車両鋼板における化成被覆率の簡易計測方法及びその装置
【課題】化成被覆率を高精度・短時間で測定が可能な車両鋼板における化成被覆率の簡易計測方法及びその装置を提供する。
【解決手段】化成被膜が表面に被覆された車両鋼板の化成被覆率を計測する簡易計測方法であって、前記車両鋼板表面に光を所定の照射角度で照射し、当該車両鋼板表面から所定の受光角度で反射される正反射成分を用い、前記正反射成分を含む反射強度と前記正反射成分を含まない反射強度の比を得ることにより、前記車両鋼板における化成被膜の被覆率を計測する。
【解決手段】化成被膜が表面に被覆された車両鋼板の化成被覆率を計測する簡易計測方法であって、前記車両鋼板表面に光を所定の照射角度で照射し、当該車両鋼板表面から所定の受光角度で反射される正反射成分を用い、前記正反射成分を含む反射強度と前記正反射成分を含まない反射強度の比を得ることにより、前記車両鋼板における化成被膜の被覆率を計測する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両鋼板における化成被覆率の簡易計測方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車鋼板等の車両鋼板表面には防錆のための塗装の下地層として化成被膜(化成層)が形成される(図16、図17参照)。化成被膜の役割としては、車両鋼板表面に化成被膜を形成することにより、腐食因子が直接基材(鋼板)に触れないようにするとともに、化成自身が反応し、車両鋼板表面をアルカリ性環境にして錆を防ぐものである。そのため、化成被膜が鋼板表面に均一に塗装されていないと、錆が発生する原因となるため、化成被膜形成後に、化成被膜が鋼板表面に均一に被覆されているかどうかを評価する必要がある。
【0003】
従来から行われている化成被膜を計測評価する方法としては、蛍光X線による重量計測、SEM画像による結晶粒径観察(グレード評価)及び化成被膜のSEM画像を画像解析することで化成被覆率を算出する方法が一般的である。
【0004】
また、被膜の被覆率を直接計測する技術としては、透明ガラス上に形成された熱可塑性樹脂被膜の被覆率を計測する技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1では、熱可塑性樹脂が塗布されたガラス製品の表面に、所定波長の紫外光を照射し、熱可塑性樹脂被膜の形成に伴う散乱光の強度増加を検出して、熱可塑性樹脂被膜の被覆率を測定する旨が記載されている。
【0006】
また、被膜を重量計測により計測評価する技術としては、紫外光をクロメート処理された鋼板に照射して、紫外光の反射光強度の変化により鋼板上に付着したクロムの重量を計測する技術が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−346800号公報
【特許文献2】特開平11−181580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されている被覆率測定方法においては、ガラス製品のような透明基材を測定対象としており、ガラスと被膜との散乱光強度の差が得られるため、バックグラウンドからの散乱光が弱くても、被覆率を測定することができるが、この測定方法を化成を被覆した鋼板に適用した場合、被覆した化成と鋼板との散乱光強度の差が小さいため、被覆率を測定することができない。
【0009】
また、特許文献2に記載されている技術においては、紫外線の吸収が起こる被膜物質しか検出の対象としていない。すなわち、測定波長を限定しているため、特定の被覆物質の検出にしか適用できない。
【0010】
また、従来から化成被膜の評価に用いられる蛍光X線分析装置やSEMは、非常に高価であるため、汎用性に欠ける。また、これらの装置を用いた検査は、検査サンプルを加工する時間も必要であるため非常に検査時間がかかる。
【0011】
そこで、本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、化成被覆率を高精度・短時間で測定が可能な車両鋼板における化成被覆率の簡易計測方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0013】
即ち、請求項1においては、
化成被膜が表面に被覆された車両鋼板の化成被覆率を計測する簡易計測方法であって、
前記車両鋼板表面に光を所定の照射角度で照射し、当該車両鋼板表面から所定の受光角度で反射される正反射成分を用い、前記正反射成分を含む反射強度と前記正反射成分を含まない反射強度の比を得ることにより、前記車両鋼板における化成被膜の被覆率を計測する、車両鋼板における化成被覆率の簡易計測方法である。
【0014】
請求項2においては、
前記照射角度及び前記受光角度は、前記車両鋼板表面の法線に対して8°前後に設定される、車両鋼板における化成被覆率の簡易計測方法である。
【0015】
請求項3においては、
化成被膜が表面に被覆された車両鋼板の化成被覆率を計測する簡易計測装置であって、
前記車両鋼板表面に配置して、当該車両鋼板表面に対して光を照射するための測定用開口部を有する積分球と、
前記積分球内に光を導入する光源部と、
前記車両鋼板表面により反射された反射光を受光する受光部と、
前記反射光のうち正反射成分を除去可能な光トラップ部と、
前記反射光の反射強度を用いて所定の演算を行う制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記正反射成分を含む反射強度と前記正反射成分を含まない反射強度の比を得ることにより、前記車両鋼板における化成被膜の被覆率を計測する、車両鋼板における化成被覆率の簡易計測装置である。
【0016】
請求項4においては、
前記照射角度及び前記受光角度は、前記車両鋼板表面の法線に対して8°前後に設定される、車両鋼板における化成被覆率の簡易計測装置である。
【0017】
請求項5においては、
前記積分球の測定用開口部が表面に配置され、前記積分球の測定用開口部を前記車両鋼板表面に配置した状態において前記車両鋼板表面に対向する対向面を有する計測装置本体と、
前記対向面において前記測定用開口部を中心にした同心円上に等間隔に3つの電磁石が配置され、当該3個の電磁石により前記計測装置本体を前記車両鋼板表面の任意の位置に固定する固定手段と、を備え、
前記積分球の測定用開口部を前記車両鋼板表面に配置した際に、前記車両鋼板表面と前記対向面との位置関係を一定に保つことを特徴とする、車両鋼板における化成被覆率の簡易計測装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、化成被膜が表面に被覆された車両鋼板における化成被覆率を、高精度・短時間で測定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る計測装置の全体構成を示す模式図。
【図2】正反射光を示す説明図。
【図3】正反射成分を含む全ての反射光を測定するSCI方式を示す説明図であり、(a)はSCI方式のイメージを示す図、(b)は計測装置にSCI方式を適用した場合(トラップ壁部の閉時)を示す模式図。
【図4】正反射成分を含まない拡散成分のみの反射光を測定するSCE方式を示す説明図であり、(a)はSCE方式のイメージを示す図、(b)は計測装置にSCE方式を適用した場合(トラップ壁部の開時)を示す模式図。
【図5】照射角度及び受光角度(α=8°前後)を示す説明図。
【図6】計測装置の別実施形態を示す模式図であり、(a)は計測装置の側面図、(b)は計測装置本体の底面図。
【図7】電磁石の別実施形態を示す模式側面図。
【図8】計測装置の別実施形態の全体構成を示す模式図。
【図9】袋構造部の内面における計測状態を示す模式図。
【図10】袋構造部の内面における計測状態を示す模式断面図。
【図11】測定フローを示す図。
【図12】化成被膜形成の過程を示す模式図。
【図13】照射角度及び受光角度を変更した場合の実験結果(化成被覆率と測定値との関係)を示す図であり、(a)は照射角度及び受光角度が8°の場合を示す図、(b)は照射角度及び受光角度が角度20°の場合を示す図、(c)は照射角度及び受光角度が60°の場合を示す図。
【図14】鋼板及び化成を変更した場合の実験結果(化成被覆率と測定値との関係)を示す図。
