説明

車両

【課題】エンジンの始動時に車両に振動やショックが生じるのをより適正に抑制する。
【解決手段】エンジンをクランキングするためのモータの仮トルクTm1tmpとエンジンのクランク角θcrに応じたエンジンの脈動トルクTepulとを用いてダンパの想定ねじれトルクTdasを計算し(S140)、想定ねじれトルクTdasが所定トルクTdref以下のときには仮トルクTm1tmpをモータのトルク指令Tm1*に設定し(S160)、想定ねじれトルクTdasが所定トルクTdrefより大きいときにはねじれトルクTdが所定トルクTdrefとなるようモータのトルク指令Tm1*を設定し(S170)、設定したトルク指令Tm1*がモータから出力されてエンジンがモータリングされて始動されるようエンジンとモータとを制御する(S210〜S240)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関し、詳しくは、車軸に連結された後段軸にねじれ要素を介して出力軸が接続されたエンジンと、後段軸に動力を出力可能なモータと、モータに電力を供給可能なバッテリと、を備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両としては、エンジンと、第1のモータと、エンジンのクランシャフトにダンパを介してキャリアが接続されると共に第1のモータの回転軸にサンギヤが接続され更に駆動輪に連結された駆動軸にリングギヤが接続された動力分配統合機構と、駆動軸に回転軸が接続された第2のモータとを備え、エンジンの始動要求がなされてから始動処理の完了までエンジンをクランキングするよう第1のモータのトルク指令を設定し、始動要求がなされてから始動完了まで、トルク指令に基づくトルクが第1のモータから出力されるよう第1のモータを制御すると共に所定のタイミングで燃料噴射や点火が開始されるようエンジンを制御するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この車両では、始動要求がなされてから始動処理の完了までの間、ダンパから駆動輪までの駆動系で発生するいずれかのねじれ振動の周期と一致する長さの所定期間(予め定められた期間)に第1のモータの出力トルクが対象となるねじれ振動の励起を抑制可能な所定量(予め定められた量)だけ増加または減少するよう第1モータのトルク指令を設定することにより、エンジンの回転に伴って駆動系で発生するねじれ振動に起因した車両の振動やショックを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−137823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の車両では、ねじれ振動の励起を抑制するための第1のモータの出力トルクの調整期間や調整量を予め定めておくため、エンジンの始動時の状況などによっては、第1のモータの出力トルクの調整期間や調整量が十分に適合せず、車両の振動やショックを十分に抑制できないことがある。
【0005】
本発明の車両は、エンジンの始動時に車両に振動やショックが生じるのをより適正に抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の車両は、
車軸に連結された後段軸にねじれ要素を介して出力軸が接続されたエンジンと、前記後段軸に動力を出力可能なモータと、前記モータに電力を供給可能なバッテリと、前記エンジンの始動指示がなされたとき、前記モータからのクランキングトルクの出力を伴って前記エンジンがクランキングされて始動されるよう前記エンジンと前記モータとを制御する始動時制御手段と、を備える車両であって、
前記始動時制御手段は、前記クランキングトルクの基本値である基本トルクと前記エンジンのクランク角に応じた該エンジンの脈動トルクとに応じて、前記ねじれ要素のねじれに起因して生じるねじれトルクが予め定められた所定トルク以下となるよう前記クランキングトルクを設定する手段である、
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明の車両では、エンジンの始動指示がなされたときには、クランキングトルクの基本値である基本トルクとエンジンのクランク角に応じたエンジンの脈動トルクとに応じて、ねじれ要素のねじれに起因して生じるねじれトルクが予め定められた所定トルク以下となるようクランキングトルクを設定し、設定したクランキングトルクのモータからの出力を伴ってエンジンがクランキングされて始動されるようエンジンとモータとを制御する。したがって、モータの基本トルクとエンジンの脈動トルクとに応じてクランキングトルクを設定するから、ねじれトルクが所定トルクを超えて大きくなるのをより適正に抑制することができる。この結果、エンジンの始動時に車両に振動やショックが生じるのをより適正に抑制することができる。
【0009】
こうした本発明の車両において、前記始動時制御手段は、前記基本トルクと前記エンジンの脈動トルクとを用いて前記ねじれトルクとして想定される想定ねじれトルクを求めて、前記想定ねじれトルクが前記所定トルク以下のときには前記基本トルクを前記クランキングトルクに設定し、前記想定ねじれトルクが前記所定トルクより大きいときには前記所定トルクと前記エンジンの脈動トルクとの和のトルクを前記モータの回転軸に換算したトルクを前記クランキングトルクに設定する手段である、ものとすることもできる。
【0010】
また、本発明の車両において、前記始動時制御手段は、前記基本トルクと、前記所定トルクと前記エンジンの脈動トルクとの和のトルクを前記モータの回転軸に換算したトルクと、のうち小さい方のトルクを前記クランキングトルクに設定する手段である、ものとすることもできる。
【0011】
さらに、本発明の車両では、前記基本トルクは、前記エンジンのモータリング開始からの経過時間および/または前記エンジンの回転数と前記基本トルクとの関係を用いて得られるトルクである、ものとすることもできる。
【0012】
あるいは、本発明の車両において、前記車軸に連結された駆動軸と前記後段軸と前記モータの回転軸との3軸に3つの回転要素が接続されたプラネタリギヤと、前記バッテリと電力のやりとりが可能で前記駆動軸に動力を入出力可能な第2のモータと、を備えるものとすることもできる。
【0013】
