説明

車両用ドア自動閉鎖装置

【課題】キャンセル機構を備えた車両用ドア自動閉鎖装置を小型化して、その車両への搭載性を高めることである。
【解決手段】ラッチ軸27にラッチ28に対して相対回転自在にクローズプレート37を装着する。クローザケーブル34の先端にケーブルリンク35を連結し、このケーブルリンク35の動力をクローズプレート37に伝達するクローズリンク41をラッチ軸27に回転自在に支持させる。ラッチ軸27と平行な支軸45によりキャンセルリンク44を揺動自在に支持し、径方向に移動自在にラッチ28に装着されたラッチピン42をキャンセルリンク44の案内溝44aに移動自在に係合させる。ドアハンドル47の操作によりキャンセルリンク44をキャンセル動作させ、ラッチピン42をキャンセルリンク44によりクローズプレート37の軌道上にある作動位置からその外周側のキャンセル位置に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられたドアが半ドア位置にまで閉じられたときに、当該ドアを駆動源の動力により半ドア位置から全閉位置にまで自動的に引き込むようにした車両用ドア自動閉鎖装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、乗降用として車両側方に設けられるヒンジドアやスライドドア、荷室の開閉のために車両後端部に設けられるバックドアなど、様々なドアが設けられている。
【0003】
このようなドアは、通常、ラッチとストライカとを備えたドアロック機構により全閉位置(フルラッチ位置)に保持されるが、このようなドアロック機構では、ドアが半ドア位置(ハーフラッチ位置)にて停止した場合には、再度ドアを閉じ直す必要があり、その操作が煩雑である。そこで、ドアが半ドア位置にまで閉じられたときに、電動モータ等の駆動源によりラッチをフルラッチ位置に向けて駆動し、当該ドアを半ドア位置から全閉位置にまで自動的に引き込むようにした車両用ドア自動閉鎖装置(ドアクローザ装置)が開発されている。
【0004】
一方、このようなドア自動閉鎖装置では、半ドア位置にまで閉じられたドアは駆動源により自動的に全閉位置にまで引き込まれることになるので、挟み込みに対する安全性を確保する必要がある。
【0005】
例えば特許文献1には、駆動源に回転駆動されるケーブルレバーと、ケーブルレバーに径方向に移動自在に設けられるコントロールピン(動力伝達ピン)と、ラッチ(フック)に連動するとともにコントロールピンに当接可能なクローズレバーと、ドアハンドルに連結されるとともにコントロールピンを案内するキャンセルレバー(キャンセルリンク)とを備え、コントロールピンを介して駆動源の動力をラッチに伝達してドアの引き込み動作を行うとともに、引き込み動作中にドアハンドルが操作されたときにはキャンセルレバーによりコントロールピンをクローズレバーとの係合が解除されるキャンセル位置に移動させてドアの引き込み動作をキャンセルさせるようにしたドア自動閉鎖装置が記載されている。
【特許文献1】実開平6−59568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示されるドア自動閉鎖装置では、キャンセル機構を構成するケーブルレバーやキャンセルレバー、クローズレバー等を、その軸方向をラッチ軸の軸方向と直交させて配置するようにしているので、装置全体が大型化し、このドア自動閉鎖装置の車両への搭載性が低下するという問題点があった。
【0007】
本発明の目的は、キャンセル機構を備えた車両用ドア自動閉鎖装置を小型化して、その車両への搭載性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両用ドア自動閉鎖装置は、半ドア位置にまで閉じられたドアを全閉位置にまで自動的に引き込む車両用ドア自動閉鎖装置であって、前記ドアまたは車体のいずれか一方に設けられ、ラッチ軸に支持されてアンラッチ位置とフルラッチ位置との間で回動自在のラッチと、前記ラッチ軸に平行なラチェット軸により揺動自在に支持され、前記ラッチに係合して該ラッチをフルラッチ位置に保持するラチェットと、前記ドアまたは前記車体のいずれか他方に設けられ、前記ラッチに係合して該ラッチとにより前記ドアを全閉位置に保持するストライカと、前記ラッチ軸に前記ラッチに対して相対回転自在に支持される駆動プレートと、駆動用伝達部材を介して前記駆動プレートに連結され、前記ドアが半ドア位置にまで閉じられたときに該駆動プレートを前記ラッチのフルラッチ方向に駆動する駆動源と、前記ラッチに設けられ、前記駆動プレートの軌道上で該駆動プレートと当接可能な作動位置と前記駆動プレートより外側で該駆動プレートとの当接を解除するキャンセル位置との間で前記ラッチ軸の径方向に移動自在の動力伝達ピンと、前記動力伝達ピンが移動自在に係合する