【図15】固定手段を備えた計測装置を用いた評価結果を示す図であり、(a)は化成被覆率に対する相対グロス値の平均値とσを示す図、(b)は(a)の各値に基づいて作成した化成被覆率と相対グロスの関係を示す図。
【図16】鋼板表面に形成された化成被膜(化成層)を示す模式図。
【図17】鋼板表面に形成された化成被膜を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、発明の実施の形態を説明する。
本実施形態に係る車両鋼板における化成被覆率の簡易計測装置(以下、計測装置10という)は、測定対象物である車両鋼板の一例として化成処理が行われた自動車鋼板20に適用するものである。以下、計測装置10について具体的に説明する。
【0021】
計測装置10は、化成被膜が表面に被覆された自動車鋼板20の化成被覆率を計測するものである。計測装置10は、図1に示すように、計測装置本体1と、当該計測装置本体1に接続される制御手段5とから構成される。
【0022】
計測装置本体1は、円筒状の筐体であり、積分球2と、光源部3と、受光部4と、を主に備える。
【0023】
積分球2は、当該積分球2の内壁2aに高反射率かつ高拡散性を有する酸化マンガン、硫酸バリウム等の白色拡散反射塗料が塗布された中空の球(φ40mm程度)である。積分球2は、当該積分球2内に導入された光を内壁2aにより拡散反射を繰り返し、中空空間内の光を積分して均一光にするものである。
【0024】
また、積分球2は、自動車鋼板20表面に配置して、当該自動車鋼板20表面に対して光を照射するための測定用開口部6、光源部3から積分球2内に光を導入するための光源用開口部7、受光部4に所定の反射光を受光させるための受光用開口部8、自動車鋼板20表面の法線Lに対して受光用開口部8の対称の位置に形成されたトラップ開口部9、を有する。具体的には、積分球2は、自動車鋼板20表面に配置可能な測定用開口部6を有し、当該測定用開口部6に配置される自動車鋼板20表面の法線Lとのなす角が8°の方向(なす角の好適な範囲としては、8°±5°)にある受光用開口部8と、前記法線Lに対して受光用開口部8と対称な位置であって、法線Lとのなす角が8°の方向(なす角の好適な範囲としては、8°±5°)にあるトラップ開口部9及び光トラップ部11とを有する。
【0025】
光トラップ部11は、トラップ開口部9から積分球2の外側に突出して形成された筒状のものであり、トラップ開口部9を機械的に開閉可能なトラップ開口部9の開閉手段であるトラップ壁部11aを有する。光トラップ部11は、トラップ壁部11aの開閉を行うことにより、反射光のうち正反射成分を除去可能である。光トラップ部11は、制御手段5に接続されており、当該制御手段5によりトラップ壁部11aの開閉を自動で行うことが可能である。制御手段5は、トラップ壁部11aの開閉動作を行うことで、光学的に異なる2つの反射特性を測定することができる。ここで、図2に示すように、光源から測定物表面(本実施形態においては自動車鋼板20表面)に対して光を測定物表面の法線L方向に対し所定の照射角度αで測定物に照射した時、逆方向に同じ角度αで反射された光を「正反射光(正反射成分)」といい、一方、あらゆる方向に拡散して反射する光を「拡散光(拡散成分)」という。
【0026】
また、上記光学的に異なる2つの反射特性とは、正反射成分を含む全ての光を測定する方式であるSCI(Specular Component Include)方式によるもの(図3(a)(b)参照)と、正反射成分を含まず拡散成分のみの光を測定する方式であるSCE(Specular Component Exclude)方式によるものである。SCI方式及びSCE方式を用いた具体的な反射特性の測定方法については後述する。
【0027】
そして、図3(b)に示すように、光トラップ部11が有するトラップ壁部11aによりトラップ開口部9を閉じた場合、トラップ壁部11aは積分球2の内壁2aの一部を構成し、自動車鋼板20表面の法線Lとのなす角が8°の光軸L1方向に光を照射する光源の役割を果たすものである(図5参照)。
一方、図4(b)に示すように、光トラップ部11が有するトラップ壁部11aによりトラップ開口部9を開けた場合、トラップ開口部9において積分球2の内壁2aの一部が欠落した状態となり、トラップ壁部11aは自動車鋼板20表面の法線Lとのなす角が8°の光軸L1方向に光を照射しない。
【0028】
すなわち、光トラップ部11は、トラップ壁部11aによりトラップ開口部9を閉状態とすることにより正反射成分を含む拡散成分の光(図3(a)参照)を受光部4に導くことを可能とする。一方、光トラップ部11は、トラップ壁部11aによりトラップ開口部9を開状態とすることにより正反射光成分を含まない拡散成分の光(図4(a)参照)のみを受光部4に導くことを可能とするものである。
【0029】
光源部3は、光源用開口部7の近傍に配設されており、当該光源用開口部7を介して積分球2内に光を導入するものである。光源部3は、光源(照明光源)、当該光源を発光させるための発光回路等から構成され、光源としては、キセノンランプ、LED等が用いられる。光源部3は、制御手段5に接続されている。光源部3は、積分球2内に光を導入して、当該導入された光は内壁2aにより拡散反射されて、測定用開口部6に配置された自動車鋼板20表面に対して拡散光が照射される。
なお、光源部3から照射する光の波長については、特に限定するものではないが、波長範囲としては380〜780nmである可視光領域を適用するとよい。また、分光器を用いて当該可視光領域の特定の波長領域を適用する構成としてもかまわない。
【0030】
受光部4は、受光用開口部8の近傍に配設されており、当該受光用開口部8を介して前記自動車鋼板20により反射された反射光を受光するものである。受光部4は、図示しないレンズ、複数の受光素子からなるシリコンフォトダイオードアレイ等から構成される。受光部4は、当該受光部4の光軸L1が自動車鋼板20表面の法線に対して8°傾斜した方向に配置されており、自動車鋼板20表面から入射する8°方向の反射光は受光部4が有するシリコンフォトダイオードアレイの受光面に集められる。受光部4は、制御手段5に接続されている。受光部4は、受光用開口部8を介してシリコンフォトダイオードアレイにより検出された光の強度を制御手段5に出力する。
なお、受光部4は、分光手段(分光器)を備えることで、受光した光を分光して取得することも可能である。
【0031】
制御手段5は、受光部4を介して受光した自動車鋼板20表面により反射された反射光の反射強度を検出し、当該検出した反射光の反射強度を用いて所定の演算を行うものである。制御手段5は、CPU等の演算処理部、記憶部、入力装置、出力表示装置等から構成されるパーソナルコンピュータである。記憶部には、計測装置本体1の各部の動作を制御するための制御プログラム、受光部4を介して取得した反射強度に対して所定の演算処理を行うための演算処理プログラム及び当該プログラムによる演算処理結果等が格納される。つまり、制御手段5は、計測装置本体1の各部の動作を制御して計測装置本体1の受光部4により取得した正反射成分の有無の各反射強度、すなわちSCI及びSCEを取得し、当該SCI及びSCEを用いて所定の演算処理を実行するものである。
なお、図1においては計測装置10を説明する便宜上、制御手段5と計測装置本体1の各部との間は、複数の配線により接続する構成を示しているが、当該複数の配線は、当然ながら1つの配線ケーブルとしてまとめることが可能であるとともに、当該1つの配線ケーブルを計測装置本体1を測定位置に持ち運びしやすいように柔軟性及び所定のケーブル長を有するように構成することができる。
【0032】
このように計測装置10を構成することで、光源部3から照射された光が光源用開口部7を介して積分球2内に導入され、当該導入された光は積分球2内で拡散反射される。当該拡散反射された光が測定用開口部6を介して自動車鋼板20表面に対してあらゆる方向から照射され、当該自動車鋼板20表面により反射された反射光が、受光用開口部8を介して受光部4により受光される。そして、トラップ壁部11aによりトラップ開口部9を閉じる場合は、トラップ壁部11aは積分球2の内壁2aの一部となり、当該トラップ壁部11aにより自動車鋼板20表面に照射された光は、自動車鋼板20表面によって受光部4の光軸L1方向に正反射される。すなわち、トラップ壁部11aは、受光部4により受光される正反射成分の光源となるものであり、トラップ壁部11aを閉じた状態ではSCIの反射特性、開いた状態ではSCEの反射特性が測定されるものである。