上述のいずれかの態様の本発明の車両では、前記始動時制御手段は、前記クランキングトルクの基本値である基本トルクと前記エンジンのクランク角に応じた該エンジンの脈動トルクとに応じて、前記ねじれ要素のねじれに起因して生じるねじれトルクが予め定められた所定トルク以下となるよう前記クランキングトルクを設定する手段であるものとしたが、前記モータから出力されているトルクと前記エンジンのクランク角に応じた該エンジンの脈動トルクとに応じて、前記ねじれ要素のねじれに起因して生じるねじれトルクが予め定められた所定トルク以下となるよう前記クランキングトルクを設定する手段であるものとしたり、前記エンジンの回転数と前記後段軸の回転数とに応じて、前記ねじれ要素のねじれに起因して生じるねじれトルクが予め定められた所定トルク以下となるよう前記クランキングトルクを設定する手段であるものとしたりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される始動時駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】要求トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図4】エンジン22の始動時における経過時間tstartとモータMG1の仮トルクTm1tmpとエンジン22の回転数Neとの関係の一例を示す説明図である。
【図5】脈動トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図6】エンジン22を始動する際の動力分配統合機構30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図の一例を示す説明図である。
【図7】ダンパ28のねじれ角θdとねじれトルクTdとの関係の一例を示す説明図である。
【図8】変形例の始動時駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図9】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図10】変形例のハイブリッド自動車220の構成の概略を示す構成図である。
【図11】変形例のハイブリッド自動車320の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料として動力を出力するエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にねじれ要素としてのダンパ28を介してキャリアが接続されると共に駆動輪38a,38bにデファレンシャルギヤ37を介して連結された駆動軸36にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸36に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子をスイッチング制御することによってモータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されてインバータ41,42を介してモータMG1,MG2と電力をやりとりするバッテリ50と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52と、車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、HVECUという)70と、を備える。
【0017】
エンジンECU24は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。エンジンECU24には、エンジン22の運転状態を検出する各種センサから信号、例えば、クランクシャフト26の回転位置を検出するクランクポジションセンサ23からのクランク角θcrやエンジン22の冷却水の温度を検出する水温センサからの冷却水温Tw,燃焼室内に取り付けられた圧力センサからの筒内圧力Pin,燃焼室へ吸排気を行なう吸気バルブや排気バルブを開閉するカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサからのカム角θca,スロットルバルブのポジションを検出するスロットルバルブポジションセンサからのスロットル開度TP,吸気管に取り付けられたエアフローメータからの吸入空気量Qa,同じく吸気管に取り付けられた温度センサからの吸気温Ta,排気系に取り付けられた空燃比センサからの空燃比AF,同じく排気系に取り付けられた酸素センサからの酸素信号O2などが入力ポートを介して入力されており、エンジンECU24からは、エンジン22を駆動するための種々の制御信号、例えば、燃料噴射弁への駆動信号やスロットルバルブのポジションを調節するスロットルモータへの駆動信号,イグナイタと一体化されたイグニッションコイルへの制御信号,吸気バルブの開閉タイミングの変更可能な可変バルブタイミング機構への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。また、エンジンECU24は、HVECU70と通信しており、HVECU70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをHVECU70に出力する。なお、エンジンECU24は、クランクシャフト26に取り付けられたクランクポジションセンサ23からの信号に基づいてクランクシャフト26の回転数、即ちエンジン22の回転数Neも演算している。
【0018】
モータECU40は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの回転位置θm1,θm2や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力ポートを介して入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。また、モータECU40は、HVECU70と通信しており、HVECU70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをHVECU70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からのモータMG1,MG2の回転子の回転位置θm1,θm2に基づいてモータMG1,MG2の回転角速度ωm1,ωm2や回転数Nm1,Nm2も演算している。
