説明

車両用操舵装置、車両用操舵装置付き車両

【課題】不要な操舵反力により運転者に違和感を与えることのない車両用操舵装置を提供する。
【解決手段】操舵側差動伝達機構13の第1回転要素に接続した操舵軸3と、転舵側差動伝達機構14の第1回転要素に接続した転舵軸5と、操舵部に付与する反力トルクを発生し、操舵側差動伝達機構13の第2回転要素に接続した反力モータと、操向輪を転舵させる転舵力を発生し、転舵側差動伝達機構14の第2回転要素に接続した転舵モータと、操舵側差動伝達機構13の第3回転要素と、転舵側差動伝達機構14の第3回転要素とを接続する回転伝達軸18と、回転伝達軸18の回転を固定することにより操舵部から操向輪への力の伝達を遮断し、回転伝達軸18の回転を自由にすることにより操舵部から操向輪への力の伝達を行うロック機構15と、を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操舵装置、車両用操舵装置付き車両に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術としては、下記の特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報では、操舵側と転舵側との間に遊星ギヤを設け、この遊星ギヤのサンギヤに操舵側を接続し、ピニオンに転舵側を接続した車両用操舵装置が記載されている。この車両用操舵装置では、遊星ギヤのリングギヤの回転を固定したときには操舵側と転舵側との間でトルクの伝達が行われ、リングギヤを回転自由にしたときには操舵側と転舵側との間でトルクの伝達が行われない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−335248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術においては、操舵側と転舵側との間のトルクの伝達を切り離したときは、リングギヤが自由に回転するため、リングギヤのイナーシャによりリングギヤの回転方向が変わるときに操舵側に反力が伝達し、運転者に違和感を与える恐れがあった。
【0005】
本発明は上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、不要な操舵反力により運転者に違和感を与えることのない車両用操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明においては、操舵側差動伝達機構の第1回転要素に接続した操舵軸と、転舵側差動伝達機構の第1回転要素に接続した転舵軸と、操舵部に付与する反力トルクを発生し、操舵側差動伝達機構の第2回転要素に接続した反力モータと、操向輪を転舵させる転舵力を発生し、転舵側差動伝達機構の第2回転要素に接続した転舵モータと、反力モータを制御する反力モータ制御手段と、転舵モータを制御する転舵モータ制御手段と、操舵側差動伝達機構の第3回転要素と、転舵側差動伝達機構の第3回転要素とを接続する回転伝達軸と、回転伝達軸の回転を固定、または回転伝達軸の回転を自由にするロック機構と、ロック機構を制御するロック機構制御手段とを設けた。
【発明の効果】
【0007】
よって、不要な操舵反力を抑制することが可能となり、運転者に与える違和感を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の車両用操舵装置を搭載した車両の全体構成図である。
【図2】実施例1の操舵機構の構成概略図である。
【図3】実施例1の操舵機構の断面図である。
【図4】実施例1のロック機構の拡大図である。
【図5】実施例1のコントローラの制御ブロック図である。
【図6】実施例1のステアバイワイヤ制御時のロック機構の様子を示す図である。
【図7】実施例1の可変舵角制御時のロック機構の様子を示す図である。
【図8】実施例1の転舵モータが故障したときのロック機構の様子を示す図である。
【図9】実施例1の反力モータが故障したときのロック機構の様子を示す図である。
【図10】実施例1の反力モータと転舵モータが故障したときのロック機構の様子を示す図である。
【図11】他の実施例の操舵機構の構成概略図である。
【図12】他の実施例の操舵機構の構成概略図である。
【図13】他の実施例の操舵機構の構成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施例1]
実施例1の車両用操舵装置1の構成について説明する。
【0010】
〔全体構成の概要〕
図1は、車両用操舵装置1を搭載した車両50の全体構成図である。車両用操舵装置1は、ステアリングホイール(操舵部)2と、操舵軸3と、操向4と、転舵軸5と、操舵機構6と、操舵角度センサ(操舵角度検出手段)7と、操舵トルクセンサ(操舵トルク検出手段)8と、転舵角度センサ(転舵角度検出手段)9と、コントローラ40とを有している。
【0011】
操舵軸3は、運転者の操舵操作によりステアリングホイール2に入力された操舵トルクを操舵機構6に伝達する。転舵軸5は、操舵機構6において発生した転舵トルクを操向輪4に伝達する。転舵軸5と操向輪4との間には、ラック10とピニオン11が設けられ、転舵軸5の回転の力をタイロッド12の軸方向の力に変換している。
コントローラ40は、操舵角度センサ7、操舵トルクセンサ8、転舵角度センサ9、操舵機構6からの情報を入力し、これらの情報に基づいて操舵機構6の制御を行っている。
【0012】
〔操舵機構の構成〕
図2は操舵機構6の構成概略図である。操舵機構6は、操舵側遊星ギヤ(操舵側差動伝達機構)13と、転舵側遊星ギヤ(転舵側差動伝達機構)14と、ロック機構15と、反力モータ16と、転舵モータ17と、回転伝達軸18とを有している。
【0013】
操舵側遊星ギヤ13は、サンギヤ(第3回転要素)13sと、リングギヤ(第2回転要素)13rと、サンギヤ13sおよびリングギヤ13rと噛み合うピニオン13pと、このピニオン13pを保持するキャリヤ(第1回転要素)13cとから構成されている。転舵側遊星ギヤ14は、同じくサンギヤ(第3回転要素)14sと、リングギヤ14rと、サンギヤ14sおよびリングギヤ(第2回転要素)14rと噛み合うピニオン14pと、このピニオン14pを保持するキャリヤ(第1回転要素)14cとから構成されている。
【0014】
