説明

車両用ブレーキ液圧制御装置

【課題】振動や騒音を抑えることができる車両用ブレーキ液圧制御装置を提供する。
【解決手段】モータ重心Gがモータ回転軸中心Xから偏心しているモータ200を、基体100に2点支持で固定する車両用ブレーキ液圧制御装置Uにおいて、モータ200を支持する2つの支持点Y,Yを結んだ直線Lが、モータ回転軸中心Xからモータ重心G側にオフセットするように、支持点Y,Yが配置されており、さらに、モータ回転軸中心Xと2つの支持点Y,Yとで囲まれる三角形領域A内にモータ重心Gが位置することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ブレーキ液圧制御装置におけるモータの基体への取付構造は、例えば、特許文献1に示すような構造が知られている。この従来の取付構造は、モータの外周部の2箇所でボルトを基体に螺合させて、2点支持するようになっていた。この2つの支持点は、モータ回転軸中心を中心として対称的に配置されている。つまり、2つの支持点を結ぶ直線上にモータ回転軸中心が位置するようになっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−168895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、モータは、モータバスバー、ターミナル、チョークコイル、ブラシやピックテール等の構成部品が、モータ回転軸を中心に対称配置されている訳ではないので、モータ重心は、モータ回転軸中心とはずれた位置にある場合が多い。そのため、前記した従来の構造では、2つの支持点を結んだ直線からモータ重心がずれる場合があり、振動や騒音を引き起こす虞があるといった問題があった。
【0005】
このような観点から、本発明は、振動や騒音を抑えることができる車両用ブレーキ液圧制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決する請求項1に係る発明は、モータ重心がモータ回転軸中心から偏心しているモータを、基体に2点支持で固定する車両用ブレーキ液圧制御装置において、前記モータを支持する2つの支持点を結んだ直線が、前記モータ回転軸中心から前記モータ重心側にオフセットするように、前記支持点が配置されていることを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置である。
【0007】
つまり、本発明は、モータ重心に着目して、2つの支持点を結んだ直線がモータ重心に近付くように支持点を配置したものであって、このような構成によれば、モータの振動を抑えるとともに、その振動に起因する騒音も抑えることができる。
【0008】
また、請求項2に係る発明は、前記モータ回転軸中心と2つの前記支持点とで囲まれる三角形領域内に前記モータ重心が位置することを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置である。
【0009】
このような構成によれば、モータの振動および騒音をさらに抑えることができる。
【0010】
さらに、請求項3に係る発明は、前記モータ重心から、2つの前記支持点を結んだ直線へ延びる垂線の長さが、前記モータ回転軸中心と前記モータ重心との距離よりも短いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置である。
【0011】
このような構成によれば、モータ重心に2つの支持点を結んだ直線がより一層近付くので、モータの振動および騒音をより一層抑えることができる。
【0012】
また、請求項4に係る発明は、前記モータは、ネジによって前記基体に固定されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置である。
【0013】
このような構成によれば、モータの組付け後であっても、モータのみを交換可能となるので、リペア性およびリサイクル性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る車両用ブレーキ液圧制御装置によると、モータの振動や騒音を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置を示した斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置を示した正面図および部分拡大図である。
【図3】本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置を示した側面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置の基体に形成された穴および流路の内面を可視化した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、添付した図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の各実施形態においては、アンチロック制御やトラクション制御などを行うことが可能な車両用ブレーキ液圧制御装置に用いられる電動モータの取付構造を例示する。本実施形態の説明において、上下方向は、車両用ブレーキ液圧制御装置を車体に設置した状態での方向を示す。
【0017】
まず、車両用ブレーキ液圧制御装置Uの構成を説明する。図1乃至図3に示すように、車両用ブレーキ液圧制御装置Uは、往復動ポンプPや電磁弁(図示せず)などの各種部品が組み付けられる基体100と、往復動ポンプPの動力源となる電動モータ(モータ)200と、電磁弁の開閉や電動モータ200の作動を制御する電子制御ユニット(図示せず)と、この電子制御ユニットが収容されるコントロールハウジング300とを主に備えている。
