説明

車載用燃料電池システム

【課題】 十分低い濃度にまで希釈して水素ガスを放出することができ、また、外部からの衝撃による希釈装置のダメージを低減させることのできる車載用燃料電池システムを提供する。
【解決手段】 水素ガスと酸素との反応により電力を発生すると共に使用済みのオフガスを排出する燃料電池2と、少なくともオフガスを希釈する希釈装置9を含む補機類とを車両Vに搭載した車載用燃料電池システムにおいて、車両Vに設けたサブフレーム1に少なくとも燃料電池2を搭載し、該車両Vの前側であって、サブフレーム1とモータルーム7との間の前方車両部分10に希釈装置9を設置した。また、この希釈装置9を、車両Vの前後方向に亘って設けられた両サイドフレーム12、12間に設置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用燃料電池システムに関し、自動車等の車両への搭載に適した燃料電池から排出される水素ガスを希釈する希釈装置の配置技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を動力源とする自動車等においては、燃料ガスとして、例えば水素などを燃料電池本体へ供給し、酸化ガスとして、例えば大気中の酸素などを利用して動力源を生み出している。
【0003】
このような燃料電池においては、水素の供給を続けることによってアノード系にカソードから透過してくる窒素が蓄積することで水素と酸素の反応が阻害される恐れがあることや供給する酸化ガス内の水蒸気や燃料電池内の生成水が燃料電池内に滞留することによって燃料電池の出力低下が起こることなどを回避するために、燃料電池システム外部へ不要なガスを排出する必要がある。
【0004】
かかる排出ガスには、未燃焼の水素ガスが含まれているため、高濃度の水素ガスを車外へそのまま排出しないように、触媒を含んだ燃焼器などの希釈装置で希釈して低濃度水素ガスとして排出させている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−289237号公報(第4頁及び第5頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来においては、希釈装置の設置場所に関しては特に考慮されておらず、設置場所によっては未燃水素ガスを希釈するに充分な容積を確保できず、充分に低い濃度にまで水素ガスを希釈することが困難な場合が生じる。
【0006】
また、例えば、車両側面などに希釈装置を配置した場合、外部からの衝撃などによっては希釈装置が重大なダメージを受けてしまい、水素などの可燃性ガスを十分低い濃度まで希釈できないまま車外へ放出させてしまうことが考えられる。
【0007】
そこで、本発明は、上記の課題を解決すべくなされたものであり、特に床下という高さが限られた空間に燃料電池と補機類などを搭載する車両において、十分低い濃度にまで希釈して水素ガスを放出することができ、また、外部からの衝撃による希釈装置のダメージを低減させることのできる車載用燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車載用燃料電池システムは、燃料ガスと酸化ガスの反応により電力を発生すると共に、使用済みの水素ガスを排出する燃料電池と、少なくとも前記水素ガスを希釈する希釈装置を含む補機類とを車両に搭載している。そして、この車載用燃料電池システムでは、車両に設けたサブフレームに少なくとも前記燃料電池を搭載し、該車両の前側であって前記サブフレームの前方車両部分に、前記希釈装置を設置した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両の前側であって、少なくとも燃料電池を搭載しているサブフレームの前方車両部分、特にモータールームとサブフレーム間という配管類しか存在していないスペースに、未燃排出水素濃度を希釈する希釈装置を設置しているので、従来よりも十分大きな容積、つまりは水素を希釈するのに十分な容積を保持した希釈装置のスペースを確保することができ、排水素ガスを十分低い濃度にまで希釈して車外へ放出させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
「第1の実施の形態」
図1は、本発明を適用した第1の実施の形態を示し、燃料電池と希釈装置などの補機類を含む燃料電池システムを搭載する車両のレイアウトを示す上面図である。
【0012】
車両Vには、図1に示すように、燃料電池システムの構成部品の一部を搭載させるサブフレーム1が設けられている。かかるサブフレーム1は、例えば複数本のパイプを繋いで形成されたフレーム構造とされ、前輪FWと後輪RWの間に設けられている。
【0013】
