説明

軟磁性鉄基焼結部材

【要 約】
【課 題】電子制御式燃料噴射装置のニードルバルブ等の電磁部材用として好適な、軟磁性鉄基焼結部材を提供する。
【解決手段】質量%で、Cr:8.0〜15.0%、Si:0.5〜7.0%を含み、あるいはさらに、Mo:3.0%以下、Cu:3.0%以下、Al:3.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、金属粉末射出成形法で成形され焼結処理されてなる鉄基焼結部材とする。これにより、高い磁束密度と、高い体積抵抗率と、高い耐食性とを兼備する安価な軟磁性鉄基焼結部材となる。また、これにより、複雑な形状の電磁部材を、要求される高い精度、さらに溶製材に匹敵する高密度で製造できるという効果もある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の内燃機関に燃料を供給するための電子制御式燃料噴射装置用部材として好適な、インジェクター等に用いられる軟磁性鉄基焼結部材に係り、とくに耐食性の具備と磁気特性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の内燃機関には、燃料を供給するための電子制御式燃料噴射装置が搭載されている。かかる燃料噴射装置におけるニードルバルブ等の電磁部材に使用される材料には、磁気特性に優れるとともに、使用される環境において優れた耐食性を具備することが要求されている。このような電磁部材用の材料としては、PBパーマロイ、電磁ステンレス鋼等が用いられている。PBパーマロイはFe−47Ni合金であり、電磁ステンレス鋼としては、13%Cr−0.8%Si−0.3%Alを含有する13Cr系ステンレス鋼が例示できる。
【0003】
しかし、PBパーマロイは、Fe−47Ni合金であり、B2000がほぼ1.52Tと高い磁束密度を有し耐食性も良好であるが、体積抵抗率がほぼ0.45μΩm程度であり低く、更なる体積抵抗率の向上が難しいことに加えて、Niを47%含有し高価であるという問題がある。また、例えば上記した組成の電磁ステンレス鋼は、体積抵抗率がほぼ0.72μΩm程度と高く、またCrを13%含有しているため、耐食性に優れるという特徴があるが、B2000がほぼ1.33T程度と低くCrの多量含有に起因して更なる磁束密度の向上が難しく、PBパーマロイに匹敵する高い磁束密度を確保できないという問題があった。
【0004】
高い磁束密度、高い体積抵抗率を有する材料としては、Fe−Si系材料があるが、Fe−Si系材料は、耐食性が劣ることに加えて、延性、加工性が低く、電子制御式燃料噴射装置用のニードルバルブ等のような、複雑な形状で精度が要求される部材への加工が困難であるという問題があった。
また、例えば、特許文献1には、Cr:15〜25%、Si:0.5〜5%、Mo:0.2〜3%、Ni:0.1〜3%、Cu:0.2〜1%を含み、磁気的特性に優れ、かつ耐食性に優れた電磁ステンレス鋼焼結体が記載されている。特許文献1に記載された技術では、耐食性と磁気特性がともに優れた焼結体となるとしている。
【0005】
また、特許文献2には、C:0.10%以下、Si:3%以下、Cr:1〜5%、Ni:36〜60%、Mo:0.1〜6.0%、Cu:0.1%以上6.0%未満を含有する高耐食性軟磁性焼結体が記載されている。特許文献2に記載された技術によれば、電磁ステンレス鋼の焼結体にくらべ、磁気特性、電気的特性、耐食性に優れた焼結体とすることができるとしている。
また、特許文献3には、質量比で、Cr:7〜15%、Si:1〜4%を含有するとともにAlを含有しない軟磁性ステンレス鋼微粉末を造粒して、平均粒径が10〜150μmの造粒粉末となっている、焼結軟磁性ステンレス鋼用原料粉末が記載されている。特許文献3に記載された原料粉末を使用して、プレス成形、焼結工程を施すことにより、成形性が改善され、高密度で、耐食性を維持し、磁束密度の低下を防止でき、固有抵抗が高い軟磁性ステンレス鋼製部材が製造できるとしている。
【特許文献1】特開平07−238352号公報
【特許文献2】特開2000−8148号公報
【特許文献3】特開2002−275600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載された技術では、Ni、Crの多量含有を必要とし、材料コストが高騰するという問題がある。また、特許文献3に記載された原料粉末は、圧粉成形−焼結工程を経ることを前提としており、圧粉成形時のブリッジング発生防止のために、微粉末を造粒して所定の平均粒径を保持させていることに特徴がある。しかしながら、特許文献3に記載された原料粉末を使用して、圧粉成形、焼結工程を施して製造された粉末成形焼結部材は、最近の、電磁部材の更なる小型化や高性能化に伴う、複雑な形状や、それに伴う高い要求精度に十分に対応することができず、更なる加工等を必要とし歩留低下、加工時間の増大等、製造コストの高騰を招くという問題があった。なお、特許文献3には、射出成形について何の言及も無く、また特許文献3に記載された原料粉末を射出成形用として用いることについての言及も無い。
