説明

車両用温度制御装置

【課題】乗車時に主にFOOT吹出口からの暖房/冷房のみではなく、シート、ハンドル、床を加温/冷却することで素早く乗員の快適感を向上することが可能な車両用温度制御装置を提供する。
【解決手段】ハンドル温度制御手段と、座席温度制御手段と、床温度制御手段を備え、イグニッションON時またはエアコンON時において、ハンドル温度制御手段は、ハンドル表面温度が第一の設定温度未満であるときに暖房運転を、ハンドル表面温度が第二の設定温度を超えるときに冷房運転を、それぞれ開始し、座席温度制御手段は、座席表面温度が第三の設定温度未満であるときに暖房運転を、座席表面温度が第四の設定温度を超えるときに冷房運転を、それぞれ開始し、床温度制御手段は、床表面温度が第五の設定温度未満であるとき、または床表面温度が第六の設定温度未満であるときに暖房運転を開始する車両用温度制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冬場や夏場に車両に乗車する際、車室内の乗員の接触部およびその近傍を素早く暖め、あるいは冷やして乗員の快適性を向上することが可能な車両用温度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用空調装置では、エンジン冷却水をHVACユニット内にあるヒータコアに供給し、ブロワによって吸込んだ空気をヒータコアに通過させることで温め、温調した空気をDEF、VENT、FOOT吹出口より車室内に吹き出して暖房していた。また、ヒータコアへ供給する空気量は、ブロワ風量とエアミックスドアの開度によって決定されていた。
【0003】
このような車両用空調装置が設けられた車両においても、冬場の乗車直後等には車室内温度が非常に低くなっているために、乗員が不快感を覚えることがある。このような状況で乗員が暖房スイッチをONにしても、エンジン冷却水が暖まるまで十分な暖房効果が得られにくい。さらに、乗員と接触するシート、ハンドル、床の冷えが乗員の熱を奪うことで不快感を増大させるおそれがある。そこで、このような不快感を軽減するための工夫を施した車両用空調装置が考案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3991417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される車両用空調装置によれば、乗員の身体と車室内の温度差を解消することにより、乗員の不快感をある程度軽減することが可能であると思われる。しかしながら、この車両用空調装置においては加熱等によって温度が調整された空調風を利用して温度差を解消しているために、乗員が乗車してから温度差が完全に解消されるまでの時間の短縮には限界がある。
【0006】
そこで本発明の課題は、乗車時に主にFOOT吹出口からの暖房/冷房のみではなく、シート、ハンドル、床を加温/冷却することで素早く乗員の快適感を向上することが可能な車両用温度制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両用温度制御装置は、ハンドル表面温度を制御するハンドル温度制御手段と、座席表面温度を制御する座席温度制御手段と、床表面温度を制御する床温度制御手段を備え、前記ハンドル温度制御手段は、イグニッションON時またはエアコンON時において、ハンドル表面温度が第一の設定温度未満であるときに暖房運転を、ハンドル表面温度が第二の設定温度を超えるときに冷房運転を、それぞれ開始し、前記座席温度制御手段は、イグニッションON時またはエアコンON時において、座席表面温度が第三の設定温度未満であるときに暖房運転を、座席表面温度が第四の設定温度を超えるときに冷房運転を、それぞれ開始し、前記床温度制御手段は、イグニッションON時において床表面温度が第五の設定温度未満であるとき、またはエアコンON時において床表面温度が第六の設定温度未満であるときに暖房運転を開始することを特徴とするものからなる。
【0008】
