説明

車両用衝撃力吸収装置

【課題】車両全長が増大するのを抑制しつつ、大きな衝撃荷重も吸収することができる車両用衝撃力吸収装置を提供する。
【解決手段】車体前端部に車幅方向に沿って設けられたロアレインフォース17と、車体前端部に車幅方向に沿って設けられロアレインフォース17の後方に配されたロアクロスメンバ15と、ロアレインフォース17とロアクロスメンバ15とを連結するとともに、車体前方からロアレインフォース17に衝撃荷重が加わったときに、潰れながら前記衝撃荷重を吸収するロアクラッシュカン16とを備えた車両用衝撃力吸収装置であって、ロアクロスメンバ15は、ロアクラッシュカン16の潰れにより車体後方へ移動したときのロアレインフォース17を、内部に収容可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時(主に前突時)に、その衝突エネルギーを車体前端部で吸収することができる車両用衝撃力吸収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両前突時の衝突エネルギーを吸収するよう構成された衝撃力吸収装置としては、車体前端部に車幅方向に沿って設けられた第1の前端部骨格部材と、車体前端部に車幅方向に沿って設けられ第1の前端部骨格部材の後方に配された第2の前端部骨格部材と、第1の前端部骨格部材と第2の前端部骨格部材とを連結するとともに、車体前方から第1の前端部骨格部材に衝撃力が加わったときに、軸方向に潰れながら衝撃力を吸収する連結部材とを備えたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−175988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の技術では、大きな衝撃荷重を吸収させるには連結部材の長さを長くしなければならないが、連結部材を長くすると車両全長が大きくなってしまうという問題がある。
【0004】
本発明の課題は、車両全長が増大するのを抑制しつつ、大きな衝撃荷重も吸収することができる車両用衝撃力吸収装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、車体前方から衝撃荷重が加わって第1の前端部骨格部材が車体後方へ移動したときに、第1の前端部骨格部材及び第2の前端部骨格部材のうちどちらかが相手の前端部骨格部材の内部に収容されてしまうよう構成した点に特徴がある。
【0006】
すなわち、本発明は、車体前端部に車幅方向に沿って設けられた第1の前端部骨格部材と、車体前端部に車幅方向に沿って設けられ前記第1の前端部骨格部材の後方に配された第2の前端部骨格部材と、前記第1の前端部骨格部材と前記第2の前端部骨格部材とを連結するとともに、車体前方から前記第1の前端部骨格部材に衝撃荷重が加わったときに、潰れながら前記衝撃荷重を吸収する連結部材とを備えた車両用衝撃力吸収装置であって、前記第2の前端部骨格部材は、前記連結部材の潰れにより車体後方へ移動したときの前記第1の前端部骨格部材を、内部に収容可能に構成されていることを特徴としている。
【0007】
また、本発明は、車体前端部に車幅方向に沿って設けられた第1の前端部骨格部材と、車体前端部に車幅方向に沿って設けられ前記第1の前端部骨格部材の後方に配された第2の前端部骨格部材と、前記第1の前端部骨格部材と前記第2の前端部骨格部材とを連結するとともに、車体前方から前記第1の前端部骨格部材に衝撃荷重が加わったときに、潰れながら前記衝撃荷重を吸収する連結部材とを備えた車両用衝撃力吸収装置であって、前記第1の前端部骨格部材は、前記連結部材の潰れにより車体後方へ移動したとき、前記第2の前端部骨格部材を内部に収容可能に構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第2の前端部骨格部材が第1の前端部骨格部材を内部に収容可能であるか、または第1の前端部骨格部材が第2の前端部骨格部材を内部に収容可能であるので、それら収容される分だけ連結部材の車体前後方向に沿った長さを長くすることができる。その結果、車両全長が増大するのを抑制しつつ、車両に加わった大きな衝撃荷重も吸収することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明する。
【実施例】
【0010】
図1及び図2は本発明に係る車両用衝撃力吸収装置が適用された自動車の車体前部の概略構成を示しており、図1は右上方から見たときの斜視図、図2は底面図である。
【0011】