【0007】
また、最近では、地球温暖化に対する対応策の一つとして、自動車等の内燃機関の燃料として、エタノール燃料が注目されている。しかし、燃料としてエタノールを用いる内燃機関の部品には、従来の材料では耐食性が不足する場合が懸念され、更なる耐食性に優れた部品用材料の開発が要望されている。
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、電子制御式燃料噴射装置のニードルバルブ等の電磁部材用として好適な、高い磁束密度、高い体積抵抗率とを兼備し、さらに高い耐食性を有し、かつ複雑な形状、高い要求精度に十分に対応できる安価な、軟磁性鉄基焼結部材を提供することを目的とする。なお、ここでいう「高い磁束密度」とは、直流のB−H曲線を測定し、磁界強さ2000A/mにおける磁束密度B2000が1.10(T)以上である場合をいい、「高い体積抵抗率」とは、直流4端子法を用いて測定した体積抵抗率が0.60(μΩm)以上である場合をいい、「高い耐食性」とは、5%食塩水溶液の塩水噴霧試験(35℃×24h)を行って、発錆が認められない場合をいう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成するために、まず、最近の電磁部材の小型化、高性能化に伴う、複雑な形状、高い要求精度に十分に対応するためには、金属粉末射出成形法を利用して、成形し、しかるのち焼結処理を行うことが肝要であることに想到した。そして、金属粉末射出成形法を利用して成形することにより部材形状をニアネットシェイプとすることおよび高密度化することができ、さらに、加工性を低下させるが体積抵抗率を顕著に高める作用を有するSiの多量含有を可能にできることに思い至った。さらなる本発明者の研究により、高い磁束密度、高い体積抵抗率と、さらに高い耐食性を兼備させるには、まず鉄基組成とし高い磁束密度を確保する必要があり、さらに、耐食性向上のためにCrさらに、Mo、Cuを、高い体積抵抗率を確保するためにSi、さらにAlを、適正範囲に調整して含有することがよいことに想到し、質量%で、Crを8.0〜15.0%と、Siを0.5〜7.0%、あるいはさらにMoを3.0%以下、Cuを3.0%以下、Alを3.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、残部Feからなる組成とすることがよいことを知見した。
【0009】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)質量%で、Cr:8.0〜15.0%、Si:0.5〜7.0%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、金属粉末射出成形法で成形され焼結処理されてなることを特徴とする軟磁性鉄基焼結部材。
【0010】
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:3.0%以下、Cu:3.0%以下、Al:3.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする軟磁性鉄基焼結部材。
(3)(1)または(2)に記載の軟磁性鉄基焼結部材を少なくとも一部に使用したことを特徴とする電子制御式燃料噴射装置用ニードルバルブ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い磁束密度と、高い体積抵抗率と、高い耐食性とを兼備した、電子制御式燃料噴射装置のニードルバルブ等の電磁部材用として好適な軟磁性鉄基焼結部材を、安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、複雑な形状の電磁部材を、要求される高い精度および溶製材に匹敵する高密度で製造でき、近年の電磁部材の小型化、高性能化に十分に対応可能であるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、本発明の軟磁性鉄基焼結部材の組成限定理由について説明する。以下、質量%は単に%で記す。
Cr:8.0〜15.0%