反力モータ16は、操舵側遊星ギヤ13のリングギヤ13rに接続され、また転舵モータ17は、転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ14rに接続されている。操舵軸3は、操舵側遊星ギヤ13のキャリヤ13cに接続され、また転舵軸5は、転舵側遊星ギヤ14のキャリヤ14cに接続されている。また反力モータ16には、反力モータ16の回転を係止可能な係止部材26が設けられている。
【0015】
回転伝達軸18は操舵側遊星ギヤ13のサンギヤ13sと、転舵側遊星ギヤ14のサンギヤ14sと接続している。また回転伝達軸18には、この回転伝達軸18の回転を固定、自由に切り替えるロック機構15が設けられている。
【0016】
図3は操舵機構6の断面図、図4はロック機構15の拡大図である。操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14、ロック機構15は、第1ハウジング20と第2ハウジング21の中空部内に収容されている。この第1ハウジング20と第2ハウジング21とはそれぞれの一端が隣接して接続しており、中空部が連通している。第1ハウジング20、第2ハウジング21の他端側はカバー24,25により中空部は封止されている。
【0017】
操舵側遊星ギヤ13および転舵側遊星ギヤ14のサンギヤ13s,14sは、回転伝達軸18の両端部に一体に形成されている。回転伝達軸18の一端は操舵軸3の端部の開口部3aに挿入され、この第1ベアリング31を介して支持されている。また、回転伝達軸18の他端は転舵軸5の端部の開口部5aに挿入され、この第2ベアリング32を介して支持されている。
【0018】
操舵側遊星ギヤ13のピニオン13pは、操舵軸3に固定されたキャリヤ13cに第3ベアリング33を介して支持されている。また転舵側遊星ギヤ14のピニオン14pは、転舵軸5に固定されたキャリヤ14cに第4ベアリング34を介して支持されている。
操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ13r,14rは、ウォームホイール(減速器)22,23の内周に固定されている。ウォームホイール22,23は、反力モータ16、転舵モータ17のモータ軸の先端に取り付けられたウォーム(減速器)16a、17aと噛み合っている。ウォームホイール22は、第1ハウジング20に第5ベアリング35を介して、操舵軸3に第6ベアリング36を介して支持されている。ウォームホイール23は、第2ハウジング21に第7ベアリング37を介して、転舵軸5に第8ベアリング38を介して支持されている。操舵軸3はカバー24に第9ベアリング39を介して支持され、転舵軸5はカバー25に第10ベアリング30を介して支持されている。
【0019】
ここでウォームホイール22,23およびウォーム16a,17aは、転舵モータ17と転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ14rとの間に設けた、ウォームホイール23とウォーム17aの間のフリクションよりも、反力モータ16と操舵側遊星ギヤ13のリングギヤ13rとの間に設けた、ウォームホイール22とウォーム16aの間のフリクションが小さくなるように形成されている。すなわち、操舵側のウォームホイール22からウォーム16aへのトルクの伝達は行い易いが、転舵側のウォームホイール23からウォーム17aへのトルクの伝達は行い難く形成されている。
【0020】
ロック機構15は、被係止部材15a、係止部材15b、ソレノイド15cを有している。被係止部材15aの側面は凹部を有する多角形に形成され、回転伝達軸18と一体回転可能に固定されている。係止部材15bは、第1ハウジング20、第2ハウジング21に一端側を中心に回動可能に固定されている。係止部材15bの他端側は、被係止部材15a側面の凹部に係合する凸部が形成されている。ソレノイド15cは、通電時に軸が突出するように形成されており、この軸の先端にリンク部材15dが接続されている。リンク部材15dは、係止部材15bの一端側に当接し、ソレノイド15cの軸が突出するとリンク部材15dが係止部材15bを押して、被係止部材15aと係止部材15bとの係合が離れるように形成されている。被係止部材15aと係止部材15bとが係合しているときには、回転伝達軸18は第1ハウジング20、第2ハウジング21に固定されることとなり、一方、被係止部材15aと係止部材15bとが係合していないときには、回転伝達軸18は自由に回転を行う。
【0021】
〔制御ブロック〕
図5は、コントローラ40の制御ブロック図である。コントローラ40は、ステアバイワイヤ制御部41と、可変舵角操舵制御部42と、反力モータ制御部(反力モータ制御手段)43と、転舵モータ制御部(転舵モータ制御手段)44と、異常判定部(異常判定手段)45と、ロック機構制御部(ロック機構制御手段)46から構成されている。
【0022】
ステアバイワイヤ制御部41は、ステアリングホイール2と操向輪4との間の力の伝達を遮断し、ステアリングホイール2に付与する反力トルクや、操向輪4の転舵角度等を制御する、所謂ステアバイワイヤ制御を行う。ステアバイワイヤ制御部41では、操舵角度センサ7から操舵角度情報と、操舵トルクセンサ8から操舵トルク情報と、転舵角度センサ9から転舵角度情報とを入力する。ステアバイワイヤ制御部41では、ステアリングホイール2の操舵角に対する操向輪4の転舵角を可変にする可変舵角制御や、運転者による操舵トルクの入力によらず自動で操向輪4を転舵させるアクティブステア制御等による指令値を算出し、この指令値を、入力した操舵角度情報、操舵トルク情報、転舵角情報とともに反力モータ制御部43、転舵モータ制御部44に出力する。
【0023】
可変舵角操舵制御部42は、ステアリングホイール2と操向輪4との間で力を伝達し、運転者によるステアリングホイール2の操舵角度に対して操向輪4の転舵角度を任意に設定する、所謂可変舵角操舵制御を行う。可変舵角操舵制御部42は、操舵角度センサ7から操舵角度情報と、操舵トルクセンサ8から操舵トルク情報と、転舵角度センサ9から転舵角度情報とを入力する。可変舵角操舵制御部42では、ステアリングホイール2の操舵角に対する操向輪4の転舵角を可変にする可変舵角制御や、運転者が入力した操舵角度に対して操向輪4の転舵角度指令値を算出し、この指令値を、入力した操舵角度情報、操舵トルク情報、転舵角情報とともに反力モータ制御部43、転舵モータ制御部44に出力する。
