説明

車両用角速度センサの零点補正装置

【課題】車両に搭載される角速度センサの零点補正精度を向上させるとともに、車両が実際に使用されている状態での零点補正処理の頻度を上げる。
【解決手段】オフディレイ回路42は、イグニッションスイッチ50のオフ後にオン状態になっている所定時間にバッテリ40からイグニッションスイッチ50を迂回して3軸角速度センサ22、3軸加速度センサ24に電源+Bを供給する。この所定時間に車両停止状態検知センサ14(例えば、燃料計)の出力変化に基づいて車両が停止していると判断したとき、零点補正手段30が、3軸角速度センサ22の出力を更新後の零点補正値として記憶手段28に記憶し、更新後の零点補正値により3軸角速度センサ22の検出値を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両に搭載され、前記車両の角運動量の変化に応じた検出値を出力する角速度センサの零点(中点)を補正する車両用角速度センサの零点補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、角速度センサの検出値{[deg/sec]に対応する電圧値又は電流値}に応じて、車両の旋回時等における前記車両の挙動の安定性を向上させる車両挙動安定化システムが車両に搭載されている。
【0003】
この場合、角速度センサの零点値(中点値)、すなわち車両が停止しているかあるいは直線運動をしているときの角速度値0[deg/sec]における検出値が、長期間の使用により若干変動(経年変化)することが知られている。
【0004】
そこで、従来から角速度センサの精度を長期間に渡り保持するために、車両の停止状態を検知して零点の補正を行う車両用角速度センサの零点補正装置が種々提案されている(特許文献1、2)。
【0005】
特許文献1には、車輪速度センサの検出値に基づいて車両が停止しているかどうかを判断し、車両が停止していると判断したときに角速度センサの零点を補正する技術が記載されている。
【0006】
特許文献2には、3軸の加速度センサにより前後、左右、上下方向の加速度(前後G、左右G、上下G;Gは重力加速度と同じ加速度)を検出し、検出した加速度の平方和の平方根[√{(前後G)2+(左右G)2+(上下G)2}]を算出し、この算出結果が、停車中又は等速直線運動中の車両に作用する加速度の大きさの理論値1[G]に計測誤差等を見込んだ値、例えば1.08[G]を閾値としこの閾値より小さい場合には、車両が停車中又は等速直線運動中であるとして、このときに、角速度センサの零点を補正する技術が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特許3319989号公報
【特許文献2】特開2006−138758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に係る車輪速度センサの検出値に基づいて車両が停止しているかどうかを判定する手法では、タイヤがスリップしている状態中や極低速状態中等、角速度センサが検出値を出力する可能性があるときに零点を補正してしまい、零点を誤学習する可能性がある。
【0009】
また、特許文献2に係る3軸加速度センサの平方和の平方根が閾値以下であるときに停車中又は等速直線運動中であると判定する手法では、バンクでの定常旋回時等、角速度センサが検出値を出力する可能性があるときに零点を補正してしまい、零点を誤学習する可能性がある。
【0010】
この発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、車両がより確実に停止していることを検出して、零点を誤学習することなく、さらに角速度センサの零点補正を高い頻度で行うことを可能とする車両用角速度センサの零点補正装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この項では、理解の容易化のために添付図面中の符号を付けて説明する。したがって、この項に記載した内容がその符号を付けたものに限定して解釈されるものではない。
【0012】
この発明に係る車両用角速度センサの零点補正装置は、例えば図1に示すように、第1電源スイッチ50によって走行駆動源がオンオフされる車両に搭載され、前記車両の角運動量の変化に応じた検出値を出力する角速度センサ22の零点を補正する車両用角速度センサの零点補正装置において、バッテリ40と、前記バッテリから前記第1電源スイッチを迂回して前記角速度センサに電源を供給する電源供給路に挿入され、前記第1電源スイッチがオンとなったときにオンとされ、前記第1電源スイッチがオフとなってから所定時間オン状態を継続した後、オフになるオフディレイ回路42と、前記車両が停止していると判断可能な状態において出力が変化する車両停止状態検知センサ14と、前記角速度センサの零点補正値を記憶する記憶手段28と