説明

車両用懸架装置

【課題】 小型化が図れ、車体側の形状やサスペンションのレイアウト変更などを検討することなく、車両への搭載を容易にすることができる車両用懸架装置を提供する。
【解決手段】 この車両用懸架装置は、ボールねじ4、増速機構5、および電磁モータ式の抑制力発生器6を有し、ボールねじ4のシャフト7の直線運動をボールねじナット8の回転運動に変換し、この回転運動を増速機構5を介して増速して抑制力発生器6のモータロータ29に伝達し、抑制力発生器6が前記回転運動を抑制する方向の力を発生することでシャフト7の直線運動を抑制する電磁モータ式緩衝器を用いたものである。前記ボールねじ4、増速機構5、および抑制力発生器6のうちのいずれかを構成する一つまたは複数の部品が、前記ボールねじ4、増速機構5、および抑制力発生器6のうちの2つ以上を構成する部品として共有化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールねじ機構と、電磁モータ式の抑制力発生器を利用して減衰力を発生させる車両用懸架装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において、懸架部と被懸架部との間に、懸架ばねと油圧緩衝器とを並列に配置し、路面の凹凸によって生じる振動等を減衰させることで、車体の乗り心地と操縦性を確保する装置が実用に供されている。近年、前記油圧緩衝器に代わる機構として、電磁モータを利用して減衰力を発生する電磁モータ式緩衝器が提案されている。なお、この明細書で「電磁モータ」とは、電気による磁場の力で動くモータを意味し、電動機と同義である。電磁モータを使うことで、減衰力制御や車高調整などを自在に行うことが可能となる。また電磁モータを発電機として利用することで、振動エネルギーを回生利用することも可能である。
【0003】
より具体的な構造として、以下の例が提案されている(特許文献1)。図5に示すように、ボールねじ機構を利用して懸架部と被懸架部との間に生じる振動を、直線運動から回転運動へと変換し、ボールねじシャフト50を回転させ、動力伝達機構51を介してボールねじシャフト50の軸方向外側に配置した電磁モータ52に伝える電磁緩衝器が提案されている。また図6に示すように、動力伝達機構51として傘歯車を用い、ボールねじ53の回転軸に対して電磁モータ52の回転軸を直交にして緩衝器の外部に電磁モータ52を配置する構成も合わせて提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−11824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、電磁モータ52が、ボールねじシャフト50の軸方向端部もしくは緩衝器の外部に配置されるので、電磁緩衝器を車両へ搭載する場合には、電磁モータ用に大きな空間を確保する必要がある。そのため、前記電磁緩衝器に近接する車体側の形状やサスペンションのレイアウト変更を検討する必要が生じる。
【0006】
この発明の目的は、小型化が図れ、車体側の形状やサスペンションのレイアウト変更などを検討することなく、車両への搭載を容易にすることができる車両用懸架装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の車両用懸架装置は、ボールねじ、増速機構、および電磁モータ式の抑制力発生器を有し、前記ボールねじのシャフトの直線運動をボールねじナットの回転運動に変換し、この回転運動を前記増速機構を介して増速して前記抑制力発生器のモータロータに伝達し、抑制力発生器が前記回転運動を抑制する方向の力を発生することで前記シャフトの直線運動を抑制する電磁モータ式緩衝器を用いた車両用懸架装置において、前記ボールねじ、増速機構、および抑制力発生器のうちのいずれかを構成する一つまたは複数の部品が、前記ボールねじ、増速機構、および抑制力発生器のうちの2つ以上を構成する部品として共有化されていることを特徴とする。
【0008】
