説明

車軸スタビライザーのベアリングの保持装置

本発明は、該車軸スタビライザー用の弾性材料製のマウントと該弾性材料マウントを少なくとも部分的に覆う保持ブラケット(1)とからなる自動車中の車軸スタビライザーのベアリング用の保持装置に関する。該保持ブラケット(1)は、ポリマー材料から製造され、以下の工程で決められた幾何構造に相当する幾何構造を持つ。
a.シミュレーション計算により、保持ブラケット(1)の強度の利用度を計算し、
b.保持ブラケット(1)の幾何構造及び/又は保持ブラケット(1)の少なくとも一つのゲート点の位置をシミュレーション計算の結果にあわせ、利用度が特定の上限値を超える時は、壁厚を減少させるか、補強部材(7)の数を減少、補強部材(7)の大きさを減少させ、利用度が特定の下限値を下回る場合は、壁厚を増加させるか、補強部材(7)の数を増加、または補強部材(7)を強化し、
c.工程(b)において、保持ブラケット(1)の幾何構造に及び/又は少なくとも一つのゲート点の位置に変化が起こる場合は工程(a)と(b)を繰返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車軸スタビライザーのベアリングの保持装置であって、該車軸スタビライザー用の弾性材料製のマウントと該弾性材料製マウントを少なくとも部分的に包囲する保持ブラケットとからなるものに関する。
【背景技術】
【0002】
車軸スタビライザーは、自動車中で、例えば車両の一つのホイールから他のホイールに力を伝えて、例えば不均一な負荷を抑えるために使用されている。車軸スタビライザーは、通常棒の形状に作られる。これは、ホイールの近くで、スプリング・ストラットあるいは車両のボデイに固定されている。車軸スタビライザーの取り付けには適当な保持装置が用いられる。保持装置は、通常弾性材料製の保持ブラケットとマウントとをもつ。車軸スタビライザーは、弾性材料製のマウントで覆われ、後者は保持ブラケットの助けで固定されている。
【0003】
現在のところ、そこに働く負荷を吸収するために、保持ブラケットは通常金属でできている。このような保持ブラケットは、例えばDE102005002889A1に開示されている。
【0004】
弾性材料製のマウントは、保持ブラケットに対する車軸スタビライザーの相対運動を緩和する目的を果たす。マウントの弾性材料は、通常保持ブラケットに堅く連結されているのではなく、緩く覆われているため、車軸スタビライザーの相対運動の結果、この弾性材料製マウントが保持ブラケット内で動くこととなる。これは、一方では保持ブラケット内での接触とすべりの繰り返しによる騒音の発生を引き起こし、他方ではこの弾性材料に強固な機械的負荷をかけ、これによって弾性材料製のマウントが磨耗する可能性がある。
【0005】
金属製保持ブラケットのもう一つの欠点は、その比較的大きな重量である。部品の重量が増えると全体として燃料消費量が増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】DE102005002889A1
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】G.B. Jeffery、「粘稠流体中の楕円体粒子の運動」、Proc. of the Royal Society of London, Series A, 1922, pages 161−179.
