説明

転がり軸受装置

【課題】タッチダウン時において、転がり軸受が片当たりを繰り返すことを抑制できて転がり軸受が破損することを抑制できると共に、軌道輪の軌道面および転動体に焼付きが発生しにくい転がり軸受装置を提供すること。
【解決手段】ハウジング部材2の内周面に総玉軸受70を締まり嵌めにより内嵌して固定する。総玉軸受70の内輪32の内周面に、形状記憶合金製で周方向に波打つ環状の変形部材52の外周面を固定する。変形部材52の内周面に金属製の円筒部材54の外周面を固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受装置に関し、特に、ターボ分子ポンプや真空ポンプ等に使用すれば好適な転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受装置としては、特開2000−346068号公報(特許文献1)に記載されている磁気軸受装置がある。
【0003】
この磁気軸受装置は、回転軸、ハウジング部材、磁気軸受、タッチダウン軸受としての玉軸受および波板状緩衝部材を備え、上記波板状緩衝部材は、ハウジング部材と玉軸受との間に配置されている。上記波板状緩衝部材は、バネ弾性に富んだ鋼材からなっている。上記磁気軸受は、電磁石を有し、通常運転時において、上記回転軸を磁気的に非接触に支持している。
【0004】
一方、上記玉軸受は、上記ハウジング部材に対して静止している。上記玉軸受は、内輪、外輪および玉を有している。上記外輪は、ハウジング部材の内周面に内嵌されている一方、上記内輪は、上記磁気軸受が正常に動作しているときには、上記回転軸に対して非接触な状態になっている。
【0005】
上記玉軸受は、上記磁気軸受の制御の操作ミス(人為的ミス)時や停電等によって、上記磁気軸受が正常に動作しなくなったときに、回転軸の外周面を、内輪の内周面で受けて、回転軸をハウジング部材に対して機械的に支持するようになっている。
【0006】
上記磁気軸受装置においては、上記磁気軸受が制御不能になっている場合には、回転軸に振れが生じているから、上記回転軸が、上記玉軸受の内輪に片当たりする。また、タッチダウン時においては、上記玉軸受は、内輪の回転速度が、回転軸との摩擦によって、停止状態から一瞬にしてロータの高い回転速度付近まで急激に急加速される。
【0007】
この記磁気軸受装置は、上記波板状緩衝部材で、タッチダウン軸受である玉軸受にかかる衝撃を吸収することにより、玉軸受に、片当たりに起因する損傷や過大な摩擦力に起因する焼付きが発生することを抑制している。
【特許文献1】特開2000−346068号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の磁気軸受装置では、回転軸が、タッチダウン時において、上記バネ弾性に富んだ波板状緩衝部材から大きな反作用を受けて、暴れて、上記回転軸が、上記玉軸受の内輪に片当たりを繰り返すことがあり、却って、玉軸受の損傷が大きくなることがある。
【0009】
一方、波板状緩衝部材を有さない磁気軸受装置では、タッチダウン時において、玉軸受が回転軸から直接大きな衝撃を受けて、軌道輪と玉との間に大きな摩擦力が発生し、玉が軌道輪に対してロックし易くて、玉および軌道輪が焼付き易い。
【0010】
そこで、本発明の課題は、タッチダウン時において、転がり軸受が片当たりを繰り返されることを抑制できて、転がり軸受が破損することを抑制できると共に、軌道輪の軌道面および転動体に焼付きが発生しにくい転がり軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、この発明の転がり軸受装置は、
軌道面を有する内輪、軌道面を有する外輪、および、上記内輪の上記軌道面と上記外輪の上記軌道面との間に配置された複数の転動体を有する転がり軸受と、
上記内輪の内周面の径方向の内方に位置する外周面を有する内方部材と、
上記外輪の外周面の径方向の外方に位置する内周面を有する外方部材と、
上記内輪の上記内周面と上記内方部材の上記外周面との間と、上記外輪の上記外周面と上記外方部材の上記内周面との間のうちの少なくとも一方の間に配置されると共に、径方向に変形可能である形状記憶合金製の変形部材と
を備えることを特徴としている。
【0012】
本発明によれば、内輪の内周面と内方部材(例えば、回転軸や軸部材)の外周面との間と、外輪の外周面と外方部材(例えば、ハウジング部材)の内周面との間のうちの少なくとも一方の間に、径方向に変形可能である形状記憶合金製の変形部材を備えるから、この変形部材で径方向の衝撃を吸収できて、内輪の内周面が内方部材の外周面から直接大きな衝撃を受けることがないか、または、外輪の外周面が外方部材の内周面から直接大きな衝撃を受けることがない。したがって、径方向に瞬間的に過大な荷重が作用することを抑制できるから、軌道輪と玉との間に発生する摩擦力を低減できて、軌道輪と玉との間に過大な摩擦力が発生しにくくなる。したがって、転動体が軌道輪に対してロックしにくくなって、玉および軌道輪の焼付きを抑制できる。
【0013】
