図である。
【図3】第1実施形態のステアリングコラムを車幅方向から示した斜視図である。
【図4】図3のA−A線矢視断面図である。
【図5】第1実施形態においてコラム側ブラケットをアウタコラムにレーザ溶接により固定する方法を示す図である。
【図6】本発明に係る第2実施形態のアウタコラムに固定されたコラムブラケットを示す図である。
【図7】本発明に係る第3実施形態のアウタコラムに固定されたコラムブラケットを示す図である。
【図8】本発明に係る第4実施形態のアウタコラムに固定されたコラムブラケットを示す図である。
【図9】本発明に係る第5実施形態のアウタコラムに固定されたコラムブラケットを示す図である。
【図10】本発明に係る第6実施形態のアウタコラムに固定されたコラムブラケットを示す図である。
【図11】本発明に係る第7実施形態のアウタコラムに固定されたコラムブラケットを示す図である。
【図12】本発明に係る第8実施形態のアウタコラムに固定されたコラムブラケットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明によるステアリング装置を組付けた車両を示す全体構成図である。
図1のステアリング装置10は、車両の水平方向に対して車両後方上がりに所定角度だけ傾斜して配置されており、ステアリングホイール13に連結されたステアリングシャフト11を回動自在に支持するステアリングコラム12を有する。ステアリングシャフト11には、その後端にステアリングホイール13が装着され、ステアリングシャフト11の前端にはユニバーサルジョイント14を介して中間シャフト15が連結されている。中間シャフト15にはその前端にユニバーサルジョイント16を介してラックアンドピニオン機構等からなるステアリングギヤ17が連結されている。このステアリングギヤ17の出力軸がタイロッド18を介して操舵輪19に連結されている。
【0013】
そして、運転者がステアリングホイール13を操舵すると、ステアリングシャフト11、ユニバーサルジョイント14、中間シャフト15、ユニバーサルジョイント16を介してその回転力がステアリングギヤ17に伝達され、ラックアンドピニオン機構で回転運動が車両幅方向の直線運動に変換されてタイロッド18を介して操舵輪19を操舵する。
ステアリング装置10は、図2に示すように、コラム型の電動パワーステアリング装置である。このステアリング装置10は、ステアリングコラム12の車両前方端部に減速ギヤボックス20が一体に形成されており、この減速ギヤボックス20にモータフランジ21及び制御コントローラ(不図示)が設けられている。モータフランジ21には、図示していないが電動モータ(不図示)が装着され、この電動モータと制御コントローラとが電気的に接続される。
【0014】
減速ギヤボックス20は、ステアリングシャフト11の後述する入力軸11aに同軸に固定したウォームホイール(不図示)と、ウォームホイールに噛合するウォーム(不図示)とを収納している。
制御コントローラは、パワー基板、制御基板(不図示)を備えている。パワー基板は、電動モータを駆動制御するFET(電界効果トランジスタ)等のパワースイッチング素子で構成されるHブリッジ回路やこのHブリッジ回路のパワースイッチング素子を駆動するパルス幅変調回路等のディスクリート部品が実装されている。また、制御基板は、車両に搭載した各種センサからの検出値に基づいて操舵補助電流指令値を算出し、この操舵補助電流指令値と電動モータに出力するモータ電流の検出値とに基づいて電流フィードバック制御を行ってパワー基板のパルス幅変調回路への電圧指令値を算出することにより、電動モータで発生させる操舵補助力を制御するマイクロコントロールユニット(MCU)やその周辺機器等のディスクリート部品が実装されている。
【0015】
ステアリングシャフト11は、車両後端にステアリングホイール13を連結する入力軸11aと、この入力軸11aの車両前端にトーションバー(不図示)を介して連結されている出力軸(不図示)とで構成されている。
ステアリングコラム12は、図2に示すように、ステアリングシャフト11を軸受(図示せず)を介して回動自在に保持する車両前方に配置したインナコラム12aと、インナコラム12aが摺動自在に内嵌するように車両後方に配置したアウタコラム12bとの2重管構造である。
【0016】
そして、インナコラム12aの車両前方端部に一体化した減速ギヤボックス20が枢軸(不図示)を介して車体側部材(不図示)に支持されているとともに、アウタコラム12bが位置調整機構23を介して車体側部材に支持されている。
位置調整機構23は、図2に示すように、車体側部材に固定され、車幅方向に離間して車両下方に延在する一対の対向側壁部24a,24aを備えたチルトブラケット24と、アウタコラム12bの車両後方側の車幅方向両側に固定され、一対の対向側壁部24a,24aに内側から摺接する一対のコラム側ブラケット25A,25Bと(図3参照)、チルトブラケット24及びコラム側ブラケット25A,25Bに係合している締付け機構26とを備えている。
【0017】
図4に示すように、インナコラム12aは横断面円形状の筒状金属部材である。また、アウタコラム12bは、インナコラム12aの外径より内径が僅かに大きな円筒形状の金属部材であり、アウタコラム12bの内周面にインナコラム12aの外周面が摺動自在に接触することで支持されている。
アウタコラム12bには、図3に示すように、車両前方側に周方向に連続する周方向スリット30が形成されているとともに、図4に示すように、周方向スリット30と連続して車両後方の軸方向(コラム軸P方向)に延在する軸方向スリット31が形成されている。
【0018】
一方のコラム側ブラケット25Aは、図3に示すように、テレスコ調整用長穴32が形成されている平板形状の側壁部33と、側壁部33の上部から同一平面状に延在する平板形状の第1固定部34と、側壁部33の両側から直交する方向に折曲されている平板形状の一対の第2固定部35,36とを備えている。
第1固定部34の上部には、直線状に延在する縁部である被溶接部34aが形成されているとともに、第2固定部35,36の先端にも、アウタコラム12bの外周に線接触する被溶接部(不図示)が形成されている。
