説明

車輪用軸受装置

【課題】ハブ輪の加締部と外側継手部材の肩部とのスムーズな滑りでもってスティックスリップ音が発生するのを長期間に亘って防止した車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】ハブ輪2と外側継手部材13がセレーションを介してトルク伝達可能に、かつ軸方向に分離可能に締結された車輪用軸受装置において、外側継手部材13の肩部15の端面15aと、この肩部15の端面15aに当接する加締部7の端面18が平坦面に形成され、所定の接触領域Wをもって面接触されると共に、加締部7の端面18に、周方向に複数の凹部19が接触領域Wの径方向内方に開口する一方、径方向外方に開口しない領域に加締部7と同時に塑性変形により形成され、当該凹部19をはじめ、加締部7とステム部16との間に形成される環状空間Sにグリースが充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の車輪を支持する車輪用軸受装置、詳しくは、車輪用軸受と等速自在継手とを備え、独立懸架式サスペンションに装着された駆動輪(FF車の前輪、FR車あるいはRR車の後輪、および4WD車の全輪)を懸架装置に対して回転自在に支持する車輪用軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両のエンジン動力を車輪に伝達する動力伝達装置は、エンジンから車輪へ動力を伝達すると共に、悪路走行時における車両のバウンドや車両の旋回時に生じる車輪からの径方向や軸方向変位、およびモーメント変位を許容する必要があるため、例えば、エンジン側と駆動車輪側との間に介装されるドライブシャフトの一端が摺動型の等速自在継手を介してディファレンシャルに連結され、他端が固定型の等速自在継手を含む車輪用軸受装置を介して駆動輪に連結されている。
【0003】
この車輪用軸受装置として従来から種々の構造のものが提案されているが、例えば図6に示すようなものが知られている。この車輪用軸受装置50は、車輪(図示せず)を一端部に装着するハブ輪51と、このハブ輪51を回転自在に支承する複列の転がり軸受52と、ハブ輪51に連結され、ドライブシャフト(図示せず)の動力をハブ輪51に伝達する固定型の等速自在継手53を備えている。
【0004】
ハブ輪51は、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジ54を一体に有し、外周に内側転走面51aと、この内側転走面51aから軸方向に延びる円筒状の小径段部51bが形成されている。複列の転がり軸受52は、外周に懸架装置(図示せず)に取り付けられるための車体取付フランジ55bを一体に有し、内周に複列の外側転走面55a、55aが一体に形成された外方部材55と、この外方部材55に複列のボール56、56を介して内挿される内方部材57とからなる。
【0005】
内方部材57は、ハブ輪51と、このハブ輪51の小径段部51bに圧入され、外周に内側転走面58aが形成された別体の内輪58とからなる。そして、ハブ輪51の小径段部51bの端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部59により、ハブ輪51に対して内輪58が軸方向に固定されている。
【0006】
等速自在継手53は、カップ状のマウス部60と、このマウス部60の底部をなす肩部61と、この肩部61から軸方向に延びる軸部62とを一体に有する外側継手部材63を備えている。そして、ハブ輪51にこの外側継手部材63がトルク伝達可能に内嵌されている。すなわち、ハブ輪51の内周に雌セレーション64が形成されると共に、外側継手部材63の軸部62の外周に雄セレーション65が形成され、両セレーション64、65が噛合されている。そして、ハブ輪51の加締部59に肩部61が突き合わされるまで外側継手部材63の軸部62がハブ輪51に内嵌されると共に、軸部62の端部に形成された雄ねじ66に固定ナット67が所定の締め付けトルクで締結され、ハブ輪51と外側継手部材63とが軸方向に分離可能に結合されている。
【0007】
こうした車両の車輪には、エンジン低速回転時、例えば車両発進時に、エンジンから摺動型の等速自在継手(図示せず)を介して大きなトルクが負荷され、ドライブシャフトに捩じれが生じることが知られている。その結果、このドライブシャフトを支持する複列の転がり軸受52の内方部材57にも捩じれが生じることになる。このようにドライブシャフトに大きな捩じれが発生した場合、ハブ輪51の雌セレーション64と、ハブ輪51に内嵌された軸部62の雄セレーション65との間に周方向のすきまがあれば、外側継手部材63と内方部材57との当接面で急激なスリップによるスティックスリップ音が発生する。
【0008】
