説明

転がり支持装置

【課題】転がり支持装置の駆動状態での温度をコストの低い方法で測定できるように、また、接触面の温度を容易に測定できるようにする。
【解決手段】潤滑剤に、熱変色物質を内包するマイクロカプセルを添加する。または、構成部品の表面に、熱変色物質を内包するマイクロカプセルを固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、互いに対向配置される軌道を備えた第1部材および第2部材と、両部材の軌道間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、転動体が転動することにより第1部材および第2部材の一方が他方に対して相対移動する転がり支持装置(転がり軸受、ボールねじ、リニアガイド等)に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受、ボールねじ、リニアガイド等の転がり支持装置は、一般に、鉱油や合成油からなる潤滑油またはこれらを基油とするグリースによって潤滑されている。これらの潤滑剤には、雰囲気温度、あるいは接触する二面間に発生する熱の影響を受けて、熱分解や熱劣化が生じる。これに伴って、潤滑性能が低下する。潤滑性能が低下すると、振動や騒音が大きくなり、ひどい場合には焼き付きに至ることもある。そのため、駆動中の転がり支持装置の温度や振動を把握して、状態の変化に迅速に対応できるようにしておくことが、焼き付き等の損傷を防止する上で重要である。
【0003】
駆動中の転がり支持装置の温度や振動を把握する技術として、下記の特許文献1には、転がり軸受のシールに、転がり軸受の内外の温度差を検出する素子を取り付けることが記載されている。
下記の特許文献2には、振動センサと温度センサを、転がり軸受のハウジングに固定されたセンサケース内に設置することが記載されている。
【特許文献1】特開2003−113835号公報
【特許文献2】特開2003−214452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1および2に記載の技術では、温度差検出素子、振動センサおよび温度センサからの検出値を受信して表示する装置が必要であるため、コストが高い。また、接触面の温度を測定することは困難である。
本発明の課題は、転がり支持装置の駆動状態での温度をコストの低い方法で測定できるようにすること、および接触面の温度を容易に測定できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、互いに対向配置される軌道を備えた第1部材および第2部材と、両部材の軌道間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、転動体が転動することにより第1部材および第2部材の一方が他方に対して相対移動する転がり支持装置において、熱変色物質を内包するマイクロカプセルが添加された潤滑剤で潤滑されていることを特徴とする転がり支持装置を提供する。
【0006】
本発明はまた、構成部品として、互いに対向配置される軌道を備えた第1部材および第2部材と、両部材の軌道間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、転動体が転動することにより第1部材および第2部材の一方が他方に対して相対移動する転がり支持装置において、構成部品の表面に、熱変色物質を内包するマイクロカプセルが固定されていることを特徴とする転がり支持装置を提供する。
【0007】
転がり支持装置の構成部品が前記第1部材、第2部材、転動体のみからなる場合には、これらの少なくともいずれかの表面に、熱変色物質を内包するマイクロカプセルを固定する。転がり支持装置の構成部品には、これら以外に、保持器、シール、シールド板等があるが、熱変色物質を内包するマイクロカプセルは、これらを含めていずれの構成部品に固定されていてもよい。
【0008】
熱変色物質とは、温度の変化で色が変わる物質を意味する。熱変色物質には可逆性の熱変色物質および不可逆性の熱変色物質があるが、そのいずれを使用してもよい。「不可逆性の熱変色性物質」は、所定の温度において変色し、一度変色した後は温度が変化しても色が変化しない。「可逆性の熱変色物質」は、温度に応じて色が変化し、一度変色した後に温度が変化すると色も変化する。したがって、可逆性の熱変色物質を使用した場合には、色の変化により温度変化を検出することができる。不可逆性の熱変色物質を使用した場合には、色の変化により、最高到達温度および最低到達温度を検出することができる。
【0009】
また、熱変色性物質は単独で使用されても良いし、複数の物質が混合されて使用されても良い。