【非特許文献2】T. Mori and K. Tanaka, 「マトリックス平均ストレスと不整夾雑物をもつ材料の平均弾性エネルギー」, Acta Metallurgica, VoL 21, May 1973, pages 571−574
【非特許文献3】J.D. Shelby, 「楕円体包含物の弾性応力場の決定と関連する問題」, Proc. of the Royal Society of London, Series A, 1957, pages 376−396
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、金属製保持ブラケットをもつ保持装置より重量の小さな車軸スタビライザーのベアリングの保持装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本目的は、自動車中の車軸スタビライザーのベアリング用の保持装置であって、該車軸スタビライザー用の弾性材料製のマウントと該弾性材料マウントを少なくとも部分的に包囲する保持ブラケットとからなり、該保持ブラケットが、ポリマー材料から製造され、以下の工程で決められた幾何構造に相当する幾何構造を持つ保持装置:
a.シミュレーション計算により、保持ブラケットの強度の利用度を計算し、
b.保持ブラケットの幾何構造及び/又は保持ブラケットの少なくとも一つのゲート点の位置をシミュレーション計算の結果にあわせ、利用度が特定の上限値を超える時は、壁厚を減少させるか、補強部材の数を減少、補強部材の大きさを減少させ、利用度が特定の下限値を下回る場合は、壁厚を増加させるか、補強部材の数を増加、または補強部材を強化し、
c.工程(b)において保持ブラケットの幾何構造に及び/又は少なくとも一つのゲート点の位置に変化が起こる場合は工程(a)と(b)を繰返す。
【0010】
保持ブラケットの製造工程(a)と(b)で決めた幾何構造により、強化部材の壁厚と配列と数を最適化して、保持ブラケットに可能な限り最小量のポリマー材料が使用でき、重量を小さくできる。保持ブラケットに加わる負荷と、ポリマーがスチールと比較して強度が小さいため、もし保持ブラケットをポリマー材料から製造するなら、保持ブラケットが破損することなくそこに加わる力を吸収するためには、保持ブラケットを非常に複雑にする必要がある。例えば変形や破断による故障が起こるかもしれない。工程(a)〜(c)で決めた幾何構造と一致しない幾何構造の場合、ポリマー材料の強度が低いため、強化された保持ブラケットの形状が、スチール製保持ブラケットと較べて重量減が無くなるほどの、あるいはこのポリマー材料の使用が無意味であるほどの小さな重量減となるほどの多量のポリマー材料を要求することとなる。
【0011】
ある好ましい実施様態においては、この保持ブラケットは、二枚の周辺支持壁面をもち、これらはリブ構造で相互に連結されている。このリブ構造により、内壁面から外壁面に力が転送される。中身の詰まった材料の保持ブラケットとは異なり、このリブ構造で材料が節約でき、このため重量が減少する。工程(a)〜(c)で決めた幾何構造により、リブの数と厚みが最適化され、可能な限り少ない材料の使用で、内壁面から外壁面への最大限の力の移動が起こるようになる。特に、したがって例えば大きな力が発生する位置では、リブの数を増やすか壁厚の大きなリブを用い、負荷の小さなところでは少数のリブを使うか、壁厚の小さなリブを使うことができる。壁面の厚みまた外壁面の形状も、加わる負荷に適応させることができる。
【0012】
保持ブラケットの製造のためのポリマー材料は、好ましくは繊維強化プラスチックである。繊維強化プラスチックの使用で、ポリマー材料の機械的性質、特にその引張強度が改善される。この場合、引張強度の改善は、一般的には繊維の配向方向に見られる。
【0013】
