説明

車体後部構造

【課題】ルーフ後方中央凹部とリヤハッチ中央凹部とを連続する空気流路を形成することで、車両デザインの外観性向上と、空気流の剥離面積低減との両立を図ることができる車体後部構造の提供を目的とする。
【解決手段】リヤハッチ3を備えたハッチバック車両1の車体後部構造であって、車体ルーフ2は後面視で上凸の緩円弧形状に形成されたルーフ基本形状αを備える一方、ルーフ2の後端部から前方に所定距離L内で、かつ車幅方向の中央部の所定幅Wにおいて、ルーフ基本形状αより低い位置に形成されたルーフ後方中央凹部4を備え、リヤハッチ3の上端部はリヤハッチ3閉時にルーフ後端部のルーフ基本形状αの高さに略一致する両肩部20,21と、ルーフ後方中央凹部4の高さに略一致するリヤハッチ中央凹部22とを備え、ルーフ後方中央凹部4とリヤハッチ中央凹部22とを連続するルーフ後端部空気流路26が形成されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ルーフパネル後方に上開き構造のリヤハッチを備えたハッチバック車両のような車体後部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の空気抵抗を低減させるには、空気抗力係数Cdを小さくすればよく、車体後部を絞って空気流が剥がれる面積(剥離面積)を小さくすると、Cdが低減できることが知られている。
【0003】
ルーフ部については特許文献1に開示されているように、車体上面のルーフの後部に、車体後側下方に向けて切り落とし角度(約10度が望ましい)で傾斜した切り落とし部を形成すると、Cdの低減に好適な効果が得られることが知られている。
【0004】
しかし、上述の切り落とし部をルーフ後部の車幅方向全幅にわたって形成すべく、ルーフ後端部の全体を下降させた場合には、Cd低減を図ることができる利点がある反面、車両デザインの外観性、特に側面視外観を損ねる問題点があり、デザイン自由度が拘束される問題点があった。
【特許文献1】特開2002−120769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、この発明は、後面視で上凸の緩円弧形状に形成されたルーフ基本形状を備えて成るルーフに対して局所的にルーフ後方中央凹部を設け、リヤハッチ上端部にはその閉時にルーフ後端部のルーフ基本形状の高さに略一致する両肩部と、ルーフ後方中央凹部の高さに略一致するリヤハッチ中央凹部とを備え、空気抗力係数Cdを低減すべく、ルーフ後方中央凹部をその前端部から後方に向けて下降させ、ルーフ後方中央凹部とリヤハッチ中央凹部とを連続する空気流路を形成することで、車両デザインの外観性向上と、空気流の剥離面積低減との両立を図ることができる車体後部構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明による車体後部構造は、リヤハッチを備えたハッチバック車両の車体後部構造であって、車体ルーフは車両前後方向の全域にわたって後面視で上凸の緩円弧形状に形成されたルーフ基本形状を備える一方、上記ルーフの後端部から前方に所定距離内で、かつ車幅方向の中央部の所定幅において上記ルーフ基本形状より低い位置に形成されたルーフ後方中央凹部を備え、上記リヤハッチの上端部は該リヤハッチ閉時にルーフ後端部のルーフ基本形状の高さに略一致する両肩部と、ルーフ後方中央凹部の高さに略一致するリヤハッチ中央凹部とを備え、上記ルーフ後方中央凹部はその前端部から後方に向けて下降するように形成され、上記ルーフ後方中央凹部と上記リヤハッチ中央凹部とを連続するルーフ後端部空気流路が形成されたものである。
【0007】
上記構成によれば、ルーフの後端部から前方に所定距離内で、かつ車幅方向の中央部の所定幅において上記ルーフ後方中央凹部を形成したものである。すなわち、該ルーフ後方中央凹部は局所的に設けられたものであり、リヤハッチ側においてはルーフ基本形状の高さに略一致する両肩部と、ルーフ後方中央凹部の高さに略一致するリヤハッチ中央凹部とを備え、このリヤハッチ中央凹部も局所的に形成されたものである。しかも、空気抗力係数Cdを低減すべく、該ルーフ後方中央凹部をその前端部から後方に向けて下降すべく形成し、さらに、ルーフ後方中央凹部とリヤハッチ中央凹部とを連続するルーフ後端部空気流路を形成したので、車両デザインの外観性向上と、空気流の剥離面積低減との両立を図ることができる。