【0018】
図1乃至図4に示すように、基体100は、略直方体に形成される金属部品であり、その内部には流体であるブレーキ液の流路(油路)が形成されている。また、基体100の各面には、図示せぬマスタシリンダからの管材が接続される入口ポート110.110,110(図1および図4参照)や図示せぬ車輪ブレーキに至る管材が接続される出口ポート111,111(図1および図4参照)のほか、電磁弁(図示せず)や圧力センサ(図示せず)といった電子機器が装着される穴(孔)112,112,…(図4参照)や、往復動ポンプPが装着される穴(孔)113,113(図4参照)や、リザーバ(図示せず)が装着される穴(孔)114,114(図4参照)や、電動モータ200のモータバスバーが挿通される貫通孔115(図4参照)等が形成されている。なお、各穴同士は、直接に、あるいは基体100の内部に形成された流路を介して互いに連通している。
【0019】
図1乃至図3に示すように、電動モータ200は、往復動ポンプPの動力源となるものであり、基体100の後面側に一体的に固着される。電動モータ200の出力軸(図示せず)には、偏心軸部が設けられていて、この偏心軸部には、ボールベアリングが嵌め込まれている。また、出力軸の下方には、図示せぬロータに電力を供給するためのモータバスバーが突設されている。モータバスバーは、基体100の下部に形成された貫通孔115(図4参照)に挿入され、その先端部分がコントロールハウジング300の内部に設けられた図示せぬ接続端子に接続される。以上のように、電動モータ200は、種々の部品がモータ回転軸中心Xからオフセットして設けられているので、モータ重心Gがモータ回転軸中心Xから偏心した位置(本実施形態では、モータ回転軸中心Xの下方位置)にある。モータ重心Gの位置は、解析または実測によって求められる。
【0020】
図示せぬ電子制御ユニットは、電子回路がプリントされた基板に半導体チップ等が搭載されてなるものであり、図示せぬ圧力センサや車輪速度センサといった各種センサから得られた情報や予め記憶させておいたプログラム等に基づいて、電磁弁の開閉や電動モータ200の作動を制御する。
【0021】
コントロールハウジング300は、基体100の前面(図1中、紙面左奥側)に一体的に固着されるものである。コントロールハウジング300の内部には、図示は省略するが、電磁弁を駆動させるための電磁コイルや、モータバスバーの接続端子などが設けられている。
【0022】
図2に示すように、電動モータ200は、基体100の後面(図1中、紙面右手前側)に形成された軸受穴120(図4参照)に装着される。以下、電動モータ200の基体100への取付構造を説明する。
【0023】
図1乃至図3に示すように、電動モータ200は、外殻となる有底筒状のヨーク210を備えている。ヨーク210は、鋼板等の金属材料を深絞り加工等のプレス加工によって成形されている。ヨーク210の内部にはスロットにマグネットワイヤを巻きつけてなるコア(図示せず)が収容されている。コアは出力軸に嵌合されて回転可能に設けられている。ヨーク210の開口端部には、径方向外方に延出する一対のブラケット211,211がヨーク210を挟むように形成されている。ブラケット211には、ネジ220の貫通孔(図示せず)が形成されている。貫通孔は、ネジ220の胴部の外径より僅かに大きい内径に形成されており、ネジ220の胴部が挿通するようになっている。ネジ220は、電動モータ200を基体100に固定するための固定手段であって、電動モータ200のブラケット211の各貫通孔に挿通されて、基体100に形成された各ネジ穴121a,121b(図4参照)にそれぞれ螺合される。
【0024】
図4に示すように、一方のネジ穴121aは、基体100の軸受穴120の中心(モータ回転軸中心X)を通る水平線よりも上側で、且つ軸受穴120の中心を通る垂直線よりも後面から見て右側(図4中、右側)に位置し、基体100の後面の側端部近傍に形成されている。具体的には、ネジ穴121aは、往復動ポンプPが装着される孔113(図中、右側の孔113)の上方で、電磁弁が装着される穴112(図中、右側上部の穴112)の右外方で、且つ出口ポート111(図中、右側の出口ポート111)の下方の領域に位置している。なお、図4では、ネジ穴121aと、この奥側に形成された流路(入口ポート110に繋がる流路)が重なって図示されているが、これらは基体100内で、干渉してはいない。
【0025】
他方のネジ穴121bは、基体100の軸受穴120の中心(モータ回転軸中心X)を通る水平線よりも下側で、且つ軸受穴120の中心を通る垂直線よりも後面から見て左側(図4中、左側)に位置し、基体100の後面の側端部近傍に形成されている。具体的には、ネジ穴121bは、往復動ポンプPが装着される孔113(図中、左側の孔113)の下方で、且つリザーバが装着される穴114(図中、左側の穴114)の左外方に位置している。ネジ穴121bの中心モータ回転軸中心Xを通る垂直線までの距離(水平方向距離)は、ネジ穴121aの中心モータ回転軸中心Xを通る垂直線までの距離(水平方向距離)と同等になっている。ネジ穴121bの中心モータ回転軸中心Xを通る水平線までの距離(垂直方向距離)は、ネジ穴121aの中心モータ回転軸中心Xを通る水平線までの距離(垂直方向距離)よりも長くなっている。
【0026】
以上のように、電動モータ200は、基体100に2点支持で固定されている。そして、基体100の各ネジ穴121a,121bの中心(基体100に固定された電動モータ200の各貫通穴の中心と同じ位置)が、2つの支持点Y,Yとなる。
【0027】
