説明

車室内フロア構造

【課題】前席シート部を利用して、前席側空間と後方側空間との間で、容易に乗員が移動出来る車室内フロア構造を提供する。
【解決手段】 一列目前席シート部3の車幅方向中央には、シート5が、設けられている。
このシート5のシートクッション部7は、シートバック部6と共に、車両後方へ向けて、回転中心7aを中心に回転されて転倒されて開放されると、この前席シート部3の運転席2と助手席4との間に、乗員が行き来可能な通路8が形成される。
この反転動作と同時に、シート5が待避して、後方側空間11のフロア面11bに近接する位置まで、落とし込まれる。
このため、シートクッション部7の裏面側7cのステップ部15が、反転により、後方側空間11に露出して出現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の乗員室内等に設けられたシートを利用して、車室内でフロア高低差を有する場所への移動手段とすることが出来る車室内フロア構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、乗員室内に設けられたシートを構成するシートバック部及びシートクッション部のうち、シートバック部に、足掛け部材が配置されたものが知られている(特許文献1等参照)。
【0003】
このような従来の車室内フロア部に設けられるシートでは、例えば、二階建てで、上部にも空間部が設けられたキャビン構造に用いられる。
【0004】
次に、この従来のシートが設けられた車室内フロア構造の作用効果について説明する。
【0005】
このように構成された従来の車室内フロア構造では、前記シートのシートバック部に設けられた足掛け部材を伝って、上部の空間部との間で、乗員が行き来することが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平4−132829号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来の車室内フロア構造では、運転席を設けた車両一列目の前席シート部を有する前席側空間と、後部荷室或いは、車両二列目シート部以降の後部座席シートを有する側の後方側空間との間に、大きなフロア高低差を有するフロア段差部が存在する場合がある。
【0008】
このようなフロア段差部が存在する車両では、前席側空間と後方側空間との間で、乗員が行き来する車室内移動を行う場合、このフロア段差部のフロア高低差によって、乗員の身体的負荷が増大してしまうといった問題があった。
【0009】
そこで、この発明は、前席シート部を利用して、前席側空間と後方側空間との間で、容易に乗員が移動出来る車室内フロア構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の車室内フロア構造では、運転席が設けられた車両一列目の前席シート部の少なくとも一部にシートバック部及びシートクッション部とを有するシートが、設けられている。
【0011】
前記運転席が設けられた前席側空間と、後部荷室或いは、車両二列目シート部以降の後部座席シートを有する後方側空間との間で、フロア高低差を有するフロア段差部に位置する前記シートでは、前記シートバック部を起立させることにより、前記シートクッション部の上面側に配置された座面部へ着座可能な通常着座シート状態と、該シートの待避により形成される通路を介して、前記前席側空間及び、後方側空間との間を行き来可能とするウォークスルー可能状態とを選択可能としている。
【0012】
そして、前記シートクッション部が、前記シートバック部と共に反転して、前記フロア段差部の後方側空間へ移動すると共に、該シートクッション部のうち、ステップ部が、反転により上方へ露出するように構成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車室内フロア構造では、前記前席シート部に設けられたシートが、乗員が着座可能な通常着座状態から、ウォークスルー可能状態へ選択されて移行する際に、前記シートクッション部が、前記シートバック部と共に反転して、前記フロア段差部の後方側空間へ移動することにより待避する。
【0014】
このため、前記シートクッション部が位置していた部分が、通路となると共に、該シートクッション部のうち、裏面側に位置するステップ部が、反転により上方に露出して出現する。
【0015】
従って、該ステップ部を用いて、前記フロア高低差を有するフロア段差部が、前記前席側空間と、後方側空間との間に存在しても、容易に行き来可能で、移動による身体的負荷が軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態の車室内フロア構造で、要部の構成を説明する車両斜め後方から見た一部断面分解斜視図である。