【0008】
この発明の一実施態様においては、上記リヤハッチ中央凹部を跨ぐスポイラ部を設け、上記ルーフ後端部空気流路を流動する空気流が上記スポイラ部と上記リヤハッチ中央凹部との間を通過するように構成したものである。
上記構成によれば、上述のスポイラ部により空力能性の向上を図ることができる。
【0009】
この発明の一実施態様においては、上記スポイラ部はリヤハッチ上端部の両肩部の高さと略連続して車幅方向に延びるように形成されたものである。
上記構成によれば、スポイラ部がリヤハッチ上端部の両肩部の高さと略連続して車幅方向に延びるので、車両外観の向上を図ることができる。
【0010】
この発明の一実施態様においては、上記リヤハッチはルーフ後端部の雨桶部において上記ルーフ後方中央凹部の車幅方向外側に設けた左右一対のヒンジを介して上開き可能に取付けられ、上記雨桶部の縦壁部は前方に膨出する凹形状を有さないものである。
【0011】
換言すれば、雨樋部の縦壁部は、ルーフの後端部から真っ直ぐ下方に立下がるフラット形状を有するように構成されたものである。
上記構成によれば、雨樋部における縦壁部の凹状の前方膨出形状(いわゆるネガ形状)を廃止することができ、ルーフの成形の容易化と、加工工数の低減と、コストダウンとの両立を図ることができる。
【0012】
すなわち、リヤハッチは、両肩部と、上述のルーフ後方中央凹部の高さに略一致するリヤハッチ中央凹部とを備えているので、リヤハッチ開閉時における車幅方向中央部分のリヤハッチ上端エッジ部の回動軌跡が小さくなり、このリヤハッチ上端エッジ部がルーフ後端部における雨樋部の縦壁部と干渉しなくなるので、該雨樋部の縦壁部における前方膨出形状を廃止することができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記ルーフ後方中央凹部および上記リヤハッチ中央凹部を、その車幅方向中心部が両側より低くなるように後面視で略V字状に形成したものである。
上記構成によれば、上述のルーフ後端部空気流路はルーフ後方中央凹部とリヤハッチ中央凹部とに連続して形成されるが、これらの各中央凹部は後面視で略V字状に形成されているので、上記空気流路を流れる空気流量を確保、増大することができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記ルーフ後方中央凹部とその車幅方向両端部との境界部において前後方向に連続する傾斜壁部が形成されたものである。
上記構成によれば、上述の傾斜壁部により空気流路の確保が容易になると共に、該傾斜壁部がビードとして作用するので、ルーフ剛性、ルーフ強度の向上を図ることができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、上記リヤハッチは樹脂製のアウタパネルと、樹脂製のインナパネルとを備えたものである。
上記構成によれば、リヤハッチの上述の両肩部およびリヤハッチ中央凹部を樹脂により容易に成形することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、後面視で上凸の緩円弧形状に形成されたルーフ基本形状を備えて成るルーフに対して局所的にルーフ後方中央凹部を設け、リヤハッチ上端部にはその閉時にルーフ後端部のルーフ基本形状の高さに略一致する両肩部と、ルーフ後方中央凹部の高さに略一致するリヤハッチ中央凹部とを備え、空気抗力係数Cdを低減すべく、ルーフ後方中央凹部をその前端部から後方に向けて下降させ、ルーフ後方中央凹部とリヤハッチ中央凹部とを連続する空気流路を形成したので、車両デザインの外観性向上と、空気流の剥離面積低減との両立を図ることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
