説明

車体の骨格構造

【課題】 ピラーを大型化することなく、高い操縦安定性や静粛性を実現することができる車体の骨格構造を提供する。
【解決手段】 リンフォースDピラー37に形成した第1のセパレータ37aでレールインナ27の内部空間を前後に区画するとともに、左右のリンフォースDピラー37とレールリヤ31とで環状の骨格構造を形成し、同様に、リンフォースCピラー47に形成した第2のセパレータ47aでレールインナ27の内部空間を前後に区画するとともに、左右のリンフォースCピラー47とブレース32とで環状の骨格構造を形成し、さらに、レールインナ27によって前後のリンフォースCピラー47とリンフォースDピラー37との相互変位を抑制する構成とする。これにより、左右のリンフォースDピラー37及び左右のリンフォースCピラー47間で相互に効率よく補剛する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、リヤピラーと当該リヤピラーの前方に位置するピラー間における車体の骨格構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車体の剛性は、車両の操縦安定性や静粛性等の向上に大きく寄与することが知られている。すなわち、例えば、車体剛性を向上させると、操舵時にフロントサスペンションに入力される荷重に対してリヤタイヤの追従性が向上し、操縦安定性が向上する。また、車体剛性を向上させると、ルーフパネルの振動に起因する車室内の籠り音の発生(いわゆる、ドラミング)が抑制され、静粛性が向上する。このため、従来より、車体剛性の向上を図るべく、車体側部に配設される各ピラーの構造等を改善した骨格構造について、数多くの提案がなされている。
【0003】
その一方で、近年では、いわゆるスライドドアを備えた車両等において、ドア開口部を広く確保するため、センタピラー(Bピラー)を省略した車体の骨格構造が提案されている。この種の骨格構造では、Bピラーを省略することによる車体剛性の低下を最小限に抑制する必要がある。この対策として、リヤクォータピラー(Cピラー)を補剛することでBピラーの省略による車体剛性の低下を効果的に抑制できることが知られており、例えば、非特許文献1には、他のピラーに対し、Cピラーを相対的に大型化した技術が開示されている。
【非特許文献1】2003年9月、自研センター発行「構造調査シリーズNO:J−341」、P96〜97
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の非特許文献1に開示された技術のように、Cピラーを大型化した場合、該Cピラーによって乗員に圧迫感を与える虞がある。すなわち、上述のようにBピラーを省略した骨格構造は、通常、前後に3列のシートを備えた車両に広く適用されるが、この種の車両においてCピラーを大型化した場合、3列目のシートに着座した乗員の前方の視界がCピラーによって遮られる等の不具合を生じる場合がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、ピラーを大型化することなく、高い操縦安定性や静粛性を実現することができる車体の骨格構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ルーフパネルの左右側部に沿って前後方向に延設される各レールサイドに、少なくとも3本のピラーの上端部がそれぞれ連結する車体の骨格構造において、上記レールサイドに配設され、上記各ピラーのうちの最後部に位置する第1のピラーと当該第1のピラーの直前方に位置する第2のピラーとの相互の変位を抑制するレール骨格部材と、上記ルーフパネルに配設され、左右の上記第1のピラーに対応する位置で左右の上記レール骨格部材間に架設する第1のルーフ骨格部材と、上記ルーフパネルに配設され、左右の上記第2のピラーに対応する位置で左右の上記レール骨格部材間に架設する第2のルーフ骨格部材と、上記第1のピラーに配設され、上記レール骨格部材が連結する上端部に上記レール骨格部材の内部空間を前後に区画する第1のセパレータを有する第1のピラー骨格部材と、上記第2のピラーに配設され、上記レール骨格部材が連結する上端部に上記レール骨格部材の内部空間を前後に区画する第2のセパレータを有する第2のピラー骨格部材とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車体の骨格構造によれば、ピラーを大型化することなく、高い操縦安定性や静粛性を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一形態に係わり、図1は車体の要部を左斜め後方から見た斜視図、図2は図1のI領域の車体骨格の要部をアウタパネル及びルーフパネルを取り外して示す斜視図、図3は図2の車体骨格の要部を車体の左斜め前方から見た斜視図、図4は図2のA−A線に沿う車体の要部断面図、図5は図2のB−B線に沿う車体の要部断面図、図6は図2のC−C線に沿う車体の要部断面図、図7は図2のD−D線に沿う車体の要部断面図である。
【0009】
図1において符号1は車体を示し、本実施形態において、車体1は、車室内に前後3列のシートが配設される、いわゆる3列シート車に好適な車体である。
【0010】
この車体1の下部には左右のサイドシル5が前後方向に沿って延設され、このサイドシル5の後部には、リヤフレームサイド(図示せず)に固設するリヤホイルハウス6が連設されている。ここで、図示しないが、リヤホイルハウス6の頂部にはリヤストラットサスペンションを支持するストラットマウントが設けられており、このストラットマウントを介して、車体1側と後輪側との間の荷重伝達が可能となっている。
【0011】
一方、車体1の上部において、ルーフパネル7の左右側部には、左右のレールサイド8が前後方向に沿って延設されている。このレールサイド8の前端部には、フロントピラー(Aピラー)9の上端部が連結されている。このAピラー9は、車体1のフロントウインドウ開口部10に沿って下方に延設され、その下端部がサイドシル5の前端部に接続されている。
【0012】
また、レールサイド8の後端部には、第1のピラーとしてのリヤピラー(Dピラー)11の上端が連結されている。このDピラー11は、車体1の後部に開口するリヤゲート開口部12に沿って下方に延設され、その下端部が、直接或いはフロアパネル等を介してリヤフレームサイドの後端部に連結されている。
【0013】
さらに、Dピラー11の前方において、レールサイド8には、第2のピラーとしてのリヤクォータピラー(Cピラー)13の上端部が連結され、このCピラー13の下端部がリヤホイルハウス6を介してリヤフレームサイドに連結されている。
【0014】
そして、車体1の側部において、Aピラー9とCピラー13とで囲まれた領域には、ドア開口部14が形成されている。すなわち、本実施形態において、車体1はセンタピラー(Bピラー)を省略した骨格構造をなし、これにより、車体1の側部には、フロントドア開口部とリヤドア開口部とが一体的に開口する大型のドア開口部14が形成されている。
【0015】
また、車体1の側部において、Cピラー13とDピラー11とで囲まれた領域には、リヤクォータウインドウ開口部15が形成されている。
【0016】
ここで、図4,5に示すように、レールサイド8は、車体後部の車外側に配設されるクォータパネルアウタ20に形成されたレールサイドアウタパネル部25と、車体後部の車室側に配設されるクォータパネルインナ21に形成されたレールサイドインナパネル部26と、これらの間に介装されるレールインナ27とを有し、これらがフランジ接合等によって相互に接合されて要部が構成されている。
【0017】
また、ルーフパネル7は、車体1の頂部に配設されるルーフパネルアウタ30(図1,4参照)と、該ルーフパネルアウタ30の後端に沿って左右のレールインナ27間に架設する第1のルーフ骨格部材としてのレールリヤ31(図1〜3参照)と、レールリヤ31よりも前方で左右のレールインナ27間に架設する第2のルーフ骨格部材としてのブレース32(図2〜4参照)とを有し、これらがフランジ接合等によって相互に接合されて要部が構成されている。
【0018】
また、図7に示すように、Dピラー11は、クォータパネルアウタ20に形成されたDピラーアウタパネル部35と、クォータパネルインナ21に形成されたDピラーインナパネル部36と、これらの間に介装される第1のピラー骨格部材としてのリンフォースDピラー37とを有し、これらがフランジ接合等によって相互に接合されて要部が構成されている。
【0019】