【0019】
そして、図5に示すように、被溶接部34aがアウタコラム12bのコラム軸P方向に延在するように、コラム側ブラケット25Aをアウタコラム12bの車幅方向の一方に配置する。そして、被溶接部34aの一端に向けてレーザ光照射装置38のレーザ光39を照射し、レーザ光照射装置38を被溶接部34aの他端側に移動させることで、第1固定部34及びアウタコラム12bの両者に隅肉溶接部40を形成する。
【0020】
また、詳細には図示しないが、第2固定部35,36の先端とアウタコラム12bの外周との線接触部の一端に向けてレーザ光照射装置38のレーザ光39を照射し、線接触部の他端側に移動させることで、第2固定部35,36の先端とアウタコラム12bの外周の両者にも隅肉溶接部41を形成する。
このように、一方のコラム側ブラケット25Aは、レーザ溶接により隅肉溶接部40,41を設けてアウタコラム12bの車幅方向の一方側に固定されているが、他方のコラム側ブラケット25Bも、同様の方法のレーザ溶接により隅肉溶接部40,41を設けてアウタコラム12bの車幅方向の他方側に固定されている。
【0021】
締付け機構26は、チルトブラケット24の一対の対向側壁部24a,24aに設けたチルト調整用長穴24a1及びコラム側ブラケット25A,25Bの側壁部33に設けたテレスコ調整用長穴32に挿通している締付けロッド26aと、締付けロッド26aのねじ側に外嵌されている固定カム(不図示)と、可動カム26bと、調整ナット26cと、可動カム26bに固定された操作レバー26dとを備えている。なお、操作レバー26dにより操作される可動カム26bと固定カムによってカムロック機構が構成されている。
【0022】
次に、本実施形態のステアリング装置10の動作について説明する。
チルト・テレスコ調整を行なう前には、チルトブラケット24の一対の対向側壁部24a,24aが互いに離間する方向に締付け機構26の操作レバー26dを回動させる。これにより、一対の対向側壁部24a,24aに当接しているコラム側ブラケット25A,25Bの側壁部33も互いに離間する方向に移動し、インナコラム12aの締付け状態が解除される。
【0023】
そして、チルト調整を行うには、締付けロッド26aをチルトブラケット24の一対の対向側壁部24a,24aに形成したチルト調整用長穴24a1の長軸方向にスライドさせながら、ステアリングコラム12全体を、減速ギヤボックス20の枢軸を回転中心として傾動させていく。
また、テレスコ調整を行うには、締付けロッド26aをコラム側ブラケット25A、25Bの側壁部33に形成したテレスコ調整用長穴32にスライドさせながら、アウタコラム12bをコラム軸P方向に移動させていき、ステアリングホイール13を車両前後方向の所定位置まで移動する。
【0024】
そして、チルト調整又はテレスコ調整が完了した後には、チルトブラケット24の一対の対向側壁部24a,24aが互いに近接する方向に締付け機構26の操作レバー26dを回動させる。これにより、一対の対向側壁部24a,24aに当接しているコラム側ブラケット25A,25Bの側壁部33も互いに近接する方向に移動し、側壁部33に直交した第2固定部35,36が、アウタコラム12bの外周を押し付けていく。このため、縮径するように弾性変形したアウタコラム12bがインナコラム12aの外周に密接するので、ステアリングコラム12は、チルト調整及びテレスコ調整が不可能とされて、コラム側ブラケット25A,25B及びチルトブラケット24を介して車体側部材に固定される。
【0025】
次に、本実施形態のステアリング装置10の作用効果について説明する。
本実施形態のコラム側ブラケット25A,25Bは、レーザ溶接によりアウタコラム12bに固定されているので、従来のアーク溶接による固定方法と比較して、溶接変形によるガタが生じにくい。
したがって、従来の装置のように、チルトブラケット24に対して高精度に摺動するようにガタを矯正する必要がなく、ガタを吸収するためのガタ取りカム等の部品も不要となるので、製造工程数が増大せず、部品点数の増大も抑制して製造コストの低減化を図ることができる。
【0026】
また、本実施形態は、レーザ溶接により隅肉溶接部40,41を設けてコラム側ブラケット25A,25Bがアウタコラム12bの車幅方向両側に固定されており、車幅方向外方への溶接ビードの出っ張り等が解消されるので、他の部品との干渉を防止することができる。
また、ステアリングシャフト11から軸受、インナコラム12aを介してアウタコラム12bに入力する外部荷重は、コラム側ブラケット25A,25Bからチルトブラケット24に伝達されるが、コラム側ブラケット25A,25Bの隅肉溶接部40,41は、上下方向におけるコラム軸P付近でアウタコラム12bの車幅方向両側に固定されており、インナコラム12aから入力する外部荷重に対して大きな反力を作用することができるので、ステアリングシャフト11の支持剛性を高めることができる。
【0027】
一方、図6から図10は、図3から図5で示した第1実施形態に類似した構成を示すものである。すなわち、図6から図10に示す実施形態は、アウタコラム12bの車幅方向両側に、レーザ溶接により隅肉溶接部を設けてコラム側ブラケットを固定した構成である。
図6のコラム側ブラケット42A,42Bは、テレスコ調整用長穴32が形成されている平板形状の側壁部33と、側壁部33の上部から同一平面状に延在する平板形状の第1固定部34と、側壁部33の下部からV字形状に折曲され、締付けロッド26aが通過する通過長孔43bを形成した第2固定部43とを備えている。
【0028】
本実施形態のレーザ溶接による溶接部は、第1固定部34の最上部に離間して形成された位置とアウタコラム12bの外周位置に設けた一対の隅肉溶接部44と、第2固定部43の先端部に離間して形成された位置とアウタコラム12bの外周位置に設けた一対の隅肉溶接部45である。
本実施形態も、図3から図5で示した第1実施形態と同様に、アーク溶接で形成した従来装置と比較して、溶接変形によるガタが生じにくく、製造コストの低減化を図ることができるとともに、レーザ溶接により隅肉溶接部44,45を設けてコラム側ブラケット42A,42Bがアウタコラム12bの車幅方向両側に固定されており、車幅方向外方への溶接ビードの出っ張り等が解消されるので、他の部品との干渉を防止することができる。