、前記オフディレイ回路の前記所定時間オン状態の継続中に前記車両停止状態検知センサの出力変化に基づいて車両が停止していると判断したとき、前記角速度センサの出力を更新後の零点補正値として前記記憶手段に記憶し、更新後の零点補正値により前記角速度センサの検出値を補正する零点補正手段30と、を備えることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、バッテリから第1電源スイッチを迂回して角速度センサに電源を供給する電源供給路に挿入されるオフディレイ回路を備え、このオフディレイ回路が、前記第1電源スイッチのオフ後にオン状態になっている前記所定時間に前記バッテリから前記角速度センサに電源を供給し、前記オフディレイ回路がオン状態となっている前記所定時間に車両停止状態検知センサの出力変化に基づいて車両が停止していると判断したとき、零点補正手段が、前記角速度センサの出力を更新後の零点補正値として記憶手段に記憶し、更新後の零点補正値により前記角速度センサの検出値を補正するようにしているので、車両がより確実に停止していることを検出して、零点を誤学習することなく角速度センサの零点補正を行うことができる。
【0014】
この場合、この発明によれば、第1電源スイッチのオフ時にバッテリから角速度センサや零点補正手段及び記憶手段に電源が供給されるが、この時間は零点補正を行うために必要な所定時間に限っているので、第1電源スイッチのオフ時においてバッテリから供給される電流(暗電流)を必要最小限に止めることができ、バッテリ上がりの問題を回避することができる。
【0015】
また、この発明に係る車両用角速度センサの零点補正装置は、例えば図6に示すように、第1電源スイッチ50によって走行駆動源がオンオフされる車両に搭載され、前記車両の角運動量の変化に応じた検出値を出力する角速度センサ22の零点を補正する車両用角速度センサの零点補正装置において、バッテリ40と、前記バッテリから前記第1電源スイッチを通じて前記角速度センサに電源を供給する第1電源供給路201と、前記バッテリから前記第1電源スイッチを迂回して前記角速度センサに電源を供給する第2電源供給路202に挿入される第2電源スイッチ52と、前記第1電源スイッチがオンになると予測されるときに前記第2電源スイッチをオンにする第2電源スイッチ起動手段102と、前記角速度センサの零点補正値を記憶する記憶手段28と、前記第1電源スイッチがオフであって、かつ前記第2電源スイッチがオンとなってから所定時間内に前記角速度センサの出力を更新後の零点補正値として前記記憶手段28に記憶し、更新後の零点補正値により前記角速度センサの検出値を補正する零点補正手段30と、を備えることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、バッテリから第1電源スイッチを迂回して角速度センサに電源を供給する第2電源供給路に挿入された第2電源スイッチを備え、この第2電源スイッチが、前記第1電源スイッチがオンになると予測されるときに前記第1電源スイッチがオンにされる前にオンとされて前記バッテリから前記角速度センサに電源を供給し、零点補正手段が、前記第2電源スイッチがオンとなってから所定時間内に前記角速度センサの出力を更新後の零点補正値として記憶手段に記憶し、更新後の零点補正値により前記角速度センサの検出値を補正するようにしたので、車両がより確実に停止していることを検出して、零点を誤学習することなく角速度センサの零点補正を行うことができる。
【0017】
さらに、この発明に係る車両用角速度センサの零点補正装置は、例えば図8に示すように、第1電源スイッチ50によって走行駆動源がオンオフされる車両に搭載され、前記車両の角運動量の変化に応じた検出値を出力する角速度センサ22の零点を補正する車両用角速度センサの零点補正装置において、バッテリ40と、前記バッテリから前記第1電源スイッチを通じて前記角速度センサに電源を供給する第1電源供給路201と、前記バッテリから前記第1電源スイッチを迂回して前記角速度センサに電源を供給する第2電源供給路202に挿入される第2電源スイッチ52と、前記第1電源スイッチがオンになると予測されるときに前記第2電源スイッチをオンにする第2電源スイッチ起動手段102と、前記角速度センサの零点補正値を記憶する記憶手段28と、前記車両のドアの開閉状態を検出するドアスイッチ66と、前記第1電源スイッチがオフ、前記第2電源スイッチがオン、かつ前記ドアスイッチによりドアが開かれたことが検出されたとき、前記角速度センサの出力を更新後の零点補正値として前記記憶手段に記憶し、更新後の零点補正値により前記角速度センサの検出値を補正する零点補正手段30と、を備えることを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、バッテリから第1電源スイッチを迂回して角速度センサに電源を供給する第2電源供給路に挿入された第2電源スイッチを備え、この第2電源スイッチが、前記第1電源スイッチがオンになると予測されるときに前記第1電源スイッチがオンにされる前にオンとされて前記バッテリから前記角速度センサに電源を供給し、零点補正手段が、前記第1電源スイッチがオフ、前記第2電源スイッチがオン、かつ前記ドアスイッチによりドアが開かれたことが検出されたとき、前記角速度センサの出力を更新後の零点補正値として記憶手段に記憶し、更新後の零点補正値により前記角速度センサの検出値を補正するようにしているので、車両がより確実に停止していることを検出して、零点を誤学習することなく角速度センサの零点補正を行うことができる。