自動車の車体前部には車幅方向左右に車体前後方向に沿って一対のフロントサイドメンバ11,11が配設され、各フロントサイドメンバ11,11の前端には緩衝部としてバンパーステイ(クラッシュカン)12,12が設けられている。バンパーステイ12,12の前面には、フロントバンパー(図示省略)を支持するバンパーレインフォース13が車幅方向に取り付けられている。つまり、フロントサイドメンバ11,11の前端部は、バンパーステイ12,12を介して、バンパーレインフォース13によって互いに連結されている。
【0012】
また、フロントサイドメンバ11,11の下方には一対のフロントロアサイドメンバ14,14が配設されている。図示してないが、これらフロントロアサイドメンバ14,14の後端はフロントサイドメンバ11,11にそれぞれ繋がっている。
【0013】
各フロントロアサイドメンバ14,14の前端には、第2の前端部骨格部材としてのロアクロスメンバ15が車幅方向に取り付けられている。つまり、フロントロアサイドメンバ14,14の前端部は、ロアクロスメンバ15によって互いに連結されている。
【0014】
ロアクロスメンバ15の前方には、車体前方に向けて、連結部材としての一対のロアクラッシュカン16,16が設けられている。ロアクラッシュカン16,16は後部側に基部(一側端部)16A,16Aを有し、前部側に先端部(他側端部)16B,16Bを有しており、基部16A,16Aがロアクロスメンバ15の前面に取り付けられている。ロアクラッシュカン16,16の先端部16B,16Bには、第1の前端部骨格部材としてのロアレインフォース17が車幅方向に配設されている。また、ロアクラッシュカン16,16は、フロントロアサイドメンバ14,14よりも車幅方向内側に配設され、且つ車体前後方向の中心軸に関して左右対称に配置されている。
【0015】
ここで、ロアクロスメンバ15、ロアクラッシュカン16,16、及びロアレインフォース17は、フロントロアサイドメンバ14,14の前方に配置された井形フレームを形成しており、この井形フレームが本発明に係る車両用衝撃力吸収装置である。
【0016】
なお、18はラジエータであり、フロントサイドメンバ11,11間で且つバンパーレインフォース13の直ぐ後方に配置されている。
【0017】
図3及び図4は井形フレームを示しており、図3は井形フレームの全体斜視図、図4は井形フレームの分解斜視図である。井形フレームのうち、ロアクロスメンバ15は板状部材からなる外側壁15Aを有し、この外側壁15Aは縦断面コ字状に折り曲げられている。すなわち、ロアクロスメンバ15は、車体前方側、つまりロアレインフォース17に対向する側が開放された形状となっている。
【0018】
また、ロアクロスメンバ15には、車幅方向両端に内側縦壁15B,15Bが設けられている。この内側縦壁15B,15Bは、ロアクロスメンバ15の開放端縁部15C(図5参照)よりも車体後方側に配置されている。これにより、ロアクロスメンバ15には車幅方向両端部に切欠き溝部15D,15D(図5参照)が形成されている。
【0019】
上記内側縦壁15Bは、ロアクロスメンバ15の車幅方向中央部には設けられていない。すなわち、ロアクロスメンバ15の車幅方向中央部は、切欠き溝部15D,15Dが形成された部分よりも深くなっている(車体後方への奥行きが長くなっている)。
【0020】
ロアクロスメンバ15の外側壁15Aは、車幅方向中央で左右2つに分割された構造を成しており、その外側壁15Aの車幅方向中央の背面内側に設けられた接続板20によって、左右の外側壁15Aは互いに接続される。すなわち、外側壁15Aのうち車幅方向中央付近の背面壁には貫通孔15Eが形成され、また、接続板20にはネジ孔20Aが形成されており、ネジ21を貫通孔15Eに挿通させて、さらにネジ孔20Aに螺合させて締め付けることにより、左右の外側壁15Aは接続板20によって互いに強固に接続されている。なお、ロアクロスメンバ15には接続板20の前方に空間部20Bが形成されている。
【0021】
ロアクラッシュカン16,16は、接続板20の車幅方向外側に配置され、ロアクロスメンバ15の外側壁15Aに固定されている。すなわち、ロアクラッシュカン16の基部16Aには貫通孔16Cが形成され、また、ロアクロスメンバ15の外側壁15Aにはその上下の壁体に貫通孔15F,15Fが形成されており、ネジ22を貫通孔15F、貫通孔16C、及び貫通孔15Fに挿通させて、ナット23に螺合させて締め付けることにより、ロアクラッシュカン16はロアクロスメンバ15の外側壁15Aに強固に固定されている。
【0022】