【0024】
反力モータ制御部43では、ステアバイワイヤ制御部41や、可変舵角操舵制御部42から入力した指令値や各センサの情報から反力モータ16を制御する反力モータ指令値を算出する。反力モータ制御部43は、ステアバイワイヤ制御時には操舵角度情報と、操舵トルク情報とに基づいて反力トルク指令値を算出している。また反力モータ制御部43は、反力モータ16のモニタを行っている。
【0025】
転舵モータ制御部44では、ステアバイワイヤ制御部41や、可変舵角操舵制御部42から入力した指令値や各センサの情報から転舵モータ17を制御する転舵モータ指令値を算出する。転舵モータ制御部44は、ステアバイワイヤ制御時には操舵角度情報と、転舵角度情報とに基づいて転舵角指令値を算出している。また転舵モータ制御部44は、転舵モータ17のモニタを行っている。
【0026】
異常判定部45は、ステアバイワイヤ制御部41や可変舵角操舵制御部42を介して各センサの情報や、反力モータ制御部43や転舵モータ制御部44を介して反力モータ16や転舵モータ17のモニタ情報を入力して、反力モータ16の制御系の異常や、転舵モータ17の制御系の異常を判定する。ステアバイワイヤ制御時に、異常判定部45が一方、または両方の制御系を異常と判定した場合には、ロック機構制御部46に異常判定情報を出力する。
【0027】
ロック機構制御部46は、異常判定部45から異常判定情報が入力されたときには、ロック機構15を回転伝達軸18の固定を解除するように制御する。また可変舵角操舵制御部42により可変舵角制御が行われるときには、異常判定部45からの異常判定情報に関わらず、ロック機構15を回転伝達軸18の固定を解除するように制御する。
【0028】
〔操舵機構の動作〕
次にステアバイワイヤ制御時、可変舵角操舵制御時の操舵機構6の動作について説明する。なお以下では、操舵軸3の回転角度をθh、トルクをTh、転舵軸5の回転角度をθout、トルクをTout、操舵側遊星ギヤ13のリングギヤ13rの回転角度をθm1、トルクをTm1、転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ14rの回転角度をθm2、トルクをTm2、操舵側遊星ギヤ13の減速比をK1、転舵側遊星ギヤ14の減速比をK2とする。以下では説明の簡単のためK1=K2として算出した式を用いて説明している。
【0029】
(ステアバイワイヤ制御時)
図6はステアバイワイヤ制御時のロック機構15の様子を示す図である。ステアバイワイヤ制御時にはロック機構15により回転伝達軸18の回転が固定されるため、操舵側遊星ギヤ13のサンギヤ13sの回転が固定される。このときの操舵軸3の回転角度θh、トルクThは次の式で示すことができる。
θh=K1・θm1
Th=(1/K1)・Tm1
この式に示すように、反力モータ16によって操舵側遊星ギヤ13のリングギヤ13rのトルクTm1を制御することにより、操舵軸3に任意のトルクを付与することが可能となり、ステアリング2の操舵反力を任意に設定することができる。
【0030】
また回転伝達軸18の回転が固定されると、転舵側遊星ギヤ14のサンギヤ13sの回転が固定される。このときの転舵軸5の回転角度θout、トルクToutは次の式で示すことができる。
θout=K2・θm2
Tout=(1/K2)・Tm2
この式に示すように、転舵モータ17によって転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ14rの回転角度θm2を制御することにより、転舵軸5を任意の回転角度にすることが可能となり、操向輪4の転舵角度を任意に設定することができる。
【0031】
(可変舵角制御時)
図7は可変舵角制御時のロック機構15の様子を示す図である。可変舵角制御時には、ロック機構15による回転伝達軸18の回転を解除するため、操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のサンギヤ13s,14sが一体に回転する。このとき、入力した操舵軸3の回転角度θh、トルクThに対する出力の転舵軸5の回転角度θout、トルクToutは次の式で示すことができる。
θout=K1・θm1+K2・θm2+θh
Tout=Th
この式に示すように、反力モータ16、転舵モータ17によって操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ13r,14rの回転角度θm1,θm2を制御することにより、ステアリングホイール2に入力した操舵角度に対する操向輪4の転舵角度の比を任意に設定することができる。
【0032】
(転舵モータ故障時)
図8は転舵モータ17が故障したときのロック機構15の様子を示す図である。転舵モータ17が故障したときには、ロック機構15による回転伝達軸18の回転を解除するため、操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のサンギヤ13s,14sが一体に回転する。また故障した転舵モータ17の回転をロックするため、転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ14rは固定される。このときの入力した操舵軸3の回転角度θh、トルクThに対する出力の転舵軸5の回転角度θout、トルクToutは次の式で示すことができる。
θout=K1・θm1+θh
Tout=Th
この式に示すように、転舵モータ17によって操舵側遊星ギヤ13のリングギヤ13rの回転角度θm2を制御することにより、ステアリングホイール2に入力した操舵角度に対する操向輪4の転舵角度の比を任意に設定することができる。
【0033】
(反力モータ故障時)
図9は反力モータ16が故障したときのロック機構15の様子を示す図である。反力モータ16が故障したときには、ロック機構15による回転伝達軸18の回転を解除するため、操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のサンギヤ13s,14sが一体に回転する。また故障した反力モータ16の回転をロックするため、操舵側遊星ギヤ13のリングギヤ13rは固定される。このとき入力した操舵軸3の回転角度θh、トルクThに対する出力の転舵軸5の回転角度θout、トルクToutは次の式で示すことができる。
θout=K2・θm2+θh
Tout=Th
