説明

車両用制御装置

【課題】搭乗者に違和感を与え難くすることができる車両用制御装置を提供すること。
【解決手段】条件判断手段S32により所定の調整条件を満たすと判断される場合に、キャンバ角調整手段S33,S36によりキャンバ角調整装置を作動させて車輪のキャンバ角が調整される。この調整条件を満たす場合であっても、車輪のキャンバ角の調整を禁止する所定の条件を満たす場合は、調整禁止手段S31によりキャンバ角調整手段S33,S36によるキャンバ角の調整が禁止され、キャンバ角の変化に伴う振動等を生じなくできる。これにより、車輪のキャンバ角の調整を禁止する所定の条件を満たす場合に、キャンバ角調整手段S33,S36によるキャンバ角の調整を調整禁止手段S31により禁止することで、キャンバ角の変化に伴う振動等を生じないようにして、搭乗者に違和感を与え難くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置を備えた車両に用いられる車両用制御装置に関し、特に、搭乗者に違和感を与え難くすることができる車両用制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の走行状態に応じて車輪のキャンバ角を調整することで、車両の走行安定性を確保する技術が知られている。この種の技術に関し、例えば、特許文献1には、車速を検出し、その車速に応じて車輪のキャンバ角を変更する技術が開示されている。また、運転者が車内に配設されたスイッチを操作することで、車輪のキャンバ角を変更できることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−193781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、運転者が、運転者以外の搭乗者の意に反して、車内に配設されたスイッチを操作して車輪のキャンバ角を変更することができる。この場合は、車輪のキャンバ角の変化に伴う振動等が生じるため、運転者以外の搭乗者に違和感を与えることがあるという問題点があった。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、搭乗者に違和感を与え難くすることができる車両用制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
この目的を達成するために請求項1記載の車両用制御装置によれば、車輪のキャンバ角を調整する所定の調整条件を満たすか条件判断手段により判断され、その条件判断手段により所定の調整条件を満たすと判断される場合に、キャンバ角調整手段によりキャンバ角調整装置を作動させて車輪のキャンバ角が調整される。また、条件判断手段により所定の調整条件を満たすと判断される場合であっても、車輪のキャンバ角の調整を禁止する所定の条件を満たす場合は、調整禁止手段によりキャンバ角調整手段によるキャンバ角の調整が禁止される。キャンバ角の調整が禁止されると、車輪のキャンバ角の変化が生じなくなるため、キャンバ角の変化に伴う振動等を生じなくできる。これにより、車輪のキャンバ角の調整を禁止する所定の条件を満たす場合に、キャンバ角調整手段によるキャンバ角の調整を調整禁止手段により禁止することで、キャンバ角の変化に伴う振動等を生じないようにして、搭乗者に違和感を与え難くすることができる効果がある。
【0007】
請求項2記載の車両用制御装置によれば、発進状態取得手段により車両の発進状態が取得され、その発進状態取得手段により取得された車両の発進状態が所定の発進条件を満たすか、発進状態判断手段により判断される。判断の結果、車両の発進状態が所定の発進条件を満たす場合に、調整禁止手段によるキャンバ角の調整の禁止が、調整禁止解除手段により解除される。その結果、車両の発進状態が所定の発進条件を満たす場合には、所定の調整条件を満たすと判断される場合に、キャンバ角調整手段によりキャンバ角調整装置を作動させて車輪のキャンバ角が調整される。
【0008】
ここで、車両の発進状態が所定の発進条件を満たす場合には、車両の発進に伴って路面の凹凸や加速度等による振動等がある程度発生し、その振動等は車両を介して搭乗者に伝わる。その振動等に紛れるため、車輪のキャンバ角が調整されることによって生じる振動等を搭乗者に感知され難くすることができる。この場合に調整禁止解除手段により調整禁止手段によるキャンバ角の調整の禁止を解除し、車輪のキャンバ角を調整可能にすることで、請求項1の効果に加え、車両の走行安定性や操縦性等を向上できると共に、車輪のキャンバ角が調整されたときの違和感を搭乗者に与え難くすることができる効果がある。
【0009】
請求項3記載の車両用制御装置によれば、走行状態取得手段により車両の走行状態が取得され、その走行状態取得手段により取得された車両の走行状態が停車するための所定の走行条件を満たすか、走行状態判断手段により判断される。判断の結果、車両の走行状態が所定の走行条件を満たす場合に、調整禁止手段はキャンバ角調整手段によるキャンバ角の調整を禁止する。
【0010】
ここで、車両の走行状態が停車するための所定の走行条件を満たす場合には、車両の走行に伴って路面の凹凸や加速度等による振動等が減少する。この場合は、車輪のキャンバ角が調整されることによって振動等が生じると、搭乗者に感知され易くなる。この場合に調整禁止手段によりキャンバ角の調整を禁止することで、車輪のキャンバ角が調整されることによって生じる振動等を防ぎ、請求項1又は2の効果に加え、搭乗者に違和感を与え難くすることができる効果がある。
【0011】
請求項4記載の車両用制御装置によれば、調整禁止手段は、電源が投入されたこと又は車輪駆動装置が始動されたことを条件に、キャンバ角調整手段によるキャンバ角の調整を禁止する。電源の投入または車輪駆動装置の始動は、停止している車両で行われる。従って、停止している車両で車両用制御装置に電源が投入されたとき又は車輪駆動装置が始動されたときに、車輪のキャンバ角の調整が禁止される。
【0012】
ここで、停止した車両では、路面の凹凸や加速度等による振動等は生じないため、停止した車両に搭乗者がいる場合に車輪のキャンバ角が調整されると、車輪のキャンバ角が調整されることによって生じる振動等が搭乗者に感知され易い。これに対し、車両用制御装置に電源が投入されたこと又は車輪駆動装置が始動されたことを条件に、調整禁止手段はキャンバ角調整手段によるキャンバ角の調整を禁止するので、請求項1から3のいずれかの効果に加え、停止した車両の搭乗者に違和感を与え難くすることができる効果がある。
【0013】
請求項5記載の車両用制御装置によれば、発進状態取得手段または走行状態取得手段は、車両の走行速度または制動力操作部材の操作状態を取得するので、請求項2から4のいずれかの効果に加え、発進状態や走行状態を精度良く簡易に検出できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施の形態における車両用制御装置が搭載される車両を模式的に示した模式図である。
【図2】懸架装置の斜視図である。
【図3】(a)は、キャンバ角調整装置の上面模式図であり、(b)は、図3(a)のIIIb−IIIb線におけるキャンバ角調整装置の断面模式図である。
【図4】(a)は、第1状態における懸架装置の正面模式図であり、(b)は、第2状態における懸架装置の正面模式図である。
【図5】車両用制御装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図6】第1動作禁止フラグ設定処理を示すフローチャートである。
【図7】第2動作禁止フラグ設定処理を示すフローチャートである。
【図8】状態量判断処理を示すフローチャートである。
【図9】キャンバ制御処理を示すフローチャートである。
【図10】第2実施の形態における車両用制御装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図11】第1動作禁止フラグ設定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施の形態における車両用制御装置100が搭載される車両1を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印U−D,L−R,F−Bは、車両1の上下方向、左右方向、前後方向をそれぞれ示している。
【0016】
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、車体BFと、その車体BFを支持する複数(本実施の形態では4輪)の車輪2と、それら複数の車輪2の内の一部(本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FR)を回転駆動する車輪駆動装置3と、各車輪2を車体BFに独立に懸架する懸架装置4,14と、複数の車輪2の内の一部(本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FR)を操舵する操舵装置5とを主に備えて構成されている。
