説明

車両用構造部材の接合構造

【課題】簡単な構成で一方の部材(横メンバ)に他方の部材(縦メンバ)を確実に接合することを可能にするとともに、一方の部材と他方の部材との接合強度を向上させることを可能にする。
【解決手段】車幅方向に延びる横メンバ32と上下方向に延びる縦メンバ36とから正面視矩形枠状に形成されるフロントバルクヘッドを含む車両用構造部材の接合構造であって、横メンバ32と縦メンバ36との接合部49が、第1〜第4接合部56〜59から構成され、第1〜第4接合部56〜59が段差状に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のフレームを接合して構成するフロントバルクヘッドなどの車両用構造部材の接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用構造部材の接合構造として、横フレームに縦フレームを当て、横フレームに縦フレームを接合するものが知られている。
この種の車両用構造部材の接合構造は、車両用構造部材の用途により適正な強度を有するように接合されるものであった。
【0003】
このような車両用構造部材の接合構造として、一方の部材(一方のフレーム)に他方の部材(他方のフレーム)を挿入して接合するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】米国特許第5372400号明細書
【0004】
特許文献1の車両用構造部材の接合構造は、一方の部材に他方の部材を挿入する開口を開け、この開口に他方の部材を挿入し、一方の部材の開口と他方の部材とを溶接するとともに、一方の部材に当接した他方の部材の端部と一方の部材とを溶接するものである。
【0005】
車両用構造部材の接合構造では、一方の部材に他方の部材を挿入する開口を開け、この開口と他方の部材とを溶接するとともに、一方の部材に当接した他方の部材の端部と一方の部材とを溶接する必要があり、溶接(接合)構造が繁雑となるという課題があった。
このような車両用構造部材の接合構造では、簡単な構成で一方の部材に他方の部材を確実に接合でき、一方の部材と他方の部材との接合強度を向上させ、接合部分の剥離を防止できることが好ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すなわち、本発明は、簡単な構成で一方の部材(横メンバ)に他方の部材(縦メンバ)を確実に接合でき、一方の部材と他方の部材との接合強度を向上させることができる車両用構造部材の接合構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、車幅方向に延びる横メンバと、上下方向に延びる縦メンバとから正面視矩形枠状に形成されるフロントバルクヘッドを含む車両用構造部材の接合構造であって、横メンバと縦メンバとの接合部が、段差状若しくは略螺旋状に形成されることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、横メンバが、上下の面を形成する上壁及び下壁と、車両前後方向で前後の面を形成する前壁及び後壁とで略四角形状の閉断面に形成され、且つ後壁から上方に延ばした延長壁を有するとともに、横メンバの端部に位置する上壁が前後方向に渡って全体的に切り欠かれ、縦メンバを嵌合する嵌合部が形成され、縦メンバが、車幅方向で左右の側面を形成する左右の側壁と、車両前後方向で前後の面を形成する前・後縦壁とで略四角形状の閉断面に形成され、接合部が、延長壁の上縁と後縦壁とを接合する第1接合部と、嵌合部の側縁と車幅内方に位置する左右の側壁の一方とを接合する第2接合部と、前壁の上縁と前縦壁と接合する第3接合部と、下壁の上面と車幅外方に位置する左右の側壁の他方とを接合する第4接合部とから構成され、第1〜第4接合部は、接合高さが異なるように段差状に形成されたことを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、嵌合部に位置する前壁に、車幅方向外側に向けて斜め下方に傾斜させた傾斜切り欠き部が形成され、第3接合部は、傾斜切り欠き部の傾斜に沿わせて形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明では、車両用構造部材の接合構造が、車幅方向に延びる横メンバと、上下方向に延びる縦メンバとから正面視矩形枠状に形成されるフロントバルクヘッドなどの接合構造である。