ロアクラッシュカン16,16の先端部16B,16Bは、ロアレインフォース17の車体後方側の側面に溶接等によって強固に固定されている。ロアレインフォース17は、縦断面が矩形の中空角柱部材で形成され、車幅方向両端側が車体後方に曲げられている。なお、ロアクラッシュカン16の基部16Aは、ロアクロスメンバ15の切欠き溝部15Dに挿入可能なサイズに設定されている。
【0023】
図5は図4のSA−SA線に沿った断面であり、内側縦壁15Bが設けられた部分を車体前後方向に沿って切断したときの縦断面図である。また、図6は図4のSB−SB線に沿った断面であり、ロアクラッシュカン16の基部16Aが取り付けられる部分を車体前後方向に沿って切断したときの縦断面図である。
【0024】
図5に示すように、ロアクロスメンバ15の車幅方向両端部には、ロアレインフォース17に対向した側に1つの開断面の部分(つまり、切欠き溝部15D)を有し、切欠き溝部15Dの車体後方側に車体前後方向に並んだ2つの閉断面の部分25,26を有する。そして、切欠き溝部15Dの開放端縁部15Cから閉断面の部分25の奥側に壁面25Aまでの距離が、潰れ代としてL1に設定されている。
【0025】
ロアクラッシュカン16の基部16Aが取り付けられる部分には、図6に示すように、接続板20(図4参照)が挿入される空間部27が設けられている。空間部27の一側には接続板20の車体前後方向位置決め用に突起27Aが設けられている。
【0026】
図7はロアクラッシュカン16を示しており、(a)は正面図、(b)は上面図、(c)は右側面図である。
【0027】
次に、本実施例の作用について、図8及び図9を用いて説明する。図8は本発明に係る車両用衝撃力吸収装置を上面から見たときのものであり、(a)は車両前突前の様子を示す図、(b)は車両前突後の様子を示す図である。また、図9はロアクラッシュカン16付近の縦断面を示しており、(a)は車両前突前の様子を示す図、(b)は車両前突後の様子を示す図である。
【0028】
車両前突時、ロアレインフォース17に衝撃力が加わり、ロアレインフォース17が、図8(a)及び(b)に示すように、車体後方へ移動する。ロアレインフォース17の車体後方への移動により、ロアクラッシュカン16,16は、図9(a)及び(b)に示すように、座屈して軸方向(車体後方)に潰される。
【0029】
このとき、本実施例では、ロアクロスメンバ15の車幅方向両端に切欠き溝部15D,15Dが形成され、さらにロアクロスメンバ15の車幅方向には接続板20の前方に空間部20B(図3参照)が設けられているので、潰されたロアクラッシュカン16,16の一部は空間部20Bに入り込むとともに、ロアレインフォース17はロアクロスメンバ15の車幅方向両端の切欠き溝部15D内に収容される。その結果、車両全長が増大するのを抑制しつつ、車両に加わった大きな衝撃荷重を効率よく吸収することが可能となる。また、切欠き溝部15D,15D内に収容される分だけ、ロアクラッシュカン16,16の車体前後方向の長さを長くすることができ、衝撃荷重をより一層効率よく吸収することが可能となる。
【0030】
なお、図9(b)に示すように、車両前突後は、潰れ代L1(図5参照)は潰れ残り代としてL2になる。ここでは、L1>L2に設定されている。
【0031】
本実施例によれば、ロアクラッシュカン16,16の基部16Aが、ロアクロスメンバ15の切欠き溝部15Dに挿入可能なサイズに設定されているので、ロアクラッシュカン16,16をロアクロスメンバ15を取り付ける際、車体横方向から基部16Aを切欠き溝部15D内でスライドさせて取付作業を行うことができる。
【0032】
また、本実施例によれば、ロアクロスメンバ15の外側壁15Aが車幅方向中央で左右2つに分割された構造を成しているので、ロアクラッシュカン16,16をロアクロスメンバ15に結合する際の位置決め精度を高めることができるとともに、接続板20をロアクロスメンバ15に取り付けるのも容易となる。
【0033】
さらに、本実施例によれば、ロアクロスメンバ15の車幅方向両端は、切欠き溝部15D,15Dの後方側に車体前後方向に並んだ2つの閉断面の部分25,26を有しているので、切欠き溝部15D,15Dによって断面係数が低下するのを、閉断面の部分25,26で補うことができる。これにより、ロアクロスメンバ15の剛性を高く維持することが可能となる。
【0034】
上記実施例では、ロアレインフォース17が車体後方へ移動したとき、ロアクロスメンバ15がその内部にロアレインフォース17を収納する構成であったが、これとは逆に、ロアレインフォース17がその内部にロアクロスメンバ15を収納する構成であってもよい。
【0035】