前記熱変色物質が、2以上の成分が反応することで熱変色する組成物である場合には、一つのマイクロカプセルに、前記成分の全てでなく少なくとも1成分が内包されているものを使用すると、発色させる温度に応じた溶融温度のカプセル壁を使用することにより、発色させる温度を適宜設定することができる。
熱変色物質をマイクロカプセルに内包する方法としては、界面重合法、in−situ法、コアセルベーション法等、従来より公知の方法が採用できる。
【0010】
本発明で使用可能な熱変色物質を以下に例示する。
[不可逆性熱変色物質の例示1]
シュウ酸錯塩、シュウ酸金属塩、金属水酸化物、塩基性炭酸金属塩、リン酸金属塩、金属塩へのヘキサメチレンテトラミンの付加物、アンモニア錯塩、アンモニウム金属塩、テトラヨード水銀酸金属塩、これらの水和物。
【0011】
シュウ酸錯塩およびその水和物は、式1:M1a [M2b (C2 4 c ]・dH2 Oで表される不可逆性の示温顔料である。式1中、M1は、水素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である。M2は、Cr, Mn, Co, Ni, Cu, Mo, PbまたはBiである。a, b, cは1〜3の数であり、dは0以上の数である。
具体的には、K3 [Co(C2 4 3 ]・3H2 O、KBa[Cr(C2 4 3 ]、K2 [Co(C2 4 2 ]が挙げられる。
【0012】
シュウ酸金属塩、金属水酸化物、塩基性炭酸金属塩、リン酸金属塩、およびそれらの水和物は、式2:M3e f ・gH2 Oで表される不可逆性の示温顔料である。式2中、M3は前記M2と同じ、AはC2 4,OH, CO3 またはPO4 、e, fは1〜3の数、g≧0の数である。
シュウ酸金属塩およびその水和物として、具体的には、CoC2 4 ・2H2 O、NiC2 4 ・2H2 O、4NiC2 4 ・CoC2 4 ・10H2 O、CuC2 4 ・1/2H2 O、PbC2 4 、Bi(C2 4 3 ・4H2 O、Bi2 (C2 4 3 ・7H2 Oが挙げられる。
【0013】
金属水酸化物として具体的には、Cu(OH)2 が挙げられる。塩基性炭酸金属塩およびその水和物として具体的には、2CoCO3 ・3Co(OH)2 が挙げられる。リン酸金属塩およびその水和物として具体的には、Co3 (PO4 2 ・8H2 Oが挙げられる。
アンモニウム金属塩は、式3:(NH4 )M4(P2 7 )で表される不可逆性の示温顔料である。式3中、M4は前記M2と同じである。具体的には、NH4 MnP2 7 が挙げられる。
【0014】
アンモニア錯塩およびその水和物は、式4:M5j [ M6k (NH3 m (CO3 n ] o p ・qH2 Oで表される不可逆性の示温顔料である。式4中、M5は前記M1と同じである。M6は前記M2と同じである。Bは、NO3 ,PO4 ,P2 7 またはC2 4 、j, nは0〜1の数、kは1〜2の数、mは4〜6の数、o, pは1〜3の数、q≧0の数である。
具体的には、[Co(NH3 4 CO3 ]NO3 、[Co(NH3 6 2 (C2 4 3 ・4H2 O、[Co(NH3 6 ]HP2 7 、[Co(NH3 6 ]PO4 ・4H2 O、[Co(NH3 4 CO3 ]NO3 ・1/2H2 Oが挙げられる。
【0015】
固形状の温度表示材にパラフィンワックス、固形状油脂、不揮発性油、および/または半固形状油脂を含んでいるときには、アンモニア錯塩およびその水和物が式6:w(NH4 2 O・M7x y ・zH2 Oで表される不可逆性の示温顔料であってもよい。式5中、M7は、前記M2と同じまたはAlである。wは正の数、x, yは1〜3の数、z≧0の数である。具体的には、3(NH4 2 O・Al2 3 ・12MoO3 ・19H2 Oが挙げられる。
金属塩へのヘキサメチレンテトラミンの付加物、およびその水和物は、式6:M8r s ・t(CH2 )6N4 ・uH2 Oで表される不可逆性の示温顔料である。式6中、M8は前記M2と同じ、DはCl,Br,I,SO4 ,NO3 またはSCN、r, sは1〜3の数、tは2〜4の数、u≧0の数である。
【0016】
具体的には、CoCl2 ・2(CH2 6 4 ・10H2 O、4/5CoBr2 ・1/5NiBr2 ・2(CH2 6 4 ・10H2 O、CoI2 ・2(CH2 6 4 ・10H2 O、Co(NO3 2 ・2(CH2 6 4 ・10H2 O、Co(SCN)2 ・2(CH2 6 4 ・10H2 O、NiCl2 ・2(CH2 6 4 ・10H2 O、[5/6Co(NO3 2 ・1/6Ni2 (NO3 2 ]・2(CH2 6 4 ・10H2 O、CoSO4 ・2(CH2 6 4 ・9H2 Oが挙げられる。