本発明の車両用温度制御装置によれば、ハンドル温度制御手段、座席温度制御手段および床温度制御手段が、イグニッションまたはエアコンのON時における上記温度条件に基づいて、暖房と冷房とを適切に切り替えて運転するように構成されるので、ハンドル、座席、乗員足元の床が乗車直後から適切な温度に調節され、乗員の不快感を軽減することができる。また、前記第四の設定温度は、前記第三の設定温度よりも常に、予め定められた所定値だけ大きいことが好ましい。イグニッションON時またはエアコンON時の座席表面温度が第三の設定温度と第四の設定温度の間にある場合には、座席温度制御手段が冷房運転も暖房運転も開始しない停止状態とすることで、最適温度の近傍で冷暖房の切替えが頻繁に生じることが防止され、エネルギーの無駄な消費を抑えることが可能となる。
【0009】
本発明の車両用温度制御装置は、前記ハンドル温度制御手段、前記座席温度制御手段および前記床温度制御手段の少なくともいずれかが、それぞれハンドル、座席または床に対して熱伝達可能な蓄熱/蓄冷装置を備えることが好ましい。このような蓄熱/蓄冷装置を備えることにより、各温度制御手段が起動してから速やかに温度調節が開始され、車室内の各部分を短時間で適切な温度に到達させることが可能となる。
【0010】
また、本発明の車両用温度制御装置において、前記蓄熱/蓄冷装置は、ハンドル、座席または床に対してダクトを介して熱伝達可能に構成され、冷凍回路のホットガス、エンジン冷却水、もしくはエンジンから伝達された熱を蓄熱可能な蓄熱装置または蓄冷材からなることが好ましい。蓄熱/蓄冷装置がダクトを介してハンドル、座席または床に対して熱伝達可能に構成されることにより、蓄熱装置または蓄冷装置によって温度調節された空調風をハンドル、座席または床まで確実に送風して温度制御を行うことが可能となる。
【0011】
また、前記蓄熱/蓄冷装置は、具体的には、冷凍回路のホットガス、エンジン冷却水、もしくはエンジンから伝達された熱を蓄熱可能な蓄熱装置、または蓄冷材からなるように構成することが可能である。
【0012】
また、前記ハンドル温度制御手段、前記座席温度制御手段および前記床温度制御手段が電気式温度制御装置からなり、該電気式温度制御装置に対して給電可能な蓄電装置を備えるように構成することも可能である。上述のように熱エネルギーを直接利用して蓄熱または蓄冷する以外の態様として、エネルギーを電気の形態で蓄電装置に蓄えておき、エネルギーを利用する際に電気式温度制御装置で電気を熱エネルギー化することができる。このようにすることで、車両用温度制御装置の構造を簡素化することが可能となる。また、前記蓄電装置は、外部電源により充電可能に構成してもよい。
【0013】
このような本発明の車両用温度制御装置において、前記ハンドル温度制御手段は、ハンドル表面温度が前記第一の設定温度以上となるときに暖房運転を、ハンドル表面温度が前記第二の設定温度以下となるときに冷房運転を、それぞれ停止し、前記座席温度制御手段は、座席表面温度が前記第三の設定温度以上となるときに暖房運転を、座席表面温度が前記第四の設定温度以下となるときに冷房運転を、それぞれ停止し、前記床温度制御手段は、床表面温度が第七の設定温度以上となるとき、または床表面温度が第八の設定温度以上となるときに暖房運転を停止することが好ましい。上記の各温度制御手段は、乗車直後の乗員が感じる不快感を軽減するためのものであることから、所定の停止条件を満たしたときには停止され、その後は通常の空調制御を行うモードに移行するように構成可能である。
【0014】
また、前記第八の設定温度は、前記第六の設定温度よりも常に、予め定められた所定値だけ大きいことが好ましい。前述した通り、イグニッションON時またはエアコンON時の床表面温度が第六の設定温度よりも下がると床温度制御手段が暖房運転を開始するが、この暖房運転が、床表面温度が第六の設定温度から所定温度だけ上昇するまで継続するように、第八の設定温度を設定することにより、床温度制御手段の暖房運転が開始と停止を頻繁に繰り返すことが防止され、エネルギーの無駄な消費を抑えることが可能となる。
【0015】