【図2】実施の形態の車室内フロア構造で、前席側空間に設けられる運転席を有する車両一列目の前席シート部の構成を説明する斜視図である。
【図3】実施の形態の車室内フロア構造で、(a)は、通常着座シート状態を、(b)は、シートバック前倒状態を、(c)は、ウォークスルー可能状態を説明する図2中A−A線に沿った位置でのシート配設部分の模式的な断面図である。
【図4】実施の形態の車室内フロア構造で、後方側空間が、車両二列目シート部としての後部座席シートを有する場合に、後側左スライドドアからの乗り降りを説明し、車両側方から車室内を見た一部透過斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態の車室内フロア構造を、図面に基づいて説明する。
【0018】
まず、図1乃至図4を用いて、全体の構成から説明すると、この実施の形態の車室内フロア構造では、運転席2が設けられた車両1の一列目である前席シート部3の車幅方向中央には、この運転席2と、左,右略対称に位置する助手席4との間に設けられるシート5が、通路8に位置するように構成されている。
【0019】
このシート5は、回動軸6aを中心に回動により前倒可能に軸支されたシートバック部6と、このシートバック部6を支持すると共に、ウォークスルー可能状態の待避時には、このシートバック部6と共に、図1中実線で示すように、車両後方へ向けて、回転中心7aを中心に回転されて転倒されるシートクッション部7とを主に有している。
【0020】
また、この実施の形態では、前記運転席2が設けられた前席側空間10と、後部荷室11a或いは、車両二列目シート部12b以降の後部座席シート12を有する後方側空間11との間で、車両上下方向の寸法hからなるフロア高低差を有するフロア段差部13に、前記通路8が位置するように構成されている。
【0021】
そして、このシート5が、通常着座シート状態では、図3中(a)に示す様に前記シートバック部6が起立されて、前記シートクッション部7の上面側に配置された座面部7bに着座可能となるように、後方側空間11のフロア面に比して、所定の寸法h高く形成される前席側空間10のフロア面10aに配置されている。
【0022】
更に、図3中(b)の実線位置に示す前倒状態では、前記シートバック部6の座面側6bが、前記シートクッション部7の座面部7bに向かい合う二つ折り状態となり、この座面側6bと反対側に位置する背面側6cが、図2に示す様に、略水平となるように前記通路8位置内で停止されるように構成されている。
【0023】
この背面側6cには、前席シート部3の車幅方向中央に位置して、この前席シート部3の運転席2又は助手席4に着座した乗員のアームレスト17として機能する肘掛け面部17a,17bが、車両前後方向に延設されている。
【0024】
また、このシートバック部6の背面側6cには、前席シート部3のコンソールとして機能する収納凹部18が形成されている。この実施の形態の収納凹部18には、カップホルダ部18a,18a及び、携帯電話等を接続する際に、滑落が防止されて載置される収納保持部18bが凹設形成されている。
【0025】
更に、図3中(c)に示す様に、ウォークスルー状態を選択すると、このシート5の後方への回動による待避により形成される通路8を介して、前記前席側空間10と、後方側空間11との間が行き来可能となる。
【0026】
このシート5の後方への待避では、所定の高さ方向寸法hだけ、前記前席側空間10のフロア面10aよりも低い後方側空間11のフロア面11bに向けて、このシートクッション部7が、前記シートバック部6と共に、反転して、前記フロア段差部13から車両後方に落とし込まれるように、移動される。
【0027】
そして、この実施の形態のシート5では、前記シートクッション部7のうち、座面部7bの反対側である裏面側7cに形成されたステップ部15が、反転により上方へ露出して出現する。
【0028】
このステップ部15には、二段の足掛け部15a,15bが間隔を置いて凹設形成されていて、図1に示す様なウォークスルー可能状態では、このフロア段差部13に階段状にステップが形成されるように前記シートクッション部7の回転が、落とし込まれた位置で、座面部7bが斜行した回動位置で停止されるように構成されている。
【0029】
また、この実施の形態では、図4に示す様に、前記後方側空間11の左側面部に位置して、スライドドア開口部19が開口形成されていると共に、このスライドドア開口部19の周縁には、図示省略のスライドレールが配設されている。
【0030】
そして、このスライドレールにガイドされて、スライドドア20が、車両前後方向へ向けてスライド移動可能に設けられていて、このスライドドア20によって、前記スライドドア開口部19が開閉塞可能となるように構成されている。
【0031】
