説明

転がり軸受ユニットの状態量測定装置

【課題】状態量の算出を行なう演算器を転がり軸受ユニットと一体に設けた場合にも、自動車への組み付け状態で、上記演算器が、雨水、泥水、塵芥、及び高熱等に曝らされて故障すると言った事態を回避できる構造を実現する。
【解決手段】上記演算器である電子回路基板10を、外輪1の軸方向内端開口を塞ぐ為にこの軸方向内端部に固定した有底円筒状のカバー5aの内側に配置する。又、上記電子回路基板10の周囲を、センサホルダ9aと熱硬化性樹脂23等とにより覆う。この様な構造を採用する事により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係る転がり軸受ユニットの状態量測定装置は、転がり軸受ユニットを構成する外輪とハブとの間に作用する外力等の状態量を測定する為に利用する。更に、この求めた状態量を、自動車等の車両の走行安定性確保を図る為に利用する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の車輪は懸架装置に対し、複列アンギュラ型等の転がり軸受ユニットにより回転自在に支持する。又、自動車の走行安定性を確保する為に、例えばアンチロックブレーキシステム(ABS)やトラクションコントロールシステム(TCS)、更には、電子制御式ビークルスタビリティコントロールシステム(ESC)等の車両用走行安定化装置が使用されている。この様な各種車両用走行安定化装置を制御する為には、車輪の回転速度、車体に加わる各方向の加速度等を表す信号が必要になる。そして、より高度の制御を行なう為には、車輪を介して上記転がり軸受ユニットに加わる荷重(例えばラジアル荷重とアキシアル荷重との一方又は双方)の大きさを知る事が好ましい場合がある。
【0003】
この様な事情に鑑みて、特許文献1には、特殊なエンコーダを使用して、転がり軸受ユニットに加わる荷重の大きさを測定する発明が記載されている。図4は、この特許文献1に記載された構造と同じ荷重の測定原理を採用している、転がり軸受ユニットの状態量測定装置に関する従来構造の1例を示している。この従来構造は、使用時にも回転しない外輪1の内径側に、使用時に車輪を支持固定した状態でこの車輪と共に回転するハブ2を、複数個の転動体3、3を介して、回転自在に支持している。これら各転動体3、3には、背面組み合わせ型の接触角と共に、予圧を付与している。尚、図示の例では、これら各転動体3、3として玉を使用しているが、重量が嵩む自動車用の軸受ユニットの場合には、玉に代えて円すいころを使用する場合もある。
【0004】
又、上記ハブ2の軸方向内端部(軸方向に関して「内」とは、自動車への組付け状態で車両の幅方向中央側を言い、図1〜4の右側。反対に、車両の幅方向外側となる、図1〜4の左側を、軸方向に関して「外」と言う。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)には、円筒状のエンコーダ4を、上記ハブ2と同心に支持固定している。又、上記外輪1の軸方向内端開口を塞ぐ有底円筒状のカバー5の内側に、合成樹脂製のセンサホルダ9を介して1対のセンサ6a、6bを支持固定すると共に、これら両センサ6a、6bの検出部を、上記エンコーダ4の被検出面である外周面に近接対向させている。このエンコーダ4は、芯金7とエンコーダ本体8とを組み合わせて成る。このうちの芯金7は、軟鋼板等の磁性金属板により、断面クランク形で全体を段付円筒状に構成している。又、上記エンコーダ本体8は、上記芯金7のうちで大径側部分の外周面の全周に円筒状の未着磁の磁性部材を添着固定した後、この磁性部材に着磁する事により構成している。
【0005】
被検出面である、上記エンコーダ本体8の外周面には、S極とN極とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔で配置している。円周方向に隣り合うS極とN極との境界は、上記外周面の軸方向に対して所定方向に所定角度で漸次変化している。又、変化する方向は、この外周面の軸方向片半部と他半部とで、互いに逆にしている。従って、上記S極と上記N極とは、軸方向中央部が円周方向に関して最も突出した、「く」字形となっている。
【0006】