本発明の車両用温度制御装置において、前記ハンドル温度制御手段は、暖房運転または冷房運転の停止後において、ハンドル表面温度が前記第一の設定温度未満となるときに暖房運転を、ハンドル表面温度が前記第二の設定温度を超えるときに冷房運転を、それぞれ開始し、前記座席温度制御手段は、暖房運転または冷房運転の停止後において、座席表面温度が前記第三の設定温度未満となるときに暖房運転を、座席表面温度が前記第四の設定温度を超えるときに冷房運転を、それぞれ開始し、前記床温度制御手段は、暖房運転の停止後において、床表面温度が前記第五の設定温度未満となるとき、または床表面温度が前記第六の設定温度未満となるときに暖房運転を開始することが好ましい。すなわち、前記ハンドル温度制御手段、前記座席温度制御手段および前記床温度制御手段は、それぞれの上記冷暖房運転停止条件を満たした後、再びそれぞれの上記冷暖房運転開始条件を満たしたときに冷暖房運転を適切に開始するように構成することが可能である。このように、空調装置がOFFされているときや、空調装置がONしているにも関わらず乗員が不快と感じるようなときに、本発明における各温度制御手段が再び冷暖房運転を開始することで、乗車環境の向上を図ることができる。
【0016】
本発明の車両用温度制御装置において、前記床温度制御手段は、室内目標温度および床表面温度に基づき制御されることが好ましい。また、前記座席温度制御手段は、座席表面温度、室内目標温度および室内温度に基づき制御されることが好ましい。ここで、室内目標温度としては、エアコンの設定温度等を採用することができる。このように、各温度条件に基づき座席温度の制御目標値を決定することで、より快適な乗車環境を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る車両用温度制御装置によれば、冬場の寒い時期において乗車後に乗員が接するハンドル、座席、乗員足元の床が即暖され、乗員の体温を長時間奪わずに済むため、不快感を低減することができる。また、夏場の暑い時期においても、乗員に接するハンドル、座席等を適切な温度に空調することで乗員の快適性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施態様に係る車両用温度制御装置を示し、(A)は座席表面温度制御装置と床表面温度制御装置の概略斜視図、(B)は座席表面温度制御装置、床表面温度制御装置およびハンドル表面温度制御装置の概略断面図である。
【図2】本発明の他の実施態様に係る車両用温度制御装置を構成する、座席表面温度制御装置、床表面温度制御装置およびハンドル表面温度制御装置を示す概略断面図である。
【図3】図1のハンドル表面温度制御装置の制御フロー例である。
【図4】図1の座席表面温度制御装置の制御フロー例である。
【図5】図1の床表面温度制御装置の制御フロー例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る車両用温度制御装置1を示している。図1(A)には、車両用温度制御装置1を構成する座席表面温度制御装置2および床表面温度制御装置3の概略構造が斜視図で示されている。車室内の床に埋設された床表面温度制御装置3に、蓄熱/蓄冷装置(図示略)からダクト5を介して冷凍回路のホットガス等が供給されることにより、床表面温度を制御することができる。また、前部の座席6の座面部6aと背もたれ部6bにも、ダクト5を介して冷凍回路のホットガス等が供給される。座面部6aおよび背もたれ部6bには、温度センサ7が埋設され、座面部6aおよび背もたれ部6bの温度を測定することができるように構成されている。
【0020】
また、図1(B)は、車両用温度制御装置1を構成する座席表面温度制御装置2、床表面温度制御装置3およびハンドル表面温度制御装置8の概略断面図を示している。座席6は車両の前後方向(図では左右方向)に可動であるので、ダクト5は伸縮可能に構成される。ダクト5を介して冷凍回路のホットガス等が座席表面温度制御装置2に供給されることにより、座席6の座面部6aと背もたれ部6bの温度制御がなされる。図1(B)において、座席表面温度制御装置2に向けて延びるダクト5は車室の床上に配設されているが、図2に記載されるように床表面温度制御装置3と同様に車室の床下に配設してもよい。