案内溝を備えるとともに前記ラッチ軸に平行な支軸により揺動自在に支持され、前記動力伝達ピンを前記作動位置と前記キャンセル位置とに選択的に移動させるキャンセルリンクと、前記ドアに設けられるドアハンドルと前記キャンセルリンクとに連結され、前記ドアハンドルが操作されたときに前記キャンセルリンクをキャンセル動作させるキャンセル用伝達部材とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明の車両用ドア自動閉鎖装置は、前記キャンセルリンクは前記動力伝達ピンを前記作動位置とする方向に向けて常時付勢されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の車両用ドア自動閉鎖装置は、前記ラチェット軸に揺動自在に支持されるとともに前記キャンセル用伝達部材に連結され、前記ドアハンドルの操作により回動して前記キャンセルリンクをキャンセル動作させるとともに前記ラチェットを前記ラッチとの係合が解除される解除位置に移動させる中間リンクを有することを特徴とする。
【0011】
本発明の車両用ドア自動閉鎖装置は、一端に前記駆動用伝達部材が回動自在に連結されるとともに直線往復動自在の駆動リンクと、一端が前記ラッチ軸に回動自在に支持され他端が前記駆動リンクの他端に回動自在に連結されるとともに中間部において前記駆動プレートに周方向から当接可能な変換リンクとを有し、前記駆動リンクの直線運動を前記変換リンクにより回転運動に変換して前記駆動プレートに伝達することを特徴とする。
【0012】
本発明の車両用ドア自動閉鎖装置は、前記駆動プレートは略扇形状に形成され、前記ドアが開状態のときには前記動力伝達ピンは前記駆動プレートの外周縁辺上に配置され、前記ドアが半ドア位置にまで閉じられると前記動力伝達ピンは前記駆動プレートの周方向端に達して前記外周縁辺上から該駆動プレートの周方向を向く駆動辺に移動することを特徴とする。
【0013】
本発明の車両用ドア自動閉鎖装置は、前記駆動用伝達部材は可撓性を有する索条体からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ラッチと駆動プレートとを互いに相対回転自在にラッチ軸に支持させるとともにキャンセルリンクをラッチ軸と平行な支軸により支持させ、ラッチに設けた動力伝達ピンを介して駆動プレートの動力をラッチに伝達するようにしたので、ドアロック機構として機能するラッチとラチェットに対してキャンセル機構を構成する駆動プレートやキャンセルリンク等の各部材を平行に配置して、キャンセル機構を備えた車両用ドア自動閉鎖装置を小型化することができる。
【0015】
また、本発明によれば、動力伝達ピンを作動位置とする方向にキャンセルリンクを常時付勢するようにしたので、不意に引き込み動作がキャンセルされることを防止して、この車両用ドア自動閉鎖装置の作動信頼性を高めることができる。
【0016】
さらに、本発明によれば、キャンセル用伝達部材を中間リンクに連結し、ドアハンドルが操作されたときに、中間リンクを介してキャンセルリンクをキャンセル動作させるとともにラチェットを解除位置に移動させるようにしたので、簡単な構成でキャンセルリンクとラチェットとを連携して作動させることができる。
【0017】
さらに、本発明によれば、駆動用伝達部材に駆動される駆動リンクの直線運動を変換リンクにより回転運動に変換して駆動プレートに伝達するようにしたので、駆動用伝達部材の動力を効率よく駆動プレートに伝達することができる。
【0018】
さらに、本発明によれば、駆動プレートを略扇形状に形成し、ドアが開状態のときには動力伝達ピンを駆動プレートの外周縁辺に当接させるとともに、ドアが半ドア位置にまで閉じられたときには動力伝達ピンを駆動プレートの周方向を向く駆動辺に移動させるようにしたので、ラッチをハーフラッチ位置に保持する機能を駆動プレートに持たせて、ラッチの構成を簡素化することができる。
【0019】
さらに、本発明によれば、可撓性を有する索条体により駆動用伝達部材を形成するようにしたので、駆動源を駆動プレートから離れた位置に配置することができる。これにより、この車両用ドア自動閉鎖装置のレイアウト性をさらに高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1はワンボックスタイプの車両の側面図であり、この車両11の車体12の側部には、乗降用の開口部13を開閉するためにスライドドア14が設けられている。このスライドドア14は、車体12の開口部13の上下両縁部分と後方側に固定された3つのガイドレール15a〜15cに支持されており、これらのガイドレール15a〜15cに案内されて車両11の前後方向にスライド式に開閉するようになっている。
【0022】