【0033】
次に、本発明の別の実施形態である計測装置30について説明する。
なお、計測装置30は、計測装置10における計測装置本体1部分を小型化し、後述する固定手段を付加して構成したものであるため、上記計測装置10と機能上異なる部分についてのみ説明を行い、計測装置10と同様の部分については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0034】
計測装置30は、図6に示すように、上述した計測装置10と同様に、前記積分球2の測定用開口部6が計測装置本体1表面(図6(a)においては下面)に配置され、前記積分球2の測定用開口部6を自動車鋼板20表面に配置した状態において前記自動車鋼板20表面に対向する対向面1aを有する円柱状の計測装置本体1と、前記対向面1aにおいて前記測定用開口部6を中心にした同心円上に等間隔に3つの電磁石12・12・12が配置され、当該3個の電磁石12・12・12により前記計測装置本体1を自動車鋼板20表面の任意の位置に固定する固定手段と、を備える。また、電磁石12・12・12は、自動車鋼板20表面と当接する部分が半球状に形成されている。電磁石12・12・12には、図示しない電流印加手段が接続されており、当該電流印加手段により電磁石12・12・12に印加する電流のON/OFFを制御することで電磁石12・12・12を自動車鋼板20表面に対して着脱可能である。つまり、計測装置30は、電流印加手段により電磁石12・12・12に電流を流して磁力を発生させることで、当該磁力により自動車鋼板20の所望の位置に磁着することができる。例えば、本実施形態における計測装置30においては、電磁石の厚さは0.5mm程度、電磁石の直径は2mm程度、計測装置本体1の直径は10mm程度、測定用開口部6の直径は3mm程度である。
【0035】
このように計測装置30を構成することで、積分球2の測定用開口部6を自動車鋼板20表面に配置した際に、前記自動車鋼板20表面と前記対向面1aとの位置関係を一定に保つことができる。すなわち、計測装置本体1が有する3つの電磁石12・12・12による3点支持により計測装置本体1の対向面1aと自動車鋼板20表面との距離バラツキを低減することが可能である。また、計測装置30のように、電磁石12・12・12による固定手段を設けることで、自動車鋼板20の任意の場所での固定が可能となるとともに、電磁石であるため自動車鋼板20への着脱が容易に行え、測定箇所間の移動が容易となる。また、固定手段は、例えば、緩やかに曲線状に形成された自動車鋼板20表面であっても計測装置本体1を安定して固定可能であるとともに、対向面1aに開口する測定用開口部6と測定対象物である自動車鋼板20表面との位置関係を一定に保つことが可能となる。
【0036】
また、電磁石12の先端形状を半球状に形成しているため、測定対象物である自動車鋼板20表面の傾斜角度等に依存せずに点接触が可能となる。さらに、図7に示すように、半球状に形成した電磁石12の先端に小さな半球状部12aを設けて、測定対象物に対して点接触するように構成することで、測定対象物の表面傾斜の影響をさらに受けないようにすることが可能である。
なお、計測装置30においては、電磁石12・12・12を対向面1aから下方に突出する構成としたが、特に限定するものではなく、測定対象物表面が平らである場合などでは電磁石を対向面1aに埋設して、電磁石が対向面1aから突出しないように構成してもかまわない。
【0037】
次に、本発明の別の実施形態である計測装置40について説明する。計測装置40は、上記計測装置30における光源部3及び受光部4の各構成について別の実施形態としたものである。
なお、計測装置40において計測装置30と機能上異なる部分についてのみ説明を行い、計測装置30と同様の部分については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0038】
計測装置40は、図8に示すように、光源手段13と、受光手段14とを有する。
【0039】
光源手段13は、積分球2の光源用開口部7と制御手段5との間に介装されており、当該光源用開口部7を介して積分球2内に光を導入するものである。光源手段13は、積分球2内に光を供給するための光源及び当該光源を発光させるための発光回路等から構成される光源部13aと、当該光源部13aの一端からの光を光ファイバーを介して伝達して光源用開口部7から導入する屈曲自在の投光用光ファイバーケーブル13bと、から構成される。光源部13aの他端は、制御手段5に接続されている。光源手段13は、光源部13aにより発光した光を投光用光ファイバーケーブル13bを介して光源用開口部7から積分球2内に導入して、当該積分球2内に導入された光は内壁2aにより拡散反射されて、測定用開口部6に配置された自動車鋼板20表面に対して拡散光が照射される。
【0040】
受光手段14は、積分球2の受光用開口部8と制御手段5との間に介装されており、当該受光用開口部8を介して自動車鋼板20により反射された光を受光するものである。受光手段14は、図示しないレンズ、複数の受光素子からなるシリコンフォトダイオードアレイ等から構成される受光部14aと、受光用開口部8を介して入射する光を集めて受光部14aの一端に伝達する屈曲自在の受光用光ファイバーケーブル14bと、から構成される。受光部14aの他端は、制御手段5に接続されている。受光用光ファイバーケーブル14bの一端15は、当該一端15の光軸L1が自動車鋼板20表面の法線に対して8°傾斜した方向に配置されており、自動車鋼板20表面から入射する8°方向の反射光は受光用光ファイバーケーブル14bを介して受光部14aが有するシリコンフォトダイオードアレイの受光面に集められる。受光部14aは、受光用光ファイバーケーブル14bを介してシリコンフォトダイオードアレイにより検出された光の強度を制御手段5に出力する。
なお、図8においては計測装置40を説明する便宜上、制御手段5と計測装置本体1の各部との間は、光ファイバーケーブル13b、14bを含む複数の配線により接続する構成を示しているが、当該複数の配線は、当然ながら1つの配線ケーブルとしてまとめることは可能であるとともに、当該1つの配線ケーブルを計測装置本体1を測定位置に持ち運びしやすいように柔軟性及び所定のケーブル長を有するように構成することができる。
【0041】
このように計測装置40を構成することで、図9、図10に示すような車体の袋構造部の内面に適用することが可能となる。具体的には、袋構造部の内面(例えば、ロッカーアーム内など)を計測する場合、従来は実際のワークを切断して計測用のサンプルを作製する必要があり、必ず破壊検査となってしまうものであった。一方、上記計測装置40の如く、光源部13aと受光部14aを計測装置本体1の外部に配置し、光源部13a及び受光部14aと積分球2との間を光ファイバーケーブル13b、14bを用いて接続するように構成したことで、計測装置本体1を小型化することが可能となり、袋構造部の水抜き穴などから光ファイバーケーブル13b、14bで接続された計測装置本体1を挿入して、図10のように電磁石12・12・12により検査部位に計測装置本体1を磁着し、袋構造部の内面の化成被覆率を非破壊で計測することが可能となる。
【0042】
次に、上述した計測装置を用いて化成被覆率を計測する簡易計測方法について図11を用いて説明する。
【0043】
先ず、図6(a)に示すように、計測装置30が有する計測装置本体1を測定対象物である自動車鋼板20表面に配置し、電磁石12・12・12をONにして、磁力により計測装置本体1を自動車鋼板20表面に固定する(S10)。
【0044】
続いて、SCI、SCEの測定を順に行う(S20、S30)。
【0045】
SCIを測定する場合、制御手段5は、トラップ壁部11aによりトラップ開口部9を閉じて、光源部3の光源を発光させて光源用開口部7を介して積分球2内に光を導入して、当該導入された光は内壁2aにより拡散反射されて、測定用開口部6に配置された自動車鋼板20表面に対して拡散光が照射される。そうして、自動車鋼板20表面において反射した正反射成分を含む拡散成分の光(全反射成分)を受光部4に受光させることよりSCI方式による反射強度を測定する(S20)。