【0019】
上述した各発明をより具体的に説明すれば、バッテリから第1電源スイッチ、例えばイグニッションスイッチを通じて角速度センサと、前記角速度センサの零点補正手段と、零点補正値の記憶手段とに電源が供給される車両において、さらに、前記バッテリから前記イグニッションスイッチを経由せずに(前記イグニッションスイッチを迂回し新たな第2電源スイッチを通じて)前記角速度センサと、前記零点補正手段と、前記記憶手段とに電源が供給できるように構成する。
【0020】
そして、イグニッションスイッチがオンされる直前又はイグニッションスイッチがオフされた直後の所定時間(規定時間)内に、前記バッテリから前記新たな第2電源スイッチを通じて前記角速度センサ、前記零点補正手段及び前記記憶手段を駆動している状態において、車両の停止判定を行い、停止していると判定したときの前記角速度センサの出力値を新たな零点補正値(更新後の零点補正置)として前記記憶手段に記憶する。
【0021】
ここで、車両が停止していると判断可能な状態において出力が変化する車両停止時状態検知センサとして、イグニッションスイッチオフ時における、1.ドアスイッチからのドア開信号、2.キーレスエントリによる解錠信号、3.給油蓋の開蓋、4.燃料計の検出値の増加、5.3軸加速度センサのベクトル和が閾値以下のとき、を例として挙げることができる。これらの信号により停止していると判定したとき、前記角速度センサの出力値を新たな零点補正値とする。なお、停止判定は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いても良い。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、車両がより確実に停止していることを検出して、零点を誤学習することなく角速度センサの零点補正を高い頻度で行うことができるという効果が達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0024】
図1は、この発明の第1実施例に係る車両用角速度センサの零点補正装置10の構成を示すブロック図である。
【0025】
図2は、図1に示した車両用角速度センサの零点補正装置10が搭載された車両12における、主に車両停止状態検知センサ14の例としての配置位置を示す模式図である。車両停止状態検知センサ14は、車両12が停止していると判断可能な状態において所定要素の出力の変化により車両停止検知信号Sstopをマイクロコンピュータ26に出力する。
【0026】
図2において、車両12の運転席シート16と助手席シート18との間のセンターコンソール下に3軸センサ集中ユニット20が配置される。
【0027】
3軸センサ集中ユニット20は、モジュール構成とされ、図1に示すように、3軸角速度センサ(ヨーレート、ロールレート、ピッチレート)22と、3軸加速度センサ(前後方向加速度、左右方向加速度、上下方向加速度)24と、EEPROM等の書換可能な不揮発性のメモリである記憶手段28と、これらが接続されるマイクロコンピュータ26とを備える。なお、3軸角速度センサ22は、車両12の角運動量の変化に応じた検出値(ヨーレートと、ロールレートと、ピッチレート)[deg/sec]を出力する。
【0028】
マイクロコンピュータ26は、計算機であり、CPU(中央処理装置)、メモリであるROM、RAM、その他、A/D変換器、D/A変換器等の入出力装置、計時手段としてのタイマ等を有しており、CPUがROMに記録されているプログラムを読み出して実行することで各種機能実現部、この実施形態では零点補正手段30として機能する。
【0029】
通常、イグニッションスイッチ50によりオンオフ(作動/停止)される車両12の図示しない走行駆動源、例えば内燃機関(エンジン)、燃料電池等のオン状態において、マイクロコンピュータ26は、3軸角速度センサ22で検出された3軸角速度及び3軸加速度センサ24で検出された3軸加速度の中、必要なデータを、通信線32を介して、車両12内のVSA(車両挙動安定化システム)ECU(電子制御ユニット)、EPS(電動パワーステアリング)ECU、その他のECUに供給する。
【0030】