【0017】
次いで、各部の詳細構成について説明する。車輪2は、図1に示すように、車両1の前方側(矢印F方向側)に位置する左右の前輪2FL,2FRと、車両1の後方側(矢印B方向側)に位置する左右の後輪2RL,2RRとを備えている。なお、本実施の形態では、左右の前輪2FL,2FRは、車輪駆動装置3により回転駆動される駆動輪として構成される一方、左右の後輪2RL,2RRは、車両1の走行に伴って従動される従動輪として構成されている。
【0018】
また、車輪2は、左右の前輪2FL,2FR及び左右の後輪2RL,2RRが全て同じ形状および特性に構成され、それら左右の前輪2FL,2FR及び左右の後輪2RL,2RRのトレッドの幅(図1左右方向の寸法)が全て同じ幅に構成されている。
【0019】
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FRを回転駆動するための装置であり、後述するように電動モータ3aにより構成されている(図5参照)。また、電動モータ3aは、図1に示すように、デファレンシャルギヤ(図示せず)及び一対のドライブシャフト31を介して左右の前輪2FL,2FRに接続されている。
【0020】
運転者がアクセルペダル61を操作した場合には、車輪駆動装置3から左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力が付与され、それら左右の前輪2FL,2FRがアクセルペダル61の操作量に応じて回転駆動される。なお、左右の前輪2FL,2FRの回転差は、デファレンシャルギヤにより吸収される。
【0021】
懸架装置4,14は、路面から車輪2を介して車体BFに伝わる振動を緩和するための装置、いわゆるサスペンションとして機能するものであり、伸縮可能に構成され、図1に示すように、懸架装置4が左右の前輪2FL,2FRを、懸架装置14が左右の後輪2RL,2RRを、それぞれ車体BFに懸架する。なお、左右の後輪2RL,2RRを懸架する懸架装置14は、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角を調整するキャンバ角調整機構としての機能を兼ね備えている。
【0022】
ここで、図2から図4を参照して、懸架装置14の詳細構成について説明する。図2は、懸架装置14の斜視図である。なお、懸架装置14の構成は左右共通であるので、以下においては右の後輪2RRを懸架する懸架装置14についてのみ説明し、左の後輪2RLを懸架する懸架装置14についての説明を省略する。
【0023】
図2に示すように、懸架装置14は、ダブルウィッシュボーン式サスペンション構造として構成され、車輪2(右の後輪2RR)を回転可能に保持するキャリア部材41と、そのキャリア部材41を車体BFに上下動可能に連結すると共に互いに所定間隔を隔てて上下に配置されるアッパーアーム42及びロアアーム43と、ロアアーム43及びアッパーブラケットUBの間に介装され緩衝装置として機能するコイルスプリングCS及びショックアブソーバSAと、キャリア部材41の上下動を許容しつつ前後方向の変位を規制するトレーリングアーム44と、アッパーアーム42及び車体BFとの間に介装されるキャンバ角調整装置45とを主に備えて構成される。なお、ロアアーム43は2本が配設されている。
【0024】
このように、本実施の形態では、ダブルウィッシュボーン式サスペンション構造により車輪2を懸架するので、車輪2が車体BFに対して上下動し、懸架装置14が伸縮(以下「サスストローク」と称す)する際のキャンバ角の変化を最小限に抑制することができる。キャンバ角調整装置45がアッパーアーム42に連結されるので、ロアアーム43に連結される場合と比較して、車輪2の接地面側を支点として車輪2のキャンバ角を調整する動作を行うことができるので、かかるキャンバ角を調整するための駆動力を低減することができる。同様に、車体BFの上方側に配設することができるので、その分、路面から跳ね飛ばされた石などを衝突しにくくして、キャンバ角調整装置45が破損することを抑制できる。
【0025】
図3を参照して、キャンバ角調整装置45の詳細構成を説明する。図3(a)は、キャンバ角調整装置45の上面模式図であり、図3(b)は、図3(a)のIIIb−IIIb線におけるキャンバ角調整装置45の断面模式図である。なお、図3(a)では、一部の構成を部分的に断面視した状態が図示されている。
【0026】
キャンバ角調整装置45は、車輪2(右の後輪2RR)のキャンバ角を調整するための装置であり、回転駆動力を発生するRRモータ91RRと、そのRRモータ91RRから入力される回転を減速して出力する減速装置92と、その減速装置92から出力される回転駆動力により回転駆動されるクランク部材93と、そのクランク部材93の位相を検出するRRポジションセンサ94RRとを主に備えて構成される。
【0027】
RRモータ91RRは、DCモータにより構成され、そのRRモータ91RRの回転駆動力は、減速装置92により減速された後、クランク部材93に付与される。クランク部材93は、RRモータ91RRの軸回転運動をアッパーアーム42の往復運動に変換するクランク機構として構成される部位であり、所定間隔を隔てて対向配置される一対のホイール部材93aと、それら一対のホイール部材93aの対向面間を連結するクランクピン93bとを備える。
【0028】
ホイール部材93aは、軸心O1を有する円盤状に形成され、減速装置92から付与される回転駆動力により軸心O1を回転中心として回転可能な状態で車体BF(図2参照)に配設される。クランクピン93bは、アッパーアーム42の一端側に設けられた連結部42aが回転可能に連結される軸状部材であり、ホイール部材93aの軸心O1に対して偏心して配設されている。
【0029】
即ち、クランクピン93bの軸心O2は、ホイール部材93aの軸心O1に対して、距離Erだけ偏心して位置する。よって、ホイール部材93aが軸心O1を中心として回転されると、クランクピン93bは、ホイール部材93aの軸心O1を中心とし距離Erを回転半径とする回転軌跡TRに沿って移動される。これにより、クランク部材93が回転されると、クランクピン93bに連結されたアッパーアーム42が車体BF(図2参照)に近接または離間する方向(図3上下方向)へ往復運動される。
【0030】
RRポジションセンサ94RRは、ホイール部材93aの中央に軸心O1と同軸に連結されるポジション軸94aと、そのポジション軸94aに配設されポジション軸94aの回転角に応じて抵抗値が変化する可変抵抗器(図示せず)とを備える。よって、クランク部材93が回転された場合には、可変抵抗器の抵抗値に基づいて、クランク部材93の回転角(即ち、クランクピン93bの位相)を検出できる。なお、ポジションセンサとしては、ホール素子を用いた非接触式センサを用いても良い。
【0031】
図4(a)は、第1状態における懸架装置14の正面模式図であり、図4(b)は、第2状態における懸架装置14の正面模式図である。上述したように、アッパーアーム42は、一端側に設けられた連結部42a(図3参照)がクランクピン93bを介してホイール部材93aの軸心O1から偏心した位置(軸心O2)に回転可能に連結される一方、他端側(図4左側)がキャリア部材41の上端側(図4上側)に回転可能に連結される。
【0032】
よって、RRモータ91RRから付与される回転駆動力によりクランク部材93のホイール部材93aが軸心O1を回転中心として回転されると、クランクピン93bが回転軌跡TRに沿って移動され(図3(b)参照)、アッパーアーム42が往復移動される。これにより、アッパーアーム42を介して、キャリア部材41の上端側(図4上側)が車体BFに対して近接または離間されることで、キャリア部材41に保持される車輪2のキャンバ角が調整される。
【0033】
ここで、アッパーアーム42の他端側(図4左側)をキャリア部材41の上端側に回転可能に連結する際の回転中心を軸心O3と定義する。本実施の形態では、各軸心O1,O2,O3が、車輪2から車体BFへ向かう方向(図4左から右に向かう方向)において、軸心O3、軸心O2、軸心O1の順に一直線上に並んで位置する第1状態(図4(a)に示す状態)と、軸心O3、軸心O1、軸心O2の順に一直線上に並んで位置する第2状態(図4(b)に示す状態)とのいずれか一方の状態となるように、車輪2のキャンバ角を調整する。
【0034】
なお、本実施の形態では、図4(b)に示す第2状態において、車輪2のキャンバ角がマイナス方向(車輪2の中心線が垂直線に対して車体BF側に傾いた状態)の所定角度(本実施の形態では−3°、以下「第2キャンバ角」と称す)に調整され、車輪2にネガティブキャンバが付与される。一方、図4(a)に示す第1状態では、車輪2へのキャンバ角の付与が解除され、そのキャンバ角が0°(以下「第1キャンバ角」と称す)に調整される。