Crは、耐食性を向上させ、体積抵抗率を高める作用を有する元素であり、本発明では8.0%以上の含有を必要とする。8.0%未満の含有では所望の耐食性を確保できなくなる。一方、15.0%を超える含有は、磁束密度が低下し、所望の磁束密度を確保することができなくなる。このため、Crは8.0〜15.0%に限定した。なお、好ましくは9.0〜15%、より好ましくは9.0〜12.0%、さらに好ましくは10.0〜12.0%以上である。
【0013】
Si:0.5〜7.0%
Siは、鉄基合金の体積抵抗率を高くし、渦電流損失を小さくし電磁部品の応答性を向上させるとともに、さらに耐食性を向上させる作用を有する元素であり、本発明では0.5%以上の含有を必要とする。0.5%未満では、所望の体積抵抗率を確保することができない。一方、7.0%を超える含有は、著しい延性の低下をもたらす。このため、Siは0.5〜7.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは1.4〜4.0%、より好ましくは3.0〜4.0%である。
【0014】
上記した成分が基本の成分であるが、上記した基本の成分に加えてさらに選択元素として、Mo:3.0%以下、Cu:3.0%以下、Al:3.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有できる。
Mo、Cu、Alはいずれも、耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて選択して含有できる。
【0015】
Moは、Crと同様に耐食性、とくに耐孔食性を向上させる作用を有する元素である。このような効果を得るためには、0.5%以上含有することが好ましいが、3.0%を超える含有は、焼結の進行を阻害し、硬さを増加させるとともに、延性、磁束密度を低下させる。このため、含有する場合には、3.0%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは1.0〜2.0%である。
【0016】
Cuは、Crと同様に耐食性を向上させる作用を有する元素であるが、Crと複合して含有することにより、耐食性を顕著に向上させる元素であり、必要に応じて含有することができる。このような効果を得るためには、0.3%以上含有することが望ましいが、3.0%を超える多量の含有は、磁束密度が低下する。このため、含有する場合には、Cuは3.0%以下に限定することが好ましい。
【0017】
Alは、Siと同様に、鉄基合金の体積抵抗率を高くし、さらに耐食性を向上させる作用を有する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには、0.3%以上含有することが望ましいが、3.0%を超える多量の含有は、磁束密度が低下し、さらにAlは酸化しやすい元素であるため、焼結の進行を阻害し、高い焼結密度を達成することが困難となる。このため、含有する場合には、Alは3.0%以下に限定することが好ましい。
【0018】
上記した成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物として、C:0.05%以下、P:0.04%以下、S:0.03%以下、N:0.05%以下、O:0.3%以下、Mn:1.0%以下、Ni:0.6%以下が許容できる。なお、Cが0.05%を超えて多量に含有される場合には、とくに磁気特性に悪影響を及ぼすため、Cは0.05%以下に調整することが好ましい。なお、より好ましくは磁気特性が変化しない範囲である、0.04%以下、さらに好ましくは0.03%以下である。
【0019】
本発明の軟磁性鉄基焼結部材は、上記した組成を有し、金属粉末射出成形法で成形され焼結処理されてなる鉄基焼結部材である。なお、本発明で用いる金属粉末射出成形法は、常用の方法でよく、とくに限定する必要はない。金属粉末射出成形法を用いて成形することにより、仕上げ加工は研磨程度ですみ、加工による磁気的特性の劣化を防止できるという利点がある。また、焼結処理は、組成に応じて所定の焼結密度を確保できる、適正範囲の焼結温度を選定すればよく、とくに限定する必要はない。なお、適正範囲の焼結温度としては、1100〜1250℃が例示できる。
【0020】
つぎに、本発明軟磁性鉄基焼結部材の好ましい製造方法について説明する。
本発明の軟磁性鉄基焼結部材の製造に使用する原料粉は、上記した組成の溶湯を水アトマイズ法あるいはガスアトマイズ法で噴霧して得られた鉄基合金粉末とすることが好ましいが、本発明ではこれに限定されるものではない。また、アトマイズ純鉄粉あるいはカルボニル鉄粉に、Fe−Si粉末、Fe−Cr粉末、、Fe−Mo粉末、Fe−Al粉末、Fe−Si−Al粉末等の合金粉末および/またはSi粉、Cr粉、Cu粉、Mo粉等の金属粉を、上記した組成となるように配合した混合粉を用いてもよい。なお、用いる粉末は、平均粒径で12μm以下、好ましくは10μm以下とすることが焼結性の観点から好ましい。ここでいう平均粒径は、レーザ回折散乱法(マイクロトラック法)を用いて測定した値とする。