ポリマー材料製の保持ブラケットは、一般的には射出成型法で製造される。繊維強化プラスチックをポリマー材料として使用する場合、繊維の配向は、射出のパラメーターとゲート点にも依存する。したがって、繊維強化プラスチックを使用する場合の強度の利用度を決めるためには、保持ブラケットの適当な幾何構造を決めるために、工程(a)での保持ブラケットの強度の利用度の計算の前に、繊維強化プラスチック中の繊維の配向とその部品中のウェルドラインを決めるシミュレーション計算を行う必要がある。これは、特に繊維強化プラスチックを使用する場合、ウェルドラインの領域における繊維配向の変化により、繊維の配向と部品中のウェルドラインの両方が強度に影響を持つため必要である。
【0014】
保持ブラケットの製造に使用できる好適なポリマー材料は、熱可塑性ポリマーである。好ましいプラスチックは、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン、またはこれらの混合物である。極めて好適なのは、ポリアミド、例えばポリアミド6またはポリアミド6.6である。
【0015】
補強に使用できる繊維は、特にガラス繊維、炭素繊維またはアラミド繊維である。短繊維、即ち繊維長が0.5mm未満の繊維、好ましくは0.4mm未満の繊維が一般的に使用される。しかしながら、いわゆる長繊維、即ち長さが数ミリメーターまでの繊維、好ましくは長さが最大で20mmの繊維も使用できる。しかし短繊維が好ましい。ガラス短繊維が極めて好ましい。
【0016】
ポリマーは高負荷下では大きな非線形的な応力歪挙動を示すため、工程(a)〜(c)による保持ブラケットの幾何構造の決定が必要で、繊維強化プラスチックを使用する場合には、更に繊維強化プラスチック中の繊維の配向と保持ブラケット中のウェルドラインの決定が必要がある。この挙動は、一般的には歪速度にも大きく依存する。大きな歪速度の場合、ゆっくりした負荷量の場合より一般的には非常に大きな降伏応力が得られる。また、多くのポリマーの場合、この降伏応力は、引張の領域より圧縮の領域でずっと大きい。また、大きな歪の下では、部品は非弾性的であり、荷重が除かれても部品はもはや完全に弛緩しない。結果的にプラスチックは非常に複雑な非線形的な粘塑性的挙動を示す。
【0017】
繊維強化熱可塑製材料は非強化熱可塑性樹脂より良い機械的性質を示すため、繊維強化熱可塑性材料は、保持ブラケットとして特に興味がある。この部品の処理工程中での、特に射出成型でもたらされる繊維の配向のため、繊維強化熱可塑性材料の機械的性質はもはや等方的ではない。従って、材料が異方性となる。つまり材料の剛性や降伏応力、破断伸度の機械的挙動が方向に依存するようになる。
【0018】
例えば道路表面の凹凸のため不均一となる運転の動きと運転中に起こるホイールの振動のため、不均一な力学的負荷が保持ブラケットに加わる。この部品に加わる不均一な負荷は、一定の負荷とは異なる負荷となる。部品に加わる負荷が常に変化するため、小さな負荷でもこの部品の破壊につながることがある。工程(a)〜(c)による幾何構造の決定と繊維の配向と部品中のウェルドラインの決定の際に、この挙動を考慮に入れる。
【0019】
工程(a)〜(c)による幾何構造の決定と、繊維強化プラスチック中の繊維の配向と保持ブラケット中のウェルドラインの決定のための更なるシミュレーション計算により、保持ブラケットの幾何構造を、局所的に発生する負荷に適応させることができる。本発明の目的においては、この保持ブラケットの幾何構造は、例えば強化部材の壁厚や厚み、強化部材の高さや保持ブラケットの形状を意味するものとする。強化部材は、例えば保持ブラケットのリブである。例えば保持ブラケットの低負荷が発生する領域では、このリブが小さな壁厚でできており、保持ブラケットの高負荷がかかる領域は大きな壁厚でできていてもよい。この設計により、材料を削減でき、また重量を減らすことができる。また、部品の壁厚を相当する局所的な負荷に適応させることができ、設置に必要な空間を縮小することができる。
【0020】
繊維強化プラスチックを使用する場合、繊維の配向とウェルドラインの決定は、保持ブラケットの製造工程のシミュレーションにより行われることが好ましい。繊維の配向とウェルドラインとは別に、このプロセスに同様に関係する変数、例えば圧力分布や温度が、製造工程のシミュレーションで決められる。
【0021】
