説明

車両用操舵装置

【課題】 過剰な冗長性を擁することなく、簡素な構成にて電子制御装置の異常時においても確実に操舵可能なステアバイワイヤ式の車両用操舵装置を提供すること。
【解決手段】 ステアリング装置は、転舵ECUの異常時にモータ13に対する電力供給を通常供給系から非常供給系32に切り替える切替え装置と、非常供給系32の途中に設けられ、ステアリング操作に応じてモータ13の両給電端子13a,13b間の電位差を可変可能な電位差可変装置40とを備える。電位差可変装置40は、並列接続された一対の三端子型の可変抵抗器41a,41bを備え、該各可変抵抗器41a,41bの可動接点42a,42bは、モータ13の各給電端子13a,13bと接続される。そして、各可変抵抗器41a,41bは、その抵抗本体43a,43bに対する各可動接点42a,42bの接触位置がステアリング操作に応じて可変するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアバイワイヤ式の車両用操舵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、転舵輪とステアリング(ハンドル)とを機械的に分離し、検出されたステアリングの舵角(操舵角)に基づいて、そのステアリング操作に応じた転舵輪の舵角(転舵角)を発生させるべく転舵アクチュエータの作動を制御する所謂ステアバイワイヤ式の車両用操舵装置が提案されている。
【0003】
ところで、ステアバイワイヤ式の車両用操舵装置は、いうまでもなく車両の操舵機能という本質的且つ重要な機能を電気制御システムに置換えるものであり、その要求される信頼性の水準もまた、その他の電子制御システムより一層高くなるのが必然である。そのため、従来より、電子制御系を多重化する(例えば、特許文献1参照)、或いは非常用の機械的伝達機構を備える(例えば、特許文献2参照)等、その信頼性の向上を図るべく、様々な対策がなされている。
【特許文献1】特開2003−200840号公報
【特許文献2】特開2002−145098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記第1の従来例のごとく、電子制御系を多重化する構成とした場合、システムが複雑になるとともに、その製造コストも極めて高いものとなる。また、上記第2の従来例に至っては、転舵輪とステアリングとが機械的に分離されたことによる高い設計自由度等といった、ステアバイワイヤの利点を大きく阻害することになり、いずれの場合もその弊害のあるものとなっていた。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、過剰な冗長性を擁することなく、簡素な構成にて電子制御装置の異常時においても確実に操舵可能なステアバイワイヤ式の車両用操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、転舵輪と機械的に分離されたステアリングと、給電端子間の電位差に応じて回転する直流モータを駆動源として前記ステアリングに対するステアリング操作に応じた前記転舵輪の転舵角を発生させる転舵アクチュエータと、前記直流モータに対する駆動電力の供給を通じて前記転舵アクチュエータの作動を制御する電子制御装置とを備えた車両用操舵装置であって、前記電子制御装置の異常を検出する異常判定装置と、前記電子制御装置に異常が発生した場合に、前記直流モータに対する電力供給経路を、前記電子制御装置を有する通常供給系から前記電子制御装置を迂回する非常供給系に切り替える切替手段と、前記非常供給系の途中に設けられ、前記ステアリング操作に応じて前記電位差を可変可能な電位差可変手段とを備え、前記電位差可変手段は、並列接続されるとともにその可動接点がそれぞれ前記直流モータの各給電端子と接続された一対の三端子型可変抵抗器と、前記ステアリング操作に応じて前記各三端子型可変抵抗器の一方の抵抗値が他方の抵抗値よりも大となるように前記各可動接点の接触位置を可変可能な位置可変手段とを備えること、を要旨とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記位置可変手段は、前記ステアリング操作に応じて周方向の相対位置が変化するように構成された一対のロータを備え、前記各三端子型可変抵抗器は、その抵抗本体が第1のロータ側に固定されるとともに前記可動接点が第2のロータ側に固定されること、を要旨とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記第1及び第2のロータは、前記ステアリングの操舵角又は前記ステアリングに印加される操舵トルクに応じて前記相対位置が変化するように構成されること、を要旨とする。
