説明

車両用動力伝達装置

【課題】油室と空気室が隣接する車両用動力伝達装置において、空気室の上部に設けた単一のブリーザだけで、空気室内外の通気と、空気室内への水の流入防止を行うとともに、油室から空気室に漏れた油の排出を行うことができない。
【解決手段】変速機18が収容され内部に油が収容された油室のケース26と、電動機12が収容される内部が空気室のハウジング22を備え、ケース26とハウジング22は隣接して配置され、変速機18の出力軸と電動機12の入力軸が接続される車両用動力伝達装置であって、ケース26の上部に設けられ、ケース26の内圧を調整する第1のブリーザ27と、ハウジング22の下部に設けられ、通常はハウジング内外を連通し、水による浮力もしくはハウジング外からハウジング内へ付勢される水圧によってハウジングの内外の連通を遮断する弁体を有する第2のブリーザ28とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気室と油室が隣接して設けられる車両用動力伝達装置であって、特に、車両用動力伝達装置の本体に設けられ、内部が空気室であるハウジングの内外の連通を維持しつつ外部からの水の流入を防ぐブリーザを備える車両用動力伝達装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも電動機を駆動源として走行する電気自動車やハイブリッド車などの車両用動力伝達装置には、電動機の出力軸と変速機の入力軸が接続され、電動機が収容される内部が空気室のハウジングと、変速機が収容される内部が油室のケースとが隣接して配置されるものがある。特に、電動機が収容されるハウジングは、電動機を空気の循環によって冷却するために外気と連通している空気孔が設けられることがある。
【0003】
このような車両が水溜まり等を走行する場合、車両の掻きあげた水や泥水がハウジング内外を連通する空気孔を通してハウジング内に流入し、漏電や電動機の錆つきによる電動機の性能の低下等が発生するおそれがある。ゆえに、空気孔を無くし、ハウジングを密閉構造としてハウジング内部への水の流入を防止することが考えられる。
【0004】
しかしながら、電動機の収容されるハウジングを密閉構造とすると、電動機は高速で駆動されるため、密閉されたハウジング内は電動機の熱によって高温に上昇することがある。すると、電動機に用いられる磁石等の特性が熱による影響を受けることにより、電動機のトルク制御性が変化するため、電動機の空冷を確保するためにはハウジングを密閉構造とすることは望ましくない。
【0005】
これに関して、ハウジング内への水の流入を防止しつつハウジング内を空冷するために、例えば、特許文献1のようなハウジング内外を連通するブリーザを設けることが考えられる。この特許文献1にあるブリーザは、変速機のケースの上部に設けられており、ケース内外を連通することにより、ケース内の高温の空気を外部へ排出して圧力を調整するとともに、シール部やブリーザからの油漏れを防止している。この変速機のケースの上部に設けられたブリーザをハウジングに設けることが考えられる。これにより、ハウジング内外が連通されるため、ハウジング内の高温の空気を外部へ排出可能となる。特に、ブリーザを変速機のケースの上部に設けることで、車両が水溜り等を走行する際にブリーザを通してハウジング内部に水を流入し難くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−310773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、電動機が収容されて内部が空気室のハウジングの上部にブリーザを設けると、ケースおよびハウジングの軸受けのシール部を通してケースからハウジングに漏れた油を、ブリーザから排出させて検出することが困難となる。そのため、漏れた油をハウジング内から排出し易くするためにブリーザをハウジングの下部に設けると、車両が水溜り等を走行する際に、ブリーザを通してハウジング内部に水が流入するおそれがある。また、電動機が収容されて内部が空気室のハウジングの上部にブリーザを、ハウジングの底部に油の排出口を個別に設けると、ハウジング内外を連通する孔の数が増すため、ハウジング内部に水が流入し易くなる。
【0008】
