軌道系交通車両及びその車体姿勢制御装置
【課題】軌道系交通車両の加減速時の乗り心地をよくする。
【解決手段】車両Vの前部と後部とに配置され、上下方向に変位して車体1を走行方向で傾ける傾斜アクチュエータ35と、この傾斜アクチュエータ35の駆動量を制御する傾斜アクチュエータコントローラ31とを備えている。傾斜アクチュエータコントローラ31は、車両Vの加減速によって、車体内の乗客Mに作用する車体の床面2に平行な前後方向の加速度αdを、同方向成分の重力加速度gdで打ち消し得る車体1の走行方向の傾斜角度θを求める。そして、傾斜アクチュエータコントローラ31は、この傾斜角度θを実現し得る傾斜アクチュエータ35の駆動量を求めて、この駆動量を目標駆動量とする駆動指令を傾斜アクチュエータ35に出力する。
【解決手段】車両Vの前部と後部とに配置され、上下方向に変位して車体1を走行方向で傾ける傾斜アクチュエータ35と、この傾斜アクチュエータ35の駆動量を制御する傾斜アクチュエータコントローラ31とを備えている。傾斜アクチュエータコントローラ31は、車両Vの加減速によって、車体内の乗客Mに作用する車体の床面2に平行な前後方向の加速度αdを、同方向成分の重力加速度gdで打ち消し得る車体1の走行方向の傾斜角度θを求める。そして、傾斜アクチュエータコントローラ31は、この傾斜角度θを実現し得る傾斜アクチュエータ35の駆動量を求めて、この駆動量を目標駆動量とする駆動指令を傾斜アクチュエータ35に出力する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の前後それぞれに配置され、軌道上を走行する走行輪を備えている軌道系交通車両及びその車体姿勢制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軌道系交通車両の車体姿勢制御装置としては、例えば、以下の特許文献1に開示されている装置がある。この装置は、車体と、左右一対の車輪を連結する輪軸との間に、左右一対の空気バネを有し、車両が曲線部分を走行している際に、左右一対の空気バネの高さを調整して、車体を強制的に内側に傾けることで、曲線通過中に乗客が感じる遠心力を抑えて、乗客の乗り心地の改善を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−81559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、車両の加減速時には、この加減速方向と逆向きの慣性力が車体に作用し、この慣性力により、車幅方向に延びる軸回りに車体を回転させようとするモーメント(ピッチングモーメント)が発生する。このため、車体は、加減速時に走行方向で傾く。具体的に、車両の加速時には、車体の前部が浮き上がる一方で、車体の後部が沈み込む。また、車両の減速時には、車体の前部が沈み込む一方で、車体の後部が浮き上がる。
【0005】
軌道系交通車両では、一般乗用車などに比べて、全重量に対する乗客重量の割合、及び、車体重心位置が高いことから、加減速時に車体が走行方向で傾き易く、乗客の乗り心地に影響を及ぼす。さらに、軌道系交通車両では、乗客が立位である機会もあり、この場合、加減速時の慣性力によって、よろめくなど、乗り心地により一層の影響を及ぼす。
【0006】
このように、加減速時に走行方向で車体が傾くと、軌道系交通車両の乗客には、車両の加速と逆向きの慣性力の他、重力の分力も作用する。このため、乗客は実際の加速度以上の加速度を感じることになり、乗客にとって加減速時の乗り心地が悪い。
【0007】
そして、上記特許文献1に記載の技術では、前述したように、軌道系交通車両の曲線通過中における乗客の乗り心地の改善を図っているものの、軌道系交通車両の走行方向における加減速時の乗り心地を改善するものではなく、上記のように加減速時の乗り心地が悪いという問題点がある。
【0008】
また、上記特許文献1に記載の技術では、機械的構造のみによる対応であるため、急な車体の傾きに対して十分追従できない上に、車体に傾きが生じた後に変位を起こさせるものであるため、絶対的な傾斜量が大きくなってしまう。
【0009】
そこで、本発明は、走行方向における加減速時の乗り心地をよくすることができる軌道系交通車両、及びその車体姿勢制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するための発明に係る軌道系交通車両の車体姿勢制御装置は、
車体と、該車体の前後それぞれに配置されている走行輪と、該走行輪に回転力及び制動力を加えて軌道系交通車両を走行方向で加減速させる加減速速源と、を備えている軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前後に配置されている前記走行輪のうち、少なくとも一方に対する前記車体の上下方向の位置を変えて、前記走行方向で該車体を傾けるアクチュエータと、前記アクチュエータの目標駆動量を求め、該アクチュエータの駆動量を該目標駆動量とする駆動指令を、該アクチュエータに出力するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記軌道系交通車両の加減速情報を用いて、該軌道系交通車両の加減速によって前記車体内の物体に作用する慣性力のうち、該車体の床面に平行な前後方向の分力の少なくとも一部が該物体に作用する重力の分力で打ち消される該車体の傾斜状態となる、前記アクチュエータの駆動量を前記目標駆動量とすることを特徴とする。
【0011】
当該姿勢制御装置では、軌道系交通車両の加減速によって、車体内の物体に作用する慣性力のうち、車体の床面に平行な前後方向の方向成分の慣性力の少なくとも一部が、重力の同方向成分の分力で打ち消されるよう、車体を傾斜させているので、軌道系交通車両の加減速時に乗客に作用する加速度が小さくなり、加減速時の乗り心地をよくすることができる。
【0012】
ここで、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記軌道系交通車両の加減速情報には、該軌道系交通車両の加減速度を事前に示す事前加減速情報が含まれ、前記コントローラは、前記事前加減速情報が示す前記軌道系交通車両の加減速度の情報を用いて、前記目標駆動量を求めてもよい。
【0013】
当該姿勢制御装置では、軌道系交通車両が実際に加減速する前の事前加減速情報を用いて、加減速時の姿勢制御を行っているので、加減速時の姿勢制御の制御遅れを無くす、又は最小限に抑えることができる。
【0014】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記軌道系交通車両の加減速情報には、前記車体内の前記物体に作用する前記前後方向の加減速度として、実際に検知された実加減速度の情報が含まれ、前記コントローラは、前記事前加減速情報を用いて求められた前記目標駆動量に基づく前記駆動指令を前記アクチュエータに出力した後、前記実加減速度の情報を受け付け、該実加減速度の情報を用いて、新たな目標駆動量を求め、該新たな目標駆動量に基づく前記駆動指令を該アクチュエータに出力してもよい。
【0015】
当該姿勢制御装置では、事前加減速情報を用いて目標駆動量を求め、この目標駆動量に基づく駆動指令を出力した後、加速度センサ等で検知された実加減速度を用いて新たな目標駆動量を求め、この新たな目標駆動量に基づく駆動指令を出力しているので、事前加減速情報に基づく駆動指令では打消し得ない加減速による慣性力も、打ち消すことができ、軌道系交通車両の加減速時に乗客に作用する加速度を極めて小さくすることができる。
【0016】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記事前加減速情報には、前記加減速源に与えられる加減速指令が含まれ、前記コントローラは、前記加減速指令が示す前記軌道系交通車両の加減速度の情報を用いて、前記アクチュエータの前記目標駆動量を求めてもよい。
【0017】
事前加減速情報として、加減速源に与えられる加減速指令を用いると、軌道系交通車両の運転計画が変更になった場合でも対応することができる。
【0018】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記軌道系交通車両の位置と該軌道系交通車両の速度との関係を示す走行計画が記憶されているデータベースを備え、前記事前加減速情報には、前記データベースに記憶されている前記走行計画で定まる前記軌道系交通車両の加減速度の情報が含まれ、前記コントローラは、前記データベースを参照して、前記軌道系交通車両の各位置での前記走行方向の加減速度を求め、該軌道系交通車両の各位置での該加減速度の情報を用いて、該軌道系交通車両の各位置での前記目標駆動量を求めてもよい。
【0019】
この場合、前記コントローラは、前記軌道系交通車両の運行開始前に、該軌道系交通車両の各位置での前記目標駆動量を求めて、記憶し、該軌道系交通車両の運行が開始されると、現時点での該軌道系交通車両の位置情報を取得し、予め記憶しておいた該軌道系交通車両の各位置での該目標駆動量から、現在位置での該目標駆動量を取得し、該目標駆動量に基づく前記駆動指令を前記アクチュエータに出力してもよい。
【0020】
事前加減速情報として、運転計画で定まる軌道系交通車両の加減速度を用いると、当該軌道系交通車両の運行前に、運行計画に基づいてアクチュエータの目標駆動量を求めておけるため、当該軌道系交通車両の運行時におけるコントローラの負荷を軽減することができる。
【0021】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記軌道系交通車両の加減速情報には、前記車体内の前記物体に作用する該車体の床面に平行な前記前後方向の加減速度として、実際に検知された実加減速度の情報が含まれ、前記コントローラは、前記実加減速度の情報を受け付けると、該実加減速度の情報を用いて、前記目標駆動量を求め、該目標駆動量に基づく前記駆動指令を該アクチュエータに出力してもよい。
【0022】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記アクチュエータの駆動量を検知する駆動量センサを備え、前記コントローラは、前記目標駆動量に基づく前記駆動指令を前記アクチュエータに出力した後、前記駆動量センサで検知された前記アクチュエータの前記駆動量と、該目標駆動量との偏差を求め、該偏差が小さくなるよう前記駆動指令を補正し、補正した駆動指令を該アクチュエータに出力してもよい。
【0023】
当該姿勢制御装置では、アクチュエータの駆動量をより目標駆動量に近づけることができる。
【0024】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記車体の走行方向での傾斜角度を検知する傾斜センサを備え、前記コントローラは、前記軌道系交通車両の加減速によって前記車体内の物体に作用する慣性力のうち、前記前後方向の分力の少なくとも一部が該物体に作用する重力の分力で打ち消される該車体の傾斜状態となる、該車体の傾斜角度を求め、該傾斜角度を目標傾斜角度とし、前記目標駆動量に基づく前記駆動指令を前記アクチュエータに出力した後、前記傾斜センサで検知された前記車体の傾斜角度と前記目標傾斜角度との角度偏差を求め、該角度偏差が小さくなるよう前記駆動指令を補正し、補正した駆動指令を該アクチュエータに出力してもよい。
【0025】
当該姿勢制御装置でも、アクチュエータの駆動量をより目標駆動量に近づけることができる。
【0026】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記軌道系交通車両は、前記走行輪に対する前記車体の少なくとも上下方向における相対変位を抑制する変位緩衝体を備え、前記アクチュエータは、前記変位緩衝体と前記車体との間に配置されていてもよい。
【0027】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記軌道系交通車両は、前記走行輪に対する前記車体の少なくとも上下方向における相対変位を抑制する変位緩衝体を備え、前記アクチュエータは、上下方向に駆動する駆動端を有し、前記変位緩衝体と並列に、前記走行輪の軸と前記車体との間に配置され、前記コントローラからの前記駆動指令に応じた駆動量での該駆動端の上下方向の位置が、上下方向の荷重に応じて変位するアクチュエータであってもよい。
【0028】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記軌道系交通車両は、前記走行輪に対する前記車体の少なくとも上下方向における相対変位を抑制する変位緩衝体を備え、前記アクチュエータは、前記変位緩衝体と、前記コントローラから前記駆動指令を受けると、該変位緩衝体を変形させて、上下方向の該変位緩衝体の幅を該目標駆動量に対応した大きさの幅に近づける変形量調節手段と、を有してもよい。
【0029】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記走行輪は、前記車体の前後のそれぞれで、車幅方向で対を成して設けられており、前記アクチュエータは、前記対を成す走行輪のうち、一方の走行輪に対する前記車体の上下方向の位置を変えて、軌道幅方向でも該車体を傾けることができるアクチュエータであり、前記コントローラは、前記車両の床面に平行な前記車幅方向の加速度情報を用いて、該加速度情報が示す加速度によって前記車体内の物体に作用する慣性力のうち、前記車幅方向の分力の少なくとも一部が該物体に作用する重力の分力で打ち消す該車体の傾斜状態となる、前記アクチュエータの前記目標駆動量を求め、該目標駆動量に基づく前記駆動指令を該アクチュエータに出力してもよい。
【0030】
当該姿勢制御装置では、さらに、軌道幅方向の車体の傾斜にも対応できるので、軌道系交通車両の曲線通過中における乗客の乗り心地もよくすることができる。
【0031】
上記問題点を解決するための発明に係る軌道系交通車両は、前記車体姿勢制御装置と、前記車体と、該車体の前後それぞれに配置されている前記走行輪と、該走行輪に回転力及び制動力を加える前記加減速源と、を備えていることを特徴とする。
【0032】
当該軌道系交通車両も、前記車体姿勢制御装置を備えているので、加減速時の乗り心地をよくすることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明では、軌道系交通車両の加減速によって、車体内の物体に作用する慣性力のうち、車体の床面に平行な前後方向の方向成分の慣性力の少なくとも一部が、重力の同方向成分の分力で打ち消されるよう、車体を傾斜させる。よって、本発明によれば、軌道系交通車両の加減速時に乗客に作用する加速度が小さくなり、加減速時の乗り心地をよくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る第一実施形態における走行装置の側面図である。
【図2】本発明に係る第一実施形態における走行装置の平面図である。
【図3】本発明に係る第一実施形態における車体姿勢制御装置の機能ブロック図である。
【図4】本発明に係る第一実施形態における傾斜アクチュエータコントローラの動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明に係る第一実施形態の軌道系交通車両の定速走行時又は停止時の状態を示す説明図である。
【図6】本発明に係る第一実施形態の軌道系交通車両の加速時の状態を示す説明図で、同図(A)は姿勢制御を実行していない際の状態を示し、同図(B)は姿勢制御を実行している際の状態を示している。
【図7】本発明に係る第二実施形態における車体姿勢制御装置の機能ブロック図である。
【図8】本発明に係る第二実施形態における軌道系交通車両の各位置と各種パラメータとの関係を示す説明図で、同図(A)は軌道系交通車両の各位置での速度を示し、同図(B)は軌道系交通車両の各位置での加速度を示し、同図(C)は軌道系交通車両の各位置での前側の傾斜アクチュエータの目標駆動量を示し、同図(D)は軌道系交通車両の各位置での後側の傾斜アクチュエータの目標駆動量を示している。