車両11には車両用ドア自動閉鎖装置としてのドアクローザ装置21が設けられており、半ドア位置にまで閉じられたスライドドア14はこのドアクローザ装置21により全閉位置にまで自動的に引き込まれ、当該全閉位置に保持されるようになっている。
【0023】
図2は図1に示すドアクローザ装置の配置を示す説明図、図3は図2に示すドアクローザ装置の詳細を示す説明図、図4は図3に示す機構部の分解斜視図である。
【0024】
このドアクローザ装置21は機構部22aとストライカ23aとを備えており、機構部22aはスライドドア14の内部の車両後方側の端部にドアガラス24に対して車両後方側に隣接して配置され、その一部はスライドドア14の端部に設けられる切り欠き25に配置されている。一方、ストライカ23aは車体12の開口部13の車両後方側の端部に固定されており、スライドドア14が半ドア位置にまで閉じられると、スライドドア14の切り欠き25を介して機構部22aの内部に案内されるようになっている。
【0025】
なお、スライドドア14の内部の車両前方側の端部にはラッチ機構22bが設けられ、車体12の開口部13の車両前方側の端部に固定されたストライカ23bと係合可能とされている。
【0026】
図3、図4に示すように、機構部22aはスライドドア14の内面に固定されるベース板26を備えており、このベース板26にはラッチ軸27が固定され、ラッチ軸27にはラッチ28が装着されている。ラッチ28は鋼板により外周にラッチ溝28aとハーフラッチ係止溝28bとフルラッチ係止溝28cとが設けられた略円板状に形成されており、その略中心部においてラッチ軸27に支持されてアンラッチ位置とフルラッチ位置との間で回動自在となっている。
【0027】
ラッチ28は図示しないバネ部材により常時アンラッチ方向(図3中反時計周り方向)に付勢され、スライドドア14が開かれているときにはアンラッチ位置にあり、このときラッチ溝28aは切り欠き25に向くようになっている。また、スライドドア14が閉じられると、切り欠き25から機構部22aの内部に侵入したストライカ23aがラッチ溝28aに係合し、スライドドア14が半ドア位置にまで閉じられると、ラッチ28はストライカ23aに押されてハーフラッチ位置にまで回転する。さらに、この状態からスライドドア14が全閉位置にまで閉じられると、ラッチ28はストライカ23aに押されてフルラッチ位置にまで回転する。
【0028】
ベース板26にはラッチ軸27と平行にラチェット軸31が固定されており、ラチェット軸31にはラチェット32が装着されている。ラチェット32は鋼板により先端には係止爪32aを備えた爪状に形成されており、その係止爪32aとは反対側の他端側においてラチェット軸31により揺動自在に支持されている。
【0029】
ラチェット32は図示しないバネ部材により常時係止爪32aをラッチ28の外周に押し付ける方向(図3中時計周り方向)に付勢されており、ラッチ28がハーフラッチ位置となったときに係止爪32aがラッチ28のハーフラッチ係止溝28bに係合してラッチ28をハーフラッチ位置に保持するようになっている。また、ラチェット32は、ラッチ28がフルラッチ位置となったときに係止爪32aがラッチ28のフルラッチ係止溝28cに係合してラッチ28をフルラッチ位置に保持するようになっている。
【0030】
このように、このドアクローザ装置21は、ストライカ23aに係合してフルラッチ位置にまで回転したラッチ28をラチェット32によってフルラッチ位置に保持することにより、スライドドア14を全閉位置に保持するドアロック機構として機能するようになっている。
【0031】
一方、詳細な図示はしないが、ラッチ機構22bも上述の機構部22aと同様にスライドドア14の内面に固定されるベース板と、ベース板に固定されるラッチ軸と、ラッチ軸に装着されるラッチ等から構成されており、スライドドア14が閉じられると、ラッチ機構22bの内部に侵入したストライカ23bがラッチと係合して、スライドドア14の車両前方側の端部が車体12に対して保持されるようになっている。
【0032】
ストライカ23aに係合したラッチ28をハーフラッチ位置からフルラッチ位置にまで回転駆動してスライドドア14を半ドア位置から全閉位置にまで自動的に引き込むために、このドアクローザ装置21には駆動源としてのモータユニット33が設けられている。図2に示すように、このモータユニット33は機構部22aとは別体に形成されており、ドアガラス24に対して車室内側に隣接してスライドドア14の内部に配置されている。また、図3に示すように、モータユニット33は電動モータ33aと出力機構部33bとを備えており、車体12に搭載された図示しないバッテリ等の電源からの電力が制御装置を介して供給されることにより作動制御されるようになっている。
【0033】