本発明は上記の問題を解決するものであって、その目的は変速機が収容される油室のケースと電動機が収容される空気室のハウジングとが隣接して配置される車両用動力伝達装置において、ハウジングの通気と、ケースからハウジング内に漏れた油の排出と、外部からハウジング内への水の流入防止とを、単一のブリーザで行う車両用動力伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明に係る車両用動力伝達装置は、変速機が収容され内部に油が収容された油室のケースと、電動機が収容される内部が空気室のハウジングとを備え、前記ケースと前記ハウジングは隣接して配置され、前記変速機の入力軸と前記電動機の出力軸が接続された車両用動力伝達装置であって、前記ケースの上部に設けられ、前記ケースの内圧を調整する第1のブリーザと、前記ハウジングの下部に設けられ、通常は前記ハウジング内外を連通し、水による浮力もしくは前記ハウジング外から前記ハウジング内へ向かって付勢される水圧によって前記ハウジング内外の連通を遮断する弁体を有する第2のブリーザとを備えることを特徴とする。
【0010】
第2の発明に係る車両用動力伝達装置は、第1の発明において、前記第2のブリーザは、前記ハウジングの内外を連通する貫通穴と、前記貫通穴に収容される弁体とによって構成され、前記貫通穴は略円柱状であり、前記弁体は前記貫通穴の穴径よりも小さい外径をもつ略円柱状であり、前記弁体の外径よりも小さい溝底径をもつ環状外周溝を外周面に備え、前記環状外周溝にはシールリングが収容され、前記シールリングの外径は前記貫通穴の穴径よりも小さく前記弁体の外径よりも大きく、前記シールリングの内径は前記環状外周溝の溝底径よりも大きく、前記シールリングの厚さは前記弁体の外周面上の前記環状外周溝の溝幅よりも小さいことを特徴とする。
【0011】
第3の発明に係る車両用動力伝達装置は、第2の発明において、前記貫通穴の穴径と前記シールリングの外径との差による隙間よりも、前記溝幅と前記シールリングの厚さとの差による隙間のほうが大きいことを特徴とする。
【0012】
第4の発明に係る車両用動力伝達装置は、第2乃至第3の発明において、前記貫通穴は前記ハウジングの内側に開口する内部開口部よりも前記ハウジングの外側に開口する外部開口部の穴径が大きく、前記貫通穴内に、前記外部開口部と前記内部開口部の穴径の差分による環状の段差面を有し、前記段差面に環状のシール材を備え、前記弁体は前記貫通穴の外部開口部側に収容され、前記弁体と前記環状シール材との間にハウジング内外を連通する隙間を備え、前記隙間を塞ぐ方向に前記弁体が前記環状シール材に密着するまで移動可能であることを特徴とする。
【0013】
第5の発明に係る車両用動力伝達装置は、第4の発明において、前記弁体の上面と前記段差面との間に弾性体を備えることを特徴とする。
【0014】
第6の発明に係る車両用動力伝達装置は、第1乃至第5の発明において、前記貫通穴の外部開口部にフィルター備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、前記ケースの上部に設けられ、前記ケースの内圧を調整する第1のブリーザと、前記ハウジングの下部に設けられ、通常は前記ハウジング内外を連通し、水による浮力もしくは前記ハウジング外から前記ハウジング内へ向かって付勢される水圧によって前記ハウジング内外の連通を遮断する弁体を有する第2のブリーザとを備えている。これにより、前記第1のブリーザによって前記ケース内の圧力の開放が行われるため、前記ケース内の油がシール部を通して前記ハウジング内へ漏れ出ることが抑制される。また、前記第2のブリーザによって通常は前記ハウジング内外が通気されるとともに、前記ハウジング内に漏れた油が外部へ排出される。一方、外部から水が流入する場合、水による浮力もしくは水圧によって前記ハウジング内外の連通を遮断する弁体が前記ハウジング内への水の流入を抑制する。したがって、排出口を増やすことなく前記第2のブリーザのみで前記ハウジング内外の通気と、前記ハウジング内に漏れた油の排出と、外部から前記ハウジング内への水の流入防止とを行うことができる。
【0016】
また、第2の発明によれば、前記弁体は、前記貫通穴の穴径よりも小さい外径をもつ略円柱状であり、前記弁体の外径よりも小さい溝底径をもつ環状外周溝を外周面に備え、前記環状外周溝には、シールリングが収容され、前記シールリングの外径は、前記貫通穴の穴径よりも小さく前記弁体の外径よりも大きく、前記シールリングの内径は前記環状外周溝の溝底径よりも大きく、前記シールリングの厚さは、前記弁体の外周面上の前記環状外周溝の溝幅よりも小さい。これにより、通常時は前記貫通穴の内壁と前記弁体との隙間よるハウジング内外を連通する連通経路が形成され、ハウジング内外の通気が行われるとともにハウジング内に漏れた油の排出が行われる。水溜りを走行する際は、水圧によってシールリングが浮上させられ水が前記弁体の前記環状外周溝に入り込み、入り込んだ水によって前記シールリングが内側から拡張変形させられて連通経路を塞ぐため空気室内への水の流入が抑制される。