また、図6に示すように、Cピラー13は、クォータパネルアウタ20に形成されたCピラーアウタパネル部45と、クォータパネルインナ21に形成されたCピラーインナパネル部46と、これらの間に介装される第2のピラー骨格部材としてのリンフォースCピラー47とを有し、これらがフランジ接合等によって相互に接合されて要部が構成されている。
【0020】
ここで、図1に示すように、本実施形態において、Dピラー11の上端部側は前方に大きく傾斜されており、これにより、Dピラー11は、Cピラー13に比較的近接した位置でレールサイド8に連結されている。
【0021】
このような車体1の骨格構造において、図2,3に示すように、レールインナ27は、車体前後方向に沿う略樋状の凹部27aと、該凹部27aの両縁辺部に形成されるフランジ部27b,27cとを備えた板金部材で構成されている。ここで、図4,5に示すように、レールインナ27の凹部27aは車体1の外方にやや傾斜した状態で配置されており、さらに、一方のフランジ部27bが車体1の下方に指向し、他方のフランジ部27cがフランジ27bよりも下方で車体1の内方に指向した状態で配置されている。
【0022】
左右の各レールインナ27の後端部において、該レールインナ27の両フランジ部27b,27cには、リンフォースDピラー37の先端部が固着されている。さらに、リンフォースDピラー37の先端部の前縁には、凹部27aの内部空間を前後に区画する第1のセパレータ37aが形成されており、この第1のセパレータ37aには凹部27aに沿って接合するフランジ部37bが形成されている。そして、第1のセパレータ37aは、リンフォースDピラー37の稜線に沿って凹部27aの内部空間を区画することにより、レールインナ27とリンフォースDピラー37との間に良好な荷重伝達経路を形成する。換言すれば、第1のセパレータ37aは、リンフォースDピラー37の稜線に沿って凹部27aの内部空間を区画するボックス断面を形成することにより、該第1のセパレータ37aを境界として、レールインナ27上の前後方向への荷重の伝達を抑制する。
【0023】
また、レールリヤ31は、その両端部が各リンフォースDピラー37の先端部と連続する位置でレールインナ27間に架設されており、これにより、車体1には、一方のリンフォースDピラー37に入力された荷重をレールリヤ31を介して他方のリンフォースDピラー37に伝達可能な環状の骨格構造が形成されている。
【0024】
同様に、リンフォースDピラー37の前方において、レールインナ27の両フランジ27b,27cには、リンフォースCピラー47の先端部が固着されている。さらに、リンフォースCピラー47の先端部の前縁には、凹部27aの内部空間を前後に区画する第2のセパレータ47aが形成されており、この第2のセパレータ47aには凹部27aに沿って接合するフランジ部47bが形成されている。そして、第2のセパレータ47aは、リンフォースCピラー47の稜線に沿って凹部27aの内部空間を区画することにより、レールインナ27とリンフォースCピラー47との間に良好な荷重伝達経路を形成する。換言すれば、第2のセパレータ47aは、リンフォースCピラー47の稜線に沿って凹部27aの内部空間を区画するボックス断面を形成することにより、該第2のセパレータ47aを境界として、レールインナ27上の前後方向への荷重の伝達を抑制する。
【0025】
また、ブレース32は、その両端部が各リンフォースCピラー47の先端部と連続する位置でレールインナ27間に架設されており、これにより、車体1には、一方のリンフォースCピラー47に入力された荷重をブレース32を介して他方のリンフォースCピラー47に伝達可能な環状の骨格構造が形成されている。
【0026】
ここで、本実施形態において、リンフォースDピラー37の上端部はリンフォースCピラー47の上端部に比較的近接した位置でレールインナ27に連結されているため、レールインナ27は、リンフォースDピラー37とリンフォースCピラー47との間での相互の変位を抑制する。すなわち、リンフォースDピラー37とリンフォースCピラー47との間において、レールインナ27はレール骨格部材として機能を実現する。なお、リンフォースDピラー37上端部とリンフォースCピラー47の上端部との間が離間している場合には、これらの間において、レールインナ27上に補剛部材を追加することでレール骨格部材としての機能を実現させることも可能である。