【図9】本発明に係る第二実施形態における傾斜アクチュエータコントローラの動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明に係る上記実施形態における傾斜アクチュエータの第一変形例を示す説明図である。
【図11】本発明に係る上記実施形態における傾斜アクチュエータの第二変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係る軌道系交通車両の各種実施形態について、図面を用いて説明する。
【0036】
「第一実施形態」
まず、本発明に係る軌道系交通車両の第一実施形態について、図1〜図6を用いて説明する。
【0037】
本実施形態の軌道系交通車両は、側方案内軌条式の新交通システムの車両である。なお、以下の説明での車両は、この軌道系交通車両を意味する。この車両Vは、図1及び図2に示すように、車体1と走行装置Tとを備えている。走行装置Tは、左右一対の走行タイヤ3と、この一対の走行タイヤ3を連結する車軸5と、走行タイヤ3を回転駆動させる走行モータ7と、走行タイヤ3に制動力を加えるブレーキ8と、車軸5及び一対の走行タイヤ3を支える懸架装置10と、車両Vの両側に設置されている側方案内軌条Gに沿った方向に走行タイヤ3を向かせる操舵案内装置20と、を備えている。
【0038】
懸架装置10は、車軸5を支える台枠11と、台枠11と車体1との間に配置されている左右一対の空気バネ(変位緩衝体)19と、台枠11を上下方向に変位可能に支える複数のリンク14及び左右一対の懸架枠15と、を備えている。
【0039】
台枠11は、車体1の前後方向に延びている一対の縦梁部12aと一対の縦梁部12aを接続する横梁部12bを有する本体12と、一対の縦梁部のそれぞれから下方に垂下している垂下部13と、を有している。車軸5は、この台枠11の左右一対の垂下部13に取り付けられている。左右一対の懸架枠15は、それぞれ、台枠11の垂下部13の前側Fの位置に、下方に延びる垂下部16を有している。
【0040】
走行モータ7は、車体1に固定されており、その出力軸がギアや継ぎ手等を介して車軸5に接続されている。また、ブレーキ8は、走行タイヤ3のタイヤハウス内に設けられている。これら走行モータ7及びブレーキ8は、車両Vを走行方向で加減速させる加減速源を構成している。
【0041】
なお、図1及び図2は、いずれも、車両Vの後側の走行装置Tを示しており、車両Vの前側の走行装置Tでは、後側の走行装置Tに対して、前後方向が逆になっている。このため、車両Vの前側の走行装置Tでは、例えば、台枠11の垂下部13の後側に、懸架枠15の垂下部16が位置している。
【0042】
懸架枠15の垂下部16と台枠11とは、上下に並び、互いに平行なリンク14により連結されている。これらのリンク14の一方の端部は、懸架枠15の垂下部16とピン結合し、これらのリンク14の他方の端部は、台枠11とピン結合している。懸架枠15の垂下部16と台枠11と2本のリンク14とは、平行4リンク機構を構成している。このため、台枠11は、懸架枠15の垂下部16に対する向きを変えずに、上下動することができる。また、2本のリンク14は、走行タイヤ3の駆動力や減速力を車体1に伝えるための牽引ロッドとしての役目も担っている。
【0043】
空気バネ19は、台枠11の本体12と車体1との間に設けられている。この空気バネ19により、車体1に対する、走行タイヤ3及び車軸5の相対的な上下動が抑制される。
【0044】
操舵案内装置20は、走行タイヤ3の操舵軸となるキングピン(不図示)と、このキングピンを基準として走行タイヤ3と一体的に揺動するナックルアーム28と、車体1の幅方向、つまり車幅方向に延び、懸架装置10の後側に配置されている案内ロッド21と、案内ロッド21の両端部に設けられている案内輪22と、車幅方向に案内ロッド21を変位可能に台枠11の本体12に連結する連結板23及び回動アーム24と、左右一対の走行タイヤ3のうち一方の走行タイヤ3のナックルアーム28の一方の端部と連結板23とを連結する連結ロッド25と、一方の走行タイヤ3のナックルアーム28の他方の端部と他方の走行タイヤ3のナックルアーム28の端部とを連結するタイロッド26と、を備えている。
【0045】
連結ロッド25の一方の端部は、連結板23とピン結合され、他方の端部は、左右一対の走行タイヤ3のうち一方の走行タイヤ3のナックルアーム28の一方の端部とピン結合されている。また、タイロッド26の両端部は、それぞれ、一対の走行タイヤ3の各ナックルアーム28の端部とピン結合されている。
【0046】
操舵案内装置20の案内輪22が、側方案内軌条Gに接して、この側方案内軌条Gから車幅方向の力を受けると、案内ロッド21が車体1の車幅方向に変位する。この案内ロッド21の車幅方向の変位は、連結板23及び連結ロッド25を介して、一方の走行タイヤ3のナックルアーム28に伝えられ、この一方の走行タイヤ3及びナックルアーム28は、キングピンを基準にして揺動する。また、この一方の走行タイヤ3のナックルアーム28の揺動は、タイロッド26を介して、他方の走行タイヤ3のナックルアーム28に伝えられ、この他方の走行タイヤ3及びナックルアーム28も、一方の走行タイヤ3と同様に、キングピンを基準にして揺動する。
【0047】
本実施形態の車両Vは、以上の他、さらに、図3に示すように、外部の統括制御器40と無線通信する通信機41と、統括制御器40から送られてきた運行指令に基づいて速度指令を出力する自動運転制御器42と、自動運転制御器42からの速度指令に基づいて加減速源指令を出力する加減速源コントローラ43と、車体姿勢制御装置30と、を備えている。
【0048】
統括制御器40は、コンピュータと無線通信機とを備えている。この統括制御器40は、予め定められている車両毎の運行計画に従って、各車両の運行指令を該当車両Vへ無線送信する。
【0049】
車両Vの自動運転制御器42は、通信機41が受信した統括制御器40から運行指令に基づいて、その時々の車両Vの速度を示す速度指令を加減速源コントローラ43へ出力する。この加減速源コントーラ43は、加減速源である、走行タイヤ3に回転力を加える走行モータ7や、走行タイヤ3に制動力を加えるブレーキ8の動作を制御する。具体的に、加減速源コントローラ43は、自動運転制御器42からの速度指令が示す車両Vの速度が得られるよう、走行モータ7の印加電圧値を示すモータ指令(加減速指令)を作成し、これを走行モータ7に出力すると共に、ブレーキ8の油圧値を示すブレーキ指令(加減速指令)を作成し、これをブレーキ8に出力する。
【0050】
車体姿勢制御装置30は、車両Vの前部及び後部に設けられ、走行方向で車体1を傾斜させる傾斜アクチュエータ35と、この傾斜アクチュエータ35の駆動量を検知する駆動量センサ36と、車体1の床面に平行な前後方向の加減速度を検知する加速度センサ37と、傾斜アクチュエータ35の駆動量を制御する傾斜アクチュエータコントローラ31と、を備えている。
【0051】
傾斜アクチュエータ35は、図1及び図2に示すように、走行装置の空気バネ19と車体1との間に配置されている。傾斜アクチュエータコントローラ31は、加減速源コントローラ43が走行モータ7やブレーキ8へ出力する加減速指令(事前加減速情報)と、駆動量センサ36が検知した傾斜アクチュエータ35の実駆動量と、加速度センサ37が検知した実加減速度とに基づいて、傾斜アクチュエータ35を制御する。
【0052】
次に、図4に示すフローチャートに従って、傾斜アクチュエータコントローラ31の動作について説明する。
【0053】
傾斜アクチュエータコントローラ31は、加減速源コントローラ43が加減速源(走行モータ7、ブレーキ8)へ加減速指令を出力すると、この加減速指令を受け付け(S10)、この加減速指令が車両Vの加減速を示すものであるか否かを判断する(S11)。
【0054】
加減速源コントローラ43が加減速源へ出力する加減速指令は、前述したように、例えば、走行モータ7の印加電圧値を示すモータ指令や、ブレーキ8の油圧値を示すブレーキ指令である。このため、傾斜アクチュエータコントローラ31は、この加減速指令が示す値と前のルーチンで受け付けた加減速指令が示す値とを比較することで、この加減速指令が加減速を示すものであるか、定速走行又は停止を示すものであるかを判断できる。
【0055】
傾斜アクチュエータコントローラ31は、ステップS11で、加減速源への加減速指令が加減速を示すものではない、つまり、定速走行又は停止を示すものであると判断すると、傾斜アクチュエータ35へ駆動停止指令を出力して(S20)、一連の処理を終了し、加減速源への新たな加減速指令の出力の受け付けを待つ。
【0056】
一方、傾斜アクチュエータコントローラ31は、ステップS11で、加減速源への加減速指令が加減速を示すものであると判断すると、前のルーチンで受け付けた加減速指令と比較して、今回のルーチンで受け付けた加減速指令が示す車両Vの加減速度に変化があるか否かを判断する(S12)。
【0057】
傾斜アクチュエータコントローラ31は、ステップS12で、車両Vの加減速度に変化がある(定速から加速及び減速、停止からの加速を含む)と判断すると、後述する方法で、走行方向における車体1の目標傾斜角度を求め、この目標傾斜角度を実現する傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を求めて、これを一時的に記憶する(S13)。そして、この目標駆動量に対応した印加電圧値を示す駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力する(S14)。この結果、傾斜アクチュエータ35が駆動して、車体1は走行方向で傾く。なお、ここでは、傾斜アクチュエータ35が印加電圧に応じて駆動量が変化するものを対象にしているため、駆動指令は、印加電圧値を示すものであるが、傾斜アクチュエータ35が例えば供給される電流に応じて駆動量が変化するものであれば、駆動指令は、この電流値を示すものである。
【0058】
一方、傾斜アクチュエータコントローラ31は、ステップS12で、車両Vの加減速度に変化がないと判断すると、既に記憶している目標駆動量を取得し、この目標駆動量に対応した印加電圧値を示す駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力する(S14)。
【0059】
傾斜アクチュエータコントローラ31は、駆動指令を出力すると、駆動量センサ36から傾斜アクチュエータ35の駆動量を受け付け(S15)、目標駆動量と実駆動量との偏差を求める(S16)。そして、傾斜アクチュエータコントローラ31は、傾斜アクチュエータ35の駆動量が目標駆動量になるよう、ステップS14で出力した指令が示す印加電圧値に、ステップS15で求めた偏差相当の電圧値を加え、この電圧値を示す駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力する(S17)。すなわち、傾斜アクチュエータコントローラ31は、目標駆動量と実駆動量との偏差が小さくなるよう、先に出力した駆動指令を補正し、補正した駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力し、駆動量のフィードバック制御を行う。なお、駆動量センサ36からの出力に高周波成分が含まれている場合には、傾斜アクチュエータコントローラ31は、この高周波成分を除去するために、例えば、駆動量センサ36からの出力をローパスフィルターを通し(例えば、1Hzより高い周波数成分をカットする)、このローパスフィルターからの出力を傾斜アクチュエータ35の実駆動量として採用することが望ましい。
【0060】
以上の結果、傾斜アクチュエータ35の駆動量は目標駆動量に近づき、車体1の傾斜角度は目標傾斜角度に近づく。
【0061】
次に、傾斜アクチュエータコントローラ31は、加速度センサ37から、車体1の床面に平行な前後方向の加減速度、つまり実加減速度を受け付ける(S18)。そして、この実加減速度を用いて、後述する方法で、走行方向における車体1の新たな目標傾斜角度を求め、この新たな目標傾斜角度を実現する傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を求めて、既に記憶している目標駆動量を新たな目標駆動量に更新し(S19)、ステップS10に戻る。
【0062】
ステップS10に戻り、加減速源への新たな加減速指令を受け付けると、傾斜アクチュエータコントローラ31は、再び、この加減速指令が車両Vの加減速を示すものであるか否かを判断する(S11)。傾斜アクチュエータコントローラ31は、このステップS11で、加減速源への加減速指令が加減速を示すものではない、つまり、定速走行又は停止を示すものであると判断すると、ステップS19で記憶した新たな目標駆動量に基づく駆動指令を出力することなく、傾斜アクチュエータ35へ駆動停止指令を出力して(S20)、一連の処理を終了する。
【0063】
一方、傾斜アクチュエータコントローラ31は、このステップS11で、加減速源への加減速指令が加減速を示すものであると判断すると、前のルーチンで受け付けた加減速指令と比較して、今回のルーチンで受け付けた加減速指令が示す車両Vの加減速度に変化があるか否かを判断する(S12)。
【0064】
傾斜アクチュエータコントローラ31は、ステップS12で、車両Vの加減速度に変化があると判断すると、前述したように、走行方向における車体1の目標傾斜角度を求め、この目標傾斜角度を実現する傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を求めて、これを一時的に記憶し(S13)、この目標駆動量に対応した駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力する(S14)。
【0065】
一方、傾斜アクチュエータコントローラ31は、ステップS12で、車両Vの加減速度に変化がないと判断すると、ステップS19で記憶した新たな目標駆動量を取得し、この目標駆動量に対応した駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力する(S14)。
【0066】
以降、傾斜アクチュエータコントローラ31は、ステップS15〜S19、ステップS10〜S14の処理、すなわち、ステップS10〜S19の処理を繰り返して実行し、ステップS11で、加減速源への加減速指令が加減速を示すものではないと判断すると、傾斜アクチュエータ35へ駆動停止指令を出力して(S20)、一連の処理を終了する。
【0067】
次に、図5及び図6を用いて、加減速時の車体1の姿勢変化及び前述の目標傾斜角度の求め方について説明する。
【0068】
図5に示すように、車両Vが停止している際や定速走行している場合、乗客Mは、車体1の床面2に平行な前後方向の加速度を受けない。また、車体1は車両Vの走行方向で傾いていない。つまり、この場合、車両Vの走行方向と、車体1の床面2に平行な前後方向とは同じ方向である。
【0069】
一方、図6(A)に示すように、車両Vが前方Fへ加速している場合、姿勢制御を実行しないと、車体1の前部が浮き上がる一方で、車体1の後部が沈み込み、走行方向で車体1は傾く。言い換えると、車体1の床面2に平行な前後方向は、車両Vの走行方向に対して傾く。この際、乗客Mは、車両Vの加速と逆向きの慣性力の他、重力の分力も作用する。
【0070】
具体的に、乗客Mには、車両Vの加速度aに対して逆向きの加速度α(=−a)のうち、床面2に平行な前後方向成分の加速度αdと、重力加速度gのうち、床面2に平行な前後方向成分の重力加速度gdが作用する。
【0071】