モータユニット33の出力機構部33bには駆動用伝達部材としてのクローザケーブル34の一端が連結されている。このクローザケーブル34は可撓性を有する索条体となっており、モータユニット33から機構部22aにまでスライドドア14の内部を所定の経路で配索されている。なお、このクローザケーブル34の中間部分をアウターチューブにより覆うようにしてもよい。
【0034】
クローザケーブル34の他端には円柱状のケーブルエンド34aが固定されており、このケーブルエンド34aは駆動リンクとしてのケーブルリンク35の一端に回動自在に連結されている。
【0035】
図4に示すように、ベース板26にはラッチ軸27とラチェット軸31を支持するためにブラケット36が固定されるようになっている。このブラケット36には車両11の上下方向(ストライカ23aの機構部22aへの侵入方向に対して直交する方向)に向けて直線状に延びるガイド溝36aが設けられ、ケーブルリンク35から突出したケーブルエンド34aの先端部はガイド溝36aに移動自在に係合している。これにより、ケーブルリンク35はガイド溝36aに沿って直線往復動自在となっている。また、ケーブルリンク35は後述するクローズプレート37により原位置(図3に示す位置)に向けて上方に付勢され、モータユニット33が停止状態のときには、当該原位置に復帰するようになっている。
【0036】
ラッチ軸27には駆動プレートとしてのクローズプレート37が装着されている。このクローズプレート37は鋼板により円弧状の外周縁辺37aを備えた略扇形状に形成され、ラッチ28に重ねて配置されており、その要部分においてラッチ28に対して相対回転自在となるようにラッチ軸27に回動自在に支持されている。また、クローズプレート37は図示しないバネ部材により原位置(図3に示す位置)に向けて図3中反時計回り方向に付勢されており、モータユニット33が停止状態のときには、当該原位置に復帰するようになっている。
【0037】
ケーブルリンク35の他端にはピン部材38により変換リンクとしてのクローズリンク41の一端が回動自在に連結されている。このクローズリンク41はクローズプレート37に重ねて配置されており、その他端はラッチ28に対して相対回転自在となるようにラッチ軸27に回動自在に支持されている。また、クローズリンク41の中間部にはクローズプレート37の側に向けて軸方向に突出する駆動片41aが固定されており、この駆動片41aは周方向からクローズプレート37の周方向端面に当接するようになっている。
【0038】
モータユニット33はラッチ28がアンラッチ位置からハーフラッチ位置にまで回転したとき、つまりスライドドア14が半ドア位置にまで閉じられたときに起動するようになっており、モータユニット33が作動するとクローザケーブル34に引かれてケーブルリンク35がガイド溝36aに沿って図中下方に移動し、その直線運動がクローズリンク41によりラッチ軸27を中心とした回転運動に変換される。そして、クローズリンク41がラッチ軸27を中心として回転することにより、クローズプレート37が駆動片41aに押されてラッチ28のフルラッチ方向(図3中時計回り方向)に回転する。つまり、スライドドア14が半ドア位置にまで閉じられると、モータユニット33の動力がクローザケーブル34、ケーブルリンク35、クローズリンク41を介してクローズプレート37に伝達され、当該モータユニット33によりクローズプレート37が回転駆動されるようになっている。
【0039】
クローズプレート37の回転をラッチ28に伝達するために、ラッチ28には動力伝達ピンとしてのラッチピン42が設けられている。図4に示すように、ラッチ28にはラッチ軸27の径方向に延びるガイド溝43aを備えたアーム部43が設けられており、ラッチピン42はこのガイド溝43aに装着され、このガイド溝43aに沿ってラッチ軸27の径方向に移動自在であるとともにラッチ軸27を中心としてラッチ28と一体的に回転するようになっている。
【0040】
ガイド溝43aの径方向外側のストローク端はキャンセル位置となっており、キャンセル位置にあるラッチピン42はクローズプレート37の外周縁辺37aよりも外側に位置してクローズプレート37との当接を解除するようになっている。また、ガイド溝43aの径方向内側(ラッチ軸27側)のストローク端は作動位置となっており、作動位置にあるラッチピン42はクローズプレート37の周方向を向く駆動辺37bの軌道上に位置してクローズプレート37と当接可能となっている。
【0041】