車両デザインの外観性向上と、空気流の剥離面積低減との両立を図るという目的を、リヤハッチを備えたハッチバック車両の車体後部構造において、車体ルーフは車両前後方向の全域にわたって後面視で上凸の緩円弧形状に形成されたルーフ基本形状を備える一方、ルーフの後端部から前方に所定距離内で、かつ車幅方向の中央部の所定幅において、ルーフ基本形状より低い位置に形成されたルーフ後方中央凹部を備え、リヤハッチの上端部は該リヤハッチ閉時にルーフ後端部のルーフ基本形状の高さに略一致する両肩部と、ルーフ後方中央凹部の高さに略一致するリヤハッチ中央凹部とを備え、ルーフ後方中央凹部はその前端部から後方に向けて下降するように形成され、ルーフ後方中央凹部と上記リヤハッチ中央凹部とを連続するルーフ後端部空気流路を形成するという構成にて実現した。
【実施例】
【0018】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は車体後部構造を示し、図1はハッチバック車両の全体側面図、図2は図1の車両を後方から見た状態で示す要部の斜視図、図3は図2のA−A線に沿うヒンジ取付け部の矢視断面図、図4は図2のB−B線に沿う車両中央部の矢視断面図であって、図1〜図4において、このハッチバック車両1は、ルーフパネル2の後端部に、上方に開放する上開き構造のリヤハッチ3が取付けられている。
【0019】
図1、図2に示すように上述のルーフパネル2は車両の前後方向の全域にわたって後面視で上凸(上方に突出する凸形状)の緩円弧形状に形成されたルーフ基本形状αを備えている。
【0020】
しかも、図2に示すように、上述のルーフパネル2の後端部から車両前方に所定距離L内(例えば、50cm程度の距離内)で、かつ、車幅方向の中央の所定幅Wで、なおかつ、後述する左右一対のヒンジ14,14(図5参照)間において上述のルーフ基本形状αよりも低い位置に形成されたルーフ後方中央凹部4を備えている。
【0021】
図3、図4に示すように、ルーフパネル2の後端部には、該後端部から下方に立下がる縦壁部5aと、この縦壁部5aの下端から後方に略水平に延びる水平部5bと、この水平部5bの後端から下方に立下がる縦壁部5cと、この縦壁部5cの下端から後方に略水平に延びる水平部5dと、この水平部5dの後方に一体連設されたシール部材嵌着部5eとから成る雨樋部5が一体形成されている。
【0022】
また、上述のルーフパネル2の後部下面乃至雨樋部5の下面には、リヤヘッダアウタパネル6とリヤヘッダインナパネル7とから成るリヤヘッダ8が接合されると共に、このリヤヘッダ8がルーフパネル2に接合される前側部位と、縦壁部5aの下端近傍に対応するリヤヘッダアウタパネル6との間には、リヤヘッダレインフォースメント9が設けられて、これらの車体剛性部材6,7,9によりルーフパネル2の後部剛性を確保すべく構成している。
【0023】
さらに、上述のルーフパネル2およびリヤヘッダ8の車室側にはトリム部材10(いわゆるトップシーリング)を配設する一方、雨樋部5のシール部材嵌着部5eに嵌合したウエザストリップ11で、雨樋部5とリヤハッチ3との間、並びに、嵌着部5eとトリム部材10の後端部との間をシールすべく構成している。
【0024】
上述の雨樋部5の水平部5bに対応して、リヤヘッダ8には車幅方向に延びるリヤヘッダ閉断面12が形成されており、このリヤヘッダ閉断面12と対応すべく上述の水平部5bおよびリヤヘッダアウタパネル6には、ボルト、ナット等の取付け部材13を用いて左右一対のヒンジ14,14が取付けられている。
【0025】
上述のリヤハッチ3は、ルーフ後方中央凹部4の車幅方向外側に位置するこれら左右一対のヒンジ14,14を介して、ルーフパネル2後端部の雨樋部5に対して上開き可能に取付けられたものである。
【0026】
このリヤハッチ3は、図3、図4に示すように、合成樹脂製のアウタパネル15と、合成樹脂製のインナパネル16と、ヒンジ14の取付け部のみに対応して両パネル15,16間に設けられた鉄板製のヒンジレインフォースメント17と、リヤウインドガラス18とから構成されており、このリヤハッチ3の車室側所定部にはトリム部材19が配設されている。
【0027】
図5、図6はスポイラを除去した状態で示す図面であって、図5は要部の拡大平面図、図6は車両1の要部背面図であって、図2、図5、図6に示すように、リヤハッチ3の上端部は、該リヤハッチ3の閉時にルーフパネル2の後端部のルーフ基本形状αの高さに略一致する左右の両肩部20,21と、上述のルーフ後方中央凹部4の高さに略一致するリヤハッチ中央凹部22とを備え、リヤハッチ3の開閉時における車幅方向中央部分のリヤハッチ上端エッジ部の回動軌跡を小さくして、図4に示すように雨樋部5の縦壁部5aにおける前方膨出形状(同図に仮想線で示す従来の凹形状β2参照)を廃止している。