そこで、本実施形態では、図6(B)に示すように、車両Vが加速している場合、姿勢制御を実行しない場合とは逆に、車体1の前部に対して車体1の後部が高くなるよう、車体1を傾けることで、車両Vの加速によって乗客Mに作用する加速度αのうち、床面2に平行な前後方向成分の加速度αdと逆向きに、同方向成分の重力加速度gdを作用させて、床面2に平行な方向で、乗客Mに作用する加速度αdを低減させている。なお、車両Vが減速している場合、姿勢制御を実行しないと、車体1の前部に対して車体1の後部が高くなるので、姿勢制御の際には、車両Vが加速している場合とは逆に、車体1の前部に対して車体1の後部が低くなるよう、車体1を傾ける。
【0072】
ここで、姿勢制御の際の車体1の走行方向における傾斜角度をθとすると、車両Vの加速によって乗客Mに作用する加速度αのうち、床面2に平行な前後方向成分の加速度αdは、α・cosθとなり、乗客Mに作用する重力加速度gのうち、床面2に平行な前後方向成分の重力加速度gdは、g・sinθとなる。本実施形態では、以下に式(1)に示すように、床面2に平行な前後方向成分の加速度(α・cosθ)と、床面2に平行な前後方向成分の重力加速度(g・sinθ)とが、乗客Mに対して逆向きに作用し、且つ両加速度が同じ大きさになる傾斜角度θを求め、この傾斜角度θを目標傾斜角度としている。
g・sinθ=α・cosθ ・・・・・・・・・・・(1)
【0073】
傾斜アクチュエータコントローラ31は、以上のように、目標傾斜角度θを求めると、車体1を目標傾斜角度θに傾けた際の前側傾斜アクチュエータ35の駆動量と後側アクチュエータ35の駆動量との差dを、以下の式(2)で求める。
d=L・sinθ・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
なお、式(2)において、Lは、前側傾斜アクチュエータ35と後側アクチュエータ35の間隔、つまり、実質的に、前走行タイヤと後走行タイヤとの間隔であるホイールベースである。
【0074】
仮に、車両Vが前方Fへ加速し、車体1の前部に対して車体1の後部が高くなるよう、車体1を傾ける場合、前側傾斜アクチュエータ35の目標駆動量に対して、後側アクチュエータの目標駆動量は差dだけ大きくする。具体的には、前側傾斜アクチュエータ35の目標駆動量をs(sは0の場合も含む)とすると、後側アクチュエータの目標駆動量は(s+d)となる。また、後側傾斜アクチュエータ35の目標駆動量をs(sは0の場合も含む)とすると、前側傾斜アクチュエータの目標駆動量は(s−d)となる。また、前側傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を(−)d/2とすると、後側アクチュエータの目標駆動量は(+)d/2となる。各傾斜アクチュエータ35の目標駆動量の設定は、以上の各設定態様のうち、いずれの設定態様を採用してもよい。但し、乗り心地をより良くするために、車両Vの重心位置が極力下側に位置するように、各傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を設定することが望ましい。
【0075】
なお、前側傾斜アクチュエータ35の目標駆動量と後側傾斜アクチュエータ35の目標駆動量とのうち、いずれか一方の目標駆動量が当該傾斜アクチュエータ35の駆動範囲を超える場合には、この駆動範囲内で、先に定めた目標駆動量に近い駆動量を、記憶すべき目標駆動量とする。
【0076】
図4におけるステップS13の処理では、以上で説明した目標傾斜角度θの算出、目標駆動量の算出を実行する。
【0077】
ところで、以上のように、事前加減速情報を用いて、傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を求め、この目標駆動量に基づく駆動指令を出力した後であっても、例えば、乗客数が多くて車体重量が増加している場合や、加減速時に傾斜走行路を走行している場合等では、車両Vは、事前加減速情報が示す加減速度にならないことがある。そこで、本実施形態では、前述したように、加速度センサ37から、車体1の床面2に平行な前後方向の実加減速度を受け付け(S18)、この実加減速度を用いて、新たな目標傾斜角度を求め、さらに、この目標傾斜角度に対応した目標駆動量を求めている(S19)。
【0078】
このステップS19で、新たな目標傾斜角度を求める際には、加速度センサ37から受け付けた、車体1の床面2に平行な前後方向の実加減速度α1が、重力加速度gの同方向成分の分力により、完全に打ち消される車体1の傾斜角度を目標傾斜角度θとする。そして、この新たな目標駆動角度θを用いて、前述の手法で、各傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を求める。但し、この場合も、前側傾斜アクチュエータ35の目標駆動量と後側傾斜アクチュエータ35の目標駆動量とのうち、いずれか一方の目標駆動量が当該傾斜アクチュエータ35の駆動範囲を超える場合には、この駆動範囲内で、先に定めた目標駆動量に近い駆動量を、記憶すべき目標駆動量とする。
【0079】
以上、本実施形態では、車両Vの加減速によって、車体1内の物体(乗客M)に作用する慣性力のうち、車体1の床面2に平行な前後方向の分力の少なくとも一部を、重力の同方向成分の分力で、打ち消し得るよう、車体1を傾斜させているので、車両Vの加減速時に乗客に作用する加速度αが小さくなり、加減速時の乗り心地をよくすることができる。
【0080】
また、本実施形態では、車両Vが実際に加減速する前の事前加減速情報を用いて、加減速時の姿勢制御を行っているので、加減速時の姿勢制御の制御遅れを無くす、又は最小限に抑えることができる。
【0081】
また、本実施形態では、駆動量センサ36からの出力を用いて、傾斜アクチュエータ35の駆動量をフィードバック制御しているので、傾斜アクチュエータ35の駆動量を極めて正確に目標の値にすることができる。
【0082】
さらに、本実施形態では、事前加減速情報を用いて目標駆動量を求め、この目標駆動量に基づく駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力した後、加速度センサ37からの出力を用いて新たな目標駆動量を求め、この新たな目標駆動量に基づく駆動指令を出力しているので、事前加減速情報に基づく駆動指令では打消し得ない加速度も、打ち消すことができ、車両Vの加減速時に乗客に作用する加速度を極めて小さくすることができる。
【0083】
なお、本実施形態では、事前加減速情報として、加減速源コントローラ43から加減速源へ出力される加減速指令を用いているが、この代わりに、自動運転制御器42から加減速源コントローラ43へ出力される速度指令を、事前加減速情報として用いてもよい。
【0084】
「第二実施形態」
次に、本発明に係る軌道系交通車両の第二実施形態について、図7〜図9を用いて説明する。
【0085】
なお、第一実施形態は、事前加減速情報として、加減速源コントローラ43から加減速源へ出力される加減速指令を用いる例であるが、本実施形態は、事前加減速情報として、当該車両Vの運行前に受け付けた運行計画で定まる車両Vの加減速度の情報を用いる例であり、その他の点では基本的に第一実施形態と同様である。そこで、以下では、運行計画の利用形態を主として説明する。
【0086】
本実施形態の姿勢制御装置30aは、図7に示すように、当該車両Vの運行計画が格納される運行計画データベース38を有している。この運行計画データベース38には、当該車両Vの運行前に、統括制御器40から無線通信機41が受け付けた運行計画を格納してもよいし、運転員又は車掌が持ち込んだ記憶媒体に記憶されている運行計画を格納してもよい。
【0087】
運行計画データベース38に格納される運行計画は、図8(A)に示すように、当該車両Vが運行する走行路中の各位置における速度を示すデータである。本実施形態の傾斜アクチュエータコントローラ31aは、この運転計画を用いて、当該車両Vの運行前に、加減速度テーブル32及び目標駆動量テーブル33(図7)を作成し、これらのテーブル32,33を記憶する。
【0088】
具体的に、傾斜アクチュエータコントローラ31aは、運行計画が示す車両Vの各位置における速度を用いて、図8(B)に示すように、車両Vの各位置における加減速度を示すデータを作成し、これを加減速度テーブル32として記憶する。さらに、傾斜アクチュエータコントローラ31aは、加減速テーブル32が示す車両Vの各位置における加減速度(事前加減速情報)を用いて、図8(C)(D)に示すように、車両Vの各位置における前後の傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を示すデータを作成し、これを目標駆動量テーブル33として記憶する。
【0089】
傾斜アクチュエータコントローラ31aは、当該車両Vの運行が実際に開始されると、図9のフローチャートに示す動作をする。
【0090】
すなわち、傾斜アクチュエータコントローラ31aは、走行距離計47(図7)から走行距離を取得し、走行路中の現在位置を逐次把握し、加減速度テーブル32を参照して、現在位置が加減速域であるか否かを判断する(S11a)。なお、走行距離計47は、車両Vの走行速度等を把握するために車軸の回転数を検知する回転数計46に接続されており、この回転数計36で計測された回転数に走行タイヤ3の周長を掛けて、走行距離を得ている。なお、走行路中の現在位置は総括制御器40から得られる走行位置情報に基づき決定することも可能である。この場合、走行距離計47に基づく現在位置の把握は不要となる。
【0091】
傾斜アクチュエータコントローラ31aは、このステップS11aで、現在位置が加減速域ではない、つまり、定速走行又は停止域であると判断すると、傾斜アクチュエータ35へ駆動停止指令を出力して(S20)、一連の処理を終了する。
【0092】
一方、傾斜アクチュエータコントローラ31は、このステップS11aで、現在位置が加減速域であると判断すると、第一実施形態と同様、前のルーチンでの現在位置のときと比較して、今回のルーチンでの現在位置での車両Vの加減速度に変化があるか否かを判断する(S12)。
【0093】
傾斜アクチュエータコントローラ31aは、ステップS12で、車両Vの加減速度に変化があると判断すると、走行方向における車体1の目標傾斜角度を求め、この目標傾斜角度を実現する傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を求めて、これを一時的に記憶し(S13)、この目標駆動量に対応した駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力する(S14)。一方、傾斜アクチュエータコントローラ31は、ステップS12で、車両Vの加減速度に変化がないと判断すると、ステップS19で記憶した新たな目標傾斜角度を取得し、この目標駆動量に対応した駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力する(S14))。
【0094】
以降、第一実施形態と同様に、ステップS15〜S19を実行し、ステップS11aに戻ったときに、現在位置が加減速域ではないと判断すると、傾斜アクチュエータ35へ駆動停止指令を出力して(S20)、一連の処理を終了する。
【0095】
以上、本実施形態は、第一実施形態と比較して、事前加減速情報が異なる点を除いて同一であるため、基本的に第一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0096】
また、本実施形態では、運行計画に基づいて、傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を予め求めているため、実際の車両Vの運行時における傾斜アクチュエータコントローラ31aの演算負荷を軽減することができる。
【0097】
ところで、当該車両Vの走行路中の他の車両や機器等に故障等がない正常状態では、統括制御器40が当該車両Vの運行計画に従った運行指令を当該車両Vに送信する。一方、当該車両Vの走行路中の他の車両や機器等に故障等が生じた異常状態では、統括制御器40が当該異常状態に見合った運行指令を当該車両Vに送信する。すなわち、異常状態の際、当該車両は、運行計画に従った運行指令とは異なる運行指令に基づいて運行することになる。仮に、当該車両Vが運行中に異常状態になっても、運行計画に基づいた目標駆動量をそのまま用いて、傾斜アクチュエータ35を制御すると、定速走行時に車体1が傾斜したりする等、却って、乗り心地が悪くなってしまう。
【0098】
そこで、本実施形態では、自動運転制御器42が、無線通信機41を介して統括制御器40から異常時運転指令を受信すると、この異常時運転指令を加減速源コントローラ43に送ると共に、傾斜アクチュエータコントローラ31aにも送り、この傾斜アクチュエータコントローラ31aの姿勢制御ルーチンに割り込みをかけて、図9に示すフローの実行を停止させる一方で、図4に示すフローを実行させるようにしている。
【0099】
なお、本実施形態では、車両Vの現在位置を把握するため、走行距離計47からの出力を用いているが、この代わりに、GPS受信機を設けて、このGPS受信器からの出力を用いるようにしてもよいし、走行距離計47とGPS受信機とを併用してもよい。
【0100】
また、本実施形態では、運行計画データベース38に格納されている運行計画を参照して、傾斜アクチュエータコントローラ31aが加減速度テーブル32や目標駆動量テーブル33を作成しているが、運行計画に、この運行計画が示す車両Vの各位置に対応付けて、車両Vの加減速度や目標駆動量を付加されているものを外部から取得し、これを運行計画データベース38に格納するようにしてもよい。
【0101】
また、以上の各実施形態では、傾斜アクチュエータ35として、油圧アクチュエータや電磁アクチュエータを想定しているが、エアアクチュエータ、油圧ダンパ、電磁ダンパ等のその他のアクチュエータを用いてもよい。
【0102】
「傾斜アクチュエータの変形例」
次に、傾斜アクチュエータの変形例について、図10及び図11を用いて説明する。
【0103】
まず、図10を用いて、傾斜アクチュエータの第一変形例について説明する。
【0104】
以上の各実施形態は、いずれも、上下方向に変位可能な空気バネ19の上に、同じく上下方向に変位可能な傾斜アクチュエータ35を直列的に設けたものである。一方、本変形例は、空気バネ19の横隣に、傾斜アクチュエータ35bを並列的に設けたものである。すなわち、本変形例では、車軸5(図1に示す)を支える台枠11と車体1との間に、空気バネ19と傾斜アクチュエータ35bとを並列的に設けている。
【0105】
ところで、本変形例のように、空気バネ19と並列的に設けられる傾斜アクチュエータ35bとして、油圧アクチュエータや電磁アクチュエータのように、入力に対して、その駆動端の位置が一意的に定まるタイプのアクチュエータを採用すると、空気バネ19とアクチュエータとが相互に干渉して、アクチュエータが機能しなくなってしまったり、空気バネ19が機能しなくなってしまったりすることがある。
【0106】
そこで、本変形例では、傾斜アクチュエータ35bとして、例えば、エアアクチュエータや油圧ダンパ等のように、入力に対して、その駆動端35tが目的の位置に移動しようとするものの、駆動端35tの移動方向である上下方向の荷重に応じて、駆動端35tが変位し得るアクチュエータを採用する。
【0107】
次に、図11を用いて、傾斜アクチュエータの第二変形例について説明する。
【0108】
本変形例では、空気バネ19と、この空気バネ19に供給される圧縮空気が貯められている圧縮空気タンク49との間に、流量調節弁(変形量調節手段)39を設け、この流量調節弁39に傾斜アクチュエータコントローラ31からの駆動指令を入力するようにしたものである。すなわち、本変形例の傾斜アクチュエータ35cは、空気バネ19と、この空気バネ19に供給する圧縮空気の量を調節する流量調節弁39とで構成されている。なお、圧縮空気タンク49には、コンプレッサ(不図示)の吐出口が接続されている。
【0109】
本変形例では、以上のように、空気バネ19を傾斜アクチュエータ35cの構成要素にしている。このため、流量調節弁39への入力(アクチュエータへの駆動指令)に対して、空気バネ19の上下方向の変位量(駆動量)が車体重量等の影響を受けて常に一定でない。