マイクロコンピュータ26の入力ポート252には、イグニッションスイッチ(第1電源スイッチ)50の固定端子50b側が接続されている。入力ポート252は、イグニッションスイッチ50のオンオフを判定するためのポートである。イグニッションスイッチ50の可動端子50aは、電源+Bを供給するバッテリ40に接続されている。
【0031】
上記したように、イグニッションスイッチ50をオンオフすることで車両12の前記走行駆動源がオンオフ駆動される。
【0032】
3軸センサ集中ユニット20の電源端子Vccには、車両12に搭載されたバッテリ40からイグニッションスイッチ50を迂回した電源供給路202及びオフディレイ回路42の第2電源スイッチ(リレー)52を通じて電源+Bが供給される。
【0033】
オフディレイ回路42は、時限回路(タイマ)を含む駆動部54を有し、図3に示すように、時点t0でイグニッションスイッチ50がオフからオンとされたときに、第2電源スイッチ52をオフからオンとし、時点t1でイグニッションスイッチ50がオンからオフとされたとき、所定時間Ts経過後の時点t2において第2電源スイッチ52をオンからオフにする機能を有する。所定時間Tsは、この実施形態では30秒に設定されている。
【0034】
図1に示すように、バッテリ40から、常時、電源+Bが電源端子Vccに供給されている車両停止状態検知センサ14は、この実施形態において、図2に示す、キーレスエントリシステムを構成するマイクロコンピュータを内蔵するキーレスエントリ車載ユニット60、燃料計62、給油蓋スイッチ64、ドアスイッチ66が該当し、3軸センサ集中ユニット20のマイクロコンピュータ26に対してそれぞれ電気的に接続されている。
【0035】
ここで、キーレスエントリ車載ユニット60は、車両12のインストルメンタルパネル下に、燃料計62は、インストルメンタルパネルに、給油蓋スイッチ64は、車両12のボディ後方側面に、ドアスイッチ66は、ドアにそれぞれ設けられている。
【0036】
キーレスエントリ車載ユニット60を含むキーレスエントリシステムの車載装置は、ドアミラー内に設けられたLF(低周波)送信回路78と、キーレスエントリ車載ユニット60内に配置されたRF(高周波)受信回路と、キーレスエントリ車載ユニット60によって駆動されるドアロックアクチュエータを含むドアロック68と、ドアスイッチ66等から構成される。キーレスエントリシステムは、前記の車載装置と、携帯機70とで構成される。携帯機70は、LF受信回路とRF送信回路とCPUと電池とを有する。
【0037】
周知のように、キーレスエントリシステムでは、車両12のLF送信回路78から車両12外の所定範囲内に送信されるリクエスト信号の受信範囲に携帯機70が入っているときに、携帯機70の解錠・施錠ボタン72が押されると、携帯機70で前記リクエスト信号が受信され、受信した前記リクエスト信号に応じたID情報を含むRF信号の応答信号を携帯機70から送信する。この応答信号がキーレスエントリ車載ユニット60により受信されキーレスエントリ車載ユニット60がID情報を正規の情報であると判定したとき、キーレスエントリ車載ユニット60は、ドアロック68を解錠する。同様にドアロック68を施錠する。すなわち、携帯機70からの応答信号は、キーレスエントリ解錠信号又はキーレスエントリ施錠信号として機能する。
【0038】
車両停止状態検知センサ14として機能する燃料計62は、ガソリンスタンドにおいて車両12の給油口を通じて燃料タンクに燃料が供給されているときに、検出出力が増加する方向に変化する。
【0039】
車両停止状態検知センサ14として機能する給油蓋スイッチ64は、開かれているときにオン信号、閉じられているときにオフ信号を出力する。
【0040】
車両停止状態検知センサ14として機能するドアスイッチ66は、ドアが開かれているときにオン信号、閉じられているときにオフ信号を出力する。
【0041】
基本的には以上のように構成される第1実施例に係る車両用角速度センサの零点補正装置10の動作について、図4のフローチャートを参照しながら説明する。
【0042】
ステップS1において、マイクロコンピュータ26は、入力ポート252の電圧によりイグニッションスイッチ50がオンからオフに変化したかどうかを判断する。
【0043】
図3に示したように、時点t1において、イグニッションスイッチ50がオンからオフにされたときに、ステップS1の判断が肯定的となり、次に、ステップS2において、マイクロコンピュータ26は、オフディレイ回路42のオフディレイ時間Ts=30秒が経過したかどうかを判断し、30秒以下である場合には、ステップS3において、車両停止状態検知センサ14からの入力があるかどうかを判断する。
【0044】