【0027】
このような実施形態によれば、リンフォースDピラー37に形成した第1のセパレータ37aでレールインナ27の内部空間を前後に区画するとともに、左右のリンフォースDピラー37とレールリヤ31とで環状の骨格構造を形成し、同様に、リンフォースCピラー47に形成した第2のセパレータ47aでレールインナ27の内部空間を前後に区画するとともに、左右のリンフォースCピラー47とブレース32とで環状の骨格構造を形成し、さらに、レールインナ27によって前後のリンフォースCピラー47とリンフォースDピラー37との相互変位を抑制する構成とすることにより、左右のリンフォースDピラー37間及び左右のリンフォースCピラー47間で相互に効率よく荷重を伝達して、相互に補剛することができる。
【0028】
従って、Bピラーを省略して車体1を構成した場合等にも、Cピラー47等を必要以上に大型化させることなく高い車体剛性を実現することができ、高い操縦安定性や静粛性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】車体の要部を左斜め後方から見た斜視図
【図2】図1のI領域の車体骨格の要部をアウタパネル及びルーフパネルを取り外して示す斜視図
【図3】図2の車体骨格の要部を車体の左斜め前方から見た斜視図
【図4】図2のA−A線に沿う車体の要部断面図
【図5】図2のB−B線に沿う車体の要部断面図
【図6】図2のC−C線に沿う車体の要部断面図
【図7】図2のD−D線に沿う車体の要部断面図
【符号の説明】
【0030】
1 … 車体
7 … ルーフパネル
8 … レールサイド
9 … フロントピラー
11 … リヤピラー(第1のピラー)
13 … リヤクォータピラー(第2のピラー)
14 … ドア開口部
20 … クォータパネルアウタ
21 … クォータパネルインナ
25 … レールサイドアウタパネル部
26 … レールサイドインナパネル部
27 … レールインナ(レール骨格部材)
27a … 凹部
27b,27c … フランジ部
30 … ルーフパネルアウタ
31 … レールリヤ(第1のルーフ骨格部材)
32 … ブレース(第2のルーフ骨格部材)
35 … Dピラーアウタパネル部
36 … Dピラーインナパネル部
37 … リンフォースDピラー37(第1のピラー骨格部材)
37a … 第1のセパレータ
37b … フランジ部
45 … Cピラーアウタパネル部
46 … Cピラーインナパネル部
47 … リンフォースCピラー(第2のピラー骨格部材)
47a … 第2のセパレータ
47b … フランジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーフパネルの左右側部に沿って前後方向に延設される各レールサイドに、少なくとも3本のピラーの上端部がそれぞれ連結する車体の骨格構造において、
上記レールサイドに配設され、上記各ピラーのうちの最後部に位置する第1のピラーと当該第1のピラーの直前方に位置する第2のピラーとの相互の変位を抑制するレール骨格部材と、
上記ルーフパネルに配設され、左右の上記第1のピラーに対応する位置で左右の上記レール骨格部材間に架設する第1のルーフ骨格部材と、
上記ルーフパネルに配設され、左右の上記第2のピラーに対応する位置で左右の上記レール骨格部材間に架設する第2のルーフ骨格部材と、
上記第1のピラーに配設され、上記レール骨格部材が連結する上端部に上記レール骨格部材の内部空間を前後に区画する第1のセパレータを有する第1のピラー骨格部材と、
上記第2のピラーに配設され、上記レール骨格部材が連結する上端部に上記レール骨格部材の内部空間を前後に区画する第2のセパレータを有する第2のピラー骨格部材とを備えたことを特徴とする車体の骨格構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−298164(P2006−298164A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122714(P2005−122714)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】