これらの示温顔料は、所定の温度において、結合状態の変化、含有する水和水の脱離、分解が生じるため、変色する。示温顔料の変色の程度は、加熱温度と加熱時間とに依存している。
【0017】
[不可逆性熱変色物質の例示2]
サーモクロミック有機色素スピロピラン類、ビアントロンやジキサンチレン等の縮合芳香環がエチレン基で置換されたエチレン誘導体など。金属錯塩結晶:CoCl2 ・2(CH2 )6N4 ・10H2 O、PbCrO4 、Cu2 HgI4 、Ag2 HgI4 など。液晶コレステリック液晶(マイクロカプセルに封入して用いる)。
電子供与性呈色性化合物と電子受容性化合物と有極性有機化合物の組み合せ。
電子供与性呈色性化合物:フェニルメタン系化合物(各種フルオラン、フェニルフタリド類等)、各種インドリルフタリド、スピロピラン、ロイコオーラミン類、アシルまたはアリールオーラミン類など。
【0018】
電子受容性化合物:フェノール性水酸基を有する化合物、フェノール性水酸基を有する化合物の金属塩、各種トリアゾール類、カルボン酸類、カルボン酸の金属塩など・有極性有機物アルコール類(オレイルアルコール等)、アミド類(アセトアセチルアニリド等)、エステル類(ジフェニルフタレート等)、水難溶性のカルボン酸の第一級アミン塩、ケトンまたはエーテル類、少なくても1個の芳香族残基を結合基とするアゾメチン類等。
【0019】
[可逆性熱変色物質の例示]
電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物およびこの両者の反応媒体となる化合物の3成分からなる熱変色性顔料、或いは前記3成分の樹脂固溶体を微粒子の形態とした熱変色性顔料。好ましい熱変色物質としては、米国特許第4,028,118 号明細書(対応日本特許公告公報44706/76、同44707/76、同44708/76および同44709/76)、米国特許第4,732,810 号明細書(対応日本特許公告公報29398/89)および米国特許第4,865,648 号明細書(対応日本特許公開公報264285/85 )に記載されたものを挙げることができる。
【0020】
電子供与性呈色性有機化合物としては、ジアリールフタライド類、インドリルフタライド類、ポリアリールカルビノール類、ロイコオーラミン類、アシルオーラミン類、アリールオーラミン類、ローダミンBラクタム類、インドリン類、スピロピラン類およびフルオラン類から選ばれた少なくとも1種が好ましい。
電子受容性化合物としては、フエノール化合物、フエノール化合物の金属塩、芳香族カルボン酸類、脂肪族カルボン酸類、カルボン酸類の金属塩、酸性燐酸エステル類、酸性燐酸エステル類の金属塩およびトリアゾール化合物から選ばれた少なくとも1種が好ましい。さらに反応媒体としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類およびアミド類から選ばれた少なくとも1種が好ましい。
【0021】
これらの熱変色物質が熱により変色する機構の推測:熱変色物質は、前述したように、電子を失うと発色する色素である電子供与性呈色性有機化合物と、その有機化合物から電子を奪う電子受容性化合物と、そして一定の温度を境に溶けたり固まったりする反応媒体となる化合物の3成分からなり、低温では固まった反応媒体の中で電子受容性化合物が電子供与性呈色性有機化合物として結合してそれから電子を奪い発色させる。一方高温では、反応媒体が溶け、電子受容性化合物は電子供与性呈色性有機化合物に電子を返して電子供与性呈色性有機化合物から離れるので色が消える。発色温度は反応媒体の概略溶融温度によつて決まることが多い。
【0022】
[組成物からなる熱変色物質の例示]
2以上の成分が反応することで熱変色する熱変色物質としては、ロイコ染料と呈色剤とからなる組成物が挙げられる。これらを個別のマイクロカプセルに内包させる。または、これらの成分の全てでなく少なくとも1成分を、一つのマイクロカプセルに内包させる。
【0023】
<ロイコ染料の具体例>
青発色性染料:3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3−(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)−3−(4−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3−ジエチルアミノ−7−ジベンジルアミノ−ベンゾ〔a〕フルオラン等。
【0024】
緑発色性染料:3−(N−エチル−N−p−トリル)アミノ−7−N−メチルアニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−アニリノフルオラン等。