この式に示すように、反力モータ16によって転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ14rの回転角度θm1を制御することにより、ステアリングホイール2に入力した操舵角度に対する操向輪4の転舵角度の比を任意に設定することができる。
【0034】
(反力モータ、転舵モータ故障時)
図10は反力モータ16と転舵モータ17が故障したときのロック機構15の様子を示す図である。反力モータ16と転舵モータ17が故障したときには、ロック機構15による回転伝達軸18の回転を解除するため、操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のサンギヤ13s,14sが一体に回転する。また故障した反力モータ16と転舵モータ17の回転をロックするため、操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ13r,14rは固定される。このとき入力した操舵軸3の回転角度θh、トルクThに対する出力の転舵軸5の回転角度θout、トルクToutは次の式で示すことができる。
θout=θh
Tout=Th
この式に示すように、反力モータ16と転舵モータ17が固定されることにより、ステアリングホイール2に入力した操舵角度に対する操向輪4の転舵角度の比は固定となる。
【0035】
〔作用〕
次に実施例1の作用について説明する。
遊星ギヤのような差動装置においては、1要素の回転を自由にすることによって他の要素間の力の伝達を遮断することができる。例えば、2自由度を有する遊星ギヤのキャリヤに操舵軸を接続し、サンギヤに転舵軸を接続した場合、リングギヤの回転を自由にしたときに操舵軸から転舵軸側への力が伝達されない。一方、リングギヤの回転を固定したときには操舵軸から転舵軸への力が伝達される。このような構成を用いて、ステアバイワイヤにおいて、通常はリングギヤの回転を自由にして操舵側と転舵側の力を遮断し、システムに異常が発生した場合にはリングギヤの回転を固定して操舵側と転舵側との間で力を伝達するバックアップ装置を構成することができる。
【0036】
ここでリングギヤの回転を自由にした場合を考える。リングギヤの回転が一方方向の回転から逆方向の回転に変化する場合、リングギヤの慣性により一方向の回転を続けようとする。例えば、運転者の操舵に関わらず操向輪の転舵を行うアクティブステアのようなシステムを搭載した車両においては、運転者が保舵を行っているにも関わらず、操向輪の転舵方向が変化するときにリングギヤの慣性力がステアリングホイール側にも伝達してしまい、運転者に違和感を与えるおそれがあった。
【0037】
そこで実施例1の車両用操舵装置1においては、操舵側遊星ギヤ13のキャリヤ13cに接続した操舵軸3と、転舵側遊星ギヤ14のキャリヤ13cに接続した転舵軸5と、操舵側遊星ギヤ13のリングギヤ13rに接続した反力モータ16と、転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ14rに接続した転舵モータ17と、操舵側遊星ギヤ13のサンギヤ13sと転舵側遊星ギヤ14のサンギヤ14sに接続した回転伝達軸18と、回転伝達軸18の回転を固定、または回転伝達軸18の回転を自由にすることによりステアリングホイール2から操向輪4への力の伝達を行うロック機構15を設けた。
この構成により、回転伝達軸18の回転を固定して、操舵側遊星ギヤ13のサンギヤ13sと、転舵側遊星ギヤ14のサンギヤ14sの回転を固定することにより、ステアリングホイール2から操向輪4への力の伝達を遮断することが可能となる。このためステアバイワイヤ制御時に回転自由となる要素がないため、操向輪4の転舵方向が変化したとしても要素の慣性力がステアリングホイール2側に伝達することを抑制し、運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【0038】
また実施例1の車両用操舵装置1においては、反力モータ制御部43は、操舵トルクセンサ8が検出した操舵トルクと、操舵角度センサ7が検出した操舵角度とに基づいて反力モータ16によりステアリングホイール2に付与する反力トルクを制御するようにした。
この構成により、ステアリングホイール2の操舵状態に応じた操舵反力を運転者に与えることができる。
【0039】
また実施例1の車両用操舵装置1においては、転舵モータ制御部44は、転舵角度センサ9が検出した転舵角度と、操舵角度センサ7が検出した操舵角度とに基づいて転舵モータ17により操向輪4の転舵角度を制御するようにした。
この構成により、ステアリングホイール2の操舵状態に応じて操向輪4の転舵角度を任意に設定することができる。
【0040】
また実施例1の車両用操舵装置1においては、ロック機構制御部46は、異常判定部45が反力モータ16または転舵モータ17の制御に異常が発生したと判定した場合には、ロック機構15を回転伝達軸18の回転を自由にすることによりステアリングホイール2から操向輪4へ力が伝達するように制御するようにした。
この構成により、ロック機構15を解除することでステアリングホイール2から操向輪4へ力を伝達することが可能となる。よって、反力モータ16または転舵モータ17の制御に異常が発生してステアバイワイヤ制御が行えなくなってから、ステアリングホイール2から操向輪4へ力を伝達できるようにするまでの間のタイムラグを小さくすることができる。
【0041】
また実施例1の車両用操舵装置1においては、反力モータ制御部43または転舵モータ制御部44は、異常判定部45が反力モータ16、転舵モータ17の一方のモータの制御に異常が発生したと判定した場合には、一方のモータを停止し、他方のモータによりステアリングホイール2の操舵角度に対して操向輪4の転舵角度を可変にする可変舵角制御を行うようにした。
この構成により、反力モータ16、転舵モータ17の一方のモータの制御に異常が発生した場合であっても、可変舵角制御を行うことが可能となる。よって、ステアバイワイヤ制御が行えなくなっても、急に操舵特性が変化することを抑制することができる。またステアバイワイヤ制御が行えなくなっても、可変舵角制御によりステアリングホイール2と操向輪4との中立位置を一致させることができる。また反力モータ16、転舵モータ17のどちらか一方のモータを用いて可変舵角制御を行うことができる。
【0042】