ラッチピン42を作動位置からキャンセル位置に移動させるために、機構部22aにはキャンセルリンク44が設けられている。このキャンセルリンク44は鋼板により円弧状に曲がる形状に形成され、当該形状に沿って延びる円弧状の案内溝44aを備えており、ラッチピン42はこの案内溝44aに係合して当該案内溝44aに沿って移動自在となっている。また、キャンセルリンク44は、その一端においてラッチ軸27と平行となってベース板26に固定された支軸45に装着され、この支軸45を中心として揺動自在となっている。そして、キャンセルリンク44を支軸45を中心として案内溝44aがラッチ軸27から離れる方向(図3中時計回り方向)に回転させる、つまりキャンセルリンク44をキャンセル動作させることにより、ラッチピン42を作動位置からキャンセル位置に移動させることができるようになっている。
【0042】
なお、キャンセルリンク44がラッチピン42を作動位置とする位置にあるときには、案内溝44aはラッチ軸27を中心とした円弧状となり、ラッチピン42は案内溝44aによりクローズプレート37の駆動辺37bの軌道上を案内される。
【0043】
キャンセルリンク44は図示しないバネ部材によりラッチピン42を作動位置とする方向(図3中反時計周り方向)に常時付勢されている。これにより、スライドドア14が開状態のとき、つまりラッチ28がアンラッチ位置にあるときには、図3に示すように、キャンセル位置にあるラッチピン42はクローズプレート37の外周縁辺37a上にあってキャンセルリンク44により外周縁辺37aに押し付けられている。また、スライドドア14が半ドア位置にまで閉じられたとき、つまりラッチ28がハーフラッチ位置にまで回転したときには、ラッチピン42はクローズプレート37の周方向端にまで移動し、キャンセルリンク44により押されてキャンセル位置から作動位置つまりクローズプレート37の外周縁辺37a上から駆動辺37bと対向する位置に移動するようになっている。
【0044】
ラチェット軸31にはラチェット32に対して軸方向に重ねて中間リンクとしてのハンドルリンク46が装着されている。このハンドルリンク46は鋼板を曲げ加工して形成されており、ラチェット軸31に揺動自在に支持されている。一方、図1〜図3に示すように、スライドドア14にはドアハンドル47が設けられており、このドアハンドル47にはキャンセル用伝達部材としてのハンドルケーブル48の一端が連結され、ハンドルケーブル48の他端に設けられるケーブルエンド48aはハンドルリンク46に回動自在に連結されている。これにより、ドアハンドル47が操作されると、ハンドルリンク46はハンドルケーブル48に引かれてラチェット軸31を中心として図3中反時計周り方向に回動するようになっている。
【0045】
ハンドルリンク46にはキャンセルリンク44に向けて突出する駆動アーム部46aが設けられ、一方、キャンセルリンク44には支軸45の径方向に突出する被駆動アーム部44bが設けられており、ドアハンドル47の操作によりハンドルリンク46が回動すると、駆動アーム部46aにより被駆動アーム部44bが押されて、キャンセルリンク44はラッチピン42を作動位置からキャンセル位置に向けて移動させる方向に移動する。つまり、ドアハンドル47が操作されることにより、キャンセルリンク44はキャンセル動作するようになっている。
【0046】
また、ハンドルリンク46にはラチェット32に向けて突出する駆動爪46bが設けられており、ドアハンドル47の操作によりハンドルリンク46が回動すると、ラチェット32は駆動爪46bに押されてラッチ28と係合する位置からラッチ28との係合が解除される解除位置に向けて図3中反時計回り方向に回転するようになっている。
【0047】
このように、ドアハンドル47が操作されると、ハンドルリンク46に駆動されて、キャンセルリンク44がキャンセル動作するとともにラチェット32が解除位置に移動するようになっている。
【0048】
図5(a)〜(d)は、それぞれスライドドアを全閉位置にまで引き込み動作するときのドアクローザ装置の作動を示す説明図である。次に、図5に基づいて、このドアクローザ装置21の作動について説明する。
【0049】
スライドドア14が開いた状態のときには、図5(a)に示すように、ラッチ28はアンラッチ位置に、クローズプレート37は原位置にあり、また、ラッチピン42はキャンセル位置にあってクローズプレート37の外周縁辺37aに当接している。この状態からスライドドア14が閉じられると、先ず、スライドドア14のラッチ機構22bとストライカ23bとが係合してスライドドア14の車両前方側の端部が車体12に保持され、次いで、スライドドア14の切り欠き25から機構部22aの内部に侵入したストライカ23aがラッチ溝28aに係合する。スライドドア14が半ドア位置にまで閉じられると、図5(b)に示すように、ラッチ28がハーフラッチ位置にまで回転し、ラッチピン42はクローズプレート37の周方向端に達する。そして、ラッチピン42がキャンセルリンク44により押されてクローズプレート37の外周縁辺37a上のキャンセル位置から作動位置に移動して駆動辺37bと対向する。また、ラチェット32がラッチ28のハーフラッチ係止溝28bに係合し、ラッチ28のアンラッチ方向への回転が規制され、ラッチ28はハーフラッチ位置に保持される。