この構成によると、ボールねじのシャフトとこのシャフトを支持する部材を、車両の例えば、車体とアーム等車輪を支持する部材の間に取付けて使用される。車両の走行時の振動により、ボールねじのシャフトは、ボールねじナットに対して相対的に軸方向へ直線運動する。このときシャフトに螺合するボールねじナットは回転運動し、この回転運動が増速機構を介して増速される。増速された回転運動は、電磁モータ式の抑制力発生器のモータロータに伝達される。このとき抑制力発生器が、回転運動を抑制する方向に力を発生させることで、前記車両の振動を減衰することができる。発生する力を抑制力発生器で制御することで、所望の減衰力が得られる。この発明では、ボールねじ、増速機構、および抑制力発生器のうちのいずれかを構成する一つまたは複数の部品が、前記ボールねじ、増速機構、および抑制力発生器のうちの2つ以上を構成する部品として共有化されているため、ボールねじシャフトの軸方向端部に電磁モータが配置される従来構造よりも特に軸方向のコンパクト化を図り、車両用懸架装置全体の小型化を図ることが可能となる。これにより、車体側の形状やサスペンションのレイアウト変更などを検討することなく、車両用懸架装置を車両へ容易に搭載することができる。
【0009】
前記ボールねじナット、増速機構、および抑制力発生器を、同一回転軸上に配置しても良い。この場合、電磁モータの回転軸の軸線と、ボールねじの回転軸の軸線とをずらした従来構造よりも、車両用懸架装置の径方向寸法を小さくすることができる。これにより、種々の車両に対し、車両用懸架装置を搭載し得る汎用性を高めることができる。
【0010】
前記増速機構および抑制力発生器のいずれか一方または両方が中空形状であっても良い。この場合、増速機構または抑制力発生器の中空形状をなす中空部に、ボールねじシャフトを軸方向移動自在に設けることができる。そのため、ボールねじシャフトの軸方向端部に動力伝達機構を介して電磁モータを接続する従来構成に比べて、懸架装置の軸方向全長を短縮することが可能となる。
前記増速機構および抑制力発生器の両方が中空形状であり、前記ボールねじナットをハウジング内に回転自在に支持すると共に、前記ハウジング内における前記シャフトの半径方向外方に、前記増速機構および抑制力発生器を設けても良い。このようにハウジング内に、ボールねじナット、増速機構、および抑制力発生器を一体的に設けることで、ハウジングの構造が簡略化され、ハウジング剛性の向上や軽量化を図れる。
【0011】
前記増速機構は遊星歯車機構であっても良い。この場合、例えば、隣接する軸に順次に回転運動を伝える複数の平歯車等からなる歯車列よりも、少ない段数で大きな増速比を得ることができる。また、入力軸と出力軸とを同一軸上に配置できるうえ、複数の遊星歯車にて負荷を分担することができるため、車両用懸架装置の小型化に寄与できる。
【0012】
前記ボールねじのシャフトの軸方向一端に、車両の懸架部または被懸架部に取り付けられる車両取付部を有し、前記シャフトの軸方向の一部の外周面を支持する軸受を、前記車両取付部とボールねじナットとの間に設けても良い。
前記増速機構および抑制力発生器のいずれか一方または両方が、中空形状の中空部を有し、前記シャフトの外周面に、ボールねじ溝加工が施されたねじ溝加工面と、前記軸受が支持する摺動面とが形成され、前記シャフトの外周面における、ねじ溝加工面と摺動面との境界部を、前記いずれかの中空部に対し、軸方向に移動可能に構成しても良い。この場合、ボールねじシャフトの軸方向端部に動力伝達機構を介して電磁モータを接続する構成に比べて、車両用懸架装置の軸方向全長を短縮することが可能となる。
【0013】
前記ボールねじナットの外周面を回転自在に支持する複数の転がり軸受を設け、軸方向に隣合う軸受間に、軸方向隙間を介して複数の円筒部材を設け、複数の転がり軸受に軸方向荷重を与える弾性部材を、前記複数の円筒部材にわたって設けても良い。この構成によると、弾性部材は、複数の円筒部材を介して複数の転がり軸受に軸方向荷重を与える。複数の円筒部材を軸方向隙間を介して設けたため、ボールねじナットの軸方向に大きな荷重が負荷されたとき、軸方向に隣合う2つの円筒部材が容易に接触し、直ちに転がり軸受で支持される。したがって、アンギュラ玉軸受の鋼球すべてに均一な荷重を付加しておくことで衝撃荷重が入力されたときに荷重の偏りによる圧痕の発生を抑制することができ、且つ、ボールねじナットの軸方向荷重が小さいときには、転がり軸受への予圧量が小さく起動トルクは低いため、ボールねじナットは容易に回転できる。ボールねじナットの軸方向に大きな荷重が負荷されたとき、弾性部材が与える軸方向荷重に抗して、隣合う2つの円筒部材が接触することで、2つの円筒部材が非接触の状態よりも高い剛性で荷重を支持することができる。