この対策手段として、従来の車輪用軸受装置50において、図7に示すように、ハブ輪51の小径段部51bの端部を径方向外方に塑性変形させて加締部59を形成する際に、その加締部59の端面59aが内径側から外径側へ向けてすり鉢状になるように形成され、加締部59の端面59aが外側継手部材63の肩部61の端面61aに外径当りで接合されている。そして、加締部59の端面59aと肩部61の端面61aとの接合面に潤滑剤68が塗布され、両接合面間に形成された空隙69にこの潤滑剤68が封止されている。これにより、ハブ輪51および外側継手部材63の回転による遠心力が作用しても、外径当りにより、潤滑剤68が加締部59と肩部61の端面59a、61a間から外方に飛散したり、あるいは、外部から浸入した水により洗われて流出したりするのを防止することができる。その結果、加締部59と肩部61との端面59a、61a間で潤滑剤68を確保することができるので、その潤滑剤68によりスムーズな滑りでもってスティックスリップ音が発生するのを抑制することができる。
【特許文献1】特開2007−321903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
然しながら、この従来の車輪用軸受装置50では、ハブ輪51の加締部59の端面59aと外側継手部材63の肩部61の端面61aとの接触は線接触に近く、固定ナット67による締結軸力や運転時のモーメント荷重の負荷に伴い接触面圧が上昇する恐れがある。その結果、加締部59が塑性変形し、軸力の低下による固定ナット67の弛みや潤滑剤68が外部に漏洩してスティックスリップ音の発生を長期間に亘って抑制することができなくなると言った課題があった。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ハブ輪の加締部と外側継手部材の肩部とのスムーズな滑りでもってスティックスリップ音が発生するのを長期間に亘って防止した車輪用軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、内周に複列の外側転走面が形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記内方部材に連結された等速自在継手とを備え、前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部によって前記内輪が前記ハブ輪に固定されると共に、前記等速自在継手の外側継手部材が、カップ状のマウス部と、このマウス部の底部をなす肩部と、この肩部から軸方向に延び、前記内方部材にセレーションを介してトルク伝達可能に内嵌されたステム部とを一体に有し、前記肩部が前記加締部と突き合わせ状態で、前記内方部材と外側継手部材が軸方向に分離可能に締結された車輪用軸受装置において、前記外側継手部材の肩部の端面と、この肩部の端面に当接する前記加締部の端面が平坦面に形成され、所定の接触領域をもって面接触されると共に、前記加締部の端面に、周方向に複数の凹部が前記接触領域の径方向内方に開口する一方、径方向外方に開口しない領域に形成され、当該凹部にグリースが充填されている。
【0012】
このように、車輪用軸受を構成する内方部材と外側継手部材がセレーションを介してトルク伝達可能に、かつ軸方向に分離可能に締結された車輪用軸受装置において、外側継手部材の肩部の端面と、この肩部の端面に当接する加締部の端面が平坦面に形成され、所定の接触領域をもって面接触されると共に、加締部の端面に、周方向に複数の凹部が接触領域の径方向内方に開口する一方、径方向外方に開口しない領域に形成され、当該凹部にグリースが充填されているので、ハブ輪および外側継手部材の回転による遠心力が作用しても、グリースが加締部と肩部の端面間から外方に飛散したり、あるいは、外部から浸入した水により洗われて流出したりするのを防止することができ、加締部と肩部との端面間にグリースを確保することができると共に、加締部の端面と肩部の端面との間に充分な接触領域が確保されるので、締結軸力や運転時のモーメント荷重の負荷に伴い接触面圧が上昇することはなく、加締部が塑性変形して軸力の低下による固定ナットの弛みを防止し、長期間に亘ってスティックスリップ音が発生するのを防止することができる。
【0013】
好ましくは、請求項2に記載の発明のように、前記凹部が、前記加締部と同時に塑性変形により形成されていれば、加工工数が低減でき低コスト化が図れると共に、塑性変形により端面のファイバーフローが寸断されずに連続して形成され、当接面の耐摩耗性を向上や亀裂の発生を防止することができる。
【0014】
また、請求項3に記載の発明のように、前記凹部が、径方向に縦長に延びる略卵形に形成されていれば、当接する肩部の端面との間で充分な接触領域を確保することができ、かつ、加締加工時に引張応力が生じてもクラックが発生するのを防止することができる。
【0015】