【0110】
そこで、本変形例のように、空気バネ19を傾斜アクチュエータ35cの構成要素にする場合、空気バネ19の変位量を検知する変位量(駆動量)センサを設け、傾斜アクチュエータコントローラ31が、目標駆動量に基づく駆動指令を出力した後、変位量センサからの出力を用いて、空気バネ19の変位量(駆動量)をフィードバック制御することが好ましい。
【0111】
以上、本変形例では、空気バネ19を変位緩衝体として機能させると共に、傾斜アクチュエータ35cとしても機能させるので、部品点数を減少させることができる。この結果、本変形例では、製造コストの低減を図ることができると共に、走行装置の軽量化を図ることができる。
【0112】
なお、本変形例は、走行タイヤ3に対する車体1の少なくとも上下方向における相対変位を抑制する変位緩衝体として、空気バネ19が用いられている場合に、この空気バネ19を傾斜アクチュエータとしても利用するものであるが、変位緩衝体として、この空気バネ19の代わりに、油圧ダンパや電磁ダンパ等のダンパ作用のあるものを用いている場合には、これら油圧ダンパや電磁ダンパ等を傾斜アクチュエータとして利用してもよい。
【0113】
「その他の変形例」
以上の各実施形態では、傾斜アクチュエータ35の駆動量をフィードバック制御するために、各傾斜アクチュエータ35に駆動量センサ36を設けているが、この駆動量センサ36の代わりに、走行方向に対する車体の傾斜角度を検知する傾斜センサを車体1に設けてもよい。この場合、傾斜センサで検知された車体1の傾斜角度と目標傾斜角度との角度偏差を求め、この角度偏差を補える指令を傾斜アクチュエータ35に出力する。すなわち、傾斜アクチュエータコントローラ31は、目標傾斜角度と実傾斜角度との角度偏差が小さくなるよう、先に出力した駆動指令を補正し、補正した駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力し、駆動量のフィードバック制御を行う。また、この場合、傾斜アクチュエータコントローラ31は、前述のステップS13(図4)において、目標駆動量を求める前段階として求めている目標傾斜角度を、フィードバック制御の目標値として記憶しておく必要がある。
【0114】
また、上記のように、駆動量センサ36の代わりに、車体1に傾斜センサを設けた場合、第二実施形態における目標駆動量テーブル33のように、目標傾斜角度テーブルを予め準備しておいてもよい。この場合、例えば、第二実施形態において、傾斜アクチュエータコントローラ31aが、運行計画データベース38中の運行計画、つまり、図8(A)を用いて前述した、当該車両Vが運行する走行路中の各位置における速度を示すデータを用いて、目標傾斜角度テーブルを作成する。この目標傾斜角度テーブルは、当該車両Vが運行する走行路中の各位置における目標傾斜角度を示すデータである。この目標傾斜角度テーブルは、車体1の傾斜角度をフィードバック制御する際に用いられる。具体的には、前述のステップS15(図4、図9)において、傾斜センサから車体1の傾斜角度を受け付け、前述のステップS16で、目標傾斜角度テーブルから当該車両Vの位置に応じた目標傾斜角度を取得し、傾斜センサから得られた車体1の傾斜角度と目標傾斜角度との角度偏差を求め、前述のステップS17において、角度偏差を補える新たな駆動指令を傾斜アクチュエータ35に出力する。
【0115】
なお、ここでは、運行計画データベース38に格納されている運行計画を参照して、傾斜アクチュエータコントローラ31aが、目標傾斜角度テーブルを作成するようにしているが、運行計画が示す車両Vの各位置に対応付けて、車両Vの加減速度や目標駆動量を付加されているものを外部から取得し、これを運行計画データベース38に格納するようにしてもよい。
【0116】
また、以上の各実施形態では、傾斜アクチュエータ35の駆動量をフィードバック制御しているが、このフィードバック制御は必ずしも必要なものではない。このため、傾斜アクチュエータ35の種類や車体1の傾斜角度の要求精度等を考慮して、フィードバック制御を実行するか否かを定めることが好ましい。
【0117】
また、以上の実施形態では、傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を、事前加減速情報を用いて求めると共に、加速度センサ37から出力された実加速度を用いて求めているが、事前加減速情報と実加速度とのうち、いずれか一方のみで目標駆動量を求めてもよい。
【0118】
また、以上の実施形態では、車両Vの前部と後部とのそれぞれに傾斜アクチュエータ35を設けているが、車両Vの前部と後部とのうち、いずれか一方のみに傾斜アクチュエータ35を設けてもよい。
【0119】
また、以上の実施形態は、いずれも、車両Vの加減速による走行方向の車体の傾斜に対応するものであるが、曲線通過時等における軌道幅方向の車体の傾斜にも対応できるよう、さらに、傾斜アクチュエータコントローラ31,31aが、車体1の床面に平行な車幅方向の加速度情報を取得し、この車幅方向の加速度情報に基づいて、車幅方向で対を成している傾斜アクチュエータ35(図3、図7)のそれぞれの駆動量を制御するようにしてもよい。この場合、前述の走行方向に関する目標傾斜角度や目標駆動量を求める手法と同様の手法で、車幅方向の加速度情報から目標傾斜角度や目標駆動量を求め、これら目標値を用いて、車幅方向で対を成している傾斜アクチュエータ35のそれぞれの駆動量についてフィードフォワード制御や、フィードバック制御を実行するとよい。この結果、走行方向の傾斜のみならず、軌道幅方向の傾斜に対してもて、適切な姿勢制御を行うことができる。なお、このように走行方向及び車幅方向での傾斜制御を実行する場合、車体1の前後のそれぞれで車幅方向で対を成す傾斜アクチュエータ35のそれぞれに対して、個別の駆動指令を与えることになる。また、軌道幅方向の傾斜制御に関する目標傾斜角度や目標駆動量は、車両Vの走行中に傾斜アクチュエータコントローラ31,31aが求めてもよいが、運行計画データベース38に格納されている運行計画を参照して、軌道幅方向の傾斜制御に関する目標傾斜角度テーブルや目標駆動量テーブルを事前に準備しておくようにしてもよい。
【0120】
さらに、この場合、車体1の床面に平行な車幅方向の加速度情報として、例えば、車幅方向の加速度を検知する加速度センサから出力を用いてもよしい。また、車両Vの走行路中の各位置における車両Vの速度を示す運転計画中に、走行路中の各位置に対応付けて車幅方向の加速度のデータを付しておき、このデータを事前加減速度情報として用いるようにしてもよい。また、軌道幅方向に対する車体の傾斜角度を検知する傾斜センサを車体1設け、傾斜センサからの出力に基づいて、軌道幅方向の傾斜制御を実行するようにしてもよい。
【0121】
また、傾斜アクチュエータコントローラ31,31aによる軌道幅方向の傾斜制御は、基本的に、走行方向の傾斜制御と独立した制御ルーチンで実行されるが、曲線通過中に走行方向に加減速した場合には、軌道幅方向の傾斜制御ルーチンで求められた傾斜アクチュエータ35の目標駆動量に、走行方向の傾斜制御ルーチンで求められた傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を付加することが好ましい。
【0122】
また、以上のように、傾斜アクチュエータコントローラ31,31aによる軌道幅方向の傾斜制御を実行する場合も、第一実施形態の傾斜アクチュエータ35を用いてもよいし、前述の「傾斜アクチュエータの変形例」で説明したものを用いてもよい。
【0123】
さらに、以上の実施形態は、側方案内軌条式の新交通システムの車両に本発明を適用した例であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、中央案内軌条式の新交通システムの車両に適用してもよいし、その他の軌道系交通車両に適用してもよい。
【符号の説明】
【0124】
1:車体1、3:走行タイヤ、5:車軸、7:走行モータ、8:ブレーキ、10:懸架装置、11:台枠、15:懸架枠、20:操舵案内装置、30,30a:姿勢制御装置、31,31a:傾斜アクチュエータコントローラ、32:加減速度テーブル、33:目標駆動量テーブル、35,35b,35c:傾斜アクチュエータ、36:駆動量センサ、37:加速度センサ、38:運行計画データベース、40:統括制御器、41:無線通信機、42:自動運転制御器、43:加減速源コントローラ、47:走行距離計
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の前後それぞれに配置され、軌道上を走行する走行輪を備えている軌道系交通車両及びその車体姿勢制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軌道系交通車両の車体姿勢制御装置としては、例えば、以下の特許文献1に開示されている装置がある。この装置は、車体と、左右一対の車輪を連結する輪軸との間に、左右一対の空気バネを有し、車両が曲線部分を走行している際に、左右一対の空気バネの高さを調整して、車体を強制的に内側に傾けることで、曲線通過中に乗客が感じる遠心力を抑えて、乗客の乗り心地の改善を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−81559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、車両の加減速時には、この加減速方向と逆向きの慣性力が車体に作用し、この慣性力により、車幅方向に延びる軸回りに車体を回転させようとするモーメント(ピッチングモーメント)が発生する。このため、車体は、加減速時に走行方向で傾く。具体的に、車両の加速時には、車体の前部が浮き上がる一方で、車体の後部が沈み込む。また、車両の減速時には、車体の前部が沈み込む一方で、車体の後部が浮き上がる。
【0005】
軌道系交通車両では、一般乗用車などに比べて、全重量に対する乗客重量の割合、及び、車体重心位置が高いことから、加減速時に車体が走行方向で傾き易く、乗客の乗り心地に影響を及ぼす。さらに、軌道系交通車両では、乗客が立位である機会もあり、この場合、加減速時の慣性力によって、よろめくなど、乗り心地により一層の影響を及ぼす。
【0006】
このように、加減速時に走行方向で車体が傾くと、軌道系交通車両の乗客には、車両の加速と逆向きの慣性力の他、重力の分力も作用する。このため、乗客は実際の加速度以上の加速度を感じることになり、乗客にとって加減速時の乗り心地が悪い。
【0007】
そして、上記特許文献1に記載の技術では、前述したように、軌道系交通車両の曲線通過中における乗客の乗り心地の改善を図っているものの、軌道系交通車両の走行方向における加減速時の乗り心地を改善するものではなく、上記のように加減速時の乗り心地が悪いという問題点がある。
【0008】
また、上記特許文献1に記載の技術では、機械的構造のみによる対応であるため、急な車体の傾きに対して十分追従できない上に、車体に傾きが生じた後に変位を起こさせるものであるため、絶対的な傾斜量が大きくなってしまう。
【0009】
そこで、本発明は、走行方向における加減速時の乗り心地をよくすることができる軌道系交通車両、及びその車体姿勢制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するための発明に係る軌道系交通車両の車体姿勢制御装置は、
車体と、該車体の前後それぞれに配置されている走行輪と、該走行輪に回転力及び制動力を加えて軌道系交通車両を走行方向で加減速させる加減速速源と、を備えている軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前後に配置されている前記走行輪のうち、少なくとも一方に対する前記車体の上下方向の位置を変えて、前記走行方向で該車体を傾けるアクチュエータと、前記アクチュエータの目標駆動量を求め、該アクチュエータの駆動量を該目標駆動量とする駆動指令を、該アクチュエータに出力するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記軌道系交通車両の加減速情報を用いて、該軌道系交通車両の加減速によって前記車体内の物体に作用する慣性力のうち、該車体の床面に平行な前後方向の分力の少なくとも一部が該物体に作用する重力の分力で打ち消される該車体の傾斜状態となる、前記アクチュエータの駆動量を前記目標駆動量とすることを特徴とする。
【0011】
当該姿勢制御装置では、軌道系交通車両の加減速によって、車体内の物体に作用する慣性力のうち、車体の床面に平行な前後方向の方向成分の慣性力の少なくとも一部が、重力の同方向成分の分力で打ち消されるよう、車体を傾斜させているので、軌道系交通車両の加減速時に乗客に作用する加速度が小さくなり、加減速時の乗り心地をよくすることができる。
【0012】
ここで、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記軌道系交通車両の加減速情報には、該軌道系交通車両の加減速度を事前に示す事前加減速情報が含まれ、前記コントローラは、前記事前加減速情報が示す前記軌道系交通車両の加減速度の情報を用いて、前記目標駆動量を求めてもよい。
【0013】
当該姿勢制御装置では、軌道系交通車両が実際に加減速する前の事前加減速情報を用いて、加減速時の姿勢制御を行っているので、加減速時の姿勢制御の制御遅れを無くす、又は最小限に抑えることができる。
【0014】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記軌道系交通車両の加減速情報には、前記車体内の前記物体に作用する前記前後方向の加減速度として、実際に検知された実加減速度の情報が含まれ、前記コントローラは、前記事前加減速情報を用いて求められた前記目標駆動量に基づく前記駆動指令を前記アクチュエータに出力した後、前記実加減速度の情報を受け付け、該実加減速度の情報を用いて、新たな目標駆動量を求め、該新たな目標駆動量に基づく前記駆動指令を該アクチュエータに出力してもよい。
【0015】
当該姿勢制御装置では、事前加減速情報を用いて目標駆動量を求め、この目標駆動量に基づく駆動指令を出力した後、加速度センサ等で検知された実加減速度を用いて新たな目標駆動量を求め、この新たな目標駆動量に基づく駆動指令を出力しているので、事前加減速情報に基づく駆動指令では打消し得ない加減速による慣性力も、打ち消すことができ、軌道系交通車両の加減速時に乗客に作用する加速度を極めて小さくすることができる。
【0016】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記事前加減速情報には、前記加減速源に与えられる加減速指令が含まれ、前記コントローラは、前記加減速指令が示す前記軌道系交通車両の加減速度の情報を用いて、前記アクチュエータの前記目標駆動量を求めてもよい。
【0017】
事前加減速情報として、加減速源に与えられる加減速指令を用いると、軌道系交通車両の運転計画が変更になった場合でも対応することができる。
【0018】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記軌道系交通車両の位置と該軌道系交通車両の速度との関係を示す走行計画が記憶されているデータベースを備え、前記事前加減速情報には、前記データベースに記憶されている前記走行計画で定まる前記軌道系交通車両の加減速度の情報が含まれ、前記コントローラは、前記データベースを参照して、前記軌道系交通車両の各位置での前記走行方向の加減速度を求め、該軌道系交通車両の各位置での該加減速度の情報を用いて、該軌道系交通車両の各位置での前記目標駆動量を求めてもよい。
【0019】
この場合、前記コントローラは、前記軌道系交通車両の運行開始前に、該軌道系交通車両の各位置での前記目標駆動量を求めて、記憶し、該軌道系交通車両の運行が開始されると、現時点での該軌道系交通車両の位置情報を取得し、予め記憶しておいた該軌道系交通車両の各位置での該目標駆動量から、現在位置での該目標駆動量を取得し、該目標駆動量に基づく前記駆動指令を前記アクチュエータに出力してもよい。