このサブフレーム1には、燃料電池システムの主たる構成部品である燃料電池2と、補機類である加湿装置3、燃料ガス循環装置4、水素などの燃料ガスや空気などの酸化ガスが流通する配管類5(5A〜5E)、及び温度調節装置、電力分配装置、ハーネス類(図示は省略する)などが配置されている。
【0014】
燃料電池2は、車両Vの前後方向Xにおける後側(例えば後部座席後方)に配置された燃料タンク6から注入される水素などの燃料ガスと大気中から取り入れる空気などの酸化ガスを取り入れ発電する。加湿装置3は、燃料電池2の車両前方に配置されており、該燃料電池2を作動させるために、当該燃料電池2に供給される燃料ガスや酸化ガスを加湿する。
【0015】
燃料ガス循環装置4は、燃料タンク6から供給された燃料ガスを燃料電池2へと供給すると共に、燃料電池2で発電に使われて残った排水素ガスに含まれる燃料ガスを再び燃料電池2へと供給する。温度調節装置は、燃料電池2および燃料電池システムの温度調節を行う。
【0016】
なお、この他、燃料電池システム内には、各流体の温度調節用の冷却水が循環している。
【0017】
ここで、図2を参照して、燃焼ガスおよび酸化ガスの流路について説明する。燃料タンク6から導入される燃料ガス(本実施の形態では、例えば水素ガスとする)は、該燃料タンク6と燃料ガス循環装置4間を接続する配管5Aを通り、サブフレーム1に搭載された燃料ガス循環装置4へと導かれる。そして、燃料ガス循環装置4内に導入された水素ガスは、温度調節装置によって加温され、燃料ガス循環装置4内の図示しない循環ポンプやイジェクタによって、該燃料ガス循環装置4と燃料電池2間を接続する配管5Bを通り、燃料電池2内へ導入される。
【0018】
一方、主に大気中から導入される酸化ガス(本実施の形態では、例えば空気とする)は、モータールーム7からコンプレッサ8などによってサブフレーム1内へ導入される。サブフレーム1内へ導入された空気は、加湿装置3で加湿された後、該加湿装置3と燃料電池2間を接続する配管5Cを通り、燃料電池2内へ導入される。燃料電池2内では、水素と空気中の酸素の反応によって発電し、発電した電力によってモータールーム7に設けられた電動機(図示は省略する)を駆動させ、その発生トルクを車軸に伝達することで、車両の推進力を得ることとなる。
【0019】
燃料電池2内へ導入された空気は、該燃料電池2内での反応に使われた後、水分を含んだ排空気として排出され、排空気排出配管である配管5Dを通り、加湿装置3へと導入される。そして、加湿装置3へ導入された空気は、図示しないコンプレッサを通過して加湿装置3から燃料電池2へ導入される空気に水分を与えた後、該加湿装置3と希釈装置9間を接続する配管5Eを通り、希釈装置9へと導入される。
【0020】
一方、燃料電池2で発電に使用されて残った水素ガスは、排水素ガスとして排水素排出配管である配管5Fから排出される。この排水素ガスは、通常運転時は、燃料電池2内での反応に使われた後、再び燃料ガスとして燃料ガス循環装置4内へ導かれ、燃料ガス循環装置4から燃料電池2内へ導入され、当該燃料電池2内での反応に利用される。したがって、水素を循環させて使用することで、燃料電池2内で使用する水素量は同じであるものの、燃焼ガスの見かけ流量は多くなり、燃料電池2への燃焼ガス供給という面ではかなり有利な構成となる。
【0021】
しかし水素の循環を継続していると、アノード内にカソードから空気中の窒素が透過してきて水素と酸素の反応を阻害する恐れがあることや、排水素ガス中には生成水などの不純物が溜まっていき燃料電池2の出力が低下することなどの現象が起きる。このような状況を回避するためには、ある一定時間おきに不純物除去のために燃料電池2内から不純物を含む排水素ガスを排出する必要がある。
【0022】
このガス排出流路は、最終的に外部と連通していることから大気開放されているため、循環流路内の弁を閉じることで、不純物を含む水素などの排水素ガスは希釈装置9へと導入され、当該希釈装置9内でカソードからの排空気によって希釈され、十分低い濃度にまで希釈した後に大気中へ放出される。以上が、燃料電池システムにおける燃焼ガスおよび酸化ガスの流路の説明である。
【0023】
次に、本発明の要部について図1を参照して説明する。図2で示したように、燃料電池2からの排水素ガスは、排水素ガス排出配管である配管5Fを通って、希釈装置9へと導かれる。排水素ガスは、可燃性を有しない程度の十分低い濃度にまで希釈する必要があるため、前記希釈装置9にて希釈する。このとき希釈装置9へは、水素を希釈するためにカソードからの排空気を導入する。こうして空気と水素を含んだ混合気体を、希釈装置9中で十分低い濃度にまで希釈した後、大気中へ放出させる。
【0024】