又、上記両センサ6a、6bの検出部には、ホールIC、ホール素子、MR素子、GMR素子等の磁気検知素子を組み込んでいる。そして、これら両センサ6a、6bのうち、一方のセンサ6aの検出部を上記エンコーダ本体8の外周面の軸方向片半部に、他方のセンサ6bの検出部を同じく軸方向他半部に、それぞれ近接対向させている。上記外輪1と上記ハブ2との間にアキシアル荷重が作用しない状態で、上記S極と上記N極との軸方向中央部で円周方向に関して最も突出した部分が、上記両センサ6a、6bの検出部同士の間の丁度中央位置に存在する様に、各部材の軸方向の設置位置を規制している。同じ状態で、上記両センサ6a、6bの検出部と、上記エンコーダ本体8の外周面の変化の位相との関係が所定通りになる様に、上記両センサ6a、6bの円周方向の設置位置を規制している。
【0007】
上述の様に構成する転がり軸受ユニットの状態量測定装置の場合、上記外輪1とハブ2との間にアキシアル荷重が作用すると、上記両センサ6a、6bの出力信号が変化する位相がずれる。即ち、上記外輪1とハブ2との間にアキシアル荷重が作用しておらず、これら外輪1とハブ2とが相対変位していない、中立状態では、上記両センサ6a、6bの検出部は、上記エンコーダ4の外周面で、上記最も突出した部分から軸方向に同じだけずれた部分に対向する。従って、上記両センサ6a、6bの出力信号の位相は、上記所定の関係により定まる通り、一致若しくは所定値だけずれる。これに対し、上記エンコーダ4を固定したハブ2にアキシアル荷重が作用した場合には、上記両センサ6a、6bの検出部は、このアキシアル荷重の作用方向に応じた方向に、このアキシアル荷重の大きさに応じた分だけずれた部分に対向する。この状態では上記両センサ6a、6bの出力信号の位相は、上記アキシアル荷重の作用方向に応じた方向に、このアキシアル荷重の大きさに応じた分だけずれる。
【0008】
この様に、上述した従来構造の場合には、上記両センサ6a、6bの出力信号の位相が、上記外輪1とハブ2との間に加わるアキシアル荷重の作用方向(これら外輪1とハブ2とのアキシアル方向の相対変位の方向)に応じた向きにずれる。又、このアキシアル荷重(相対変位)により上記両センサ6a、6bの出力信号の位相がずれる程度は、このアキシアル荷重(相対変位)が大きくなる程大きくなる。従って、上記両センサ6a、6bの出力信号の位相ずれの有無、ずれが存在する場合にはその向き及び大きさに基づいて、上記外輪1とハブ2とのアキシアル方向の相対変位の向き及び大きさ、並びに、これら外輪1とハブ2との間に作用しているアキシアル荷重の作用方向及び大きさを求められる。尚、上記両センサ6a、6bの出力信号同士の間に存在する位相差に基づいて上記アキシアル方向の相対変位及び荷重を算出する処理は、図示しない演算器により行なう。この為、この演算器のメモリ中には、予め理論計算や実験により調べておいた、上記位相差と、上記アキシアル方向の相対変位又は荷重との関係(零点及びゲイン)を表す、式やマップを記憶させておく。
【0009】
尚、上述した従来構造の1例の場合には、エンコーダの被検出面にその検出部を対向させるセンサの数を、2個としている。これに対し、図示は省略するが、特許文献2〜3及び特願2006−345849には、当該センサの数を3個以上とする事で、多方向の変位或は外力を求められる構造が記載されている。
【0010】
ところで、上述の図4に示した従来構造、及び、上記特許文献2〜3及び特願2006−345849に記載された構造の場合には、外輪1とハブ2との間の状態量(相対変位、外力)を算出する、図示しない演算器を、転がり軸受ユニットと別体にする構成を採用している。この様な構成を採用する場合には、自動車への組み付け時に、上記演算器を、車体の一部で上記転がり軸受ユニットから離隔した部分に設置する。これに対し、上記演算器を、上記転がり軸受ユニットと一体にする構成を採用すれば、これら演算器と転がり軸受ユニットとの、出荷時や自動車への組み付け時の取り扱い性を向上させる事ができる。例えば、各転がり軸受ユニット毎に異なる、前記両センサ6a、6bの出力信号同士の間の位相差と上記状態量との関係である、零点とゲインとを上記演算器のメモリ中に記憶させる作業が容易になる。
【0011】
ところが、上記転がり軸受ユニットは、雨水、泥水、塵芥等に曝らされる、非清浄空間に設置される。又、上記転がり軸受ユニットを構成するハブ2の軸方向外端部には、車輪と共に、制動装置を構成するブレーキディスク等の制動用回転部材を支持固定する。即ち、上記転がり軸受ユニットは、制動時に発生する摩擦熱(高熱)の発生源近傍に配置される。これに対し、上記演算器は、雨水、泥水、塵芥、及び高温等に弱く、これらに曝らされると故障して、状態量の演算を行なえなくなる可能性がある。この為、上記演算器を上記転がり軸受ユニットと一体的に構成する場合には、自動車への組み付け状態で、この演算器が、雨水、泥水、塵芥、及び高温等に曝らされて故障すると言った事態を回避できる構造を実現する必要がある。
