説明

転がり軸受の寿命評価方法

【課題】スパーク発光分光分析法により得られた鋼中介在物の分析評価結果を基に転がり軸受の転がり寿命を高精度に評価することのできる転がり軸受の寿命評価方法を提供する。
【解決手段】転がり軸受をスパーク発光分光分析法により分析して、その転がり寿命を評価するに際して、スパーク発光分光分析法による分析の位置を軸受の軌道面から母材丸棒の径方向に母材直径換算で±10%の範囲内とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパーク発光分光分析法を利用して転がり軸受の転がり寿命を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、転がり軸受はその軌道輪がSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼から形成されていることが多く、このような軌道輪素材中には、軸受性能に影響を及ぼす種々の非金属粒子が鋼中介在物として点在している。従って、安定した軸受性能を得るためには、軌道輪素材中に点在する鋼中介在物の組成や粒径を分析して評価する必要があり、従来においては、鏡面に研磨仕上げされた供試材を顕微鏡により観察して鋼中介在物を分析評価する手法が採られていた。しかし、この方法は供試材の作製に1日〜2日を要し、しかも目視による検査であるため、迅速性及び正確性に欠けるという問題がある。そこで、鋼中介在物の組成や粒径を迅速かつ正確に分析評価するために、スパーク発光分光分析法を利用して鋼中介在物を分析評価する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−43150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、スパーク発光分光分析法は一種の比較分析法であり、その分析精度は標準試料の精度に影響される。このため、特許文献1に記載された方法を応用して転がり軸受の転がり寿命を評価しようとすると、その精度が極端な短寿命品を安全側で判別除外できる程度のものであるため、通常以上の寿命を有する軸受が除外されたものの中に含まれていることが少なくなかった。このことは、選別による良品歩留まりの不必要な低下を招き、その結果、製品価格を低廉化する上で障害となっていた。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、スパーク発光分光分析法により得られた鋼中介在物の分析評価結果を基に転がり軸受の転がり寿命を高精度に評価することのできる転がり軸受の寿命評価方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述した問題の解決方法として、本発明者らは、鋼材の凝固偏析および鍛造圧延加工時における鋼中介在物の鍛伸挙動の不均一が最終製品である軸受内部にも介在物分布の不均一を生む原因となっていることを考慮して調査した結果、介在物評価の位置が軸受寿命評価の精度に大きく影響し、具体的には軌道輪の機能部位である軌道面近傍での評価が有効であることを見出した。
そこで、本発明に係る転がり軸受の寿命評価方法は、転がり軸受をスパーク発光分光分析法により分析して、その転がり寿命を評価する方法であって、前記スパーク発光分光分析法による分析の位置を、軸受の軌道面から母材丸棒の径方向に母材直径換算で±10%の範囲内とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明に係る転がり軸受の寿命評価方法によれば、転がり軸受をスパーク発光分光分析法により分析して、その転がり寿命を評価するに際して、スパーク発光分光分析法による分析の位置を軸受の軌道面から母材丸棒の径方向に母材直径換算で±10%の範囲内とすることにより、寿命評価の誤差が10%以内となるので、スパーク発光分光分析法により得られた鋼中介在物の分析評価結果を基に転がり軸受の転がり寿命を高精度に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
先ず、本発明者は、試験軸受として4つの深溝玉軸受(型番6206)A〜Dを作製し、各玉軸受の外輪外周面及び外輪軌道面底でPDA(スパーク発光分光分析)を行った。そして、粒径の最も大きい鋼中介在物について分析評価し、その分析評価結果から深溝玉軸受A〜Dの外輪外周面及び外輪軌道面でのL10寿命比を求めた。その結果を表1及び表2に示す。
【0007】
【表1】

【0008】
【表2】

【0009】
また、本発明者は深溝玉軸受A〜Dの外輪軌道面と外輪軌道面との間におけるL10寿命比、すなわち軌道輪素材(母材丸棒)の径に換算した断面位置でのL10寿命比を推定した。そして、その推定値と外輪外周面及び外輪軌道面におけるL10寿命比との差異を求めた。その結果を表3に示す。
【0010】
【表3】

【0011】
表1に示す鋼中介在物の分析評価結果から、軌道輪素材中に点在する鋼中介在物はその最大粒径がPDAの測定部位によって異なることがわかる。また、表2に示すL10寿命比の値から、深溝玉軸受のL10寿命比は鋼中介在物の最大粒径が大きくなるほど小さくなることがわかる。そして、表3に示すL10寿命比の差異からは、PDAの測定部位が軌道面底から離れるほど母材丸棒の径に換算した断面位置での寿命比の推定値も誤差が大きくなることがわかる。また、誤差を10%の範囲内に抑えるためには、概ね素材丸棒の径に換算した断面位置で10%の範囲内、好ましくは5%の範囲内でPDA法による鋼中介在物の分析評価を行うことが重要であることがわかる。
なお、表1〜表3に示した例では試験軸受として深溝玉軸受を用いた場合を例示したが、表4に示すように、試験軸受として円筒ころ軸受(型番NU211)の内輪を用いた場合でも同様の試験結果が得られた。
【0012】
【表4】

【0013】
以上のことから、転がり軸受をスパーク発光分光分析法により分析して、その転がり寿命を評価するに際して、スパーク発光分光分析法による分析の位置を軸受の軌道面から母材丸棒の径方向に母材直径換算で±10%の範囲内とすることにより、寿命評価の誤差が10%以内となるので、スパーク発光分光分析法により得られた鋼中介在物の分析評価結果を基に転がり軸受の転がり寿命を高精度に評価することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受をスパーク発光分光分析法により分析して、その転がり寿命を評価する方法であって、前記スパーク発光分光分析法による分析の位置を、前記軸受の軌道面から母材丸棒の径方向に母材直径換算で±10%の範囲内とすることを特徴とする転がり軸受の寿命評価方法。

【公開番号】特開2006−317378(P2006−317378A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142328(P2005−142328)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】