また、請求項4に記載の発明のように、前記凹部が周方向等ピッチに配置されていても良いし、また、請求項5に記載の発明のように、前記凹部が周方向不等ピッチに配置されていても良い。これにより、加締部の端面と外側継手部材の肩部の端面との当接状態が周方向に不均一になり、滑り易い部位と滑り難い部位とが混在するため、滑り出しトルクの低減を図ることができる。したがって、スティックスリップ音発生時のエネルギー蓄積量、すなわち、音圧レベルが低減できる効果を発揮することができる。さらに、凹部が周方向に不等ピッチに配置されていれば、スティックスリップによる発生音の周波数が分散され、耳障りな周波数帯域の音圧を相殺して音圧レベルを低減することもできる。
【0016】
また、請求項6に記載の発明のように、前記凹部をはじめ、前記加締部とステム部との間に形成される環状空間にグリースが充填されていれば、加締部と肩部との端面間にグリースを充分確保することができ、長期間に亘ってスティックスリップ音が発生するのを防止することができる。
【0017】
また、請求項7に記載の発明のように、前記グリースに極圧添加剤が添加されていれば、摩擦低減効果により長期間に亘ってスティックスリップ音が発生するのを防止することができると共に、当接面の耐摩耗性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る車輪用軸受装置は、内周に複列の外側転走面が形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記内方部材に連結された等速自在継手とを備え、前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部によって前記内輪が前記ハブ輪に固定されると共に、前記等速自在継手の外側継手部材が、カップ状のマウス部と、このマウス部の底部をなす肩部と、この肩部から軸方向に延び、前記内方部材にセレーションを介してトルク伝達可能に内嵌されたステム部とを一体に有し、前記肩部が前記加締部と突き合わせ状態で、前記内方部材と外側継手部材が軸方向に分離可能に締結された車輪用軸受装置において、前記外側継手部材の肩部の端面と、この肩部の端面に当接する前記加締部の端面が平坦面に形成され、所定の接触領域をもって面接触されると共に、前記加締部の端面に、周方向に複数の凹部が前記接触領域の径方向内方に開口する一方、径方向外方に開口しない領域に形成され、当該凹部にグリースが充填されているので、ハブ輪および外側継手部材の回転による遠心力が作用しても、グリースが加締部と肩部の端面間から外方に飛散したり、あるいは、外部から浸入した水により洗われて流出したりするのを防止することができ、加締部と肩部との端面間にグリースを確保することができると共に、加締部の端面と肩部の端面との間に充分な接触領域が確保されるので、締結軸力や運転時のモーメント荷重の負荷に伴い接触面圧が上昇することはなく、加締部が塑性変形して軸力の低下による固定ナットの弛みを防止し、長期間に亘ってスティックスリップ音が発生するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
外周に車体に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の一方に対向する内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入され、外周に前記複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪からなる内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記ハブ輪に連結された等速自在継手とを備え、前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部によって前記内輪が前記ハブ輪に固定されると共に、前記等速自在継手の外側継手部材が、カップ状のマウス部と、このマウス部の底部をなす肩部と、この肩部から軸方向に延び、前記内方部材にセレーションを介してトルク伝達可能に内嵌されたステム部とを一体に有し、前記肩部が前記加締部と突き合わせ状態で、前記内方部材と外側継手部材が軸方向に分離可能に締結された車輪用軸受装置において、前記外側継手部材の肩部の端面と、この肩部の端面に当接する前記加締部の端面が平坦面に形成され、所定の接触領域をもって面接触されると共に、前記加締部の端面に、周方向に複数の凹部が前記接触領域の径方向内方に開口する一方、径方向外方に開口しない領域に前記加締部と同時に塑性変形により形成され、当該凹部をはじめ、前記加締部とステム部との間に形成される環状空間にグリースが充填されている。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基いて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図、図2は、図1の要部拡大図、図3は、本発明に係る加締部を示す正面図、図4は、図3の加締部の変形例を示す正面図、図5は、加締加工を示す説明図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図1の左側)、中央寄り側をインナー側(図1の右側)という。
