説明

転がり軸受の特性測定用回転装置及び転がり軸受の特性測定装置と特性測定方法

【課題】 組み付け誤差等を想定し、内輪5を回転輪である外輪3に対して傾斜させた状態で、転がり軸受1の動トルクを測定する。
【解決手段】 主軸16の一部に外嵌固定された上記内輪5の上端面に、上記外輪3の中心軸に直交する仮想平面に対して傾斜したブッシュ31の下端面を、ワッシャ37を介して当接させる。そして、このブッシュ31を、押圧機構32により上記内輪5に向け押圧して、この内輪5を上記外輪3に対して所定の角度傾斜させる。この状態で、上記外輪3を回転させ、上記内輪5に作用する回転力を、上記主軸16を介して動トルク測定部11により測定する。この主軸16は、静圧気体軸受17により回転自在に支持されている為、動トルクの測定を高精度に行なえる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、エアコンのファンモータ等に組み込む小径(例えば内径が8〜15mm程度)の転がり軸受の、動トルク等の特性を測定する為に使用する転がり軸受の特性測定用回転装置、及び、これを組み込んだ転がり軸受の特性測定装置と転がり軸受の特性測定方法の改良に関する。具体的には、内輪を外輪に対して傾斜させた状態でこの外輪を回転させた場合に、この転がり軸受に生じる特性を測定する為のものである。
【背景技術】
【0002】
各種機械装置の設計を行なう場合には、当該機械装置の回転支持部分に組み込む為の転がり軸受の動トルクを測定する必要がある。又、この様な動トルクの測定は、転がり軸受の性能向上を図る為にも必要である。更に、転がり軸受の騒音レベル等の音響特性を測定する事も、性能向上等の面から必要である。このうちの転がり軸受の動トルクを測定する技術として、例えば特許文献1〜3に記載された発明がある。これら各特許文献1〜3に記載された発明の場合、転がり軸受を正常な状態で設置して、動トルク等の特性を測定するものである。即ち、測定装置に転がり軸受を複数個組み込んだ状態で、この転がり軸受を構成する内輪と外輪との中心軸同士をほぼ一致させる。そして、この様な状態でこの転がり軸受の動トルク等を測定する。
【0003】
一方、一般的に転がり軸受を各種機械装置の回転支持部分に組み込む際には、組み付け誤差等により内輪の中心軸が回転軸心に対して傾斜する場合がある。この為、この内輪の中心軸が傾斜した場合の転がり軸受の使用許容限界を把握する事が重要である。しかし、上記各特許文献1〜3に記載された様な従来技術の場合には、転がり軸受が正常な状態で組み付けられた場合の特性に就いては測定可能であるが、組み付け誤差等が存在し、上記内輪の中心軸が傾斜した場合の測定対象である転がり軸受単体の特性に就いては測定する事ができない。勿論、上述した従来技術の場合でも、或る程度内輪の中心軸を傾斜させた状態で測定作業を行なう事は可能であるが、正常な範囲内に相当する組み付け状態から逸脱した状態、又は、実際の使用状況に於いて発生し得る組み付け誤差等を想定して、上記内輪の中心軸を、所望値通り正確に傾斜させた状態で測定作業を行なう事はできない。
【0004】
【特許文献1】特開2000−155073号公報
【特許文献2】特開2000−162092号公報
【特許文献3】特開2001−194270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、組み付け誤差等を想定し、内輪を外輪の回転軸心に対し、所望値通り正確に傾斜させた状態で、転がり軸受の動トルク等の特性を測定できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の転がり軸受の特性測定用回転装置及び、転がり軸受の特性測定装置と特性測定方法のうち、請求項1に記載した転がり軸受の特性測定用回転装置は、内周面に外輪軌道を有する外輪と、外周面に内輪軌道を有する内輪と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けた複数個の転動体とを備えた転がり軸受の特性を測定すべく、この転がり軸受に回転力を伝達する。