横メンバと縦メンバとの接合部が、段差状若しくは略螺旋状に形成されたので、縦メンバの倒れを防止することができるとともに、接合強度の向上を図ることができる。この結果、例えば、車両に正面衝突等が発生した場合にも接合部の剥離を防止することができる。
【0011】
請求項2に係る発明では、接合部が、延長壁の上縁と後縦壁とを接合する第1接合部と、嵌合部の側縁と車幅内方に位置する左右の側壁の一方とを接合する第2接合部と、前壁の上縁と前縦壁と接合する第3接合部と、下壁の上面と車幅外方に位置する左右の側壁の他方とを接合する第4接合部とから構成され、第1〜第4接合部は、接合高さが異なるように段差状に形成されたので、簡単な構成で接合部(第1〜第4接合部)を形成することができ、接合部の接合強度を向上することができる。
【0012】
請求項3に係る発明では、嵌合部に位置する前壁に、車幅方向外側に向けて斜め下方に傾斜させた傾斜切り欠き部が形成され、第3接合部は、傾斜切り欠き部の傾斜に沿わせて形成されたので、接合部(第1〜第4接合部)を段差状からより略螺旋状に近い形状に形成することができる。この結果、横メンバと縦メンバの接合強度のさらなる向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る車両用構造部材の接合構造を採用した車体の斜視図であり、図2は図1に示される車体の左側を示す斜視図であり、図3は図1に示される車体の正面図である。
【0014】
車体12は、車幅方向に互いが離間して左右一対となるように車両前後方向に延ばした左右のサイドフレーム14,14と、これらのサイドフレーム14,14の前端廻りに構成されるフロントバルクヘッド16と、このフロントバルクヘッド16から車体後方に延ばされた左右のサイドアッパメンバ25,25と、これらのサイドアッパメンバ25,25の後部と左右のサイドフレーム14,14との間に設けられ、フロントダンパ(不図示)を支持する左右のダンパハウジング24,24とを主要構成としてフロントボディの骨格が形成される。
【0015】
フロントバルクヘッド16は、左右のサイドフレーム14,14に取付けられる左右のサイドステー33,33と、これらの左右のサイドステー33,33の上部に渡されるアッパメンバ31と、左右のサイドステー33,33の下部に渡されるロアメンバ(横メンバ)32から構成される。また、フロントバルクヘッド16は、アルミニウム押出材で形成される正面視矩形枠状の枠体(枠部)でもある。
【0016】
図3に示されたように、サイドステー33は、下端がサイドフレーム14の上部にそれぞれ連結される上側サイドステー35と、上端がサイドフレーム14の下部にそれぞれ連結される下側サイドステー(縦メンバ)36とから上下に2分割して構成される。
【0017】
図3に示されたように、上側・下側サイドステー35,36の配置構造は、上側サイドステー35よりも車体前後方向に関して後方に下側サイドステー36が位置するように、上側サイドステー35と下側サイドステー36とを車体前後方向にオフセットして配置される。
【0018】
図4は図2の4部拡大図であり、本発明に係る車両用構造部材の接合構造を示す。図5は図4に示される車両用構造部材の接合構造の横メンバの斜視図である。
車両用構造部材の接合構造は、ロアメンバ32の端部に下側サイドステー36を接合する構造であり、以下、「ロアメンバ32」を「横メンバ32」、「下側サイドステー36」を「縦メンバ36」と記載する。
【0019】
すなわち、車両用構造部材の接合構造は、車幅方向に延ばされた横メンバ32と、この横メンバ32の端部に当接される縦メンバ36と、横メンバ32に縦メンバ36を接合(溶接)する接合部49とから構成される。
【0020】
横メンバ32は、図5に示されたように、アルミニウム押出材で形成され、上下の面を形成する上壁41及び下壁42と、車両前後方向で前後の面を形成する前壁43及び後壁44とで略四角形状の閉断面に形成され、且つ後壁44から上方に延ばした延長壁45を有する。
