説明

車両用変速制御装置

【課題】エンジン性能の全域で省燃費モードでの走行を可能とし、運転者の意志に応じて駆動力が必要なときには、運転者に負担を与えることなく簡易に省燃費モードの走行から駆動力モードの走行への切替えが可能な車両用変速制御装置を提供する。
【解決手段】燃費を重視する変速線上に、アクセルペダル14の開度の変化に関わらず、エンジントルクが燃費を重視する変速線上における略最大値に維持される非連動アクセルペダル開度領域NRと、非連動アクセルペダル開度領域NRに含まれるアクセルペダル開度よりも小さい開度を有するアクセルペダル開度領域に、連動アクセルペダル開度領域Rとが設定される。連動アクセルペダル開度領域R内では最小のエンジントルク特性から略最大のエンジントルク特性まで燃費を重視した走行を可能とし、非連動アクセルペダル開度領域NR内では、燃費を重視する走行から駆動力を重視する走行をアクセルペダル14の操作により任意に選択可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用自動変速機の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に車両は燃費を重視した場合と、加速性能(駆動力)を重視した場合とで、変速するときのエンジン回転数がそれぞれ異なることが知られている。燃費を重視した場合では、エンジン回転数が比較的低いポイントで各変速段の切替えが行なわれる。また、加速性能(駆動力)を重視した場合では、燃費を重視した場合よりもかなり高いエンジン回転数で各変速段の切替えが行なわれ燃費を犠牲にしながらも車両のスムーズな加速が得られるようになっている。
そして従来、このような燃費重視のモード(以降、省燃費モードと称す)と走行性能重視のモード(以降、駆動力モードと称す)とを、車両の走行状態に応じて使い分けるため、付設された切り替えスイッチを手動で切替えたり、特許文献1に示す様にアクセルペダル開度に基づいて自動で切替えるものがある。
特許文献1に示すものは、通常時には省燃費モードで走行し、坂道等でエンジンに対して負荷が大きくなったり、追い越しなどで急加速が必要な状況になると、運転者によってアクセルが踏み込まれ、スロットル開度が3/4以上に開かれたときに省燃費モードから駆動力モードに自動で切替えられるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭57−8983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記において、省燃費モードと駆動力モードとを、切替えスイッチによって手動で切替える方式では走行中にスイッチを操作する必要があり運転者にとっては煩わしく負担になるという課題がある。また特許文献1に開示される方法では、アクセルペダル開度が3/4以上開くと走行モードに強制的に切替わってしまい、アクセルペダル開度が3/4以上のエンジン性能領域において省燃費モードを利用することができないという課題がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、エンジン性能の全域で省燃費モードでの走行を可能とし、運転者の意志に応じて駆動力が必要なときには、運転者に負担を与えることなく簡易に、省燃費モードから駆動力モードへの切替えが可能な車両用変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に係る車両用変速制御装置は、エンジンの回転数を変換して車輪に伝達する自動変速機の変速段を変えるようにアクチュエータを駆動する車両用変速制御装置であって、 燃費を重視する変速線において、アクセルペダルの開度の変化に関わらず、前記燃費を重視する変速線上で略最大のエンジントルクを維持するアクセルペダル開度領域を非連動アクセルペダル開度領域と設定し、前記非連動アクセルペダル開度領域に含まれるアクセルペダル開度よりも小さいアクセルペダル開度領域では、前記燃費を重視する変速線上において、前記アクセルペダルの最小開度から最大開度までの変化に連動して、エンジントルクが前記燃費を重視する変速線上で最小の前記エンジントルクから前記略最大のエンジントルクまで変化するアクセルペダル開度領域を連動アクセルペダル開度領域と設定し、前記非連動アクセルペダル開度領域内で、前記アクセルペダル開度の最小の開度に燃費を重視した第1の変速点と、前記非連動アクセルペダル開度領域内で、前記アクセルペダル開度の最大の開度に駆動力を重視した第2の変速点とを設定し、前記アクセルペダルが前記非連動アクセルペダル開度領域に操作されたとき、前記第1の変速点と前記第2の変速点とを結ぶ変速線上で当該制御装置が前記自動変速機の前記変速段を変えるように前記アクチュエータを駆動する。