また実施例1の車両用操舵装置1においては、反力モータ制御部43および転舵モータ制御部44は、異常判定部45が反力モータ16および転舵モータ17の制御に異常が発生したと判定した場合には、反力モータ16および転舵モータ17を停止させ、ステアリングホイール2の操舵角度に対する操向輪4の転舵角度を固定にする固定舵角制御を行うようにした。
この構成により、反力モータ16および転舵モータ17の制御が行えなくなっても、運転者がステアリングホイール2に入力した操舵トルクによって、操向輪4を転舵させることができる。
【0043】
また実施例1の車両用操舵装置1においては、操舵側遊星ギヤ13のリングギヤ13rと反力モータ16とを接続するウォーム16aおよびウォームホイール22を、転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ14rと転舵モータ17とを接続するウォーム17aおよびウォームホイール23よりもフリクションの小さいものを用いた。そして、異常判定部45が反力モータ16の制御に異常が発生したと判定した場合には、反力モータ16の回転を係止する係止部材26によって反力モータ16の回転を固定するようにした。一方、異常判定部45が転舵モータ17の制御に異常が発生したと判定した場合には、転舵モータ17への電力の供給を遮断することによって転舵モータ17の回転を固定するようにした。
この構成により、反力モータ16は、トルク制御されてステアリングホイール2に操舵反力を付与するため、ウォームホイール22とウォーム16aとの間のフリクションが小さいことにより、操舵反力の制御精度を高めることができる。
一方、ウォームホイール22とウォーム16aとの間のフリクションが小さいため、ウォームホイール22からウォーム16aへトルクが伝達し易く、反力モータ16に電力を供給しないようにするだけではリングギヤ13rを固定することができない。そこで、係止部材26を設けることにより、リングギヤ13rの回転を確実に固定することができる。
また転舵モータ17は、角度制御されて操向輪4の転舵角を制御するため、ウォームホイール23とウォーム17aとの間のフリクションが大きくても転舵角制御を悪化させることがない。
また、ウォームホイール23とウォーム17aとの間のフリクションが大きい、ウォームホイール23からウォーム17aへトルクが伝達し難く、転舵モータ17に電力を供給しないようにするだけで、リングギヤ14rを固定することができる。
【0044】
また実施例1の車両用操舵装置1においては、操舵軸3、転舵軸5をそれぞれ操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のキャリヤ13c,14cに接続し、反力モータ16、転舵モータ17をそれぞれ操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ13r,14rに接続し、回転伝達軸18の両端をそれぞれ操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のサンギヤ13s,14sに接続するようにした。すなわち、操舵側遊星ギヤ13と転舵側遊星ギヤ14の各回転要素と各部材とが対称になるように接続した。
この構成により、反力モータ16および転舵モータ17の制御に異常が発生し、固定舵角制御を行う際に、操舵軸3の回転角度と転舵軸5の回転角度を等しくすることが可能となり、操舵フィーリングの低下を防止することができる。
【0045】
また実施例1の車両用操舵装置1においては、操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ13r,14rに対して、増速比となるサンギヤ13s,14sに回転伝達軸18を接続するようにした。
この構成により、ロック機構15にかかるトルクが小さくすることが可能となるため、ロック機構15の強度を小さくすることができる。
【0046】
また実施例1の車両用操舵装置1においては、反力モータ16、転舵モータ17をそれぞれ操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ13r,14rに接続するようにした。
反力モータ16、転舵モータ17を外周側に設置することができ、操舵機構6の小型化を図ることができる。またステアバイワイヤ制御装置を搭載していない車両の可変舵角制御装置の多くがモータをリングギヤに接続しており、それらの可変舵角制御装置を流用することができる。
【0047】
〔効果〕
以下に実施例1の車両用操舵装置1の効果を列挙する。
【0048】
(1)運転者が操舵操作するステアリングホイール2と、転舵を行う操向輪4と、3つの回転要素からなる操舵側遊星ギヤ13と、3つの回転要素からなる転舵側遊星ギヤ14と、ステアリングホイール2に接続するとともに、操舵側遊星ギヤ13のキャリヤ13cに接続した操舵軸3と、操向輪4に接続するとともに、転舵側遊星ギヤ14のキャリヤ14cに接続した転舵軸5と、操舵側遊星ギヤ13のリングギヤ13rに接続した反力モータ16と、転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ14rに接続した転舵モータ17と、反力モータ16を制御する反力モータ制御部43と、転舵モータ17を制御する転舵モータ制御部44と、操舵側遊星ギヤ13のサンギヤ13sと、転舵側遊星ギヤ14のサンギヤ14sとを接続する回転伝達軸18と、回転伝達軸18の回転を固定、または回転伝達軸18の回転を自由にするロック機構15と、ロック機構15を制御するロック機構制御部46を設けた。
したがって、回転伝達軸18の回転を固定して、操舵側遊星ギヤ13のサンギヤ13sと、転舵側遊星ギヤ14のサンギヤ14sの回転を固定することにより、ステアリングホイール2から操向輪4への力の伝達を遮断することが可能となる。このためステアバイワイヤ制御時に回転自由となる要素がないため、操向輪4の転舵方向が変化したとしても要素の慣性力がステアリングホイール2側に伝達することを抑制し、運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【0049】
(2)ステアリングホイール2の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ8と、ステアリングホイール2の操舵角度を検出する操舵角度センサ7とを有し、反力モータ制御部43は、操舵トルクセンサ8が検出した操舵トルクと、操舵角度センサ7が検出した操舵角度とに基づいて反力モータ16によりステアリングホイール2に付与する反力トルクを制御するようにした。