【0020】
事前加減速情報として、運転計画で定まる軌道系交通車両の加減速度を用いると、当該軌道系交通車両の運行前に、運行計画に基づいてアクチュエータの目標駆動量を求めておけるため、当該軌道系交通車両の運行時におけるコントローラの負荷を軽減することができる。
【0021】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記軌道系交通車両の加減速情報には、前記車体内の前記物体に作用する該車体の床面に平行な前記前後方向の加減速度として、実際に検知された実加減速度の情報が含まれ、前記コントローラは、前記実加減速度の情報を受け付けると、該実加減速度の情報を用いて、前記目標駆動量を求め、該目標駆動量に基づく前記駆動指令を該アクチュエータに出力してもよい。
【0022】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記アクチュエータの駆動量を検知する駆動量センサを備え、前記コントローラは、前記目標駆動量に基づく前記駆動指令を前記アクチュエータに出力した後、前記駆動量センサで検知された前記アクチュエータの前記駆動量と、該目標駆動量との偏差を求め、該偏差が小さくなるよう前記駆動指令を補正し、補正した駆動指令を該アクチュエータに出力してもよい。
【0023】
当該姿勢制御装置では、アクチュエータの駆動量をより目標駆動量に近づけることができる。
【0024】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記車体の走行方向での傾斜角度を検知する傾斜センサを備え、前記コントローラは、前記軌道系交通車両の加減速によって前記車体内の物体に作用する慣性力のうち、前記前後方向の分力の少なくとも一部が該物体に作用する重力の分力で打ち消される該車体の傾斜状態となる、該車体の傾斜角度を求め、該傾斜角度を目標傾斜角度とし、前記目標駆動量に基づく前記駆動指令を前記アクチュエータに出力した後、前記傾斜センサで検知された前記車体の傾斜角度と前記目標傾斜角度との角度偏差を求め、該角度偏差が小さくなるよう前記駆動指令を補正し、補正した駆動指令を該アクチュエータに出力してもよい。
【0025】
当該姿勢制御装置でも、アクチュエータの駆動量をより目標駆動量に近づけることができる。
【0026】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記軌道系交通車両は、前記走行輪に対する前記車体の少なくとも上下方向における相対変位を抑制する変位緩衝体を備え、前記アクチュエータは、前記変位緩衝体と前記車体との間に配置されていてもよい。
【0027】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記軌道系交通車両は、前記走行輪に対する前記車体の少なくとも上下方向における相対変位を抑制する変位緩衝体を備え、前記アクチュエータは、上下方向に駆動する駆動端を有し、前記変位緩衝体と並列に、前記走行輪の軸と前記車体との間に配置され、前記コントローラからの前記駆動指令に応じた駆動量での該駆動端の上下方向の位置が、上下方向の荷重に応じて変位するアクチュエータであってもよい。
【0028】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記軌道系交通車両は、前記走行輪に対する前記車体の少なくとも上下方向における相対変位を抑制する変位緩衝体を備え、前記アクチュエータは、前記変位緩衝体と、前記コントローラから前記駆動指令を受けると、該変位緩衝体を変形させて、上下方向の該変位緩衝体の幅を該目標駆動量に対応した大きさの幅に近づける変形量調節手段と、を有してもよい。
【0029】
また、前記軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、前記走行輪は、前記車体の前後のそれぞれで、車幅方向で対を成して設けられており、前記アクチュエータは、前記対を成す走行輪のうち、一方の走行輪に対する前記車体の上下方向の位置を変えて、軌道幅方向でも該車体を傾けることができるアクチュエータであり、前記コントローラは、前記車両の床面に平行な前記車幅方向の加速度情報を用いて、該加速度情報が示す加速度によって前記車体内の物体に作用する慣性力のうち、前記車幅方向の分力の少なくとも一部が該物体に作用する重力の分力で打ち消す該車体の傾斜状態となる、前記アクチュエータの前記目標駆動量を求め、該目標駆動量に基づく前記駆動指令を該アクチュエータに出力してもよい。
【0030】
当該姿勢制御装置では、さらに、軌道幅方向の車体の傾斜にも対応できるので、軌道系交通車両の曲線通過中における乗客の乗り心地もよくすることができる。
【0031】
上記問題点を解決するための発明に係る軌道系交通車両は、前記車体姿勢制御装置と、前記車体と、該車体の前後それぞれに配置されている前記走行輪と、該走行輪に回転力及び制動力を加える前記加減速源と、を備えていることを特徴とする。
【0032】
当該軌道系交通車両も、前記車体姿勢制御装置を備えているので、加減速時の乗り心地をよくすることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明では、軌道系交通車両の加減速によって、車体内の物体に作用する慣性力のうち、車体の床面に平行な前後方向の方向成分の慣性力の少なくとも一部が、重力の同方向成分の分力で打ち消されるよう、車体を傾斜させる。よって、本発明によれば、軌道系交通車両の加減速時に乗客に作用する加速度が小さくなり、加減速時の乗り心地をよくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る第一実施形態における走行装置の側面図である。
【図2】本発明に係る第一実施形態における走行装置の平面図である。
【図3】本発明に係る第一実施形態における車体姿勢制御装置の機能ブロック図である。
【図4】本発明に係る第一実施形態における傾斜アクチュエータコントローラの動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明に係る第一実施形態の軌道系交通車両の定速走行時又は停止時の状態を示す説明図である。
【図6】本発明に係る第一実施形態の軌道系交通車両の加速時の状態を示す説明図で、同図(A)は姿勢制御を実行していない際の状態を示し、同図(B)は姿勢制御を実行している際の状態を示している。
【図7】本発明に係る第二実施形態における車体姿勢制御装置の機能ブロック図である。
【図8】本発明に係る第二実施形態における軌道系交通車両の各位置と各種パラメータとの関係を示す説明図で、同図(A)は軌道系交通車両の各位置での速度を示し、同図(B)は軌道系交通車両の各位置での加速度を示し、同図(C)は軌道系交通車両の各位置での前側の傾斜アクチュエータの目標駆動量を示し、同図(D)は軌道系交通車両の各位置での後側の傾斜アクチュエータの目標駆動量を示している。
【図9】本発明に係る第二実施形態における傾斜アクチュエータコントローラの動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明に係る上記実施形態における傾斜アクチュエータの第一変形例を示す説明図である。
【図11】本発明に係る上記実施形態における傾斜アクチュエータの第二変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係る軌道系交通車両の各種実施形態について、図面を用いて説明する。
【0036】
「第一実施形態」
まず、本発明に係る軌道系交通車両の第一実施形態について、図1〜図6を用いて説明する。
【0037】
本実施形態の軌道系交通車両は、側方案内軌条式の新交通システムの車両である。なお、以下の説明での車両は、この軌道系交通車両を意味する。この車両Vは、図1及び図2に示すように、車体1と走行装置Tとを備えている。走行装置Tは、左右一対の走行タイヤ3と、この一対の走行タイヤ3を連結する車軸5と、走行タイヤ3を回転駆動させる走行モータ7と、走行タイヤ3に制動力を加えるブレーキ8と、車軸5及び一対の走行タイヤ3を支える懸架装置10と、車両Vの両側に設置されている側方案内軌条Gに沿った方向に走行タイヤ3を向かせる操舵案内装置20と、を備えている。
【0038】
懸架装置10は、車軸5を支える台枠11と、台枠11と車体1との間に配置されている左右一対の空気バネ(変位緩衝体)19と、台枠11を上下方向に変位可能に支える複数のリンク14及び左右一対の懸架枠15と、を備えている。
【0039】
台枠11は、車体1の前後方向に延びている一対の縦梁部12aと一対の縦梁部12aを接続する横梁部12bを有する本体12と、一対の縦梁部のそれぞれから下方に垂下している垂下部13と、を有している。車軸5は、この台枠11の左右一対の垂下部13に取り付けられている。左右一対の懸架枠15は、それぞれ、台枠11の垂下部13の前側Fの位置に、下方に延びる垂下部16を有している。
【0040】
走行モータ7は、車体1に固定されており、その出力軸がギアや継ぎ手等を介して車軸5に接続されている。また、ブレーキ8は、走行タイヤ3のタイヤハウス内に設けられている。これら走行モータ7及びブレーキ8は、車両Vを走行方向で加減速させる加減速源を構成している。
【0041】
なお、図1及び図2は、いずれも、車両Vの後側の走行装置Tを示しており、車両Vの前側の走行装置Tでは、後側の走行装置Tに対して、前後方向が逆になっている。このため、車両Vの前側の走行装置Tでは、例えば、台枠11の垂下部13の後側に、懸架枠15の垂下部16が位置している。
【0042】
懸架枠15の垂下部16と台枠11とは、上下に並び、互いに平行なリンク14により連結されている。これらのリンク14の一方の端部は、懸架枠15の垂下部16とピン結合し、これらのリンク14の他方の端部は、台枠11とピン結合している。懸架枠15の垂下部16と台枠11と2本のリンク14とは、平行4リンク機構を構成している。このため、台枠11は、懸架枠15の垂下部16に対する向きを変えずに、上下動することができる。また、2本のリンク14は、走行タイヤ3の駆動力や減速力を車体1に伝えるための牽引ロッドとしての役目も担っている。
【0043】
空気バネ19は、台枠11の本体12と車体1との間に設けられている。この空気バネ19により、車体1に対する、走行タイヤ3及び車軸5の相対的な上下動が抑制される。
【0044】
操舵案内装置20は、走行タイヤ3の操舵軸となるキングピン(不図示)と、このキングピンを基準として走行タイヤ3と一体的に揺動するナックルアーム28と、車体1の幅方向、つまり車幅方向に延び、懸架装置10の後側に配置されている案内ロッド21と、案内ロッド21の両端部に設けられている案内輪22と、車幅方向に案内ロッド21を変位可能に台枠11の本体12に連結する連結板23及び回動アーム24と、左右一対の走行タイヤ3のうち一方の走行タイヤ3のナックルアーム28の一方の端部と連結板23とを連結する連結ロッド25と、一方の走行タイヤ3のナックルアーム28の他方の端部と他方の走行タイヤ3のナックルアーム28の端部とを連結するタイロッド26と、を備えている。
【0045】
連結ロッド25の一方の端部は、連結板23とピン結合され、他方の端部は、左右一対の走行タイヤ3のうち一方の走行タイヤ3のナックルアーム28の一方の端部とピン結合されている。また、タイロッド26の両端部は、それぞれ、一対の走行タイヤ3の各ナックルアーム28の端部とピン結合されている。
【0046】
操舵案内装置20の案内輪22が、側方案内軌条Gに接して、この側方案内軌条Gから車幅方向の力を受けると、案内ロッド21が車体1の車幅方向に変位する。この案内ロッド21の車幅方向の変位は、連結板23及び連結ロッド25を介して、一方の走行タイヤ3のナックルアーム28に伝えられ、この一方の走行タイヤ3及びナックルアーム28は、キングピンを基準にして揺動する。また、この一方の走行タイヤ3のナックルアーム28の揺動は、タイロッド26を介して、他方の走行タイヤ3のナックルアーム28に伝えられ、この他方の走行タイヤ3及びナックルアーム28も、一方の走行タイヤ3と同様に、キングピンを基準にして揺動する。
【0047】
本実施形態の車両Vは、以上の他、さらに、図3に示すように、外部の統括制御器40と無線通信する通信機41と、統括制御器40から送られてきた運行指令に基づいて速度指令を出力する自動運転制御器42と、自動運転制御器42からの速度指令に基づいて加減速源指令を出力する加減速源コントローラ43と、車体姿勢制御装置30と、を備えている。
【0048】
統括制御器40は、コンピュータと無線通信機とを備えている。この統括制御器40は、予め定められている車両毎の運行計画に従って、各車両の運行指令を該当車両Vへ無線送信する。
【0049】
車両Vの自動運転制御器42は、通信機41が受信した統括制御器40から運行指令に基づいて、その時々の車両Vの速度を示す速度指令を加減速源コントローラ43へ出力する。この加減速源コントーラ43は、加減速源である、走行タイヤ3に回転力を加える走行モータ7や、走行タイヤ3に制動力を加えるブレーキ8の動作を制御する。具体的に、加減速源コントローラ43は、自動運転制御器42からの速度指令が示す車両Vの速度が得られるよう、走行モータ7の印加電圧値を示すモータ指令(加減速指令)を作成し、これを走行モータ7に出力すると共に、ブレーキ8の油圧値を示すブレーキ指令(加減速指令)を作成し、これをブレーキ8に出力する。
【0050】
車体姿勢制御装置30は、車両Vの前部及び後部に設けられ、走行方向で車体1を傾斜させる傾斜アクチュエータ35と、この傾斜アクチュエータ35の駆動量を検知する駆動量センサ36と、車体1の床面に平行な前後方向の加減速度を検知する加速度センサ37と、傾斜アクチュエータ35の駆動量を制御する傾斜アクチュエータコントローラ31と、を備えている。
【0051】
傾斜アクチュエータ35は、図1及び図2に示すように、走行装置の空気バネ19と車体1との間に配置されている。傾斜アクチュエータコントローラ31は、加減速源コントローラ43が走行モータ7やブレーキ8へ出力する加減速指令(事前加減速情報)と、駆動量センサ36が検知した傾斜アクチュエータ35の実駆動量と、加速度センサ37が検知した実加減速度とに基づいて、傾斜アクチュエータ35を制御する。
【0052】
次に、図4に示すフローチャートに従って、傾斜アクチュエータコントローラ31の動作について説明する。
【0053】
傾斜アクチュエータコントローラ31は、加減速源コントローラ43が加減速源(走行モータ7、ブレーキ8)へ加減速指令を出力すると、この加減速指令を受け付け(S10)、この加減速指令が車両Vの加減速を示すものであるか否かを判断する(S11)。
【0054】
加減速源コントローラ43が加減速源へ出力する加減速指令は、前述したように、例えば、走行モータ7の印加電圧値を示すモータ指令や、ブレーキ8の油圧値を示すブレーキ指令である。このため、傾斜アクチュエータコントローラ31は、この加減速指令が示す値と前のルーチンで受け付けた加減速指令が示す値とを比較することで、この加減速指令が加減速を示すものであるか、定速走行又は停止を示すものであるかを判断できる。
【0055】
傾斜アクチュエータコントローラ31は、ステップS11で、加減速源への加減速指令が加減速を示すものではない、つまり、定速走行又は停止を示すものであると判断すると、傾斜アクチュエータ35へ駆動停止指令を出力して(S20)、一連の処理を終了し、加減速源への新たな加減速指令の出力の受け付けを待つ。
【0056】
一方、傾斜アクチュエータコントローラ31は、ステップS11で、加減速源への加減速指令が加減速を示すものであると判断すると、前のルーチンで受け付けた加減速指令と比較して、今回のルーチンで受け付けた加減速指令が示す車両Vの加減速度に変化があるか否かを判断する(S12)。