このステップS3において、マイクロコンピュータ26は、給油蓋スイッチ64により給油蓋が開いたことを示す車両停止検知信号Sstop、又は燃料計62の検出出力が増加方向に動いていることを示す車両停止検知信号Sstop、あるいはドアスイッチ66によりドアが開放されたことを示す車両停止検知信号Sstopを検知したとき、ステップS4において、零点補正手段30により、3軸加速度センサ24の出力を取り込み(検出し)、上記したように、検出した加速度の平方和の平方根、いわゆるベクトル和[√{(前後G)2+(左右G)2+(上下G)2}]を算出し、この算出結果が、停車中の車両12に作用する加速度の大きさの理論値1[G]に計測誤差等を見込んだ値、例えば1.1[G]を閾値とし、この閾値より小さい場合には、車両12が安定な状態で停車していると判断する。
【0045】
次に、ステップS5において、零点補正手段30は、車両12が安定な状態で停車していると判定したときの3軸角速度センサ22の各出力を各零点補正値(更新後の各零点補正値)として記憶手段28に記憶して零点補正値を更新し、以降、更新後の零点補正値により3軸角速度センサ22の検出値を補正する。
【0046】
なお、零点補正値は、図5の実線で示す正規特性{角速度レート[deg/sec]がゼロ値のときに出力電圧値Vout[V]が中央の出力電圧値Vout=2.5[V]になる特性}80となるように、ステップS5で出力電圧値Vout=ΔVを検出したとき、零点補正値を−ΔVとすることで、3軸角速度センサ22が経年変化等により点線で示す偏移した(経年変化した)特性(ずれた特性)82(角速度レート[deg/sec]がゼロ値のときに出力電圧値2.5[V]+ΔV)となっていても、出力電圧値(検出電圧値)Voutを、Vout−ΔVに置き換えることで、正規特性80上の値に補正することができる。
【0047】
次いで、零点補正値の更新処理が終了したステップS6において、オフディレイ回路42により、第2電源スイッチ52がオフにされる。第2電源スイッチ52をオフとすることで、以降の暗電流、すなわちイグニッションスイッチ50がオフ時における3軸角速度センサ22や3軸加速度センサ24に供給される暗電流をゼロ値とすることができる。なお、このとき、マイクロコンピュータ26も、数μA程度の電力を消費するスリープ状態になる。
【0048】
また、ステップS3において、車両停止状態検知センサ14からの車両停止検知信号Sstopの入力がない場合、ステップS4における3軸加速度センサ24のベクトル和が閾値以下の値にならない場合に、ステップS2で、それらの状態が30秒を超えた場合には、車両12は、3軸角速度センサ22の零点補正を行えるほど安定な状態で停止していないものとみなして処理を終了する(オフディレイ回路42により、第2電源スイッチ52がオフにされる)。
【0049】
以上説明したように上述した第1実施例によれば、バッテリ40からイグニッションスイッチ50を迂回して3軸角速度センサ22に電源+Bを供給する電源供給路202に挿入されるオフディレイ回路42を備える。このオフディレイ回路42は、イグニッションスイッチ50のオフ後に第2電源スイッチ52がオン状態になっている所定時間Tsにバッテリ40から3軸角速度センサ22、3軸加速度センサ24に電源+Bを供給し、オフディレイ回路42がオン状態となっている所定時間Tsに車両停止状態検知センサ14の出力変化に基づいて車両が停止していると判断したとき(ステップS3:YES)、零点補正手段30が、3軸角速度センサ22の出力を更新後の零点補正値−ΔVとして記憶手段28に記憶して零点補正値を更新し、更新後の零点補正値で3軸角速度センサ22の検出値を補正するようにしているので、車両12がより確実に停止していることを検出して、零点を誤学習することなく3軸角速度センサ22の零点補正を高頻度で行うことができる。
【0050】
この第1実施例によれば、イグニッションスイッチ50のオフ時にバッテリ40から3軸角速度センサ22や零点補正手段30、すなわちマイクロコンピュータ26及び記憶手段28等を備える3軸センサ集中ユニット20に電源供給路202を通じて電源+Bが供給されるが、この時間は、零点補正手段30が零点補正を行うために必要な所定時間Tsの間にオフディレイ回路42により限っているので、イグニッションスイッチ50のオフ時においてバッテリ40から供給される電流(暗電流)を必要最小限に止めることができ、バッテリ40上がりの可能性を極めて少なくすることができる。
【0051】
以下、第2実施例、第3実施例について図6〜図9を参照しながら説明するが、上述の第1実施例に示したものと同一のもの又は対応するものには同一の符号を付け、その詳細な説明は省略する。
【0052】
図6は、この発明の第2実施例に係る車両用角速度センサの零点補正装置10Aの構成を示すブロック図である。
【0053】