【0021】
上記した原料粉に、図1に示すように、バインダを配合し、適正な温度に加熱し加圧、混練して、混練物としたのち、冷却する混練工程を行う。ついで、冷却され固化した混練物を粉砕し、射出成形用原料とする、粉砕工程を行う。なお、原料粉に配合するバインダは、とくに限定する必要はないが、熱可塑性樹脂、ワックス、植物油等を混合したものとすることが好ましい。
【0022】
ついで、射出成形用原料を、金属粉末射出成形機のホッパー内に供給し、所定の射出成形温度で所定形状の金型に射出し、冷却固化させ、射出成形体を得る、射出成形工程を行う。得られた成形体は、ついで、脱脂工程を施され、溶剤により成形体からバインダの一部を除去される。なお、この脱脂工程に代えて、加熱のみの脱脂工程としても良い。
バインダの一部を除去された成形体は、ついで適正な温度に加熱され、バインダの残部を除去されるとともに、適正な温度条件で焼結され、焼結体とされる、焼結工程を施される。なお、加熱による脱脂と焼結とは、連続的に行っても、バッチ的に行ってもよい。溶剤による脱脂工程を行わず、加熱による脱脂工程を行う場合には、加熱による脱脂工程を行ったのち、適正なヒートバターン(条件)で焼結工程を行うことが好ましい。焼結工程は、組成に応じて所定の焼結密度を確保できる、適正範囲の焼結条件(焼結温度、保持時間)を選定して行えばよく、とくに限定する必要はない。
【0023】
なお、射出成形体の脱脂工程は、溶剤による脱脂、加熱による脱脂に替えて、超臨界二酸化炭素による脱脂としても、なんら問題はない。
好ましくは上記した製造方法で得られる、本発明の軟磁性鉄基焼結部材としては、電子制御式燃料噴射装置の電磁部材である、ニードルバルブが例示できる。ニードルバルブの一例を図2に示す。ニードルバルブ20は、ニードルシール部21、ニードル部22、プランジャー部23から構成される。ニードルバルブ20全体を、上記した組成の鉄基焼結体で構成しても、あるいはニードル部22、プランジャー部23を上記した組成の鉄基焼結体で構成しても、あるいはニードルシール部21、ニードル部22を上記した組成の鉄基焼結体で構成しても、いずれでもよい。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
水アトマイズ法で製造された、表1に示す組成を有する粉末を原料粉として用いた。なお、原料粉は、平均粒径で10μm以下のものを使用した。この原料粉に、バインダを配合し、混練機(加圧型ニーダー)を用いて180℃で混練し、得られた混練物を冷却した。なお、バインダは、PP樹脂と、パラフィンワックスと、植物油とを混合したものを使用した。冷却され固化した混練物を、ついで粉砕し、射出成形用原料とした。得られた射出成形用原料を、射出成形機に供給し、射出成形機により所定形状の金型に射出し、冷却固化して、成形体を得た。なお、射出成形温度は165℃とした。
【0025】
得られた成形体に溶剤による脱脂工程を施し、ついで減圧窒素ガス雰囲気中で適正な焼結温度、時間で焼結する焼結工程を施し、焼結体とした。
得られた焼結体について、磁束密度、体積抵抗率、耐食性、延性および焼結密度を調査した。磁束密度は、直流のB−H曲線を測定し、磁界強さ2000A/mにおける磁束密度B2000(T)を求めた。また、体積抵抗率は直流4端子法を用いて測定した。また、耐食性は、5%食塩水溶液の塩水噴霧試験(35℃×24h)を行い、発錆状況を目視で観察し、発錆が認められる場合を×、発錆が認められない場合を○として評価した。延性は、ISO2740に規定する試験片を用いてJIS Z 2241の規定に準拠して、引張試験を実施し、伸びを求め、伸び5%未満を×、5%以上〜7%未満を△、7%以上を○として、延性を評価した。焼結密度はアルキメデス法で測定し、相対密度で表示した。
【0026】
なお総合判定として、原料粉の組成が本発明範囲内で、かつ磁束密度B2000が1.10(T)以上、体積抵抗率が0.60(μΩm)以上、耐食性が○、延性が△以上、焼結密度が95.0%以上を全て満足する場合を○、それ以外を×として判定した。
得られた結果を表2に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
本発明例はいずれも、B2000:1.10T以上の高い磁束密度と、0.60μΩm以上の高い体積抵抗率と、5%食塩水溶液の塩水噴霧試験(35℃×24h)においても発錆が認められず、優れた耐食性と、5%以上の伸びを有し、優れた延性と、相対密度で95.0%以上の高い焼結密度とを兼備する軟磁性鉄基焼結体となっている。