【0007】
上記課題を解決するため、請求項2に係る車両用変速制御装置は、請求項1において、前記アクセルペダルが、前記非連動アクセルペダル開度領域より前記アクセルペダル開度が小さい前記連動アクセルペダル開度領域に操作されたとき、前記アクセルペダル開度が前記連動アクセルペダル開度領域での前記最小の開度から前記最大の開度に至るまで、前記燃費を重視する前記変速線上で当該制御装置が前記自動変速機の前記変速段を変えるように前記アクチュエータを駆動する。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明によれば、アクセルペダルが、燃費を重視する変速線において、アクセルペダル開度の変化に関わらず、燃費を重視する変速線上で最大のエンジントルクに維持される非連動アクセルペダル開度領域まで踏み込まれた時に、変速段を切替える変速点はアクセルペダルを踏み増すほど駆動力を重視した側の変速点に変更される。これにより運転者が所定の加速の必要性を感じたときにはアクセルペダルを踏み込むという自然な操作によって燃費を重視する変速点から駆動力が最大となる変速点までの間の任意の変速点を選択でき所望の加速が得られるので、運転者にストレスを与えることなく加速の要望に適切に応じることができる。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、アクセルペダルが、非連動アクセルペダル開度領域まで踏み込まれずに、連動アクセルペダル開度領域の中で走行する時は、燃費を重視する変速線上で取り得る全てのエンジントルクの範囲において、燃費を重視する変速線で各変速段の切替えが行なわれる。連動アクセルペダル開度領域よりもアクセルペダル開度を大きく踏み込むと駆動力を重視した変速がされる非連動アクセルペダル開度領域に突入する。これにより通常運転時には取り得る全てのエンジントルク特性において省燃費運転ができ、必要なときだけアクセルペダルを非連動アクセルペダル開度領域に踏み込むことにより適切に加速を得ることができるので、運転者を満足させられるとともに環境にも優しい走行が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態を説明するための車両システムの概略構成の模式図である。
【図2】自動変速機に適用される従来の変速線C、Dを例示した図である。
【図3】燃費重視の変速線を設定するために利用するエンジントルク特性(エンジントルク−エンジン回転数)を例示した図である。
【図4】駆動力重視の変速線を設定するために利用する自動変速機の出力軸トルク特性(出力軸トルク−出力軸回転数)を例示した図である。
【図5】本発明の実施形態に係る自動変速機に適用される変速線A、Bを示した図である。
【図6】本発明の実施形態を説明するためのエンジントルク特性(エンジントルク−エンジン回転数)である。
【図7】本発明の実施形態に係る変速線を利用した変速制御装置の作動を説明する図である。
【図8】本発明の実施形態の作用を説明するための自動変速機の出力軸トルク特性(出力軸トルク−出力軸回転数)の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明に係る実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る車両システム1の概略構成の模式図である。図1に示す様に車両システム1はエンジン10と、自動クラッチ20と、自動変速機30と、ECU50と、自動変速機30の変速段を切替えるための変速制御装置52(ECU50を含む)と、を備える。自動クラッチ20はエンジン10の出力軸(クランクシャフト)10bと自動変速機30の入力軸31との間に介在し、エンジン10の出力軸10bと自動変速機30の入力軸31との連結を断接することによってエンジン10の出力を自動変速機30に入力するか否かの選択を行なう。なお、本実施形態に係る車両システム1の前進側の変速段は例えば1速段〜6速段とし、4速段のギヤ比を例えば1とする。なお、本実施形態においては自動クラッチ20を備えたAMT(オートメーテッドマニュアルトランスミッション)を例にとって説明するが、これに限らずAT(オートマチックトランスミッション)など有段の自動変速機についても適用可能である。
【0012】
エンジン10は、インテークマニホールド18を有し、インテークマニホールド18の一面にはインテークマニホールド18を介してエンジンの各気筒に空気を供給するスロットルボデー17を備えている。スロットルボデー17は、吸入空気量を調節するための薄板円板状に形成されたスロットルバルブ11と、スロットルバルブ11の開度(スロットル開度)を検出するためのスロットルセンサ12と、スロットルバルブ11を開閉駆動するスロットル用アクチュエータ13とを備えている。スロットルバルブ11は長尺のシャフト16の軸線方向略中央部に固定支持され、スロットルボデー17の円筒状のボア17a内にシャフト16の軸を中心に回動可能に収容されている。シャフト16は、スロットルバルブ11の外縁から延在する両端部がスロットルボデー17を貫通し、スロットルセンサ12、及びスロットル用アクチュエータ13の各回転軸と一体回動可能に連結されている。