前記大きな荷重とは、前記弾性部材が与える軸方向荷重よりも大きな荷重であり、前記小さな荷重とは、弾性部材が与える軸方向荷重よりも小さな荷重である。
【0014】
軸方向に隣接する二つの円筒部材が互いに相対的に回転することを防ぐ回り止め部材を、前記二つの円筒部材にわたって設け、前記回り止め部材を、円筒部材に対して軸方向隙間を介して配設しても良い。前記回り止め部材により、軸方向に隣接する二つの円筒部材が相対的に回転することを防ぐため、ボールねじナットの回転を確実に伝達することができる。また前記軸方向隙間をあけて二つの円筒部材を設けているため、回り止め部材は、ボールねじナットにかかる荷重に応じて、円筒部材間の軸方向移動が可能となる。
【発明の効果】
【0015】
この発明の車両用懸架装置は、ボールねじ、増速機構、および電磁モータ式の抑制力発生器を有し、前記ボールねじのシャフトの直線運動をボールねじナットの回転運動に変換し、この回転運動を前記増速機構を介して増速して前記抑制力発生器のモータロータに伝達し、抑制力発生器が前記回転運動を抑制する方向の力を発生することで前記シャフトの直線運動を抑制する電磁モータ式緩衝器を用いた車両用懸架装置において、前記ボールねじ、増速機構、および抑制力発生器のうちのいずれかを構成する一つまたは複数の部品が、前記ボールねじ、増速機構、および抑制力発生器のうちの2つ以上を構成する部品として共有化されている。このため、車両用懸架装置の小型化が図れ、車体側の形状やサスペンションのレイアウト変更などを検討することなく、車両への搭載を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る車両用懸架装置の断面図である。
【図2】同車両用懸架装置の要部の拡大断面図である。
【図3】同車両用懸架装置の要部の拡大断面図である。
【図4】同車両用懸架装置の抑制力発生器を発電機として使用する場合の配線例を概略示すブロック図である。
【図5】従来例の車両用懸架装置の断面図である。
【図6】他の従来例の車両用懸架装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の第1の実施形態に係る車両用懸架装置を図1ないし図4と共に説明する。
図1に示すように、車両用懸架装置は、例えば、四輪車等の車両の車体を含む懸架部1と車輪やアーム等を含む被懸架部2との間に設けられ、これら懸架部1,被懸架部2間の振動を減衰する。車両用懸架装置は、ハウジング3と、ボールねじ4と、増速機構5と、電磁モータ式の抑制力発生器6とを有する。ボールねじ4および増速機構5を構成する部品として、後述する複数のキャリアピン18が、ボールねじ4、増速機構5に共有化され、増速機構5および抑制力発生器6を構成する部品として、後述する太陽歯車27が、増速機構5、抑制力発生器6に共有化されている。
前記ボールねじ4は、シャフト7と、このシャフト7に螺合されるボールねじナット8とを有する。ハウジング3内に、シャフト7の大部分およびボールねじナット8と、増速機構5と、抑制力発生器6とが設けられている。ハウジング3における長手方向一端つまり上端の開口部から、少なくともシャフト7の軸方向一端が突出する。このシャフト7の軸方向一端には、雄螺子からなる車両取付部9が設けられ、この車両取付部9が車両の懸架部1に取付け可能に構成される。ハウジング3の長手方向他端には車両取付部材10が設けられ、この車両取付部材10が車両の被懸架部2に取付けられる。
【0018】
前記ハウジング3は、駆動部ハウジング11と、シャフト支持ハウジング12と、下部ハウジング13とを有する。駆動部ハウジング11の軸方向一端に、シャフト支持ハウジング12が接続され、駆動部ハウジング11の軸方向他端に、下部ハウジング13が接続されている。駆動部ハウジング11は円筒状に形成され、この駆動部ハウジング11内に、ボールねじナット8、増速機構5、および抑制力発生器6を含む駆動部が設けられている。ボールねじ4のシャフト7の軸方向他端には、このシャフト7の軸方向移動の範囲を制限するためのストッパ部材14が固定されている。ストッパ部材14は、ゴムや樹脂等の衝撃吸収性の良い弾性材からなり、下部ハウジング13の底面13aとの衝突時の衝撃を緩和する。なお下部ハウジング13の底面13aに、前記ストッパ部材14が衝突した際の衝撃を緩和するための図示しないゴムや樹脂等からなる緩衝部材を設けても良い。