【0021】
図1(B)において、ダクト5はハンドル9内に埋設されたハンドル表面温度制御装置8にも連通しており、ハンドル表面温度制御装置8に冷凍回路のホットガス等が供給されることにより、ハンドル9の温度制御がなされる。なお、車両乗車時の不快な車室内温度環境が解消された後は、従来通り、空調装置の吹出口13〜16からの空調風で車両乗車時の車室内温度環境を調節すればよい。図1(A)、(B)に示される、座席表面温度制御装置2、床表面温度制御装置3およびハンドル表面温度制御装置8を備えた車両用温度制御装置1を採用することにより、車両乗車時の車室内の高温環境または低温環境を即時に解消することが可能である。
【0022】
本発明の車両用温度制御装置においては、図1、2に示す例のほか、各種の機械的構成を採用することができる。すなわち、空調装置が冷凍サイクル装置からなり、蒸発器、凝縮器、圧縮機等が設けられていてもよい。圧縮機は、クラッチで車両のエンジンと接続され駆動するもののほか、クラッチレスタイプのものとしてもよい。また、圧縮機として、外部制御信号容量を変化させることのできる外部可変容量圧縮機や固定容量圧縮機が利用可能である。さらに、圧縮機は、エンジンにより駆動するもののほか、電動モータにより駆動するものでもよい。
【0023】
空調装置が蒸気圧縮式冷凍サイクルを構成する場合には、冷媒としてフロン系冷媒や二酸化炭素が適用可能である。また、蒸気圧縮式冷凍サイクルの膨張機構として、電子膨張弁、温度式膨張弁、または差圧式膨張弁を適用可能である。
【0024】
また、温度センサ7は、図1(A)に示すように座面部6aや背もたれ部6bに埋設されるほか、ハンドル9の表面近傍や床表面近傍に設けられていてもよい。
【0025】
本発明の車両用温度制御装置において、蓄熱/蓄冷装置としては、エンジン等からの排熱を蓄熱する蓄熱暖房装置や、電力を蓄えることのできる蓄電装置等が利用可能である。例えば蓄熱暖房装置が蓄熱装置として利用される場合には、熱交換器を通過した空調風を流通させるためのダクトが設けられることが好ましい。
【0026】
また、座席表面温度制御装置2、床表面温度装置3およびハンドル表面温度制御装置8としては、蓄電装置に蓄えられた電力を使用して冷暖房する電気冷暖房機や、蓄電装置に蓄えられた電力を使用して暖房する熱線式暖房機や電気ヒータなどが利用可能である。
【0027】
図3は、図1のハンドル表面温度制御装置8の制御フロー例を示している。図3に即して、ハンドル表面温度の制御の流れについて以下に説明する。
【0028】
〔ハンドル表面温度推定手段〕
ハンドル表面近傍に設置された温度センサから取得したハンドル表面近傍温度(Tdh)と車室内温度(Tin)よりハンドル表面温度(Th)を推定する。また、ハンドル表面近傍に温度センサがない場合、外気温度(Tamb)、車室内温度(Tin)と日射量(Rsun)によりThを推定、さらに日射センサがない場合は、外気温度(Tamb)、車室内温度(Tin)、曝し時間(空調がなされていない状態の時間)(Timeh)によってThを推定してもよい。
Th=f(Tdh,Tin) or f(Tamb,Tin,Rsun) or f(Tamb,Tin,Timeh)
【0029】
〔ハンドル表面冷暖房手段〕
ハンドル内部または近傍に蓄熱装置または電気式冷暖房機(ペルチェ素子)が搭載されている。まず、暖房の場合には、エンジン排熱や圧縮機吐出冷媒ガス(ホットガス)、ヒートポンプ、またはハイブリッド車や電気自動車の走行中の余剰電力を利用して蓄熱を行い、ハンドル表面温度が適温になるように暖房を行う。その際に、ハンドル内部に配管を通して空調風を供給してハンドルを暖房し適切な温度になるように空調を行う。ハイブリッド車や電気自動車においては、電気式冷暖房機を搭載し走行中に蓄電した電力で空調風を供給してもよい。
【0030】
次に、冷房の場合には、ハンドル内部に配管を通して空調風を供給してハンドル表面温度が適温になるように冷房を行う。ハイブリッド車や電気自動車においては、電気式冷暖房機を搭載し走行中に蓄電した電力で空調風を供給して空調してもよい。また、蓄電した電力によってハンドル近傍または、内部に搭載した蓄熱装置に蓄冷を行ってもよい。