【0013】
自動変速機30は、入力軸31及び出力軸32を備えており、入力軸31は、自動クラッチ20からの動力を伝達可能に連結され、出力軸32は、図示しない車軸側に動力を伝達可能に連結されている。また、自動変速機30には、各変速段の切り替えを操作するための本発明に係るアクチュエータである変速用アクチュエータ41、42、43、44、45が備えられており、これらを駆動することにより複数の変速段が設定可能となっている。変速用アクチュエータ41、42、43、44、45は、ECU50とともに変速制御装置52を構成している。変速制御装置52のECU50は増速側、及び減速側の各変速線をそれぞれROMに有している。自動変速機30はエンジン10の回転数を変換し車輪に伝達するため変速段を切替える。自動変速機30の出力軸32側には、出力軸32の回転数を検出する出力軸回転センサ37が設けられており、この出力軸32の回転数に基づいて車両の速度(車速)が求められる。また、図1の右下を参照すると、車室側に配設され車両運転者により操作されるアクセルペダル14が示されており、アクセルペダル14の操作量(アクセルペダル開度)を検出するアクセルセンサ15が設けられている。
【0014】
ECU50は、マイクロコンピュータ(CPU)を中心に構成されており、各種プログラム及び前述の変速線(変速マップデータ)等を記憶したROM、各種データ等の読み書き可能なRAM等(いずれも図略)を備えているほか、上述したアクセルセンサ15、出力軸回転センサ37、スロットルセンサ12のほか、図略のエンジン回転数センサ、入力軸回転数センサ、及びシフトセンサ等の各種センサと接続されている。ECU50は、その搭載するプログラムにより、上記した各種センサからの入力値に基いて、車両運転状態(アクセルペダルの操作量、ブレーキ踏み込み量、エンジン回転数、入力軸回転数、車速、シフト位置等)を検知し、これら車両運転状態に応じて、自動クラッチ20、変速用アクチュエータ41、42、43、44、45(変速制御装置52)等を制御する。
【0015】
例えば、加減速時には、ECU50は、アクセルセンサ15の検出値によりアクセルペダル14の操作量(アクセルペダル開度)を取得し、アクセルペダル開度に基いてスロットル用アクチュエータ13を駆動する。これによって、スロットルバルブ11が開閉し、エンジン10への吸入空気量が調節され、アクセルペダル操作に応じたエンジントルク特性が得られるようになっている。
【0016】
また変速時には、変速制御装置52を構成するECU50は、各変速段において、エンジン回転数(若しくは自動変速機の出力軸回転数)がアクセルペダル14の各開度に対して設定された増速側又は減速側変速点回転数、即ち変速線が示す回転数になると、スロットル用アクチュエータ13を駆動してスロットルバルブ11を閉じ自動クラッチ20を駆動してクラッチを切断する。続いて、ECU50は、変速制御装置52を構成する変速用アクチュエータ41、42、43、44、45を適宜駆動して、ギヤ列(変速段)の切替えを実施する。そしてECU50は、スロットル用アクチュエータ13を駆動してスロットルバルブ11を開きエンジン回転数を変速後のギヤの変速段と、その時点での車速とに適合したエンジン回転数に調整し、次に自動クラッチ20を駆動してクラッチを係合し、変速を終了し、スロットルバルブをアクセルペダル開度に応じた開き量に設定する。
【0017】
次に本発明に係る、変速制御装置52について説明する。変速制御装置52は前述のとおりECU50と、変速用アクチュエータ41、42、43、44、45とを備える。そしてECU50はエンジン回転数(若しくは自動変速機の出力軸回転数)に対して各変速段を切替えるために利用される変速線を有している。前述の通り、変速線は車両の変速時に利用されるROMに記憶されるマップデータであり、予め選択した変速段選択パラメータ(ここではエンジン回転数とアクセルペダル開度)を各軸にとり、一の変速段から他の変速段への変速の要否を判断するための基準線である。
【0018】