したがって、ステアリングホイール2の操舵状態に応じた操舵反力を運転者に与えることができる。
【0050】
(3)操向輪4の転舵角度を検出する転舵角度センサ9と、ステアリングホイール2の操舵角度を検出する操舵角度センサ7とを有し、転舵モータ制御部44は、転舵角度センサ9が検出した転舵角度と、操舵角度センサ7が検出した操舵角度とに基づいて転舵モータ17により操向輪4の転舵角度を制御するようにした。
したがって、ステアリングホイール2の操舵状態に応じて操向輪4の転舵角度を任意に設定することができる。
【0051】
(4)反力モータ16または転舵モータ17の制御に異常が発生したことを判定する異常判定部45を有し、ロック機構制御部46は、異常判定部45が反力モータ16または転舵モータ17の制御に異常が発生したと判定した場合には、ロック機構15を回転伝達軸18の回転を自由にすることによりステアリングホイール2から操向輪4へ力を伝達できるように制御するようにした。
したがって、ロック機構15を解除することでステアリングホイール2から操向輪4へ力を伝達することが可能となる。よって、反力モータ16または転舵モータ17の制御に異常が発生してステアバイワイヤ制御が行えなくなってから、ステアリングホイール2から操向輪4へ力を伝達できるようにするまでの間のタイムラグを小さくすることができる。
【0052】
(5)反力モータ制御部43または転舵モータ制御部44は、異常判定部45が反力モータ16、転舵モータ17の一方のモータの制御に異常が発生したと判定した場合には、一方のモータを停止し、他方のモータによりステアリングホイール2の操舵角度に対して操向輪4の転舵角度を可変にする可変舵角制御を行うようにした。
したがって、反力モータ16、転舵モータ17の一方のモータの制御に異常が発生した場合であっても、可変舵角制御を行うことが可能となる。よって、ステアバイワイヤ制御が行えなくなっても、急に操舵特性が変化することを抑制することができる。またステアバイワイヤ制御が行えなくなっても、可変舵角制御によりステアリングホイール2と操向輪4との中立位置を一致させることができる。また反力モータ16、転舵モータ17のどちらか一方のモータを用いて可変舵角制御を行うことができる。
【0053】
(6)反力モータ制御部43および転舵モータ制御部44は、異常判定部45が反力モータ16および転舵モータ17の制御に異常が発生したと判定した場合には、反力モータ16および転舵モータ17を停止させ、ステアリングホイール2の操舵角度に対する操向輪4の転舵角度を固定にする固定舵角制御を行うようにした。
したがって、反力モータ16および転舵モータ17の制御が行えなくなっても、運転者がステアリングホイール2に入力した操舵トルクによって、操向輪4を転舵させることができる。
【0054】
(7)操舵側遊星ギヤ13のリングギヤ13rと反力モータ16とを接続するウォーム16a、ウォームホイール22を、転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ14rと転舵モータ17とを接続するウォーム17a、ウォームホイール23よりもフリクションの小さいものを用い、異常判定部45が反力モータ16の制御に異常が発生したと判定した場合には、反力モータ16の回転を係止する係止部材26によって反力モータ16の回転を固定し、異常判定部45が転舵モータ17の制御に異常が発生したと判定した場合には、転舵モータ17への電力の供給を遮断することによって転舵モータ17の回転を固定するようにした。
したがって、反力モータ16は、トルク制御されてステアリングホイール2に操舵反力を付与するため、ウォームホイール22とウォーム16aとの間のフリクションが小さいことにより、操舵反力の制御精度を高めることができる。
一方、ウォームホイール22とウォーム16aとの間のフリクションが小さいため、ウォームホイール22からウォーム16aへトルクが伝達し易く、反力モータ16に電力を供給しないようにするだけではリングギヤ13rを固定することができない。そこで、係止部材26を設けることにより、リングギヤ13rの回転を確実に固定することができる。
また転舵モータ17は、角度制御されて操向輪4の転舵角を制御するため、ウォームホイール23とウォーム17aとの間のフリクションが大きくても転舵角制御を悪化させることがない。
また、ウォームホイール23とウォーム17aとの間のフリクションが大きい、ウォームホイール23からウォーム17aへトルクが伝達し難く、転舵モータ17に電力を供給しないようにするだけで、リングギヤ14rを固定することができる。
【0055】
(8)操舵軸3、転舵軸5をそれぞれ操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のキャリヤ13c,14cに接続し、反力モータ16、転舵モータ17をそれぞれ操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ13r,14rに接続し、回転伝達軸18の両端をそれぞれ操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のサンギヤ13s,14sに接続するようにした。
したがって、反力モータ16および転舵モータ17の制御に異常が発生し、固定舵角制御を行う際に、操舵軸3の回転角度と転舵軸5の回転角度を等しくすることが可能となり、操舵フィーリングの低下を防止することができる。
【0056】
(9)操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ13r,14rに対して、増速比となるサンギヤ13s,14sに回転伝達軸18を接続するようにした。
この構成により、ロック機構15にかかるトルクが小さくすることが可能となるため、ロック機構15の強度を小さくすることができる。
【0057】
(10)反力モータ16、転舵モータ17をそれぞれ操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ13r,14rに接続するようにした。