【0017】
また、第3の発明によれば、前記貫通穴の穴径と前記シールリングの外径との差による隙間よりも、前記溝幅と前記シールリングの厚さとの差による隙間のほうが大きくなる。これにより、弁体の環状外周溝に水が入り込みやすくなるので、シールリングを拡張変形させて連通経路を塞ぎやすくなる。よってハウジング内への水の流入がより確実に抑制される。
【0018】
また、第4の発明によれば、前記弁体は、前記貫通穴の外部開口部側に収容され、前記弁体と前記環状シール材との間にハウジング内外を連通する隙間を備え、前記隙間を塞ぐ方向に前記弁体が前記環状シール材に密着するまで移動可能である。これにより、通常時は前記環状シール材と前記弁体との間の隙間による連通経路が形成され、空気室内外を通気するとともに空気室内に漏れた油の排出が行われる。外部から水圧が印加されると前記弁体が上部へ移動させられ、前記環状シール材に密着して連通経路を塞ぐためハウジング内への水の流入が抑制される。
【0019】
また、第5の発明によれば、前記弁体の上面と前記段差面との間に弾性体を備えている。これにより、外部から水圧が印加されない場合、弾性体の反力によって前記弁体と前記環状シール材の間に連通経路が形成されるため、水圧がかからない状態で通気を確実に行うことができる。
【0020】
また、第6の発明によれば、前記貫通穴は、その外部開口部にフィルターを備えている。これにより、前記フィルターによって異物の侵入が抑制されるため、前記弁体や前記シールリングの損傷が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例に係る通気弁装置が適用される車両用動力伝達装置を示す図である。
【図2】第1のブリーザの実施例を示す断面図である。
【図3】第2のブリーザの実施例を示す断面図である。
【図4】図3の第2のブリーザを構成する弁体の斜視を示した図である。
【図5】図3の第2のブリーザについて通常状態を示した図である。
【図6】図3の第2のブリーザについてシールリングによって連通経路を閉じた状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0023】
図1は、本発明の一実施例に係る通気弁装置が適用される車両用動力伝達装置を示す図である。電動機12の出力軸はクラッチ14を介してエンジン10と接続される。また電動機12の出力軸は、トルクコンバータ16を介して変速機18に接続される。電動機12が収められるハウジング22の内部は、空気室20として構成され、変速機18が収められるケース26の内部は、変速機18の油圧制御や潤滑のための油が収容された油室24として構成される。なお、ハウジング22とケース26は相互に隣接して連結され、本実施例の第1のブリーザ27は、ケース26の上面に設けられ、第2のブリーザ28はハウジング22の底面に設けられる。
【0024】
第1のブリーザ27は、ケース26の上部に設けられ、ケース26内外を連通するブリーザパイプ挿入口31と、ブリーザパイプ挿入口31に圧入されるブリーザパイプ29とによって構成される。これにより、ケース26内外は、ブリーザパイプ29によってケース26内外が連通されケース26内外の圧力差調整が行われる。
【0025】
なお、ブリーザパイプ29の形状は、端部をL字型に曲げたり、ブリーザパイプ29を通して異物をケース26の内部に侵入させ難くするために、ブリーザパイプ29の先端が下向きとなるように設けたりしても良い。また、ブリーザパイプ29は、ブリーザパイプ29の先端部に多孔質のフィルターやキャップを設ける構成であっても良い。
【0026】
図2は、ハウジング22の下部すなわち底部に設けられた第2のブリーザ28を詳細に示す断面図である。第2のブリーザ28は、ハウジング22に設けられた貫通穴30と、貫通穴30に収容される弁体36と、水圧によって移動または拡張変形して側面の連通経路41を塞ぐシールリング48と、弁体36と密着して連通経路42を閉じる環状シール材38と、弁体36と段差面56の連通経路42を開く方向に付勢するスプリング46と、貫通穴30の開口に設けられて、外部からの異物の侵入を防ぐフィルター44によって構成される。
【0027】