【0019】
下部ハウジング13は、軸方向に沿って順次、大径円筒部13a、テーパ筒部13b、小径円筒部13cとを有する。テーパ筒部13bは、大径円筒部13a側から小径円筒部13c側に向かうに従って小径側に至るように傾斜する断面テーパ形状に形成されている。小径円筒部13cの内周面は、シャフト7およびストッパ部材14の移動を許容する内径寸法に規定される。小径円筒部13c内の底面に、ストッパ部材14の先端が当接離隔するようになっている。シャフト7のうち、ボールねじナット8との接触面には、回転中のボールねじナット8との接触を考慮し摺動性の良い樹脂部材15が固定されている。
【0020】
ボールねじ4等について説明する。
図2に示すように、ボールねじ4は、シャフト7による直線運動を、ボールねじナット8による回転運動に変換し、増速機構5に伝達するものである。駆動部ハウジング11の内周面には、転がり軸受16,16、歯車保持部材17の軸方向位置をそれぞれ規制する段差部11a,11bが設けられている。駆動部ハウジング11の内周面は、これら段差部11a,11bにより、軸方向一端から他端に向かうに従って順次、大径部、中径部、小径部に形成される。駆動部ハウジング11の前記中径部には、ボールねじナット8を回転自在に支持する2つの転がり軸受16,16が嵌合されている。
【0021】
これら転がり軸受16,16は、それぞれアンギュラ玉軸受からなり、背面組合せに組み込まれている。転がり軸受16,16の内輪内周面に、ボールねじナット8の外周面が嵌合されている。図2上側の転がり軸受16の内輪端面に、ボールねじナット8の第1フランジ部8aが当接されると共に、図2下側の転がり軸受16の内輪端面に、ボールねじナット8の第2フランジ部8bが当接される。前記第1フランジ部8aに後述のキャリアピン18が設けられている。両フランジ8a,8b間に内輪19,19および後述する内輪間座20が挟み込まれ、前記転がり軸受16の外輪端面が段差部11aに当接する。したがって、ボールねじナット8は、転がり軸受16,16によって軸方向および半径方向に支持される。
【0022】
軸方向に隣合う転がり軸受16,16間に、予圧調整機構21および回り止め部材22と、内輪間座20とが設けられている。すなわち軸方向に対向する外輪背面間に、予圧調整機構21および回り止め部材22が設けられ、内輪間に内輪間座20が設けられている。前記予圧調整機構21は、複数(この例では2つ)の円筒部材23,23と、複数の弾性部材24とを有する。2つの円筒部材23,23は、微小な軸方向隙間δ1をあけて互いに向き合って配置される。これら円筒部材23,23の互いに対向する端面には、それぞれ円周方向一定間隔または適当間隔おきに複数の凹部23aが設けられている。一方の円筒部材23に設けられる複数の凹部23aと、他方の円筒部材23に設けられる複数の凹部23aとは、同数で且つ同位相に配設されている。各凹部23aはそれぞれ非貫通孔からなる。円筒部材23,23のうち軸方向に対向する凹部23a,23aにわたり、圧縮コイルばねからなる弾性部材24が挿入されている。この弾性部材24は、前記2つの転がり軸受16,16に軸方向荷重(予圧)を与えるものである。予圧量は、圧縮コイルばねの仕様および数量等を変更することで調整できる。
【0023】
円周方向に設けられる複数の凹部23aのうち、定められた複数箇所の凹部23aに弾性部材24が挿入され、残余の1つ以上の凹部23aに回り止め部材22がそれぞれ挿入されている。この例では、回り止め部材22としてピンが適用されている。この回り止め部材22は、軸方向に隣接する二つの円筒部材23,23が互いに相対的に回転することを防ぐ部材である。回り止め部材22は、円筒部材23に対して、軸方向隙間δ2を介して軸方向に移動可能に設けられている。前記軸方向隙間δ2は、円筒部材23,23間の軸方向隙間δ1以上に定められる。ボールねじナット8に大きな軸方向荷重が負荷されて、複数の弾性部材24が与える軸方向荷重に抗して、隣合う2つの円筒部材23,23が接触する。このとき軸方向隙間δ2があることで、回り止め部材22に対して、円筒部材23,23が軸方向に相対的に移動することが許容される。
【0024】