【0012】
【特許文献1】特開2006−317420号公報
【特許文献2】特開2006−322928号公報
【特許文献3】特開2007−93580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の転がり軸受ユニットの状態量測定装置は、上述の様な事情に鑑み、状態量の算出を行なう演算器を転がり軸受ユニットと一体に設けた場合にも、自動車への組み付け状態で、この演算器が、雨水、泥水、塵芥、及び高熱等に曝らされて故障すると言った事態を回避できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の転がり軸受ユニットの状態量測定装置は、転がり軸受ユニットと、状態量測定装置とを備える。
このうちの転がり軸受ユニットは、内周面に複列の外輪軌道を有し、使用時に車両の懸架装置に結合固定した状態で回転しない外輪と、外周面に複列の内輪軌道を有し、使用時に車輪及び制動用回転部材を軸方向外端部に支持固定した状態で回転するハブと、上記両列の外輪軌道と上記両列の内輪軌道との間に、両列毎に複数個ずつ転動自在に設けられた転動体とを備える。
又、上記状態量測定装置は、エンコーダと、少なくとも1個のセンサと、演算器とを備える。
このうちのエンコーダは、上記ハブの軸方向内端部に、このハブと同心に支持固定されたもので、このハブと同心の被検出面を備え、この被検出面の特性を円周方向に関して交互に変化させている。
又、上記センサは、検出部を上記エンコーダの被検出面に対向させた状態で、上記外輪の軸方向内端部開口を塞ぐ為にこの軸方向内端部に固定した有底円筒状のカバー内に、合成樹脂製のセンサホルダを介して保持されていて、上記被検出面の特性変化に対応して出力信号を変化させる。
又、上記演算器は、上記センサの出力信号に基づいて、上記外輪と上記ハブとの間の相対変位と、これら外輪とハブとの間に作用する外力とのうちの、少なくとも一方の状態量を算出する機能を有する。
特に、本発明の転がり軸受ユニットの状態量測定装置に於いては、上記演算器を、上記状態量を算出する機能を有する電子回路基板とし、且つ、この電子回路基板を、上記センサホルダと共に上記カバー内に保持している。
【0015】
上述の様な発明を実施する場合に、好ましくは、請求項2に記載した様に、上記カバーを金属製とし、上記電子回路基板を、このカバー内の軸方向内端部に(より好ましくは、このカバーを構成する底板部に接触させた状態で)配置する。
より好ましくは、請求項3に記載した様に、上記電子回路基板を、上記カバーと上記センサホルダとにより周囲を囲まれた空間内に配置する。
更に好ましくは、請求項4に記載した様に、上記電子回路基板の表面を、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂により覆う。
【発明の効果】
【0016】
上述の様に構成する本発明の転がり軸受ユニットの状態量測定装置の場合には、演算器である電子回路基板を、外輪の軸方向内端部開口を塞ぐ為にこの軸方向内端部に固定したカバー内に保持している。この為、上記電子回路基板が、雨水、泥水、塵芥等に曝らされる事を有効に防止できる。又、上記カバーの固定個所である、上記外輪の軸方向内端部は、制動用回転部材の固定個所である、ハブの軸方向外端部から、軸方向に十分に離れている。この為、制動時に上記制動用回転部材で発生した摩擦熱が上記電子回路基板に及ぼす影響を少なくできる。従って、本発明の場合には、演算器である電子回路基板を転がり軸受ユニットと一体に設けた構造でありながら、この電子回路基板が、雨水、泥水、塵芥、及び高熱等に曝らされる事を有効に防止できる。
【0017】
又、請求項2に記載した構造を採用する場合には、上記電子回路基板を上記カバー内の軸方向内端部に配置する為、状態量の演算を行なう事に伴って発熱する、上記電子回路基板の放熱性を良好にできる。即ち、上記カバー内のうちの、軸方向内端部は、軸方向外端部乃至中間部に比べて、外部空間に近い部分である。この為、上記電子回路基板の放熱性を良好にできる。又、請求項2に記載した構造を採用する場合に、上記電子回路基板を、金属製である、上記カバーを構成する底板部に接触させた状態で配置すれば、この電子回路基板からこの底板部への熱伝導が良好に行なわれて、この電子回路基板の放熱性が十分に良好になると共に、上記電子回路基板と上記制動用回転部材との間隔が十分に広くなって、この制動用回転部材で発生した摩擦熱が上記電子回路基板に及ぼす影響を十分に少なくできる。