変速線は、従来技術においては図2に示すように、燃費を重視した変速線C(白丸が連続的に接続された変速線)、及び駆動力を重視した変速線D(黒丸が連続的に接続された変速線)が設定されている。なお、図2の変速線C、及び変速線Dは例えば3速段の増速側の変速線を代表で示している。図示しないが、変速線C、及びD上には各アクセルペダル開度毎に変速点が存在している。そして例えば運転者が手動で変速線Cを選択した状態で、3速の変速段で走行中にアクセルペダル14を全踏み込み量の75%だけ踏み込みエンジン回転数が増加し変速線C上の点であるPrpmと交差すると、ECUは、変速用アクチュエータを適宜駆動して、ギヤ列(変速段)を切替え、4速にシフトアップする。また駆動力を重視した変速線Dが適用されたときも同様の作動が実施され、アクセルペダル14の所定の開度においてエンジン回転数が増加し変速線Dと交差すると、4速にシフトアップされる。そして、従来技術においては2本の変速線C及びDを手動のスイッチによって切り替えるほか、アクセルペダル開度が例えば3/4以上開かれると燃費重視の変速線Cから駆動力重視の変速線Dへ自動で切替えられるものがある。
【0019】
ここで、上記で説明した従来技術に基づいて燃費重視の変速線Cと駆動力重視の変速線Dの設定方法の一例について簡単に説明する。燃費重視の変速線Cは、図3に示すエンジントルク特性に最適燃費率曲線を加えた線図から求められる。エンジントルク特性はX軸にエンジン回転数、Y軸にエンジントルクをとり、各アクセルペダル開度毎にエンジン回転数−エンジントルク特性をプロットしたものである。最適燃費率曲線はエンジン回転数−エンジントルク特性において、最も燃費のよいポイントを連続的に繋いだ線図である(最適燃費率曲線の詳細な説明については特開2009−166741参照)。
【0020】
このようなエンジントルク特性に最適燃費率曲線を加えた線図において、各アクセルペダル開度における各変速段(本実施形態においては1〜6速段)毎のエンジン回転数をプロットする。例えば図3に示すようにアクセルペダル開度が50%近傍で車速がV1の場合に、4速の変速段を選択するとエンジン回転数がエンジントルク特性図上でNE1(4速)となり、5速の変速段を選択するとエンジントルク特性図上でNE1(5速)となる。これにより4速段を選択した方が最適燃費率曲線に近いことがわかる。また例えばアクセルペダル開度が50%付近で車速がV2の場合は、4速の変速段を選択するとエンジン回転数がエンジントルク特性図上でNE2(4速)となり、5速の変速段を選択するとエンジントルク特性図上でNE2(5速)となる。これにより5速の変速段を選択した方が最適燃費率曲線に近づくことがわかる。同様にいくつものポイントで比較を行うことで、4速段から5速段へ変速を行った方が最適燃費率曲線に近づく閾値、また5速段から4速段へ変速を行った方が最適燃費率曲線に近づく閾値を見つけることができる。
【0021】
このようにして全ての変速段、及び全てのアクセルペダル開度で同様に見つけた閾値同士を結ぶことで燃費を重視した変速線(図3においては代表として示した4速→5速への増速側変速線、5速→4速への減速側変速線)を求めることができる。なお、この変速線のX軸を出力軸回転数とし、Y軸をアクセルペダル開度のグラフに変換することで、出力軸回転数とアクセルペダル開度で変速段を選択しても良い。
【0022】
駆動力重視の変速線Dは、図4に示すアクセルペダル開度毎の出力軸トルク特性から求められる。出力軸トルク特性はX軸に出力軸回転数、Y軸に出力軸トルクをとり、各アクセルペダル開度のエンジントルク特性毎で、かつ各変速段毎に出力軸回転数−出力軸トルクをプロットしたものである。なお、図4は例としてアクセルペダル開度が50%時の各変速段の出力軸回転数−出力軸トルク特性を示している。
【0023】
アクセルペダル開度が50%の時、ある車速において、最も高い駆動力が得られる変速段は、出力軸トルクが最大となる変速段である。つまり、図4に示すように例えば出力軸回転数がr1の時には4速段の出力軸トルクが最も高いので4速段が最も高い駆動力が得られる変速段であり走行性が良い。また例えば出力軸回転数がr2の時は5速段の出力軸トルクが最も高いので5速段が最も高い駆動力が得られる変速段であり走行性が良い。このように同様にいくつもの出力軸回転数(車速)において、4速段での出力軸トルクと5速段での出力軸トルクとの比較を行うと出力軸回転数(車速)が増加する方向で4速段から5速段へ切替えを行った方が出力軸トルクが高くなるポイント(増速側変速点)が分かる。逆に出力軸回転数(車速)が減少する方向で5速段から4速段へ変速を行った方が出力軸トルクが高くなるポイント(減速側変速点)が分かる。そして全ての変速段、及び全てのアクセルペダル開度で同様に見つけた変速点同士を結ぶことで駆動力を重視した変速線を求めることができる。図4のアクセルペダル開度50%時において各変速段3〜5速段の線図同士が交差している各黒丸点が変速のポイントとなる。これは他のアクセルペダル開度においても同様であり、このようにして求めた他のアクセルペダル開度の変速点と結ぶことで駆動力を重視した変速線を求めることができる。