【0028】
このリヤハッチ中央凹部22の車幅方向中心部の上端の高さは、図4に示すように、上述のヒンジ14のヒンジセンタHCの高さ位置に対して略同等またはそれ以下(但し、図4では略同等の場合を例示)に設定されている。
【0029】
ここで、上述のルーフ後方中央凹部4の構造について、さらに詳述すると、このルーフ後方中央凹部4の高さは、図2、図4、図6に示すように、ルーフ基本形状αの高さと等しい前端部4aから後端部4bにかけて漸次低くなるように形成されている。換言すれば、ルーフ後方中央凹部4の凹部の深さが、その前端部4aから後端部4bにかけて次第に深くなるように形成されており、このルーフ後方中央凹部4はルーフ基本形状αの高さから後方に向けて下降するように形成され、このルーフ後方中央凹部4および上述のリヤハッチ中央凹部22を車両前後方向に連続するルーフ後端部空気流路26(以下単に空気流路26と略記する)が形成されている。ここで、上述のルーフ後方中央凹部4の後方への下降角度は空気抗力係数Cdの低下を目的として約10度に設定されている。
【0030】
また、上述のルーフ後方中央凹部4とその車幅方向の両端部との境界部xにおいて、車両の前後方向にわたる傾斜壁部としての段差部23が形成されている。この段差部23はルーフ後方中央凹部4の凹部の深さに対応して、その前端部では上下方向の寸法が小さく、車両後方に行くに従って上下方向の寸法が次第に大となるように形成されると共に、図2、図6に示す如く、該段差部23は境界部xに相当する車幅方向の外方が高く、車幅方向の内方が低くなる外高内低状のスラント形状に形成されている。
【0031】
さらに、ルーフ後方中央凹部4の車幅方向中心部4cはその両側よりも低くなるように後面視で略V字状に形成されている。この実施例では、ルーフ後方中央凹部4の車幅方向中心部4cは段差部23の下端部yよりも低くなるように構成されている。
【0032】
このように形成されたルーフ後方中央凹部4の後端部の高さに略一致する上述のリヤハッチ中央凹部22は次のように構成されている。
すなわち、このリヤハッチ中央凹部22の高さは、図2、図4、図5、図6、
図7に示すようにその前端部22aから後端部22bにかけて漸次低くなるように形成されている。
【0033】
また、上述のリヤハッチ中央凹部22と、その車幅方向左右の両肩部20,21との境界部mにおいて外高内低状に傾斜するスラント状の段差部24が形成されている。
さらに、リヤハッチ中央凹部22の車幅方向中心部22cはその両側よりも低くなるように後面視で略V字に形成されている。この実施例では、リヤハッチ中央凹部22の車幅方向中心部22cは段差部24の下端部nよりも低くなるように構成されている。
【0034】
要するに、リヤハッチ3の閉成時において、ルーフパネル2側のルーフ後方中央凹部4と、リヤハッチ3上端側のリヤハッチ中央凹部22とが車両の前後方向に連続するように形成されたものである。
【0035】
そして、図2、図4、図7に示すように、上述のリヤハッチ中央凹部22を車幅方向に跨ぐスポイラ部としてのリヤスポイラ25が設けられ、上述の空気流路26を流動する空気流がこのリヤスポイラ25とリヤハッチ中央凹部22との間を図4に矢印で示すように通過すべく構成している。
【0036】
図2に示すように、上述のリヤスポイラ25は、リヤハッチ3の上端部の車幅方向外側部における両肩部20,21の高さと略連続して車幅方向に延びるもので、このリヤスポイラ25は図4に断面図で示すように、後方に光を放射する光源部としてのLED27と、その基板28(つまりLED基板)と、リヤスポイラ25の下面部を構成し、基板28を介してLED27を支持する基部としてのハウジング29と、リヤスポイラ25の上面部および後面部を構成する赤色透明体部としてのアウタレンズ30とを備え、LED27の光をアウタレンズ30を通して後方に放射すべく構成している。
【0037】
ここで、上述のLED27は図8に示すように、その複数個が基板28に一列状に設けられており、この基板28を介してリヤスポイラ25内に収容されている。
【0038】