【0046】
そして、SCEを測定する場合、制御手段5は、トラップ開口部9を塞いでいるトラップ壁部11aを開けて、光源部3の光源を発光させて光源用開口部7を介して積分球2内に光を導入して、当該導入された光は内壁2aにより拡散反射されて、測定用開口部6に配置された自動車鋼板20表面に対して拡散光が照射される。そうして、自動車鋼板20表面において反射した正反射成分を含まない拡散成分の光を受光部4に受光させることよりSCE方式による反射強度を測定する(S30)。
【0047】
次に、制御手段5は、取得したSCIの値をSCEの値で除算して相対グロス値を算出する(S40)。この相対グロス値を算出することで、正反射成分のみを抽出することができる。
ここで、相対グロス値とは、SCI値(正反射成分を含む反射強度)とSCE値(正反射成分を含まない反射強度)の比のことをいう。すなわち、SCI値をSCE値で除算した値を相対グロス値という。
【0048】
そうして、化成被覆率と相対グロス値との関係を示す検量線を予め求めておき、当該予め求めておいた検量線を用いて、算出した相対グロス値を化成被覆率に変換する(S50)。そして、変換された化成被覆率は、制御手段5が有する出力表示装置に表示され(S60)、化成被覆率の計測が完了する。
【0049】
こうして、制御手段5は、自動車鋼板20表面に光を所定の照射角度(本実施形態では、8°)で照射し、当該自動車鋼板20表面から所定の受光角度(本実施形態では、8°)で反射される正反射成分を用い、SCI値(正反射成分を含む反射強度)とSCE値(正反射成分を含まない反射強度)の比、すなわち相対グロス値を得ることにより、前記自動車鋼板20における化成被膜の被覆率を計測する。
なお、検量線の作成方法としては、SEM画像による画像解析等により正確な化成被覆率が既知である複数の鋼板サンプルを用いて、各鋼板サンプルの相対グロス値を算出して求めて、既知の化成被覆率と算出した相対グロス値との関係より最小二乗法等により検量線を設定すればよい。
【0050】
また、前記検量線は、鋼板の種類と化成の種類とのそれぞれの組合わせ毎に予め作成しておき(図14参照)、測定対象物である自動車鋼板の種類及び当該鋼板に被覆する化成の種類を化成被覆率計測の際に制御手段5に入力し、適用する検量線を自動的に選択可能になるように構成するとよい。
【0051】
図12に一般的な化成被膜の形成過程を示す。図12に示すように、自動車鋼板に対して化成処理時において、化成処理の初期段階→中期段階→後期段階へと進むに従って、鋼板表面に化成被膜が形成されていく。本発明では、このような化成被膜の形成に伴って、表面状態が変わる(光沢度が低下する)点に着目し、図5に示す装置構成にて、上記のように正反射成分である相対グロス値を算出し、当該相対グロス値を化成被膜の被覆率に置き換えて計測評価を行うものである。
【0052】
図13は、上記計測装置10を用いて化成被覆率が既知である鋼板サンプルを実際に測定し、化成被覆率と相対グロス値の測定値との関係を示した実験結果である。図13においては、照光・受光角度(図5に示すなす角α)を8°、20°、60°として、化成被覆率(真値)と相対グロス値の測定値との関係を調べたものである。図13(a)(b)(c)に示す各グラフにおいては、横軸が化成被覆率[%]、縦軸が相対グロス値[G]を表す。照光・受光角度が20°、60°(図13(b)(c))の場合は、化成被覆率の変化に対して、相対グロス値[G]の変化がかなり小さく、相関が低い。一方、照光・受光角度が8°(図13(a))の場合は、化成被覆率の変化に対して、相対グロス値[G]の変化が大きく、相関が高いため高精度の計測が可能であることがわかる。このことから、照射角度及び受光角度は、自動車鋼板20表面の法線に対して8°前後に設定することが好適である。また、照射角度及び受光角度を8°前後に設定した場合、光源と受光部との配置距離を短くできるため、計測装置本体を小型化することができる利点がある。
【0053】
図14は、上記計測装置10を用いて化成被覆率が既知である複数の鋼板サンプル(メーカが異なる鋼板A、B及び化成a、bを組合わせたサンプル)をそれぞれ実際に測定し、各組合わせ毎に化成被覆率(真値)と相対グロス値の測定値との関係を示した実験結果である。図14に示す各グラフにおいては、横軸が化成被覆率[%]、縦軸が相対グロス値[G]を表す。図14に示す実験結果より製造メーカの異なる鋼板や化成においても、化成被覆率(真値)と相対グロス値の測定値に相関性(線形性)があり、相対グロス値を用いて化成被覆率を計測することができることを示すものである。
【0054】
図15(a)(b)は、上述した3つの電磁石を有する計測装置30を用いて、化成被覆率が既知である鋼板サンプル(前述した鋼板A及び化成bのサンプル)上の同位置に対して相対グロス値の測定を所定回数行って、相対グロス値の測定バラツキ(標準偏差σ)を評価した評価結果である。この評価結果からわかるように、測定ばらつき(σ)は1〜3[G]程度と非常に小さく、精度良く測定が可能であることが確認できた。
【0055】
なお、本実施形態における計測装置10、30、40は、上記の如く、JIS Z8722条件c、ISO7724/1に準拠したdi:8°(照射光に試料からの鏡面反射となる成分を含む)、de:8°(試料からの鏡面反射となる成分を除く)である照射及び受光の測定条件に適合するように構成したものである。
【0056】
以上により、本発明によれば、測定対象物の鋼板外面・鋼板内面(ロッカーアーム内等の袋構造)に塗布された化成被膜の被覆率について、高精度・短時間(数秒程度)で測定が可能である。これにより、工程内での簡易計測が可能となり、全数検査による品質保証の向上が可能となる。また、インラインで化成被膜の被覆率全数計測が可能となり、品質向上に貢献できる。
【符号の説明】
【0057】
1 計測装置本体
1a 対向面
2 積分球
3 光源部
4 受光部
5 制御手段
6 測定用開口部
10 計測装置
12 電磁石
20 自動車鋼板
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両鋼板における化成被覆率の簡易計測方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車鋼板等の車両鋼板表面には防錆のための塗装の下地層として化成被膜(化成層)が形成される(図16、図17参照)。化成被膜の役割としては、車両鋼板表面に化成被膜を形成することにより、腐食因子が直接基材(鋼板)に触れないようにするとともに、化成自身が反応し、車両鋼板表面をアルカリ性環境にして錆を防ぐものである。そのため、化成被膜が鋼板表面に均一に塗装されていないと、錆が発生する原因となるため、化成被膜形成後に、化成被膜が鋼板表面に均一に被覆されているかどうかを評価する必要がある。
【0003】
従来から行われている化成被膜を計測評価する方法としては、蛍光X線による重量計測、SEM画像による結晶粒径観察(グレード評価)及び化成被膜のSEM画像を画像解析することで化成被覆率を算出する方法が一般的である。
【0004】
また、被膜の被覆率を直接計測する技術としては、透明ガラス上に形成された熱可塑性樹脂被膜の被覆率を計測する技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1では、熱可塑性樹脂が塗布されたガラス製品の表面に、所定波長の紫外光を照射し、熱可塑性樹脂被膜の形成に伴う散乱光の強度増加を検出して、熱可塑性樹脂被膜の被覆率を測定する旨が記載されている。
【0006】
また、被膜を重量計測により計測評価する技術としては、紫外光をクロメート処理された鋼板に照射して、紫外光の反射光強度の変化により鋼板上に付着したクロムの重量を計測する技術が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−346800号公報