図2に示すように、ハウジング22に設けられた貫通穴30は、ハウジング22の外側に開口する外部開口部32と、その穴径よりも穴径が小さい内部開口部34と、外部開口部32と内部開口部34との穴径の差による段差面56とを有している。すなわち、ハウジング22には、断面視において内部空間が略凸の字形状である貫通穴30が形成されている。段差面56には、例えばパッキン等の環状シール材38が固着されており、弁体36の上面を環状シール材38に密着させることによってハウジング22の内部への水の流入を防止する。また、貫通穴30の外部開口部32の内壁面には、スナップリング40を嵌め着けるための環状内周溝50が設けられている。
【0028】
図3は、弁体36を示した斜視図である。弁体36は、硬質の樹脂等で形成され、好ましくは水圧によって変形し難い剛性を有し、かつ、軽量で望ましくは水よりも比重の小さい物質で構成される。この弁体36は、ハウジング22に形成された貫通穴30の外部開口部32の内壁面との間に連通経路41を形成する適当な隙間を持った径を有する略円柱状に形成され、貫通穴30の外部開口部32側に収容されている。弁体36の上面は、水圧などの外圧によって、貫通穴30の中心軸方向に対して貫通穴30の段差面56に設けられた環状シール材38に密着するまで移動することができ、弁体36の上面と環状シール材38との間に連通経路42が閉じられるようになっている。なお、弁体36の上面は、必ずしも平面である必要はなく、環状シール材38と弁体36の密着によって連通経路42が閉じられる構成であればよく、例えば、弁体36の上面を中央に向かって盛り上げる構造としておけば、ハウジング22内に漏れた油をより早く外部に排出することもできる。
【0029】
弁体36は、弁体の36の外径よりも小さい溝底径を有する環状外周溝52を外周面の上部に備えている。すなわち弁体36の外周面を周回する環状外周溝52が設けられている。環状外周溝52内に収容されるシールリング48は、例えば、合成ゴムなどの軟質の樹脂によって構成されており水圧によって移動または拡張変形可能となっている。また、シールリング48の外径は、外部開口部32の穴径よりも小さく弁体36の外径よりも大きく、シールリング48の内径は環状外周溝52の溝底径よりも大きく、弁体36の外径よりも小さく、シールリング48の厚さは弁体36の外周面上の環状外周溝52の溝幅よりも小さく形成されている。すなわち、シールリング48は、貫通穴30の内壁との間に隙間を有し、環状外周溝52の溝幅とシールリング48の厚さとの差による隙間により上下方向に摺動可能な状態で環状外周溝52に収容されている。さらに、環状外周溝52の溝幅とシールリング48の厚さとの差による隙間は、シールリング48と外部開口部32の内壁とによる隙間よりも大きく形成されている。
【0030】
貫通穴30の外部開口部32には、泥や砂などの異物を取り除くための細かな連通気孔を有する円板状のフィルター44が、外部開口部32内でそれを閉塞するようにハウジング22に固定されたスナップリング40に引っ掛けて設けられている。弁体36は、貫通穴30に弁体36を嵌め入れられるだけでは、重力によって落下するため、スナップリング40は、フィルター44を介して弁体36を支持し自然落下を防止する。なお、フィルター44は、弁体36と一体化して形成しても良い。弁体36を下方へ付勢するスナップリング40は、弁体36と段差面56の間にスプリング46が設けられ、通常はスプリング46の反力によって弁体36と環状シール材38との間に連通経路42が形成されている。なお、スプリング46は、弁体36および段差面56に接続されていなくてもよい。また、スプリング46は、弁体36を吊り下げるように構成されていてもよい。この場合は、走行時に弁体36にかかる振動の吸収や、スナップリング40およびフィルター44を備えない構成において弁体36の落下を防止できる。
【0031】
次いで、第2のブリーザ28の作用について図4乃至図6を用いて説明する。
【0032】
図4に示すように、通常状態において第2のブリーザ28の弁体36は、フィルター44およびスプリング46によって支持されている。また、シールリング48は環状外周溝52の下面側に着座している。この状態では、弁体36の上面と環状シール材38との間と、貫通穴30とシールリング48との間にそれぞれ隙間ができる。これにより、ハウジング22の内外が連通し連通経路42が開いた状態となり、通気およびハウジング22内へ漏れた油の外部への排出が可能となる。
【0033】