【0029】
また、図7は、図6の実施形態において、第2固定部43から側壁部33まで補強板部46が延在し、補強板部46及び側壁部33がレーザ溶接による隅肉溶接部47により固定されている。
本実施形態は、図6の実施形態の効果に加えて、コラム側ブラケット42A,42Bの剛性を高めることができる。
【0030】
また、図8のコラム側ブラケット48A,48Bは、テレスコ調整用長穴32が形成されている平板形状の側壁部33と、側壁部33の上部から同一平面状に延在する平板形状の第1固定部34と、側壁部33の両側から直交して延在し、図3で示した実施形態と比較して面積が大きい第2固定部49,50とを備えている。
また、本実施形態のレーザ溶接による溶接部は、第1固定部34の最上部に離間して形成された位置とアウタコラム12bの外周位置に設けた一対の隅肉溶接部51と、第2固定部49,50の先端部に離間して形成された位置とアウタコラム12bの外周位置に設けた一対の隅肉溶接部52である。
【0031】
本実施形態も、アーク溶接で形成した従来装置と比較して、溶接変形によるガタが生じにくく、製造コストの低減化を図ることができるとともに、レーザ溶接により隅肉溶接部51,52を設けてコラム側ブラケット48A,48Bがアウタコラム12bの車幅方向両側に固定されており、車幅方向外方への溶接ビードの出っ張り等が解消されるので、他の部品との緩衝を防止することができる。
【0032】
また、図9は、図8の実施形態において、側壁部33の下部から第2固定部49,50の下部に向けて補強板部53が延在し、補強板部53及び第2固定部49,50がレーザ溶接による隅肉溶接部54により固定されている。
本実施形態は、図8の実施形態の効果に加えて、コラム側ブラケット48A,48Bの剛性を高めることができる。
【0033】
また、図10のコラム側ブラケット55A,55Bは、側壁部33及び一対の第2固定部35,36の下部に底壁部56が一体形成されている。
また、本実施形態のレーザ溶接による溶接部は、第1固定部34の最上部に離間して形成された位置とアウタコラム12bの外周位置に設けた一対の隅肉溶接部57と、第2固定部35,36の先端部に離間して形成された位置とアウタコラム12bの外周位置に設けた一対の隅肉溶接部58である。
本実施形態は、図3から図5で示した実施形態の効果に加えて、コラム側ブラケット55A,55Bの剛性を高めることができる。
【0034】
一方、図11に示すものは、図3から図10で示したアウタコラム12bの車幅方向両側にレーザ溶接により隅肉溶接部を設けてコラム側ブラケットを固定した構成とは異なる実施形態である。
本実施形態のコラム側ブラケット60A,60Bは、側壁部33及び一対の第2固定部61,62の下部に底壁部63が一体形成されており、第1固定部34の最上部とアウタコラム12bの外周との間にレーザ溶接による隅肉溶接部64が形成され、第2固定部61,62の先端部とアウタコラム12bの外周位置との間に隅肉溶接部65が形成されている。
【0035】
そして、本実施形態のコラム側ブラケット60A,60Bは、一方のコラム側ブラケット60Aの第1固定部34と、他方のコラム側ブラケット60Aの第1固定部34とが、アウタコラム12bの外周に当接する円弧形状の連結ブラケット66を介して一体化されている。
本実施形態は、図3から図10で示した実施形態と同様の効果を得ることができるとともに、アウタコラム12bに固定される前のコラム側ブラケット60A,60Bが連結ブラケット66を介して一体化されていることから、部品点数を減少させることができ、製造コストの低減化を図ることができる。
【0036】
さらに、図12に示すものは、本発明に係る他の実施形態を示すものである。
本実施形態のコラム側ブラケット70A,70Bは、側壁部33及び一対の第2固定部71,72の下部に底壁部73が一体形成されている。
そして、一方のコラム側ブラケット70Aの第1固定部34の縁部は、アウタコラム12bの外周面との間に、レーザ溶接による重ね合わせ溶接部84を設け、一対の第2固定部71,72の縁部にもアウタコラム12bの外周面との間にレーザ溶接による重ね合わせ溶接部85を設けることで、コラム側ブラケット70Aがアウタコラム12bに固定されている。また、他方のコラム側ブラケット70Bも、同様の構造でアウタコラム12bに固定されている。
【0037】
本実施形態によると、コラム側ブラケット70A,70Bは、レーザ溶接によりアウタコラム12bに固定されているので、従来のアーク溶接による固定方法と比較して、溶接変形によるガタが生じにくく、従来の装置のように、チルトブラケット24に対して高精度に摺動するようにガタを矯正する必要がなく、ガタを吸収するためのガタ取りカム等の部品も不要となるので、製造工程数が増大せず、部品点数の増大も抑制して製造コストの低減化を図ることができる。
また、レーザ溶接による重ね合わせ溶接部は二つの部材の溶接固定を確実に行なうことができるので、形状精度が悪いコラム側ブラケット70A,70Bであっても、アウタコラム12bに確実に固定することができる。
【符号の説明】
【0038】
10…ステアリング装置、11…ステアリングシャフト、11a…入力軸、12…ステアリングコラム、12a…インナコラム、12b…アウタコラム、13…ステアリングホイール、14…ユニバーサルジョイント、15…中間シャフト、16…ユニバーサルジョイント、17…ステアリングギヤ、18…タイロッド、19…操舵輪、20…減速ギヤボックス、21…モータフランジ、23…位置調整機構、24…チルトブラケット、24a…対向側壁部、25A,25B…コラム側ブラケット、26…締付け機構、26a…締付けロッド、30…周方向スリット、31…軸方向スリット、32…テレスコ調整用長穴、33…側壁部、34…第1固定部、34a…被溶接部、35,36…第2固定部、38…レーザ光照射装置、39…レーザ光、40,41…隅肉溶接部、42A,42B…コラム側ブラケット、43b…通過長孔、43…第2固定部、44,45…隅肉溶接部、46…補強板部、47…隅肉溶接部、48A,48B…コラム側ブラケット、49,50…第2固定部、51,52…隅肉溶接部、53…補強板部、54…隅肉溶接部、55A,55B…コラム側ブラケット、56…底壁部、57,58…隅肉溶接部、60A,60B…コラム側ブラケット、61,62…第2固定部、63…底壁部、64,65…隅肉溶接部、66…連結ブラケット、70A,70B…コラム側ブラケット、71,72…第2固定部、73…底壁部、84,85…重ね合わせ溶接部