【特許文献2】特開平11−181580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されている被覆率測定方法においては、ガラス製品のような透明基材を測定対象としており、ガラスと被膜との散乱光強度の差が得られるため、バックグラウンドからの散乱光が弱くても、被覆率を測定することができるが、この測定方法を化成を被覆した鋼板に適用した場合、被覆した化成と鋼板との散乱光強度の差が小さいため、被覆率を測定することができない。
【0009】
また、特許文献2に記載されている技術においては、紫外線の吸収が起こる被膜物質しか検出の対象としていない。すなわち、測定波長を限定しているため、特定の被覆物質の検出にしか適用できない。
【0010】
また、従来から化成被膜の評価に用いられる蛍光X線分析装置やSEMは、非常に高価であるため、汎用性に欠ける。また、これらの装置を用いた検査は、検査サンプルを加工する時間も必要であるため非常に検査時間がかかる。
【0011】
そこで、本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、化成被覆率を高精度・短時間で測定が可能な車両鋼板における化成被覆率の簡易計測方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0013】
即ち、請求項1においては、
化成被膜が表面に被覆された車両鋼板の化成被覆率を計測する簡易計測方法であって、
前記車両鋼板表面に光を所定の照射角度で照射し、当該車両鋼板表面から所定の受光角度で反射される正反射成分を用い、前記正反射成分を含む反射強度と前記正反射成分を含まない反射強度の比を得ることにより、前記車両鋼板における化成被膜の被覆率を計測する、車両鋼板における化成被覆率の簡易計測方法である。
【0014】
請求項2においては、
前記照射角度及び前記受光角度は、前記車両鋼板表面の法線に対して8°前後に設定される、車両鋼板における化成被覆率の簡易計測方法である。
【0015】
請求項3においては、
化成被膜が表面に被覆された車両鋼板の化成被覆率を計測する簡易計測装置であって、
前記車両鋼板表面に配置して、当該車両鋼板表面に対して光を照射するための測定用開口部を有する積分球と、
前記積分球内に光を導入する光源部と、
前記車両鋼板表面により反射された反射光を受光する受光部と、
前記反射光のうち正反射成分を除去可能な光トラップ部と、
前記反射光の反射強度を用いて所定の演算を行う制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記正反射成分を含む反射強度と前記正反射成分を含まない反射強度の比を得ることにより、前記車両鋼板における化成被膜の被覆率を計測する、車両鋼板における化成被覆率の簡易計測装置である。
【0016】
請求項4においては、
前記照射角度及び前記受光角度は、前記車両鋼板表面の法線に対して8°前後に設定される、車両鋼板における化成被覆率の簡易計測装置である。
【0017】
請求項5においては、
前記積分球の測定用開口部が表面に配置され、前記積分球の測定用開口部を前記車両鋼板表面に配置した状態において前記車両鋼板表面に対向する対向面を有する計測装置本体と、
前記対向面において前記測定用開口部を中心にした同心円上に等間隔に3つの電磁石が配置され、当該3個の電磁石により前記計測装置本体を前記車両鋼板表面の任意の位置に固定する固定手段と、を備え、
前記積分球の測定用開口部を前記車両鋼板表面に配置した際に、前記車両鋼板表面と前記対向面との位置関係を一定に保つことを特徴とする、車両鋼板における化成被覆率の簡易計測装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、化成被膜が表面に被覆された車両鋼板における化成被覆率を、高精度・短時間で測定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る計測装置の全体構成を示す模式図。
【図2】正反射光を示す説明図。
【図3】正反射成分を含む全ての反射光を測定するSCI方式を示す説明図であり、(a)はSCI方式のイメージを示す図、(b)は計測装置にSCI方式を適用した場合(トラップ壁部の閉時)を示す模式図。
【図4】正反射成分を含まない拡散成分のみの反射光を測定するSCE方式を示す説明図であり、(a)はSCE方式のイメージを示す図、(b)は計測装置にSCE方式を適用した場合(トラップ壁部の開時)を示す模式図。
【図5】照射角度及び受光角度(α=8°前後)を示す説明図。
【図6】計測装置の別実施形態を示す模式図であり、(a)は計測装置の側面図、(b)は計測装置本体の底面図。
【図7】電磁石の別実施形態を示す模式側面図。
【図8】計測装置の別実施形態の全体構成を示す模式図。
【図9】袋構造部の内面における計測状態を示す模式図。
【図10】袋構造部の内面における計測状態を示す模式断面図。
【図11】測定フローを示す図。
【図12】化成被膜形成の過程を示す模式図。
【図13】照射角度及び受光角度を変更した場合の実験結果(化成被覆率と測定値との関係)を示す図であり、(a)は照射角度及び受光角度が8°の場合を示す図、(b)は照射角度及び受光角度が角度20°の場合を示す図、(c)は照射角度及び受光角度が60°の場合を示す図。
【図14】鋼板及び化成を変更した場合の実験結果(化成被覆率と測定値との関係)を示す図。
【図15】固定手段を備えた計測装置を用いた評価結果を示す図であり、(a)は化成被覆率に対する相対グロス値の平均値とσを示す図、(b)は(a)の各値に基づいて作成した化成被覆率と相対グロスの関係を示す図。
【図16】鋼板表面に形成された化成被膜(化成層)を示す模式図。
【図17】鋼板表面に形成された化成被膜を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、発明の実施の形態を説明する。
本実施形態に係る車両鋼板における化成被覆率の簡易計測装置(以下、計測装置10という)は、測定対象物である車両鋼板の一例として化成処理が行われた自動車鋼板20に適用するものである。以下、計測装置10について具体的に説明する。
【0021】
計測装置10は、化成被膜が表面に被覆された自動車鋼板20の化成被覆率を計測するものである。計測装置10は、図1に示すように、計測装置本体1と、当該計測装置本体1に接続される制御手段5とから構成される。
【0022】
計測装置本体1は、円筒状の筐体であり、積分球2と、光源部3と、受光部4と、を主に備える。
【0023】
積分球2は、当該積分球2の内壁2aに高反射率かつ高拡散性を有する酸化マンガン、硫酸バリウム等の白色拡散反射塗料が塗布された中空の球(φ40mm程度)である。積分球2は、当該積分球2内に導入された光を内壁2aにより拡散反射を繰り返し、中空空間内の光を積分して均一光にするものである。
【0024】
また、積分球2は、自動車鋼板20表面に配置して、当該自動車鋼板20表面に対して光を照射するための測定用開口部6、光源部3から積分球2内に光を導入するための光源用開口部7、受光部4に所定の反射光を受光させるための受光用開口部8、自動車鋼板20表面の法線Lに対して受光用開口部8の対称の位置に形成されたトラップ開口部9、を有する。具体的には、積分球2は、自動車鋼板20表面に配置可能な測定用開口部6を有し、当該測定用開口部6に配置される自動車鋼板20表面の法線Lとのなす角が8°の方向(なす角の好適な範囲としては、8°±5°)にある受光用開口部8と、前記法線Lに対して受光用開口部8と対称な位置であって、法線Lとのなす角が8°の方向(なす角の好適な範囲としては、8°±5°)にあるトラップ開口部9及び光トラップ部11とを有する。
【0025】
光トラップ部11は、トラップ開口部9から積分球2の外側に突出して形成された筒状のものであり、トラップ開口部9を機械的に開閉可能なトラップ開口部9の開閉手段であるトラップ壁部11aを有する。光トラップ部11は、トラップ壁部11aの開閉を行うことにより、反射光のうち正反射成分を除去可能である。光トラップ部11は、制御手段5に接続されており、当該制御手段5によりトラップ壁部11aの開閉を自動で行うことが可能である。制御手段5は、トラップ壁部11aの開閉動作を行うことで、光学的に異なる2つの反射特性を測定することができる。ここで、図2に示すように、光源から測定物表面(本実施形態においては自動車鋼板20表面)に対して光を測定物表面の法線L方向に対し所定の照射角度αで測定物に照射した時、逆方向に同じ角度αで反射された光を「正反射光(正反射成分)」といい、一方、あらゆる方向に拡散して反射する光を「拡散光(拡散成分)」という。
