説明

車輪の操舵機構

【課題】 単一のアクチュエータを用いて車輪の切れ角を確保できるようにする。
【解決手段】 車輪の操舵機構は、前後一対のロッド11,12、ナックル13(車輪支持部材)、駆動機構K(レバー21、アクチュエータ30)等で構成される。各ロッド11,12は、車輪40の回転中心軸線L1に対して前方と後方にそれぞれ配設され、車幅方向に延びて各外端11a,12aにてナックル13に枢着される。レバー21は、車両の前後方向に延びて、前端および後端部21a,21bにて各ロッド11,12の内端11b,12bに枢着されるとともに、略中央部21cにて車体50にピン24により平面視にて回動可能に軸支される。アクチュエータ30は、レバー21に連結されてレバー21を回動させる。車輪40の切れ角がゼロである状態で各ロッド11,12とレバー21との枢着中心P1,P2がレバー21の回動中心P3よりも車両内方となるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の操舵機構に係り、特に転舵時における車輪の車両内側への切れ込みを減少させ得る車輪の操舵機構に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車輪の操舵機構の一つとして、車輪の回転中心軸線に対して前方と後方にそれぞれ配設され車幅方向に延びて各外端にて車輪支持部材に枢着された前後一対のロッドを備えるとともに、これらロッドを車幅方向に移動させる駆動機構を備えたものがあり、例えば、下記特許文献1に示されている。
【特許文献1】特開2004−168092号公報
【0003】
上記した特許文献1に記載されている車輪の操舵機構では、駆動機構が前後一対のロッドをそれぞれ移動させる前後一対のアクチュエータで構成されている。この操舵機構においては、各アクチュエータが車輪の転舵方向に応じて対応する各ロッドを車幅方向外方へ移動させることで、車輪が車幅方向外方へ押し出されながら転舵される。これにより、例えば近年使用要望の高い幅広車輪を用いた場合においても、最大切れ角としたときに車輪の車両内側のショルダー部と車体が干渉しないように設定できるため、車輪の切れ角が充分に確保されて車両の小回りを良好にすることが可能である。
【0004】
ところで、上記した特許文献1に記載されている車輪の操舵機構では、車輪の切れ角を確保するために、駆動機構が一対のアクチュエータで構成されるものである。このため、車輪の操舵機構が高価になるという問題がある。
【発明の開示】
【0005】
したがって、本発明では、上記した問題に対処するために、上記した従来技術と同等の効果を一つのアクチュエータで構成できる車輪の操舵機構を提供することをその目的としている。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明においては、車輪の回転中心軸線に対して前方と後方にそれぞれ配設され車幅方向に延びて各外端にて車輪支持部材に枢着された前後一対のロッドを備えるとともに、これらロッドを車幅方向に移動させる駆動機構を備えた車輪の操舵機構において、前記駆動機構は、車両の前後方向に延びて前後各端部にて前記各ロッドの内端に枢着され平面視にて回動可能となるように略中央部を車体に軸支されるレバーと、車体に組み付けられて前記レバーに連結され同レバーを回動させる単一のアクチュエータとを備え、車輪の切れ角がゼロである状態で前記各ロッドと前記レバーとの枢着中心が同レバーの回動中心よりも車両内方となるように設定されていることに特徴がある。
【0007】
車輪の転舵時には一つのアクチュエータによりレバーが転舵方向に回動され、このレバーの回動により両ロッドの一方が車幅方向外方へ移動するとともに、他方が車幅方向内方へ移動する。この場合、車輪の切れ角がゼロである状態で両ロッドとレバーとの枢着中心がレバーの回動中心よりも車両内方となるように設定されているため、車幅方向外方へ移動するロッドの変位量は、車幅方向内方へ変位するロッドの変位量よりも大きくなる。したがって、車輪の転舵中心は両ロッドの変位量の差に応じた距離だけ車幅方向外方へ移動するため、例えば幅広車輪を用いた場合においても、最大切れ角としたときに車輪の車両内側のショルダー部と車体が干渉しないように設定できて車輪の切れ角が充分に確保される。ところで、本発明においては、レバーおよび単一のアクチュエータを用いて、上記した従来技術と同等の効果が得られるようにしているため、車輪の操舵機構を安価に構成することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明による車輪の操舵機構における右側を示していて、この操舵機構は、前後一対のロッド11,12をサスペンションロアアームとして備えるサスペンションSと、両ロッド11,12を車幅方向に移動させる駆動機構Kで構成されている。なお、車輪の操舵機構における左側についても、右側と同様に構成されているため、ここでは右側の操舵機構を代表して説明することとし、左側についての説明は省略する。