【0057】
傾斜アクチュエータコントローラ31は、ステップS12で、車両Vの加減速度に変化がある(定速から加速及び減速、停止からの加速を含む)と判断すると、後述する方法で、走行方向における車体1の目標傾斜角度を求め、この目標傾斜角度を実現する傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を求めて、これを一時的に記憶する(S13)。そして、この目標駆動量に対応した印加電圧値を示す駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力する(S14)。この結果、傾斜アクチュエータ35が駆動して、車体1は走行方向で傾く。なお、ここでは、傾斜アクチュエータ35が印加電圧に応じて駆動量が変化するものを対象にしているため、駆動指令は、印加電圧値を示すものであるが、傾斜アクチュエータ35が例えば供給される電流に応じて駆動量が変化するものであれば、駆動指令は、この電流値を示すものである。
【0058】
一方、傾斜アクチュエータコントローラ31は、ステップS12で、車両Vの加減速度に変化がないと判断すると、既に記憶している目標駆動量を取得し、この目標駆動量に対応した印加電圧値を示す駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力する(S14)。
【0059】
傾斜アクチュエータコントローラ31は、駆動指令を出力すると、駆動量センサ36から傾斜アクチュエータ35の駆動量を受け付け(S15)、目標駆動量と実駆動量との偏差を求める(S16)。そして、傾斜アクチュエータコントローラ31は、傾斜アクチュエータ35の駆動量が目標駆動量になるよう、ステップS14で出力した指令が示す印加電圧値に、ステップS15で求めた偏差相当の電圧値を加え、この電圧値を示す駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力する(S17)。すなわち、傾斜アクチュエータコントローラ31は、目標駆動量と実駆動量との偏差が小さくなるよう、先に出力した駆動指令を補正し、補正した駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力し、駆動量のフィードバック制御を行う。なお、駆動量センサ36からの出力に高周波成分が含まれている場合には、傾斜アクチュエータコントローラ31は、この高周波成分を除去するために、例えば、駆動量センサ36からの出力をローパスフィルターを通し(例えば、1Hzより高い周波数成分をカットする)、このローパスフィルターからの出力を傾斜アクチュエータ35の実駆動量として採用することが望ましい。
【0060】
以上の結果、傾斜アクチュエータ35の駆動量は目標駆動量に近づき、車体1の傾斜角度は目標傾斜角度に近づく。
【0061】
次に、傾斜アクチュエータコントローラ31は、加速度センサ37から、車体1の床面に平行な前後方向の加減速度、つまり実加減速度を受け付ける(S18)。そして、この実加減速度を用いて、後述する方法で、走行方向における車体1の新たな目標傾斜角度を求め、この新たな目標傾斜角度を実現する傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を求めて、既に記憶している目標駆動量を新たな目標駆動量に更新し(S19)、ステップS10に戻る。
【0062】
ステップS10に戻り、加減速源への新たな加減速指令を受け付けると、傾斜アクチュエータコントローラ31は、再び、この加減速指令が車両Vの加減速を示すものであるか否かを判断する(S11)。傾斜アクチュエータコントローラ31は、このステップS11で、加減速源への加減速指令が加減速を示すものではない、つまり、定速走行又は停止を示すものであると判断すると、ステップS19で記憶した新たな目標駆動量に基づく駆動指令を出力することなく、傾斜アクチュエータ35へ駆動停止指令を出力して(S20)、一連の処理を終了する。
【0063】
一方、傾斜アクチュエータコントローラ31は、このステップS11で、加減速源への加減速指令が加減速を示すものであると判断すると、前のルーチンで受け付けた加減速指令と比較して、今回のルーチンで受け付けた加減速指令が示す車両Vの加減速度に変化があるか否かを判断する(S12)。
【0064】
傾斜アクチュエータコントローラ31は、ステップS12で、車両Vの加減速度に変化があると判断すると、前述したように、走行方向における車体1の目標傾斜角度を求め、この目標傾斜角度を実現する傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を求めて、これを一時的に記憶し(S13)、この目標駆動量に対応した駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力する(S14)。
【0065】
一方、傾斜アクチュエータコントローラ31は、ステップS12で、車両Vの加減速度に変化がないと判断すると、ステップS19で記憶した新たな目標駆動量を取得し、この目標駆動量に対応した駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力する(S14)。
【0066】
以降、傾斜アクチュエータコントローラ31は、ステップS15〜S19、ステップS10〜S14の処理、すなわち、ステップS10〜S19の処理を繰り返して実行し、ステップS11で、加減速源への加減速指令が加減速を示すものではないと判断すると、傾斜アクチュエータ35へ駆動停止指令を出力して(S20)、一連の処理を終了する。
【0067】
次に、図5及び図6を用いて、加減速時の車体1の姿勢変化及び前述の目標傾斜角度の求め方について説明する。
【0068】
図5に示すように、車両Vが停止している際や定速走行している場合、乗客Mは、車体1の床面2に平行な前後方向の加速度を受けない。また、車体1は車両Vの走行方向で傾いていない。つまり、この場合、車両Vの走行方向と、車体1の床面2に平行な前後方向とは同じ方向である。
【0069】
一方、図6(A)に示すように、車両Vが前方Fへ加速している場合、姿勢制御を実行しないと、車体1の前部が浮き上がる一方で、車体1の後部が沈み込み、走行方向で車体1は傾く。言い換えると、車体1の床面2に平行な前後方向は、車両Vの走行方向に対して傾く。この際、乗客Mは、車両Vの加速と逆向きの慣性力の他、重力の分力も作用する。
【0070】
具体的に、乗客Mには、車両Vの加速度aに対して逆向きの加速度α(=−a)のうち、床面2に平行な前後方向成分の加速度αdと、重力加速度gのうち、床面2に平行な前後方向成分の重力加速度gdが作用する。
【0071】
そこで、本実施形態では、図6(B)に示すように、車両Vが加速している場合、姿勢制御を実行しない場合とは逆に、車体1の前部に対して車体1の後部が高くなるよう、車体1を傾けることで、車両Vの加速によって乗客Mに作用する加速度αのうち、床面2に平行な前後方向成分の加速度αdと逆向きに、同方向成分の重力加速度gdを作用させて、床面2に平行な方向で、乗客Mに作用する加速度αdを低減させている。なお、車両Vが減速している場合、姿勢制御を実行しないと、車体1の前部に対して車体1の後部が高くなるので、姿勢制御の際には、車両Vが加速している場合とは逆に、車体1の前部に対して車体1の後部が低くなるよう、車体1を傾ける。
【0072】
ここで、姿勢制御の際の車体1の走行方向における傾斜角度をθとすると、車両Vの加速によって乗客Mに作用する加速度αのうち、床面2に平行な前後方向成分の加速度αdは、α・cosθとなり、乗客Mに作用する重力加速度gのうち、床面2に平行な前後方向成分の重力加速度gdは、g・sinθとなる。本実施形態では、以下に式(1)に示すように、床面2に平行な前後方向成分の加速度(α・cosθ)と、床面2に平行な前後方向成分の重力加速度(g・sinθ)とが、乗客Mに対して逆向きに作用し、且つ両加速度が同じ大きさになる傾斜角度θを求め、この傾斜角度θを目標傾斜角度としている。
g・sinθ=α・cosθ ・・・・・・・・・・・(1)
【0073】
傾斜アクチュエータコントローラ31は、以上のように、目標傾斜角度θを求めると、車体1を目標傾斜角度θに傾けた際の前側傾斜アクチュエータ35の駆動量と後側アクチュエータ35の駆動量との差dを、以下の式(2)で求める。
d=L・sinθ・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
なお、式(2)において、Lは、前側傾斜アクチュエータ35と後側アクチュエータ35の間隔、つまり、実質的に、前走行タイヤと後走行タイヤとの間隔であるホイールベースである。
【0074】
仮に、車両Vが前方Fへ加速し、車体1の前部に対して車体1の後部が高くなるよう、車体1を傾ける場合、前側傾斜アクチュエータ35の目標駆動量に対して、後側アクチュエータの目標駆動量は差dだけ大きくする。具体的には、前側傾斜アクチュエータ35の目標駆動量をs(sは0の場合も含む)とすると、後側アクチュエータの目標駆動量は(s+d)となる。また、後側傾斜アクチュエータ35の目標駆動量をs(sは0の場合も含む)とすると、前側傾斜アクチュエータの目標駆動量は(s−d)となる。また、前側傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を(−)d/2とすると、後側アクチュエータの目標駆動量は(+)d/2となる。各傾斜アクチュエータ35の目標駆動量の設定は、以上の各設定態様のうち、いずれの設定態様を採用してもよい。但し、乗り心地をより良くするために、車両Vの重心位置が極力下側に位置するように、各傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を設定することが望ましい。
【0075】
なお、前側傾斜アクチュエータ35の目標駆動量と後側傾斜アクチュエータ35の目標駆動量とのうち、いずれか一方の目標駆動量が当該傾斜アクチュエータ35の駆動範囲を超える場合には、この駆動範囲内で、先に定めた目標駆動量に近い駆動量を、記憶すべき目標駆動量とする。
【0076】
図4におけるステップS13の処理では、以上で説明した目標傾斜角度θの算出、目標駆動量の算出を実行する。
【0077】
ところで、以上のように、事前加減速情報を用いて、傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を求め、この目標駆動量に基づく駆動指令を出力した後であっても、例えば、乗客数が多くて車体重量が増加している場合や、加減速時に傾斜走行路を走行している場合等では、車両Vは、事前加減速情報が示す加減速度にならないことがある。そこで、本実施形態では、前述したように、加速度センサ37から、車体1の床面2に平行な前後方向の実加減速度を受け付け(S18)、この実加減速度を用いて、新たな目標傾斜角度を求め、さらに、この目標傾斜角度に対応した目標駆動量を求めている(S19)。
【0078】
このステップS19で、新たな目標傾斜角度を求める際には、加速度センサ37から受け付けた、車体1の床面2に平行な前後方向の実加減速度α1が、重力加速度gの同方向成分の分力により、完全に打ち消される車体1の傾斜角度を目標傾斜角度θとする。そして、この新たな目標駆動角度θを用いて、前述の手法で、各傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を求める。但し、この場合も、前側傾斜アクチュエータ35の目標駆動量と後側傾斜アクチュエータ35の目標駆動量とのうち、いずれか一方の目標駆動量が当該傾斜アクチュエータ35の駆動範囲を超える場合には、この駆動範囲内で、先に定めた目標駆動量に近い駆動量を、記憶すべき目標駆動量とする。
【0079】
以上、本実施形態では、車両Vの加減速によって、車体1内の物体(乗客M)に作用する慣性力のうち、車体1の床面2に平行な前後方向の分力の少なくとも一部を、重力の同方向成分の分力で、打ち消し得るよう、車体1を傾斜させているので、車両Vの加減速時に乗客に作用する加速度αが小さくなり、加減速時の乗り心地をよくすることができる。
【0080】
また、本実施形態では、車両Vが実際に加減速する前の事前加減速情報を用いて、加減速時の姿勢制御を行っているので、加減速時の姿勢制御の制御遅れを無くす、又は最小限に抑えることができる。
【0081】
また、本実施形態では、駆動量センサ36からの出力を用いて、傾斜アクチュエータ35の駆動量をフィードバック制御しているので、傾斜アクチュエータ35の駆動量を極めて正確に目標の値にすることができる。
【0082】
さらに、本実施形態では、事前加減速情報を用いて目標駆動量を求め、この目標駆動量に基づく駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力した後、加速度センサ37からの出力を用いて新たな目標駆動量を求め、この新たな目標駆動量に基づく駆動指令を出力しているので、事前加減速情報に基づく駆動指令では打消し得ない加速度も、打ち消すことができ、車両Vの加減速時に乗客に作用する加速度を極めて小さくすることができる。
【0083】
なお、本実施形態では、事前加減速情報として、加減速源コントローラ43から加減速源へ出力される加減速指令を用いているが、この代わりに、自動運転制御器42から加減速源コントローラ43へ出力される速度指令を、事前加減速情報として用いてもよい。
【0084】
「第二実施形態」
次に、本発明に係る軌道系交通車両の第二実施形態について、図7〜図9を用いて説明する。
【0085】
なお、第一実施形態は、事前加減速情報として、加減速源コントローラ43から加減速源へ出力される加減速指令を用いる例であるが、本実施形態は、事前加減速情報として、当該車両Vの運行前に受け付けた運行計画で定まる車両Vの加減速度の情報を用いる例であり、その他の点では基本的に第一実施形態と同様である。そこで、以下では、運行計画の利用形態を主として説明する。
【0086】
本実施形態の姿勢制御装置30aは、図7に示すように、当該車両Vの運行計画が格納される運行計画データベース38を有している。この運行計画データベース38には、当該車両Vの運行前に、統括制御器40から無線通信機41が受け付けた運行計画を格納してもよいし、運転員又は車掌が持ち込んだ記憶媒体に記憶されている運行計画を格納してもよい。
【0087】
運行計画データベース38に格納される運行計画は、図8(A)に示すように、当該車両Vが運行する走行路中の各位置における速度を示すデータである。本実施形態の傾斜アクチュエータコントローラ31aは、この運転計画を用いて、当該車両Vの運行前に、加減速度テーブル32及び目標駆動量テーブル33(図7)を作成し、これらのテーブル32,33を記憶する。
【0088】
具体的に、傾斜アクチュエータコントローラ31aは、運行計画が示す車両Vの各位置における速度を用いて、図8(B)に示すように、車両Vの各位置における加減速度を示すデータを作成し、これを加減速度テーブル32として記憶する。さらに、傾斜アクチュエータコントローラ31aは、加減速テーブル32が示す車両Vの各位置における加減速度(事前加減速情報)を用いて、図8(C)(D)に示すように、車両Vの各位置における前後の傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を示すデータを作成し、これを目標駆動量テーブル33として記憶する。
【0089】
傾斜アクチュエータコントローラ31aは、当該車両Vの運行が実際に開始されると、図9のフローチャートに示す動作をする。
【0090】
すなわち、傾斜アクチュエータコントローラ31aは、走行距離計47(図7)から走行距離を取得し、走行路中の現在位置を逐次把握し、加減速度テーブル32を参照して、現在位置が加減速域であるか否かを判断する(S11a)。なお、走行距離計47は、車両Vの走行速度等を把握するために車軸の回転数を検知する回転数計46に接続されており、この回転数計36で計測された回転数に走行タイヤ3の周長を掛けて、走行距離を得ている。なお、走行路中の現在位置は総括制御器40から得られる走行位置情報に基づき決定することも可能である。この場合、走行距離計47に基づく現在位置の把握は不要となる。