【0050】
ラッチ28がアンラッチ位置からハーフラッチ位置にまで回転するとモータユニット33が起動し、クローズプレート37がモータユニット33により駆動されて回転する。クローズプレート37が回転すると、図5(c)に示すように、クローズプレート37の軌道上にあるラッチピン42がクローズプレート37の駆動辺37bに押され、ラッチ28はハーフラッチ位置からフルラッチ位置に向けて回転する。これにより、スライドドア14はモータユニット33の動力により半ドア位置から全閉位置に向けて引き込まれることになる。
【0051】
なお、モータユニット33の起動は、ラッチ28がハーフラッチ位置になったことを検出するハーフラッチスイッチ(不図示)やラチェット32がラッチ28に係合したことを検出するラチェットスイッチ(不図示)等の検出信号に基づいたタイミングで行われる。
【0052】
モータユニット33によりラッチ28がハーフラッチ位置からフルラッチ位置にまで回転駆動されるとスライドドア14は全閉状態となり、図5(d)に示すように、ラッチ28のフルラッチ係止溝28cにラチェット32が係合してラッチ28がフルラッチ位置に保持される。これにより、スライドドア14はドアクローザ装置21のドアロック機構としての機能により全閉状態に保持される。また、モータユニット33の作動が停止すると、ケーブルリンク35とクローズプレート37がバネ部材により原位置に復帰する。これにより、ドアクローザ装置21によるスライドドア14の引き込み動作が完了する。
【0053】
一方、このドアクローザ装置21は、モータユニット33によりスライドドア14が半ドア位置から全閉位置に向けて引き込み動作されている状態のもとであっても、スライドドア14に設けられるドアハンドル47を操作することにより、当該引き込み動作をキャンセルさせることができるようになっている。
【0054】
図6(a)〜(d)は、それぞれ引き込み動作がキャンセルされるときのドアクローザ装置の作動を示す説明図であり、次に図6に基づいて、このドアクローザ装置21のキャンセル動作について説明する。
【0055】
図6(a)に示すように、モータユニット33が作動してラッチ28のラッチピン42がクローズプレート37の駆動辺37bに押されてスライドドア14が全閉位置に向けて引き込み動作されている状態のもとでドアハンドル47が操作されると、図6(b)に示すように、キャンセルリンク44がキャンセル動作してラッチピン42が作動位置からキャンセル位置にまで駆動される。これにより、ラッチピン42のクローズプレート37の駆動辺37bとの係合が解除され、ラッチピン42を介してのクローズプレート37からラッチ28への動力伝達経路が遮断される。また、ドアハンドル47の操作によりハンドルリンク46が回動し、図6(b)に示すように、ラチェット32は解除位置に移動してラッチ28との係合が解除される。これにより、ラッチ28は図示しないバネ部材によりアンラッチ方向に回転し、ストライカ23aのラッチ溝28aとの係合が解除されてスライドドア14を開くことができるようになる。
【0056】
このように、このドアクローザ装置21では、モータユニット33によるスライドドア14の引き込み動作中であっても、ドアハンドル47を操作することにより、当該引き込み動作をキャンセルして、スライドドア14を開くことができる。
【0057】
スライドドア14の引き込み動作がキャンセルされると、モータユニット33はクローズプレート37をラッチ28のフルラッチ位置に対応する位置にまで回転駆動した後に作動を停止し、図6(d)に示すように、ケーブルリンク35とクローズプレート37とがバネ部材に付勢されて原位置に復帰する。
【0058】
このように、このドアクローザ装置21では、モータユニット33によるスライドドア14の引き込み動作中にドアハンドル47を操作することにより、当該引き込み動作をキャンセルすることができるので、障害物の挟み込み等が発生したときには、ドアハンドル47を操作することにより、当該挟み込みを防止することができる。したがって、スライドドア14を自動的に全閉位置にまで引き込み動作するようにしたドアクローザ装置21の安全性を高めることができる。
【0059】
また、このドアクローザ装置21では、ラッチ28とクローズプレート37とを互いに相対回転自在にラッチ軸27に支持させるとともにキャンセルリンク44をラッチ軸27と平行な支軸45により支持させ、ラッチ28に設けたラッチピン42を介してクローズプレート37の動力をラッチ28に伝達するようにしており、これにより、ドアロック機構として機能するラッチ28とラチェット32に対して、スライドドア14の引き込み動作をキャンセルするキャンセル機構を構成する部材であるクローズプレート37、キャンセルリンク44、ケーブルリンク35、クローズリンク41、ハンドルリンク46が互いに平行に配置されることになる。これにより、これらの部材全てをベース板26の本体面に対して平行に配置することができ、このようなキャンセル機構を備えたドアクローザ装置21を小型・薄型化し、その車両11(特にスライドドア14の内部)へのレイアウト性を高めることができる。