【0031】
〔ハンドル表面冷暖房開始手段〕
イグニッションON時またはエアコンON時、ハンドル表面温度推定手段により推定したハンドル表面温度を基に冷房または暖房のどちらを起動するか判定する。低温度時起動条件温度(Thl)と高温度時起動条件温度(Thh)と快適温度補正定数(Tm)を用いてThl−Tm>Th、Thh+Tm<Thの時にそれぞれ暖房、冷房する。快適温度補正定数(Tm)の範囲は2〜10Kが望ましい。
第一の設定温度:Thl−Tm>Th ⇒ 暖房
第二の設定温度:Thh+Tm<Th ⇒ 冷房
【0032】
〔ハンドル表面冷暖房停止手段〕
ハンドルの冷房は、Thh+Tm≧Thの関係になったときに停止する。また、ハンドルの暖房は、Thl−Tm≦Thの関係になったときに停止する。さらに、エアコンスイッチのOFF、またはハンドル冷暖房装置の電源スイッチのOFF、またはイグニションのOFFのうちどれか一つが成立すれば冷房、または暖房運転を停止する。
ハンドル冷暖房停止条件 ⇒ Thl−Tm≦Th≦Thh+Tm or エアコンOFF or 電源OFF or イグニションOFF
【0033】
図4は、図1の座席表面温度制御装置2の制御フロー例を示している。図4に即して、座席表面温度の制御の流れについて以下に説明する。
【0034】
〔座席表面温度推定手段〕
座部表面近傍または背もたれ表面近傍のうち少なくともどちらかに設置された温度センサと車室内温度(Tin)より座席表面温度(Ts)を推定する。座部表面近傍と背もたれ表面近傍の両方に温度センサが設置され各温度を測定する場合は下記、座席表面平均温度(Tsav)と車室内温度(Tin)によってTsを推定する。また、下記のようにしてTsavは背もたれ表面近傍温度(Tsb)と座部表面近傍温度(Tsh)によって決定する。
Ts=A1×Tsb+B1×Tsh+C1×Tin
ここで、A1+B1+C1=1でありA1,B1,C1は定数である。
【0035】
〔座席表面目標温度決定手段〕
座席表面目標温度(Tseat)は車室内目標設定温度(Tset)と車室内温度(Tin)、座席表面温度(Ts)、車室内湿度(Hin)により決定する。また、Hinとある閾値Xと補正値Hを用いることでシートと乗員の間に湿り気があるのか判断することが出来る。また、イグニションON時にエアコンOFFの場合は、Tsetは保持した前回値を用いる。なお、初期値はTset0=25℃とする。
閾値を超えないとき(Hin<X)、H=0である。
Tseat=A2×Tset+B2×Ts+C2×Tin+D2×H
ここで、A2,B2,C2,D2は定数である。
【0036】
閾値を超えたとき(Hin>X)、乗員とシートの間に湿り気があると判断し、Tseatの式にH>0を加える。補正値 (H)の式を以下に示す。
H=a×Ts+b
ここで、a,bは定数である。
【0037】
〔座席表面冷暖房手段〕
座席の座部または、背もたれのいずれかに蓄熱装置または、電気式冷暖房機を搭載する。座席内部に配管を搭載して空調風を供給することで冷暖房し適切な温度になるように空調を行う。また、ハイブリッド車や電気自動車においては、電気冷暖房機を搭載し走行中に蓄電した電力で冷暖房してもよい。まず、暖房の場合には、エンジン排熱やエンジン冷却水、圧縮機吐出冷媒ガス(ホットガス)、ヒートポンプ、またはハイブリッド車や電気自動車の走行中の余剰電力を利用して蓄熱を行い、座席表面温度が適温になるように暖房を行う。その際に、座席内部に配管を通して空調風を供給して座席表面を暖房し適切な温度になるように空調を行う。
【0038】
なお、ハイブリッド車や電気自動車においては、電気式冷暖房機を搭載し走行中に蓄電した電力で空調風を供給してもよい。また、蓄電した電力によって座席内部に搭載した蓄熱装置に蓄熱し直接、座席表面を暖房してもよい。
【0039】
次に、冷房の場合には、座席内部に配管を通して空調風を供給して座席表面温度が適温になるように冷房を行う。ハイブリッド車や電気自動車においては、電気冷暖房機を搭載し走行中に蓄電した電力で空調風を供給して空調してもよい。また、蓄電した電力によって座席近傍または、内部に搭載した蓄熱装置に蓄冷を行ってもよい。