【0009】
上記各構成によれば、電子制御装置に異常が発生した場合、直流モータに対する電力供給経路が電子制御装置を有する通常供給系から前記電子制御装置を迂回する非常供給系に切り替えられ、この非常供給系に設けられた可変可能な電位差可変手段により各給電端子間の電位差が可変されることにより、モータが回転、即ち転舵アクチュエータが作動する。従って、電子制御系を三重化する、或いは非常用の機械的伝達機構を備える等、過剰な冗長性を擁することなく、簡素な構成にて、両電子制御装置の異常時においても確実に転舵角の変更、即ちその操舵を行うことができるようになる。また、電位差可変手段は、マイコン等の電子制御を用いることなく簡単な電気的構成及び機械的構成によって電位差を可変するものであるため、極めて高い信頼性を確保することができる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、転舵輪と機械的に分離されたステアリングと、給電端子間の電位差に応じて回転する直流モータを駆動源として前記ステアリングに対するステアリング操作に応じた前記転舵輪の転舵角を発生させる転舵アクチュエータと、前記直流モータに対する電力供給系の途中に設けられ、前記ステアリング操作に応じて前記電位差を可変可能な電位差可変手段とを備え、前記電位差可変手段は、並列接続されるとともにその可動接点がそれぞれ前記直流モータの各給電端子と接続された一対の三端子型可変抵抗器と、前記ステアリング操作に応じて前記各三端子型可変抵抗器の一方の抵抗値が他方の抵抗値よりも大となるように前記各可動接点の接触位置を可変可能な位置可変手段とを備えること、を要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、電子制御装置を有しない簡素な構成であることから、低コストであるとともに極めて高い信頼性を確保することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、過剰な冗長性を擁することなく、簡素な構成にて電子制御装置の異常時においても確実に操舵可能なステアバイワイヤ式の車両用操舵装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をステアバイワイヤ式の車両用操舵装置(ステアリング装置)に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態のステアリング装置1は、ステアリング(ハンドル)2を含む操舵機構3と転舵輪4の舵角を変更するための転舵機構5とが機械的に非連結、即ちステアリング2と転舵輪4とが機械的に分離された所謂ステアバイワイヤ式の車両用操舵装置である。
【0014】
操舵機構3は、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト6と、ステアリング操作に伴うステアリング2の舵角(操舵角θs)を検出するための操舵角センサ7とを備えている。そして、転舵機構5は、操舵角センサ7により検出される操舵角θsに基づいて、そのステアリング操作に応じた転舵輪4の舵角(転舵角θt)を発生させるための転舵アクチュエータ8を備えている。
【0015】