反力モータ16、転舵モータ17を外周側に設置することができ、操舵機構6の小型化を図ることができる。またステアバイワイヤ制御装置を搭載していない車両の可変舵角制御装置の多くがモータをリングギヤに接続しており、それらの可変舵角制御装置を流用することができる。
【0058】
(11)車両50において、運転者が操舵操作するステアリングホイール2と、転舵を行う操向輪4と、複数の回転要素からなる操舵側遊星ギヤ13と転舵側遊星ギヤ14と、ステアリングホイール2に入力した操舵トルクを伝達し、操舵側遊星ギヤ13のキャリヤ13cに接続した操舵軸3と、操向輪4を転舵させる転舵力を伝達し、転舵側遊星ギヤ14のキャリヤ14cに接続した転舵軸5と、ステアリングホイール2に付与する反力トルクを発生し、操舵側遊星ギヤ13のリングギヤ13rに接続した反力モータ16と、操向輪4を転舵させる転舵力を発生し、転舵側遊星ギヤ14のリングギヤ14rに接続した転舵モータ17と、反力モータ16を制御する反力モータ制御部43と、転舵モータ17を制御する転舵モータ制御部44と、操舵側遊星ギヤ13のサンギヤ13sと、転舵側遊星ギヤ14のサンギヤ14sとを接続する回転伝達軸18と、回転伝達軸18の回転を固定することによりステアリングホイール2から操向輪4への力の伝達を遮断し、回転伝達軸18の回転を自由にすることによりステアリングホイール2から操向輪4への力の伝達を行うロック機構15と、ロック機構15を制御するロック機構制御部46を設けた。
したがって、回転伝達軸18の回転を固定して、操舵側遊星ギヤ13のサンギヤ13sと、転舵側遊星ギヤ14のサンギヤ14sの回転を固定することにより、ステアリングホイール2から操向輪4への力の伝達を遮断することが可能となる。このためステアバイワイヤ制御時に回転自由となる要素がないため、操向輪4の転舵方向が変化したとしても要素の慣性力がステアリングホイール2側に伝達することを抑制し、運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【0059】
[他の実施例]
以上、本発明を実施するための最良の形態を、実施例1に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例1に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
【0060】
図11は操舵機構6の構成概略図である。実施例1の車両用操舵装置1では、操舵軸3、転舵軸5を操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のキャリヤ13c、14cに接続し、回転伝達軸18を操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のサンギヤ13s、14sに接続しているが、他の要素に接続しても良い。例えば図11に示すように、操舵軸3、転舵軸5を操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のサンギヤ13s、14sに接続し、回転伝達軸18を操舵側遊星ギヤ13、転舵側遊星ギヤ14のキャリヤ13c、14cに接続するようにしても良い。
【0061】
図12は操舵機構6の構成概略図である。実施例1の車両用操舵装置1では、操舵側遊星ギヤ13と転舵側遊星ギヤ14の各回転要素と各部材とが対称になるように接続しているが、非対称となるように接続しても良い。例えば図12に示すように、操舵軸3を操舵側遊星ギヤ13のキャリヤ13c、転舵軸5を転舵側遊星ギヤ14のサンギヤ14sに接続し、回転伝達軸18の一端を操舵側遊星ギヤ13のサンギヤ13s、他端を転舵側遊星ギヤ14のキャリヤ14cに接続しても良い。
【0062】
この場合、反力モータ16および転舵モータ17の制御に異常が発生し、固定舵角制御を行う際に、操舵軸3の回転角度と転舵軸5の回転角度が異なることとなる。しかしラック10、ピニオン11のギヤ比を調節することによって、ステアリングホイール2に対する操向輪4の転舵角を一致させることが可能となり、操舵フィーリングの低下を防止することができる。
【0063】
図13は操舵機構6の構成概略図である。実施例1の車両用操舵装置1では、操舵側遊星ギヤ13のサンギヤ13sと転舵側遊星ギヤ14のサンギヤ14sとを回転伝達軸18によって連結していたが、回転伝達軸18の一部にワイヤ式回転伝達機構27を用いるようにしても良い。
【0064】
また実施例1では、差動伝達機構として遊星ギヤを用いて説明したが、遊星ロータ等でも良く、3つの回転要素を持つものであれば特に限定しない。
【符号の説明】
【0065】
1 車両用操舵装置
2 ステアリングホイール(操舵部)
3 操舵軸
4 操向輪
5 転舵軸
6 操舵機構
7 操舵角度センサ(操舵角度検出手段)
8 操舵トルクセンサ(操舵トルク検出手段)
9 転舵角度センサ(転舵角度検出手段)
13 操舵側遊星ギヤ(操舵側差動伝達機構)
13c キャリヤ(第1回転要素)
13r リングギヤ(第2回転要素)
13s サンギヤ(第3回転要素)
14 転舵側遊星ギヤ(転舵側差動伝達機構)
14c キャリヤ(第1回転要素)
14r リングギヤ(第2回転要素)
14s サンギヤ(第3回転要素)
15 ロック機構
16 反力モータ
16a ウォーム(減速器)
17 転舵モータ
17a ウォーム(減速器)
18 回転伝達軸
22 ウォームホイール(減速器)
23 ウォームホイール(減速器)
26 係止部材
43 反力モータ制御部(反力モータ制御手段)
44 転舵モータ制御部(転舵モータ制御手段)
45 異常判定部(異常判定手段)
46 ロック機構制御部(ロック機構制御手段)
50 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が操舵操作する操舵部と、
転舵を行う操向輪と、
3つの回転要素からなる操舵側差動伝達機構と、
3つの回転要素からなる転舵側差動伝達機構と、
前記操舵部と接続するとともに、前記操舵側差動伝達機構の第1回転要素に接続した操舵軸と、
前記操向輪と接続するとともに、前記転舵側差動伝達機構の第1回転要素に接続した転舵軸と、
前記操舵側差動伝達機構の第2回転要素に接続した反力モータと、
前記転舵側差動伝達機構の第2回転要素に接続した転舵モータと、
前記反力モータを制御する反力モータ制御手段と、
前記転舵モータを制御する転舵モータ制御手段と、
前記操舵側差動伝達機構の第3回転要素と、前記転舵側差動伝達機構の第3回転要素とを接続する回転伝達軸と、