特に、請求項1に記載した転がり軸受の特性測定用回転装置の場合には、ハウジングと、傾斜付与機構とを備える。
このうちのハウジングは、上記外輪を保持すると共に、この外輪に対して回転力を伝達自在である。
又、上記傾斜付与機構は、この内輪を上記外輪に対して所定角度傾斜させる為のものである。
【0007】
又、請求項3に記載した転がり軸受の特性測定装置は、回転伝達部と、回転駆動部と、測定部とを備える。
このうちの回転伝達部は、転がり軸受への回転力の伝達が自在である。
又、上記回転駆動部は、上記回転伝達部を介してこの転がり軸受を構成する外輪を回転駆動する。
又、上記測定部は、上記転がり軸受の特性を測定する。
特に、請求項3に記載した転がり軸受の特性測定装置の場合、上記回転伝達部が、上述した転がり軸受の特性測定用回転装置であり、上記転がり軸受を構成する内輪を上記外輪に対して傾斜させた状態でこの外輪を回転させた場合に、上記転がり軸受に生じる特性を測定する。
【0008】
又、請求項8に記載した転がり軸受の特性測定方法は、上述した転がり軸受の特性を測定すべく、その一端面が上記外輪の軸方向に直交する仮想平面に対して傾斜したブッシュを、この外輪と同心に配置する。又、これと共に、この一端面を上記内輪の端面に直接若しくは間接に当接させる。この状態で、このブッシュをこの外輪の軸方向に関して上記内輪に向けて押圧する。これにより、この内輪を上記外輪に対して所定角度傾斜させる。そして、上記外輪を回転させた場合に於ける上記転がり軸受の特性を測定する。
【発明の効果】
【0009】
上述の様に構成する本発明の場合には、組み付け誤差等を想定し、内輪を回転輪である外輪に対し傾斜させた状態で、転がり軸受の特性を測定する事が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上述した各発明のうち、請求項1に記載した転がり軸受の特性測定用回転装置を実施する為に好ましくは、請求項2に記載した様に、内輪を外輪に対して所定角度傾斜させる為の傾斜付与機構を、ブッシュと押圧機構とから構成する。
このうちのブッシュは、上記内輪の端面と直接若しくは間接に当接する側の端面が、外輪の軸方向に直交する仮想平面に対し傾斜しており、この外輪と同心に配置されるものである。
又、上記押圧機構は、上記ブッシュを上記外輪の軸方向に関して、上記内輪に向け押圧するものである。
この様に構成すれば、単純な構造で、内輪に対して定量的に、且つ、確実に所定の傾斜角度を付与できる。又、ブッシュの端面の傾斜角度を変える事により、この内輪に付与する傾斜角度を自在に変える事が可能である。
【0011】
又、請求項3に記載した転がり軸受の特性測定装置、或は、請求項8に記載した転がり軸受の特性測定方法を実施する場合に、請求項4或は請求項9に記載した様に、転がり軸受が小径玉軸受であり、測定する特性をこの小径玉軸受単体の動トルクとする。
この様に構成すれば、内輪を傾斜させた場合の小径玉軸受単体の動トルクを精度良く測定する事ができ、組み付け誤差等がこの小径玉軸受の使用許容限界に及ぼす影響を調べる事ができる。
又、上述の様に動トルクを測定する場合に好ましくは、請求項5に記載した様に、測定部を構成し内輪を支持する主軸を、摩擦トルクがほぼ0の静圧気体軸受により回転自在に支持する。そして、外輪を回転させた場合に、この内輪に作用する連れ回りの回転力をこの主軸を介して測定する事により、上記転がり軸受の動トルクを測定する。
この様に構成すれば、転がり軸受の動トルクの測定を高精度に行なう事ができる。即ち、この動トルクの測定は、静圧気体軸受により回転自在に支持された主軸を介して行なわれる為、この主軸の回転時に生じる摩擦抵抗をほぼなくす事ができ、上記動トルクをより正確に測定できる。
【0012】
一方、上記請求項3に記載した転がり軸受の特性測定装置、或は、請求項8に記載した転がり軸受の特性測定方法を実施する場合に、請求項6〜7或は請求項10〜11に記載した様に、測定する特性を、転がり軸受の動トルクに加えて、又は、動トルクとは別に、この転がり軸受の音響特性としても良い。
この様に構成すれば、組み付け誤差等が転がり軸受の音響特性に及ぼす影響を調べる事ができる。