本実施形態では、転舵機構5は、タイロッド9及びナックルアーム10を介して左右の転舵輪4を連結する転舵軸12を有しており、転舵アクチュエータ8は、駆動源であるモータ13と該モータ13の回転を転舵軸12の往復動に変換する変換機構14とを備えている。尚、本実施形態では、変換機構14にはウォームギヤ及びラック&ピニオンギヤが採用されている。モータ13は、電子制御装置としての転舵ECU15と接続されており、同転舵ECU15は、車載の直流電源(バッテリ)16と接続されている。そして、転舵ECU15は、この直流電源16に基づく駆動電力をモータ13に供給し、モータ13は、その駆動電力に基づいて回転する。本実施形態では、モータ13には、直流モータが採用されており、同モータ13は、その給電端子13a,13b間の電位差(詳しくは、給電端子13a,13bに対する印加電圧の電位差)に基づいて回転する。そして、転舵ECU15は、この各給電端子13a,13b間の電位差、即ち駆動電力の通電方向並びにその通電電流量を制御することによりモータ13の回転を制御し、これにより、転舵アクチュエータ8の作動を制御する。そして、この転舵アクチュエータ8により駆動された転舵軸12の往復動が転舵輪4に伝達されることにより、同転舵輪4の舵角、即ち転舵角θtが変更されるようになっている。尚、本実施形態では、第1の給電端子13aに対する印加電圧が第2の給電端子13bに対する印加電圧よりも大となることにより、A方向(図中左方向)に転舵角θtが変更され、第2の給電端子13bに対する印加電圧が第1の給電端子13aに対する印加電圧よりも大となることにより、B方向(図中右方向)に転舵角θtが変更されるようになっている。
【0016】
さらに詳述すると、転舵ECU15は、モータ制御信号を出力するマイコン17と、そのモータ制御信号に基づいて、モータ13に駆動電力を供給する駆動回路18とを備えている。また、本実施形態のステアリング装置1は、上記操舵角センサ7に加え、車速センサ19、及び転舵輪4の転舵角θtを決定する転舵軸12の軸方向の変位量Xを検出するための変位量センサ20を備えており、これらの各センサは、転舵ECU15に接続されている。尚、本実施形態では、モータ13のモータ回転角θmsを検出する回転角センサにより上記変位量センサ20が構成されている。そして、マイコン17は、上記各センサの出力信号に基づいて、操舵角θs、車速V及び変位量Xを検出し、その検出された操舵角θs、車速V及び変位量Xに基づいて、ステアリング操作に応じた値に転舵角θtを変更するためのモータ制御信号を出力する。
【0017】
具体的には、図2のフローチャートに示すように、マイコン17は、先ず、上記各センサの出力信号に基づいて、各センサ値(操舵角θs、車速V及び変位量X)を検出する(ステップ101)。次に、マイコン17は、検出された操舵角θs及び車速Vに基づいて転舵角θtの制御目標量である変位量指令値X*を演算し(ステップ102)、その演算により算出された変位量指令値X*及び検出された変位量Xに基づくフィードバック制御演算、即ち位置制御演算を実行する(ステップ103)。そして、この位置制御演算により算出された制御量εsに基づいてモータ駆動信号を生成し、そのモータ駆動信号を駆動回路18へと出力する(ステップ104)。そして、駆動回路18がそのモータ駆動信号に応じた駆動電力をモータ13に供給することにより、ステアリング操作に応じた値に転舵角θtを変更すべく転舵アクチュエータ8の作動が制御されるようになっている。
【0018】
一方、図1に示すように、本実施形態では、操舵機構3は、ステアリング操作によりステアリング2に入力される操舵トルクτを検出するためのトルクセンサ21と、該検出された操舵トルクτ(及び後述する路面反力Fr)に応じた操舵反力をステアリング2に付与するための反力アクチュエータ22とを備えている。
【0019】
詳述すると、反力アクチュエータ22は、駆動源としてのモータ23と、モータ23の回転を減速してステアリングシャフト6に伝達する減速機構24とを備えている。モータ23は、反力ECU25と接続されており、同モータ23は、反力ECU25から供給される駆動電力に基づいて回転する。尚、本実施形態では、モータ23にはブラシレスモータが採用されており、反力ECU25は、同モータ23に対して三相(U,V,W)の駆動電力を供給する。そして、反力ECU25は、そのモータ23に供給する駆動電力を制御することにより、同モータ23、即ち反力アクチュエータ22の作動を制御する。
【0020】