【0009】
サスペンションSは、各ロッド11,12、ナックル13、ラジアスロッド14および図示省略するサスペンションアッパアームを備えたダブルウィッシュボーン型サスペンションであり、駆動機構Kは、レバー21および単一のアクチュエータ30を備えたものである。
【0010】
両ロッド11,12は、車輪40の回転中心軸線L1に対して前方と後方にそれぞれ配設されており、車幅方向に延びて各外端11a,12aにてナックル13の前方および後方アーム13a,13bにボールジョイント15,16を介してそれぞれ連結されている。ナックル13は、車輪支持部材として機能するものであり、車輪40を転舵中心O1回りに転舵させる。ラジアスロッド14は、前端14aにて車体50にボールジョイント17を介して連結されるとともに後端14bにてナックル13の図示省略したアームにボールジョイント18を介して連結されている。
【0011】
レバー21は、車両の前後方向に延びていて、前端および後端部21a,21bにて両ロッド11,12の内端11b,12bにボールジョイント22,23を介してそれぞれ連結されるとともに、略中央部21cにて車体50に略上下方向に立設されたピン24の軸回りに回動可能に組み付けられている。なお、ピン24はレバー21の上面から上方に向けて僅かに突出していて、両ロッド11,12はピン24の上端よりも上方位置でボールジョイント22,23を介して前端および後端部21a,21bに連結されているため、ピン24が両ロッド11,12と干渉することはない。また、レバー21は、車体50に組み付けたアクチュエータ30のタイロッド31とボールジョイント32を介して連結されている。
【0012】
アクチュエータ30は、右側の車輪40と左側の車輪を同時に同方向へ転舵させるステアリングギア33を含むものであり、上記したタイロッド31と、このタイロッド31の内端に一端にて連結されるラック軸(図示省略)と、このラック軸を車幅方向へ移動させるピニオンシャフト(図示省略)と、前記ラック軸の他端に連結されて図示省略した左側のレバーに連結されるタイロッド(図示省略)等によって構成されている。
【0013】
ところで、この実施形態においては、車輪40の切れ角がゼロである状態で、両ロッド11,12とレバー21との枢着中心であるボールジョイント22,23の球中心P1,P2が、レバー21の回動中心であるピン24の軸中心P3よりも車両内方となるように設定されている。また、ピン24の軸中心P3は、車輪40の回転中心軸線L1上に位置しており、両ロッド11,12が車輪40の回転中心軸線L1に対して略対称となるように配置されている。なお、車輪40の切れ角がゼロである状態では、ピン24の軸中心P3から車輪40の転舵中心O1までの距離が所定距離D1となるように設定されている。
【0014】
このため、例えば車輪40の左方向への転舵時には、図2に示すように、アクチュエータ30によりレバー21が反時計回りに回動され、このレバー21の回動により後方のロッド12が車幅方向外方へ移動するとともに、前方のロッド11が車幅方向内方へ移動する。この場合、車輪40の切れ角がゼロである状態でボールジョイント22,23の球中心P1,P2がピン24の軸中心P3よりも車両内方となるように設定されているため、車幅方向外方へ移動する後方のロッド12の変位量は、車幅方向内方へ移動する前方のロッド11の変位量よりも大きくなる。
【0015】
したがって、車輪40の転舵中心O1は、両ロッド11,12の変位量の差に応じて前後方向に距離Dyだけ移動するとともに、車幅方向外方へ距離Dxだけ移動することになり、ピン24の軸中心P3から車輪40の転舵中心O1までの距離D2が前記所定距離D1よりも大きな距離(D1+Dx)となる。これにより、車輪40として幅広のものを用いた場合においても、最大切れ角としたときに車輪40の車両内側前方のショルダー部40aと車体50が干渉しないように設定できて車輪40の切れ角が充分に確保される。
【0016】
言い換えれば、図3にて破線で示した通常の操舵機構(車輪が所定位置のキングピン軸回りに転舵される操舵機構)と比較した場合、転舵による車輪40の車体50側への進入量S1(車輪40の車幅方向での内端位置の変化量)が同等であるときは、通常の操舵機構による車輪の切れ角θ1に比して、図3にて二点鎖線で示したこの実施形態の操舵機構による車輪40の切れ角θ2の方が大きくなる。
【0017】
左側車輪についても、右側車輪40の場合と同様に、アクチュエータ30により左側のレバーが反時計回りに回動され、このレバー21の回動により前方のロッドが車幅方向外方へ移動するとともに、後方のロッドが車幅方向内方へ移動するため、左側車輪の転舵中心は距離Dxだけ車幅方向外方へ移動する。したがって、この場合には、最大切れ角としたときに左側車輪の車両内側後方のショルダー部と車体50が干渉しないように設定できて左側車輪の切れ角が充分に確保される。