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装備されるステアリング装置に係り、特に、ステアリングコラムを手動で傾動又は伸縮させるチルト・テレスコ機構を備えたステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ステアリング装置は、ステアリングホイールを車両後方端に装着したステアリングシャフトと、このステアリングシャフトを回転自在に支持するステアリングコラムとを備えている。
ステアリングコラムを手動で傾動又は伸縮させる位置調整式のステアリング装置として、例えば特許文献1、2の装置が知られている。
【0003】
これら特許文献1、2の装置は、ステアリングコラムを、円筒形状のインナコラムと、このインナコラムに対してコラム軸方向に摺動自在に外嵌している円筒形状のアウタコラムとで構成し、テレスコ調整用溝を形成したコラム側ブラケットをアウタコラムに固定し、チルト調整用溝を形成した車体側ブラケットを、コラム側ブラケットに外側から摺動自在に当接させて車体側部材に固定し、コラム側ブラケットのテレスコ調整用溝及び車体側ブラケットのチルト調整用溝に、締付け手段の締付けボルトを挿通した構成としている。そして、締付けボルトをテレスコ調整用溝及びチルト調整用溝に沿って移動させながら、アウタコラム及びインナコラムをコラム軸方向に相対移動してステアリングホイールのテレスコ位置を調整し、或いは、ステアリングコラムを上下方向に移動させてチルト位置を調整し、締付け手段の締付け力を車体側ブラケットを介してコラム側ブラケットに伝達し、アウタコラムを縮径させてインナコラムに密接させることで、コラム軸方向及び上下方向に相対移動不能としたアウタコラム及びインナコラムを車体側ブラケットに固定する装置である。
【0004】
ところで、特許文献1,2の装置は、コラム側ブラケットをアウタコラムにアーク溶接で固定するので、溶接変形によりガタが生じやすい。
そこで、特許文献1の装置は、車体に固定された車体側ブラケットに対して、アウタコラムに固定されたコラム側ブラケットが高精度に摺動するように、コラム側ブラケットの矯正作業を行なっている。
また、特許文献2の装置は、締付け手段を構成するクランプボルトに一体回転自在なガタ取りカムを備えることで、互いに係合する車体側ブラケット及びコラム側ブラケットのガタを吸収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO 2009013457A1
【特許文献2】特許3783524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の装置は、アウタコラムに固定したコラム側ブラケットの矯正作業が必要となり、製造工程数の増大により製造コストが高騰するおそれがある。
また、特許文献2の装置は、クランプボルトにガタ取りカム等のガタ吸収部材が必要となり、部品点数の増大により製造コストが高騰するおそれがある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、コラム側ブラケットを溶接でアウタコラムに固定する際の溶接変形によるコラム側ブラケットのガタを抑制し、製造工程数及び部品点数の増大を抑制して製造コストの低減化を図ることができる車両用ステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る請求項1記載の車両用ステアリング装置は、ステアリングシャフトを回転自在に支持し、互いに軸方向に摺動自在に嵌合されているインナコラム及びアウタコラムと、左右に一対の対向側壁部を有し、当該一対の対向側壁部にチルト調整用溝を形成して車体側部材に固定されたチルトブラケットと、前記チルトブラケットの前記一対の対向側壁部間に、テレスコ調整用溝を形成した側壁部が摺接して配置され、前記側壁部に一体形成した固定部が前記アウタコラムの車幅方向両側に固定されている一対のコラム側ブラケットと、前記チルト調整用溝及び前記テレスコ調整用溝に通挿された締付けロッドを有する締付け機構と、から成り、前記締付け機構により前記アウタコラムのチルト・テレスコ位置を調整して前記一対のコラム側ブラケットの前記側壁部を前記チルトブラケットの前記対向側壁部に締付けてチルト・テレスコ位置の締付けを行う一方、前記締付け機構による締付けを解除してチルト・テレスコ位置を解除するようにした車両用ステアリング装置において、前記一対のコラム側ブラケットの前記固定部は、上下方向における前記軸付近である前記アウタコラムの車幅方向両側にレーザ溶接により固定されている。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の車両用ステアリング装置において、前記一対のコラム側ブラケットは、前記アウタコラムの外周に当接する連結ブラケットを介して一体に形成されている。
また、請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の車両用ステアリング装置において、前記一対のコラム側ブラケットの前記固定部及び前記アウタコラムの車幅方向両側は、隅肉溶接により固定されている。
さらに、請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載の車両用ステアリング装置において、前記一対のコラム側ブラケットの前記固定部及び前記アウタコラムの車幅方向両側は、重ね合わせ溶接により固定されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両用ステアリング装置によると、一対のコラム側ブラケットの固定部は、アウタコラムの車幅方向両側にレーザ溶接により固定されているので、従来装置のアーク溶接による固定と比較して、溶接変形によるガタが生じにくい。