【0024】
次に、本発明に係る増速側の変速線の設定例について説明する。以下の説明において燃費重視の変速線、及び駆動力重視の変速線は上記の方法によって求めたものである。図5に示すように本実施形態においては、燃費を重視する変速線において、アクセルペダルの開度の変化に関わらず、燃費を重視する変速線上で最大のエンジントルクを維持する非連動アクセルペダル開度領域NRと、非連動アクセルペダル開度領域NRより低いアクセルペダル開度領域に連動アクセルペダル開度領域Rとを設定している。図6に例示するエンジントルク特性において、非連動アクセルペダル開度領域NRは、燃費を重視する変速線上でアクセルペダル14の開度の変化に関わらず、エンジントルクが燃費を重視する変速線上における最大値に維持されるアクセルペダル開度領域である。また、図6に例示するエンジントルク特性において、連動アクセルペダル開度領域Rは燃費を重視する変速線上でアクセルペダル14の開度の変化に連動してエンジントルクが変化する領域である。そして本実施形態においては、非連動アクセルペダル開度領域NRをアクセルペダル開度が80%より大きな開度になるよう設定した。このように非連動アクセルペダル開度領域NRはアクセルペダル開度が変化しても燃費を重視する変速線上でエンジントルクが燃費を重視する変速線上における最大値に維持される領域であり、連動アクセルペダル開度領域Rは、燃費を重視する変速線においてアクセルペダル開度が連動アクセルペダル開度領域Rでの最小の開度から最大の開度までの変化に連動して、エンジントルクが燃費を重視する変速線上における最小値から最大値まで変化するアクセルペダル開度領域である。
【0025】
非連動アクセルペダル開度領域NRは、燃費を重視する変速線において、アクセルペダル開度が変化してもエンジントルクが燃費を重視する変速線上における最大値に維持されるのは、本実施形態においては、アクセルペダル14の踏み込み量が非連動アクセルペダル開度領域NRに到達する全踏み込み量の80%になると、アクセルペダル14は20%の踏み代を残した状態でエンジントルク特性が最大(4/4)になるためである。
【0026】
そして図5に示すようにアクセルペダル開度が0〜80%の連動アクセルペダル開度領域Rにおいては、燃費を重視する燃費重視変速線Aが設定される。またアクセルペダル開度が80〜100%の非連動アクセルペダル開度領域NRにおいては、アクセルペダルの踏み込み量により、燃費を重視した変速点から駆動力を重視した変速点に徐々に変化する変速線Bが設定される。変速線Bは非連動アクセルペダル開度領域NRにおいてアクセルペダル開度が最小の開度(80%)となる点で燃費を重視した第1の変速点Mが設定され、非連動アクセルペダル開度領域NRにおいてアクセルペダル開度が最大の開度(100%)となる点で駆動力を重視した第2の変速点Nが設定される。そして第1の変速点Mと第2の変速点Nとが本実施形態においては直線で結ばれ燃費重視変速点から駆動力重視変速点まで変化する変速線Bとなる。なお、第1の変速点Mと第2の変速点Nとを結ぶ線は曲線でもよく実施者によって所望の特性がえられるように適宜決定すればよい。
【0027】
次に、本実施形態に係る自動変速機30の各変速段を選択する変速制御装置52の作動について説明する。説明においては、1速段→2速段、及び4速段→5速段への各変速段の切替えについて図7に基づいて説明する。なお、図7においては、変速線が1速段→2速段(A(1→2)、B(1→2))用と4速段→5速段(A(4→5)、B(4→5))用の2本が示してあるが、これは、見やすくするためにグラフ上で所定量ずらして示しているものであり、1速段→2速段、及び4速段→5速段のそれぞれの変速線の実際のずれの量を示しているものではない。まず1速段→2速段(A(1→2)、B(1→2))への切替えについて説明する。
【0028】
はじめに車両のエンジン10を始動し、自動変速機30のギヤをドライブレンジ(D)にいれる。そしてアクセルペダル14を踏み込み車両を1速段で発車させる。このとき、アクセルペダル開度とエンジン回転数を示すグラフ上の点F1は、例えばアクセルペダル開度40%近傍に踏み込まれ、図7に示す変速線A(1→2)の左側に位置している。なお、前述したとおり変速線A(1→2)は燃費重視の変速線である。
【0029】
そして加速のため運転者がアクセルペダル14を踏み込みアクセルペダル開度を増加させていくと、エンジン回転数もアクセルペダル開度の増加に追従し、変速線A(1→2)の右側の領域に向かって移動する。そしてF1から移動する途中に変速線A(1→2)とF2で交差する。
【0030】