ボールねじナット8に負荷される軸方向荷重が小さいときには、転がり軸受16,16への予圧量が小さく起動トルクは低いため、ボールねじナット8は容易に回転し得る。ボールねじナット8の軸方向に大きな荷重が負荷されたとき、弾性部材24が与える軸方向荷重に抗して、軸方向に隣合う2つの円筒部材23,23が接触することで、2つの円筒部材23,23が非接触の状態よりも高い剛性で荷重を支持し得る。
【0025】
増速機構5等について説明する。
増速機構5は、ボールねじナット8の回転運動を増速し、抑制力発生器6に伝達する機構である。この増速機構5は遊星歯車機構であり、太陽歯車27と、複数の遊星歯車26と、複数のキャリアピン18と、内歯車25と、歯車保持部材17とを有する。ハウジング3内におけるシャフト7の半径方向外方に、これら構成部品からなる増速機構5が設けられる。太陽ギヤ27に複数の遊星歯車26が噛合されると共に、内歯車25に複数の遊星歯車26が噛合されている。太陽ギヤ27と、内歯車25と、複数のキャリアピン18を支持する第1フランジ部8aとが、同一軸心に配置されている。太陽歯車27は、内周部が中空形状となるリング状に形成され、後述の抑制力発生器6(図3)の一部に接合または一体に設けられる。前記第1フランジ部8aの一端面8aaのうち外周側には、複数のキャリアピン18が軸方向に所定距離突出するように接合されている。これらキャリアピン18は、複数の遊星歯車26をそれぞれ回転自在に支持するものであり、円周方向一定間隔おきに設けられている。
【0026】
駆動部ハウジング11内の前記大径部に、リング状の歯車保持部材17が嵌合され、段差部11bに、歯車保持部材17の端面が当接される。この歯車保持部材17の内周面に段差部17aが設けられ、この段差部17aに内歯車25の一端面が支持されると共に、この内歯車25の外周面が歯車保持部材17の内周面に嵌合固定されている。内歯車25の両端面が、後述する軸受保持部材28と前記段差部11bとの間に挟持されることで、内歯車25の軸方向位置が規制される。
ボールねじナット8が回転することで、複数の遊星歯車26が太陽歯車27の回転軸心L1周りに公転すると共に、これら遊星歯車26と太陽歯車27とがそれぞれ自転する。このように太陽歯車27が自転することで、ボールねじナット8の回転運動が抑制力発生器6に伝達される。
【0027】
抑制力発生器6等について説明する。
図3に示すように、抑制力発生器6は、電磁モータ式の抑制力発生器であり、例えば、駆動用のモータとして使用可能な電磁モータを用いている。この電磁モータは、直流モータや同期モータ等種々のモータを適用し得る。ハウジング3内におけるシャフト7の半径方向外方に、抑制力発生器6が設けられている。この抑制力発生器6は、モータロータ29と、永久磁石30と、モータステータ31とを有する。前記シャフト支持ハウジング12および駆動部ハウジング11には、中空形状のモータロータ29を回転自在に支持する転がり軸受32,32がそれぞれ設けられている。すなわち前記シャフト支持ハウジング12は、軸方向に沿って順次、フランジ部12a、大径円筒部12b、テーパ筒部12c、および小径円筒部12dとを有する。駆動部ハウジング11の軸方向一端に、前記フランジ部12aが接続されている。テーパ筒部12cは、大径円筒部12b側から小径円筒部12d側に向かうに従って小径側に至るように傾斜する断面テーパ形状に形成されている。大径円筒部12bの内周面には、転がり軸受32の軸方向位置を規制する段差部12baが設けられている。前記内周面に転がり軸受32の外輪外周面が嵌合され、且つ、前記段差部12baに外輪端面が当接されている。
【0028】
駆動部ハウジング11の内周面には、軸受保持部材28を介して転がり軸受32が設けられている。軸受保持部材28はリング状に形成され、この軸受保持部材28の軸方向一端が、内歯車25(図2)および歯車保持部材17(図2)の一端面に当接するように構成されている。軸受保持部材28の内周面に軸受を保持する段差部28aが設けられ、この段差部28aに外輪端面が当接され、且つ、前記内周面に外輪外周面が嵌合されている。転がり軸受32,32の内輪内周面に、モータロータ29の外周面29a,29bがそれぞれ嵌合されている。軸方向に対向する内輪端面間には、前記モータロータ29の段差部29c,29dが挟み込まれている。したがって、モータロータ29は、シャフト7の半径方向外方で回転自在に支持される。
【0029】