さらに詳述すると、反力ECU25は、モータ制御信号を出力するマイコン27と、そのモータ制御信号に基づいて、モータ23に対し直流電源16の出力する直流電力を三相の駆動電力に変換して供給する駆動回路28とを備えている。本実施形態のステアリング装置1は、モータ23に供給される実電流値Irを検出するための電流センサ29a、及びモータ回転角θmrを検出するための回転角センサ30を備えており、反力ECU25には、これら両センサ、並びに上記トルクセンサ21、車速センサ19及び変位量センサ20が接続されている。また、本実施形態では、上記転舵アクチュエータ8のモータ13に供給される実電流値Isを検出するための電流センサ29bが設けられており、この電流センサ29bもまた反力ECU25に接続されている。そして、マイコン27は、これら各センサの出力信号により検出される操舵トルクτ及び車速Vを含む各センサ値、並びにこれら各センサ値により推定される路面反力Frに基づいて、その操舵トルクτ、路面反力Fr及び車速Vに応じた操舵反力をステアリング2に付与するためのモータ制御信号を出力する。
【0021】
具体的には、図3のフローチャートに示すように、マイコン27は、先ず、各センサ値(操舵トルクτ、車速V、変位量X、モータ回転角θmr,実電流値Ir(反力アクチュエータ側),実電流値Is(転舵アクチュエータ側))を検出する(ステップ201)。次に、マイコン27は、検出された変位量X及び転舵アクチュエータ8の各モータ13に供給される駆動電力の実電流値Isに基づいて、転舵輪4に作用する路面反力Frを推定し(ステップ202)、続いて、その推定された路面反力Fr及び上記検出された操舵トルクτに基づいて、操舵反力トルクの制御目標量である電流指令値Iq*を演算する(ステップ203)。そして、この電流指令値Iq*及び検出されたモータ23に供給される駆動電力の実電流値Ir、並びにモータ回転角θmrに基づいてフィードバック制御演算を実行し(ステップ204)、その演算により算出された制御量εrに基づくモータ制御信号を出力する(ステップ205)。そして、駆動回路28がそのモータ駆動信号に応じた駆動電力をモータ23へと供給し、その発生するモータトルクが減速機構24を介してステアリングシャフト6に伝達されることにより、操舵トルクτ、路面反力Fr及び車速Vに応じた操舵反力がステアリング2に付与されるようになっている。
【0022】
(転舵ECU異常時のフェールセーフ機能)
次に、本実施形態のステアリング装置における転舵ECU(電子制御装置)異常時のフェールセーフ機能について説明する。
【0023】
図1に示すように、本実施形態のステアリング装置1は、通常時において転舵アクチュエータ8のモータ13に駆動電力を供給するための電力供給経路、即ち上記転舵ECU15を有する通常供給系31に加え、転舵ECU15を迂回して直流電源16とモータ13とを接続するための非常供給系32を備えている。そして、転舵ECU15に異常が発生した場合には、この非常供給系32を介してモータ13に駆動電力を供給することにより、転舵アクチュエータ8の作動、即ち転舵角θtの変更ができるようになっている。
【0024】
詳述すると、ステアリング装置1は、転舵アクチュエータ8のモータ13に対する電力供給を、通常供給系31から非常供給系32に切り替える切替装置33と、転舵ECU15に異常が発生した場合に、同切替装置33に対しその切替指令を出力する異常判定装置34とを備えている。本実施形態では、異常判定装置34は、転舵ECU15と接続されており、同転舵ECU15は、その異常の有無を示す異常信号を異常判定装置34に出力する。そして、異常判定装置34は、その入力される異常信号(若しくは異常信号が入力されなくなったこと)に基づいて転舵ECU15の異常を判定し、その異常が発生したと判定した場合に、切替手段である切替装置33に対して上記切替指令を出力する。
【0025】
一方、本実施形態の切替装置33は、二系統の入力端子と一系統の出力端子とを備えており、通常供給系31及び非常供給系32は、この切替装置33を介してモータ線35と接続されている。具体的には、切替装置33の第1入力端子36a,36bには、それぞれ通常供給系31を構成する第1及び第2通常線31a,31bが接続され、切替装置33の第2入力端子37a,37bには、それぞれ非常供給系32を構成する第1及び第2非常線32a,32bが接続されている。そして、切替装置33の出力端子38a,38bには、それぞれモータ13の各給電端子13a,13bに対応する第1及び第2モータ線35a,35bが接続されている。尚、この場合において、「入力端子」及び「出力端子」は、それぞれ単に電源側端子(入力端子)であるか、或いは負荷であるモータ側端子(出力端子)であるかを示すものであり、その通電方向を示すものではない。そして、切替装置33は、異常判定装置34から切替指令の入力があった場合には、出力端子38a,38bとの接続状態を、第1入力端子36a,36b側から第2入力端子37a,37b側に切り替えることにより、モータ13に対する電力供給経路を、通常供給系31から非常供給系32に切り替えるようになっている。