【0019】
バッテリECU52は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧Vbやバッテリ50の出力端子に接続された電力ラインに取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流Ib,バッテリ50に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりHVECU70に送信する。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために、電流センサにより検出された充放電電流Ibの積算値に基づいてそのときのバッテリ50から放電可能な電力の容量の全容量に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりしている。なお、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、電池温度Tbに基づいて入出力制限Win,Woutの基本値を設定し、バッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて出力制限用補正係数と入力制限用補正係数とを設定し、設定した入出力制限Win,Woutの基本値に補正係数を乗じることにより設定することができる。
【0020】
HVECU70は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。HVECU70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号やシフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。HVECU70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。なお、実施例のハイブリッド自動車20では、シフトポジションセンサ82により検出するシフトポジションSPとして、駐車時に用いる駐車ポジション(Pポジション),後進走行用のリバースポジション(Rポジション),中立のニュートラルポジション(Nポジション),前進走行用のドライブポジション(Dポジション)などが用意されている。
【0021】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20では、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を計算し、この要求トルクTr*に対応する要求動力が駆動軸36に出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2との運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてがプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されて駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや、要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部がプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力が駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード,エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力を駆動軸36に出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。なお、トルク変換運転モードと充放電運転モードとは、いずれもエンジン22の運転を伴って要求動力が駆動軸36に出力されるようエンジン22とモータMG1とモータMG2とを制御するモードであり、実質的な制御における差異はないため、以下、両者を合わせてエンジン運転モードという。
【0022】
エンジン運転モードでは、HVECU70は、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accと車速センサ88からの車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を設定し、設定した要求トルクTr*に駆動軸36の回転数Nr(例えば、モータMG2の回転数Nm2や車速Vに換算係数を乗じて得られる回転数)を乗じて走行に要求される走行用パワーPdrv*を計算すると共に計算した走行用パワーPdrv*からバッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて得られるバッテリ50の充放電要求パワーPb*(バッテリ50から放電するときが正の値)を減じてエンジン22から出力すべきパワーとしての要求パワーPe*を設定する。そして、要求パワーPe*を効率よくエンジン22から出力することができるエンジン22の回転数NeとトルクTeとの関係としての動作ライン(例えば燃費最適動作ライン)を用いてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定し、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で、エンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*となるようにするための回転数フィードバック制御によってモータMG1から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm1*を設定すると共にモータMG1をトルク指令Tm1*で駆動したときにプラネタリギヤ30を介して駆動軸36に作用するトルクを要求トルクTr*から減じてモータMG2のトルク指令Tm2*を設定し、設定した目標回転数Ne*と目標トルクTe*とについてはエンジンECU24に送信し、トルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40に送信する。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによってエンジン22が運転されるようエンジン22の吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などを行ない、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。こうした制御により、エンジン22を効率よく運転しながらバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で要求トルクTr*を駆動軸36に出力して走行することができる。このエンジン運転モードでは、エンジン22の要求パワーPe*がエンジン22を運転停止した方がよい要求パワーPe*の範囲の上限として定められた停止用閾値Pstop以下に至ったときなどエンジン22の停止条件が成立したときに、エンジン22の運転を停止してモータ運転モードに移行する。