モータロータ29の外周面には、円筒状の永久磁石30が設けられている。また駆動部ハウジング11の内周面にはモータステータ31が設けられている。永久磁石30の外周面は、モータステータ29に対し定められた径方向隙間を介して対向するように設置される。前記モータロータ29の外周面に設けられる永久磁石30と、モータステータ31との間で、電磁力による回転方向の力が生じるよう構成されている。ボールねじ4のシャフト7の直線運動をボールねじナット8の回転運動に変換し、この回転運動を増速機構5を介して増速して抑制力発生器6のモータロータ29に伝達する。抑制力発生器6は、前記回転運動を抑制する方向の力を発生することでシャフト7の直線運動を抑制するように構成されている。
【0030】
シャフト支持構造等について説明する。
シャフト支持ハウジング12のうち、小径円筒部12dの内周面には、円筒状のシャフト支持部材33が固定されている。このシャフト支持部材33は、シャフト7の摺動部34を摺動自在に支持する。摺動部34のうち軸方向の一部の外周面である摺動面が、シャフト支持部材33に摺動自在に支持される。シャフト支持部材33は、この例では摺動性の良い樹脂材料や金属材料からなる滑り軸受が適用される。但し、シャフト支持部材33として転がり軸受を適用しても良い。シャフト支持ハウジング12の軸方向先端部には、シャフト7の摺動部34に接触する接触式シールからなる環状のシール部材35が設けられている。このシール部材35は、外部からハウジング3内への異物の侵入を防ぐ部材であり、シャフト支持部材33の軸方向一端に隣接して配置される。
【0031】
図1に示すように、前記シャフト7には、軸方向一端から他端に沿って順次、車両取付部9、摺動部34、およびボールねじ溝部36が設けられている。シャフト7は、主に軸方向直線運動を行うが、本実施形態では、駆動部ハウジング11や下部ハウジング13に対して相対的に回転可能である。前記ボールねじ溝部36は、シャフト7の外周面に、螺旋状のボールねじ溝加工が施されたねじ溝加工面が形成されたものである。図3に示すように、摺動部34およびボールねじ溝部36は、中空形状のモータロータ29の内周面つまり中空部に対し、径方向隙間をもって通過可能に構成されている。またシャフト7の外周面における、ねじ溝加工面と摺動面との境界部37は、モータロータ29の中空部に対し、軸方向に移動可能に構成されている。
【0032】
作用効果について説明する。
車両が路面の凹凸上を走行したときに生じる車両懸架部1と被懸架部2との間の振動により、ボールねじ4のシャフト7は、ボールねじナット8に対して相対的に軸方向へ直線運動する。このときシャフト7に螺合するボールねじナット8は、転がり軸受16,16を介して回転運動し、ボールねじナット8に設けられる複数のキャリアピン18を、ボールねじナット8の回転軸心L1周りに回転させる。これにより複数の遊星歯車26が太陽歯車27の回転軸心L1周りに公転すると共に、これら遊星歯車26と太陽歯車27とがそれぞれ自転する。このように太陽歯車27が自転することで、ボールねじナット8の回転運動が、抑制力発生器6のモータロータ29に伝達される。このとき抑制力発生器6が、回転運動を抑制する方向に力を発生させることで、前記車両の振動を減衰することができる。発生する力を抑制力発生器6で制御することで、所望の減衰力を得られる。また、外部から抑制力発生器6に電力を供給することで、モータロータ29を回転させ、増速機構5を介してボールねじナット8を回転させることで、シャフト7を軸方向に移動させることで、車両の車高調整等の能動的な制御も可能である。
【0033】
この実施形態では、前記複数のキャリアピン18が、ボールねじ4および増速機構5を構成する部品として共有化され、太陽歯車27が、増速機構5および抑制力発生器6を構成する部品として共有化されているため、ボールねじシャフトの軸方向端部もしくは緩衝器の外部に電磁モータが配置される従来構造よりも、特に軸方向のコンパクト化を図り、車両用懸架装置全体の小型化を図ることが可能となる。これにより、車体側の形状やサスペンションのレイアウト変更などを検討することなく、車両用懸架装置を車両へ容易に搭載することができる。また、ボールねじナット8、増速機構5、および抑制力発生器6を、同一回転軸上に配置しているため、電磁モータの回転軸の軸線と、ボールねじの回転軸の軸線とをずらした従来構造よりも、車両用懸架装置の径方向寸法を小さくすることができる。これにより、種々の車両に対し、車両用懸架装置を搭載し得る汎用性を高めることができる。