【0018】
又、請求項3〜4に記載した構造を採用すれば、仮に、上記外輪と上記カバーとの嵌合部を通じて、このカバー内に水が侵入した場合でも、上記電子回路基板の防水性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[実施の形態の第1例]
図1は、請求項1、2、4に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の特徴は、演算器である、状態量の算出機能を有する電子回路基板10を、転がり軸受ユニットと一体的に(カバー5aを介して結合した状態で)設ける点にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図4に示した従来構造の場合とほぼ同様である。この為、同等部分には同一符号を付して、重複する説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分、並びに、上記従来構造と異なる部分を中心に説明する。
【0020】
本例の場合、金属板製のカバー5aの内側に保持する合成樹脂製のセンサホルダ9aは、軸方向中間部に存在する円板部11と、この円板部11の外周縁部分から軸方向外方に突出する円筒状部12と、上記円板部11の軸方向内側面の中央部から軸方向内方に突出する、段付円筒状の外周面を有するコネクタ部13とを備える。この様なセンサホルダ9aは、上記コネクタ部13の先端部乃至中間部(小径部)を、上記カバー5aを構成する底板部14の中央部に設けた通孔15を通じて、このカバー5aの外側(軸方向内側)に突出させると共に、上記円板部11の軸方向内側面のうち上記コネクタ部13の周囲部分を、上記底板部14の内面(軸方向外側面)に接触させた状態で、上記円筒状部12を、上記カバー5aを構成する円筒状部16にがたつきなく内嵌している。又、この状態で、上記コネクタ部13の基端部(大径部)外周面に形成した係止凹溝17に係止したOリング18を、上記通孔15の周囲に存在する円筒部19の内周面に弾性的に当接させる事により、この円筒部19の内周面と上記コネクタ部13の外周面との間の水密を保持している。これと共に、上記センサホルダ9aを構成する円板部11及び円筒状部12と、上記カバー5aを構成する底板部14及び円筒状部16との接触部を、それぞれ接着固定している。
【0021】
又、上記センサホルダ9aを構成する円筒状部12には、1対のセンサ6a、6b、及び、これら各センサ6a、6bにそれぞれ複数本ずつ接続したセンサリード(導体)20、20を包埋している。又、上記センサホルダ9aを構成する円板部11の径方向外端部には、複数本の中継リード(導体)21の先端部乃至中間部を包埋すると共に、これら各中継リード21の先端部を、それぞれ上記各センサリード20、20の先端部に導通させている。この状態で、上記各中継リード21の基端部は、それぞれ上記円板部11の軸方向外側面の径方向外端部から軸方向に突出させている。又、上記センサホルダ9aを構成するコネクタ部13及び円板部11の径方向中央寄り部分には、複数本のコネクタリード(導体端子)22、22の中間部を包埋している。この状態で、これら各コネクタリード22、22の基端部を、それぞれ上記円板部11の軸方向外側面の径方向中央寄り部分から軸方向に突出させている。
【0022】
又、本例の場合には、演算器として機能する電子回路基板10を、上記カバー5aの内側の軸方向内端部に保持している。具体的には、この電子回路基板10を、上記センサホルダ9aの内側の奥端部にがたつきなく内嵌すると共に、このセンサホルダ9aを構成する円板部11に対し、ねじ止め等により固定している。又、この状態で、上記各中継リード21の基端部、及び、上記各コネクタリード22、22の基端部を、それぞれ上記電子回路基板10に対し、ハンダ付け等により電気的に接続している。これにより、上記各センサリード20、20及び上記各中継リード21のうちの一部のリードを通じて、上記各センサ6a、6bの出力信号を上記電子回路基板10に送信可能とし、且つ、上記各コネクタリード22、22のうちの一部のリードを通じて、上記電子回路基板10で算出した状態量を(必要に応じて上記各センサ6a、6bの出力信号と共に)車体側のABSコントローラ等に送信可能としている。これと共に、上記各コネクタリード22、22のうちの他の一部のリード、並びに、上記各中継リード21及び上記各センサリード20、20のうちの他の一部のリードを通じて、それぞれ上記電子回路基板10及び上記各センサ6a、6bに対し、必要な電力の供給を可能としている。