【0026】
また、本実施形態では、非常供給系32の途中に設けられ、上記切り替え時、即ち転舵ECU15の異常時に、ステアリング操作に応じてモータ13の各給電端子13a,13bに印加される電圧V1,V2の電位差、即ち両給電端子13a,13b間の電位差を可変可能な電位差可変手段としての電位差可変装置40を備えている。そして、この電位差可変装置40の作動により両給電端子13a,13b間に電位差が生じ、その電位差に基づいてモータ13が回転することにより、転舵アクチュエータ8が作動、即ち転舵角θtの変更がなされるようになっている。
【0027】
詳述すると、図4に示すように、電位差可変装置40は、並列接続された一対の可変抵抗器41a,41bを備えている。これら各可変抵抗器41a,41bは、三端子型可変抵抗器であり、該各可変抵抗器41a,41bの可動接点42a,42bは、それぞれ非常供給系32を構成する第1及び第2非常線32a,32bと接続されている。即ち、第1の可変抵抗器41aの可動接点42aは、第1非常線32a及び第1モータ線35aを介してモータ13の第1の給電端子13aと接続されており、第2の可変抵抗器41bの可動接点42bは、第2非常線32b及び第2モータ線35bを介してモータ13の第2の給電端子13bと接続されている。また、同電位差可変装置40において、各抵抗本体43a,43bは、その抵抗値が等しく、各可変抵抗器41a,41bは、その抵抗本体43a,43bに対する各可動接点42a,42bの接触位置がステアリング操作に応じて可変するように構成されている。そして、この接触位置の可変に伴い可変抵抗器41a,41bの何れか一方の抵抗値(詳しくは、抵抗本体43a,43bと可動接点42a,42bとの接触位置からプラス側の部分の抵抗値R1,R2)が他方の抵抗値よりも大となり、その各可動接点42a,42bの電位、即ちモータ13の各給電端子13a,13bに印加される電圧V1,V2に電位差(給電端子13a,13b間の電位差)が生じ、及びその電位差が可変されるようになっている。
【0028】
さらに詳述すると、本実施形態の電位差可変装置40は、環状に形成されたアウタロータ45と、同アウタロータ45の内側に設けられたインナロータ46とを備えており、上記各可変抵抗器41a,41bは、その抵抗本体43a,43bがアウタロータ45の内周に固定され、可動接点42a,42bがインナロータ46の外周に固定されている。本実施形態では、各抵抗本体43a,43bは、アウタロータ45の内周において180°ずれた位置、即ちインナロータ46を挟んで対向する位置に配設されている。また、各可動接点42a,42bは、ステアリング非操作時において、その対応する各抵抗本体43a,43bとの接触位置が、該各抵抗本体43a,43bの中立点P0となるように配置されている。即ち、可変抵抗器41a側の抵抗本体43aの可動接点42aとの接触位置からプラス側の部分の抵抗値R1と、可変抵抗器41b側の抵抗本体43bの可動接点42bとの接触位置からプラス側の部分の抵抗値R2とが等しくなる位置に配設されている。そして、本実施形態では、これらアウタロータ45及びインナロータ46は、ステアリング操作に応じてその周方向の相対位置が変化するように構成されている。尚、以下、説明の便宜のため、上記各抵抗値R1,R2をそれぞれ単に「可変抵抗器41a,41bの抵抗値」という。
【0029】
具体的には、図1に示すように、電位差可変装置40は、ステアリングシャフト6、詳しくは、そのステアリング2と反力アクチュエータ22との間に設けられている。図5に示すように、本実施形態のステアリングシャフト6は、ステアリング2に連結された第1シャフト6aと、反力アクチュエータ22に連結された第2シャフト6bとからなり、これら第1シャフト6a及び第2シャフト6bは、トーションバー47を介して連結されている。そして、電位差可変装置40は、そのインナロータ46が第1シャフト6aに固定され、そのアウタロータ45が第2シャフト6bに固定されることにより、ステアリングシャフト6に設けられている。