したがって、本発明の車両用ステアリング装置は、従来装置のように、チルトブラケットに対して高精度に摺動するようにガタを矯正する必要がなく、ガタを吸収するためのガタ取りカム等の部品も不要となるので、製造工程数が増大せず、部品点数の増大も抑制して製造コストの低減化を図ることができる。
【0010】
また、ステアリングシャフトから軸受、インナコラムを介してアウタコラムに入力した外部荷重は、コラム側ブラケットからチルトブラケットに伝達されるが、本発明の一対のコラム側ブラケットの固定部は、上下方向における軸付近でアウタコラムの車幅方向両側に固定されており、インナコラムから入力する外部荷重に対して大きな反力を作用するので、ステアリングシャフトの支持剛性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るステアリング装置を搭載した車両を示す全体構成図である。
【図2】本発明に係る第1実施形態の車両用ステアリング装置を示す斜視図である。
【図3】第1実施形態のステアリングコラムを車幅方向から示した斜視図である。
【図4】図3のA−A線矢視断面図である。
【図5】第1実施形態においてコラム側ブラケットをアウタコラムにレーザ溶接により固定する方法を示す図である。
【図6】本発明に係る第2実施形態のアウタコラムに固定されたコラムブラケットを示す図である。
【図7】本発明に係る第3実施形態のアウタコラムに固定されたコラムブラケットを示す図である。
【図8】本発明に係る第4実施形態のアウタコラムに固定されたコラムブラケットを示す図である。
【図9】本発明に係る第5実施形態のアウタコラムに固定されたコラムブラケットを示す図である。
【図10】本発明に係る第6実施形態のアウタコラムに固定されたコラムブラケットを示す図である。
【図11】本発明に係る第7実施形態のアウタコラムに固定されたコラムブラケットを示す図である。
【図12】本発明に係る第8実施形態のアウタコラムに固定されたコラムブラケットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明によるステアリング装置を組付けた車両を示す全体構成図である。
図1のステアリング装置10は、車両の水平方向に対して車両後方上がりに所定角度だけ傾斜して配置されており、ステアリングホイール13に連結されたステアリングシャフト11を回動自在に支持するステアリングコラム12を有する。ステアリングシャフト11には、その後端にステアリングホイール13が装着され、ステアリングシャフト11の前端にはユニバーサルジョイント14を介して中間シャフト15が連結されている。中間シャフト15にはその前端にユニバーサルジョイント16を介してラックアンドピニオン機構等からなるステアリングギヤ17が連結されている。このステアリングギヤ17の出力軸がタイロッド18を介して操舵輪19に連結されている。
【0013】
そして、運転者がステアリングホイール13を操舵すると、ステアリングシャフト11、ユニバーサルジョイント14、中間シャフト15、ユニバーサルジョイント16を介してその回転力がステアリングギヤ17に伝達され、ラックアンドピニオン機構で回転運動が車両幅方向の直線運動に変換されてタイロッド18を介して操舵輪19を操舵する。
ステアリング装置10は、図2に示すように、コラム型の電動パワーステアリング装置である。このステアリング装置10は、ステアリングコラム12の車両前方端部に減速ギヤボックス20が一体に形成されており、この減速ギヤボックス20にモータフランジ21及び制御コントローラ(不図示)が設けられている。モータフランジ21には、図示していないが電動モータ(不図示)が装着され、この電動モータと制御コントローラとが電気的に接続される。
【0014】
減速ギヤボックス20は、ステアリングシャフト11の後述する入力軸11aに同軸に固定したウォームホイール(不図示)と、ウォームホイールに噛合するウォーム(不図示)とを収納している。
制御コントローラは、パワー基板、制御基板(不図示)を備えている。パワー基板は、電動モータを駆動制御するFET(電界効果トランジスタ)等のパワースイッチング素子で構成されるHブリッジ回路やこのHブリッジ回路のパワースイッチング素子を駆動するパルス幅変調回路等のディスクリート部品が実装されている。また、制御基板は、車両に搭載した各種センサからの検出値に基づいて操舵補助電流指令値を算出し、この操舵補助電流指令値と電動モータに出力するモータ電流の検出値とに基づいて電流フィードバック制御を行ってパワー基板のパルス幅変調回路への電圧指令値を算出することにより、電動モータで発生させる操舵補助力を制御するマイクロコントロールユニット(MCU)やその周辺機器等のディスクリート部品が実装されている。
【0015】
ステアリングシャフト11は、車両後端にステアリングホイール13を連結する入力軸11aと、この入力軸11aの車両前端にトーションバー(不図示)を介して連結されている出力軸(不図示)とで構成されている。
ステアリングコラム12は、図2に示すように、ステアリングシャフト11を軸受(図示せず)を介して回動自在に保持する車両前方に配置したインナコラム12aと、インナコラム12aが摺動自在に内嵌するように車両後方に配置したアウタコラム12bとの2重管構造である。
【0016】
そして、インナコラム12aの車両前方端部に一体化した減速ギヤボックス20が枢軸(不図示)を介して車体側部材(不図示)に支持されているとともに、アウタコラム12bが位置調整機構23を介して車体側部材に支持されている。
位置調整機構23は、図2に示すように、車体側部材に固定され、車幅方向に離間して車両下方に延在する一対の対向側壁部24a,24aを備えたチルトブラケット24と、アウタコラム12bの車両後方側の車幅方向両側に固定され、一対の対向側壁部24a,24aに内側から摺接する一対のコラム側ブラケット25A,25Bと(図3参照)、チルトブラケット24及びコラム側ブラケット25A,25Bに係合している締付け機構26とを備えている。