【0035】
この場合、第1状態および第2状態では、軸心O3及び軸心O2を結ぶ直線と、軸心O2の回転軌跡TR(図3(b)参照)の軸心O2における接線とを直角とすることができるので、アッパーアーム42からホイール部材93aへ力が加わっても、ホイール部材93aを回転させる力成分が発生せず、ホイール部材93aが回転しないようにすることができる。よって、車輪2のキャンバ角を所定角度(第1キャンバ角または第2キャンバ角)に機械的に維持することができるので、第1状態または第2状態においてRRモータ91RRの駆動力を解除しておくことができる。その結果、車輪2のキャンバ角を所定角度に維持するために必要なRRモータ91RRの消費エネルギーの低減を図ることができる。
【0036】
なお、請求項1記載の「キャンバ角」としては、本実施の形態では、第1キャンバ角および第2キャンバ角が該当する。また、左右の前輪2FL,2FRに対応して設けられる懸架装置4は、左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角を調整する機能が省略されている点(即ち、キャンバ角調整装置45が省略され、アッパーアーム42の一端側が車体BFに回転可能に連結されている点)と、操舵機能を有して構成される点を除き、その他の構成は懸架装置14と同一の構成であるので、その説明を省略する。
【0037】
図1に戻って説明する。操舵装置5は、運転者によるステアリング63の操作を左右の前輪2FL,2FRに伝えて操舵するための装置であり、いわゆるラック&ピニオン式のステアリングギヤとして構成されている。
【0038】
この操舵装置5によれば、運転者によるステアリング63の操作(回転)は、まず、ステアリングコラム51を介してユニバーサルジョイント52に伝達され、ユニバーサルジョイント52により角度を変えられつつステアリングボックス53のピニオン53aに回転運動として伝達される。そして、ピニオン53aに伝達された回転運動は、ラック53bの直線運動に変換され、ラック53bが直線運動することで、ラック53bの両端に接続されたタイロッド54が移動する。その結果、タイロッド54がナックル55を押し引きすることで、車輪2に所定の舵角が付与される。
【0039】
アクセルペダル61及びブレーキペダル62は、運転者により操作される操作部材であり、各ペダル61,62の操作状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じて、車両1の走行速度や制動力が決定され、車輪駆動装置3が駆動制御される。ステアリング63は、運転者により操作される操作部材であり、その操作状態(ステア角、ステア角速度など)に応じて、操舵装置5により左右の前輪2FL,2FRが操舵される。
【0040】
なお、請求項1記載の「制動力操作部材」としては、本実施の形態ではブレーキペダル62が該当する。但し、制動力操作部材はブレーキペダル62に限らず、運転者に操作される部材であって、操作によって制動力が発生する部材であれば特に限定されるものではない。例えば、アクセルペダル61の操作量によって車輪駆動装置3のイナーシャ等(例えば、車輪駆動装置3がエンジンの場合はエンジンブレーキ、モータの場合は起電力等)により制動力が発生するように構成されている場合は、アクセルペダル61も「制動力操作部材」に該当する。
【0041】
車両用制御装置100は、上述したように構成される車両1の各部を制御するための装置であり、例えば、各ペダル61,62やステアリング63の操作状態、或いは、サスストロークセンサ装置83の検出結果に応じてキャンバ角調整装置45(図3参照)を作動制御する。
【0042】
次いで、図5を参照して、車両用制御装置100の詳細構成について説明する。図5は、車両用制御装置100の電気的構成を示したブロック図である。車両用制御装置100は、図5に示すように、CPU71、ROM72及びRAM73を備え、それらがバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75には、車輪駆動装置3等の装置が接続されている。
【0043】
CPU71は、バスライン74により接続された各部を制御する演算装置である。ROM72は、CPU71により実行される制御プログラム(例えば、図6から図9、図11に図示されるフローチャートのプログラム)や固定値データ等を記憶する書き換え不能な不揮発性のメモリである。
【0044】
RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリであり、キャンバフラグ73a、状態量フラグ73b及び動作禁止フラグ73cが設けられている。
【0045】
キャンバフラグ73aは、車輪2(左右の後輪2RL,2RR)のキャンバ角が第2キャンバ角に調整された状態にあるか否かを示すフラグであり、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角に調整された場合(即ち、ネガティブキャンバが付与された場合)にオンに切り替えられ、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角に調整された場合(即ち、ネガティブキャンバの付与が解除された場合)にオフに切り替えられる。
【0046】
状態量フラグ73bは、車両1の状態量が所定の条件を満たすか否かを示すフラグであり、後述する状態量判断処理(図8参照)の実行時にオン又はオフに切り替えられる。なお、本実施の形態における状態量フラグ73bは、アクセルペダル61、ブレーキペダル62及びステアリング63の操作量の内の少なくとも1の操作量が所定の操作量以上である場合にオンに切り替えられ、CPU71は、この状態量フラグ73bがオンである場合に、車両1の状態量が所定の条件を満たしていると判断する。
【0047】
動作禁止フラグ73cは、車輪2のキャンバ角の調整を禁止する所定の条件を満たすか否かを示すフラグであり、後述する第1および第2動作禁止フラグ設定処理(図6及び図7参照)の実行時にオン又はオフに切り替えられる。CPU71は、この動作禁止フラグ73cがオンである場合に、車両1が車輪2のキャンバ角の調整を禁止する所定の条件を満たしていると判断する。なお、本実施の形態では、車両用制御装置100の電源が投入されたとき、車輪駆動装置3が始動されたときは、いずれも動作禁止フラグ73cはオンに設定される。
【0048】
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FR(図1参照)を回転駆動するための装置であり、それら左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与する電動モータ3aと、その電動モータ3aをCPU71からの指示に基づいて駆動制御する駆動制御回路(図示せず)とを主に備えている。但し、車輪駆動装置3は、電動モータ3aに限られず、他の駆動源を採用することは当然可能である。他の駆動源としては、例えば、油圧モータやエンジン等が例示される。
【0049】
キャンバ角調整装置45は、車輪2(左右の後輪2RL,2RR)のキャンバ角を調整するための装置であり、上述したように、各懸架装置14のクランク部材93(図3参照)へ回転駆動力を付与するRLモータ91RL及びRRモータ91RRと、それら各モータ91RL,91RRの回転駆動力により回転されたクランク部材93の位相をそれぞれ検出するRLポジションセンサ94RL及びRRポジションセンサ94RRと、それら各ポジションセンサ94RL,94RRの検出結果を処理してCPU71へ出力する出力回路(図示せず)と、CPU71からの指示に基づいて各モータ91RL,91RRをそれぞれ駆動制御する駆動制御回路とを主に備えている。
【0050】
なお、各モータ91RL,91RRは、電動のサーボモータとして構成される。即ち、キャンバ角調整装置45は、各ポジションセンサ94RL,94RRにより検出した各モータ91RL,91RRの状態(位相)をフィードバックし、現在位置と目標位置との差分を減少させることで、各モータ91RL,91RRの位置制御を行う。
【0051】
また、駆動制御回路は、RLモータ91RL及びRRモータ91RRの回転軸を電気的にロック(規制)するサーボロック回路を備えており、RLモータ91RL及びRRモータ91RRのサーボロックをオンすることで、各ホイール部材93aの回転をそれぞれ独立して規制可能に構成されている。
【0052】
加速度センサ装置80は、車両1の加速度を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、前後方向加速度センサ80a及び左右方向加速度センサ80bと、それら各加速度センサ80a,80bの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0053】