さらに、横メンバ32は、横メンバ32の端部に位置する上壁41が前後方向に渡って全体的に切り欠かれ、縦メンバ36を嵌合する嵌合部47とが形成される。
【0021】
縦メンバ36は、図4に示されたように、車幅方向で左右の側面を形成する左右の側壁51,52と、車両前後方向で前後の面を形成する前・後縦壁53,54とで略四角形状の閉断面に形成される。
【0022】
接合部49は、図4に示されたように、延長壁45の上縁45aと後縦壁54とを接合する第1接合部56と、嵌合部47の側縁47aと車幅内方に位置する左右の側壁51,52の一方とを接合する第2接合部57と、前壁43の上縁43aと前縦壁53と接合する第3接合部58と、下壁42の上面42aと車幅外方に位置する左右の側壁51,52の他方とを接合する第4接合部59とから構成される。
第1〜第4接合部56〜59は、第1接合部56から第4接合部59に向かうに連れて徐々に低くなる段差状(階段状)に形成される。
【0023】
図6(a),(b)は図4に示される車両用構造部材の接合構造の比較検討図である。
(a)において、比較例の車両用構造部材の接合構造が示され、この車両用構造部材の接合構造は、横メンバ111に縦メンバ112を突き当て、横メンバ111に縦メンバ112を溶接する接合部113が形成され、この接合部113は、第1〜第4接合部116〜119とから構成され、横メンバ111の上面に平面的に形成されたものである。
すなわち、比較例の車両用構造部材の接合構造では、縦メンバ112が横メンバ111の同一平面上に溶接されたので、例えば、正面衝突時には第1〜第4接合部116〜119で剥離が発生しやすく、必要溶接強度が得られにくい。
【0024】
(b)において、実施例の車両用構造部材の接合構造が示され、実施例の車両用構造部材の接合構造では、横メンバ32と縦メンバ36との接合部49が、段差状若しくは略螺旋状に形成されたので、縦メンバ36の倒れを防止することができるとともに、接合強度の向上を図ることができる。この結果、例えば、車両に正面衝突等が発生した場合にも接合部49の剥離を防止することができる。
【0025】
また、図4に示されたように、接合部49が、延長壁45の上縁45aと後縦壁54とを接合する第1接合部56と、嵌合部47の側縁47aと車幅内方に位置する左右の側壁51,52の一方とを接合する第2接合部57と、前壁43の上縁43aと前縦壁53と接合する第3接合部58と、下壁42の上面42aと車幅外方に位置する左右の側壁の他方とを接合する第4接合部59とから構成され、第1〜第4接合部56〜59は、接合高さが異なるように段差状に形成されたので、簡単な構成で接合部49を段差状(階段状)に形成することができ、接合部49の接合強度を向上することができる。
【0026】
図7は本発明に係る別実施例の車両用構造部材の接合構造の斜視図である。
別実施例の車両用構造部材の接合構造は、横メンバ(ロアメンバ)72が、上下の面を形成する上壁81及び下壁82と、車両前後方向で前後の面を形成する前壁83及び後壁84とで略四角形状の閉断面に形成され、且つ後壁84から上方に延ばした延長壁85を有する。
【0027】
さらに、横メンバ72の端部に位置する上壁81が前後方向に渡って全体的に切り欠かれ、縦メンバ76を嵌合する嵌合部87が形成され、嵌合部87に位置する前壁83に車幅方向外側に向けて斜め下方に傾斜させた傾斜切り欠き部88とが形成される。
【0028】
縦メンバ(下側サイドステー)76は、車幅方向で左右の側面を形成する左右の側壁91,92と、車両前後方向で前後の面を形成する前・後縦壁93,94とで略四角形状の閉断面に形成される。
【0029】
接合部89が、延長壁85の上縁85aと後縦壁94とを接合する第1接合部96と、嵌合部87の側縁87aと車幅内方に位置する左右の側壁91,92の一方とを接合する第2接合部97と、前壁83の傾斜切り欠き部88と前縦壁93と接合する第3接合部98と、下壁82の上面82aと車幅外方に位置する左右の側壁91,92の他方とを接合する第4接合部99とから構成され、第1〜第4接合部96〜99は、略螺旋状に形成される。
【0030】