赤発色性染料:3−ジエチルアミノ−7−メチルフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−クロロフルオラン、ローダミン(p−クロロアニリノ)ラクタム、3−(N−エチル−p−トルイジノ)−7−メチルフルオラン、3,3’−ビス(1−n−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド等。
【0025】
黒発色染料:3−(N−エチル−N−イソアミル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−(N−メチル−N−シクロヘキシル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジメチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジ(n−ブチル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジ(n−アミル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(o−クロロアニリノ)フルオラン、3−ジ(n−ブチル)アミノ−7−(o−クロロアニリノ)フルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(o−フルオロアニリノ)フルオラン、3−ジ(n−ブチル)アミノ−7−(o−フルオロアニリノ)フルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(m−トリフルオロメチルアニリノ)フルオラン、3−(N−エチル−p−トルイジノ)−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−(N−エチル−p−トルイジノ)−6−メチル−7−(p−トルイジノ)フルオラン、3−ジエチルアミノ−6−クロロ−7−アニリノフルオラン、3−ジ(n−ブチル)アミノ−6−メチル−7−m−トルイジノフルオラン、3−ピペリジノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン。
【0026】
<呈色剤の具体例>
4,4’−イソプロピリデンジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、4−ヒドロキシ安息香酸ベンジル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4−ヒドロキシ−4’−イソプロポキシジフェニルスルホン、ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、4−ヒドロキシ−4’−メチルジフェニルスルホン、4−ヒドロキシフェニル−4’−ベンジルオキシフェニルスルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,4−ビス〔α−メチル−α−(4’−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、1,3−ビス〔α−メチル−α−(4’−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、ジ(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、2,2’−チオビス(3−tert−オクチルフェノール)等のフェノール性化合物;N,N’−ジ−m−クロロフェニルチオウレア等のチオ尿素化合物;4,4’−ビス(p−トルエンスルホニルアミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン、N−(p−トルエンスルホニル)−N’−(p−トリル)尿素等の分子内に−SO2 NH−結合を有する化合物。
【0027】
p−クロロ安息香酸、サリチル酸、3−フェニルサリチル酸、3−tert−ブチル−5−メチルサリチル酸、3,5−ジ−tert−ブチルサリチル酸、3−メチル−5−ベンジルサリチル酸、3−フェニル−5−(α,α−ジメチルベンジル)サリチル酸、3−(α,α−ジメチルベンジル)−5−メチルサリチル酸、3,5−ジ−シクロヘキシルサリチル酸、3,5−ジ−(α−メチルベンジル)サリチル酸、2−ヒドロキシ−1−ベンジル−3−ナフトエ酸、1−ベンゾイル−2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−5−シクロヘキシル−2−ナフトエ酸、3−メチル−5−(イソ)ノニルサリチル酸、3−メチル−5−(α−メチルベンジル)サリチル酸、3−メチル−5−(α,α−ジメチルベンジル)サリチル酸、3,5−ジ−sec−ブチルサリチル酸、3,5−ジ−tert−ブチル−6−メチルサリチル酸、3−tert−ブチル−5−フェニルサリチル酸、3−フェニル−5−(イソ)ノニルサリチル酸、3−(α−メチルベンジル)−5−(イソ)ノニルサリチル酸などの芳香族カルボン酸およびその多価金属塩。多価金属の具体的な例としては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル等。