【0023】
又、本例の場合には、上述の様に電子回路基板10をセンサホルダ9aの内側に設置した後、この電子回路基板10の軸方向外側面に、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂23を被覆している。尚、本例の場合、転がり軸受ユニットを構成するハブ2aの中心部には、この中心部を軸方向に貫通する中心孔24を設けている。この為、この中心孔24を通じて上記カバー5aの内側に異物が侵入する事を防止すべく、この中心孔24の軸方向外端部にキャップ25を装着して、この軸方向外端開口を塞いでいる。
【0024】
上述の様に本例の転がり軸受ユニットの状態量測定装置の場合には、演算器である電子回路基板10を、外輪1の軸方向内端部開口を塞ぐ為にこの軸方向内端部に固定したカバー5aの内側に保持している。この為、上記電子回路基板10が、雨水、泥水、塵芥等に曝らされる事を有効に防止できる。又、本例の場合には、この電子回路基板10の軸方向外側面を、熱硬化性樹脂23により覆っている。この為、仮に、上記外輪1と上記カバー5aとの嵌合部、或はハブ2aとキャップ25との嵌合部を通じて、このカバー5aの内側に水が侵入した場合でも、上記電子回路基板10の防水性を確保できる。又、上記カバー5aの固定個所である、上記外輪1の軸方向内端部は、ブレーキディスク等の制動用回転部材の固定個所である、ハブ2aの軸方向外端部から、軸方向に十分に離れている。しかも本例の場合には、上記カバー5aの内側のうちで、上記制動用回転部材の固定個所から軸方向に最も離れた軸方向位置である、軸方向内端部に、上記電子回路基板10を配置している。この為、制動時に上記制動用回転部材で発生した摩擦熱が上記電子回路基板10に及ぼす影響を十分に少なくできる。従って、本例の場合には、演算器である電子回路基板10を転がり軸受ユニットと一体に設けた構造でありながら、この電子回路基板10が、雨水、泥水、塵芥、及び高熱等に曝らされる事を有効に防止できる。
【0025】
又、本例の場合には、上述した様に、上記電子回路基板10を上記カバー5aの内側の軸方向内端部に配置する為、状態量の演算を行なう事に伴って発熱する、上記電子回路基板10の放熱性を良好にできる。即ち、上記カバー5aの内側のうちの、軸方向内端部は、軸方向外端部乃至中間部に比べて、外部空間に近い部分である。この為、上記電子回路基板10の放熱性を良好にできる。
【0026】
[実施の形態の第2例]
図2は、請求項1〜4に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合、センサホルダ9bを構成する円板部11aの軸方向外側面のうち、コネクタ部13の周囲部分に、円環状の凹部26を形成している。そして、この凹部26の内側部分、即ち、図示の様に上記センサホルダ9bをカバー5bの内側に組み付けた状態で、これらセンサホルダ9bとカバー5bとにより周囲を囲まれた部分に、演算器である電子回路基板10aを配置している。そして、この状態で、この電子回路基板10aに対し、複数本のセンサリード20、20の端部と、図示しない複数本のコネクタリードの端部とを、それぞれハンダ付け等により電気的に接続すると共に、上記電子回路基板10aを上記円板部11aに対し、ねじ止め等により固定している。更に、この電子回路基板10aの軸方向内側面に、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂23aを被覆している。
【0027】
上述の様に、本例の転がり軸受ユニットの状態量測定装置の場合には、電子回路基板10aを、センサホルダ9bとカバー5bとにより周囲を囲まれた部分に配置している。この為、仮に、外輪1と上記カバー5bとの嵌合部を通じてこのカバー5bの内側に水が侵入した場合でも、上記電子回路基板10aの防水性を十分に確保できる。又、本例の場合には、上記電子回路基板10aを、上記カバー5bを構成する底板部14に隣接した部分に配置している。この為、上記電子回路基板10aで発生した熱を、上記底板部14を通じて外部空間に放出し易くできる。即ち、上記電子回路基板10aの放熱性を十分に良好にできる。その他の部分の構造及び作用は、上述した第1例の場合とほぼ同様である為、同等部分には同一符号を付して重複する図示並びに説明は省略する。
【0028】
[実施の形態の第3例]