前後方向加速度センサ80aは、車両1(車体フレームBF)の前後方向(図1矢印F−B方向)の加速度、いわゆる前後Gを検出するセンサであり、左右方向加速度センサ80bは、車両1(車体フレームBF)の左右方向(図1矢印L−R方向)の加速度、いわゆる横Gを検出するセンサである。なお、本実施の形態では、これら各加速度センサ80a,80bが圧電素子を利用した圧電型センサとして構成されている。
【0054】
また、CPU71は、加速度センサ装置80から入力された各加速度センサ80a,80bの検出結果(前後G、横G)を時間積分して、2方向(前後方向および左右方向)の速度をそれぞれ算出すると共に、それら2方向成分を合成することで、車両1の走行速度を取得することができる。
【0055】
ヨーレートセンサ装置81は、車両1のヨーレートを検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、車両1の重心を通る鉛直軸(図1矢印U−D方向軸)回りの車両1(車体フレームBF)の回転角速度を検出するヨーレートセンサ81aと、そのヨーレートセンサ81aの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0056】
ロール角センサ装置82は、車両1のロール角を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、車両1の重心を通る前後軸(図1矢印F−B方向軸)回りの車両1(車体フレームBF)の回転角を検出するロール角センサ82aと、そのロール角センサ82aの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0057】
なお、本実施の形態では、ヨーレートセンサ81a及びロール角センサ82aがサニャック効果により回転角速度および回転角を検出する光学式ジャイロセンサにより構成されている。但し、他の種類のジャイロセンサを採用することは当然可能である。他の種類のジャイロセンサとしては、例えば、機械式や流体式などのジャイロセンサが例示される。
【0058】
サスストロークセンサ装置83は、左右の後輪2RL,2RRを車体BFに懸架する各懸架装置14の伸縮量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、各懸架装置14の伸縮量をそれぞれ検出する合計2個のRLサスストロークセンサ83RL及びRRサスストロークセンサ83RRと、それら各サスストロークセンサ83RL,83RRの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを備えている。
【0059】
本実施の形態では、各サスストロークセンサ83RL,83RRがひずみゲージとして構成されており、これら各サスストロークセンサ83RL,83RRは、各懸架装置14のショックアブソーバ(図示せず)にそれぞれ配設されている。
【0060】
なお、CPU71は、サスストロークセンサ装置83から入力された各サスストロークセンサ83RL,83RRの検出結果(伸縮量)に基づいて、左右の後輪2RL,2RRの接地荷重を取得することもできる。即ち、車輪2の接地荷重と懸架装置4の伸縮量とは比例関係を有しているので、懸架装置4の伸縮量をXとし、懸架装置4の減衰定数をkとすると、車輪2の接地荷重Fは、F=kXとなる。
【0061】
接地荷重センサ装置84は、左右の後輪2RL,2RRの接地荷重を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、各車輪2の接地荷重をそれぞれ検出する合計2個のRL,RR接地荷重センサ84RL,84RRと、それら各接地荷重センサ84RL,84RRの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを備えている。
【0062】
なお、本実施の形態では、各接地荷重センサ84RL,84RRがピエゾ抵抗型の荷重センサとして構成されており、これら各接地荷重センサ84RL,84RRは、各懸架装置14のショックアブソーバSA(図2参照)にそれぞれ配設されている。
【0063】
サイドウォール潰れ代センサ装置85は、左右の後輪2RL,2RRのタイヤサイドウォールの潰れ代を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、各車輪2のタイヤサイドウォールの潰れ代をそれぞれ検出する合計2個のRL,RRサイドウォール潰れ代センサ85RL,85RRと、それら各サイドウォール潰れ代センサ85RL,85RRの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを備えている。
【0064】
なお、本実施の形態では、各サイドウォール潰れ代センサ85RL,85RRがひずみゲージとして構成されており、これら各サイドウォール潰れ代センサ85RL,85RRは、各車輪2内にそれぞれ配設されている。
【0065】
キャンバ設定装置86は、運転者により操作される操作部材であり、操作状態を検出すると共に、その検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを備えている。キャンバ設定装置86の操作状態に応じて角調整装置45(RLモータ91RL,RRモータ91RR)が作動され、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角または第2キャンバ角のいずれかに設定される。本実施の形態では、キャンバ設定装置86がオンのときに車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角に調整されて後輪2RL,2RRにネガティブキャンバが付与され、キャンバ設定装置86がオフのときに車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角に調整されてネガティブキャンバの付与が解除されるように設定されている。
【0066】
シフトポジションセンサ装置87は、シフトレバー(図示せず)の位置(シフトポジション)を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、シフトポジションを検出するシフトポジションセンサ(図示せず)と、その検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを備えている。なお、本実施の形態では、シフトポジションセンサは、磁界を検出する磁気検出素子により構成されている。
【0067】
アクセルペダルセンサ装置61aは、アクセルペダル61の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、アクセルペダル61の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0068】
ブレーキペダルセンサ装置62aは、ブレーキペダル62の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ブレーキペダル62の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0069】
ステアリングセンサ装置63aは、ステアリング63の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力するための装置であり、ステアリング63のステア角を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0070】
なお、本実施の形態では、各角度センサが電気抵抗を利用した接触型のポテンショメータとして構成されている。また、CPU71は、各センサ装置61a,62a,63aから入力された各角度センサの検出結果(操作量)を時間微分して、各ペダル61,62の踏み込み速度およびステアリング63のステア角速度を取得することができる。更に、CPU71は、取得したステアリング63のステア角速度を時間微分して、ステアリング63のステア角加速度を取得することができる。
【0071】
図5に示す他の入出力装置90としては、例えば、GPSを利用して車両1の現在位置を取得すると共にその取得した車両1の現在位置を道路に関する情報が記憶された地図データに対応付けて取得するナビゲーション装置などが例示される。
【0072】
次いで、図6を参照して、第1動作禁止フラグ設定処理について説明する。図6は第1動作禁止フラグ設定処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば0.2秒間隔で)実行される処理である。
【0073】