一方、本発明の範囲を外れる比較例は、B2000が1.10T未満であるか、体積抵抗率が0.60μΩm未満であるか、発錆が認められ、耐食性が劣化しているか、延性が著しく低下しているか、あるいは焼結密度が95.0%未満と低くなっている。
(実施例2)
水アトマイズ法で製造された、表3に示す組成を有する粉末を原料粉として用いた。なお、原料粉は、平均粒径で10μm以下のものを使用した。この原料粉に、バインダを配合し、混練機(加圧型ニーダー)を用いて180℃で混練し、得られた混練物を冷却した。なお、バインダは、PP樹脂と、パラフィンワックスと、植物油とを混合したものを使用した。
【0030】
冷却され固化した混練物を、ついで粉砕する粉砕工程を施し、射出成形用原料とした。得られた射出成形用原料を、射出成形機に供給し、射出成形機により所定形状の金型に射出し、冷却固化する射出成形工程を施して、成形体を得た。なお、射出成形温度は165℃とした。
得られた成形体に溶剤による脱脂工程を施し、ついで減圧窒素ガス雰囲気中において、適正な焼結温度、時間で、焼結する焼結工程を施し、焼結体とした。
【0031】
得られた焼結体について、磁束密度、体積抵抗率、耐食性、延性および焼結密度を調査した。調査方法は実施例1と同様とした。なお総合判定として、原料粉の組成が本発明範囲内で、かつ磁束密度B2000が1.10(T)以上、体積抵抗率が0.60(μΩm)以上、耐食性が○、延性が△以上、焼結密度が相対密度で95.0%以上を全て満足する場合を○、それ以外を×として判定した。
【0032】
得られた結果を表4に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
本発明例はいずれも、B2000:1.10T以上の高い磁束密度と、0.60μΩm以上の高い体積抵抗率と、5%食塩水溶液の塩水噴霧試験(35℃×24h)においても発錆が認められず、優れた耐食性と、5%以上の伸びを有し、優れた延性と、相対密度で95.0%以上の高い焼結密度とを有する軟磁性鉄基焼結体となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、B2000が1.10T未満であるか、体積抵抗率が0.60μΩm未満であるか、あるいは発錆が認められ、耐食性が劣化しているか、伸びが5%未満と延性が低下しているか、あるいは相対密度で95.0%未満と焼結密度が低下している。
【0036】
このように、本発明によれば、高い磁束密度、高い体積抵抗率とを有し、さらに高い耐食性を兼備し、かつ複雑な形状、高い要求精度に十分に対応でき、電子制御式燃料噴射装置のニードルバルブ等の電磁部材として好適な、軟磁性鉄基焼結部材を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】好ましい製造工程の一例を示す説明図である。
【図2】ニードルバルブの構成の一例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0038】
20 ニードルバルブ
21 ニードルシール部
22 ニードル部
22a 連通口
23 プランジャー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Cr:8.0〜15.0%、Si:0.5〜7.0%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、金属粉末射出成形法で成形され焼結処理されてなることを特徴とする軟磁性鉄基焼結部材。
【請求項2】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:3.0%以下、Cu:3.0%以下、Al:3.0%以下から選ばれた1種又は2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性鉄基焼結部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の軟磁性鉄基焼結部材を少なくとも一部に使用したことを特徴とする電子制御式燃料噴射弁用ニードルバルブ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−19264(P2009−19264A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81337(P2008−81337)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(390022806)日本ピストンリング株式会社 (137)
【Fターム(参考)】