【実施例】
【0013】
図1〜5は、本発明の実施例を示している。本実施例の被測定物である、転がり軸受1は、内周面に外輪軌道2を有する外輪3と、外周面に内輪軌道4を有する内輪5と、これら外輪軌道2と内輪軌道4との間に転動自在に設けられた複数個の転動体6、6とを備える、小径玉軸受である。尚、本明細書及び特許請求の範囲で「小径玉軸受」とは、通常、ファンモータ等に組み込む小径玉軸受(内径が8〜15mm)ばかりでなく、ミニアチュア玉軸受及び比較的小径の単列深溝型玉軸受を含み、内径が1〜15mm(好ましくは5〜10mm)の玉軸受を言うものとする。本実施例の場合、この様に構成される転がり軸受1の動トルクを、上記内輪5に所定の傾斜角度を付与した状態で測定する。この様に転がり軸受1の動トルクを測定する動トルク測定装置7は、ベース8の上部に、回転伝達部9、回転駆動部10、及び、動トルク測定部11を、それぞれ配置して成る。このうちの回転伝達部9は、上記ベース8の上面に固設されたブラケット12により支持されている。又、この回転伝達部9は、中空固定軸13と、プーリ部14と、ハウジング15と、傾斜付与機構18とを備える。
【0014】
上記中空固定軸13は、鉛直方向に配置され、上記ブラケット12の上部に固定されている。この為、この中空固定軸13は、運転時にも回転しない。又、この中空固定軸13の上半部外径側には、上記プーリ部14を、この中空固定軸13と同心に配置し、軸受19、19により回転自在に支持している。このプーリ部14の中間部外周面には、ベルト用溝20を形成しており、後述する回転駆動部10を構成するプーリ21との間にベルト22を掛け渡している。尚、上記プーリ部14を支持する上記軸受19、19は、測定対象である上記転がり軸受1よりも十分大きな剛性を有するものを使用している。
【0015】
又、上記プーリ部14の上面には、上記ハウジング15を複数本のボルト23、23により固設している。このハウジング15の内周面には、上記転がり軸受1を構成する外輪3を内嵌固定する。この為、この外輪3は、このハウジング15と共に回転する。尚、このハウジング15の内周面には段差面46を設け、この外輪3の下端面をこの段差面46に当接させる事により、この外輪3が下方に変位する事を防止している。又、上記ハウジング15の内周面の中心軸は、上記プーリ部14の中心軸と一致させている。この為、上記ハウジング15に内嵌される上記外輪3も、このプーリ部14と同心に配置される。
【0016】
一方、上記中空固定軸13の内径側には、前記動トルク測定部11を構成する主軸16の上半部を鉛直方向に貫通させている。この主軸16は、この中空固定軸13と同心に配置され、この主軸16の中間部外周面とこの中空固定軸13の内周面との間に隙間を介在させている。又、この主軸16は、下半部を断面コ字型で全体を円環状に形成された中空回転軸部24により、上半部を段付円柱状に形成された中実回転軸部45により、それぞれ構成している。これら中実回転軸部45と中空回転軸部24とは、この中実回転軸部45の下端面にこの中実回転軸部45と同心に設けた凸部25と、この中空回転軸部24の上端開口部とを係合させる事により、互いに同心に配置している。そして、上記中実回転軸部45の下端部に設けたフランジ26を、上記中空回転軸24の上面に当接させ、このフランジ26の円周方向複数個所をボルト27により螺合緊締する事により、これら各回転軸部45、24同士を不離に結合している。
【0017】
又、上記中空回転軸部24は、静圧気体軸受17により、上記中空固定軸13に対して回転自在に支持されている。即ち、この中空固定軸13の下部で、上記ブラケット12の内周面と上記中空回転軸部24の外周面との間に、上記静圧気体軸受17を設置している。この為に、この静圧気体軸受17を、ボルト28により、上記中空固定軸13の下部に固設している。又、上記中空回転軸部24の上端部と下端部とには、それぞれフランジ29a、29bを形成しており、これらフランジ29a、29bの内端面を上記静圧気体軸受17の軸方向(図1、2の上下方向)両端面に、更に、上記中空回転軸部24の中間部外周面を上記静圧気体軸受17の内周面に、それぞれ微小隙間を介して対向させている。この静圧気体軸受17は、内周面と軸方向両端面から空気等の気体が噴出する構造を有する。この為、上記中空回転軸部24は、上記静圧気体軸受17により回転自在に支持される。