ECU50はグラフ上において点F1が移動し変速線A(1→2)とF2で交差したことを検知するとスロットル用アクチュエータ13を駆動してスロットルバルブ11を閉じ、クラッチ用アクチュエータ(図略)を駆動してクラッチ(図略)を解放する。続いて、変速用アクチュエータ41、42、43、44、45を適宜駆動して、変速段を1速段から2速段に切替える。そして再びスロットル用アクチュエータ13を駆動してスロットルバルブ11を開き、変速後の2速段と、その時点での車速とに適合するエンジン回転数とした状態で再びクラッチ用アクチュエータ(図略)を駆動し、クラッチ(図略)を係合して1速段→2速段への変速を終え、スロットルバルブをアクセルペダル開度に応じた開き量に設定する。この後、2速段→3速段、3速段→4速段への切替えについてもそれぞれ2速段→3速段の燃費重視の変速線、及び3速段→4速段の燃費重視の変速線に基づき同様の作動により実行される。
【0031】
次に4速段→5速段に切替える場合について各変速線A(4→5)、B(4→5)に基づいて説明する。4速段での走行においては、例えばアクセルペダル14のアクセルペダル開度が40%と60%との中間にあり、このとき、アクセルペダル開度とエンジン回転数のグラフ上の点A1は図7に示す変速線A(4→5)の左側に位置している。
【0032】
そして、まず加速のため運転者がゆっくりとアクセルペダル14を踏み込み、アクセルペダル開度を増加させていくと、エンジン回転数もアクセルペダル開度の増加に追従し、変速線A(4→5)の右側の領域に向かって移動し途中で変速線A(4→5)とA2で交差する。ECU50は点A1が変速線A(4→5)とA2で交差したことを検知すると変速段を4速から5速に切替える制御を行なう。
【0033】
次に、前記点A1に位置する状態から運転者が、加速のため連動アクセルペダル開度領域R内においてアクセルペダル14を大きく踏み込む場合には、アクセルペダル開度が例えば80%近傍の開度まで踏み込まれた後に回転が追従してくる。このときA1が変速線A(4→5)と交差する位置A3はアクセルペダル開度にして80%より下で且つ80%の近傍である。つまりエンジントルク特性は最大(4/4)のトルク特性である。このように、運転者のアクセル操作によって、連動アクセルペダル開度領域R内で適切にアクセルペダル14を踏み込むと、エンジントルク特性が最大(4/4)のトルク特性においても燃費重視の変速線A(4→5)が選択できる。そして燃費重視の変速点によって4速段から5速段への変速段の切替えができるので、燃費向上に対して効果的である。
【0034】
次に、上記と同じ条件でA1点に位置する状態からアクセルペダル14を例えばアクセルペダル開度80%を越える開度まで一気に踏み込んだ場合について説明する。
【0035】
このときアクセルペダル開度が80%を越える開度まで踏み込まれた後にエンジン回転が追従してくる。そのためグラフ上のA1点は、アクセルペダル開度が80%を越えた位置Sから、グラフ上を右に向かって移動するので燃費重視の変速線A(4→5)とは交差せず、A1点は変速線B(4→5)とA4点で交差する。そしてA4点のエンジン回転数に達したことをECU50が検知すると自動変速機30の変速段が変速制御装置52によって4速から5速に切替えられる。このように、運転者が力強い走りを望みアクセルペダル14を非連動アクセルペダル開度領域NRまで踏み込むというアクセル操作のみによって、簡易に燃費重視の変速点から駆動力重視の変速点に徐々に変化する変速線B(4→5)を選択でき、運転者が踏み込むアクセルペダル14の踏み込み量により燃費重視から駆動力重視の間の任意の変速点で変速段の切替え(4速段→5速段)ができる。
【0036】
次に変速線A、及びBによって代表として3〜5速段までの変速段の切替えが行なわれたときのそれぞれの出力軸トルクの挙動について図8に基づいて説明する。なお、図8は、燃費重視の変速線A、及び駆動力重視の変速線Bによって変速された場合の出力軸トルクの挙動を同時に説明するため、アクセルペダル開度が80〜100%における出力軸トルクと、出力軸回転数との関係を模式的に示すグラフである。3〜5速段は3速段から5速段に向かってギヤ比が順次小さくなるように構成されており、例えば、3速段では1を超えるギヤ比であり、4速段では1のギヤ比になっており、5速段では1を下回るギヤ比になっている。
【0037】
まず燃費重視の変速点M(アクセルペダル開度80%)によって変速段の切替えが行なわれた場合について説明する。例えば3速段で走行中に、図5に示す変速点Mに基づき変速が行なわれるとする。すると、変速段は図8に示すように、例えば3速段のG1点から4速段のG2点に移動する(図8の実線矢印参照)。このとき4速段のG2点の出力軸トルクは、図8に示すように3速段のG1点での出力軸トルクよりも小さな値となっており、出力軸トルクが低下する。このとき同時に4速段と3速段とのギヤ比の違いによって図略のエンジン回転数はギヤ比の差に応じた分だけ減少する。そして減少した位置からエンジン回転数が増加されると4速段の出力軸トルク曲線上を右方に移動する。これにより3速段から4速段に切替えがされたとき、出力軸トルクは減少するが、低いエンジン回転数での走行ができるので燃費の向上に寄与する。なお1速段から2速段、2速段から3速段(ともに図示せず)、4速段から5速段、及び5速段から6速段(図示せず)に切替えがされるときも同様である(4速段から5速段については図8の実線矢印参照)。