【0034】
増速機構5および抑制力発生器6の両方を中空形状とし、ボールねじナット8をハウジング3内に回転自在に支持すると共に、前記ハウジング3内における前記シャフト7の半径方向外方に、前記増速機構5および抑制力発生器6を設けたため、増速機構5および抑制力発生器6の中空形状を成す中空部に、シャフト7を移動自在に設けることができる。この場合、ボールねじシャフトの軸方向端部に動力伝達機構を介して電磁モータを接続する構成等に比べて、懸架装置の軸方向全長を短縮することが可能となる。また、ハウジング3内に、ボールねじナット8、増速機構5、および抑制力発生器6を一体的に設けることで、ハウジング3の構造が簡略化され、ハウジング剛性の向上や軽量化を図れる。
【0035】
増速機構5は遊星歯車機構であるため、例えば、隣接する軸に順次に回転運動を伝える複数の平歯車等からなる歯車列よりも、少ない段数で大きな増速比を得ることができる。また、複数のキャリアピン18が支持される入力軸となる第1フランジ部8aと、太陽歯車27が設けられる出力軸となるモータロータ29とが、同一の回転軸上に配置されるうえ、複数の遊星歯車26にて負荷を分担することができるため、車両用懸架装置の小型化に寄与できる。シャフト7の外周面における、ねじ溝加工面と摺動面との境界部37を、モータロータ29の中空部に対し、軸方向に移動可能に構成したため、ボールねじシャフトの軸方向端部に動力伝達機構を介して電磁モータを接続する構成に比べて、車両用懸架装置の軸方向全長を短縮することが可能となる。
【0036】
軸方向に隣合う軸受16,16間に、軸方向隙間δ1を介して複数の円筒部材23,23を設け、複数の転がり軸受16,16に軸方向荷重を与える弾性部材24を、前記複数の円筒部材23,23にわたって設けたため、弾性部材24は、複数の円筒部材23を介して複数の転がり軸受16,16に軸方向荷重を与える。複数の円筒部材23,23を軸方向隙間δ1を介して設けたため、ボールねじナット8の軸方向に大きな荷重が負荷されたとき、軸方向に隣合う2つの円筒部材23,23が容易に接触し、直ちに転がり軸受16,16で支持される。したがって、衝撃荷重が入力されたときに一般的に問題となる軸受のガタを無くすことができ、且つ、ボールねじナット8の軸方向荷重が小さいときには、転がり軸受16,16への予圧量が小さく起動トルクは低いため、ボールねじナット8は容易に回転できる。ボールねじナット8の軸方向に大きな荷重が負荷されたとき、弾性部材24が与える軸方向荷重に抗して、隣合う2つの円筒部材23,23が接触することで、2つの円筒部材23,23が非接触の状態よりも高い剛性で荷重を支持することができる。
【0037】
軸方向に隣接する2つの円筒部材23,23が互いに相対的に回転することを防ぐ回り止め部材22が設けられ、回り止め部材22は、円筒部材23に対して、軸方向隙間δ2を介して軸方向に移動可能に設けられているため、ボールねじナット8に大きな軸方向荷重が負荷されて、複数の弾性部材24が与える軸方向荷重に抗して、隣合う2つの円筒部材23,23が接触する。このとき軸方向隙間δ2があることで、回り止め部材22に対して、円筒部材23,23が軸方向に相対的に移動することが許容される。ボールねじナット8に負荷される軸方向荷重が小さいときには、転がり軸受16,16への予圧量が小さく起動トルクは低いため、ボールねじナット8は容易に回転し得る。ボールねじナット8の軸方向に大きな荷重が負荷されたとき、弾性部材24が与える軸方向荷重に抗して、軸方向に隣合う2つの円筒部材23,23が接触することで、2つの円筒部材23,23が非接触の状態よりも高い剛性で荷重を支持し得る。
【0038】
図4(1)は、車両用懸架装置の抑制力発生器6を発電機として使用する場合の配線例を概略示すブロック図である。抑制力発生器6に、順次、整流回路、昇降圧回路を介して、バッテリが電気的に接続されている。この場合、モータロータの回転により抑制力発生器6で発生した電力を、整流回路、昇降圧回路を介してバッテリに回生し得ると共に、減衰力を制御することが可能となる。この構成によると、抑制力発生器6を発電機として使用することで、振動エネルギーを電気エネルギーに変換し、回生電力として利用こともできる。したがって、車両に搭載されるバッテリーの負荷を低減することが可能となる。なお図4(2)は、減衰力を制御可能な車両用懸架装置において、バッテリに電力を回生しない場合の配線例を概略示すブロック図である。同図に示すように、抑制力発生器6に、順次、整流回路、昇降圧回路を介して、抵抗器が電気的に接続されている。図4(3)は、車両の車高調整等の能動的な制御を行うことができる車両用懸架装置の配線例を概略示すブロック図である。同図に示すように、抑制力発生器6に、インバータ回路を介して、抑制力発生器6に電力を供給する電源が電気的に接続されている。