ここで、図2に示すように、支持点Y,Yの位置は、各支持点Y,Yを結んだ直線Lが、モータ回転軸中心Xからモータ重心G側(本実施形態では下側)にオフセットするように決定されている。また、モータ回転軸中心Xと2つの支持点Y,Yとで囲まれる三角形領域A内にモータ重心Gが位置するように構成されている。さらに、2つの支持点Y,Yを結んだ直線Lとモータ重心Gとの距離(モータ重心Gから直線L上に延びた垂直線L2の長さ)が、モータ回転軸中心Xとモータ重心Gとの距離Bよりも短くなるように構成されている。つまり、直線Lがモータ重心Gに近い位置を通過して、近接していることとなる。
【0028】
なお、本実施形態では、モータ重心Gがモータ回転軸中心Xよりも下方に位置しているので、支持点Y,Yを結んだ直線Lがモータ回転軸中心Xよりも下方を通過しているが、モータ重心Gがモータ回転軸中心Xよりも上方に位置する場合は、支持点Y,Yを結んだ直線Lがモータ回転軸中心Xよりも上方を通過するようになる。
【0029】
以上のように本実施形態によれば、電動モータ200のモータ重心Gと、2つの支持点Y,Yを結んだ直線Lとを近接させることができるので、電動モータ200を支持点Y,Yでバランスよく基体100に固定することができる。これによって、電動モータ200にかかる、支持点Y,Yを結んだ直線Lからのモータ重心Gの偏心モーメントを小さくでき、電動モータ200の回転振動を2つの支持点Y,Y間で効率的に抑制することができる。したがって、電動モータ200全体としての振動も抑えることができ、さらには、その振動に起因する騒音も抑えることができる。
【0030】
特に、本実施形態では、モータ回転軸中心Xと2つの支持点Y,Yとで囲まれる三角形領域A内にモータ重心Gが位置するように構成し、さらに、2つの支持点Y,Yを結んだ直線Lとモータ重心Gとの距離が、モータ回転軸中心Xとモータ重心Gとの距離よりも短くなるように構成したことで、2つの支持点Y,Yを結んだ直線Lがモータ重心Gにより一層近付くので、電動モータ200にかかる偏心モーメントをさらに小さくできる。これによって、電動モータ200の回転振動の抑制効率を高めることができ、電動モータ200の振動および騒音をより一層抑えることができる。
【0031】
また、支持点Y,Yを結ぶ直線Lが、モータ回転軸中心X上を通過する必要がないので、支持点Y,Yの位置決めの自由度が高い。したがって、支持点Y,Yの位置を、基体100の穴(孔)や流路等に干渉しないように調整することが可能になるので、基体100の穴(孔)や流路等の配置レイアウトの自由度も高くなる。
【0032】
さらに本実施形態では、電動モータ200を、ネジ220によって基体100に固定しているので、電動モータ200の着脱が可能である。これによって、モータの組付け後の検査時に、電動モータ200に不具合が発生した場合であっても、モータのみを交換すればよいので、リペア性が高く、仕損費を安く抑えることができる。また、中古部品において、モータのみを交換すれば製品の再生ができる場合もあるので、電動モータ200を着脱自在に固定したことによってリサイクル性を向上させることができる。
【0033】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態では、モータ重心Gが、2つの支持点Y,Yを結んだ直線Lと近接しているが、モータ重心G上を直線Lが通過するようにしてもよい。また、本実施形態では、モータ重心Gが、モータ回転軸中心Xと2つの支持点Y,Yとで囲まれる三角形領域A内に位置するようになっているが、これに限られるものではない。2つの支持点Y,Yを結んだ直線Lが、モータ回転軸中心Xからモータ重心G側にオフセットして、モータ重心Gに近接していれば、モータ重心Gが三角形領域Aの外側に位置してもよい。
【0034】
さらには、本実施形態では、電動モータ200をネジ220によって基体100に固定しているが、これに限定されるものではない。例えば、ボルト等の他の固定手段を用いてもよいし、基体の一部を塑性変形させて電動モータを挟持するかしめ固定としてもよい。但し、リペア性およびリサイクル性を考慮すると、本実施形態のように電動モータ200を着脱可能に固定できる固定手段が好ましい。
【符号の説明】
【0035】
100 基体
200 電動モータ(モータ)
220 ネジ
A 三角形領域
G モータ重心
L (支持点を結ぶ)直線
U 車両用ブレーキ液圧制御装置
X モータ回転軸中心
Y 支持点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ重心がモータ回転軸中心から偏心しているモータを、基体に2点支持で固定する車両用ブレーキ液圧制御装置において、
前記モータを支持する2つの支持点を結んだ直線が、前記モータ回転軸中心から前記モータ重心側にオフセットするように、前記支持点が配置されている
ことを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
前記モータ回転軸中心と2つの前記支持点とで囲まれる三角形領域内に前記モータ重心が位置する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
前記モータ重心から、2つの前記支持点を結んだ直線へ延びる垂直線の長さが、前記モータ回転軸中心と前記モータ重心との距離よりも短い
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項4】
前記モータは、ネジによって前記基体に固定される
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−11632(P2011−11632A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157430(P2009−157430)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】