【0017】
図4に示すように、インナコラム12aは横断面円形状の筒状金属部材である。また、アウタコラム12bは、インナコラム12aの外径より内径が僅かに大きな円筒形状の金属部材であり、アウタコラム12bの内周面にインナコラム12aの外周面が摺動自在に接触することで支持されている。
アウタコラム12bには、図3に示すように、車両前方側に周方向に連続する周方向スリット30が形成されているとともに、図4に示すように、周方向スリット30と連続して車両後方の軸方向(コラム軸P方向)に延在する軸方向スリット31が形成されている。
【0018】
一方のコラム側ブラケット25Aは、図3に示すように、テレスコ調整用長穴32が形成されている平板形状の側壁部33と、側壁部33の上部から同一平面状に延在する平板形状の第1固定部34と、側壁部33の両側から直交する方向に折曲されている平板形状の一対の第2固定部35,36とを備えている。
第1固定部34の上部には、直線状に延在する縁部である被溶接部34aが形成されているとともに、第2固定部35,36の先端にも、アウタコラム12bの外周に線接触する被溶接部(不図示)が形成されている。
【0019】
そして、図5に示すように、被溶接部34aがアウタコラム12bのコラム軸P方向に延在するように、コラム側ブラケット25Aをアウタコラム12bの車幅方向の一方に配置する。そして、被溶接部34aの一端に向けてレーザ光照射装置38のレーザ光39を照射し、レーザ光照射装置38を被溶接部34aの他端側に移動させることで、第1固定部34及びアウタコラム12bの両者に隅肉溶接部40を形成する。
【0020】
また、詳細には図示しないが、第2固定部35,36の先端とアウタコラム12bの外周との線接触部の一端に向けてレーザ光照射装置38のレーザ光39を照射し、線接触部の他端側に移動させることで、第2固定部35,36の先端とアウタコラム12bの外周の両者にも隅肉溶接部41を形成する。
このように、一方のコラム側ブラケット25Aは、レーザ溶接により隅肉溶接部40,41を設けてアウタコラム12bの車幅方向の一方側に固定されているが、他方のコラム側ブラケット25Bも、同様の方法のレーザ溶接により隅肉溶接部40,41を設けてアウタコラム12bの車幅方向の他方側に固定されている。
【0021】
締付け機構26は、チルトブラケット24の一対の対向側壁部24a,24aに設けたチルト調整用長穴24a1及びコラム側ブラケット25A,25Bの側壁部33に設けたテレスコ調整用長穴32に挿通している締付けロッド26aと、締付けロッド26aのねじ側に外嵌されている固定カム(不図示)と、可動カム26bと、調整ナット26cと、可動カム26bに固定された操作レバー26dとを備えている。なお、操作レバー26dにより操作される可動カム26bと固定カムによってカムロック機構が構成されている。
【0022】
次に、本実施形態のステアリング装置10の動作について説明する。
チルト・テレスコ調整を行なう前には、チルトブラケット24の一対の対向側壁部24a,24aが互いに離間する方向に締付け機構26の操作レバー26dを回動させる。これにより、一対の対向側壁部24a,24aに当接しているコラム側ブラケット25A,25Bの側壁部33も互いに離間する方向に移動し、インナコラム12aの締付け状態が解除される。
【0023】
そして、チルト調整を行うには、締付けロッド26aをチルトブラケット24の一対の対向側壁部24a,24aに形成したチルト調整用長穴24a1の長軸方向にスライドさせながら、ステアリングコラム12全体を、減速ギヤボックス20の枢軸を回転中心として傾動させていく。
また、テレスコ調整を行うには、締付けロッド26aをコラム側ブラケット25A、25Bの側壁部33に形成したテレスコ調整用長穴32にスライドさせながら、アウタコラム12bをコラム軸P方向に移動させていき、ステアリングホイール13を車両前後方向の所定位置まで移動する。
【0024】
そして、チルト調整又はテレスコ調整が完了した後には、チルトブラケット24の一対の対向側壁部24a,24aが互いに近接する方向に締付け機構26の操作レバー26dを回動させる。これにより、一対の対向側壁部24a,24aに当接しているコラム側ブラケット25A,25Bの側壁部33も互いに近接する方向に移動し、側壁部33に直交した第2固定部35,36が、アウタコラム12bの外周を押し付けていく。このため、縮径するように弾性変形したアウタコラム12bがインナコラム12aの外周に密接するので、ステアリングコラム12は、チルト調整及びテレスコ調整が不可能とされて、コラム側ブラケット25A,25B及びチルトブラケット24を介して車体側部材に固定される。
【0025】
次に、本実施形態のステアリング装置10の作用効果について説明する。
本実施形態のコラム側ブラケット25A,25Bは、レーザ溶接によりアウタコラム12bに固定されているので、従来のアーク溶接による固定方法と比較して、溶接変形によるガタが生じにくい。
したがって、従来の装置のように、チルトブラケット24に対して高精度に摺動するようにガタを矯正する必要がなく、ガタを吸収するためのガタ取りカム等の部品も不要となるので、製造工程数が増大せず、部品点数の増大も抑制して製造コストの低減化を図ることができる。
【0026】
また、本実施形態は、レーザ溶接により隅肉溶接部40,41を設けてコラム側ブラケット25A,25Bがアウタコラム12bの車幅方向両側に固定されており、車幅方向外方への溶接ビードの出っ張り等が解消されるので、他の部品との干渉を防止することができる。
また、ステアリングシャフト11から軸受、インナコラム12aを介してアウタコラム12bに入力する外部荷重は、コラム側ブラケット25A,25Bからチルトブラケット24に伝達されるが、コラム側ブラケット25A,25Bの隅肉溶接部40,41は、上下方向におけるコラム軸P付近でアウタコラム12bの車幅方向両側に固定されており、インナコラム12aから入力する外部荷重に対して大きな反力を作用することができるので、ステアリングシャフト11の支持剛性を高めることができる。