【0030】
つまり、本実施形態の電位差可変装置40は、ステアリング操作時の操舵トルクτにより生ずるトーションバー47の捻れによって、アウタロータ45とインナロータ46との間の周方向の相対位置が変化し、操舵トルクτが大となるほどその相対位置変化が大となるように構成されている。即ち、本実施形態では、アウタロータ45及びインナロータ46により位置可変手段が構成されており、アウタロータ45が第1のロータを構成し、インナロータ46が第2のロータを構成する。尚、本実施形態では、アウタロータ45とインナロータ46との間には、ストッパ48が設けられており、両者間の相対位置変化は、予め設定された所定の角度範囲に規制されるようになっている。そして、このアウタロータ45とインナロータ46との間の相対位置変化により、各抵抗本体43a,43bに対する各可動接点42a,42bの接触位置が変更され、各可変抵抗器41a,41bの一方の抵抗値が他方の抵抗値よりも大となることにより、モータ13の給電端子13a,13b間に電位差が生ずるようになっている。そして、その相対位置変化の大きさ、即ちステアリング2に入力される操舵トルクτの大きさによってその電位差が可変されるようになっている。
【0031】
(作用・効果)
次に、上記のように構成された本実施形態のステアリング装置1の作用・効果について説明する。図4に示すように、ステアリング2に操舵トルクτが入力されない場合、即ちステアリング非操作時には、アウタロータ45とインナロータ46との間の相対位置は変化しない。そして、この状態において、各可変抵抗器41a,41bの各可動接点42a,42bと各抵抗本体43a,43bとの接触位置は、ともに該各抵抗本体43a,43bの中立点P0である。即ち、図6に示すように、ステアリング非操作時においては、各可変抵抗器41a,41bの抵抗値R1,R2は等しく(R1=R2)、可動接点42a,42bの電位、即ちモータ13の各給電端子13a,13bに印加される電圧V1,V2もまた等しくなる(V1=V2)。従って、ステアリング非操作時には、モータ13は回転せず、転舵角θtも変更されない。
【0032】
一方、図7(a)(b)に示すように、ステアリング2に同ステアリング2をA方向に回転させる操舵トルクτが入力された場合、インナロータ46は、アウタロータ45に対してA方向に相対回転する。これにより、第1の可変抵抗器41aにおいては、可動接点42aの接触位置が中立点P0よりもプラス側に変更され、第2の可変抵抗器41bにおいては、可動接点42bの接触位置が中立点P0よりもマイナス側に変更される。従って、第1の可変抵抗器41aの抵抗値R1よりも第2の可変抵抗器41bの抵抗値R2が大となり、可動接点42aの電位が可動接点42bの電位よりも高くなる。即ち、モータ13の第1の給電端子13aに印加される電圧V1が第2の給電端子13bに印加される電圧V2よりも高くなる。そして、その電位差に応じてモータ13が回転することにより、A方向(図中左方向)に転舵角θtを変更すべく転舵アクチュエータ8が作動する。
【0033】
同様に、図8(a)(b)に示すように、ステアリング2に同ステアリング2をB方向に回転させる操舵トルクτが入力された場合、インナロータ46は、アウタロータ45に対してB方向に相対回転する。これにより、第1の可変抵抗器41aにおいては、可動接点42aの接触位置が中立点P0よりもマイナス側に変更され、第2の可変抵抗器41bにおいては、可動接点42bの接触位置が中立点P0よりもプラス側に変更される。従って、第2の可変抵抗器41bの抵抗値R2よりも第1の可変抵抗器41aの抵抗値R1が大となり、可動接点42bの電位が可動接点42aの電位よりも高くなる。即ち、モータ13の第2の給電端子13bに印加される電圧V2が第1の給電端子13aに印加される電圧V1よりも高くなる。そして、その電位差に応じてモータ13が回転することにより、B方向(図中右方向)に転舵角θtを変更すべく転舵アクチュエータ8が作動するようになっている。
【0034】