図7に分解斜視図で示すように、リヤスポイラ25のハウジング29はリヤハッチ3のアウタパネル15と一体成形されている。上述の各LED27に電源を供給するハーネス31は図7に示すように、ハウジング29に開口形成された孔部32を介してリヤハッチ3側へ配設されて、この孔部32はハーネスグロメット33で閉塞される。また、アウタレンズ30は複数のビス等の取付け部材34を用いてハウジング29乃至リヤハッチ中央凹部22の段差部24に取付けられる。
【0039】
ここで、上述のハウジング29をリヤハッチ3のアウタパネル15と一体形成する構造に代えて、各要素27〜31から成るリヤスポイラ25をサブアセンブリし、このリヤスポイラ25を、リヤハッチ3におけるリヤハッチ中央凹部22の段差部24に後付けする構造を採用してもよい。
【0040】
なお、図中、矢印Fは車両前方を示し、矢印Rは車両後方を示すものである。また、図3、図4において仮想線Zは後席乗員の頭部を概略的に示すものである。さらに、図4においては本実施例の構造と、従来例の構造とを対比する目的で、従来構造のルーフパネルβ1と、従来構造の雨樋部の縦壁部において前方に膨出する凹形状β2と、従来構造のリヤハッチβ3とをそれぞれ仮想線にて併記している。
【0041】
このように構成した車体後部構造において、車両の走行時には図9に矢印dで示すように、ルーフの後面視ラウンド形状に起因して空気流がルーフ中央部に集まり、ルーフ後端部を通過した車幅方向の中心流が車幅方向外側に引き寄せられ、ルーフ後端部の平面視円弧形状に起因して、両ルーフサイド後方には一般に発生する内回りの一対の渦(剥離流)(矢印e参照)が強くなり、この渦が外向きに指向するが、本実施例ではルーフ後方中央凹部4およびリヤハッチ中央凹部22により中心流cを強くすることができるので、上述の両側への吸い寄せに抗して、上記渦(矢印e参照)を低減して、空気抗力係数Cdの低減を図ることができると推考される。
【0042】
このように、上記実施例の車体後部構造は、リヤハッチ3を備えたハッチバック車両1の車体後部構造であって、車体ルーフ(ルーフパネル2参照)は車両前後方向の全域にわたって後面視で上凸の緩円弧形状に形成されたルーフ基本形状αを備える一方、上記ルーフ(ルーフパネル2)の後端部から前方に所定距離L内で、かつ車幅方向の中央部の所定幅Wにおいて上記ルーフ基本形状αより低い位置に形成されたルーフ後方中央凹部4を備え、上記リヤハッチ3の上端部は該リヤハッチ3の閉時にルーフ後端部のルーフ基本形状αの高さに略一致する両肩部20,21と、ルーフ後方中央凹部4の高さに略一致するリヤハッチ中央凹部22とを備え、上記ルーフ後方中央凹部4はその前端部から後方に向けて下降するように形成され、上記ルーフ後方中央凹部4と上記リヤハッチ中央凹部22とを連続する空気流路26が形成されたものである。
【0043】
この構成によれば、ルーフ(ルーフパネル2参照)の後端部から前方に所定距離L内で、かつ車幅方向の中央部の所定幅Wにおいて上記ルーフ後方中央凹部4を形成したものである。すなわち、該ルーフ後方中央凹部4は局所的に設けられたものであり、リヤハッチ3側においてはルーフ基本形状αの高さに略一致する両肩部20,21と、ルーフ後方中央凹部4の高さに略一致するリヤハッチ中央凹部22とを備え、このリヤハッチ中央凹部22も局所的に形成されたものである。しかも、空気抗力係数Cdを低減すべく、該ルーフ後方中央凹部4をその前端部から後方に向けて下降すべく形成し、さらに、ルーフ後方中央凹部4とリヤハッチ中央凹部22とを連続する空気流路26を形成したので、ルーフ後端部の全体を下降させる構造と異なり、車両デザインの外観性向上と、各中央凹部4,22による空気流の剥離面積低減との両立を図ることができる。
【0044】
また、リヤハッチ中央凹部22を跨ぐスポイラ部(リヤスポイラ25参照)を設け、上記空気流路26を流動する空気流が上記スポイラ部(リヤスポイラ25)と上記リヤハッチ中央凹部22との間を通過するように構成したものである。
この構成によれば、上述のスポイラ部(リヤスポイラ25)により空力能性の向上を図ることができる。
【0045】
さらに、上記スポイラ部(リヤスポイラ25)はリヤハッチ3上端部の両肩部20,21の高さと略連続して車幅方向に延びるように形成されたものである。