【0023】
モータ運転モードでは、HVECU70は、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を設定し、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定する共にバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で要求トルクTr*が駆動軸36に出力されるようモータMG2のトルク指令Tm2*を設定してモータECU40に送信する。そして、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。こうした制御により、エンジン22を運転停止した状態でバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で要求トルクTr*を駆動軸36に出力して走行することができる。このモータ運転モードでは、要求トルクTr*に駆動軸36の回転数Nrを乗じて得られる走行用パワーPdrv*からバッテリ50の充放電要求パワーPb*を減じて得られるエンジン22の要求パワーPe*がエンジン22を始動した方がよい要求パワーPe*の範囲の下限として定められた始動用閾値Pstart以上に至ったときなどエンジン22の始動条件が成立したときに、エンジン22を始動してエンジン運転モードに移行する。
【0024】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に、エンジン22を始動する際の動作について説明する。図2は、ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される始動時駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、エンジン22の始動条件が成立したときに実行される。
【0025】
始動時駆動制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや車速センサ88からの車速V,エンジン22のクランク角θcrや回転数Ne,モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2,バッテリ50の入出力制限Win,Woutなど制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、エンジン22のクランク角θcrは、クランクポジションセンサ23により検出されたものをエンジンECU24から通信により入力するものとした。また、エンジン22の回転数Neは、クランクポジションセンサ23からのクランク角θcrに基づいて演算されたものをエンジンECU24から通信により入力するものとした。さらに、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2は、回転位置検出センサ43,44により検出されたモータMG1,MG2のロータの回転位置に基づいて演算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、バッテリ50の電池温度Tbとバッテリ50の蓄電割合SOCとに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。
【0026】
こうしてデータを入力すると、入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を設定する(ステップS110)。要求トルクTr*は、実施例では、アクセル開度Accと車速Vと要求トルクTr*との関係を予め定めて要求トルク設定用マップとして図示しないROMに記憶しておき、アクセル開度Accと車速Vとが与えられると記憶したマップから対応する要求トルクTr*を導出して設定するものとした。図3に要求トルク設定用マップの一例を示す。
【0027】
続いて、エンジン22の回転数Neとクランキング開始からの経過時間tstartとに基づいてモータMG1の仮トルクTm1tmpを設定する(ステップS120)。図4は、エンジン22の始動時における経過時間tstartとモータMG1の仮トルクTm1tmpとエンジン22の回転数Neとの関係の一例を示す説明図である。図示するように、エンジン22の始動条件が成立した(始動指示がなされた)時間t1の直後から、レート処理を用いて、絶対値が比較的大きな正のトルク(エンジン22の回転数Neを増加させる方向のトルク)をモータMG1の仮トルクTm1tmpに設定して、エンジン22の回転数Neを迅速に増加させる。そして、エンジン22の回転数Neが共振回転数帯(例えば、400rpm〜600rpmなど)を通過したり共振回転数帯を通過するのに要する時間が経過したりした時間t2から、レート処理を用いて、エンジン22を安定して所定回転数Nstart(例えば、1000rpmや1200rpmなど)以上でモータリング可能なトルクをモータMG1の仮トルクTm1tmpに設定して、モータMG1の電力消費や駆動軸36に作用するトルクを小さくする。そして、エンジン22の回転数Neが所定回転数Nstartに至った時間t3から、レート処理を用いて、モータMG1の仮トルクTm1tmpを値0とし、エンジン22の完爆が判定された時間t4から、発電用のトルクをモータMG1の仮トルクTm1tmpに設定する。ここで、所定回転数Nstartは、エンジン22の燃料噴射制御や点火制御を開始する回転数である。