即ち、上記のように構成することで、ステアリング非操作時には、モータ13の各給電端子13a,13bに印加される電圧V1,V2が等しくなるため、モータ13は回転せず、転舵角θtも変更されない。そして、ステアリング操作時には、そのステアリング操作に応じて各給電端子13a,13bに印加される電圧V1,V2に電位差が生じ、この給電端子13a,13b間の電位差に基づきモータ13が回転することにより、転舵アクチュエータ8が作動、即ち転舵角θtの変更がなされる。従って、電子制御系を三重化する、或いは非常用の機械的伝達機構を備える等、過剰な冗長性を擁することなく、簡素な構成にて、転舵ECU15の異常時においても確実に転舵角θtの変更、即ちその操舵を行うことができるようになる。加えて、マイコン等の電子制御を用いることなく簡単な電気的構成及び機械的構成によって電位差を可変するものであるため、極めて高い信頼性を確保することができる。
【0035】
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態では、転舵ECU15と反力ECU25とを別々に設けたが、転舵ECU15に反力ECU25の機能を持たせる構成としてもよい。また、反力ECU25に異常判定装置34の機能を持たせる構成としてもよい。
【0036】
・本実施形態では、各抵抗本体43a,43bは、アウタロータ45の内周において180°ずれた位置、即ちインナロータ46を挟んで対向する位置に配設されることとした。しかし、これに限らず、ステアリング非操作時において、各可動接点42a,42bの接触位置が、該各抵抗本体43a,43bの中立点P0、即ち各可変抵抗器41a,41bの可動接点42a,42bの電位が等しくなる位置であれば、各抵抗本体43a,43bの固定位置は、任意に設定してもよい。
【0037】
・本実施形態では、各可変抵抗器41a,41bは、その抵抗本体43a,43bがアウタロータ45の内周に固定され、可動接点42a,42bがインナロータ46の外周に固定されることとした。即ち、アウタロータ45により第1のロータを構成し、インナロータ46により第2のロータを構成することとした。しかし、これに限らず、インナロータ46の外周に各抵抗本体43a,43bを固定し、アウタロータ45の内周に可動接点42a,42bを固定する構成とする。即ち、インナロータ46により第1のロータを構成し、アウタロータ45により第2のロータを構成してもよい。
【0038】
・本実施形態では、ステアリング操作に応じて周方向の相対位置が変化するアウタロータ45及びインナロータ46により位置可変手段を構成したが、位置可変手段は、このような構成に限るものではない。
【0039】
・本実施形態では、電位差可変装置40は、ステアリング2に入力される操舵トルクτに応じて、アウタロータ45とインナロータ46との間の周方向の相対位置が変化するように構成されることとした。しかし、これに限らず、ステアリング2の操舵角θsに応じてアウタロータ45とインナロータ46との間の周方向の相対位置が変化するように電位差可変装置を構成してもよい。尚、このような構成は、トーションバー47に代えて減速機構を用いることで容易に具現化することができる。
【0040】
・また、図9に示すステアリング装置50のように、転舵ECU(電子制御装置)を廃して、モータ13に対する電力供給経路に、本実施形態の電位差可変装置40と同様の構成を有する電位差可変装置51を設ける構成としてもよい。このような構成とすれば、電子制御装置を有しない簡素な構成であることから、低コストであるとともに極めて高い信頼性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施形態のステアリング装置の概略構成図。
【図2】転舵ECUによる転舵アクチュエータの制御態様を示すフローチャート。
【図3】反力ECUによる反力アクチュエータの制御態様を示すフローチャート。
【図4】電位差可変装置の概略構成図。
【図5】電位差可変装置の概略構成を示す断面図。
【図6】転舵ECU異常時のフェールセーフ機能の作用を示す説明図。
【図7】(a)(b)転舵ECU異常時のフェールセーフ機能の作用を示す説明図。
【図8】(a)(b)転舵ECU異常時のフェールセーフ機能の作用を示す説明図。