この処理は、車両1が車輪2のキャンバ角の調整を禁止する所定の条件を満たすかを判断し、所定の条件を満たさないと判断される場合に、車輪2のキャンバ角の調整の禁止を解除する処理である。なお、前述のとおり動作禁止フラグ73cは、車両用制御装置100の電源が投入されたとき、車輪駆動装置3が始動されたときは、いずれもオンに設定される。
【0074】
CPU71は、第1動作禁止フラグ設定処理に関し、まず、動作禁止フラグ73cがオンであるか否かを判断し(S1)、動作禁止フラグ73cがオフであると判断される場合には(S1:No)、既に車輪2のキャンバ角の調整の禁止は解除されているため、この第1動作禁止フラグ設定処理を終了する。一方、動作禁止フラグ73cがオンである(S1:Yes)と判断される場合には、次に、シフトポジションを取得し(S2)、シフトポジションが走行レンジ(前進走行レンジ又は後進走行レンジ)にあるか否かを判断する(S3)。
【0075】
S3の処理の結果、シフトポジションが走行レンジにないと判断される場合には(S3:No)、車両1は停止していると判断されるため、この第1動作禁止フラグ設定処理を終了する。即ち、この第1動作禁止フラグ設定処理では、車両1が停止している場合は、車輪2のキャンバ角の調整を禁止する所定の条件を満たす(所定の発進条件を満たさない)と判断する。
【0076】
一方、S3の処理の結果、シフトポジションが走行レンジにあると判断される場合には(S3:Yes)、次にブレーキペダル62の操作量を取得し(S4)、ブレーキペダル62の操作量が所定の操作量以下であるか否かを判断する(S5)。なお、S5の処理では、S4の処理で取得したブレーキペダル62の操作量と、そのブレーキペダル62の操作量に対応してROM72に予め記憶されている閾値(本実施の形態では、停止した車両1が発進するために制動力を小さくするのに必要なブレーキペダル62の操作量)とを比較して、現在のブレーキペダル62の操作量が所定の操作量以下であるか否かを判断する。
【0077】
その結果、ブレーキペダル62の操作量が所定の操作量より大きいと判断される場合には(S5:No)、この第1動作禁止フラグ設定処理を終了する。即ち、ブレーキペダル62の操作量が所定の操作量より大きいと判断される場合、車両1は停止しているか、或いは大きな制動力が発生しており車両1の走行速度が小さいため、車輪2のキャンバ角の調整を禁止する所定の条件を満たす(所定の発進条件を満たさない)と判断する。
【0078】
これに対し、S5の処理の結果、ブレーキペダル62の操作量が所定の操作量以下であると判断される場合には(S5:Yes)、次にCPU71は、車両1の走行速度を取得し(S6)、車両1の走行速度が所定の走行速度以上であるか否かを判断する(S7)。なお、S7の処理では、S6の処理で取得した車両1の走行速度と、その走行速度に対応してROM72に予め記憶されている閾値(本実施の形態では、車両1の徐行速度)とを比較して、現在の走行速度が所定の走行速度以上であるか否かを判断する。
【0079】
その結果、車両1の走行速度が所定の走行速度より小さいと判断される場合には(S7:No)、この第1動作禁止フラグ設定処理を終了する。即ち、第1動作禁止フラグ設定処理では、車両1の走行速度が所定の走行速度より小さい場合、車輪2のキャンバ角の調整を禁止する所定の条件を満たす(所定の発進条件を満たさない)と判断する。一方、S7の処理の結果、車両1の走行速度が所定の走行速度以上であり、所定の発進条件を満たすと判断される場合には(S7:Yes)、動作禁止フラグ73cをオフして(S8)、この第1動作禁止フラグ設定処理を終了する。
【0080】
次いで、図7を参照して、第2動作禁止フラグ設定処理について説明する。図7は第2動作禁止フラグ設定処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば0.2秒間隔で)実行される処理である。この処理は、車両1が車輪2のキャンバ角の調整を禁止する所定の条件を満たすかを判断し、所定の条件を満たすと判断される場合に、車輪2のキャンバ角の調整を禁止する処理である。
【0081】
CPU71は、第2動作禁止フラグ設定処理に関し、まず、動作禁止フラグ73cがオンであるか否かを判断し(S11)、動作禁止フラグ73cがオンであると判断される場合には(S11:Yes)、既に車輪2のキャンバ角の調整は禁止されているため、この第2動作禁止フラグ設定処理を終了する。
【0082】
一方、S11の処理の結果、動作禁止フラグ73cがオフである(S11:No)と判断される場合には、次に、車両1の走行速度を取得し(S12)、車両1の走行速度が所定の走行速度以上であるか否かを判断する(S13)。なお、S13の処理では、S12の処理で取得した車両1の走行速度と、その走行速度に対応してROM72に予め記憶されている閾値(本実施の形態では、車両1の徐行速度)とを比較して、現在の走行速度が所定の走行速度以上であるか否かを判断する。
【0083】
S13の処理の結果、車両1の走行速度が所定の走行速度以上であると判断される場合には(S13:Yes)、車両1は停止するための走行速度ではない(所定の走行条件を満たさない)と判断されるため、この第2動作禁止フラグ設定処理を終了する。即ち、この第2動作禁止フラグ設定処理では、車両1の走行速度が所定の走行速度以上であると判断される場合は、車輪2のキャンバ角の調整を禁止する所定の条件を満たさないと判断する。
【0084】
一方、S13の処理の結果、車両1の走行速度が所定の走行速度未満であると判断される場合には(S13:No)、次にブレーキペダル62の操作量を取得し(S14)、ブレーキペダル62の操作量が所定の操作量以下であるか否かを判断する(S15)。なお、S15の処理では、S14の処理で取得したブレーキペダル62の操作量と、そのブレーキペダル62の操作量に対応してROM72に予め記憶されている閾値(本実施の形態では、走行する車両1が停止するために制動力を大きくするのに必要なブレーキペダル62の操作量)とを比較して、現在のブレーキペダル62の操作量が所定の操作量以下であるか否かを判断する。
【0085】
その結果、ブレーキペダル62の操作量が所定の操作量以下である(所定の走行条件を満たさない)と判断される場合には(S15:Yes)、この第2動作禁止フラグ設定処理を終了する。即ち、ブレーキペダル62の操作量が所定の操作量以下であると判断される場合は、車両1に停止するための制動力が発生していないため、車輪2のキャンバ角の調整を禁止する所定の条件を満たさないと判断する。これに対し、S15の処理の結果、ブレーキペダル62の操作量が所定の操作量より大きいと判断される場合には(S15:No)、動作禁止フラグ73cをオンして(S16)、この第2動作禁止フラグ設定処理を終了する。
【0086】
次いで、図8を参照して、状態量判断処理について説明する。図8は、状態量判断処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、車両1の状態量が所定の条件を満たすか(車輪2のキャンバ角が調整される所定の調整条件を満たすか)を判断する処理である。
【0087】
CPU71は、状態量判断処理に関し、まず、アクセルペダル61の操作量(踏み込み量)、ブレーキペダル62の操作量(踏み込み量)及びステアリング63の操作量(ステア角)をそれぞれ取得し(S21、S22、S23)、それら取得した各ペダル61,62の操作量およびステアリング63の操作量の内の少なくとも1の操作量が所定の操作量以上であるか否かを判断する(S24)。
【0088】
なお、S4の処理では、S21〜S23の処理でそれぞれ取得した各ペダル61,62の操作量およびステアリング63の操作量と、それら各ペダル61,62の操作量およびステアリング63の操作量にそれぞれ対応してROM72に予め記憶されている閾値(本実施の形態では、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角の状態で車両1が加速、制動または旋回する場合に、車輪2がスリップする恐れがあると判断される限界値)とを比較して、現在の各ペダル61,62の操作量およびステアリング63の操作量が所定の操作量以上であるか否かを判断する。
【0089】
その結果、各ペダル61,62の操作量およびステアリング63の操作量の内の少なくとも1の操作量が所定の操作量以上であると判断される場合には(S24:Yes)、状態量フラグ73bをオンして(S27)、この状態量判断処理を終了する。即ち、この状態量判断処理では、各ペダル61,62の操作量およびステアリング63の操作量の内の少なくとも1の操作量が所定の操作量以上である場合に、車両1の状態量が所定の条件を満たすと判断する。
【0090】