保持ブラケット中の繊維の配向分布密度は一般的には不均一であり、その製造工程に依存する。保持ブラケットの製造に好ましく使われる射出成型プロセスでは、繊維の配向分布密度が、 例えば、G.B. Jeffery、「粘稠流体中の楕円体粒子の運動」、Proc. of the Royal Society of London, Series A, 1922, pages 161−179.に記載の拡張ジェファー式からの数値積分による射出成型プロセスのシミュレーションデータから計算される。これにより、部品内の各位置の繊維配向テンソルが得られ、またこれにより配向分布密度の近似値が得られる。
【0022】
工程(a)のシミュレーション計算で保持ブラケットの強度の利用度を計算するには、繊維強化ポリマー材料を数値的に記述する必要がある。この数値的な記述は、ポリマー材料の粘塑性定理と繊維の弾性モデルを基礎とする材料則により行われ、複合材料、即ち繊維強化ポリマー材料のミクロ機械的モデルの記述と組み合わされる。このポリマー材料は、弾性プラスチック材料モデルで記述される。塑性ポテンシャルは、一般的には通常の応力テンソルの偏差の第一の不変量だけでなく、第二及び第三の不変量の多項定理を含む。流動則は非結合的な式である。同様に、このポテンシャルは、偏差の第一の不変量だけでなく、第二と第三の不変量の項を含む。粘度は、上記流れ条件の一時的な違反を許して式化される。降伏曲面への投影は、粘性項を通じて時間に依存する。長期的な負荷の場合、相当する長時間の反復により、その解を数値的に得る。このポリマーに対する強度仮説は、同様に応力テンソルの第一の不変量だけでなく第二及び第三の不変量を含む破壊曲面に基づくものである。破壊の記述には、重みづけにより歪速度依存性も含めた。このモデルの変数は、張力、剪断及び圧縮試験に基づいて校正される。
この繊維材料として繊維強化プラスチックを用いる場合は、弾性的に脆い挙動を仮定する。この場合の変数は、繊維材料の剛性と破断応力である。
【0023】
この複合材料のミクロ機械的モデルは、森・田中の均一化プロセスによるものである(T. Mori and K. Tanaka, 「マトリックス平均ストレスと不整夾雑物をもつ材料の平均弾性エネルギー」, Acta Metallurgica, VoL 21, May 1973, pages 571−574 and J.D. Shelby, 「楕円体包含物の弾性応力場の決定と関連する問題」, Proc. of the Royal Society of London, Series A, 1957, pages 376−396)。なお、二つの相、即ちポリマーと繊維の材料挙動への寄与は、相互に数値的に重み付けしている。考慮に入れたパラメーターは、繊維の含量と繊維の幾何構造と配向分布密度である。
【0024】
この材料則により、ポリマー中の繊維の異方性や、ポリマー材料による非線形性と歪速度依存性(周知の張力/圧縮非対称に導く)、また破壊挙動を決定することが可能となる。この高分子マトリックスがつぶれるか、繊維が切れるか、マトリックスが繊維から剥がれと破壊が起こる。また、この材料則は、容易にプロセスシミュレーションと組み合わせることができる。
【0025】
工程(a)での強度の利用度の計算は、通常の数値的な方法で行われる。この数値的方法は、一般的には差分法や、有限要素法、有限体積法である。強度利用度の計算には、有限要素法の使用が好ましい。数値計算ができるようにするには、保持ブラケットを格子ネットワークで記述する必要がある。このために、保持ブラケットの輪郭を格子ネットワークの形で描く。有限要素法で用いられる通常の格子ネットワークは、三角形の格子と長方形の格子である。格子のメッシュ幅、即ち二つの交点の間隔は、その格子ネットワークで保持ブラケットの十分に正確な描写ができるように選ばれる。複雑な領域は小さなメッシュ幅を必要とし、複雑でない領域は大きなメッシュ幅で充分である。強度計算には保持ブラケットの表面のモデル化だけでは適当でなく、内部領域のモデル化も必要であるため、保持ブラケットの全体を空間格子ネットワークの形で描く。
【0026】