これらは単独または混合して使用される。また、呈色剤の使用量としてはロイコ染料に対して10〜400質量%程度、好ましくは20〜300質量%程度である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、熱変色物質を内包するマイクロカプセルを潤滑剤に添加するか、構成部品の表面に固定することにより、転がり支持装置の温度を目視で簡単に、低コストで測定することができる。また、接触面の温度も容易に測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。
[第1実施形態]
ロイコ染料である3−(N−エチル−p−トルイジノ)−6−メチル−7−アニリノフルオランを内包するマイクロカプセルAと、ロイコ染料である3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリドを内包するマイクロカプセルBと、呈色剤である4,4’−イソプロピリデンジフェノールを内包するマイクロカプセルCを、それぞれ界面重合法により作製した。マイクロカプセルAのカプセル壁は、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとから合成されたウレタンエラストマーである。マイクロカプセルBのカプセル壁は、ゼラチンとアラビアゴムとから合成されたものである。マイクロカプセルCのカプセル壁は、ゼラチンとアラビアゴムとから合成されたものである。
【0030】
マイクロカプセルAとマイクロカプセルCを1:2(質量比)で混合した液体を、恒温槽中に入れて静置し、温度を変化させたところ、120℃で黒色に変色した。その後、120℃より低温にしても色は変化しなかった。マイクロカプセルBとマイクロカプセルCを1:2(質量比)で混合した液体を、恒温槽中に入れて静置し、温度を変化させたところ、65℃で青色に変色した。その後、65℃より低温にしても色は変化しなかった。
【0031】
マイクロカプセルA、マイクロカプセルB、マイクロカプセルCを、1:1:4の比率(質量比)で混合したものを、市販のエポキシ系接着剤を用いて、呼び番号6306VVの転がり軸受の保持器(鋼板製の波形保持器、色調:銀色)の表面全体に固定した。
この転がり軸受を、「ASTM D 1741」に準拠した軸受回転試験機に取り付け、潤滑:ポリαオレフィン油(40℃での動粘度:68mm2 /s)を基油とし、ジウレア化合物を増ちょう剤とするウレアグリースを5g封入、ラジアル荷重:70kgf、アキシャル荷重:50kgf、温度:50℃、回転速度:2000min-1または8000min-1の条件で、10分間回転した。
【0032】
その後、転がり軸受を分解して、保持器の色を目視で確認した。その結果、回転速度が2000min-1の場合は銀色のままであったが、回転速度が8000min-1の場合は青色に変化した。したがって、この試験中の保持器の最高到達温度は、回転速度が2000min-1の場合は65℃未満であり、回転速度が8000min-1の場合は65℃以上120℃以下であると、色の変化によって判断することができる。また、回転速度が増加することで保持器の温度がより高くなることが、色の変化によって分かる。
【0033】
[第2実施形態]
3 [Co(C2 4 3 ]・3H2 Oを内包するマイクロカプセルDと、[Co(NH3 4 CO3 ]NO3 ・1/2H2 O)を内包するマイクロカプセルEを界面重合法により作製した。マイクロカプセルDのカプセル壁は、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンにより合成されたものである。マイクロカプセルEのカプセル壁は、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンにより合成されたものである。
【0034】
3 [Co(C2 4 3 ]・3H2 Oは、恒温槽中に入れて10分間静置し、温度を変化させたところ、155℃で薄い青緑に変色した。その後、155℃より低温にしても色は変化しなかった。[Co(NH3 4 CO3 ]NO3 ・1/2H2 O)は、恒温槽中に入れて10分間静置し、温度を変化させたところ、200℃で灰色に変色した。その後、200℃より低温にしても色は変化しなかった。