図3も、請求項1〜4に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、センサホルダ9cの円板部11bに形成した凹部26aの底面の径方向外端部に、より深い第二の凹部27を形成している。これと共に、1対のセンサ6a、6bと電子回路基板10aとの間に接続した複数本のセンサリード20a、20aの一部分で、上記第二の凹部27の内側に存在する部分を、軸方向に関する若干の伸張を可能とした伸張可能部28としている。本例の場合には、この伸張可能部28として、軸方向中間部が軸方向両側部分に対して傾斜した構造を採用している。そして、この様な構成を採用する事により、上記センサホルダ9cが熱膨張して、上記両センサ6a、6bと上記電子回路基板10aとの間隔が軸方向に広がった場合に、上記各センサリード20a、20aの伸張可能部28が伸張して、これら各センサリード20a、20aの内部に発生する引張応力を緩和できる様にしている。又、本例の場合には、カバー5cの円筒部19の内周面側に、Oリング18を係止している。その他の部分の構造及び作用は、上述した第2例の場合とほぼ同様である為、同等部分には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す断面図。
【図2】同第2例を示す、要部拡大図。
【図3】同第3例を示す、要部拡大図。
【図4】転がり軸受ユニットの状態量測定装置の従来構造の1例を示す断面図。
【符号の説明】
【0030】
1 外輪
2、2a ハブ
3 転動体
4 エンコーダ
5、5a、5b、5c カバー
6a、6b センサ
7 芯金
8 エンコーダ本体
9、9a〜9c センサホルダ
10、10a 電子回路基板
11、11a、11b 円板部
12 円筒状部
13 コネクタ部
14 底板部
15 通孔
16 円筒状部
17 係止凹溝
18 Oリング
19 円筒部
20、20a センサリード
21 中継リード
22 コネクタリード
23、23a 熱硬化性樹脂
24 中心孔
25 キャップ
26、26a 凹部
27 第二の凹部
28 伸張可能部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受ユニットと、状態量測定装置とを備え、
このうちの転がり軸受ユニットは、内周面に複列の外輪軌道を有し、使用時に車両の懸架装置に結合固定した状態で回転しない外輪と、外周面に複列の内輪軌道を有し、使用時に車輪及び制動用回転部材を軸方向外端部に支持固定した状態で回転するハブと、上記両列の外輪軌道と上記両列の内輪軌道との間に、両列毎に複数個ずつ転動自在に設けられた転動体とを備えたものであり、
上記状態量測定装置は、エンコーダと、少なくとも1個のセンサと、演算器とを備えたものであって、
このうちのエンコーダは、上記ハブの軸方向内端部にこのハブと同心に支持固定されたもので、このハブと同心の被検出面を備え、この被検出面の特性を円周方向に関して交互に変化させており、
上記センサは、検出部を上記エンコーダの被検出面に対向させた状態で、上記外輪の軸方向内端部開口を塞ぐ為にこの軸方向内端部に固定した有底円筒状のカバー内に、合成樹脂製のセンサホルダを介して保持されていて、上記被検出面の特性変化に対応して出力信号を変化させるものであり、
上記演算器は、上記センサの出力信号に基づいて、上記外輪と上記ハブとの間の相対変位と、これら外輪とハブとの間に作用する外力とのうちの、少なくとも一方の状態量を算出する機能を有するものである、
転がり軸受ユニットの状態量測定装置に於いて、
上記演算器を、上記状態量を算出する機能を有する電子回路基板とし、且つ、この電子回路基板を上記センサホルダと共に上記カバー内に保持している事を特徴とする転がり軸受ユニットの状態量測定装置。
【請求項2】
カバーが金属製であって、電子回路基板を、このカバー内の軸方向内端部に配置した、請求項1に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置。
【請求項3】
電子回路基板を、カバーとセンサホルダとにより周囲を囲まれた空間内に配置した、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置。
【請求項4】
電子回路基板の表面を熱硬化性樹脂により覆った、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−186390(P2009−186390A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28472(P2008−28472)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】