【符号の説明】
【0039】
4…ボールねじ
5…増速機構
6…抑制力発生器
7…シャフト
8…ボールねじナット
9…車両取付部
16…転がり軸受
22…回り止め部材
23…円筒部材
24…弾性部材
29…モータロータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールねじ、増速機構、および電磁モータ式の抑制力発生器を有し、前記ボールねじのシャフトの直線運動をボールねじナットの回転運動に変換し、この回転運動を前記増速機構を介して増速して前記抑制力発生器のモータロータに伝達し、抑制力発生器が前記回転運動を抑制する方向の力を発生することで前記シャフトの直線運動を抑制する電磁モータ式緩衝器を用いた車両用懸架装置において、
前記ボールねじ、増速機構、および抑制力発生器のうちのいずれかを構成する一つまたは複数の部品が、前記ボールねじ、増速機構、および抑制力発生器のうちの2つ以上を構成する部品として共有化されていることを特徴とする車両用懸架装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ボールねじナット、増速機構、および抑制力発生器を、同一回転軸上に配置した車両用懸架装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記増速機構および抑制力発生器のいずれか一方または両方が中空形状である車両用懸架装置。
【請求項4】
請求項3において、前記増速機構および抑制力発生器の両方が中空形状であり、前記ボールねじナットをハウジング内に回転自在に支持すると共に、前記ハウジング内における前記シャフトの半径方向外方に、前記増速機構および抑制力発生器を設けた車両用懸架装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記増速機構は遊星歯車機構である車両用懸架装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記ボールねじのシャフトの軸方向一端に、車両の懸架部または被懸架部に取り付けられる車両取付部を有し、前記シャフトの軸方向の一部の外周面を支持する軸受を、前記車両取付部とボールねじナットとの間に設けた車両用懸架装置。
【請求項7】
請求項6において、前記増速機構および抑制力発生器のいずれか一方または両方が、中空形状の中空部を有し、前記シャフトの外周面に、ボールねじ溝加工が施されたねじ溝加工面と、前記軸受が支持する摺動面とが形成され、
前記シャフトの外周面における、ねじ溝加工面と摺動面との境界部を、前記いずれかの中空部に対し、軸方向に移動可能に構成した車両用懸架装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記ボールねじナットの外周面を回転自在に支持する複数の転がり軸受を設け、軸方向に隣合う軸受間に、軸方向隙間を介して複数の円筒部材を設け、複数の転がり軸受に軸方向荷重を与える弾性部材を、前記複数の円筒部材にわたって設けた車両用懸架装置。
【請求項9】
請求項8において、軸方向に隣接する二つの円筒部材が互いに相対的に回転することを防ぐ回り止め部材を、前記二つの円筒部材にわたって設け、前記回り止め部材を、円筒部材に対して軸方向隙間を介して配設した車両用懸架装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−50173(P2013−50173A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188698(P2011−188698)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】