【0035】
このマイクロカプセルDとEを、ポリαオレフィン油を基油とし、ジウレア化合物を増ちょう剤とするウレアグリースに、それぞれ2質量%となるように混合した。このグリースを呼び番号6306VVの転がり軸受に5g封入した。
この転がり軸受を、「ASTM D 1741」に準拠した軸受回転試験機に取り付け、ラジアル荷重:70kgf、アキシャル荷重:50kgf、温度:140℃、回転速度:8000min-1の条件で、10分間回転した。
【0036】
その後、転がり軸受を分解して、内輪軌道面に付着しているグリースの色と、保持器のポケット部に付着しているグリースの色を目視で確認した。その結果、内輪軌道面に付着しているグリースの色は灰色であり、保持器のポケット部に付着しているグリースの色は薄い青緑色であった。したがって、この試験中の内輪軌道面の最高到達温度は200℃以上であり、保持器のポケット部の最高到達温度は155℃以上200℃以下であると、色の変化によって判断することができる。
【0037】
[第3実施形態]
電子供与性呈色性有機化合物としてクリスタルバイオレットラクトン、電子受容性化合物として没食子酸イソオクチルエステル、反応媒体としてn−メリシルアルコールを内包するマイクロカプセルFを界面重合法により作製した。マイクロカプセルFのカプセル壁は、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとから合成されたウレタンエラストマーである。
【0038】
マイクロカプセルFは、恒温槽中に入れて10分間静置し、室温から温度を上昇させたところ、95℃で透明に変色した。95℃より低い温度では青色であった。
このマイクロカプセルFを、市販のエポキシ系接着剤を用いて、呼び番号6306VVの転がり軸受の鋼製シールド板(色調:銀色)の表面全体に固定した。このシールド板を外輪側に固定することで、転がり軸受に取り付けた。
【0039】
得られた転がり軸受を、「ASTM D 1741」に準拠した軸受回転試験機に取り付け、潤滑:ポリαオレフィン油(40℃での動粘度:68mm2 /s)を基油とし、ジウレア化合物を増ちょう剤とするウレアグリースを5g封入、ラジアル荷重:70kgf、アキシャル荷重:50kgf、回転速度:2000min-1の条件で回転させながら、外輪の温度を90℃→93℃→96℃→93℃→90℃と変化させた。外輪の温度は熱電対により測定した。
外輪が各温度にあるときのシールド板の色を目視で確認したところ、最初の90℃では青色、次の93℃では青色、次の96℃では銀色、次の93℃では青色、次の90℃では青色であった。これにより、外輪の温度の変化を、シールド板の色で確認することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向配置される軌道を備えた第1部材および第2部材と、両部材の軌道間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、転動体が転動することにより第1部材および第2部材の一方が他方に対して相対移動する転がり支持装置において、
熱変色物質を内包するマイクロカプセルが添加された潤滑剤で潤滑されていることを特徴とする転がり支持装置。
【請求項2】
構成部品として、互いに対向配置される軌道を備えた第1部材および第2部材と、両部材の軌道間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、転動体が転動することにより第1部材および第2部材の一方が他方に対して相対移動する転がり支持装置において、
構成部品の表面に、熱変色物質を内包するマイクロカプセルが固定されていることを特徴とする転がり支持装置。
【請求項3】
前記熱変色物質は可逆性の熱変色物質である請求項1または2記載の転がり支持装置。
【請求項4】
前記熱変色物質は不可逆性の熱変色物質である請求項1または2記載の転がり支持装置。
【請求項5】
前記熱変色物質は、2以上の成分が反応することで熱により変色する組成物であり、一つのマイクロカプセルに、前記成分の全てでなく少なくとも1成分が内包されている請求項1又は2記載の転がり支持装置。

【公開番号】特開2006−9837(P2006−9837A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184192(P2004−184192)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】