【0028】
次に、エンジン22のクランク角θcrに基づいてエンジン22の脈動トルクTepulを設定する(ステップS130)。エンジン22の脈動トルクTepulは、実施例では、エンジン22をクランキングしたときのエンジン22のクランク角θcrと脈動トルクTepulとの関係を予め実験や解析などによって定めて脈動トルク設定用マップとして図示しないROMに記憶しておき、エンジン22のクランク角θcrが与えられると記憶したマップから対応するエンジン22の脈動トルクTepulを導出して設定するものとした。脈動トルク設定用マップの一例を図5に示す。
【0029】
そして、モータMG1の仮トルクTm1tmpとエンジン22の脈動トルクTepulとプラネタリギヤ30のギヤ比ρ(サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)とを用いて、次式(1)により、仮トルクTm1tmpでモータMG1を駆動したときにダンパ28のねじれに起因してダンパ28で生じるトルク(以下、ねじれトルクTdという)として想定される想定ねじれトルクTdasを計算する(ステップS140)。エンジン22を始動する際の動力分配統合機構30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図の一例を図6に示す。図中、左のS軸はモータMG1の回転数Nm1であるサンギヤの回転数を示し、C軸はエンジン22の回転数Neであるキャリアの回転数を示し、R軸はモータMG2の回転数Nm2である駆動軸36の回転数Nrを示す。なお、R軸上の2つの太線矢印は、モータMG1から出力されてプラネタリギヤ30を介して駆動軸36に作用するトルク(−Tm1/ρ)と、モータMG2から出力されて駆動軸36に作用するトルクTm2とを示す。式(1)は、プラネタリギヤ30のサンギヤとモータMG1の回転子とを連結するサンギヤ軸のトルク(モータMG1の仮トルクTm1tmp)をキャリア軸に換算したトルク(右辺第1項)と、エンジン22の脈動トルクTepulと、の差分によって想定ねじれトルクTdasを計算する式であり、図6の共線図を用いれば容易に導くことができる。なお、ダンパ28のねじれトルクTdは、ダンパ28のねじれに起因してダンパ28で生じるトルクであるから、プラネタリギヤ30のキャリアとダンパ28とを連結するキャリア軸には、ダンパ28のねじれ(ねじれ角θd)が小さくなるようにねじれトルクTdとは反対方向のトルクが作用すると考えることができる。
【0030】
Tdas=Tm1tmp・(1+ρ)/ρ-Tepul (1)
【0031】
こうしてダンパ28の想定ねじれトルクTdasを計算すると、計算した想定ねじれトルクTdasを所定トルクTdrefと比較する(ステップS150)。ここで、所定トルクTdrefは、仮トルクTm1tmpでモータMG1を駆動するとダンパ28のねじれが過剰に大きくなって車両に振動やショックが発生するおそれがある振動想定状態であるか否かを判定するために用いられるものであり、ダンパ28の特性などによって定めることができる。図7は、ダンパ28のねじれ角θdとねじれトルクTdとの関係の一例を示す説明図である。ダンパ28は、一般に、ねじれ角θdが大きいほどねじれトルクTdが大きくなり、且つ、ねじれ角θdが大きいほどねじれ角θdの増加に対するねじれトルクTdの増加が大きくなる特性を有している。特に、図7の例では、ねじれ角θdが所定トルクTdrefに対応するねじれ角である所定角θdrefより大きな領域では、ねじれ角θdの若干の増加に対してねじれトルクTdが急増している。したがって、ダンパ28をこの領域で使用すると、ねじれトルクTdが過剰に大きくなり、車両に振動やショックが発生するおそれがあると共にダンパ28の劣化が促進されるおそれがある。ステップS150の想定ねじれトルクTdと所定トルクTdrefとの比較は、こうしたおそれがあるか否かを判定する処理である。
【0032】
ダンパ28の想定ねじれトルクTdasが所定トルクTdref以下のときには、モータMG1の仮トルクTm1tmpモータMG1のトルク指令Tm1*に設定する(ステップS160)。一方、想定ねじれトルクTdが所定トルクTdrefより大きいときには、所定トルクTdrefとエンジン22の脈動トルクTepulとプラネタリギヤ30のギヤ比ρとを用いて次式(2)によりモータMG1のトルク指令Tm1*を計算する(ステップS170)。式(2)は、式(1)の「Tdas」を「Tdref」に置き換えて変形して得られる式である。このようにモータMG1のトルク指令Tm1*を設定することにより、トルク指令Tm1*でモータMG1を駆動したときに、ねじれトルクTdが所定トルクTdref以下となるようにすることができる。この結果、モータMG1からトルク指令Tm1*に相当するトルクを出力してエンジン22をクランキングするときに、ダンパ28のねじれトルクTdが過剰に大きくなるのを抑制することができ、車両に振動やショックが発生するのを抑制することができる。しかも、モータMG1の仮トルクTm1tmpとエンジン22の脈動トルクTepulとに応じてダンパ28のねじれトルクTdが所定トルクTdref以下となるようモータMG1のトルク指令Tm1*を設定するから、予め定められた時間領域や調整量を用いてモータMG1のトルク指令Tm1*を設定するものに比して、ダンパ28のねじれトルクTdが過剰になる大きくなるのをより適正に抑制することができる。さらに、仮トルクTm1tmpでモータMG1を駆動するとダンパ28のねじれトルクTd(想定ねじれトルクTdas)が所定トルクTdrefより大きくなるときに、ねじれトルクTdが所定トルクTdrefとなるようモータMG1のトルク指令Tm1*を設定するから、ねじれトルクTdが所定トルクTdrefより小さなトルクとなるようモータMG1のトルク指令Tm1*を設定するものに比してモータMG1のトルクの制限の程度を必要最小限にすることができる。
【0033】
Tm1*=(Tdref+Tepul)・ρ/(1+ρ) (2)
【0034】