【0018】
車輪の右方向への転舵時についても、車輪の左方向への転舵時の場合と同様に、車輪の切れ角が充分に確保される。このように、本実施形態によれば、レバー21および単一のアクチュエータ30を用いて、車輪40の切れ角が確保されるようにしているため(左側車輪についても同様)、車輪の操舵機構を安価に構成することが可能である。
【0019】
また、この実施形態では、車輪の転舵中心がいずれも車幅方向外方へ移動することで車輪のホイールトレッドが拡大するようになっている。これにより、転舵時におけるフロントロール剛性が高くなり、車両旋回時の走行安定性を向上させる効果も得られる。
【0020】
また、この実施形態では、両ロッド11,12の外端11a,12aとナックル13の前方および後方アーム13a,13bとを連結するボールジョイント15,16の球中心間の距離が、両ロッド11,12の内端11b,12bとレバー21の前端および後端部21a,21bとを連結するボールジョイント22,23の球心間の距離よりも大きくなるように設定されている。これにより、制動時において車輪40がトーアウト方向へ変位するようになるため、制動時のステア特性がアンダーステアになり、制動時の車両挙動を安定させることも可能である。
【0021】
なお、通常の操舵機構により制動時のステア特性をアンダーステアに設定するためには、例えばロアアームを傾斜配置させて行うことになるが、この場合には横力に対する剛性を確保し難く、またアクチュエータの配置上の制約を受けてステア特性の設定が困難なことが多い。しかし、この実施形態によれば、アクチュエータ30の配置上の制約を受けることなく、上記したようにロッド11,12を配置することが可能であり、ステア特性を容易に設定できるという効果も得られる。
【0022】
上記した実施形態においては、両ロッド11,12の外端11a,12aとナックル13の前方および後方アーム13a,13bとを連結するボールジョイント15,16の球心間の距離が、両ロッド11,12の内端11b,12bとレバー21の前端および後端部21a,21bとを連結するボールジョイント22,23の球心間の距離よりも大きくなるように設定して実施したが、ボールジョイント15,16の球心間の距離がボールジョイント22,23の球心間の距離とほぼ同じとなるように設定したり、またはボールジョイント15,16の球心間の距離がボールジョイント22,23の球心間の距離よりも小さくなるように設定して実施することも可能である。
【0023】
以上、本発明による車輪の操舵機構をダブルウィッシュボーン型サスペンションを有する操舵機構に適用した場合について説明したが、これに限らず、本発明による車輪の操舵機構を、例えばストラット式サスペンションを有する操舵機構や、マルチリンク式サスペンションを有する操舵機構などに適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による車輪の操舵機構における右側をスケルトンで概略的に示した平面図である。
【図2】図1に示した車輪の操舵機構の左転舵時を示した平面図である。
【図3】図2に示した状態での車輪の切れ角を通常の操舵機構における車輪の切れ角と比較して示した平面図である。
【符号の説明】
【0025】
S…サスペンション、K…駆動機構、11,12…前後一対のロッド、13…ナックル(車輪支持部材)、21…レバー、24…ピン、P1,P2…ボールジョイント22,23の球中心(枢着中心),P3…ピン24の軸中心(レバー21の回動中心)、30…アクチュエータ、40…車輪、L1…車輪40の回転中心軸線、O1…車輪40の転舵中心、50…車体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の回転中心軸線に対して前方と後方にそれぞれ配設され車幅方向に延びて各外端にて車輪支持部材に枢着された前後一対のロッドを備えるとともに、これらロッドを車幅方向に移動させる駆動機構を備えた車輪の操舵機構において、
前記駆動機構は、車両の前後方向に延びて前後各端部にて前記各ロッドの内端に枢着され平面視にて回動可能となるように略中央部を車体に軸支されるレバーと、車体に組み付けられて前記レバーに連結され同レバーを回動させる単一のアクチュエータとを備え、車輪の切れ角がゼロである状態で前記各ロッドと前記レバーとの枢着中心が同レバーの回動中心よりも車両内方となるように設定されていることを特徴とする車輪の操舵機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−160166(P2006−160166A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−357594(P2004−357594)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】