【0018】
又、上記中実回転軸部45の中間部上端寄りに、小径軸部30を形成している。この小径軸部30は、前記ハウジング15の内径側を鉛直方向に貫通する状態で、このハウジング15と同心に配置されている。又、この小径軸部30は、上記中実回転軸部45の中間部で、外周面が上記中空固定軸13の内周面に対向する部分の外径よりも小径に形成されており、外周面に前記転がり軸受1を構成する内輪5を配置する。従って、測定対象である上記転がり軸受1は、上記ハウジング15の内周面と上記小径軸部30の外周面との間に設置される。尚、上記内輪5は、後述する傾斜付与機構18により傾斜させる為に、上記小径軸部30に緩く嵌合する必要がある。即ち、この内輪5の内周面とこの小径軸部30の外周面との間には、この内輪5が傾斜する事を許容する為の隙間を設ける事が必要である。
【0019】
又、上記中実回転軸部45の上端部寄りで上記小径軸部30の上方には、支持軸部33を形成している。そして、この支持軸部33の周囲には、上記傾斜付与機構18を配置している。この傾斜付与機構18は、ブッシュ31と、押圧機構32とから構成されている。このうちのブッシュ31は、全体を円筒状に形成されており、上記支持軸部33に、この支持軸部33と同心に(傾斜せずに)、且つ、軸方向(図1、2の上下方向)の変位を可能として、ラジアル隙間を僅少に抑えた状態で外嵌されている。又、上記中実回転軸部45をそれぞれ構成する、上記小径軸部30と支持軸部33とは、互いに同心に形成されている。この為、この支持軸部33も上記ハウジング15と同心に配置され、この支持軸部33に外嵌される上記ブッシュ31は、このハウジング15に内嵌される前記外輪3と同心に配置される。
【0020】
又、上記ブッシュ31は、図4に詳示する様に、一端面(図1、2、4の下端面)が、上記外輪3の軸方向に直交する仮想平面αに対し傾斜している。これに対して、他端面(図1、2、4の上端面)は、この仮想平面αと平行に形成している。尚、上記一端面の傾斜角度θは、0〜3度程度とする。又、例えば、下記の表1に示す様に、傾斜角度θがそれぞれ異なるブッシュを複数個(本実施例の場合には10個)用意すれば、ブッシュを交換するだけで、前記内輪5に付与する傾斜角度を調整できる。
【0021】
【表1】

【0022】
又、上記押圧機構32は、円筒状に形成されたばね受け部材34と、ばね35とから構成される。このうちのばね受け部材34は、上記支持軸部33の上端寄り部分にねじ36の緊締により軸方向の変位を阻止した状態で固定されている。そして、このばね受け部材34の下端面と上記ブッシュ31の他端面との間に上記ばね35を配置して、このブッシュ31に鉛直方向に関して下方に向く力を付与している。尚、この鉛直方向と外輪3の中心軸の方向とは一致する。又、上記ブッシュ31の一端面と上記内輪5の上端面との間には、ワッシャ37を設置している。このワッシャ37は、前記小径軸部30の上端部に緩く嵌合している。従ってこのワッシャ37は、この小径軸部30の軸方向に関して変位可能である。尚、このワッシャ37は省略する事もできる。この場合には、上記ブッシュ31の一端面と上記内輪5の上端面とを直接当接させる。
【0023】
上述の様に、ブッシュ31と内輪5との間にワッシャ37を設ける事により、このブッシュ31に付与された下方に向く力が、このワッシャ37を介してこの内輪5に加わる。この内輪5に加わる力は、上記内輪5を傾斜させると共にこの内輪5に軸方向荷重として作用する。即ち、上記ブッシュ31と内輪5との間に設置された上記ワッシャ37は、両側面がこのブッシュ31の一端面とこの内輪5の上端面とにそれぞれ当接する。この為、本実施例の場合には、上記ワッシャ37の両側面の平面度を良好に仕上げて、これら両側面同士の平行度を良好にしている。従って、このワッシャ37の板厚寸法は、円周方向に関して殆ど変動しない(全周に亙り厚さが均一である)。そして、このワッシャ37の上面に上記ブッシュ31の一端面を当接させた状態でこのブッシュ31を下方に押圧する事により、このワッシャ37がこのブッシュ31の一端面の傾斜に沿って傾斜する。又、これに伴い、このワッシャ37の下面と当接する上記内輪5の上端面も傾斜する。このワッシャ37の円周方向に関する板厚寸法の変動は殆どないので、上記内輪5の上端面は、上記ブッシュ31の一端面の傾斜とほぼ同じ角度で傾斜する。この結果、上記内輪5の中心軸が、このブッシュ31の一端面の傾斜に応じて前記外輪3の中心軸に対して傾斜する。