【0040】
〔座席表面冷暖房開始手段〕
イグニッションON時またはエアコンON時、座席表面目標温度に座席表面温度を近づけるために、Tseat−Tm>Tsの時は座席を暖房する。Tseat+Tm<Tsの時は座席を冷房する。また、快適温度補正定数(Tm)は座席表面目標温度に対して暖め過ぎたり冷やし過ぎたりしないようにするための温度補正値を示す。快適温度補正定数(Tm)の範囲は2〜10Kが望ましい。
第三の設定温度:Tseat−Tm>Ts ⇒ 暖房
第四の設定温度:Tseat+Tm<Ts ⇒ 冷房
【0041】
〔座席表面冷暖房停止手段〕
座席表面目標温度と座席表面温度が、以下の座席表面冷暖房停止条件を満たしたとき、すなわち、車室内目標設定温度(Tset)と車室内温度(Tin)の関係がTset=Tinになったとき、または、Tseat−Tm≦Ts≦Tseat+Tmになったとき、またはエアコンスイッチのOFF、または座席表面冷暖房装置の電源スイッチのOFFのうちどれか一つを実行すれば冷房、または暖房を停止する。ここで、エアコンOFF、電源OFF、またはイグニションOFF時のTsetの値を保持する。また、快適温度補正定数(Tm)の範囲は2〜10Kが望ましい。
座席表面冷暖房停止条件 ⇒ Tset=Tin or Tseat−Tm≦Ts≦Tseat+Tm or エアコンOFF or 電源OFF or イグニションOFF
【0042】
図5は、図1の床表面温度制御装置3の制御フロー例を示している。図5に即して、床表面温度の制御の流れについて以下に説明する。
【0043】
〔床表面温度推定手段〕
床表面近傍に設置された温度センサから取得した床表面近傍温度(Tdf)と車室内温度(Tin)より床表面温度(Tf)を測定する。
Tf=A3×Tdf+B3×Tin
なおA3、B3はA3+B3=1の関係を満たす定数である。
【0044】
〔床表面目標温度決定手段〕
床表面目標温度(Tfloor)は、車室内目標設定温度(Tset)と床表面温度(Tf)によって決定する。ここで、イグニションON、エアコンOFFの場合、座席表面目標温度算出手段と同様にTsetは前回のエアコンOFF時に保持した前回値を用いる。なお、初期値はTset0=25℃である。
Tfloor=f(Tset,Tf)
【0045】
〔床表面暖房手段〕
乗員足元床下とは異なる場所に設置された蓄熱装置によってヒータコアを加熱し、温調風を乗員足元床下の配管に供給することで乗員足元床下を適切な温度になるように空調を行う。または、床に蓄熱装置を搭載し、エンジン排熱や圧縮機吐出冷媒ガス(ホットガス)、ヒートポンプ、ハイブリッド車や電気自動車の走行中の余剰電力を利用して蓄熱を行い冷暖房する。または、ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)においては、蓄電した電力を使用して電気ヒータで暖房を行い空調する。
【0046】
〔床表面暖房開始手段〕
イグニッションON時、床表面温度が床表面暖房起動条件温度(Tfl)よりも床表面温度(Tf)が低い場合に強制的に起動する。または、エアコンスイッチがON時に床表面目標温度(Tfloor)と快適温度補正定数(Tm)の差よりも床表面温度(Tf)が低い場合に起動する。
第五の設定温度:Tfl>Tf
第六の設定温度:Tfloor−Tm>Tf
【0047】
〔床表面暖房停止手段〕
床表面暖房強制停止条件温度(Tfh)と床表面温度(Tf)の関係がTfh<Tf、または車室内目標設定温度(Tset)と車室内温度(Tin)の関係がTset=Tinになった時、または床表面目標温度(Tfloor)と床表面床温度(Tf)の関係がTfloor=Tfになった時に床表面暖房機能を停止する。またはエアコンスイッチのOFF、または床表面暖房装置の電源スイッチをOFF、またはイグニションOFFにする。ここで、エアコンOFF、または電源OFF,またはイグニションOFF時のTsetの値を保持する。
第七の設定温度:Tfh<Tf or Tset=Tin or 第八の設定温度:Tfloor=Tf or エアコンOFF or 電源OFF or イグニションOFF