【0038】
次に図5に示す駆動力重視の変速点N(アクセルペダル開度100%)によって変速段の切替えが行なわれた場合について説明する。変速段は3速段と4速段との交点(G3=G4)で増速側に変速し(図8の破線矢印参照)、取り得る最大の出力軸トルクで走行することができる。このようにして3速段から4速段に切替えがされたとき、燃費重視の変速点を超えてエンジン回転数を引っ張るため燃費の悪化はあるが、最大の走行性能を得ることができる。なお1速段から2速段、2速段から3速段(ともに図示せず)、4速段から5速段、及び5速段から6速段(図示せず)に切替えがされるときも同様である(4速段から5速段については図8の破線矢印参照)。
【0039】
次に運転者がアクセルペダル開度全開まで踏み込まず、変速線Bの中間(例えばアクセルペダル開度90%)で止めた場合には、変速段は3速段のG1とG3との中間のG5で増速側に変速し、4速段のG6に移動する(図8の2点鎖線矢印参照)。これによりG5点で3速段から4速段に切替えがされたとき、燃費重視の変速点を超えてエンジン回転数を引っ張るため燃費の悪化はあるが、G3点でシフトアップしたときよりは燃費はよく、且つ燃費重視の変速点G1で変速したときより大きな駆動力が得られG1点でシフトアップしたときよりは高い走行性能を得ることができる。このように変速線B内においてはアクセルペダル14を踏み増すほど駆動力を重視した側の変速点に変更される。なお1速段から2速段、2速段から3速段(ともに図示せず)、4速段から5速段、及び5速段から6速段(図示せず)に切替えがされるときも同様である(4速段から5速段については図8の2点鎖線矢印参照)。
【0040】
上記の説明から明らかな様に、本実施形態によれば、アクセルペダル14が、非連動アクセルペダル開度領域NR内に踏み込まれた時に、変速段を切替える変速点はアクセルペダル14を踏み増すほど駆動力を重視した側の変速点に変更される。このように運転者が所定の加速の必要性を感じたときにはアクセルペダル14を非連動アクセルペダル開度領域NRまで踏み込むという自然な操作によって駆動力を重視した変速がされ所望の加速が得られるので、運転者にストレスを与えることなく加速の要望に適切に応じることができる。
【0041】
また、本実施形態によれば、アクセルペダル14が、非連動アクセルペダル開度領域NR内まで踏み込まれない時、つまり連動アクセルペダル開度領域R内で走行する時には、燃費を重視する変速線上で各変速段の切替えが行なわれ、連動アクセルペダル開度領域Rよりもアクセルペダル開度を大きく踏み込むとアクセルペダルの踏み込み量により、燃費を重視した変速点から駆動力を重視した変速点に変化する変速線で変速がされる非連動アクセルペダル開度領域NRに突入する。これにより通常運転時には燃費を重視する変速線上で取り得る全てのエンジン特性において省燃費運転ができ、必要なときだけアクセルペダルを非連動アクセルペダル開度領域NRに踏み込むことにより適切に加速を得ることができるので、運転者を満足させられるとともに環境にも優しい走行が実現できる。
【0042】
なお、本実施形態においての燃費重視の変速線と駆動力重視の変速線の設定は一つの例である。本実施形態においては、図2、5、7において増速側の変速線のみが示されているが、実際には減速側の変速線が存在している。このとき減速側の変速線と増速側の変速線とが近すぎると、変速が頻繁に行なわれハンチングが生じてしまうため、増速側と減速側の変速線の間で、回転数方向、またはアクセルペダル開度方向にヒステリシスが設けられて設定される。また、低回転でのノイズ防止のために、低い回転数の変速点が設定できなかったり、または、その他の案件で燃費重視の変速線と駆動力重視の変速線は修正される場合がある。
【0043】
また本実施形態においては、アクセルペダル14の踏み込み量でエンジンに供給する空気量を制御し、これによってエンジン出力の調整を行なうガソリンエンジン車に適用する場合について説明した。しかし、これに限らず本発明をアクセルペダルの踏み込み量によってエンジン筒内へ噴射する燃料量の制御を行なうことによりエンジン出力を調整するディーゼルエンジン車に適用してもよい。このときも、燃費を重視する変速線上で、アクセルペダルがたとえば全踏み込み量の80%に到達する位置において、エンジントルク特性が最大になるように構成し、アクセルペダルの残りの20%の踏み込み領域を非連動アクセルペダル開度領域NRとすればよい。これにより、本実施形態と同様の効果が得られる。