一方、S24の処理の結果、各ペダル61,62の操作量およびステアリング63の操作量のいずれもが所定の操作量より小さいと判断される場合には(S24:No)、キャンバ設定装置86がオンであるか否かを判断する(S25)。なお、キャンバ設定装置86は搭乗者によって操作される装置であり、キャンバ設定装置86がオフのときは、車輪2にネガティブキャンバを付与する意思が搭乗者にないため、状態量フラグ73bをオフして(S26)、この状態量判断処理を終了する。一方、キャンバ設定装置86がオンのときは、車輪2にネガティブキャンバを付与する意思が搭乗者にあるため、状態量フラグ73bをオンして(S27)、この状態量判断処理を終了する。
【0091】
次いで、図9を参照して、キャンバ制御処理について説明する。図9は、キャンバ制御処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、各車輪2(左右の後輪2RL,2RR)のキャンバ角を調整する処理である。
【0092】
CPU71は、キャンバ制御処理に関し、まず、動作禁止フラグ73cがオンであるか否かを判断し(S31)、動作禁止フラグ73cがオンであると判断される場合には(S31:Yes)、このキャンバ制御処理を終了する。これにより、車輪2のキャンバ角の調整を禁止する所定の条件を満たす場合、即ち、車両1が停止している場合、発進直後で走行速度が小さい場合、或いは停車するために走行速度が小さい場合には、車輪2のキャンバ角の調整が禁止される。
【0093】
一方、S31の処理の結果、動作禁止フラグ73cがオフであると判断される場合には(S31:No)、次に、状態量フラグ73bがオンであるか否かを判断する(S32)。その結果、状態量フラグ73bがオンであると判断される場合には(S32:Yes)、キャンバフラグ73aがオンであるか否かを判断する(S33)。その結果、キャンバフラグ73aがオフであると判断される場合には(S33:No)、RL,RRモータ91RL,91RRを作動させて、各車輪2(左右の後輪2RL,2RR)のキャンバ角を第2キャンバ角に調整し、各車輪2にネガティブキャンバを付与すると共に(S34)、キャンバフラグ73aをオンして(S35)、このキャンバ制御処理を終了する。
【0094】
これにより、車両1の状態量が所定の条件を満たす場合、即ち、各ペダル61,62の操作量およびステアリング63の操作量の内の少なくとも1の操作量が所定の操作量以上であり、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角の状態で車両1が加速、制動または旋回すると車輪2がスリップする恐れがあると判断される場合には、車輪2にネガティブキャンバを付与することで、車輪2に発生するキャンバスラストを利用して、車両1の走行安定性を確保することができる。
【0095】
一方、S33の処理の結果、キャンバフラグ73aがオンであると判断される場合には(S33:Yes)、車輪2のキャンバ角は既に第2キャンバ角に調整されているので、S34及びS35の処理をスキップして、このキャンバ制御処理を終了する。
【0096】
これに対し、S32の処理の結果、状態量フラグ73bがオフであると判断される場合には(S32:No)、キャンバフラグ73aがオンであるか否かを判断する(S36)。その結果、キャンバフラグ73aがオンであると判断される場合には(S36:Yes)、RL,RRモータ91RL,91RRを作動させて、各車輪2(左右の後輪2RL,2RR)のキャンバ角を第1キャンバ角に調整し、各車輪2へのネガティブキャンバの付与を解除すると共に(S37)、キャンバフラグ73aをオフして(S38)、このキャンバ制御処理を終了する。
【0097】
これにより、車両1の状態量が所定の条件を満たさない場合、即ち、車両1の走行安定性を優先して確保する必要がない場合には、車輪2へのネガティブキャンバの付与を解除することで、キャンバスラストの影響を回避する。
【0098】
一方、S36の処理の結果、キャンバフラグ73aがオフであると判断される場合には(S36:No)、車輪2のキャンバ角は既に第1キャンバ角に調整されているので、S37及びS38の処理をスキップして、このキャンバ制御処理を終了する。
【0099】
このようにキャンバ制御処理では、車輪2のキャンバ角の調整を禁止する所定の条件を満たすと判断される場合、S32〜S38の処理をスキップして、キャンバ制御処理を終了する。これは、車輪2のキャンバ角が調整されると、車輪2のキャンバ角が調整されたときの振動等が搭乗者に感知され易い場合である。そのような場合に車輪2のキャンバ角が調整されると、搭乗者は違和感を覚えることがある。これを防止するため、車輪2のキャンバ角の調整を禁止することで、車輪2のキャンバ角の変化に伴う振動等を生じないようにして、搭乗者に違和感を与え難くすることができる。
【0100】
また、車輪2のキャンバ角の調整の禁止を解除する処理(第1動作禁止フラグ設定処理(図6参照))において、車両1の走行速度が所定の走行速度以上であると判断される場合は、車両の発進に伴って路面の凹凸や加速度等による振動等がある程度発生していると考えられる。その振動等は車両を介して搭乗者に伝わる。このような場合に車輪2のキャンバ角の調整の禁止を解除することで、車輪のキャンバ角が調整されることによって生じる振動等を紛らせて、搭乗者に感知され難くすることができる。その結果、車輪2のキャンバ角が調整されることにより車両の走行安定性や操縦性等を向上できると共に、車輪のキャンバ角が調整されたときの違和感を搭乗者に与え難くすることができる。
【0101】
なお、第1動作禁止フラグ設定処理(図6参照)において、車両1の走行速度だけでなく、シフトポジション及びブレーキペダル62の操作量に基づいて、車両1が所定の発進状態にあるか否かを判断するので、判断の精度を向上できる。S7の処理では、S6の処理で取得した車両1の走行速度と、その走行速度に対応してROM72に予め記憶されている閾値(本実施の形態では、車両1の徐行速度)とを比較して、現在の走行速度が所定の走行速度以上であるか否かを判断するので、比較対象とする走行速度が低速であり、誤差が生じやすいからである。
【0102】
また、車輪2のキャンバ角の調整を禁止する処理(第2動作禁止フラグ設定処理(図7参照))において、車両1の走行速度が所定の走行速度未満であり、且つブレーキペダル62の操作量が所定の操作量より大きい場合は、車両1が停止するための走行状態にあると判断される。この場合は、車両の走行に伴って路面の凹凸や加速度等による振動等が減少していると考えられる。このような場合に車輪2のキャンバ角が調整されると、それによる振動等が際立つため、搭乗者に感知され易い。このような場合に車輪2のキャンバ角の調整を禁止することで、車輪2のキャンバ角が調整されることによって生じる振動等を防ぎ、搭乗者に違和感を与え難くすることができる。
【0103】
なお、第2動作禁止フラグ設定処理(図7参照)において、車両1の走行速度だけでなく、ブレーキペダル62の操作量にも基づいて車両1が所定の走行条件を満たすか否かを判断するので、ブレーキペダル62を操作する運転者の停車の意思も判断要素に加えることができる。その結果、車両1の走行速度またはブレーキペダル62の操作量のいずれかを判断要素とする場合と比較して、判断の精度を向上できる。
【0104】
また、本実施の形態では、車両用制御装置100の電源が投入されたとき、車輪駆動装置3が始動されたときは、いずれも動作禁止フラグ73cはオンに設定される。即ち、これらの場合は、車輪2のキャンバ角の調整を禁止する条件が成立している。
【0105】
これに対し、車両用制御装置100の電源が投入されたとき、車輪駆動装置3が始動されたときは設定をリセットして、車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角に調整する(ネガティブキャンバの付与を解除する)という設定をすることも可能である。この場合、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角に調整されたまま(ネガティブキャンバが付与されたまま)停車したときは、通常の発進直後に車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角に調整される。また、停車中にキャンバ設定装置86(図5参照)が切り替えられたときは、停車中に車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角または第2キャンバ角に調整される。このような場合、いずれも搭乗者に違和感を与えてしまう。
【0106】
これを防止するため、本実施の形態では、車両用制御装置100の電源が投入されたとき、車輪駆動装置3が始動されたときは、いずれも車輪2のキャンバ角の調整を禁止する条件が成立しているとすることで、停車中や発進直後に車輪2のキャンバ角が調整されることを禁止する。その結果、停車中や発進直後に搭乗者に違和感を与えることを回避できる。このように設定されるので、停車時に車輪駆動装置3を停止する車両(アイドルストップが行われる車両)においても、発進直後に車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角または第2キャンバ角に調整されることを防ぎ、搭乗者に違和感を与えることを防止できる。