前記回転伝達軸の回転を固定、または前記回転伝達軸の回転を自由にするロック機構と、
前記ロック機構を制御するロック機構制御手段と、
を設けたことを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用操舵装置において、
前記操舵部の操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、
前記操舵部の操舵角度を検出する操舵角度検出手段と、
を有し、
前記反力モータ制御手段は、前記操舵トルク検出手段が検出した前記操舵トルクと、前記操舵角度検出手段が検出した前記操舵角度とに基づいて前記反力モータにより前記操舵部に付与する前記反力トルクを制御することを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両用操舵装置において、
前記操向輪の転舵角度を検出する転舵角度検出手段と、
前記操舵部の操舵角度を検出する操舵角度検出手段と、
を有し、
前記転舵モータ制御手段は、前記転舵角度検出手段が検出した前記転舵角度と、前記操舵角度検出手段が検出した前記操舵角度とに基づいて前記転舵モータにより前記操向輪の前記転舵角度を制御することを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車両用操舵装置において、
前記反力モータまたは前記転舵モータの制御に異常が発生したことを判定する異常判定手段を有し、
前記ロック機構制御手段は、前記異常判定手段が前記反力モータまたは前記転舵モータの制御に異常が発生したと判定した場合には、前記ロック機構を前記回転伝達軸の回転を自由にすることにより前記操舵部から前記操向輪への力の伝達を行うように制御することを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用操舵装置において、
前記反力モータ制御手段または前記転舵モータ制御手段は、前記異常判定手段が前記反力モータ、前記転舵モータの一方のモータの制御に異常が発生したと判定した場合には、前記一方のモータを停止し、他方のモータにより前記操舵部の前記操舵角度に対して前記操向輪の前記転舵角度を可変にする可変舵角制御を行うことを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項6】
請求項4に記載の車両用操舵装置において、
前記反力モータ制御手段および前記転舵モータ制御手段は、前記異常判定手段が前記反力モータおよび前記転舵モータの制御に異常が発生したと判定した場合には、前記反力モータおよび前記転舵モータを停止させ、前記操舵部の前記操舵角度に対する前記操向輪の前記転舵角度を固定にする固定舵角制御を行うことを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項7】
請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載の車両用操舵装置において、
前記操舵側差動伝達機構の第2回転要素と前記反力モータとを接続する減速器を、前記転舵側差動伝達機構の第2回転要素と前記転舵モータとを接続する減速器よりもフリクションの小さいものを用い、
前記異常判定手段が前記反力モータの制御に異常が発生したと判定した場合には、前記反力モータの回転を係止する係止部材によって前記反力モータの回転を固定し、
前記異常判定手段が前記転舵モータの制御に異常が発生したと判定した場合には、前記転舵モータへの電力の供給を遮断することによって前記転舵モータの回転を固定することを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の車両用操舵装置において、
前記操舵側差動伝達機構の前記第1回転要素と前記転舵側差動伝達機構の前記第1回転要素、前記操舵側差動伝達機構の前記第2回転要素と前記転舵側差動伝達機構の前記第2回転要素、前記操舵側差動伝達機構の前記第3回転要素と前記転舵側差動伝達機構の前記第3回転要素はそれぞれ同種の回転要素であることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の車両用操舵装置において、
前記操舵側差動伝達機構の前記第3回転要素は、前記操舵側差動伝達機構の前記第1回転要素および前記第2回転要素に対して増速比となる回転要素であって、
前記転舵側差動伝達機構の前記第3回転要素は、前記転舵側差動伝達機構の前記第1回転要素および前記第2回転要素に対して増速比となる回転要素であることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の車両用操舵装置において、
前記操舵側差動伝達機構の前記第2回転要素と、前記転舵側差動伝達機構の前記第2回転要素はリングギヤであることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項11】
運転者が操舵操作する操舵部と、
転舵を行う操向輪と、
3つの回転要素からなる操舵側差動伝達機構と、
3つの回転要素からなる転舵側差動伝達機構と、
前記操舵部と接続するとともに、前記操舵側差動伝達機構の第1回転要素に接続した操舵軸と、
前記操向輪と接続するとともに、前記転舵側差動伝達機構の第1回転要素に接続した転舵軸と、
前記操舵側差動伝達機構の第2回転要素に接続した反力モータと、
前記転舵側差動伝達機構の第2回転要素に接続した転舵モータと、
前記反力モータを制御する反力モータ制御手段と、
前記転舵モータを制御する転舵モータ制御手段と、
前記操舵側差動伝達機構の第3回転要素と、前記転舵側差動伝達機構の第3回転要素とを接続する回転伝達軸と、
前記回転伝達軸の回転を固定、または前記回転伝達軸の回転を自由にするロック機構と、
前記ロック機構を制御するロック機構制御手段と、
を設けたことを特徴とする車両用操舵装置付き車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−195184(P2010−195184A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42101(P2009−42101)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】