続いて、要求トルクTr*とモータMG1のトルク指令Tm1*とプラネタリギヤ30のギヤ比ρとを用いて次式(3)によりモータMG2から出力すべきトルクの仮の値である仮トルクTm2tmpを計算すると共に(ステップS180)、バッテリ50の入出力制限Win,Woutと設定したトルク指令Tm1*に現在のモータMG1の回転数Nm1を乗じて得られるモータMG1の消費電力(発電電力)との差分をモータMG2の回転数Nm2で割ることによってモータMG2から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tm2min,Tm2maxを式(4)および式(5)により計算し(ステップS190)、設定した仮トルクTm2tmpを式(6)によってトルク制限Tm2min,Tm2maxで制限してモータMG2のトルク指令Tm2*を設定し(ステップS200)、設定したモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信する(ステップS210)。モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、トルク指令Tm1*,Tm2*でモータMG1,MG2が駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0035】
Tm2tmp=Tr*+Tm1*/ρ (3)
Tm2min=(Win-Tm1*・Nm1)/Nm2 (4)
Tm2max=(Wout-Tm1*・Nm1)/Nm2 (5)
Tm2*=max(min(Tm2tmp,Tm2max),Tm2min) (6)
【0036】
そして、エンジン22の回転数Neを上述の所定回転数Nstartと比較し(ステップS220)、エンジン22の回転数Neが所定回転数Nstart未満のときには、ステップS100に戻る。そして、ステップS100〜S220の処理を繰り返し実行している最中にエンジン22の回転数Neが所定回転数Nstart以上に至ると(ステップS220)、燃料噴射制御や点火制御を指示するための制御信号をエンジンECU24に送信し(ステップS230)、エンジン22が完爆に至ったか否かを判定し(ステップS240)、未だ完爆に至っていないときにはステップS100に戻り、完爆に至ったときに本ルーチンを終了する。
【0037】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、エンジン22をクランキングするためのモータMG1の仮トルクTm1tmpとエンジン22のクランク角θcrに応じたエンジン22の脈動トルクTepulとを用いてダンパ28のねじれトルクTdとして想定される想定ねじれトルクTdasを求めて、想定ねじれトルクTdasが所定トルクTdref以下のときには仮トルクTm1tmpをモータMG1のトルク指令Tm1*に設定し、想定ねじれトルクTdasが所定トルクTdrefより大きいときにはダンパ28のねじれトルクTdが所定トルクTdrefとなるようモータMG1のトルク指令Tm1*を設定し、設定したトルク指令Tm1*がモータMG1から出力されてエンジン22がモータリングされて始動されるようエンジン22とモータMG1とを制御するから、ダンパ28のねじれトルクTdが所定トルクTdrefを超えて大きくなるのをより適正に抑制することができる。この結果、エンジン22の始動時に車両に振動やショックが生じるのをより適正に抑制することができる。
【0038】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG1の仮トルクTm1tmpとエンジン22の脈動トルクTepulとを用いてダンパ28の想定ねじれトルクTdasを計算し、計算したダンパ28の想定ねじれトルクTdasが所定トルクTdref以下のときにはモータMG1の仮トルクTm1tmpをモータMG1のトルク指令Tm1*に設定し、ダンパ28の想定ねじれトルクTdasが所定トルクTdrefより大きいときにはダンパ28のねじれトルクTdが所定トルクTdrefとなるようモータMG1のトルク指令Tm1*を設定するものとしたが、ダンパ28の想定ねじれトルクTdasを計算せずに、ダンパ28のねじれトルクTdが所定トルクTdref以下となるようモータMG1のトルク指令Tm1*を設定するものとしてもよい。図8は、この場合の始動時駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、図2の始動時駆動制御ルーチンのステップS140〜S170の処理に代えてステップS300の処理を実行する点を除いて図2の始動時駆動制御ルーチンと同一である。したがって、同一の処理については同一のステップ番号を付し、その詳細な説明は省略する。図8の始動時駆動制御ルーチンでは、モータMG1の仮トルクTm1tmpやエンジン22の脈動トルクTepulを設定すると(ステップS120,S130)、モータMG1の仮トルクTm1tmpとエンジン22の脈動トルクTepulと所定トルクTdrefとプラネタリギヤ30のギヤ比ρとを用いて次式(7)によりモータMG1のトルク指令Tm1*を設定し(ステップS300)、ステップS180以降の処理を実行する。ここで、式(7)の右辺の後半「(Tdref+Tepul)・ρ/(1+ρ)」は、上述の式(2)の右辺である。したがって、式(7)は、モータMG1の仮トルクTm1tmpを、ダンパ28のねじれトルクTdが所定トルクTdrefとなるモータMG1のトルクで制限したものとなる。これにより、実施例と同様に、ダンパ28のねじれトルクが過剰になるのを抑制することができ、車両に振動やショックが発生するのを抑制することができる。
【0039】
Tm1*=min(Tm1tmp,(Tdref+Tepul)・ρ/(1+ρ)) (7)
【0040】
実施例のハイブリッド自動車20では、ダンパ28の想定ねじれトルクTdasが所定トルクTdrefより大きいときには、上述の式(2)により、ねじれトルクTdが所定トルクTdrefとなるようモータMG1のトルク指令Tm1*を設定するものとしたが、ねじれトルクTdが所定トルクTdrefより若干小さなトルクとなるようモータMG1のトルク指令Tm1*を設定するものとしてもよい。
【0041】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG1の仮トルクTm1tmpとエンジン22の脈動トルクTepulとを用いてダンパ28の想定ねじれトルクTdasを計算し、計算したダンパ28の想定ねじれトルクTdasに応じて、ダンパ28のねじれトルクTdが所定トルクTdref以下となるようモータMG1のトルク指令Tm1*を設定するものとしたが、モータMG1から出力されているトルク(前回のモータMG1のトルク指令Tm1*や、モータMG1の各相に流れている相電流Iu,Iv,Iwに基づいてモータMG1から出力されていると推定されるトルク)とエンジン22の脈動トルクTepulとを用いてダンパ28のねじれトルクTdを計算し、計算したダンパ28のねじれトルクTdに応じて、ダンパ28のねじれトルクTdが所定トルクTdref以下となるようモータMG1のトルク指令Tm1*を設定するものとしてもよい。