この構成によれば、スポイラ部(リヤスポイラ25)がリヤハッチ3の上端部の両肩部20,21の高さと略連続して車幅方向に延びるので、車両外観の向上を図ることができる。
【0046】
加えて、上記リヤハッチ3はルーフ後端部の雨桶部5において上記ルーフ後方中央凹部4の車幅方向外側に設けた左右一対のヒンジ14,14を介して上開き可能に取付けられ、上記雨桶部5の縦壁部5aは前方に膨出する凹形状を有さないものである。
【0047】
換言すれば、雨樋部5の縦壁部5aは、ルーフ(ルーフパネル2参照)の後端部から真っ直ぐ下方に立下がるフラット形状を有するように構成されたものである。
この構成によれば、雨樋部5における縦壁部5aの凹状の前方膨出形状(いわゆるネガ形状)を廃止することができ、ルーフパネル2の成形の容易化と、加工工数の低減と、コストダウンとの両立を図ることができる。
【0048】
すなわち、リヤハッチ3は、両肩部20,21と、上述のルーフ後方中央凹部4の高さに略一致するリヤハッチ中央凹部22とを備えているので、リヤハッチ3の開閉時における車幅方向中央部分のリヤハッチ3の上端エッジ部の回動軌跡が小さくなり、このリヤハッチ3の上端エッジ部がルーフ後端部における雨樋部5の縦壁部5aと干渉しなくなるので、該雨樋部5の縦壁部5aにおける前方膨出形状を廃止することができる。
【0049】
また、上記ルーフ後方中央凹部4および上記リヤハッチ中央凹部22を、その車幅方向中心部4c,22cが両側より低くなるように後面視で略V字状に形成したものである。
この構成によれば、上述の空気流路26はルーフ後方中央凹部4とリヤハッチ中央凹部22とに連続して形成されるが、これらの各中央凹部4,22は後面視で略V字状に形成されているので、上記空気流路26を流れる空気流量を確保、増大することができ、図9で示した中心流cをさらに強くすることができる。
【0050】
さらに、上記ルーフ後方中央凹部4とその車幅方向両端部との境界部xにおいて前後方向に連続する傾斜壁部としての段差部23が形成されたものである。
この構成によれば、上述の傾斜壁部(段差部23参照)により空気流路26の確保が容易になると共に、該傾斜壁部(段差部23)がビードとして作用するので、ルーフ剛性、ルーフ強度の向上を図ることができる。
【0051】
さらにまた、上記リヤハッチ3は樹脂製のアウタパネル15と、樹脂製のインナパネル16とを備えたものである。
この構成によれば、リヤハッチ3の上述の両肩部20,21およびリヤハッチ中央凹部22を樹脂により容易に成形することができる。
【0052】
なお、実施例で示したように、上記リヤハッチ中央凹部22の車幅方向中心部22cの上端の高さを、上記ヒンジ14のヒンジセンタHC(左右一対のヒンジ14,14のヒンジピン中心を車幅方向に結ぶ仮想ライン)の高さ位置に対して略同等またはそれ以下に設定すると、リヤハッチ中央凹部22の上端エッジ部の回動軌跡が確実に小さくなり、雨樋部5の縦壁部5aにおける前方へ膨出する凹形状β2(図4の仮想線参照)を確実に廃止することができる。
【0053】
図10は車体後部構造の他の実施例を示す部分平面図(但し、リヤスポイラを除去した状態の図面)で、図5の実施例においてはリヤハッチ中央凹部22の境界部m,mが互に略平行となるように形成したが、図10に示すこの実施例では、リヤハッチ中央凹部22およびその段差部24,24がルーフ後方中央凹部4およびその段差部23,23の延長線上に沿うように形成され、リヤハッチ中央凹部22前端の左右の境界部m,mの車幅方向間隔に対して、その後端の左右の境界部m,mの車幅方向間隔が大になるように形成されたものである。
【0054】
このように構成しても、図1〜図9で示した先の実施例とほぼ同様の作用、効果を奏するので、図10において、前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0055】
図11は車体後部構造のさらに他の実施例を示す断面図であって、図3の実施例においては、合成樹脂製のアウタパネル15と、合成樹脂製のインナパネル16との間に、ヒンジ14の取付け部のみに対応して鉄板製のヒンジレインフォースメント17を配設したが、図11に示すこの実施例では、ヒンジ14の取付け部のみに対して、樹脂製のインナパネル16の下面側に鉄板製のヒンジレインフォースメント17を配設したものである。