【0026】
また、上記光学的に異なる2つの反射特性とは、正反射成分を含む全ての光を測定する方式であるSCI(Specular Component Include)方式によるもの(図3(a)(b)参照)と、正反射成分を含まず拡散成分のみの光を測定する方式であるSCE(Specular Component Exclude)方式によるものである。SCI方式及びSCE方式を用いた具体的な反射特性の測定方法については後述する。
【0027】
そして、図3(b)に示すように、光トラップ部11が有するトラップ壁部11aによりトラップ開口部9を閉じた場合、トラップ壁部11aは積分球2の内壁2aの一部を構成し、自動車鋼板20表面の法線Lとのなす角が8°の光軸L1方向に光を照射する光源の役割を果たすものである(図5参照)。
一方、図4(b)に示すように、光トラップ部11が有するトラップ壁部11aによりトラップ開口部9を開けた場合、トラップ開口部9において積分球2の内壁2aの一部が欠落した状態となり、トラップ壁部11aは自動車鋼板20表面の法線Lとのなす角が8°の光軸L1方向に光を照射しない。
【0028】
すなわち、光トラップ部11は、トラップ壁部11aによりトラップ開口部9を閉状態とすることにより正反射成分を含む拡散成分の光(図3(a)参照)を受光部4に導くことを可能とする。一方、光トラップ部11は、トラップ壁部11aによりトラップ開口部9を開状態とすることにより正反射光成分を含まない拡散成分の光(図4(a)参照)のみを受光部4に導くことを可能とするものである。
【0029】
光源部3は、光源用開口部7の近傍に配設されており、当該光源用開口部7を介して積分球2内に光を導入するものである。光源部3は、光源(照明光源)、当該光源を発光させるための発光回路等から構成され、光源としては、キセノンランプ、LED等が用いられる。光源部3は、制御手段5に接続されている。光源部3は、積分球2内に光を導入して、当該導入された光は内壁2aにより拡散反射されて、測定用開口部6に配置された自動車鋼板20表面に対して拡散光が照射される。
なお、光源部3から照射する光の波長については、特に限定するものではないが、波長範囲としては380〜780nmである可視光領域を適用するとよい。また、分光器を用いて当該可視光領域の特定の波長領域を適用する構成としてもかまわない。
【0030】
受光部4は、受光用開口部8の近傍に配設されており、当該受光用開口部8を介して前記自動車鋼板20により反射された反射光を受光するものである。受光部4は、図示しないレンズ、複数の受光素子からなるシリコンフォトダイオードアレイ等から構成される。受光部4は、当該受光部4の光軸L1が自動車鋼板20表面の法線に対して8°傾斜した方向に配置されており、自動車鋼板20表面から入射する8°方向の反射光は受光部4が有するシリコンフォトダイオードアレイの受光面に集められる。受光部4は、制御手段5に接続されている。受光部4は、受光用開口部8を介してシリコンフォトダイオードアレイにより検出された光の強度を制御手段5に出力する。
なお、受光部4は、分光手段(分光器)を備えることで、受光した光を分光して取得することも可能である。
【0031】
制御手段5は、受光部4を介して受光した自動車鋼板20表面により反射された反射光の反射強度を検出し、当該検出した反射光の反射強度を用いて所定の演算を行うものである。制御手段5は、CPU等の演算処理部、記憶部、入力装置、出力表示装置等から構成されるパーソナルコンピュータである。記憶部には、計測装置本体1の各部の動作を制御するための制御プログラム、受光部4を介して取得した反射強度に対して所定の演算処理を行うための演算処理プログラム及び当該プログラムによる演算処理結果等が格納される。つまり、制御手段5は、計測装置本体1の各部の動作を制御して計測装置本体1の受光部4により取得した正反射成分の有無の各反射強度、すなわちSCI及びSCEを取得し、当該SCI及びSCEを用いて所定の演算処理を実行するものである。
なお、図1においては計測装置10を説明する便宜上、制御手段5と計測装置本体1の各部との間は、複数の配線により接続する構成を示しているが、当該複数の配線は、当然ながら1つの配線ケーブルとしてまとめることが可能であるとともに、当該1つの配線ケーブルを計測装置本体1を測定位置に持ち運びしやすいように柔軟性及び所定のケーブル長を有するように構成することができる。
【0032】
このように計測装置10を構成することで、光源部3から照射された光が光源用開口部7を介して積分球2内に導入され、当該導入された光は積分球2内で拡散反射される。当該拡散反射された光が測定用開口部6を介して自動車鋼板20表面に対してあらゆる方向から照射され、当該自動車鋼板20表面により反射された反射光が、受光用開口部8を介して受光部4により受光される。そして、トラップ壁部11aによりトラップ開口部9を閉じる場合は、トラップ壁部11aは積分球2の内壁2aの一部となり、当該トラップ壁部11aにより自動車鋼板20表面に照射された光は、自動車鋼板20表面によって受光部4の光軸L1方向に正反射される。すなわち、トラップ壁部11aは、受光部4により受光される正反射成分の光源となるものであり、トラップ壁部11aを閉じた状態ではSCIの反射特性、開いた状態ではSCEの反射特性が測定されるものである。
【0033】
次に、本発明の別の実施形態である計測装置30について説明する。
なお、計測装置30は、計測装置10における計測装置本体1部分を小型化し、後述する固定手段を付加して構成したものであるため、上記計測装置10と機能上異なる部分についてのみ説明を行い、計測装置10と同様の部分については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0034】
計測装置30は、図6に示すように、上述した計測装置10と同様に、前記積分球2の測定用開口部6が計測装置本体1表面(図6(a)においては下面)に配置され、前記積分球2の測定用開口部6を自動車鋼板20表面に配置した状態において前記自動車鋼板20表面に対向する対向面1aを有する円柱状の計測装置本体1と、前記対向面1aにおいて前記測定用開口部6を中心にした同心円上に等間隔に3つの電磁石12・12・12が配置され、当該3個の電磁石12・12・12により前記計測装置本体1を自動車鋼板20表面の任意の位置に固定する固定手段と、を備える。また、電磁石12・12・12は、自動車鋼板20表面と当接する部分が半球状に形成されている。電磁石12・12・12には、図示しない電流印加手段が接続されており、当該電流印加手段により電磁石12・12・12に印加する電流のON/OFFを制御することで電磁石12・12・12を自動車鋼板20表面に対して着脱可能である。つまり、計測装置30は、電流印加手段により電磁石12・12・12に電流を流して磁力を発生させることで、当該磁力により自動車鋼板20の所望の位置に磁着することができる。例えば、本実施形態における計測装置30においては、電磁石の厚さは0.5mm程度、電磁石の直径は2mm程度、計測装置本体1の直径は10mm程度、測定用開口部6の直径は3mm程度である。
【0035】
このように計測装置30を構成することで、積分球2の測定用開口部6を自動車鋼板20表面に配置した際に、前記自動車鋼板20表面と前記対向面1aとの位置関係を一定に保つことができる。すなわち、計測装置本体1が有する3つの電磁石12・12・12による3点支持により計測装置本体1の対向面1aと自動車鋼板20表面との距離バラツキを低減することが可能である。また、計測装置30のように、電磁石12・12・12による固定手段を設けることで、自動車鋼板20の任意の場所での固定が可能となるとともに、電磁石であるため自動車鋼板20への着脱が容易に行え、測定箇所間の移動が容易となる。また、固定手段は、例えば、緩やかに曲線状に形成された自動車鋼板20表面であっても計測装置本体1を安定して固定可能であるとともに、対向面1aに開口する測定用開口部6と測定対象物である自動車鋼板20表面との位置関係を一定に保つことが可能となる。
【0036】