【0024】
又、上述の様にワッシャ37を介して上記傾斜付与機構18から上記内輪5に加わる下向きの力は、この内輪5に対する軸方向荷重となる。従って、前記転がり軸受1は、予圧を付与された状態となる。尚、上記傾斜付与機構18を構成するばね35を交換したり、その圧縮量を変える等により、上記内輪5に負荷する軸方向荷重を変化させる事もできる。従って、本実施例の場合には、この内輪5の傾斜角度及びこの内輪5に負荷する軸方向荷重をそれぞれ変化させて、種々の条件で上記転がり軸受1(小径玉軸受単体)の動トルクの測定が可能である。
【0025】
又、前述した様に、上記内輪5の傾斜角度は、一端面の傾斜角度が異なるブッシュ31を複数個用意する事により調節可能であるが、本実施例の場合には、実際に上記内輪5の傾斜角度を確認できる構造としている。この為に、上記傾斜付与機構18の上方に、2個のレーザ式の微小変位計38、38を設置している(図2)。これら微小変位計38、38のレーザ光線は、上記ワッシャ37の上面外径寄りに照射される。この為、このワッシャ37の外径は、上記ブッシュ31及びばね受け部材34の外径よりも大きくしている。この様に、微小変位計38、38のレーザ光線を、上記ワッシャ37の外径寄り部分に照射する事により、このワッシャ37を介して上記内輪5の傾斜角度を測定自在としている。
【0026】
具体的に説明すると、上記微小変位計38、38は、上記ワッシャ37の上側面のうちの、このワッシャ37の円周方向に関して互いに180度ずれた(点対称の)位置P1 、P2 (図3)にレーザ光線を照射して、これら位置P1 、P2 に於ける軸方向の変位(振れ)を測定する。これら位置P1 、P2 は、上記小径軸部30の中心軸からの径方向距離が同一である(この小径軸部30の中心軸をその中心とする同一円弧上に存在する)。この様にワッシャ37の上側面の位置P1 、P2 にレーザ光線を照射した状態で、前記主軸16を(例えば手動により)1回転させる。そして、上記ワッシャ37の全周に亙って、上記各位置P1 、P2 に於ける軸方向の微小変位を測定する。そして、これら各位置P1 、P2 に於ける微小変位の絶対値の最大値をそれぞれ求めて演算処理する事により、上記ワッシャ37、延いては、前記外輪3に対する上記内輪5の傾斜角度を正確に求める事ができ、この傾斜角度が所望の角度であるか否かを確認できる。
【0027】
又、本実施例の場合、上述の様に傾斜付与機構18により内輪5を所定角度傾斜させた状態で、前記回転駆動部10により、前記回転伝達部9を介して外輪3を回転駆動する。即ち、この回転駆動部10は、前記ベース8の上面にモータ用ブラケット39に支持されたモータ40と、このモータ40により回転駆動される前記プーリ21とから構成される。このプーリ21の外周面には、前述した様に、上記回転伝達部9を構成するプーリ部14との間にベルト22を掛け渡している。この為、上記モータ40を回転駆動する事により、上記プーリ21及びベルト22を介してプーリ部14が回転する。そして、このプーリ部14の上面に固定した前記ハウジング15を介して上記外輪3を回転駆動する。
【0028】
上述の様に外輪3を回転駆動した場合、上記内輪5に連れ回ろうとする回転力(動トルク)が発生する。本実施例の場合、この動トルクを、前記動トルク測定部11により測定する。この動トルク測定部11は、前記主軸16と、この主軸16の下端部に設けられた揺動腕41と、この揺動腕41を介して伝達されるトルクを検出自在なトルクセンサ42とから成る。このトルクセンサ42は、前記ブラケット12の側面に設置されたアダプタ43に取り付けられている。又、上記揺動腕41は、上記主軸16の下端部に形成されたフランジ26の円周方向一部に固設され、前記中空固定軸13の円周方向一部に開口された長孔44から突出している。この長孔44は、この中空固定軸13の中心軸を起点として約90度の扇形状に開口されている。従って、上記揺動腕41は、この長孔44の開口範囲内で揺動・旋回が可能である。