【0048】
以下に、図3〜5に例示される制御フローに基づいて制御される車両用温度制御装置の運転工程の概略を説明する。
【実施例1】
【0049】
外気温度が0℃以下で車室内が0℃の時に乗車した場合の制御フローについて説明する。イグニッションON、またはエアコンON後にハンドル、座席、床表面温度判定手段によりハンドル、座席、床表面温度を推定し、表面温度とエアコンの車室内目標設定温度より、ハンドル、座席、床表面温度の最適な表面目標温度を算出し、ハンドル、座席、床表面暖房開始手段より開始条件を判定し暖房運転を開始する。空調開始後はハンドル、座席、床表面目標温度になるように蓄熱暖房装置に蓄熱された熱を放熱しヒータコアなどの熱源を加熱し、エアミックスドアの開度によって温度を調節した空調風をハンドルまたは座席または乗員足元床下のうち少なくとも一つのダクトに供給し、ハンドル、座席、床の暖房運転を開始する。
【0050】
一定時間が経過するとき、もしくはハンドル表面温度がハンドル表面暖房停止条件の範囲になったときにハンドル表面暖房手段は自動的に運転を停止する。または、エアコンOFF、ハンドル表面暖房装置の電源OFF時に運転を停止する。座席表面暖房手段及び床表面暖房手段は、座席表面暖房停止条件、床表面暖房停止条件の範囲になったときに座席、床表面暖房手段は自動的に運転を停止する。または、エアコンOFF時または、各手段の電源スイッチがある場合はハンドル、座席、床表面暖房装置の電源OFF時に運転を停止する。
【0051】
また、ハンドル、座席、床表面温度が表面暖房開始条件を満たしたとき、車室内目標設定温度に基づきハンドル、座席、床の空調を開始する。
【実施例2】
【0052】
外気温度が30℃以上で車室内が30℃の時に乗車した場合の制御フローについて説明する。外気温度が30℃以上で日射の強い日など、乗車前の状態として、車室内温度は高温となる。そのため、早期に快適な温度に下げる必要がある。
【0053】
イグニッションON、またはエアコンON後にハンドル、座席表面温度推定手段により表面温度とエアコンの車室内目標設定温度より、ハンドル、座席表面温度の最適な表面目標温度を算出し、ハンドル、座席表面暖房開始手段より開始条件を判定し冷房運転を開始する。空調開始後はハンドル、座席表面目標温度になるように蓄冷装置により蓄熱された冷熱を開放しエバポレータを冷却し、エアミックスドア開度によって温度を調節した空調風をハンドルまたは座席のうち少なくとも一つのダクトに供給し、ハンドル、座席の冷房を開始する。
【0054】
一定時間が経過するとき、もしくはハンドル表面温度がハンドル表面冷房停止条件の範囲になったときにハンドル表面冷房手段は自動的に停止する。または、エアコンOFF、ハンドル表面暖房装置の電源OFF時に停止する。同様に、座席表面冷房手段も座席表面冷房停止条件の範囲になったときに座席表面冷房手段は自動的に停止する。または、エアコンOFF時及び各々手段の電源スイッチがある場合はハンドル、座席表面冷房装置の電源OFF時に停止する。
【0055】
また、ハンドル、座席表面冷暖房停止条件後に再び、ハンドル、座席、床表面温度が表面暖房開始条件になったときに、エアコンOFFまたは各々手段の電源スイッチOFF以外の場合には、車室内目標設定温度に基づきハンドル、座席、床の空調を開始する。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る車両用温度制御装置は、各種車両の快適性向上のための温度制御装置として適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 車両用温度制御装置
2 座席表面温度制御装置
3 床表面温度制御装置
5 ダクト
6、16 座席
6a 座面部
6b 背もたれ部
7 温度センサ
8 ハンドル表面温度制御装置
9 ハンドル