【0021】
この車輪用軸受装置は駆動輪用の第3世代と呼称され、内方部材1と外方部材10、および両部材1、10間に転動自在に収容された複列の転動体(ボール)8、8とを備えている。内方部材1は、ハブ輪2と、このハブ輪2に圧入固定された内輪3とからなる。
【0022】
ハブ輪2は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ4を一体に有し、外周に一方(アウター側)の内側転走面2aと、この内側転走面2aから軸方向に延びる円筒状の小径段部2bが形成され、内周にトルク伝達用のセレーション(またはスプライン)5が形成されている。車輪取付フランジ4の円周等配位置には車輪を取り付けるハブボルト6が植設されている。そして、外周に他方(インナー側)の内側転走面3aが形成された内輪3がハブ輪2の小径段部2bに所定のシメシロを介して圧入され、小径段部2bの端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部7によって所定の軸受予圧が付与された状態で軸方向に固定されている。
【0023】
ハブ輪2はS53C等の炭素0.40〜0.80重量%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面2aをはじめ、後述するアウター側のシール11が摺接するシールランド部となる基部4aから小径段部2bに亙り高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理が施されている。なお、加締部7は鍛造加工後の表面硬さのままとされている。一方、内輪3および転動体8はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れにより芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0024】
外方部材10は、外周に車体(図示せず)に取り付けるための車体取付フランジ10bを一体に有し、内周に前記内方部材1の内側転走面2a、3aに対向する複列の外側転走面10a、10aが一体に形成されている。外方部材10はS53C等の炭素0.40〜0.80重量%を含む中高炭素鋼で形成され、少なくとも複列の外側転走面10a、10aが高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理が施されている。そして、それぞれの転走面10a、2aと10a、3a間に複列の転動体8、8が保持器9、9を介して転動自在に収容されている。また、外方部材10と内方部材1との間に形成される環状空間の開口部にはシール11、12が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの漏洩を防止すると共に、外部から軸受内部に雨水やダスト等が侵入するのを防止している。
【0025】
なお、本実施形態では、転動体8にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受を例示したが、これに限らず、例えば、転動体8に円すいころを用いた複列の円すいころ軸受であっても良い。また、ここでは、ハブ輪2の外周に一方の内側転走面2aが直接形成された、所謂第3世代構造を例示したが、図示はしないが、ハブ輪の小径段部に一対の内輪が圧入される、所謂第2世代構造であっても良いし、さらに、外方部材10の車体取付フランジ10bが省略され、単純円筒嵌合によって車体への取付け固定が行なわれる第1世代構造であっても良い。
【0026】
等速自在継手を構成する外側継手部材13は、S53C等の炭素0.40〜0.80重量%を含む中高炭素鋼で形成され、カップ状のマウス部14と、このマウス部14の底部をなす肩部15と、この肩部15から軸方向に延びるステム部16とを一体に有している。
【0027】
ステム部16は、外周にハブ輪2のセレーション5に係合するセレーション(またはスプライン)16aと、このセレーション16aの端部に雄ねじ16bが形成されている。そして、組立は、ハブ輪2の加締部7に外側継手部材13の肩部15が衝合するまで、ハブ輪2にステム部16が嵌挿され、加締部7と肩部15とが突き合わせ状態で、雄ねじ16bに固定ナット17が螺合され、ハブ輪2と外側継手部材13が軸方向に分離可能に所定の締付トルクで締結されている。
【0028】