このとき、希釈装置9をサブフレーム1内でなく、車両Vの前側であって、サブフレーム1の外部、特にサブフレーム1の前方車両部分10に希釈装置9を配置させる。サブフレーム1の前方車両部分10は、モータールーム7とサブフレーム1を接続する配管のみが存在するスペースであるため、サブフレーム1内に希釈装置9を設置するよりも十分広く、容積の大きな希釈スペースを確保することができる。そのため容積の大きな希釈装置9を利用して、水素を十分に低い濃度にまで希釈して車外へ放出させることができる。
【0025】
さらに、サブフレーム1の側面1a、1bから排水素ガス排出配管である配管5Fを連通させないので、サブフレーム1自体の剛性をあげることができる。通常は、モータールーム7と燃料電池システムとの間の配管を接続するために、サブフレーム1の前方は穴空け等の加工をしている、もしくは高さを低くしているので、サブフレーム1の前方から配管を連通させることによってフレームの剛性は下がらない。
【0026】
さらに、本実施の形態では、燃料電池システムの補機類である加湿装置3や燃料ガス循環装置4をサブフレーム1内であって車両前側に配置しているので、希釈装置9を前方に設置した場合は、排水素ガスを最も早くサブフレーム1内から排出させることができるため、外部への希釈ガス排出にかかる時間もより一層短くなる。
【0027】
また、本実施の形態では、排ガス配管である配管5E、5Fと希釈装置9の合流部分11は、サブフレーム1内としているが、それはサブフレーム1の外で合流していても構わない。また、本実施の形態では、排ガス配管(配管5E、配管5F)の数はアノードとカソードからの2本としているが、燃料電池システムの構成によっては、その本数は問わない。さらに、排ガス配管(配管5E、配管5F)は、それぞれが直接希釈装置9に合流しても、本実施の形態のように、希釈装置9前でそれぞれの排ガス配管(配管5E、配管5F)が合流し、その合流した配管が希釈装置9に接続される場合であっても構わない。
【0028】
「第2の実施の形態」
図3は、本発明を適用した第2の実施の形態を示し、燃料電池と希釈装置などの補機類を含む燃料電池システムを搭載する車両のレイアウトを示す上面図である。
【0029】
燃料電池2からのカソードおよびアノードの排ガス配管(配管5E、5F)は、第1の実施の形態のように、サブフレーム1の前方の希釈装置9へと接続されるが、その希釈装置9の設置位置を、該サブフレーム1の前方であって、車両Vの前後方向に亘って設けられた両サイドフレーム12、12間とする。
【0030】
かかる希釈装置9を車体の両サイドフレーム12、12間に設置することで、側面衝突など車幅方向からの外部衝撃を受けた場合にでも、サイドフレーム12、12が衝撃を吸収するため、希釈装置9へのダメージは十分に低減させることができる。そのため、希釈装置9において、排水素ガスを十分低い濃度にまで希釈した後に車外へ放出させることができる。
【0031】
なお、図3では、希釈装置9を、車両Vの前側、且つサブフレーム1の前方車両部分であって、サイドフレーム12、12間に配置させたが、この希釈装置9を、左右の前輪FW間に配置させるようにしても同様の効果がある。すなわち、車両Vの側面から外部衝撃を受けた場合、左右の前輪FWが衝撃を吸収し、希釈装置9へのダメージを低減させる。
【0032】
「第3の実施の形態」
図4は、本発明を適用した第3の実施の形態を示し、燃料電池と希釈装置などの補機類を含む燃料電池システムを搭載する車両のレイアウトを示す上面図である。図5は、図4に示す燃料電池システムを搭載する車両の側面図である。
【0033】
燃料電池2からのカソードおよびアノードの排ガス配管(配管5E、5F)は、第1の実施の形態のように、サブフレーム1の前方の希釈装置9へと接続されるが、その希釈装置9の設置位置を、サブフレーム1とフロントサスペンションメンバ13との間に設置し、且つ、該フロントサスペンションメンバ13の下面13aと同等以上の高さ位置とする。希釈装置9をかかる位置に設置することで、前方衝突など進行方向からの衝撃を受けた場合にでも、フロントサスペンションメンバ13が衝撃を吸収するため、希釈装置9へのダメージを十分に低減させることができる。そのため、希釈装置9において、排水素ガスを十分低い濃度にまで希釈した後に車外へ放出させることができる。
【0034】
また、この実施の形態では、車両が縁石など障害物に乗り上げた場合などにおいても、フロントサスペンションメンバ13と同等以上の高さ位置に希釈装置9を設置しているため、フロントサスペンションメンバ13が最初に障害物に接触する部位となり、燃料電池システムの希釈装置9が最初に、障害物に接触することを防ぐことができる。そのため、希釈装置9へのダメージを回避することができ、排水素を十分希釈して車外へ放出させることができる。
【0035】