次に、この実施の形態の車両用フロア構造の作用効果について説明する。
【0032】
この実施の形態の車両用フロア構造では、まず、図2中二点鎖線に示す様に、前記前席シート部3の車幅方向中央部に設けられたシート5が、図3中(a)に示すような乗員が着座可能な通常着座状態から、図1に示す様なウォークスルー可能状態へ選択により、移行する待避動作について説明する。
【0033】
始めに、図3中(b)二点鎖線で示される通常着座状態から、前記シート5のシートバック部6を、前記回動軸6aを回転中心として、車両前方方向へ回動させて、実線位置で示される様に、前記シートクッション部7の座面部7bに対して、前記シートバック部6の座面側6bが向かい合わせられた前倒状態となる。
【0034】
次に、図3中(c)の矢印で示す様に、前記シートクッション部7を、前記シートバック部6と共に、車両後方へ向けて反転させて、開放されると、この前席シート部3の運転席2と助手席4との間に、乗員が行き来可能な前記通路8が形成される。
【0035】
この反転動作と同時に、前記フロア段差部13の後方側空間11へ向けて、これらのシート5が待避されて、この後方側空間11のフロア面11bに近接する位置まで、前記フロア段差部13から車両後方に落とし込まれて車両後方へ向けて移動されて、前記シートクッション部7の回転が、落とし込まれた位置で停止される。
【0036】
このため、前記シートクッション部7が位置していた部分が、通路8となると共に、前記フロア段差部13が、これらのシート5によって埋められて、このシートクッション部7のうち、座面部7bの反対側に位置する裏面側7cのステップ部15が、反転により上方を向いて、後方側空間11に露出して出現する。
【0037】
この実施の形態のステップ部15には、二段の足掛け部15a,15bが間隔を置いて凹設形成されていて、図1に示す様なウォークスルー可能状態では、このフロア段差部13に階段状にステップが形成される。
【0038】
従って、前記前席側空間10と後方側空間11との間に、車両上下方向の寸法hからなるフロア高低差を有するフロア段差部13が存在しても、このステップ部15及びこのステップ部15と車両前後方向で連続して形成される平坦な通路8を用いて容易に行き来可能で、移動による身体的負荷を軽減することが出来る。
【0039】
また、この実施の形態では、前記ステップ部15には、二段の足掛け部15a,15bが間隔を置いて凹設形成されていて、一段毎の段差の上,下方向寸法を減少させて、更に、身体的負荷を軽減することが出来る。
【0040】
更に、この実施の形態では、前記ステップ部15が、前記シートクッション部7のうち、座面部7bの反対側に位置する裏面側7cに形成されているので、図3中(a)に示す通常着座状態では、座面部7bに覆われて隠されていると共に、図3中(c)に示すウォークスルー可能状態では、反転により、容易に使用可能状態となり、別途、取り外し階段等の別部材を設ける場合に比して収納スペースを、必要とせずに、スペース効率が良好である。
【0041】
また、この実施の形態では、前記前席シート部3の車幅方向中央で、運転席2と助手席4との間に前記通路8を形成可能なシート5を設けている。
【0042】
このため、前記運転席2及び、助手席4の何れからも、車両1の後方側空間11に、ステップ部15を通過して、容易に行き来可能である。
【0043】
更に、この実施の形態では、図4に示す様に、前記後方側空間11の左側面部に位置して、スライドレールにガイドされたスライドドア20が、車両前後方向へ向けてスライド移動可能に設けられている。
【0044】
そして、このスライドドア20によって、前記スライドドア開口部19が、開放されることにより、運転席2又は、助手席4の乗員が、前記通路8及びフロア段差部13から、前記後方側空間11に設けられたスライドドア開口部19を介して、車両1に乗降出来る。
【0045】
このため、例えば、車両1が駐車場等で、他の車両と隣接して停車した場合等、前席側空間10のドアが充分に開けられない場合でも、前記後方側空間11に設けられたスライドドア開口部19を介して、車両1に乗降することが出来る。
【0046】
更に、この実施の形態では、図2中実線で示す様に、前記シートバック部6の背面側6cには、前記シートクッション部7の座面部7bに向かい合う前倒状態で、前席シート部3のアームレスト17として機能する肘掛け面部17a,17bが形成されている。
【0047】
このため、前記運転席2及び、助手席4の何れからも、肘掛け面部17a,17bをアームレスト17として使用することが出来、使用利便性が良好である。
【0048】
また、この実施の形態の車両用フロア構造では、前記シートバック部6の背面側6cには、前記シートクッション部7の座面部7bに向かい合う前倒状態で、前席シート部3のコンソールとして機能する収納凹部18が形成されている。