一方、水溜まり路面の走行等により第2のブリーザ28に向かって水が噴射される場合、図5に示すように水圧にしたがって、先ず、弁体36に設けられたシールリング48が上方へ押し動かされる。すると、シールリング48と環状外周溝52内の下面側との間の隙間がシールリング48と外部開口部32との隙間よりも広くなり、水が環状外周溝52に入り込む。次いで、環状外周溝52に入り込んだ水の水圧によってシールリング48が内側から外側に向かって拡張変形させられるとともに、上方へ押し動かす水圧を受けて連通経路41を塞がれる。図5のシールリング48の周囲の矢印は、シールリング48が水圧を受けている様子を示す。また、外部との経路が塞がれることによって空気室20の内部と外部において差圧が発生すると、比較的面積の大きい弁体36には、その差圧に基づいて比較的大きな上方向の推力が作用する。すなわち、図6の弁体36の下部の矢印に示す水圧がスプリング46の付勢力よりも大きくなると、水圧によって弁体36と共にシールリング48が上方へ押し動かされ、弁体36と環状シール材38が密着して連通経路42を塞ぎ水の流入を速やかに、且つ、確実に防ぐ。シールリング48は、水圧を受けなくなると、スプリング46の反力と弁体36の自重によって弁体36およびシールリング48が図4に示す通常位置に戻され、ふたたび連通経路41および42が開いた図4の状態となる。
【0034】
ハウジング22内の圧力と釣り合う水圧が発生する場合でも、シールリング48によって連通経路41および42が閉じられ、空気室20内外の連通が遮断される。さらに、ハウジング22内外に差圧が発生し弁体36が確実に閉じられる。
【0035】
本実施例の車両の動力伝達装置によれば、第1のブリーザ27は、ケース26の上部に設けられ、第2のブリーザ28は、ハウジング22の下部すなわち底部に設けられている。このようにすれば、第1のブリーザ27によってケース26内の圧力の開放が行われるため、ケース26内の油が環状シール材38を通してハウジング22内へ漏れ出ることが抑制される。また、第2のブリーザ28によって通常はハウジング22内外が通気されるとともに、ハウジング22内に漏れた油が外部に排出される。一方、外部から水が流入する場合、水による浮力もしくは水圧によってハウジング22内外の連通を遮断する弁体36がハウジング22内への水の流入を抑制する。したがって、排出口を増やすことなく第2のブリーザ28のみでハウジング22内外の通気と、ハウジング22内に漏れた油の排出と、外部からハウジング22内への水の流入防止とを行うことができる。
【0036】
また、本実施例の車両の動力伝達装置によれば、弁体36は、貫通穴30よりも小さい外径をもつ略円柱状であり、弁体36の外径よりも小さい溝底径をもつ環状外周溝52を外周面に備え、環状外周溝52には、シールリング48が収容され、シールリング48の外径は、貫通穴30の穴径よりも小さく弁体36の外径よりも大きく、シールリング48の厚さは、弁体36の外周面上の環状外周溝の溝幅よりも小さくなる。このようにすれば、通常時は、貫通穴30の内壁と弁体36との隙間によるハウジング22内外を連通する連通経路が形成され、ハウジング22内外の通気が行われるとともに、ハウジング22内に漏れた油の排出が行われる。車両が水溜りを走行する際は、水圧によってシールリング48が浮上させられ、水が弁体36の環状外周溝52に入り込み、入り込んだ水によってシールリング48が内側から拡張変形させられて連通経路を塞ぐため、空気室内への水の流入が抑制される。
【0037】
また、本実施例の車両の動力伝達装置によれば、貫通穴30の穴径とシールリング48の外径との差による隙間よりも、溝幅とシールリング48の厚さとの差による隙間のほうが大きくなる。このようにすれば、弁体36の環状外周溝52に水が入り込みやすくなるので、シールリング48を拡張変形させて連通経路を塞ぎやすくなり、ハウジング22内への水の流入がより確実に抑制される。
【0038】
また、本実施例の車両の動力伝達装置によれば、弁体36は、貫通穴30の外部開口部側に収容され、弁体36と環状シール材38との間にハウジング22内外を連通する隙間を備え、その隙間を塞ぐ方向に弁体36が環状シール材38に密着するまで移動可能である。このようにすれば、通常時は、環状シール材38と弁体36との間の隙間による連通径路が形成され、空気室内外を通気するとともに空気室内に漏れた油の排出が行われる。外部から水圧が印加されると弁体36が上部へ移動させられ、環状シール材38に密着して連通経路を塞ぐためハウジング22内への水の流入が確実に抑制される。
【0039】