図6例の車両用角速度センサの零点補正装置10Aでは、図1例の車両用角速度センサの零点補正装置10に比較して、車両停止状態検知センサ14がキーレスエントリ車載ユニット60のみとされ、オフディレイ回路42が削除されている。また、3軸センサ集中ユニット20Aの電源入力端子Vccに対し、バッテリ40からイグニッションスイッチ50を経由する第1電源供給路201と、イグニッションスイッチ50を迂回して第2電源スイッチ52が挿入された第2電源供給路202とから電源+Bが供給されるように構成されている。さらに、マイクロコンピュータ26Aは、零点補正手段30として機能する他、第2電源スイッチ切替信号Sswを出力する第2電源スイッチ起動手段102と、計時手段104として機能する。
【0054】
次に、第2実施例に係る車両用角速度センサの零点補正装置10Aの動作について、図7のフローチャートを参照しながら説明する。
【0055】
ステップS11において、マイクロコンピュータ26は、入力ポート250にキーレスエントリ車載ユニット60から車両停止検知信号Sstopとみなすキーレス解錠信号が供給されたかどうかを判断し、供給されたことを検出した場合には、ウェイクアップする。
【0056】
次いで、ステップS12において、第2電源スイッチ起動手段102は、第2電源スイッチ切替信号Sswにより第2電源スイッチ52をオンにし、計時手段104は、30秒の計時を開始する。
【0057】
次いで、ステップS13において、マイクロコンピュータ26Aは、30秒経過したかどうかを判断する。30秒経過していない場合にはステップS14に進む。
【0058】
ステップS14では、上述したステップS4と同様に、3軸加速センサ24から検出したベクトル和が、閾値1.1[G]より小さい場合には、車両12が安定な状態で停車していると判断する。
【0059】
次に、ステップS15において、入力ポート252の電圧によりイグニッションスイッチ50がオフになっているかどうかを確認する。
【0060】
イグニッションスイッチ50がオフとなっていると判断したとき、ステップS16において、ステップS5と同様に、零点補正手段30が、そのときの3軸角速度センサ22の出力を零点補正値として記憶手段28に記憶して零点補正値を更新し、以降、更新後の零点補正値で3軸角速度センサ22の検出値を補正する。
【0061】
次いで、ステップS17において、第2電源スイッチ切替信号Sswにより第2電源スイッチ52をオフにし、マイクロコンピュータ26がスリープ状態になる。
【0062】
なお、ステップS15において、イグニッションスイッチ50がオフとなっていなかった場合、零点補正値更新処理をしないでステップS17で第2電源スイッチ52をオフとして処理を終了する。
【0063】
また、ステップS14における3軸加速度センサ24のベクトル和が閾値以下の値にならなかった場合、ステップS13で、この状態が30秒を超えた場合には、車両12は、3軸角速度センサ22の零点補正を行えるほど安定な状態で停止していないものとみなし、ステップS17で第2電源スイッチ52をオフとして零点補正処理をしないで処理を終了する。
【0064】
通常の場合、ステップS11でキーレスの解錠信号が検知され、そのときステップS12でイグニッションスイッチ50のオフ状態とあることが検知された後には、ドライバが車両12に乗り込み、イグニッションスイッチ50により内燃機関がオンとされ、3軸センサ集中ユニット20Aにバッテリ40から電源+Bが供給され走行可能な状態とされる。
【0065】
以上説明したように、上述した第2実施例に係る車両用角速度センサの零点補正装置10Aによれば、バッテリ40からイグニッションスイッチ50を迂回して3軸角速度センサ22等に電源+Bを供給する第2電源供給路202に挿入された第2電源スイッチ52を備え、この第2電源スイッチ52が、イグニッションスイッチ50がオンになると予測されるときに、この例ではキーレスエントリ車載ユニット60からドア解錠信号を受け取ったとき、イグニッションスイッチ50がオンにされる前にオンとされてバッテリ40から3軸角速度センサ22等に電源+Bが供給される。このとき、零点補正手段30が、第2電源スイッチ52がオンとなってから計時手段104により計時される所定時間30秒内における3軸角速度センサ22の出力を新たな零点補正値として記憶手段28に記憶して零点補正値を更新し、更新後の零点補正値により3軸角速度センサ22の検出値を補正するようにしているので、車両12がより確実に停止していることを検出して、零点を誤学習することなく3軸角速度センサ22の零点補正を高頻度で行うことができる。
【0066】
図8は、この発明の第3実施例に係る車両用角速度センサの零点補正装置10Bの構成を示すブロック図である。
【0067】
図8例の車両用角速度センサの零点補正装置10Bでは、図6例の車両用角速度センサの零点補正装置10Aに比較して、ドアスイッチ66のドア開信号Sopenが入力ポート254に新たに入力される構成に変更されている。また、他の計時手段105が設けられる。
【0068】
次に、第3実施例に係る車両用角速度センサの零点補正装置10Bの動作について、図9のフローチャートを参照しながら説明する。