車両用構造部材の接合構造では、嵌合部87に位置する前壁83に、車幅方向外側に向けて斜め下方に傾斜させた傾斜切り欠き部88が形成され、第3接合部98は、傾斜切り欠き部88の傾斜に沿わせて形成されたので、接合部89(第1〜第4接合部96〜99)を段差状からより略螺旋状に近い形状に形成することができる。この結果、横メンバと縦メンバの接合強度のさらなる向上を図ることができる。
【0031】
尚、本発明に係る車両用構造部材の接合構造は、図2に示すように、車両用構造部材の接合構造はフロントバルクヘッド16に採用されたが、これに限るものではなく、車体フレームなどの車両用構造部材ならば他の部材であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る車両用構造部材の接合構造は、セダンやワゴンなどの乗用車に採用するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る車両用構造部材の接合構造を採用した車体の斜視図である。
【図2】図1に示される車体の左側を示す斜視図である。
【図3】図1に示される車体の正面図である。
【図4】図2の4部拡大図である。
【図5】図4に示される車両用構造部材の接合構造の横メンバの斜視図である。
【図6】図4に示される車両用構造部材の接合構造の比較検討図である。
【図7】本発明に係る別実施例の車両用構造部材の接合構造の斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
16…フロントバルクヘッド、32,72…横メンバ(ロアメンバ)、36,76…縦メンバ(下側サイドステー)、41,81…上壁、42,82…下壁、42a,82a…上面、43,83…前壁、43a…上縁、44,84…後壁、45,85…延長壁、45a,85a…上縁、47,87…嵌合部、47a,87a…側縁、49,89…接合部、51,91…左の側壁、52,92…右の側壁、53,93…前縦壁、54,94…後縦壁、56〜59,96〜99…第1〜第4接合部、88…傾斜切り欠き部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に延びる横メンバと、上下方向に延びる縦メンバとから正面視矩形枠状に形成されるフロントバルクヘッドを含む車両用構造部材の接合構造であって、
前記横メンバと縦メンバとの接合部は、段差状若しくは略螺旋状に形成されることを特徴とする車両用構造部材の接合構造。
【請求項2】
前記横メンバは、上下の面を形成する上壁及び下壁と、車両前後方向で前後の面を形成する前壁及び後壁とで略四角形状の閉断面に形成され、且つ前記後壁から上方に延ばした延長壁を有するとともに、前記横メンバの端部に位置する前記上壁が前後方向に渡って全体的に切り欠かれ、前記縦メンバを嵌合する嵌合部が形成され、
前記縦メンバは、車幅方向で左右の側面を形成する左右の側壁と、車両前後方向で前後の面を形成する前・後縦壁とで略四角形状の閉断面に形成され、
前記接合部は、前記延長壁の上縁と前記後縦壁とを接合する第1接合部と、前記嵌合部の側縁と車幅内方に位置する前記左右の側壁の一方とを接合する第2接合部と、前記前壁の上縁と前記前縦壁と接合する第3接合部と、前記下壁の上面と車幅外方に位置する前記左右の側壁の他方とを接合する第4接合部とから構成され、
前記第1〜第4接合部は、接合高さが異なるように段差状に形成されたことを特徴とする請求項1記載の車両用構造部材の接合構造。
【請求項3】
前記嵌合部に位置する前記前壁に、車幅方向外側に向けて斜め下方に傾斜させた傾斜切り欠き部が形成され、前記第3接合部は、前記傾斜切り欠き部の傾斜に沿わせて形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用構造部材の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−58585(P2010−58585A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224676(P2008−224676)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】