【0091】
傾斜アクチュエータコントローラ31aは、このステップS11aで、現在位置が加減速域ではない、つまり、定速走行又は停止域であると判断すると、傾斜アクチュエータ35へ駆動停止指令を出力して(S20)、一連の処理を終了する。
【0092】
一方、傾斜アクチュエータコントローラ31は、このステップS11aで、現在位置が加減速域であると判断すると、第一実施形態と同様、前のルーチンでの現在位置のときと比較して、今回のルーチンでの現在位置での車両Vの加減速度に変化があるか否かを判断する(S12)。
【0093】
傾斜アクチュエータコントローラ31aは、ステップS12で、車両Vの加減速度に変化があると判断すると、走行方向における車体1の目標傾斜角度を求め、この目標傾斜角度を実現する傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を求めて、これを一時的に記憶し(S13)、この目標駆動量に対応した駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力する(S14)。一方、傾斜アクチュエータコントローラ31は、ステップS12で、車両Vの加減速度に変化がないと判断すると、ステップS19で記憶した新たな目標傾斜角度を取得し、この目標駆動量に対応した駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力する(S14))。
【0094】
以降、第一実施形態と同様に、ステップS15〜S19を実行し、ステップS11aに戻ったときに、現在位置が加減速域ではないと判断すると、傾斜アクチュエータ35へ駆動停止指令を出力して(S20)、一連の処理を終了する。
【0095】
以上、本実施形態は、第一実施形態と比較して、事前加減速情報が異なる点を除いて同一であるため、基本的に第一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0096】
また、本実施形態では、運行計画に基づいて、傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を予め求めているため、実際の車両Vの運行時における傾斜アクチュエータコントローラ31aの演算負荷を軽減することができる。
【0097】
ところで、当該車両Vの走行路中の他の車両や機器等に故障等がない正常状態では、統括制御器40が当該車両Vの運行計画に従った運行指令を当該車両Vに送信する。一方、当該車両Vの走行路中の他の車両や機器等に故障等が生じた異常状態では、統括制御器40が当該異常状態に見合った運行指令を当該車両Vに送信する。すなわち、異常状態の際、当該車両は、運行計画に従った運行指令とは異なる運行指令に基づいて運行することになる。仮に、当該車両Vが運行中に異常状態になっても、運行計画に基づいた目標駆動量をそのまま用いて、傾斜アクチュエータ35を制御すると、定速走行時に車体1が傾斜したりする等、却って、乗り心地が悪くなってしまう。
【0098】
そこで、本実施形態では、自動運転制御器42が、無線通信機41を介して統括制御器40から異常時運転指令を受信すると、この異常時運転指令を加減速源コントローラ43に送ると共に、傾斜アクチュエータコントローラ31aにも送り、この傾斜アクチュエータコントローラ31aの姿勢制御ルーチンに割り込みをかけて、図9に示すフローの実行を停止させる一方で、図4に示すフローを実行させるようにしている。
【0099】
なお、本実施形態では、車両Vの現在位置を把握するため、走行距離計47からの出力を用いているが、この代わりに、GPS受信機を設けて、このGPS受信器からの出力を用いるようにしてもよいし、走行距離計47とGPS受信機とを併用してもよい。
【0100】
また、本実施形態では、運行計画データベース38に格納されている運行計画を参照して、傾斜アクチュエータコントローラ31aが加減速度テーブル32や目標駆動量テーブル33を作成しているが、運行計画に、この運行計画が示す車両Vの各位置に対応付けて、車両Vの加減速度や目標駆動量を付加されているものを外部から取得し、これを運行計画データベース38に格納するようにしてもよい。
【0101】
また、以上の各実施形態では、傾斜アクチュエータ35として、油圧アクチュエータや電磁アクチュエータを想定しているが、エアアクチュエータ、油圧ダンパ、電磁ダンパ等のその他のアクチュエータを用いてもよい。
【0102】
「傾斜アクチュエータの変形例」
次に、傾斜アクチュエータの変形例について、図10及び図11を用いて説明する。
【0103】
まず、図10を用いて、傾斜アクチュエータの第一変形例について説明する。
【0104】
以上の各実施形態は、いずれも、上下方向に変位可能な空気バネ19の上に、同じく上下方向に変位可能な傾斜アクチュエータ35を直列的に設けたものである。一方、本変形例は、空気バネ19の横隣に、傾斜アクチュエータ35bを並列的に設けたものである。すなわち、本変形例では、車軸5(図1に示す)を支える台枠11と車体1との間に、空気バネ19と傾斜アクチュエータ35bとを並列的に設けている。
【0105】
ところで、本変形例のように、空気バネ19と並列的に設けられる傾斜アクチュエータ35bとして、油圧アクチュエータや電磁アクチュエータのように、入力に対して、その駆動端の位置が一意的に定まるタイプのアクチュエータを採用すると、空気バネ19とアクチュエータとが相互に干渉して、アクチュエータが機能しなくなってしまったり、空気バネ19が機能しなくなってしまったりすることがある。
【0106】
そこで、本変形例では、傾斜アクチュエータ35bとして、例えば、エアアクチュエータや油圧ダンパ等のように、入力に対して、その駆動端35tが目的の位置に移動しようとするものの、駆動端35tの移動方向である上下方向の荷重に応じて、駆動端35tが変位し得るアクチュエータを採用する。
【0107】
次に、図11を用いて、傾斜アクチュエータの第二変形例について説明する。
【0108】
本変形例では、空気バネ19と、この空気バネ19に供給される圧縮空気が貯められている圧縮空気タンク49との間に、流量調節弁(変形量調節手段)39を設け、この流量調節弁39に傾斜アクチュエータコントローラ31からの駆動指令を入力するようにしたものである。すなわち、本変形例の傾斜アクチュエータ35cは、空気バネ19と、この空気バネ19に供給する圧縮空気の量を調節する流量調節弁39とで構成されている。なお、圧縮空気タンク49には、コンプレッサ(不図示)の吐出口が接続されている。
【0109】
本変形例では、以上のように、空気バネ19を傾斜アクチュエータ35cの構成要素にしている。このため、流量調節弁39への入力(アクチュエータへの駆動指令)に対して、空気バネ19の上下方向の変位量(駆動量)が車体重量等の影響を受けて常に一定でない。
【0110】
そこで、本変形例のように、空気バネ19を傾斜アクチュエータ35cの構成要素にする場合、空気バネ19の変位量を検知する変位量(駆動量)センサを設け、傾斜アクチュエータコントローラ31が、目標駆動量に基づく駆動指令を出力した後、変位量センサからの出力を用いて、空気バネ19の変位量(駆動量)をフィードバック制御することが好ましい。
【0111】
以上、本変形例では、空気バネ19を変位緩衝体として機能させると共に、傾斜アクチュエータ35cとしても機能させるので、部品点数を減少させることができる。この結果、本変形例では、製造コストの低減を図ることができると共に、走行装置の軽量化を図ることができる。
【0112】
なお、本変形例は、走行タイヤ3に対する車体1の少なくとも上下方向における相対変位を抑制する変位緩衝体として、空気バネ19が用いられている場合に、この空気バネ19を傾斜アクチュエータとしても利用するものであるが、変位緩衝体として、この空気バネ19の代わりに、油圧ダンパや電磁ダンパ等のダンパ作用のあるものを用いている場合には、これら油圧ダンパや電磁ダンパ等を傾斜アクチュエータとして利用してもよい。
【0113】
「その他の変形例」
以上の各実施形態では、傾斜アクチュエータ35の駆動量をフィードバック制御するために、各傾斜アクチュエータ35に駆動量センサ36を設けているが、この駆動量センサ36の代わりに、走行方向に対する車体の傾斜角度を検知する傾斜センサを車体1に設けてもよい。この場合、傾斜センサで検知された車体1の傾斜角度と目標傾斜角度との角度偏差を求め、この角度偏差を補える指令を傾斜アクチュエータ35に出力する。すなわち、傾斜アクチュエータコントローラ31は、目標傾斜角度と実傾斜角度との角度偏差が小さくなるよう、先に出力した駆動指令を補正し、補正した駆動指令を傾斜アクチュエータ35へ出力し、駆動量のフィードバック制御を行う。また、この場合、傾斜アクチュエータコントローラ31は、前述のステップS13(図4)において、目標駆動量を求める前段階として求めている目標傾斜角度を、フィードバック制御の目標値として記憶しておく必要がある。
【0114】
また、上記のように、駆動量センサ36の代わりに、車体1に傾斜センサを設けた場合、第二実施形態における目標駆動量テーブル33のように、目標傾斜角度テーブルを予め準備しておいてもよい。この場合、例えば、第二実施形態において、傾斜アクチュエータコントローラ31aが、運行計画データベース38中の運行計画、つまり、図8(A)を用いて前述した、当該車両Vが運行する走行路中の各位置における速度を示すデータを用いて、目標傾斜角度テーブルを作成する。この目標傾斜角度テーブルは、当該車両Vが運行する走行路中の各位置における目標傾斜角度を示すデータである。この目標傾斜角度テーブルは、車体1の傾斜角度をフィードバック制御する際に用いられる。具体的には、前述のステップS15(図4、図9)において、傾斜センサから車体1の傾斜角度を受け付け、前述のステップS16で、目標傾斜角度テーブルから当該車両Vの位置に応じた目標傾斜角度を取得し、傾斜センサから得られた車体1の傾斜角度と目標傾斜角度との角度偏差を求め、前述のステップS17において、角度偏差を補える新たな駆動指令を傾斜アクチュエータ35に出力する。
【0115】
なお、ここでは、運行計画データベース38に格納されている運行計画を参照して、傾斜アクチュエータコントローラ31aが、目標傾斜角度テーブルを作成するようにしているが、運行計画が示す車両Vの各位置に対応付けて、車両Vの加減速度や目標駆動量を付加されているものを外部から取得し、これを運行計画データベース38に格納するようにしてもよい。
【0116】
また、以上の各実施形態では、傾斜アクチュエータ35の駆動量をフィードバック制御しているが、このフィードバック制御は必ずしも必要なものではない。このため、傾斜アクチュエータ35の種類や車体1の傾斜角度の要求精度等を考慮して、フィードバック制御を実行するか否かを定めることが好ましい。
【0117】
また、以上の実施形態では、傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を、事前加減速情報を用いて求めると共に、加速度センサ37から出力された実加速度を用いて求めているが、事前加減速情報と実加速度とのうち、いずれか一方のみで目標駆動量を求めてもよい。
【0118】
また、以上の実施形態では、車両Vの前部と後部とのそれぞれに傾斜アクチュエータ35を設けているが、車両Vの前部と後部とのうち、いずれか一方のみに傾斜アクチュエータ35を設けてもよい。
【0119】
また、以上の実施形態は、いずれも、車両Vの加減速による走行方向の車体の傾斜に対応するものであるが、曲線通過時等における軌道幅方向の車体の傾斜にも対応できるよう、さらに、傾斜アクチュエータコントローラ31,31aが、車体1の床面に平行な車幅方向の加速度情報を取得し、この車幅方向の加速度情報に基づいて、車幅方向で対を成している傾斜アクチュエータ35(図3、図7)のそれぞれの駆動量を制御するようにしてもよい。この場合、前述の走行方向に関する目標傾斜角度や目標駆動量を求める手法と同様の手法で、車幅方向の加速度情報から目標傾斜角度や目標駆動量を求め、これら目標値を用いて、車幅方向で対を成している傾斜アクチュエータ35のそれぞれの駆動量についてフィードフォワード制御や、フィードバック制御を実行するとよい。この結果、走行方向の傾斜のみならず、軌道幅方向の傾斜に対してもて、適切な姿勢制御を行うことができる。なお、このように走行方向及び車幅方向での傾斜制御を実行する場合、車体1の前後のそれぞれで車幅方向で対を成す傾斜アクチュエータ35のそれぞれに対して、個別の駆動指令を与えることになる。また、軌道幅方向の傾斜制御に関する目標傾斜角度や目標駆動量は、車両Vの走行中に傾斜アクチュエータコントローラ31,31aが求めてもよいが、運行計画データベース38に格納されている運行計画を参照して、軌道幅方向の傾斜制御に関する目標傾斜角度テーブルや目標駆動量テーブルを事前に準備しておくようにしてもよい。
【0120】
さらに、この場合、車体1の床面に平行な車幅方向の加速度情報として、例えば、車幅方向の加速度を検知する加速度センサから出力を用いてもよしい。また、車両Vの走行路中の各位置における車両Vの速度を示す運転計画中に、走行路中の各位置に対応付けて車幅方向の加速度のデータを付しておき、このデータを事前加減速度情報として用いるようにしてもよい。また、軌道幅方向に対する車体の傾斜角度を検知する傾斜センサを車体1設け、傾斜センサからの出力に基づいて、軌道幅方向の傾斜制御を実行するようにしてもよい。
【0121】
また、傾斜アクチュエータコントローラ31,31aによる軌道幅方向の傾斜制御は、基本的に、走行方向の傾斜制御と独立した制御ルーチンで実行されるが、曲線通過中に走行方向に加減速した場合には、軌道幅方向の傾斜制御ルーチンで求められた傾斜アクチュエータ35の目標駆動量に、走行方向の傾斜制御ルーチンで求められた傾斜アクチュエータ35の目標駆動量を付加することが好ましい。
【0122】
また、以上のように、傾斜アクチュエータコントローラ31,31aによる軌道幅方向の傾斜制御を実行する場合も、第一実施形態の傾斜アクチュエータ35を用いてもよいし、前述の「傾斜アクチュエータの変形例」で説明したものを用いてもよい。
【0123】
さらに、以上の実施形態は、側方案内軌条式の新交通システムの車両に本発明を適用した例であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、中央案内軌条式の新交通システムの車両に適用してもよいし、その他の軌道系交通車両に適用してもよい。
【符号の説明】
【0124】
1:車体1、3:走行タイヤ、5:車軸、7:走行モータ、8:ブレーキ、10:懸架装置、11:台枠、15:懸架枠、20:操舵案内装置、30,30a:姿勢制御装置、31,31a:傾斜アクチュエータコントローラ、32:加減速度テーブル、33:目標駆動量テーブル、35,35b,35c:傾斜アクチュエータ、36:駆動量センサ、37:加速度センサ、38:運行計画データベース、40:統括制御器、41:無線通信機、42:自動運転制御器、43:加減速源コントローラ、47:走行距離計
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、該車体の前後それぞれに配置されている走行輪と、該走行輪に回転力及び制動力を加えて軌道系交通車両を走行方向で加減速させる加減速速源と、を備えている軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前後に配置されている前記走行輪のうち、少なくとも一方に対する前記車体の上下方向の位置を変えて、前記走行方向で該車体を傾けるアクチュエータと、