繊維強化プラスチックを用いる場合、強度の利用度を算出するために、繊維強化プラスチック中の繊維の配向とウェルドラインの決定のためのシミュレーション計算で決められた繊維強化プラスチック中の繊維の配向とウェルドラインを、この格子ネットワークに転送する。強度利用度の計算に必要な他の変数は、プラスチックと繊維それぞれの材料に関わる変数である。特に、関係する材料変数は、例えば、ポリマーの弾性率やポアソン比、塑性ポテンシャルのパラメーター、粘度パラメーター、破壊強度、繊維の幾何構造や剥離抵抗性、さらには繊維の弾性率やポアソン比、引張強度である。個々の材料データの圧力依存性や温度依存性も、それぞれ考慮する必要がある。これらの変数から、繊維強化ポリマー材料の強度に関係する特性値が、複合材料記述用のミクロ機械的なモデルにより計算される。
【0027】
保持ブラケットの製造に射出成型法を用いる場合、繊維強化プラスチック中の繊維の配向と保持ブラケット中のウェルドラインの決定のためのシミュレーション計算は、射出成型プロセスのモデリングとなる。このため一般的には、射出ノズルと射出金型が格子ネットワークで描かれる。繊維を含むポリマー物質の射出操作を、このモデリングで記述する。このためには、ポリマー物質が金型中に射出される射出操作の全体を記述する必要がある。金型の三次元的局所的な記述に加えて、射出操作の時間経過も記述する必要がある。射出プロセスの時間経過は、ポリマー物質中の永続する繊維配向を与える。同時に、これにより部品中のウェルドラインの位置も記述される。
【0028】
製造工程のモデリングで記述される他の変数は、特に圧力のお変動と温度の変動である。この場合に、これらの圧力変動と温度変動は、時間的で位置的な変動である。材料データと繊維の配向分布密度とウェルドラインの位置から、保持ブラケット中の繊維強化ポリマー材料の強度に関係する特性値が決まると、強度利用度を計算することができる。このために、保持ブラケットの強度シミュレーションが行われる。
【0029】
保持ブラケットへの局所的な負荷が、強度シミュレーションの限界条件に用いられる。保持ブラケットが保有すべき必要強度を決めるためには、ここでも長期間の時間経過を決める必要がある。特に動的な負荷を考慮する必要がある。保持ブラケットの弱点が、この強度シミュレーションで求まる。例えば、これにより、例えば一定の負荷の下で保持ブラケットのどの位置で曲げまたはせん断が起こるかがわかる。保持ブラケットが曝される負荷より小さな負荷で保持ブラケットに損傷が起こる場合は、これらの地点での壁厚を増やす必要がある。同時に、保持ブラケットの破壊が起こらない点では壁厚を小さくすることができ、このようにして、この部品の壁厚を負荷に応じて局所的に適合させることができる。この結果、壁厚の最適設計により、部品全体を最大の壁厚とする必要がなくなるため、後での部品の製造における材料の削減が可能となる。このため、重量減が可能で、またこれにより車両の燃料消費量を低下させることができる。またこのようにして、必要なら保持ブラケットの設置空間も適性化できる。
【0030】
保持ブラケットに加わる負荷を緩和し、特に車軸スタビライザーからボディーに伝わる運動を完全に除くために、車軸スタビライザーが弾性材料製のマウント内に設置される。この弾性材料製マウントは、自動車のボディー上で、またはスプリングストラット上、またはホイールサスペンションのスプリングストラットフォーク上で保持ブラケットの助けにより固定されている。
【0031】
この弾性材料製マウントは、例えば横向きにおかれた二枚の半殻のような形で、または一体のマウントの形で形成されている。しかしながら、当分野の熟練者には既知のいずれか他の望ましい形も可能である。
【0032】
車軸スタビライザーのマウント用の弾性材料の好適な例としては、天然ゴム(NR)やエチレン−プロピレン−ジエン三元重合体(EPDM)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、シリコーンがあげられる。これらのうちで、天然ゴムとエチレン−プロピレン−ジエン三元重合体が特に好ましい。
【0033】