【0027】
一方、図6から図10は、図3から図5で示した第1実施形態に類似した構成を示すものである。すなわち、図6から図10に示す実施形態は、アウタコラム12bの車幅方向両側に、レーザ溶接により隅肉溶接部を設けてコラム側ブラケットを固定した構成である。
図6のコラム側ブラケット42A,42Bは、テレスコ調整用長穴32が形成されている平板形状の側壁部33と、側壁部33の上部から同一平面状に延在する平板形状の第1固定部34と、側壁部33の下部からV字形状に折曲され、締付けロッド26aが通過する通過長孔43bを形成した第2固定部43とを備えている。
【0028】
本実施形態のレーザ溶接による溶接部は、第1固定部34の最上部に離間して形成された位置とアウタコラム12bの外周位置に設けた一対の隅肉溶接部44と、第2固定部43の先端部に離間して形成された位置とアウタコラム12bの外周位置に設けた一対の隅肉溶接部45である。
本実施形態も、図3から図5で示した第1実施形態と同様に、アーク溶接で形成した従来装置と比較して、溶接変形によるガタが生じにくく、製造コストの低減化を図ることができるとともに、レーザ溶接により隅肉溶接部44,45を設けてコラム側ブラケット42A,42Bがアウタコラム12bの車幅方向両側に固定されており、車幅方向外方への溶接ビードの出っ張り等が解消されるので、他の部品との干渉を防止することができる。
【0029】
また、図7は、図6の実施形態において、第2固定部43から側壁部33まで補強板部46が延在し、補強板部46及び側壁部33がレーザ溶接による隅肉溶接部47により固定されている。
本実施形態は、図6の実施形態の効果に加えて、コラム側ブラケット42A,42Bの剛性を高めることができる。
【0030】
また、図8のコラム側ブラケット48A,48Bは、テレスコ調整用長穴32が形成されている平板形状の側壁部33と、側壁部33の上部から同一平面状に延在する平板形状の第1固定部34と、側壁部33の両側から直交して延在し、図3で示した実施形態と比較して面積が大きい第2固定部49,50とを備えている。
また、本実施形態のレーザ溶接による溶接部は、第1固定部34の最上部に離間して形成された位置とアウタコラム12bの外周位置に設けた一対の隅肉溶接部51と、第2固定部49,50の先端部に離間して形成された位置とアウタコラム12bの外周位置に設けた一対の隅肉溶接部52である。
【0031】
本実施形態も、アーク溶接で形成した従来装置と比較して、溶接変形によるガタが生じにくく、製造コストの低減化を図ることができるとともに、レーザ溶接により隅肉溶接部51,52を設けてコラム側ブラケット48A,48Bがアウタコラム12bの車幅方向両側に固定されており、車幅方向外方への溶接ビードの出っ張り等が解消されるので、他の部品との緩衝を防止することができる。
【0032】
また、図9は、図8の実施形態において、側壁部33の下部から第2固定部49,50の下部に向けて補強板部53が延在し、補強板部53及び第2固定部49,50がレーザ溶接による隅肉溶接部54により固定されている。
本実施形態は、図8の実施形態の効果に加えて、コラム側ブラケット48A,48Bの剛性を高めることができる。
【0033】
また、図10のコラム側ブラケット55A,55Bは、側壁部33及び一対の第2固定部35,36の下部に底壁部56が一体形成されている。
また、本実施形態のレーザ溶接による溶接部は、第1固定部34の最上部に離間して形成された位置とアウタコラム12bの外周位置に設けた一対の隅肉溶接部57と、第2固定部35,36の先端部に離間して形成された位置とアウタコラム12bの外周位置に設けた一対の隅肉溶接部58である。
本実施形態は、図3から図5で示した実施形態の効果に加えて、コラム側ブラケット55A,55Bの剛性を高めることができる。
【0034】
一方、図11に示すものは、図3から図10で示したアウタコラム12bの車幅方向両側にレーザ溶接により隅肉溶接部を設けてコラム側ブラケットを固定した構成とは異なる実施形態である。
本実施形態のコラム側ブラケット60A,60Bは、側壁部33及び一対の第2固定部61,62の下部に底壁部63が一体形成されており、第1固定部34の最上部とアウタコラム12bの外周との間にレーザ溶接による隅肉溶接部64が形成され、第2固定部61,62の先端部とアウタコラム12bの外周位置との間に隅肉溶接部65が形成されている。
【0035】
そして、本実施形態のコラム側ブラケット60A,60Bは、一方のコラム側ブラケット60Aの第1固定部34と、他方のコラム側ブラケット60Aの第1固定部34とが、アウタコラム12bの外周に当接する円弧形状の連結ブラケット66を介して一体化されている。
本実施形態は、図3から図10で示した実施形態と同様の効果を得ることができるとともに、アウタコラム12bに固定される前のコラム側ブラケット60A,60Bが連結ブラケット66を介して一体化されていることから、部品点数を減少させることができ、製造コストの低減化を図ることができる。
【0036】
さらに、図12に示すものは、本発明に係る他の実施形態を示すものである。
本実施形態のコラム側ブラケット70A,70Bは、側壁部33及び一対の第2固定部71,72の下部に底壁部73が一体形成されている。
そして、一方のコラム側ブラケット70Aの第1固定部34の縁部は、アウタコラム12bの外周面との間に、レーザ溶接による重ね合わせ溶接部84を設け、一対の第2固定部71,72の縁部にもアウタコラム12bの外周面との間にレーザ溶接による重ね合わせ溶接部85を設けることで、コラム側ブラケット70Aがアウタコラム12bに固定されている。また、他方のコラム側ブラケット70Bも、同様の構造でアウタコラム12bに固定されている。
【0037】
本実施形態によると、コラム側ブラケット70A,70Bは、レーザ溶接によりアウタコラム12bに固定されているので、従来のアーク溶接による固定方法と比較して、溶接変形によるガタが生じにくく、従来の装置のように、チルトブラケット24に対して高精度に摺動するようにガタを矯正する必要がなく、ガタを吸収するためのガタ取りカム等の部品も不要となるので、製造工程数が増大せず、部品点数の増大も抑制して製造コストの低減化を図ることができる。