また、電磁石12の先端形状を半球状に形成しているため、測定対象物である自動車鋼板20表面の傾斜角度等に依存せずに点接触が可能となる。さらに、図7に示すように、半球状に形成した電磁石12の先端に小さな半球状部12aを設けて、測定対象物に対して点接触するように構成することで、測定対象物の表面傾斜の影響をさらに受けないようにすることが可能である。
なお、計測装置30においては、電磁石12・12・12を対向面1aから下方に突出する構成としたが、特に限定するものではなく、測定対象物表面が平らである場合などでは電磁石を対向面1aに埋設して、電磁石が対向面1aから突出しないように構成してもかまわない。
【0037】
次に、本発明の別の実施形態である計測装置40について説明する。計測装置40は、上記計測装置30における光源部3及び受光部4の各構成について別の実施形態としたものである。
なお、計測装置40において計測装置30と機能上異なる部分についてのみ説明を行い、計測装置30と同様の部分については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0038】
計測装置40は、図8に示すように、光源手段13と、受光手段14とを有する。
【0039】
光源手段13は、積分球2の光源用開口部7と制御手段5との間に介装されており、当該光源用開口部7を介して積分球2内に光を導入するものである。光源手段13は、積分球2内に光を供給するための光源及び当該光源を発光させるための発光回路等から構成される光源部13aと、当該光源部13aの一端からの光を光ファイバーを介して伝達して光源用開口部7から導入する屈曲自在の投光用光ファイバーケーブル13bと、から構成される。光源部13aの他端は、制御手段5に接続されている。光源手段13は、光源部13aにより発光した光を投光用光ファイバーケーブル13bを介して光源用開口部7から積分球2内に導入して、当該積分球2内に導入された光は内壁2aにより拡散反射されて、測定用開口部6に配置された自動車鋼板20表面に対して拡散光が照射される。
【0040】
受光手段14は、積分球2の受光用開口部8と制御手段5との間に介装されており、当該受光用開口部8を介して自動車鋼板20により反射された光を受光するものである。受光手段14は、図示しないレンズ、複数の受光素子からなるシリコンフォトダイオードアレイ等から構成される受光部14aと、受光用開口部8を介して入射する光を集めて受光部14aの一端に伝達する屈曲自在の受光用光ファイバーケーブル14bと、から構成される。受光部14aの他端は、制御手段5に接続されている。受光用光ファイバーケーブル14bの一端15は、当該一端15の光軸L1が自動車鋼板20表面の法線に対して8°傾斜した方向に配置されており、自動車鋼板20表面から入射する8°方向の反射光は受光用光ファイバーケーブル14bを介して受光部14aが有するシリコンフォトダイオードアレイの受光面に集められる。受光部14aは、受光用光ファイバーケーブル14bを介してシリコンフォトダイオードアレイにより検出された光の強度を制御手段5に出力する。
なお、図8においては計測装置40を説明する便宜上、制御手段5と計測装置本体1の各部との間は、光ファイバーケーブル13b、14bを含む複数の配線により接続する構成を示しているが、当該複数の配線は、当然ながら1つの配線ケーブルとしてまとめることは可能であるとともに、当該1つの配線ケーブルを計測装置本体1を測定位置に持ち運びしやすいように柔軟性及び所定のケーブル長を有するように構成することができる。
【0041】
このように計測装置40を構成することで、図9、図10に示すような車体の袋構造部の内面に適用することが可能となる。具体的には、袋構造部の内面(例えば、ロッカーアーム内など)を計測する場合、従来は実際のワークを切断して計測用のサンプルを作製する必要があり、必ず破壊検査となってしまうものであった。一方、上記計測装置40の如く、光源部13aと受光部14aを計測装置本体1の外部に配置し、光源部13a及び受光部14aと積分球2との間を光ファイバーケーブル13b、14bを用いて接続するように構成したことで、計測装置本体1を小型化することが可能となり、袋構造部の水抜き穴などから光ファイバーケーブル13b、14bで接続された計測装置本体1を挿入して、図10のように電磁石12・12・12により検査部位に計測装置本体1を磁着し、袋構造部の内面の化成被覆率を非破壊で計測することが可能となる。
【0042】
次に、上述した計測装置を用いて化成被覆率を計測する簡易計測方法について図11を用いて説明する。
【0043】
先ず、図6(a)に示すように、計測装置30が有する計測装置本体1を測定対象物である自動車鋼板20表面に配置し、電磁石12・12・12をONにして、磁力により計測装置本体1を自動車鋼板20表面に固定する(S10)。
【0044】
続いて、SCI、SCEの測定を順に行う(S20、S30)。
【0045】
SCIを測定する場合、制御手段5は、トラップ壁部11aによりトラップ開口部9を閉じて、光源部3の光源を発光させて光源用開口部7を介して積分球2内に光を導入して、当該導入された光は内壁2aにより拡散反射されて、測定用開口部6に配置された自動車鋼板20表面に対して拡散光が照射される。そうして、自動車鋼板20表面において反射した正反射成分を含む拡散成分の光(全反射成分)を受光部4に受光させることよりSCI方式による反射強度を測定する(S20)。
【0046】
そして、SCEを測定する場合、制御手段5は、トラップ開口部9を塞いでいるトラップ壁部11aを開けて、光源部3の光源を発光させて光源用開口部7を介して積分球2内に光を導入して、当該導入された光は内壁2aにより拡散反射されて、測定用開口部6に配置された自動車鋼板20表面に対して拡散光が照射される。そうして、自動車鋼板20表面において反射した正反射成分を含まない拡散成分の光を受光部4に受光させることよりSCE方式による反射強度を測定する(S30)。
【0047】
次に、制御手段5は、取得したSCIの値をSCEの値で除算して相対グロス値を算出する(S40)。この相対グロス値を算出することで、正反射成分のみを抽出することができる。
ここで、相対グロス値とは、SCI値(正反射成分を含む反射強度)とSCE値(正反射成分を含まない反射強度)の比のことをいう。すなわち、SCI値をSCE値で除算した値を相対グロス値という。
【0048】
そうして、化成被覆率と相対グロス値との関係を示す検量線を予め求めておき、当該予め求めておいた検量線を用いて、算出した相対グロス値を化成被覆率に変換する(S50)。そして、変換された化成被覆率は、制御手段5が有する出力表示装置に表示され(S60)、化成被覆率の計測が完了する。
【0049】
こうして、制御手段5は、自動車鋼板20表面に光を所定の照射角度(本実施形態では、8°)で照射し、当該自動車鋼板20表面から所定の受光角度(本実施形態では、8°)で反射される正反射成分を用い、SCI値(正反射成分を含む反射強度)とSCE値(正反射成分を含まない反射強度)の比、すなわち相対グロス値を得ることにより、前記自動車鋼板20における化成被膜の被覆率を計測する。
なお、検量線の作成方法としては、SEM画像による画像解析等により正確な化成被覆率が既知である複数の鋼板サンプルを用いて、各鋼板サンプルの相対グロス値を算出して求めて、既知の化成被覆率と算出した相対グロス値との関係より最小二乗法等により検量線を設定すればよい。
【0050】
また、前記検量線は、鋼板の種類と化成の種類とのそれぞれの組合わせ毎に予め作成しておき(図14参照)、測定対象物である自動車鋼板の種類及び当該鋼板に被覆する化成の種類を化成被覆率計測の際に制御手段5に入力し、適用する検量線を自動的に選択可能になるように構成するとよい。
【0051】
図12に一般的な化成被膜の形成過程を示す。図12に示すように、自動車鋼板に対して化成処理時において、化成処理の初期段階→中期段階→後期段階へと進むに従って、鋼板表面に化成被膜が形成されていく。本発明では、このような化成被膜の形成に伴って、表面状態が変わる(光沢度が低下する)点に着目し、図5に示す装置構成にて、上記のように正反射成分である相対グロス値を算出し、当該相対グロス値を化成被膜の被覆率に置き換えて計測評価を行うものである。
【0052】