保持ブラケットに対する弾性材料製マウントの位置がずれないように、スチール製の保持ブラケットの場合には、先行技術から周知のように、弾性材料製マウントの移動を抑えるためのフランジ状のエッジが作られる。この弾性材料製マウントは、単に保持ブラケット内に収められ、このままその位置に維持される。これは、マウントの弾性材料が車軸スタビライザーの動きによりフランジ状のエッジに押し付けられることがあるという欠点を持つ。弾性材料製のマウントと保持ブラケットの間は堅く結合されていないため、弾性材料製のマウントが保持ブラケット内で滑りや圧縮を起こすことも可能である。この結果、弾性材料製のマウントに位置変化があるとき、保持ブラケット上への摩擦によりこれが抑えられ、適当な大きな力が蓄積しても、これが少し滑ることとなる。これにより、かなりの騒音が発生することとなる。弾性材料製のマウントの負荷がかからなくなると、例えば車両が静止すると、直ちに弾性材料製のマウントが、同様に騒音の発生を伴って開始位置にすべり戻る。その結果、負荷が同様に弾性材料製のマウントにかかり、この弾性材料製マウントが損傷する可能性がある。
【0034】
保持ブラケットにポリマー材料を使用する場合は、保持ブラケットの材料と弾性材料製のマウント間の摩擦が減少し、後者は騒音をあまり発生することなく保持ブラケット内を滑ることができる。
【0035】
しかしながら、弾性材料製のマウントをポリマー保持ブラケット用の材料で覆い、このようにして弾性材料製のマウントとポリマー材料間に安定な結合を形成することが好ましい。ポリマー溶融の温度は、ポリマー材料のマウントの弾性材料への融着を引き起こす。
【0036】
マウントの弾性材料にプライマーを塗布すると、このマウントの弾性材料と保持ブラケットのポリマー材料との間の接着を改善できる。この場合には、このプライマーは、マウントの弾性材料と保持ブラケットのポリマー材料との間の接着促進剤として作用する。好適なプライマーは当分野の熟練者には既知であり、また市販されている。
【0037】
マウントの弾性材料と保持ブラケットのポリマー材料の接着は、弾性材料製マウントの取り付けにフランジ状のエッジを必要としないという利点と、保持ブラケットに対する弾性材料製マウントの位置変化がもはや不可能であるという利点を有している。これにより、さらに騒音の低下が可能である。また、軸方向に圧縮されていないため、弾性材料製マウントに加わる負荷を減らす効果をもっている。弾性材料製マウントの外表面上にフランジ状のエッジが無いと自由断面も大きくなり、負荷がよりよく分布できる。また、先行技術のマウントの場合ならさらに強固な圧縮負荷につながる弾性材料製マウントのフランジ状エッジへの押し付けがない。
【0038】
ポリマー材料製の保持ブラケットを自動車に固定できるようにするためには、ブラケット上に保持端部ストラップを形成することが好ましい。通常、保持ブラケットを固定するために、保持端部ストラップ中に固定手段が内部を通過する内孔を設ける。例えばネジや鋲がこの固定手段に用いられる。
【0039】
保持ブラケットがネジで固定されている場合、固定のためのネジが導かれるブシュが保持ブラケットの上に設けられていることが望ましい。ブシュ使用の利点は、ネジに加わる保持力でこれらが相互に押し付けられることが無く、破損しないことである。また、スタビライザーの相対運動により負荷がかかる場合に、保持ブラケットに加わる力が改善される。これらのブシュは、スチール、アルミニウム、真鍮またはマグネシウム製であることが好ましい。あるいは、熱硬化性材料のブシュを使うこともできる。
【0040】
保持ブラケットが固定用の端部ストラップをもつ場合、ブシュは、端部ストラップ中に形成される。ブシュは、例えば製造工程中に保持ブラケットに設けられてもよい。このために、ブシュを金型中に置いて保持ブラケット製造用のポリマー材料で覆う(包囲する)。あるいは保持ブラケット中に貫通孔を設けて、保持ブラケットの製造後にこの中にブシュを入れることも可能である。ブシュを例えばネジに連結し、これらをネジと共に保持ブラケットに入れてもよい。
【0041】
ブシュの使用により、固定手段から、圧縮力が、保持ブラケットの亀裂などの損傷を導くかもしれない力が保持ブラケットに加わるのを防ぐことができる。
【0042】