【0042】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG1の仮トルクTm1tmpとエンジン22の脈動トルクTepulとを用いてダンパ28の想定ねじれトルクTdasを計算し、計算したダンパ28の想定ねじれトルクTdasに応じて、ダンパ28のねじれトルクTdが所定トルクTdref以下となるようモータMG1のトルク指令Tm1*を設定するものとしたが、エンジン22の回転数Neと、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2を用いて計算されるキャリア軸(プラネタリギヤ30のキャリアとダンパ28とを連結する軸)の回転数と、を用いてダンパ28のねじれ角θdを計算すると共に計算したダンパ28のねじれ角θdを用いてダンパ28のねじれトルクTdを求めて(図7参照)、求めたダンパ28のねじれトルクTdに応じて、ダンパ28のねじれトルクTdが所定トルクTdref以下となるようモータMG1のトルク指令Tm1*を設定するものとしてもよい。
【0043】
実施例のハイブリッド自動車20では、車両の振動(駆動軸36の回転変動)を抑制するための制振トルクTvを考慮せずに、モータMG2の仮トルクTm2tmpをバッテリ50の入出力制限Win,Woutで制限したトルクがモータMG2から出力されるようモータMG2(インバータ42)を制御するものとしたが、制振トルクTvを考慮して、モータMG2の仮トルクTm2tmpと制振トルクTvとの和のトルクをバッテリ50の入出力制限Win,Woutで制限したトルクがモータMG2から出力されるようモータMG2(インバータ42)を制御するものとしてもよい。ここで、制振トルクTvは、例えば、駆動軸36に換算した駆動輪38a,38bの回転速度としての駆動輪回転角速度ωbとモータMG2の回転角速度ωm2との差に制御ゲインkvを乗じたものを用いることができる。なお、駆動輪回転角速度ωbやモータMG2の回転角速度ωm2は、回転位置検出センサ44により検出されたモータMG2の回転子の回転位置に基づいて演算されたものをモータECU40から通信により入力して用いることができる。
【0044】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2からの動力を駆動軸36に出力するものとしたが、図9の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2からの動力を駆動軸36が接続された車軸(駆動輪38a,38bが接続された車軸)とは異なる車軸(図9における車輪39a,39bに接続された車軸)に接続するものとしてもよい。
【0045】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22からの動力をプラネタリギヤ30を介して駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に出力するものとしたが、図10の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、エンジン22のクランクシャフトにダンパ28を介して接続されたインナーロータ232と駆動輪38a,38bに動力を出力する駆動軸36に接続されたアウターロータ234とを有しエンジン22からの動力の一部を駆動軸36に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230を備えるものとしてもよい。
【0046】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22からの動力をプラネタリギヤ30を介して駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に出力すると共にモータMG2からの動力を駆動軸36に出力するものとしたが、図11の変形例のハイブリッド自動車320に例示するように、駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に変速機330を介してモータMGを取り付けると共にモータMGの回転軸にダンパ28を介してエンジン22を接続する構成とし、エンジン22からの動力をモータMGの回転軸と変速機330とを介して駆動軸36に出力すると共にモータMGからの動力を変速機330を介して駆動軸に出力するものとしてもよい。
【0047】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「エンジン」に相当し、モータMG1が「モータ」に相当し、バッテリ50が「バッテリ」に相当し、エンジン22をクランキングするためのモータMG1の仮トルクTm1tmpとエンジン22のクランク角θcrに応じたエンジン22の脈動トルクTepulとを用いてダンパ28のねじれトルクTdとして想定される想定ねじれトルクTdasを求めて、想定ねじれトルクTdasが所定トルクTdref以下のときには仮トルクTm1tmpをモータMG1のトルク指令Tm1*に設定し、想定ねじれトルクTdasが所定トルクTdrefより大きいときにはねじれトルクTdが所定トルクTdrefとなるようモータMG1のトルク指令Tm1*を設定し、設定したトルク指令Tm1*がモータMG1から出力されてエンジン22がモータリングされて始動されるようエンジン22とモータMG1とを制御する、HVECU70とエンジンECU24とモータECU40とが「始動時制御手段」に相当する。また、プラネタリギヤ30が「プラネタリギヤ」に相当し、モータMG2が「第2のモータ」に相当する。
【0048】