以上、本発明の実施例を図面により詳述してきたが、上記実施例は本発明の例示にしか過ぎないものであり、本発明は上記実施例の構成にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【0036】
例えば、上記実施例ではロアクロスメンバ15の外側壁15Aを車幅方向に2分割する構成であったが、これに限らず、当該外側壁15Aを3つ以上に分割する構成であってもよい。
【0037】
また、本発明の車両用衝撃力吸収装置は車体前部ばかりでなく、車体後部に設置することにより、車両後突時の衝撃力も効率よく吸収することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る車両用衝撃力吸収装置が適用された自動車の車体前部の概略構成を示した斜視図である。
【図2】図1の底面図である。
【図3】井形フレームの全体斜視図である。
【図4】井形フレームの分解斜視図である。
【図5】図4のSA−SA線に沿った断面図である。
【図6】図4のSB−SB線に沿った断面図である。
【図7】ロアクラッシュカンを示しており、(a)は正面図、(b)は上面図、(c)は右側面図である。
【図8】本発明に係る車両用衝撃吸力収装置を上面から見たときのものであり、(a)は車両前突前の様子を示す図、(b)は車両前突後の様子を示す図である。
【図9】ロアクラッシュカンを含む縦断面を示しており、(a)は車両前突前の様子を示す図、(b)は車両前突後の様子を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
11 フロントサイドメンバ
12 バンパーステイ
13 バンパーレインフォース
14 フロントロアサイドメンバ
15 ロアクロスメンバ(第1の前端部骨格部材)
15D 切欠き溝部(開断面の部分)
16 ロアクラッシュカン(連結部材)
17 ロアレインフォース(第2の前端部骨格部材)
25,26 閉断面の部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前端部に車幅方向に沿って設けられた第1の前端部骨格部材と、
車体前端部に車幅方向に沿って設けられ前記第1の前端部骨格部材の後方に配された第2の前端部骨格部材と、
前記第1の前端部骨格部材と前記第2の前端部骨格部材とを連結するとともに、車体前方から前記第1の前端部骨格部材に衝撃荷重が加わったときに、潰れながら前記衝撃荷重を吸収する連結部材とを備えた車両用衝撃力吸収装置であって、
前記第2の前端部骨格部材は、前記連結部材の潰れにより車体後方へ移動したときの前記第1の前端部骨格部材を、内部に収容可能に構成されていることを特徴とする車両用衝撃力吸収装置。
【請求項2】
前記第2の前端部骨格部材の車幅方向両端には切欠き溝部が形成され、
前記連結部材の一側端部は前記切欠き溝部内に挿入可能であることを特徴とする請求項1に記載の車両用衝撃力吸収装置。
【請求項3】
前記第2の前端部骨格部材は、車幅方向に沿って2つ以上に分割可能に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用衝撃力吸収装置。
【請求項4】
前記第2の前端部骨格部材の車幅方向両端は、前記連結部材よりも車幅方向外側を車体前後方向に沿って切断したとき、前記第1の前端部骨格部材に対向した側に1つの開断面の部分を有し、該開断面の部分の後方側に車体前後方向に並んだ2つの閉断面の部分を有することを特徴とする請求項1,2又は3に記載の車両用衝撃力吸収装置。
【請求項5】
車体前端部に車幅方向に沿って設けられた第1の前端部骨格部材と、
車体前端部に車幅方向に沿って設けられ前記第1の前端部骨格部材の後方に配された第2の前端部骨格部材と、
前記第1の前端部骨格部材と前記第2の前端部骨格部材とを連結するとともに、車体前方から前記第1の前端部骨格部材に衝撃荷重が加わったときに、潰れながら前記衝撃荷重を吸収する連結部材とを備えた車両用衝撃力吸収装置であって、
前記第1の前端部骨格部材は、前記連結部材の潰れにより車体後方へ移動したとき、前記第2の前端部骨格部材を内部に収容可能に構成されていることを特徴とする車両用衝撃力吸収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−137699(P2010−137699A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315490(P2008−315490)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】