ここで、本実施形態では、図2に示すように、外側継手部材13の肩部15の端面15aと、この肩部15の端面15aに当接するハブ輪2の加締部7の端面18が平坦面に形成され、所定の接触領域Wをもって面接触している。そして、加締部7の端面18に、周方向に複数の凹部19が接触領域Wの径方向内方側に形成されている。すなわち、凹部19は、加締部7の端面18における接触領域Wの径方向内方に開口する一方、径方向外方には開口しない領域に形成されている。さらに、この凹部19をはじめ、加締部7とステム部16との間に形成される環状空間Sにグリースが充填されている。このグリースは、二硫化モリブデン等の極圧添加剤が添加され、摩擦低減効果を備えたものが好ましい。
【0029】
これにより、ハブ輪2および外側継手部材13の回転による遠心力が作用しても、グリースが加締部7と肩部15の端面18、15a間から外方に飛散したり、あるいは、外部から浸入した水により洗われて流出したりするのを防止することができ、加締部7と肩部15との端面18、15a間にグリースを確保することができると共に、加締部7の端面18と肩部15の端面15aとの間に充分な接触領域Wが確保されるので、固定ナット17による締結軸力や運転時のモーメント荷重の負荷に伴い接触面圧が上昇することはなく、加締部7が塑性変形して軸力の低下による固定ナット17の弛みを防止し、長期間に亘ってスティックスリップ音が発生するのを防止することができる。
【0030】
凹部19は、図3に示すように、略卵形に形成され、加締部7の端面18の周方向等ピッチに配置されている。凹部19の形状は略卵形に限定されるものではないが、当接する肩部15の端面15aとの間で充分な接触領域Wを確保することができ、かつ、加締加工時に引張応力が生じてもクラックが発生しないよう、径方向に縦長に延びる角部がない形状が好ましい。
【0031】
図5に示すように、加締部7は、加締工具20をハブ輪2の小径段部2bの端部に押し当て、ハブ輪2と加締工具20とが位相ズレを起さないように一定の方向に両者を回転させながら、加締工具20を所定の角度傾斜させて揺動させることにより形成される。そして、前述した凹部19は、加締加工後に切削加工によって別途形成されても良いが、ここでは、加締工具20の先端に凹部19に相当する凸部21aを有する成形部21が形成され、加締加工時、小径段部2bの端部に成形部21の形状が刻設されることにより加締部7と、この加締部7の端面18に凹部19が同時に形成される。これにより、加工工数が低減でき低コスト化が図れると共に、塑性変形により端面18のファイバーフローが寸断されずに連続して形成され、当接面の耐摩耗性の向上や亀裂の発生を防止することができる。
【0032】
なお、ここでは、加締部7の端面18に凹部19が周方向等ピッチに配置されたものを例示したが、これに限らず、図4に示すように、凹部22が加締部23の端面18に周方向不等ピッチに配置されていても良い。これにより、加締部23の端面18と外側継手部材13の肩部15の端面15aとの当接状態が周方向に不均一になり、滑り易い部位と滑り難い部位とが混在するため、滑り出しトルクの低減を図ることができる。したがって、スティックスリップ音発生時のエネルギー蓄積量、すなわち、音圧レベルが低減できる効果を発揮することができる。さらに、凹部22が周方向に不等ピッチに配置されていれば、スティックスリップによる発生音の周波数が分散され、耳障りな周波数帯域の音圧を相殺して音圧レベルを低減することもできる。
【0033】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る車輪用軸受装置は、ハブ輪と、このハブ輪に加締固定された内輪とからなる内方部材を備え、内方部材と等速自在継手の外側継手部材とが突き合わせ状態で分離可能に締結された第1乃至第3世代構造の車輪用軸受装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】本発明に係る加締部を示す正面図である。
【図4】図3の加締部の変形例を示す正面図である。
【図5】加締加工を示す説明図である。
【図6】従来の車輪用軸受装置を示す縦断面図である。
【図7】図6の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0036】
1・・・・・・・・・・・・・内方部材
2・・・・・・・・・・・・・ハブ輪
2a、3a・・・・・・・・・内側転走面
2b・・・・・・・・・・・・小径段部
3・・・・・・・・・・・・・内輪
4・・・・・・・・・・・・・車輪取付フランジ
4a・・・・・・・・・・・・基部
5、16a・・・・・・・・・セレーション
6・・・・・・・・・・・・・ハブボルト
7、23・・・・・・・・・・加締部
8・・・・・・・・・・・・・転動体
9・・・・・・・・・・・・・保持器
10・・・・・・・・・・・・外方部材