【0049】
この収納凹部18には、カップホルダ部18a,18a及び、携帯電話等を接続する際に、滑落が防止されて載置される収納保持部18bが凹設形成されていて、前記運転席2及び、助手席4の何れからも、届く位置に設けられているので、使用利便性が良好である。
【0050】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態の車室内フロア構造に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0051】
即ち、前記実施の形態の車室内フロア構造では、前席シート部3の車幅方向中央で、運転席2と助手席4との間に、前記シート5を設けているが、特にこれに限らず、運転席2又は、助手席4をシート5としても良く、運転席2又は、助手席4と、中央のシート5を同様に、ウォークスルー可能状態となるように構成する等、前席シートのどの部分に、シート5を設定しても良く、少なくとも一部にシート5があれば、どのような組み合わせを採用してもよい。
【0052】
また、前記実施の形態のステップ部15では、二段の足掛け部15a,15bが間隔を置いて凹設形成されているが、特にこれに限らず、例えば、前記ステップ部15が、単段若しくは、三段以上の複数段の足掛け部15a…を有しても良く、車両後方への反転を停止させる角度も、特に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
前記実施の形態では、この発明の車室内フロア構造が適用される構成の一例として、前記前席側空間10と、フロア段差部13を隔てて、後部荷室11aを有する後方側空間11に、車両二列目シート部12b以降の後部座席シート12を有する車両1の構成を中心に説明してきたが、特にこれに限らず、例えば、後方側空間11に、車両二列目シート部12b以降の後部座席シート12が無くても良く、車両1も、電動自動車や、ハイブリッドカー等、どのような自動車の車室内フロア構造に用いてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 車両
2 運転席
5 シート
6 シートバック部
7 シートクッション部
7b 座面部
8 通路
10 前席側空間
11 後方側空間
13 フロア段差部
15 ステップ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転席が設けられた車両一列目の前席シート部の少なくとも一部に設けられて、シートバック部及びシートクッション部とを有するシートを、前記運転席が設けられた前席側空間と、後部荷室或いは、車両二列目シート部以降の後部座席シートを有する後方側空間との間で、フロア高低差を有するフロア段差部に位置させて、前記シートクッション部の上面側に配置された座面部へ着座可能な通常着座状態と、該シートの待避により形成される通路を介して、前記前席側空間と後方側空間との間を行き来可能とするウォークスルー状態とを選択可能とした車室内フロア構造であって、
前記シートクッション部が、前記シートバック部と共に反転して、前記フロア段差部の後方側空間へ移動すると共に、該シートクッション部のうち、反転により上方へ露出する裏面側に、ステップ部を形成したことを特徴とする車室内フロア構造。
【請求項2】
前記ステップ部は、単段若しくは複数段の足掛け部を有することを特徴とする請求項1記載の車室内フロア構造。
【請求項3】
前記シートは、運転席シートと助手席シートとの間に設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の車室内フロア構造。
【請求項4】
前記シートバックの背面側には、前記シートクッション部の座面部に向かい合う前倒状態で、前席シート部のアームレストとして機能する肘掛け面部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のうち、少なくとも何れか一項記載の車室内フロア構造。
【請求項5】
前記シートバックの背面側には、前記シートクッション部の座面部に向かい合う前倒状態で、前席シート部のコンソールとして機能する収納凹部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のうち、少なくとも何れか一項記載の車室内フロア構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−25222(P2012−25222A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163943(P2010−163943)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】