【0069】
ステップS21において、ステップS11と同様に、マイクロコンピュータ26は、入力ポート250にキーレスエントリ車載ユニット60からキーレス解錠信号(車両停止検知信号Sstop)が供給されたかどうかを判断し、供給されたことを検出した場合には、ウェイクアップする。
【0070】
次いで、ステップS22において、ステップS12と同様に、第2電源スイッチ起動手段102は、第2電源スイッチ切替信号Sswにより第2電源スイッチ52をオンにし、このとき、他の計時手段105による30秒の計時を開始する。
【0071】
次いで、ステップS23において、その30秒経過したかどうかを判断する。30秒経過していない場合にはステップS24に進む。
【0072】
ステップS24では、ドアスイッチ66からドア開信号Sopenが供給されるかどうかを判断する。ステップS23で計時が開始された30秒以内にドア開信号Sopenが供給されたとき、ステップS25において、計時手段104による計時を開始する。
【0073】
次いで、ステップS25において、計時手段104による計時時間が30秒以下である場合には、ステップS26において、上述したステップS4と同様に、3軸加速度センサ24から検出したベクトル和が、閾値1.1[G]より小さい場合には、車両12が安定な状態で停車していると判断する。
【0074】
次に、ステップS27において、ステップS15と同様に、入力ポート252の電圧によりイグニッションスイッチ50がオフになっているかどうかを確認する。
【0075】
イグニッションスイッチ50がオフとなっていると判断したとき、ステップS28において、ステップS5と同様に、零点補正手段30が、そのときの3軸角速度センサ22の出力を零点補正値として記憶手段28に記憶して零点補正値を更新し、以降、更新後の零点補正値により3軸角速度センサ22の検出値を補正する。
【0076】
次いで、ステップS29において、第2電源スイッチ切替信号Sswにより第2電源スイッチ52をオフにし、マイクロコンピュータ26がスリープ状態になる。
【0077】
なお、ステップS27において、イグニッションスイッチ50がオフとなっていなかった場合零点補正処理をしないでステップS29で第2電源スイッチ52をオフとして処理を終了する。
【0078】
また、ステップS24でドア開信号を検出信号を30秒以内に検出できなかった場合、さらには、ステップS26における3軸加速度センサ24のベクトル和が閾値以下の値に30秒以内にならなかった場合(ステップS25:否定)、車両12は、3軸角速度センサ22の零点補正を行えるほど安定な状態で停止していないものとみなしステップS29で第2電源スイッチ52をオンとして零点補正処理をしないで処理を終了する。
【0079】
この場合においても、通常、ステップS21でキーレスの解錠信号が検知され、ステップS12でイグニッションスイッチ50がオフ状態とあることが検知され、さらにステップS24でドア開信号Sopenが検知された後には、ドライバが車両12に乗り込み、イグニッションスイッチ50により内燃機関がオンとされ、3軸センサ集中ユニット20Aにバッテリ40から電源+Bが供給され、走行が可能な状態にされる。
【0080】
以上説明したように、この第3実施例に係る車両用角速度センサの零点補正装置10Bによれば、バッテリ40からイグニッションスイッチ50を迂回して3軸角速度センサ22等に電源+Bを供給する第2電源供給路202に挿入された第2電源スイッチ52を備える。この第2電源スイッチ52が、イグニッションスイッチ50がオンになると予測されるときに、この例ではキーレスエントリ車載ユニット60からドア解錠信号Sopenを受け取ったとき、イグニッションスイッチ50がオンにされる前にオンとされてバッテリ40から3軸角速度センサ22等に電源+Bを供給し、零点補正手段30が、イグニッションスイッチ50がオフ、第2電源スイッチ52がオン、かつドアスイッチ66からのドア開信号Sopenによりドアが開かれたことが検出されたときの3軸角速度センサ22の出力を更新後の零点補正値として記憶手段28に記憶し、更新後の零点補正値により3軸角速度センサ22の検出値を補正するようにしているので、車両12がより確実に停止していることを検出して、零点を誤学習することなく3軸角速度センサ22の零点補正を高頻度で行うことができる。
【0081】
なお、この発明は、上述の実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】この発明の第1実施例に係る車両用角速度センサの零点補正装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示した車両用角速度センサの零点補正装置が搭載された車両における、主に車両停止状態検知センサ等の配置位置を示す模式図である。