【0029】
上記連れ回りによる回転力により上記内輪5が回転する傾向となると、この内輪5を外嵌した前記小径軸部30により構成する主軸16を介して、この内輪5に作用する回転力が上記揺動腕41に伝達される。そして、この揺動腕41が上記内輪5の回転方向と同方向に旋回する傾向となる。従って、この揺動腕41が旋回する力を、上記トルクセンサ(荷重センサ)42で検出する事により、上記内輪5に作用する回転力、即ち、転がり軸受1(小径玉軸受単体)の動トルクとして測定できる。
【0030】
又、本実施例の場合、上記主軸16を構成する前記中空回転軸部24を、前記中空固定軸13に対して静圧気体軸受17により回転自在に支持している。この為、この主軸16は、摩擦抵抗がほぼ0の状態で回転自在に支持される。従って、本実施例の場合には、上記転がり軸受1の動トルクの測定を支持軸受装置の摩擦抵抗が殆どない状態で行なえ、この動トルクの測定を高精度に行なえる。
【0031】
又、本実施例の場合には、上記内輪5に軸方向荷重を負荷すると共に、所定の傾斜角度を付与した状態で上記動トルクの測定が可能である。即ち、本実施例の場合、この内輪5に対して前記傾斜付与機構18により下方に向く力を負荷した状態で、前記外輪3を回転させている。又、この傾斜付与機構18を構成するブッシュ31の、上記内輪5の上端面と当接する、一端面を傾斜させている為、この内輪5は所定の角度傾斜する。従って、本実施例の場合には、この内輪5に軸方向荷重を負荷すると共に、組み付け誤差等を想定して、この内輪5を上記外輪3に対し傾斜させた状態で、上記転がり軸受1の動トルクを測定する事が可能である。
【0032】
又、本実施例の場合には、上記一端面を傾斜させたブッシュ31をワッシャ37を介して上記内輪5の上端面に押し付ける事により、この内輪5を傾斜させている為、この内輪5がこのブッシュ31の上記一端面の傾斜角度に応じて傾斜する。この為、この内輪5を定量的、且つ、確実に傾斜させる事ができる。
【0033】
上述の様に構成され作用する本実施例の場合には、転がり軸受1の使用限界に於ける内輪5の傾き量を把握でき、組み付け誤差等が転がり軸受の使用許容限界に及ぼす影響を調べる事ができる。従って、本実施例の構造は、組み付け誤差の許容限界を判断する為の基準を求める為の1つの手段となり得る。
【0034】
尚、本実施例の場合、上述した動トルクの測定に加え、又は、動トルクの測定とは別に、転がり軸受1の音響特性を測定する事もできる。即ち、この転がり軸受1の近傍に、マイクロフォン等の音響測定装置を設置して、内輪5を傾斜させた状態で外輪3を回転させた時に、上記転がり軸受1に発生する騒音を測定する。これにより、組み付け誤差等が、軸受音の発生状況及び騒音レベル等の音響特性に及ぼす影響を調べる事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施例の転がり軸受の動トルク測定装置を示す断面図。
【図2】図1のA部拡大図。
【図3】一部を省略して図2の上方から見た図。
【図4】本実施例の転がり軸受の動トルク測定装置に組み込むブッシュの断面図。
【図5】図4の下方から見た図。
【符号の説明】
【0036】
1 転がり軸受
2 外輪軌道
3 外輪
4 内輪軌道
5 内輪
6 転動体
7 動トルク測定装置
8 ベース
9 回転伝達部
10 回転駆動部
11 動トルク測定部
12 ブラケット
13 中空固定軸
14 プーリ部
15 ハウジング
16 主軸
17 静圧気体軸受
18 傾斜付与機構
19 軸受
20 ベルト用溝
21 プーリ
22 ベルト
23 ボルト
24 中空回転軸部
25 凸部
26 フランジ
27 ボルト
28 ボルト
29a、29b フランジ
30 小径軸部
31 ブッシュ
32 押圧機構
33 支持軸部