前記アクチュエータの目標駆動量を求め、該アクチュエータの駆動量を該目標駆動量とする駆動指令を、該アクチュエータに出力するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、前記軌道系交通車両の加減速情報を用いて、該軌道系交通車両の加減速によって前記車体内の物体に作用する慣性力のうち、該車体の床面に平行な前後方向の分力の少なくとも一部が該物体に作用する重力の分力で打ち消される該車体の傾斜状態となる、前記アクチュエータの駆動量を前記目標駆動量とする、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記軌道系交通車両の加減速情報には、該軌道系交通車両の加減速度を事前に示す事前加減速情報が含まれ、
前記コントローラは、前記事前加減速情報が示す前記軌道系交通車両の加減速度の情報を用いて、前記目標駆動量を求める、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記軌道系交通車両の加減速情報には、前記車体内の前記物体に作用する前記前後方向の加減速度として、実際に検知された実加減速度の情報が含まれ、
前記コントローラは、前記事前加減速情報を用いて求められた前記目標駆動量に基づく前記駆動指令を前記アクチュエータに出力した後、前記実加減速度の情報を受け付け、該実加減速度の情報を用いて、新たな目標駆動量を求め、該新たな目標駆動量に基づく前記駆動指令を該アクチュエータに出力する、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記事前加減速情報には、前記加減速源に与えられる加減速指令が含まれ、
前記コントローラは、前記加減速指令が示す前記軌道系交通車両の加減速度の情報を用いて、前記アクチュエータの前記目標駆動量を求める、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記軌道系交通車両の位置と該軌道系交通車両の速度との関係を示す走行計画が記憶されているデータベースを備え、
前記事前加減速情報には、前記データベースに記憶されている前記走行計画で定まる前記軌道系交通車両の加減速度の情報が含まれ、
前記コントローラは、前記データベースを参照して、前記軌道系交通車両の各位置での前記走行方向の加減速度を求め、該軌道系交通車両の各位置での該加減速度の情報を用いて、該軌道系交通車両の各位置での前記目標駆動量を求める、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記コントローラは、前記軌道系交通車両の運行開始前に、該軌道系交通車両の各位置での前記目標駆動量を求めて、記憶し、該軌道系交通車両の運行が開始されると、現時点での該軌道系交通車両の位置情報を取得し、予め記憶しておいた該軌道系交通車両の各位置での該目標駆動量から、現在位置での該目標駆動量を取得し、該目標駆動量に基づく前記駆動指令を前記アクチュエータに出力する、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記軌道系交通車両の加減速情報には、前記車体内の前記物体に作用する該車体の床面に平行な前記前後方向の加減速度として、実際に検知された実加減速度の情報が含まれ、
前記コントローラは、前記実加減速度の情報を受け付けると、該実加減速度の情報を用いて、前記目標駆動量を求め、該目標駆動量に基づく前記駆動指令を該アクチュエータに出力する、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記アクチュエータの駆動量を検知する駆動量センサを備え、
前記コントローラは、前記目標駆動量に基づく前記駆動指令を前記アクチュエータに出力した後、前記駆動量センサで検知された前記アクチュエータの前記駆動量と、該目標駆動量との偏差を求め、該偏差が小さくなるよう前記駆動指令を補正し、補正した駆動指令を該アクチュエータに出力する、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記車体の走行方向での傾斜角度を検知する傾斜センサを備え、
前記コントローラは、前記軌道系交通車両の加減速によって前記車体内の物体に作用する慣性力のうち、前記前後方向の分力の少なくとも一部が該物体に作用する重力の分力で打ち消される該車体の傾斜状態となる、該車体の傾斜角度を求め、該傾斜角度を目標傾斜角度とし、前記目標駆動量に基づく前記駆動指令を前記アクチュエータに出力した後、前記傾斜センサで検知された前記車体の傾斜角度と前記目標傾斜角度との角度偏差を求め、該角度偏差が小さくなるよう前記駆動指令を補正し、補正した駆動指令を該アクチュエータに出力する、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記軌道系交通車両は、前記走行輪に対する前記車体の少なくとも上下方向における相対変位を抑制する変位緩衝体を備え、
前記アクチュエータは、前記変位緩衝体と前記車体との間に配置されている、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一項に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記軌道系交通車両は、前記走行輪に対する前記車体の少なくとも上下方向における相対変位を抑制する変位緩衝体を備え、
前記アクチュエータは、上下方向に駆動する駆動端を有し、前記変位緩衝体と並列に、前記走行輪の軸と前記車体との間に配置され、前記コントローラからの前記駆動指令に応じた駆動量での該駆動端の上下方向の位置が、上下方向の荷重に応じて変位するアクチュエータである、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項12】
請求項1から9のいずれか一項に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記軌道系交通車両は、前記走行輪に対する前記車体の少なくとも上下方向における相対変位を抑制する変位緩衝体を備え、
前記アクチュエータは、前記変位緩衝体と、前記コントローラから前記駆動指令を受けると、該変位緩衝体を変形させて、上下方向の該変位緩衝体の幅を該目標駆動量に対応した大きさの幅に近づける変形量調節手段と、を有する、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記走行輪は、前記車体の前後のそれぞれで、車幅方向で対を成して設けられており、
前記アクチュエータは、前記対を成す走行輪のうち、一方の走行輪に対する前記車体の上下方向の位置を変えて、軌道幅方向でも該車体を傾けることができるアクチュエータであり、
前記コントローラは、前記車両の床面に平行な前記車幅方向の加速度情報を用いて、該加速度情報が示す加速度によって前記車体内の物体に作用する慣性力のうち、前記車幅方向の分力の少なくとも一部が該物体に作用する重力の分力で打ち消す該車体の傾斜状態となる、前記アクチュエータの前記目標駆動量を求め、該目標駆動量に基づく前記駆動指令を該アクチュエータに出力する、
ことを特徴とすることを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置と、前記車体と、該車体の前後それぞれに配置されている前記走行輪と、該走行輪に回転力及び制動力を加える前記加減速源と、を備えていることを特徴とする軌道系交通車両。
【請求項1】
車体と、該車体の前後それぞれに配置されている走行輪と、該走行輪に回転力及び制動力を加えて軌道系交通車両を走行方向で加減速させる加減速速源と、を備えている軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前後に配置されている前記走行輪のうち、少なくとも一方に対する前記車体の上下方向の位置を変えて、前記走行方向で該車体を傾けるアクチュエータと、
前記アクチュエータの目標駆動量を求め、該アクチュエータの駆動量を該目標駆動量とする駆動指令を、該アクチュエータに出力するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、前記軌道系交通車両の加減速情報を用いて、該軌道系交通車両の加減速によって前記車体内の物体に作用する慣性力のうち、該車体の床面に平行な前後方向の分力の少なくとも一部が該物体に作用する重力の分力で打ち消される該車体の傾斜状態となる、前記アクチュエータの駆動量を前記目標駆動量とする、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記軌道系交通車両の加減速情報には、該軌道系交通車両の加減速度を事前に示す事前加減速情報が含まれ、
前記コントローラは、前記事前加減速情報が示す前記軌道系交通車両の加減速度の情報を用いて、前記目標駆動量を求める、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記軌道系交通車両の加減速情報には、前記車体内の前記物体に作用する前記前後方向の加減速度として、実際に検知された実加減速度の情報が含まれ、
前記コントローラは、前記事前加減速情報を用いて求められた前記目標駆動量に基づく前記駆動指令を前記アクチュエータに出力した後、前記実加減速度の情報を受け付け、該実加減速度の情報を用いて、新たな目標駆動量を求め、該新たな目標駆動量に基づく前記駆動指令を該アクチュエータに出力する、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記事前加減速情報には、前記加減速源に与えられる加減速指令が含まれ、
前記コントローラは、前記加減速指令が示す前記軌道系交通車両の加減速度の情報を用いて、前記アクチュエータの前記目標駆動量を求める、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記軌道系交通車両の位置と該軌道系交通車両の速度との関係を示す走行計画が記憶されているデータベースを備え、
前記事前加減速情報には、前記データベースに記憶されている前記走行計画で定まる前記軌道系交通車両の加減速度の情報が含まれ、
前記コントローラは、前記データベースを参照して、前記軌道系交通車両の各位置での前記走行方向の加減速度を求め、該軌道系交通車両の各位置での該加減速度の情報を用いて、該軌道系交通車両の各位置での前記目標駆動量を求める、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記コントローラは、前記軌道系交通車両の運行開始前に、該軌道系交通車両の各位置での前記目標駆動量を求めて、記憶し、該軌道系交通車両の運行が開始されると、現時点での該軌道系交通車両の位置情報を取得し、予め記憶しておいた該軌道系交通車両の各位置での該目標駆動量から、現在位置での該目標駆動量を取得し、該目標駆動量に基づく前記駆動指令を前記アクチュエータに出力する、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記軌道系交通車両の加減速情報には、前記車体内の前記物体に作用する該車体の床面に平行な前記前後方向の加減速度として、実際に検知された実加減速度の情報が含まれ、
前記コントローラは、前記実加減速度の情報を受け付けると、該実加減速度の情報を用いて、前記目標駆動量を求め、該目標駆動量に基づく前記駆動指令を該アクチュエータに出力する、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記アクチュエータの駆動量を検知する駆動量センサを備え、
前記コントローラは、前記目標駆動量に基づく前記駆動指令を前記アクチュエータに出力した後、前記駆動量センサで検知された前記アクチュエータの前記駆動量と、該目標駆動量との偏差を求め、該偏差が小さくなるよう前記駆動指令を補正し、補正した駆動指令を該アクチュエータに出力する、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記車体の走行方向での傾斜角度を検知する傾斜センサを備え、
前記コントローラは、前記軌道系交通車両の加減速によって前記車体内の物体に作用する慣性力のうち、前記前後方向の分力の少なくとも一部が該物体に作用する重力の分力で打ち消される該車体の傾斜状態となる、該車体の傾斜角度を求め、該傾斜角度を目標傾斜角度とし、前記目標駆動量に基づく前記駆動指令を前記アクチュエータに出力した後、前記傾斜センサで検知された前記車体の傾斜角度と前記目標傾斜角度との角度偏差を求め、該角度偏差が小さくなるよう前記駆動指令を補正し、補正した駆動指令を該アクチュエータに出力する、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記軌道系交通車両は、前記走行輪に対する前記車体の少なくとも上下方向における相対変位を抑制する変位緩衝体を備え、
前記アクチュエータは、前記変位緩衝体と前記車体との間に配置されている、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一項に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記軌道系交通車両は、前記走行輪に対する前記車体の少なくとも上下方向における相対変位を抑制する変位緩衝体を備え、
前記アクチュエータは、上下方向に駆動する駆動端を有し、前記変位緩衝体と並列に、前記走行輪の軸と前記車体との間に配置され、前記コントローラからの前記駆動指令に応じた駆動量での該駆動端の上下方向の位置が、上下方向の荷重に応じて変位するアクチュエータである、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項12】
請求項1から9のいずれか一項に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記軌道系交通車両は、前記走行輪に対する前記車体の少なくとも上下方向における相対変位を抑制する変位緩衝体を備え、
前記アクチュエータは、前記変位緩衝体と、前記コントローラから前記駆動指令を受けると、該変位緩衝体を変形させて、上下方向の該変位緩衝体の幅を該目標駆動量に対応した大きさの幅に近づける変形量調節手段と、を有する、
ことを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置において、
前記走行輪は、前記車体の前後のそれぞれで、車幅方向で対を成して設けられており、
前記アクチュエータは、前記対を成す走行輪のうち、一方の走行輪に対する前記車体の上下方向の位置を変えて、軌道幅方向でも該車体を傾けることができるアクチュエータであり、
前記コントローラは、前記車両の床面に平行な前記車幅方向の加速度情報を用いて、該加速度情報が示す加速度によって前記車体内の物体に作用する慣性力のうち、前記車幅方向の分力の少なくとも一部が該物体に作用する重力の分力で打ち消す該車体の傾斜状態となる、前記アクチュエータの前記目標駆動量を求め、該目標駆動量に基づく前記駆動指令を該アクチュエータに出力する、
ことを特徴とすることを特徴とする軌道系交通車両の車体姿勢制御装置。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の軌道系交通車両の車体姿勢制御装置と、前記車体と、該車体の前後それぞれに配置されている前記走行輪と、該走行輪に回転力及び制動力を加える前記加減速源と、を備えていることを特徴とする軌道系交通車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−162195(P2012−162195A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24807(P2011−24807)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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