13、14、15、16 吹出口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドル表面温度を制御するハンドル温度制御手段と、座席表面温度を制御する座席温度制御手段と、床表面温度を制御する床温度制御手段を備え、前記ハンドル温度制御手段は、イグニッションON時またはエアコンON時において、ハンドル表面温度が第一の設定温度未満であるときに暖房運転を、ハンドル表面温度が第二の設定温度を超えるときに冷房運転を、それぞれ開始し、前記座席温度制御手段は、イグニッションON時またはエアコンON時において、座席表面温度が第三の設定温度未満であるときに暖房運転を、座席表面温度が第四の設定温度を超えるときに冷房運転を、それぞれ開始し、前記床温度制御手段は、イグニッションON時において床表面温度が第五の設定温度未満であるとき、またはエアコンON時において床表面温度が第六の設定温度未満であるときに暖房運転を開始することを特徴とする車両用温度制御装置。
【請求項2】
前記第四の設定温度は、前記第三の設定温度よりも常に、予め定められた所定値だけ大きい、請求項1に記載の車両用温度制御装置。
【請求項3】
前記ハンドル温度制御手段、前記座席温度制御手段および前記床温度制御手段の少なくともいずれかが、それぞれハンドル、座席または床に対して熱伝達可能な蓄熱/蓄冷装置を備える、請求項1または2に記載の車両用温度制御装置。
【請求項4】
前記蓄熱/蓄冷装置は、ハンドル、座席または床に対してダクトを介して熱伝達可能に構成され、冷凍回路のホットガス、エンジン冷却水、もしくはエンジンから伝達された熱を蓄熱可能な蓄熱装置または蓄冷材からなる、請求項3に記載の車両用温度制御装置。
【請求項5】
前記ハンドル温度制御手段、前記座席温度制御手段および前記床温度制御手段が電気式温度制御装置からなり、該電気式温度制御装置に対して給電可能な蓄電装置を備える、請求項1または2に記載の車両用温度制御装置。
【請求項6】
前記蓄電装置は、外部電源により充電可能に構成される、請求項5に記載の車両用温度制御装置。
【請求項7】
前記ハンドル温度制御手段は、ハンドル表面温度が前記第一の設定温度以上となるときに暖房運転を、ハンドル表面温度が前記第二の設定温度以下となるときに冷房運転を、それぞれ停止し、前記座席温度制御手段は、座席表面温度が前記第三の設定温度以上となるときに暖房運転を、座席表面温度が前記第四の設定温度以下となるときに冷房運転を、それぞれ停止し、前記床温度制御手段は、床表面温度が第七の設定温度以上となるとき、または床表面温度が第八の設定温度以上となるときに暖房運転を停止する、請求項1〜6のいずれかに記載の車両用温度制御装置。
【請求項8】
前記第八の設定温度は、前記第六の設定温度よりも常に、予め定められた所定値だけ大きい、請求項7に記載の車両用温度制御装置。
【請求項9】
前記ハンドル温度制御手段は、暖房運転または冷房運転の停止後において、ハンドル表面温度が前記第一の設定温度未満となるときに暖房運転を、ハンドル表面温度が前記第二の設定温度を超えるときに冷房運転を、それぞれ開始し、前記座席温度制御手段は、暖房運転または冷房運転の停止後において、座席表面温度が前記第三の設定温度未満となるときに暖房運転を、座席表面温度が前記第四の設定温度を超えるときに冷房運転を、それぞれ開始し、前記床温度制御手段は、暖房運転の停止後において、床表面温度が前記第五の設定温度未満となるとき、または床表面温度が前記第六の設定温度未満となるときに暖房運転を開始する、請求項7または8に記載の車両用温度制御装置。
【請求項10】
前記床温度制御手段は、室内目標温度および床表面温度に基づき制御される、請求項1〜9のいずれかに記載の車両用温度制御装置。
【請求項11】
前記座席温度制御手段は、座席表面温度、室内目標温度および室内温度に基づき制御される、請求項1〜10のいずれかに記載の車両用温度制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−218970(P2011−218970A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90405(P2010−90405)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】