【0056】
このように構成しても、図1〜図9で示した先の実施例とほぼ同様の作用、効果を奏するので、図11において、前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0057】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のルーフは、実施例のルーフパネル2に対応し、
以下同様に、
ルーフ後端部空気流路は、空気流路26に対応し、
スポイラ部は、リヤスポイラ25に対応し、
傾斜壁部は、段差部23に対応するも,
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の車体後部構造を備えたハッチバック車両の側面図
【図2】車体後部構造を示す斜視図
【図3】図2のA−A線矢視断面図
【図4】図2のB−B線矢視断面図
【図5】車体後部構造を示す要部の部分拡大平面図
【図6】車体後部構造を示す部分背面図
【図7】スポイラ部を分解した状態で示す斜視図
【図8】LEDの配列構造を示す斜視図
【図9】車両走行時における空気流の状態を示す説明図
【図10】車体後部構造の他の実施例を示す部分拡大平面図
【図11】車体後部構造のさらに他の実施例を示す断面図
【符号の説明】
【0059】
2…ルーフパネル(ルーフ)
3…リヤハッチ
4…ルーフ後方中央凹部
4c…車幅方向中心部
5…雨樋部
5a…縦壁部
14…ヒンジ
15…アウタパネル
16…インナパネル
20,21…肩部
22…リヤハッチ中央凹部
22c…車幅方向中心部
23…段差部(傾斜壁部)
25…リヤスポイラ(スポイラ部)
26…空気流路(ルーフ後端部空気流路)
α…ルーフ基本形状
x…境界部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リヤハッチを備えたハッチバック車両の車体後部構造であって、
車体ルーフは車両前後方向の全域にわたって後面視で上凸の緩円弧形状に形成されたルーフ基本形状を備える一方、
上記ルーフの後端部から前方に所定距離内で、かつ車幅方向の中央部の所定幅において
上記ルーフ基本形状より低い位置に形成されたルーフ後方中央凹部を備え、
上記リヤハッチの上端部は該リヤハッチ閉時にルーフ後端部のルーフ基本形状の高さに略一致する両肩部と、ルーフ後方中央凹部の高さに略一致するリヤハッチ中央凹部とを備え、
上記ルーフ後方中央凹部はその前端部から後方に向けて下降するように形成され、
上記ルーフ後方中央凹部と上記リヤハッチ中央凹部とを連続するルーフ後端部空気流路が形成された
車体後部構造。
【請求項2】
上記リヤハッチ中央凹部を跨ぐスポイラ部を設け、上記ルーフ後端部空気流路を流動する空気流が上記スポイラ部と上記リヤハッチ中央凹部との間を通過するように構成した
請求項1記載の車体後部構造。
【請求項3】
上記スポイラ部はリヤハッチ上端部の両肩部の高さと略連続して車幅方向に延びるように形成された
請求項2記載の車体後部構造。
【請求項4】
上記リヤハッチはルーフ後端部の雨桶部において上記ルーフ後方中央凹部の車幅方向外側に設けた左右一対のヒンジを介して上開き可能に取付けられ、
上記雨桶部の縦壁部は前方に膨出する凹形状を有さない
請求項1〜3の何れか1に記載の車体後部構造。
【請求項5】
上記ルーフ後方中央凹部および上記リヤハッチ中央凹部を、その車幅方向中心部が両側より低くなるように後面視で略V字状に形成した
請求項1〜4の何れか1に記載の車体後部構造。
【請求項6】
上記ルーフ後方中央凹部とその車幅方向両端部との境界部において前後方向に連続する傾斜壁部が形成された
請求項1〜5の何れか1に記載の車体後部構造。
【請求項7】
上記リヤハッチは樹脂製のアウタパネルと、樹脂製のインナパネルとを備えた
請求項1〜6の何れか1に記載の車体後部構造。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−15416(P2007−15416A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−195699(P2005−195699)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】