ここで、「エンジン」としては、ガソリンや軽油などを燃料として動力を出力するエンジン22に限定されるものではなく、水素エンジンなど、車軸に連結された後段軸にねじれ要素を介して出力軸が接続されたものであれば如何なるタイプのエンジンであっても構わない。「モータ」としては、同期発電電動機として構成されたモータMG1に限定されるものではなく、誘導電動機など、後段軸に動力を出力可能なものであれば如何なるタイプのモータであっても構わない。「バッテリ」としては、リチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ50に限定されるものではなく、ニッケル水素二次電池やニッケルカドミウム二次電池,鉛蓄電池など、モータに電力を供給可能なものであれば如何なるタイプのバッテリであっても構わない。「始動時制御手段」としては、HVECU70とエンジンECU24とモータECU40とからなる組み合わせに限定されるものではなく、単一の電子制御ユニットによって構成されるものなどとしてもよい。また、「始動時制御手段」としては、エンジン22をクランキングするためのモータMG1の仮トルクTm1tmpとエンジン22のクランク角θcrに応じたエンジン22の脈動トルクTepulとを用いてダンパ28のねじれトルクTdとして想定される想定ねじれトルクTdasを求めて、求めた想定ねじれトルクTdasが所定トルクTdref以下のときには仮トルクTm1tmpをモータMG1のトルク指令Tm1*に設定し、想定ねじれトルクTdasが所定トルクTdrefより大きいときにはねじれトルクTdが所定トルクTdrefとなるようモータMG1のトルク指令Tm1*を設定し、設定したトルク指令Tm1*がモータMG1から出力されてエンジン22がモータリングされて始動されるようエンジン22とモータMG1とを制御するものに限定されるものではなく、エンジンの始動指示がなされたとき、モータからのクランキングトルクの出力を伴ってエンジンがクランキングされて始動されるようエンジンとモータとを制御するものにおいて、クランキングトルクの基本値である基本トルクとエンジンのクランク角に応じたエンジンの脈動トルクとに応じて、ねじれ要素のねじれに起因するねじれトルクが予め定められた所定トルク以下となるようクランキングトルクを設定するものであれば如何なるものとしても構わない。「プラネタリギヤ」としては、プラネタリギヤ30(シングルピニオン式のプラネタリギヤ)に限定されるものではなく、ダブルピニオン式のプラネタリギヤや、複数のプラネタリギヤの組み合わせによって構成されたものなど、車軸に連結された駆動軸と後段軸とモータの回転軸との3軸に3つの回転要素が接続されたものであれば如何なるタイプのプラネタリギヤであっても構わない。「第2のモータ」としては、同期発電電動機として構成されたモータMG2に限定されるものではなく、誘導電動機など、バッテリと電力のやりとりが可能で駆動軸に動力を入出力可能なものであれば如何なるタイプのモータであっても構わない。
【0049】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0050】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、車両の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0052】
20,120,220,320 ハイブリッド自動車、22 エンジン、23 クランクポジションセンサ、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 プラネタリギヤ、36 駆動軸、37 デファレンシャルギヤ、38a,38b 駆動輪、39a,39b 車輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(HVECU)、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、230 対ロータ電動機、232 インナーロータ、234 アウターロータ、330 変速機、MG,MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸に連結された後段軸にねじれ要素を介して出力軸が接続されたエンジンと、前記後段軸に動力を出力可能なモータと、前記モータに電力を供給可能なバッテリと、前記エンジンの始動指示がなされたとき、前記モータからのクランキングトルクの出力を伴って前記エンジンがクランキングされて始動されるよう前記エンジンと前記モータとを制御する始動時制御手段と、を備える車両であって、
前記始動時制御手段は、前記クランキングトルクの基本値である基本トルクと前記エンジンのクランク角に応じた該エンジンの脈動トルクとに応じて、前記ねじれ要素のねじれに起因して生じるねじれトルクが予め定められた所定トルク以下となるよう前記クランキングトルクを設定する手段である、
車両。
【請求項2】
請求項1記載の車両であって、
前記始動時制御手段は、前記基本トルクと前記エンジンの脈動トルクとを用いて前記ねじれトルクとして想定される想定ねじれトルクを求めて、前記想定ねじれトルクが前記所定トルク以下のときには前記基本トルクを前記クランキングトルクに設定し、前記想定ねじれトルクが前記所定トルクより大きいときには前記所定トルクと前記エンジンの脈動トルクとの和のトルクを前記モータの回転軸に換算したトルクを前記クランキングトルクに設定する手段である、
車両。
【請求項3】
請求項1記載の車両であって、
前記始動時制御手段は、前記基本トルクと、前記所定トルクと前記エンジンの脈動トルクとの和のトルクを前記モータの回転軸に換算したトルクと、のうち小さい方のトルクを前記クランキングトルクに設定する手段である、
車両。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つの請求項に記載の車両であって、
前記車軸に連結された駆動軸と前記後段軸と前記モータの回転軸との3軸に3つの回転要素が接続されたプラネタリギヤと、
前記バッテリと電力のやりとりが可能で前記駆動軸に動力を入出力可能な第2のモータと、
を備える車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−86516(P2013−86516A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225483(P2011−225483)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】