また、レーザ溶接による重ね合わせ溶接部は二つの部材の溶接固定を確実に行なうことができるので、形状精度が悪いコラム側ブラケット70A,70Bであっても、アウタコラム12bに確実に固定することができる。
【符号の説明】
【0038】
10…ステアリング装置、11…ステアリングシャフト、11a…入力軸、12…ステアリングコラム、12a…インナコラム、12b…アウタコラム、13…ステアリングホイール、14…ユニバーサルジョイント、15…中間シャフト、16…ユニバーサルジョイント、17…ステアリングギヤ、18…タイロッド、19…操舵輪、20…減速ギヤボックス、21…モータフランジ、23…位置調整機構、24…チルトブラケット、24a…対向側壁部、25A,25B…コラム側ブラケット、26…締付け機構、26a…締付けロッド、30…周方向スリット、31…軸方向スリット、32…テレスコ調整用長穴、33…側壁部、34…第1固定部、34a…被溶接部、35,36…第2固定部、38…レーザ光照射装置、39…レーザ光、40,41…隅肉溶接部、42A,42B…コラム側ブラケット、43b…通過長孔、43…第2固定部、44,45…隅肉溶接部、46…補強板部、47…隅肉溶接部、48A,48B…コラム側ブラケット、49,50…第2固定部、51,52…隅肉溶接部、53…補強板部、54…隅肉溶接部、55A,55B…コラム側ブラケット、56…底壁部、57,58…隅肉溶接部、60A,60B…コラム側ブラケット、61,62…第2固定部、63…底壁部、64,65…隅肉溶接部、66…連結ブラケット、70A,70B…コラム側ブラケット、71,72…第2固定部、73…底壁部、84,85…重ね合わせ溶接部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトを回転自在に支持し、互いに軸方向に摺動自在に嵌合されているインナコラム及びアウタコラムと、左右に一対の対向側壁部を有し、当該一対の対向側壁部にチルト調整用溝を形成して車体側部材に固定されたチルトブラケットと、前記チルトブラケットの前記一対の対向側壁部間に、テレスコ調整用溝を形成した側壁部が摺接して配置され、前記側壁部に一体形成した固定部が前記アウタコラムの車幅方向両側に固定されている一対のコラム側ブラケットと、前記チルト調整用溝及び前記テレスコ調整用溝に通挿された締付けロッドを有する締付け機構と、から成り、前記締付け機構により前記アウタコラムのチルト・テレスコ位置を調整して前記一対のコラム側ブラケットの前記側壁部を前記チルトブラケットの前記対向側壁部に締付けてチルト・テレスコ位置の締付けを行う一方、前記締付け機構による締付けを解除してチルト・テレスコ位置を解除するようにした車両用ステアリング装置において、
前記一対のコラム側ブラケットの前記固定部は、上下方向における前記軸付近である前記アウタコラムの車幅方向両側にレーザ溶接により固定されていることを特徴とする車両用ステアリング装置。
【請求項2】
前記一対のコラム側ブラケットは、前記アウタコラムの外周に当接する連結ブラケットを介して一体に形成されていることを特徴とする請求項1記載の車両用ステアリング装置。
【請求項3】
前記一対のコラム側ブラケットの前記固定部及び前記アウタコラムの車幅方向両側は、隅肉溶接により固定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用ステアリング装置。
【請求項4】
前記一対のコラム側ブラケットの前記固定部及び前記アウタコラムの車幅方向両側は、重ね合わせ溶接により固定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用ステアリング装置。
【請求項1】
ステアリングシャフトを回転自在に支持し、互いに軸方向に摺動自在に嵌合されているインナコラム及びアウタコラムと、左右に一対の対向側壁部を有し、当該一対の対向側壁部にチルト調整用溝を形成して車体側部材に固定されたチルトブラケットと、前記チルトブラケットの前記一対の対向側壁部間に、テレスコ調整用溝を形成した側壁部が摺接して配置され、前記側壁部に一体形成した固定部が前記アウタコラムの車幅方向両側に固定されている一対のコラム側ブラケットと、前記チルト調整用溝及び前記テレスコ調整用溝に通挿された締付けロッドを有する締付け機構と、から成り、前記締付け機構により前記アウタコラムのチルト・テレスコ位置を調整して前記一対のコラム側ブラケットの前記側壁部を前記チルトブラケットの前記対向側壁部に締付けてチルト・テレスコ位置の締付けを行う一方、前記締付け機構による締付けを解除してチルト・テレスコ位置を解除するようにした車両用ステアリング装置において、
前記一対のコラム側ブラケットの前記固定部は、上下方向における前記軸付近である前記アウタコラムの車幅方向両側にレーザ溶接により固定されていることを特徴とする車両用ステアリング装置。
【請求項2】
前記一対のコラム側ブラケットは、前記アウタコラムの外周に当接する連結ブラケットを介して一体に形成されていることを特徴とする請求項1記載の車両用ステアリング装置。
【請求項3】
前記一対のコラム側ブラケットの前記固定部及び前記アウタコラムの車幅方向両側は、隅肉溶接により固定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用ステアリング装置。
【請求項4】
前記一対のコラム側ブラケットの前記固定部及び前記アウタコラムの車幅方向両側は、重ね合わせ溶接により固定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用ステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−171480(P2012−171480A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34978(P2011−34978)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]