図13は、上記計測装置10を用いて化成被覆率が既知である鋼板サンプルを実際に測定し、化成被覆率と相対グロス値の測定値との関係を示した実験結果である。図13においては、照光・受光角度(図5に示すなす角α)を8°、20°、60°として、化成被覆率(真値)と相対グロス値の測定値との関係を調べたものである。図13(a)(b)(c)に示す各グラフにおいては、横軸が化成被覆率[%]、縦軸が相対グロス値[G]を表す。照光・受光角度が20°、60°(図13(b)(c))の場合は、化成被覆率の変化に対して、相対グロス値[G]の変化がかなり小さく、相関が低い。一方、照光・受光角度が8°(図13(a))の場合は、化成被覆率の変化に対して、相対グロス値[G]の変化が大きく、相関が高いため高精度の計測が可能であることがわかる。このことから、照射角度及び受光角度は、自動車鋼板20表面の法線に対して8°前後に設定することが好適である。また、照射角度及び受光角度を8°前後に設定した場合、光源と受光部との配置距離を短くできるため、計測装置本体を小型化することができる利点がある。
【0053】
図14は、上記計測装置10を用いて化成被覆率が既知である複数の鋼板サンプル(メーカが異なる鋼板A、B及び化成a、bを組合わせたサンプル)をそれぞれ実際に測定し、各組合わせ毎に化成被覆率(真値)と相対グロス値の測定値との関係を示した実験結果である。図14に示す各グラフにおいては、横軸が化成被覆率[%]、縦軸が相対グロス値[G]を表す。図14に示す実験結果より製造メーカの異なる鋼板や化成においても、化成被覆率(真値)と相対グロス値の測定値に相関性(線形性)があり、相対グロス値を用いて化成被覆率を計測することができることを示すものである。
【0054】
図15(a)(b)は、上述した3つの電磁石を有する計測装置30を用いて、化成被覆率が既知である鋼板サンプル(前述した鋼板A及び化成bのサンプル)上の同位置に対して相対グロス値の測定を所定回数行って、相対グロス値の測定バラツキ(標準偏差σ)を評価した評価結果である。この評価結果からわかるように、測定ばらつき(σ)は1〜3[G]程度と非常に小さく、精度良く測定が可能であることが確認できた。
【0055】
なお、本実施形態における計測装置10、30、40は、上記の如く、JIS Z8722条件c、ISO7724/1に準拠したdi:8°(照射光に試料からの鏡面反射となる成分を含む)、de:8°(試料からの鏡面反射となる成分を除く)である照射及び受光の測定条件に適合するように構成したものである。
【0056】
以上により、本発明によれば、測定対象物の鋼板外面・鋼板内面(ロッカーアーム内等の袋構造)に塗布された化成被膜の被覆率について、高精度・短時間(数秒程度)で測定が可能である。これにより、工程内での簡易計測が可能となり、全数検査による品質保証の向上が可能となる。また、インラインで化成被膜の被覆率全数計測が可能となり、品質向上に貢献できる。
【符号の説明】
【0057】
1 計測装置本体
1a 対向面
2 積分球
3 光源部
4 受光部
5 制御手段
6 測定用開口部
10 計測装置
12 電磁石
20 自動車鋼板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化成被膜が表面に被覆された車両鋼板の化成被覆率を計測する簡易計測方法であって、
前記車両鋼板表面に光を所定の照射角度で照射し、当該車両鋼板表面から所定の受光角度で反射される正反射成分を用い、前記正反射成分を含む反射強度と前記正反射成分を含まない反射強度の比を得ることにより、前記車両鋼板における化成被膜の被覆率を計測することを特徴とする、車両鋼板における化成被覆率の簡易計測方法。
【請求項2】
前記照射角度及び前記受光角度は、前記車両鋼板表面の法線に対して8°前後に設定されることを特徴とする、請求項1に記載の車両鋼板における化成被覆率の簡易計測方法。
【請求項3】
化成被膜が表面に被覆された車両鋼板の化成被覆率を計測する簡易計測装置であって、
前記車両鋼板表面に配置して、当該車両鋼板表面に対して光を照射するための測定用開口部を有する積分球と、
前記積分球内に光を導入する光源部と、
前記車両鋼板表面により反射された反射光を受光する受光部と、
前記反射光のうち正反射成分を除去可能な光トラップ部と、
前記反射光の反射強度を用いて所定の演算を行う制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記正反射成分を含む反射強度と前記正反射成分を含まない反射強度の比を得ることにより、前記車両鋼板における化成被膜の被覆率を計測することを特徴とする、車両鋼板における化成被覆率の簡易計測装置。
【請求項4】
前記照射角度及び前記受光角度は、前記車両鋼板表面の法線に対して8°前後に設定されることを特徴とする、請求項3に記載の車両鋼板における化成被覆率の簡易計測装置。
【請求項5】
前記積分球の測定用開口部が表面に配置され、前記積分球の測定用開口部を前記車両鋼板表面に配置した状態において前記車両鋼板表面に対向する対向面を有する計測装置本体と、
前記対向面において前記測定用開口部を中心にした同心円上に等間隔に3つの電磁石が配置され、当該3個の電磁石により前記計測装置本体を前記車両鋼板表面の任意の位置に固定する固定手段と、を備え、
前記積分球の測定用開口部を前記車両鋼板表面に配置した際に、前記車両鋼板表面と前記対向面との位置関係を一定に保つことを特徴とする、請求項3または請求項4に記載の車両鋼板における化成被覆率の簡易計測装置。
【請求項1】
化成被膜が表面に被覆された車両鋼板の化成被覆率を計測する簡易計測方法であって、
前記車両鋼板表面に光を所定の照射角度で照射し、当該車両鋼板表面から所定の受光角度で反射される正反射成分を用い、前記正反射成分を含む反射強度と前記正反射成分を含まない反射強度の比を得ることにより、前記車両鋼板における化成被膜の被覆率を計測することを特徴とする、車両鋼板における化成被覆率の簡易計測方法。
【請求項2】
前記照射角度及び前記受光角度は、前記車両鋼板表面の法線に対して8°前後に設定されることを特徴とする、請求項1に記載の車両鋼板における化成被覆率の簡易計測方法。
【請求項3】
化成被膜が表面に被覆された車両鋼板の化成被覆率を計測する簡易計測装置であって、
前記車両鋼板表面に配置して、当該車両鋼板表面に対して光を照射するための測定用開口部を有する積分球と、
前記積分球内に光を導入する光源部と、
前記車両鋼板表面により反射された反射光を受光する受光部と、
前記反射光のうち正反射成分を除去可能な光トラップ部と、
前記反射光の反射強度を用いて所定の演算を行う制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記正反射成分を含む反射強度と前記正反射成分を含まない反射強度の比を得ることにより、前記車両鋼板における化成被膜の被覆率を計測することを特徴とする、車両鋼板における化成被覆率の簡易計測装置。
【請求項4】
前記照射角度及び前記受光角度は、前記車両鋼板表面の法線に対して8°前後に設定されることを特徴とする、請求項3に記載の車両鋼板における化成被覆率の簡易計測装置。
【請求項5】
前記積分球の測定用開口部が表面に配置され、前記積分球の測定用開口部を前記車両鋼板表面に配置した状態において前記車両鋼板表面に対向する対向面を有する計測装置本体と、
前記対向面において前記測定用開口部を中心にした同心円上に等間隔に3つの電磁石が配置され、当該3個の電磁石により前記計測装置本体を前記車両鋼板表面の任意の位置に固定する固定手段と、を備え、
前記積分球の測定用開口部を前記車両鋼板表面に配置した際に、前記車両鋼板表面と前記対向面との位置関係を一定に保つことを特徴とする、請求項3または請求項4に記載の車両鋼板における化成被覆率の簡易計測装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−63275(P2012−63275A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208473(P2010−208473)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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