【図3】オフディレイ回路の動作を説明するタイミングチャートである。
【図4】第1実施例に係る車両用角速度センサの零点補正装置の動作説明に供されるフローチャートである。
【図5】角速度センサの零点補正の説明図である。
【図6】この発明の第2実施例に係る車両用角速度センサの零点補正装置の構成を示すブロック図である。
【図7】第2実施例に係る車両用角速度センサの零点補正装置の動作説明に供されるフローチャートである。
【図8】この発明の第3実施例に係る車両用角速度センサの零点補正装置の構成を示すブロック図である。
【図9】第3実施例に係る車両用角速度センサの零点補正装置の動作説明に供されるフローチャートである。
【符号の説明】
【0083】
10、10A、10B…車両用角速度センサの零点補正装置
14…車両停止状態検知センサ 20…3軸センサ集中ユニット
22…3軸角速度センサ 24…3軸加速度センサ
26、26A…マイクロコンピュータ 30…零点補正手段
40…バッテリ 42…オフディレイ回路
50…イグニッションスイッチ(第1電源スイッチ)
52…第2電源スイッチ 201…第1電源供給路
202…第2電源供給路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電源スイッチによって走行駆動源がオンオフされる車両に搭載され、前記車両の角運動量の変化に応じた検出値を出力する角速度センサの零点を補正する車両用角速度センサの零点補正装置において、
バッテリと、
前記バッテリから前記第1電源スイッチを迂回して前記角速度センサに電源を供給する電源供給路に挿入され、前記第1電源スイッチがオンとなったときにオンとされ、前記第1電源スイッチがオフとなってから所定時間オン状態を継続した後、オフになるオフディレイ回路と、
前記車両が停止していると判断可能な状態において出力が変化する車両停止状態検知センサと、
前記角速度センサの零点補正値を記憶する記憶手段と、
前記オフディレイ回路の前記所定時間オン状態の継続中に前記車両停止状態検知センサの出力変化に基づいて車両が停止していると判断したとき、前記角速度センサの出力を更新後の零点補正値として前記記憶手段に記憶し、更新後の零点補正値により前記角速度センサの検出値を補正する零点補正手段と、
を備えることを特徴とする車両用角速度センサの零点補正装置。
【請求項2】
第1電源スイッチによって走行駆動源がオンオフされる車両に搭載され、前記車両の角運動量の変化に応じた検出値を出力する角速度センサの零点を補正する車両用角速度センサの零点補正装置において、
バッテリと、
前記バッテリから前記第1電源スイッチを通じて前記角速度センサに電源を供給する第1電源供給路と、
前記バッテリから前記第1電源スイッチを迂回して前記角速度センサに電源を供給する第2電源供給路に挿入される第2電源スイッチと、
前記第1電源スイッチがオンになると予測されるときに前記第2電源スイッチをオンにする第2電源スイッチ起動手段と、
前記角速度センサの零点補正値を記憶する記憶手段と、
前記第1電源スイッチがオフであって、かつ前記第2電源スイッチがオンとなってから所定時間内に前記角速度センサの出力を更新後の零点補正値として前記記憶手段に記憶し、更新後の零点補正値により前記角速度センサの検出値を補正する零点補正手段と、
を備えることを特徴とする車両用角速度センサの零点補正装置。
【請求項3】
第1電源スイッチによって走行駆動源がオンオフされる車両に搭載され、前記車両の角運動量の変化に応じた検出値を出力する角速度センサの零点を補正する車両用角速度センサの零点補正装置において、
バッテリと、
前記バッテリから前記第1電源スイッチを通じて前記角速度センサに電源を供給する第1電源供給路と、
前記バッテリから前記第1電源スイッチを迂回して前記角速度センサに電源を供給する第2電源供給路に挿入される第2電源スイッチと、
前記第1電源スイッチがオンになると予測されるときに前記第2電源スイッチをオンにする第2電源スイッチ起動手段と、
前記角速度センサの零点補正値を記憶する記憶手段と、
前記車両のドアの開閉状態を検出するドアスイッチと、
前記第1電源スイッチがオフ、前記第2電源スイッチがオン、かつ前記ドアスイッチによりドアが開かれたことが検出されたとき、前記角速度センサの出力を更新後の零点補正値として前記記憶手段に記憶し、更新後の零点補正値により前記角速度センサの検出値を補正する零点補正手段と、
を備えることを特徴とする車両用角速度センサの零点補正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−241550(P2008−241550A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84300(P2007−84300)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】