【0107】
また、車輪2のキャンバ角の調整の禁止を解除する処理(第1動作禁止フラグ設定処理)、車輪2のキャンバ角の調整を禁止する処理(第2動作禁止フラグ設定処理)において、車両1の走行速度、ブレーキペダル62の操作量を取得して、車両1が所定の発進状態にあるか或いは停止するための所定の走行状態にあるか否かを判断するので、発進状態や走行状態を精度良く簡易に検出できる。
【0108】
また、車輪2のキャンバ角の調整の禁止が解除され、且つ、車両1の状態量が所定の条件を満たすと判断される場合に、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角に調整され、車輪2にネガティブキャンバが付与されるので、車輪2に発生するキャンバスラストを利用して、車両1の走行安定性を確保することができる。一方、車両1の状態量が所定の条件を満たしていないと判断される場合には、車輪2のキャンバ角が第1キャンバ角(第2キャンバ角よりも絶対値が小さいキャンバ角)に調整され、車輪2へのネガティブキャンバの付与が解除されるので、タイヤの偏摩耗を抑制することができる。また、操縦性を向上することもできる。よって、走行安定性の確保とタイヤの偏摩耗の抑制および操縦性の向上との両立を図ることができる。
【0109】
なお、図6に示すフローチャート(第1動作禁止フラグ設定処理)において、請求項2記載の発進状態取得手段としてはS2,S4,S6の処理が、発進状態判断手段としてはS3,S5,S7の処理が、それぞれ該当する。図7に示すフローチャート(第2動作禁止フラグ設定処理)において、請求項3記載の走行状態取得手段としてはS12,S14の処理が、走行状態判断手段としてはS13,S15の処理が、それぞれ該当する。図9に示すフローチャート(キャンバ制御処理)において、請求項1記載の条件判断手段としてはS32の処理が、キャンバ角調整手段としてはS34,S37の処理が、調整禁止手段としてはS31の処理においてYesと判断されるときの処理が、請求項2記載の調整禁止解除手段としてはS31の処理においてNoと判断されるときの処理が、それぞれ該当する。
【0110】
次いで、図10及び図11を参照して第2実施の形態について説明する。まず、車両用制御装置200の詳細構成について説明する。図10は車両用制御装置200の電気的構成を示したブロック図である。車両用制御装置200は、実施の形態1で説明した車両用制御装置100に代えて、車両1に搭載されるものとする。なお、第1実施の形態で説明したものと同一の部分については、同一の符号を付与して以下の説明を省略する。
【0111】
図10に示すように、車両用制御装置200はCPU71、ROM72及びRAM73を備え、それらがバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。RAM73は計時フラグ73dが設けられている。
【0112】
計時フラグ73dは、後述する計時装置88による時間の計測が行われているか否かを示すフラグであり、第1動作禁止フラグ設定処理(図11参照)の実行時にオン又はオフに切り替えられる。CPU71は、この計時フラグ73dがオンである場合に、時間の計測が行われていると判断する。
【0113】
計時装置88は、時間を計測するための装置であり、CPU71からの指示に基づいて時間を計測する計時回路(図示せず)と、その計時回路により計測された時間を処理してCPU71に出力する出力回路(図示せず)とを備えている。
【0114】
次いで、図11を参照して、第1動作禁止フラグ設定処理について説明する。図11は第1動作禁止フラグ設定処理を示すフローチャートである。この処理は、車両用制御装置100の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば0.2秒間隔で)実行される処理である。なお、S1〜S5の処理は第1実施の形態で説明した処理と同一であるため、同一の符号を付与して以下の説明を省略する。
【0115】
CPU71は、S5の処理の結果、ブレーキペダル62の操作量が所定の操作量以下であると判断される場合には(S5:Yes)、次に計時フラグ73dがオンであるか否かを判断する(S41)。計時フラグ73dがオフであると判断される場合には(S41:No)、計時装置88による時間の計測を開始し(S42)、計時フラグ73dをオンして(S43)、この第1動作禁止フラグ設定処理を終了する。
【0116】
一方、S41の処理の結果、計時フラグ73dがオンであると判断される場合には(S41:Yes)、既に計時装置88による時間の計測が始まっているので、計測が開始されてから所定の時間は経過したか否かを判断する(S44)。その結果、所定の時間が経過したと判断される場合には(S44:Yes)、動作禁止フラグ73cをオフして(S45)、時間の計測を終了し(S46)、計時フラグ73dをオフして(S47)、この第1動作禁止フラグ設定処理を終了する。
【0117】
即ち、S44の処理の結果、時間の計測を開始してから所定の時間が経過したと判断される場合は(S44:Yes)、シフトポジションが走行レンジにあり、且つ、ブレーキペダル62の操作量が所定の操作量以下である状態が、所定の時間継続している場合である。例えば、クリープ現象により車両1が所定時間走行した場合が該当する。このような場合は、運転者に車両1を走行させようとする意思があると考えられる。このような場合に動作禁止フラグ73cをオフすることにより(S45)、車輪2のキャンバ角を調整可能な状態にする。これにより、運転者の操作に応じて、走行安定性の確保とタイヤの偏摩耗の抑制および操縦性の向上との両立を図ることができる。
【0118】
一方、S44の処理の結果、時間の計測を開始してから所定の時間が経過していないと判断される場合は(S44:No)、S45〜S47の処理をスキップして、この第1動作禁止フラグ設定処理を終了する。これにより計時装置88による時間の計測を継続する。
【0119】
なお、計時装置88による時間の計測が継続され、且つ、第1動作禁止フラグ設定処理が繰り返し実行されている場合であっても、S3又はS5の処理において、シフトポジションが走行レンジにないと判断されるか(S3:No)又はブレーキペダル62の操作量が所定の操作量より大きいと判断される場合には(S5:No)、S44〜S47の処理をスキップして、時間の計測を終了し(S48)、計時フラグ73dをオフして(S49)、この第1動作禁止フラグ設定処理を終了する。
【0120】
即ち、シフトポジションが走行レンジにないと判断されるか(S3:No)又はブレーキペダル62の操作量が所定の操作量より大きいと判断される場合には(S5:No)、車両1が発進するための所定の発進条件を満たさないため、車輪2のキャンバ角の調整を禁止する。
【0121】
以上のような第2実施の形態によれば、シフトポジションが走行レンジにあり、且つ、ブレーキペダル62の操作量が所定の操作量以下である状態が所定時間継続していると判断される場合は、車両の発進に伴って路面の凹凸や加速度等による振動等がある程度発生していると考えられる。その振動等は車両を介して搭乗者に伝わる。このような場合に車輪2のキャンバ角の調整の禁止を解除することで、車輪のキャンバ角が調整されることによって生じる振動等を紛らせて、搭乗者に感知され難くすることができる。その結果、車輪2のキャンバ角が調整されることにより車両の走行安定性や操縦性等を向上できると共に、車輪のキャンバ角が調整されたときの違和感を搭乗者に与え難くすることができる。
【0122】
なお、第1動作禁止フラグ設定処理(図11参照)において、シフトポジション及びブレーキペダル62の操作量に基づいて車両1が所定の発進状態にあるか否かを判断するので、判断の精度を向上できる。シフトポジションによる判断は誤差が生じる余地がなく、ブレーキペダル62の操作量による判断は、車両1の走行速度を判断要素とする場合と比較して、誤差が生じ難いからである。
【0123】
なお、図11に示すフローチャート(第1動作禁止フラグ設定処理)において、請求項2記載の発進状態取得手段としてはS2,S4,S41の処理が、発進状態判断手段としてはS3,S5,S44の処理が、それぞれ該当する。
【0124】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0125】
上記各実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。例えば、上記各実施の形態で説明した第1キャンバ角および第2キャンバ角の値は任意に設定することができる。
【0126】