10a・・・・・・・・・・・外側転走面
10b・・・・・・・・・・・車体取付フランジ
11・・・・・・・・・・・・アウター側のシール
12・・・・・・・・・・・・インナー側のシール
13・・・・・・・・・・・・等速自在継手
14・・・・・・・・・・・・外側継手部材
15・・・・・・・・・・・・肩部
15a・・・・・・・・・・・肩部の端面
16・・・・・・・・・・・・ステム部
16b・・・・・・・・・・・雄ねじ
17・・・・・・・・・・・・固定ナット
18・・・・・・・・・・・・加締部の端面
19、22・・・・・・・・・凹部
20・・・・・・・・・・・・加締工具
21・・・・・・・・・・・・成形部
21a・・・・・・・・・・・凸部
50・・・・・・・・・・・・車輪用軸受装置
51・・・・・・・・・・・・ハブ輪
51a、58a・・・・・・・内側転走面
51b・・・・・・・・・・・小径段部
52・・・・・・・・・・・・複列の転がり軸受
53・・・・・・・・・・・・等速自在継手
54・・・・・・・・・・・・車輪取付フランジ
55・・・・・・・・・・・・外方部材
55a・・・・・・・・・・・外側転走面
55b・・・・・・・・・・・車体取付フランジ
56・・・・・・・・・・・・ボール
57・・・・・・・・・・・・内方部材
58・・・・・・・・・・・・内輪
59・・・・・・・・・・・・加締部
59a・・・・・・・・・・・加締部の端面
60・・・・・・・・・・・・マウス部
61・・・・・・・・・・・・肩部
61a・・・・・・・・・・・肩部の端面
62・・・・・・・・・・・・軸部
63・・・・・・・・・・・・外側継手部材
64・・・・・・・・・・・・雌セレーション
65・・・・・・・・・・・・雄セレーション
66・・・・・・・・・・・・雄ねじ
67・・・・・・・・・・・・固定ナット
68・・・・・・・・・・・・潤滑剤
69・・・・・・・・・・・・空隙
S・・・・・・・・・・・・・環状空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側転走面が形成された外方部材と、
一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記内方部材に連結された等速自在継手とを備え、
前記小径段部の端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部によって前記内輪が前記ハブ輪に固定されると共に、
前記等速自在継手の外側継手部材が、カップ状のマウス部と、このマウス部の底部をなす肩部と、この肩部から軸方向に延び、前記内方部材にセレーションを介してトルク伝達可能に内嵌されたステム部とを一体に有し、前記肩部が前記加締部と突き合わせ状態で、前記内方部材と外側継手部材が軸方向に分離可能に締結された車輪用軸受装置において、
前記外側継手部材の肩部の端面と、この肩部の端面に当接する前記加締部の端面が平坦面に形成され、所定の接触領域をもって面接触されると共に、前記加締部の端面に、周方向に複数の凹部が前記接触領域の径方向内方に開口する一方、径方向外方に開口しない領域に形成され、当該凹部にグリースが充填されていることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記凹部が、前記加締部と同時に塑性変形により形成されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記凹部が、径方向に縦長に延びる略卵形に形成されている請求項1または2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記凹部が周方向等ピッチに配置されている請求項1乃至3いずれかに記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記凹部が周方向不等ピッチに配置されている請求項1乃至3いずれかに記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記凹部をはじめ、前記加締部とステム部との間に形成される環状空間にグリースが充填されている請求項1乃至5いずれかに記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記グリースに極圧添加剤が添加されている請求項1乃至6いずれかに記載の車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−190422(P2009−190422A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29980(P2008−29980)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】