【0060】
また、このドアクローザ装置21では、ラッチピン42を作動位置とする方向にキャンセルリンク44を常時付勢するようにしているので、ラッチピン42が不意にキャンセル位置に移動することを防止することができる。つまり、引き込み動作中に当該引き込み動作が不意にキャンセルされることを防止して、このドアクローザ装置21の作動信頼性を高めることができる。
【0061】
さらに、このドアクローザ装置21では、ハンドルケーブル48をハンドルリンク46に連結し、ドアハンドル47が操作されたときに、ハンドルリンク46を介してキャンセルリンク44とラチェット32とを作動させるようにしたので、簡単な構成でドアハンドル47の操作によりキャンセルリンク44とラチェット32とを連携して作動させることができる。
【0062】
さらに、このドアクローザ装置21では、クローザケーブル34に駆動されるケーブルリンク35の直線運動をクローズリンク41により回転運動に変換してクローズプレート37に伝達するようにしたので、クローザケーブル34の動力を効率よくクローズプレート37に伝達することができる。これにより、このドアクローザ装置21のモータユニット33を小型化することができる。
【0063】
さらに、このドアクローザ装置21では、クローズプレート37を略扇形状に形成し、スライドドア14が半ドア位置にまで閉じられたときにラッチピン42をクローズプレート37の駆動辺37bに当接させるようにしたので、原位置にあるクローズプレート37によりラッチ28のハーフラッチ位置からアンラッチ方向に向けての回転を規制することができる。これにより、ハーフラッチ係止溝28bを設けなくてもラッチ28をハーフラッチ位置に保持することができ、ラッチ28の構成を簡素化することができる。
【0064】
さらに、このドアクローザ装置21では、クローザケーブル34を可撓性を有する索条体により形成するようにしているので、モータユニット33を機構部22aから離れた位置に配置することができる。これにより、このドアクローザ装置21のレイアウト性をさらに高めることができる。
【0065】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、前記実施の形態おいては、機構部22aをスライドドア14の内部に配置し、ストライカ23aを車体12に固定するようにしているが、これに限らず、機構部22aを車体12に配置し、ストライカ23aをスライドドア14の端部に固定するようにしてもよい。
【0066】
また、前記実施の形態においては、スライドドア14に本発明のドアクローザ装置21を適用するようにしているが、これに限らず、車両11に設けられるドアであれば、ヒンジドアやバックドア等の他のドアに本発明のドアクローザ装置21を適用するようにしてもよい。
【0067】
さらに、前記実施の形態においては、手動で開閉操作されるスライドドア14に本発明のドアクローザ装置21を適用するようにしているが、これに限らず、電動モータ等を駆動源とした自動開閉装置により全開位置と全閉位置との間で自動的に開閉されるドアに本発明のドアクローザ装置21を適用するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】ワンボックスタイプの車両の側面図である。
【図2】図1に示すドアクローザ装置の配置を示す説明図である。
【図3】図2に示すドアクローザ装置の詳細を示す説明図である。
【図4】図3に示す機構部の分解斜視図である。
【図5】(a)〜(d)は、それぞれスライドドアを全閉位置にまで引き込み動作するときのドアクローザ装置の作動を示す説明図である。
【図6】(a)〜(d)は、それぞれ引き込み動作がキャンセルされるときのドアクローザ装置の作動を示す説明図である。
【符号の説明】
【0069】
11 車両
12 車体
13 開口部
14 スライドドア
15a〜15c ガイドレール
21 ドアクローザ装置(車両用ドア自動閉鎖装置)
22a 機構部
22b ラッチ機構
23a,23b ストライカ
24 ドアガラス
25 切り欠き
26 ベース板
27 ラッチ軸
28 ラッチ
28a ラッチ溝
28b ハーフラッチ係止溝
28c フルラッチ係止溝
31 ラチェット軸
32 ラチェット
32a 係止爪
33 モータユニット(駆動源)
33a 電動モータ
33b 出力機構部
34 クローザケーブル(駆動用伝達部材)
34a ケーブルエンド