ブシュとは別に、他の機能性部材を保持ブラケットに取り付けてもよい。これら他の機能性部材は、例えば製造時に保持ブラケット上に直接成型してもよい。このような機能性部材は、例えば他のガイドや、保持クリップまたは固定用端部ストラップである。これらのガイド、保持クリップまたは固定用端部ストラップは、例えば、はめ込み振動ダンパ(吸収器)、アクチュエーティングラインやケーブルまたは他のライン、あるいはカバー、例えばボデイ下の保護用カバーに用いてもよい。
【0043】
これにより保持ブラケットが自動車にネジ止めされる貫通孔に代えて、車両上に設けられた穴に保持ブラケットをクリップで留めることも可能である。
【0044】
ある実施様態においては、これらの貫通孔が、下面に、即ち保持ブラケットが自動車に乗っかかっている側に弾性材料を有する。これは、さらなる振動の緩和が可能であるという利点を有している。あるいはまたはさらに、保持ブラケットの内壁面上にもこの弾性材料を設けられ、保持ブラケットの固定のために端部ストラップの上に延び出していてもよい。
【0045】
保持ブラケットが単一部品として形成されている上記の実施様態とは別に、この保持ブラケットを複数の部品、例えば二つの部品として形成することもできる。この場合、例えば保持ブラケットを二つの部品とし、これらを相互に連結して保持ブランケットを形成することができる。これらの部品の連結は、例えばクリップで行われる。
【0046】
以下、本発明を図面を基により詳細に説明する。
【0047】
この唯一の図面は、本発明の保持ブラケットの三次元図である。
【0048】
本発明の保持ブラケット1は、内壁面3と外壁面5をもつ。本実施様態においては、内壁面3と外壁面5はそれぞれ、実質的にU字状に形成され、実質的に相互に平行に形成されている。この場合、外壁面5の幅は、内壁面3の幅より小さい。内壁面3と外壁面5は相互にリブ7で連結されている。内壁面3に作用する力は、このリブを経由して外壁面5に伝えられる。これにより保持ブラケット1の安定性が増加する。
【0049】
保持ブラケット1の固定のために、内壁面3の下部に端部ストラップ9が形成されている。外壁面5の幅は徐々に広がっており、このため外壁面5と端部ストラップ9は同じ形となっている。端部ストラップ9と外壁面5を貫いて貫通孔11が設けられている。この貫通孔11は丸断面を有し、保持ブラケット1を、例えばボデイまたはスプリングストラットに固定するのに使われる。保持ブラケット1を固定する際のネジ頭の圧縮応力による保持ブラケット1の損傷を防止するため、貫通孔11中にブシュ13が設けられている。このブシュ13がネジ頭からの圧縮力を吸収する。これにより、固定手段により保持ブラケット1に圧縮力が加わるのを避けることができる。
【0050】
内壁面3と外壁面5の壁厚、またリブ7の配列と壁厚は、上記の工程(a)〜(c)で決められた幾何構造に相当する。このようにして決められた幾何構造により、可能な最小壁厚と必要最小限のリブ7の数を決めて保持ブラケット1の重量を最小にすることができる。
【0051】
車軸スタビライザーの固定のために、弾性材料製のマウントがU字形の内壁面3中に収められる。この車軸スタビライザーはこの弾性材料製のマウントで固定され、この弾性材料製のマウントが緩衝材として作用する。これは、車軸スタビライザーに作用する力の一部が弾性材料製のマウントで吸収され、その結果、保持ブラケット1に働く力が減少することを意味する。弾性材料製のマウントに働く力の結果として起こる保持ブラケット1に対する弾性材料製のマウントの位置の変化を避けるために、この弾性材料製のマウントを保持ブラケット1に堅く連結することが好ましい。このために、この弾性材料製のマウントを、例えば−上述のように−保持ブラケット1用の材料で直接覆って保持ブラケット1をこの弾性材料製のマウントに接着させてもよい。例えばプライマーを用いて、封入前にこれを弾性材料製のマウントに塗布して、この接着を改善することができる。
【0052】