上記各実施の形態では、車輪2のキャンバ角を第1キャンバ角および第2キャンバ角のいずれかに設定するキャンバ角調整装置45が搭載された車両1に用いられる車両用制御装置100,200について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。任意のキャンバ角に連続的に設定可能に構成されたキャンバ角調整装置が搭載された車両に用いられる車両用制御装置に適用することは当然可能である。
【0127】
上記各実施の形態では、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角をキャンバ角調整装置45により調整する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、これに替えて又はこれに加えて、左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角をキャンバ角調整装置45により調整することは当然可能である。
【0128】
また、左右の後輪2RL,2RRのキャンバ角をキャンバ角調整装置45により調整してネガティブキャンバを付与する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、左右の前輪2FL,2FRのキャンバ角をキャンバ角調整装置45により調整してポジティブキャンバを付与するようにすることは当然可能である。軸心O2の位置やアッパーアーム42の長さ等を変えることにより、ポジティブキャンバを付与するようにすることが可能である。
【0129】
上記各実施の形態では、第1状態および第2状態のいずれにおいても、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線上に軸心O1が位置する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、第1状態または第2状態の一方のみにおいて、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線上に軸心O1が位置し、第1状態または第2状態の他方においては、軸心O2及び軸心O3を結ぶ直線上に軸心O1が位置しないように制御することは当然可能である。
【0130】
上記各実施の形態では、キャンバ角調整機構45が、アッパーアーム42と車体BFとの間に介装される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、ロアアーム43と車体BFとの間にキャンバ角調整機構45を介装しても良い。
【0131】
上記各実施の形態のいずれかの一部または全部を他の実施の形態の一部または全部と組み合わせても良い。また、上記各実施の形態のうちの一部の構成を省略しても良い。例えば、第1動作禁止フラグ設定処理(図6参照)において、S2〜S5の処理を省略することは可能である。この場合は車両1の走行速度が判断要素となるため、処理を簡易にすることができる。また、第2動作禁止フラグ設定処理(図7参照)において、S12〜S13又はS14〜S15の一方の処理を省略することが可能である。この場合は車両1の走行速度またはブレーキペダル62の操作量のいずれかが判断要素となるため、処理を簡易にすることができる。
【0132】
上記各実施の形態では、アクセルペダル61、ブレーキペダル62及びステアリング63の操作量に基づいて、車両1の状態量が所定の条件を満たすか否かを判断する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、各ペダル61,62及びステアリング63の操作量に代えて、他の状態量に基づいて車両1の状態量が所定の条件を満たすか否かを判断することは当然可能である。他の状態量としては、例えば、各ペダル61,62の操作速度や操作加速度のように、運転者により操作される操作部材の状態を示すものでも良く、或いは、車両1自体の状態を示すものでも良い。車両1自体の状態を示すものとしては、車両1の前後Gなどが例示される。
【0133】
上記各実施の形態では、車両1の状態量が所定の条件を満たすか否かを判断する状態量判断処理において、アクセルペダル61の操作量、ブレーキペダル62の操作量およびステアリング63の操作量が所定の操作量以上であるか否かを判断するための各操作量の判断基準を、車輪2のキャンバ角が第2キャンバ角の状態で車両1が加速、制動または旋回する場合に、車輪2がスリップする恐れがあると判断される限界値とする場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、単に車両1の状態量(例えば、各ペダル61,62の操作量やステアリング63の操作量など)に基づいて設定しても良い。
【0134】
上記各実施の形態では説明を省略したが、車輪2にネガティブキャンバが付与された状態で車両1が走行する場合に、車輪2の接地荷重がタイヤ(トレッド)に偏磨耗を引き起こすおそれのある偏磨耗荷重であるか否かを判断し、所定の偏磨耗荷重であると判断される場合に、車輪2へのネガティブキャンバの付与を解除するように制御することは可能である。この場合、偏摩耗荷重であるか否かを判断する偏摩耗荷重判断処理において、懸架装置4の伸縮量、車両1の前後G、車輪2の接地荷重、タイヤサイドウォールの潰れ代、アクセルペダル61の操作量、ブレーキペダル62の操作量、ステアリング63の操作量、ナビゲーション装置からの情報などを判断基準とすることが可能である。偏摩耗荷重判断処理を実行することにより、タイヤの偏摩耗を抑制することができる。
【符号の説明】
【0135】
100,200 車両用制御装置
1 車両
2FL 左の前輪(車輪の一部)
2FR 右の前輪(車輪の一部)
2RL 左の後輪(車輪の一部)
2RR 右の後輪(車輪の一部)
3 車輪駆動装置
45 キャンバ角調整装置
61 ブレーキペダル(制動力操作部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と、その車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置と、前記車輪を回転駆動する車輪駆動装置と、制動力を発生させるために操作される制動力操作部材とを備えた車両に用いられる車両用制御装置であって、
前記車輪のキャンバ角を調整する所定の調整条件を満たすかを判断する条件判断手段と、
その条件判断手段により所定の調整条件を満たすと判断される場合に、前記キャンバ角調整装置を作動させて前記車輪のキャンバ角を調整するキャンバ角調整手段と、
前記条件判断手段により所定の調整条件を満たすと判断される場合であっても、前記車輪のキャンバ角の調整を禁止する所定の条件を満たす場合は、前記キャンバ角調整手段によるキャンバ角の調整を禁止する調整禁止手段とを備えていることを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
前記車両の発進状態を取得する発進状態取得手段と、
その発進状態取得手段により取得された前記車両の発進状態が所定の発進条件を満たすかを判断する発進状態判断手段と、
その発進状態判断手段により前記車両の発進状態が所定の発進条件を満たすと判断される場合に、前記調整禁止手段によるキャンバ角の調整の禁止を解除する調整禁止解除手段とを備えていることを特徴とする請求項1記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記車両の走行状態を取得する走行状態取得手段と、
その走行状態取得手段により取得された前記車両の走行状態が停車するための所定の走行条件を満たすかを判断する走行状態判断手段と、
前記調整禁止手段は、前記走行状態判断手段により前記車両の走行状態が所定の走行条件を満たすと判断される場合に、前記キャンバ角調整手段によるキャンバ角の調整を禁止することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記調整禁止手段は、電源が投入されたこと又は前記車輪駆動装置が始動されたことを条件に、前記キャンバ角調整手段によるキャンバ角の調整を禁止することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車両用制御装置。
【請求項5】
前記発進状態取得手段または前記走行状態取得手段は、前記車両の走行速度または前記制動力操作部材の操作状態を取得することを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の車両用制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−206554(P2012−206554A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72174(P2011−72174)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】