【図9】別例のステアリング装置の概略構成図。
【符号の説明】
【0042】
1,50…ステアリング装置、2…ステアリング(ハンドル)、3…操舵機構、4…転舵輪、5…転舵機構、6…ステアリングシャフト、6a…第1シャフト、6b…第2シャフト、7…操舵角センサ、8…転舵アクチュエータ、12…転舵軸、13…モータ、13a,13b…給電端子、17…マイコン、18…駆動回路、19…車速センサ、20…変位量センサ、21…トルクセンサ、31…通常供給系、31a…第1通常線、31b…第2通常線、32…非常供給系、32a…第1非常線、32b…第2非常線、33…切替装置、35…モータ線、35a…第1モータ線、35b…第2モータ線、36a,36b…第1入力端子、37a,37b…第2入力端子、38a,38b…出力端子、41a,41b…可変抵抗器、42a,42b…可動接点、43a,43b…抵抗本体、45…アウタロータ、46…インナロータ、47…トーションバー、θt…転舵角、θs…操舵角、τ…操舵トルク、R1,R2…抵抗値、V1,V2…電圧、P0…中立点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵輪と機械的に分離されたステアリングと、給電端子間の電位差に応じて回転する直流モータを駆動源として前記ステアリングに対するステアリング操作に応じた前記転舵輪の転舵角を発生させる転舵アクチュエータと、前記モータに対する駆動電力の供給を通じて前記転舵アクチュエータの作動を制御する電子制御装置とを備えた車両用操舵装置であって、
前記電子制御装置の異常を検出する異常判定装置と、
前記電子制御装置に異常が発生した場合に、前記直流モータに対する電力供給経路を、前記電子制御装置を有する通常供給系から前記電子制御装置を迂回する非常供給系に切り替える切替手段と、
前記非常供給系の途中に設けられ、前記ステアリング操作に応じて前記電位差を可変可能な電位差可変手段とを備え、
前記電位差可変手段は、並列接続されるとともにその可動接点がそれぞれ前記直流モータの各給電端子と接続された一対の三端子型可変抵抗器と、前記ステアリング操作に応じて前記各三端子型可変抵抗器の一方の抵抗値が他方の抵抗値よりも大となるように前記各可動接点の接触位置を可変可能な位置可変手段とを備えること、
を特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用操舵装置において、
前記位置可変手段は、前記ステアリング操作に応じて周方向の相対位置が変化するように構成された一対のロータを備え、前記各三端子型可変抵抗器は、その抵抗本体が第1のロータ側に固定されるとともに前記可動接点が第2のロータ側に固定されること、
を特徴とする車両用操舵装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用操舵装置において、
前記第1及び第2のロータは、前記ステアリングの操舵角又は前記ステアリングに印加される操舵トルクに応じて前記相対位置が変化するように構成されること、
を特徴とする車両用操舵装置。
【請求項4】
転舵輪と機械的に分離されたステアリングと、
給電端子間の電位差に応じて回転する直流モータを駆動源として前記ステアリングに対するステアリング操作に応じた前記転舵輪の転舵角を発生させる転舵アクチュエータと、
前記直流モータに対する電力供給系の途中に設けられ、前記ステアリング操作に応じて前記電位差を可変可能な電位差可変手段とを備え、
前記電位差可変手段は、並列接続されるとともにその可動接点がそれぞれ前記直流モータの各給電端子と接続された一対の三端子型可変抵抗器と、前記ステアリング操作に応じて前記各三端子型可変抵抗器の一方の抵抗値が他方の抵抗値よりも大となるように前記各可動接点の接触位置を可変可能な位置可変手段とを備えること、
を特徴とする車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−218992(P2006−218992A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−33893(P2005−33893)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】