34 ばね受け部材
35 ばね
36 ねじ
37 ワッシャ
38 微小変位計
39 モータ用ブラケット
40 モータ
41 揺動腕
42 トルクセンサ
43 アダプタ
44 長孔
45 中実回転軸部
46 段差面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道を有する外輪と、外周面に内輪軌道を有する内輪と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けた複数個の転動体とを備えた転がり軸受の特性を測定すべく、この転がり軸受に回転力を伝達する、転がり軸受の特性測定用回転装置であって、上記外輪を保持すると共に、この外輪に対して回転力を伝達自在なハウジングと、上記内輪をこの外輪に対して所定角度傾斜させる為の傾斜付与機構とを備えた、転がり軸受の特性測定用回転装置。
【請求項2】
内輪を外輪に対して所定角度傾斜させる為の傾斜付与機構が、この内輪の端面と直接若しくは間接に当接する側の端面が外輪の軸方向に直交する仮想平面に対して傾斜しており、この外輪と同心に配置されるブッシュと、このブッシュをこの外輪の軸方向に関して、上記内輪に向け押圧する押圧機構とから成る、請求項1に記載した転がり軸受の特性測定用回転装置。
【請求項3】
転がり軸受に回転力の伝達が自在である回転伝達部と、この回転伝達部を介してこの転がり軸受を構成する外輪を回転駆動する回転駆動部と、この転がり軸受の特性を測定する測定部とを備えた転がり軸受の特性測定装置であって、上記回転伝達部が、請求項1〜2の何れかに記載した転がり軸受の特性測定用回転装置であり、上記転がり軸受を構成する内輪を上記外輪に対して傾斜させた状態でこの外輪を回転させた場合に、上記転がり軸受に生じる特性を測定する転がり軸受の特性測定装置。
【請求項4】
転がり軸受が小径玉軸受であり、測定する特性がこの小径玉軸受単体の動トルクである、請求項3に記載した転がり軸受の特性測定装置。
【請求項5】
測定部を構成し内輪を支持する主軸が、静圧気体軸受により回転自在に支持されており、外輪を回転させた場合に、この内輪に作用する連れ回りの回転力をこの主軸を介して測定する事により、上記転がり軸受の動トルクを測定する、請求項4に記載した転がり軸受の特性測定装置。
【請求項6】
転がり軸受の動トルクに加えて、この転がり軸受の音響特性を測定する、請求項4〜5の何れかに記載した転がり軸受の特性測定装置。
【請求項7】
測定する特性が転がり軸受の音響特性である、請求項3に記載した転がり軸受の特性測定装置。
【請求項8】
内周面に外輪軌道を有する外輪と、外周面に内輪軌道を有する内輪と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けた複数個の転動体とを備えた転がり軸受の特性を測定すべく、その一端面が上記外輪の軸方向に直交する仮想平面に対して傾斜したブッシュを、この外輪と同心に配置すると共に、この一端面を上記内輪の端面に直接若しくは間接に当接させた状態で、このブッシュをこの外輪の軸方向に関して上記内輪に向けて押圧する事により、この内輪を上記外輪に対して所定角度傾斜させ、この外輪を回転させた場合に於ける上記転がり軸受の特性を測定する、転がり軸受の特性測定方法。
【請求項9】
転がり軸受が小径玉軸受でり、測定する特性がこの小径玉軸受単体の動トルクである、請求項8に記載した転がり軸受の特性測定方法。
【請求項10】
転がり軸受の動トルクに加えて、この転がり軸受の音響特性を測定する、請求項9に記載した転がり軸受の特性測定方法。
【請求項11】
測定する特性が転がり軸受の音響特性である、請求項8に記載した転がり軸受の特性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−105894(P2006−105894A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−295957(P2004−295957)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】