【0044】
また、本実施形態においては、燃費を重視する変速線上で、アクセルペダル14が全踏み込み量の80%に到達する位置においてエンジントルク特性が最大となるよう構成したが、これに限らずエンジントルク特性が最大となるアクセルペダル14の踏み込み量は任意に決定すればよい。そして燃費を重視する変速線上で、エンジントルク特性が最大となるアクセルペダル14の踏み込み量より小さいアクセルペダル14の踏み込み領域を連動アクセルペダル開度領域Rとし、燃費を重視する変速線上で最大のエンジントルク特性を維持するアクセルペダル14の踏み込み領域を非連動アクセルペダル開度領域NRとすればよい。
【0045】
上記実施形態では、燃費を重視する変速線において、燃費を重視する変速線上で最大のエンジントルクを維持するアクセルペダル開度領域を非連動アクセルペダル開度領域NRと定義したが、それに限らず、燃費を重視する変速線において、燃費を重視する変速線上で最大のエンジントルク近傍でエンジントルクが変化するアクセルペダル開度領域を非連動アクセルペダル開度領域としてもよい。ただし、燃費を重視する変速線において、燃費を重視する変速線上で最大のエンジントルク近傍でエンジントルクが変化する場合、その変化量は連動アクセルペダル開度領域Rにおける燃費を重視する変速線上のエンジントルクの変化量と比較して極僅少であればよい。
【符号の説明】
【0046】
10・・・エンジン、11・・・ スロットルバルブ、12・・・ スロットルセンサ、13・・・スロットル用アクチュエータ、14・・・アクセルペダル、15・・・ アクセルセンサ、16・・・ シャフト、17・・・ スロットルボデー、18・・・インテークマニホールド、20・・・ 自動クラッチ、30・・・ 自動変速機、31・・・ 入力軸、32・・・ 出力軸、37・・・ 出力軸回転センサ、41、42、43、44、45・・・ 変速用アクチュエータ、50・・・ECU、52・・・変速制御装置、R・・・連動アクセルペダル開度領域(燃費重視変速線上でアクセルペダル開度とエンジントルクが連動する領域)、NR・・・非連動アクセルペダル開度領域(燃費重視変速線上でアクセルペダル開度とエンジントルクが連動しない領域)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの回転数を変換して車輪に伝達する自動変速機の変速段を変えるようにアクチュエータを駆動する車両用変速制御装置であって、
燃費を重視する変速線において、アクセルペダルの開度の変化に関わらず、前記燃費を重視する変速線上で略最大のエンジントルクを維持するアクセルペダル開度領域を非連動アクセルペダル開度領域と設定し、前記非連動アクセルペダル開度領域に含まれるアクセルペダル開度よりも小さいアクセルペダル開度領域では、前記燃費を重視する変速線上において、前記アクセルペダルの最小開度から最大開度までの変化に連動して、前記燃費を重視する変速線上で最小の前記エンジントルクから前記略最大のエンジントルクまでエンジントルクが変化するアクセルペダル開度領域を連動アクセルペダル開度領域と設定し、
前記非連動アクセルペダル開度領域内で、前記アクセルペダル開度の最小の開度に燃費を重視した第1の変速点と、前記非連動アクセルペダル開度領域内で、前記アクセルペダル開度の最大の開度に駆動力を重視した第2の変速点とを設定し、前記アクセルペダルが前記非連動アクセルペダル開度領域に操作されたとき、前記第1の変速点と前記第2の変速点とを結ぶ変速線上で当該制御装置が前記自動変速機の前記変速段を変えるように前記アクチュエータを駆動する車両用変速制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記アクセルペダルが、前記非連動アクセルペダル開度領域より前記アクセルペダル開度が小さい前記連動アクセルペダル開度領域に操作されたとき、前記アクセルペダル開度が前記連動アクセルペダル開度領域での前記最小の開度から前記最大の開度に至るまで、前記燃費を重視する前記変速線上で当該制御装置が前記自動変速機の前記変速段を変えるように前記アクチュエータを駆動する車両用変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−163128(P2012−163128A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22341(P2011−22341)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】