35 ケーブルリンク(駆動リンク)
36 ブラケット
36a ガイド溝
37 クローズプレート(駆動プレート)
37a 外周縁辺
37b 駆動辺
38 ピン部材
41 クローズリンク(変換リンク)
41a 駆動片
42 ラッチピン(動力伝達ピン)
43 アーム部
43a ガイド溝
44 キャンセルリンク
44a 案内溝
44b 被駆動アーム部
45 支軸
46 ハンドルリンク(中間リンク)
46a 駆動アーム部
46b 駆動爪
47 ドアハンドル
48 ハンドルケーブル(キャンセル用伝達部材)
48a ケーブルエンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半ドア位置にまで閉じられたドアを全閉位置にまで自動的に引き込む車両用ドア自動閉鎖装置であって、
前記ドアまたは車体のいずれか一方に設けられ、ラッチ軸に支持されてアンラッチ位置とフルラッチ位置との間で回動自在のラッチと、
前記ラッチ軸に平行なラチェット軸により揺動自在に支持され、前記ラッチに係合して該ラッチをフルラッチ位置に保持するラチェットと、
前記ドアまたは前記車体のいずれか他方に設けられ、前記ラッチに係合して該ラッチとにより前記ドアを全閉位置に保持するストライカと、
前記ラッチ軸に前記ラッチに対して相対回転自在に支持される駆動プレートと、
駆動用伝達部材を介して前記駆動プレートに連結され、前記ドアが半ドア位置にまで閉じられたときに該駆動プレートを前記ラッチのフルラッチ方向に駆動する駆動源と、
前記ラッチに設けられ、前記駆動プレートの軌道上で該駆動プレートと当接可能な作動位置と前記駆動プレートより外側で該駆動プレートとの当接を解除するキャンセル位置との間で前記ラッチ軸の径方向に移動自在の動力伝達ピンと、
前記動力伝達ピンが移動自在に係合する案内溝を備えるとともに前記ラッチ軸に平行な支軸により揺動自在に支持され、前記動力伝達ピンを前記作動位置と前記キャンセル位置とに選択的に移動させるキャンセルリンクと、
前記ドアに設けられるドアハンドルと前記キャンセルリンクとに連結され、前記ドアハンドルが操作されたときに前記キャンセルリンクをキャンセル動作させるキャンセル用伝達部材とを有することを特徴とする車両用ドア自動閉鎖装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用ドア自動閉鎖装置において、前記キャンセルリンクは前記動力伝達ピンを前記作動位置とする方向に向けて常時付勢されていることを特徴とする車両用ドア自動閉鎖装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の車両用ドア自動閉鎖装置において、前記ラチェット軸に揺動自在に支持されるとともに前記キャンセル用伝達部材に連結され、前記ドアハンドルの操作により回動して前記キャンセルリンクをキャンセル動作させるとともに前記ラチェットを前記ラッチとの係合が解除される解除位置に移動させる中間リンクを有することを特徴とする車両用ドア自動閉鎖装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用ドア自動閉鎖装置において、一端に前記駆動用伝達部材が回動自在に連結されるとともに直線往復動自在の駆動リンクと、一端が前記ラッチ軸に回動自在に支持され他端が前記駆動リンクの他端に回動自在に連結されるとともに中間部において前記駆動プレートに周方向から当接可能な変換リンクとを有し、前記駆動リンクの直線運動を前記変換リンクにより回転運動に変換して前記駆動プレートに伝達することを特徴とする車両用ドア自動閉鎖装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両用ドア自動閉鎖装置において、前記駆動プレートは略扇形状に形成され、前記ドアが開状態のときには前記動力伝達ピンは前記駆動プレートの外周縁辺上に配置され、前記ドアが半ドア位置にまで閉じられると前記動力伝達ピンは前記駆動プレートの周方向端に達して前記外周縁辺上から該駆動プレートの周方向を向く駆動辺に移動することを特徴とする車両用ドア自動閉鎖装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両用ドア自動閉鎖装置において、前記駆動用伝達部材は可撓性を有する索条体からなることを特徴とする車両用ドア自動閉鎖装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−249836(P2009−249836A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95791(P2008−95791)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】