弾性材料製マウントが保持ブラケット用材料で覆われる上述の実施様態とは別に、まずこの保持ブラケットをポリマー材料から、好ましくは射出成型法で製造し、必要ならこの保持ブラケットにプライマーを塗布し、次いでプライマーの付いた保持ブラケットを加硫用金型に導入することもできる。次いで加硫用金型中で、マウント用の弾性材料を噴霧し、次いで架橋させる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車中の車軸スタビライザーのベアリング用の保持装置であって、該車軸スタビライザー用の弾性材料製のマウントと該弾性材料マウントを少なくとも部分的に包囲する保持ブラケット(1)とからなり、
該保持ブラケット(1)が、ポリマー材料から製造され、以下の工程で決められた幾何構造に相当する幾何構造を持つ保持装置:
a.シミュレーション計算により、保持ブラケット(1)の強度の利用度を計算し、
b.保持ブラケット(1)の幾何構造及び/又は保持ブラケット(1)の少なくとも一つのゲート点の位置をシミュレーション計算の結果にあわせ、利用度が所定の上限値を超える時は、壁厚を減少させるか、補強部材(7)の数を減少、補強部材(7)の大きさを減少させ、利用度が所定の下限値を下回る場合は、壁厚を増加させるか、補強部材(7)の数を増加、または補強部材(7)を強化し、
c.工程(b)において、保持ブラケット(1)の幾何構造に及び/又は少なくとも一つのゲート点の位置に変化が起こる場合は工程(a)と(b)を繰返す。
【請求項2】
保持ブラケット(1)がリブ構造(7)で相互に連結された二枚の周辺支持壁面(3,5)をもつ請求項1に記載の保持装置。
【請求項3】
保持ブラケット(1)の製造用のポリマー材料が繊維強化プラスチックである請求項1または2に記載の保持装置。
【請求項4】
工程(a)での保持ブラケット(1)の強度の利用度の計算に先立って、繊維強化プラスチック中の繊維の配向と上記部品中のウェルドラインを決めるためにシミュレーション計算を行う請求項3に記載の保持装置。
【請求項5】
上記ポリマー材料が、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフイドまたはポリオレフィンまたはこれらの混合物を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の保持装置。
【請求項6】
補強のためにガラス繊維、炭素繊維またはアラミド繊維が用いられる請求項3〜5のいずれか一項に記載の保持装置。
【請求項7】
上記繊維の長さが0.1〜20mmの範囲にある請求項6に記載の保持装置。
【請求項8】
上記弾性材料が、天然ゴム(NR)とエチレン−プロピレン−ジエン三元重合体(EPDM)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、シリコーンから選ばれる請求項1〜7のいずれか一項に記載の保持装置。
【請求項9】
保持ブラケット(1)と上記車軸スタビライザー用マウントが、マウントがポリマー保持ブラケット用の材料(1)でカプセル化されて相互に連結されている請求項1〜8のいずれか一項に記載の保持装置。
【請求項10】
保持ブラケット(1)中にブシュ(13)が設けられている請求項1〜9のいずれか一項に記載の保持装置。
【請求項11】
保持ブラケット(1)上に他の機能性部材が設けられている請求項1〜10のいずれか一項に記載の保持装置。
【請求項12】
保持ブラケット(1)が2つ以上の部品として形成されている請求項1〜11のいずれか一項に記載の保持装置。
【請求項13】
貫通孔(11)が、下面に弾性材料を備えている請求項1〜12のいずれか一項に記載の保持装置。

【公表番号】特表2012−530647(P2012−530647A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516753(P2012−516753)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059030
【国際公開番号】WO2010/149756
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【出願人】(511308303)シュネーガンス、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング (1)
【Fターム(参考)】