また、本実施例の車両の動力伝達装置によれば、弁体36の上面と段差面56との間にスプリング46を備えている。このようにすれば、外部から水圧が印加されない場合、スプリング46の反力によって弁体36と環状シール材38の間に連通経路が形成されるため、水圧がかからない状態で通気を確実に行うことができる。
【0040】
また、本実施例の車両の動力伝達装置によれば、貫通穴30は、その外部開口部にフィルター44を備えている。このようにすれば、フィルター44によって異物の進入が抑制されるため、弁体36やシールリング48の損傷が抑制される。
【0041】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施されうる。
【0042】
第1のブリーザは、ケース内の圧力を調整する機能をもつブリーザであればよく、例えば、内外を常に連通させた大気開放型のブリーザであってもよい。
【0043】
また、ハウジング22に対して複数の第2のブリーザ28を備えた構成であってもよく、それぞれの第2のブリーザ28は必ずしも同じ形状である必要はない。ハウジングに第2のブリーザ28が複数設けられることによって、空気室20内の油が排出されやすくなる。
【0044】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0045】
12:電動機
20:空気室
22:ハウジング
24:油室
26:ケース
28:第2のブリーザ
30:貫通穴
36:弁体
38:環状シール材
40:スナップリング
42:連通経路
44:フィルター
48:シールリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機が収容され内部に油が収容された油室のケースと、電動機が収容される内部が空気室のハウジングとを備え、
前記ケースと前記ハウジングは隣接して配置され、前記変速機の入力軸と前記電動機の出力軸が接続された車両用動力伝達装置であって、
前記ケースの上部に設けられ、前記ケースの内圧を調整する第1のブリーザと、
前記ハウジングの下部に設けられ、通常は前記ハウジング内外を連通し、水による浮力もしくは前記ハウジング外から前記ハウジング内へ向かって付勢される水圧によって前記ハウジング内外の連通を遮断する弁体を有する第2のブリーザとを備えること、
を特徴とする車両の動力伝達装置。
【請求項2】
前記第2のブリーザは、前記ハウジングの内外を連通する貫通穴と、前記貫通穴に収容される弁体とによって構成され、
前記貫通穴は略円柱状であり、
前記弁体は前記貫通穴の穴径よりも小さい外径をもつ略円柱状であり、前記弁体の外径よりも小さい溝底径をもつ環状外周溝を外周面に備え、
前記環状外周溝にはシールリングが収容され、前記シールリングの外径は前記貫通穴の穴径よりも小さく前記弁体の外径よりも大きく、前記シールリングの内径は前記環状外周溝の溝底径よりも大きく、前記シールリングの厚さは前記弁体の外周面上の前記環状外周溝の溝幅よりも小さいこと、
を特徴とする請求項1記載の車両の動力伝達装置。
【請求項3】
前記貫通穴の穴径と前記シールリングの外径との差による隙間よりも、前記溝幅と前記シールリングの厚さとの差による隙間のほうが大きいこと、
を特徴とする請求項2記載の車両動力伝達装置。
【請求項4】
前記貫通穴は前記ハウジングの内側に開口する内部開口部よりも前記ハウジングの外側に開口する外部開口部の穴径が大きく、
前記貫通穴内に、前記外部開口部と前記内部開口部の穴径の差分による環状の段差面を有し、
前記段差面に環状のシール材を備え、
前記弁体は前記貫通穴の外部開口部側に収容され、前記弁体と前記環状シール材との間にハウジング内外を連通する隙間を備え、前記隙間を塞ぐ方向に前記弁体が前記環状シール材に密着するまで移動可能であること、
を特徴とする請求項2乃至3記載の車両の動力伝達装置。
【請求項5】
前記弁体の上面と前記段差面との間に弾性体を備えること、
を特徴する請求項4記載の車両の動力伝達装置。
【請求項6】
前記貫通穴の外部開口部にフィルター備えること、
を特徴とする請求項1乃至5記載の車両の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−61034(P2013−61034A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200717(P2011−200717)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】