「その他の実施の形態」
以上、本発明を適用した具体的な実施の形態について説明したが、本発明は、上述の実施の形態に制限されることなく種々の変更が可能である。
【0036】
例えば、前述の第1、第2及び第3の実施の形態では、希釈装置9は、混合気体を十分に希釈できる容積スペースを確保していれば良いとしているが、この希釈装置9が、例えばカソードからの排空気とアノードからの排水素を混合して燃焼して排出する燃焼器であったり、触媒反応を利用して排ガスの濃度を十分希釈できるような触媒装置であっても構わない。そのような燃焼器や触媒装置は、通常の希釈よりも低濃度にまで水素濃度を低減して排出することができるためより望ましい。
【0037】
また、前述の実施の形態では、希釈装置9を、サブフレーム1の前方車両部分10であってサイドフレーム12、12間、若しくはサブフレーム1とフロントサスペンションメンバ13との間としているが、これらの両方を満たす位置、すなわち、サブフレーム1の前方車両部分10であってサイドフレーム12、12間、且つサブフレーム1とフロントサスペンションメンバ13との間に希釈装置9を設置すれば、前面及び側面からの外部衝撃を軽減させることができるため、設置位置としてはより望ましい。
【0038】
以上、前記した他の実施の形態によれば、前述の実施の形態と同様、排水素を十分低い濃度にまで希釈して外部へ放出させることができると共に、特に床下という高さが限られた空間に燃料電池2と補機類などを搭載する車両において、外部からの衝撃によるダメージを低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明を適用した第1の実施の形態を示し、燃料電池と希釈装置などの補機類を含む燃料電池システムを搭載する車両のレイアウトを示す上面図である。
【図2】本発明を適用した第1の実施の形態の燃料電池システムにおける燃料ガスと酸化ガスの流路を示す図である。
【図3】本発明を適用した第2の実施の形態を示し、燃料電池と希釈装置などの補機類を含む燃料電池システムを搭載する車両のレイアウトを示す上面図である。
【図4】本発明を適用した第3の実施の形態を示し、燃料電池と希釈装置などの補機類を含む燃料電池システムを搭載する車両のレイアウトを示す上面図である。
【図5】図4に示す燃料電池システムを搭載する車両の側面図である。
【符号の説明】
【0040】
1…サブフレーム
2…燃料電池
3…加湿装置
4…燃料ガス循環装置
5…配管
6…燃料タンク
7…希釈装置
8…コンプレッサ
9…希釈装置
10…前方車両部分
12…サイドフレーム
13…フロントサスペンションメンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと酸化ガスの反応により電力を発生すると共に、使用済みの水素を排出する燃料電池と、少なくとも排出された水素を希釈する希釈装置を含む補機類とを車両に搭載した車載用燃料電池システムにおいて、
前記車両に設けたサブフレームに少なくとも前記燃料電池を搭載し、該車両の前側であって前記サブフレームの前方車両部分に、前記希釈装置を設置した
ことを特徴とする車載用燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車載用燃料電池システムであって、
前記希釈装置は、前記サブフレームとモータルームとの間に設置された
ことを特徴とする車載用燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1記載の車載用燃料電池システムであって、
前記希釈装置を、前記車両の前後方向に亘って設けられた両サイドフレーム間に設置した
ことを特徴とする車載用燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1記載の車載用燃料電池システムであって、
前記希釈装置を、前記車両の前輪ホイール間に設置した
ことを特徴とする車載用燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1記載の車載用燃料電池システムであって、
前記希釈装置を、前記サブフレームとフロントサスペンションメンバとの間に設置し、且つ、該フロントサスペンションメンバと同等以上の高さ位置に設置した
ことを特徴とする車載用燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−15901(P2006−15901A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196610(P2004−196610)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】