また、本発明によれば、内輪の内周面と内方部材の外周面との間と、外輪の外周面と外方部材の内周面との間のうちの少なくとも一方の間に配置される変形部材が、形状記憶合金からなるから、変形部材が変形し易くて、変形部材のその変形によって、内方部材または外方部材との接触に起因する衝撃を吸収することができる。したがって、従来例で説明した磁気軸受装置のように、回転軸が、波板状緩衝部材からの大きな反作用によって暴れることがない。更に述べると、内輪の内周面と内方部材の外周面との間と、外輪の外周面と外方部材の内周面との間のうちの少なくとも一方の間に配置される変形部材が、形状記憶合金からなるから、タッチダウン後に転がり軸受が運転されることによって転がり軸受の温度がある程度上昇して初めて変形部材の形状が元の形状に復元することになる。したがって、転がり軸受の温度がある程度上昇するまでには、時間が十分に経過して、回転軸(内方部材と外方部材とのうちの一方に相当)の回転速度が低速になっているから、この時点で変形部材の形状が元の形状に復元したとしても、回転軸が暴れることがない。したがって、この転がり軸受装置は、回転軸が暴れることを効果的に抑制できて、回転軸との片当たりに起因する転がり軸受の損傷を抑制できる。
【0014】
したがって、本発明によれば、転がり軸受に焼付きが発生することを抑制できると共に、転がり軸受に損傷が発生することを抑制できるから、転がり軸受の寿命を長くすることができる。
【0015】
また、一実施形態では、
上記外輪は、上記外方部材の上記内周面に当接している一方、上記変形部材は、上記内輪の内周面を上記内方部材の上記外周面に対して直接または間接的に支持するか、または、上記内輪は、上記内方部材の上記外周面に当接している一方、上記変形部材は、上記外輪の外周面を上記外方部材の上記内周面に対して直接または間接的に支持する。
【0016】
上記実施形態によれば、転がり軸受の外輪が外方部材に当接しているか、または、内輪が内方部材に当接しているから、外輪が外方部材に当接している場合においては、外輪の損傷を抑制でき、また、内輪が内方部材に当接している場合には、内輪の損傷を抑制できる。
【0017】
また、一実施形態では、
上記変形部材は、環状または略環状であり、
上記変形部材の径方向の内方側の面および外方側の面のうちの少なくとも一方は、軸方向および周方向のうちの少なくとも一方の方向の位置によって径方向の存在位置が変動する波形状の面である。
【0018】
上記実施形態によれば、上記変形部材の径方向の内方側の面および外方側の面のうちの少なくとも一方が、軸方向および周方向のうちの少なくとも一方の方向の位置によって径方向の存在位置が変動する波形状の面であるから、変形部材の径方向の変動幅を大きくできて、変形部材の径方向の衝撃の吸収能力を優れたものにすることができる。
【0019】
また、一実施形態では、
上記変形部材は、上記内輪の上記内周面に固定され、
上記変形部材の径方向の内方側の面に固定された環状部材を備える。
【0020】
上記実施形態によれば、上記変形部材が、上記内輪の内周面に固定され、上記変形部材の径方向の内方側の面に、環状部材が固定されているから、例えば、波形状の変形部材が直接内方部材に接触する場合と比較して、内方部材がその波形状の変形部材の一部に引っかかるようなことがなくて、変形部材で衝撃を吸収しながら、環状部材の内周面で円滑に内方部材を支持することができる。
【0021】
また、一実施形態では、
上記変形部材は、上記外輪の上記外周面に固定され、
上記変形部材の径方向の外方側の面に固定された環状部材を備える。
【0022】
上記実施形態によれば、上記変形部材が、上記外輪の外周面に固定され、上記変形部材の径方向の外方側の面に、環状部材が固定されているから、例えば、波形状の変形部材が直接外方部材に接触する場合と比較して、外方部材がその波形状の変形部材の一部に引っかかるようなことがなくて、変形部材で衝撃を吸収しながら、環状部材の外周面で円滑に外方部材を支持することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の転がり軸受装置によれば、転がり軸受に焼付きが発生することを抑制できると共に、転がり軸受に損傷が発生することを抑制できて、転がり軸受の寿命を長くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の第1実施形態のターボ分子ポンプの軸方向の断面図である。
【0026】
このターボ分子ポンプは、ターボ分子ポンプ本体1と、図示しないコントローラとを備え、図示しない真空機器に連通する。
【0027】
上記ターボ分子ポンプ本体1は、外方部材の一例としてのハウジング部材2と、内方部材の一例としての回転軸3と、回転軸3を駆動するモータ4と、アキシアル位置検出センサ16と、ラジアル位置検出センサ14,15と、アキシアル磁気軸受6と、第1および第2ラジアル磁気軸受7,8と、第1のタッチダウン軸受部10と、第2のタッチダウン軸受部11とを備える。上記ハウジング部材2、回転軸3および第1のタッチダウン軸受部10は、本発明の第1実施形態の転がり軸受装置を構成している。
【0028】
上記アキシアル位置検出センサ16は、回転軸3のアキシアル位置を検出して、上記コントローラに、回転軸3のアキシアル位置を表す信号を出力するようになっている。また、上記ラジアル位置検出センサ14,15は、回転軸3の軸方向に互いに間隔をおいて配置されている。上記ラジアル位置検出センサ14,15は、回転軸3のラジアル位置を検出して、上記コントローラに、回転軸3のラジアル位置を表す信号を出力するようになっている。上記コントローラは、アキシアル位置検出センサ16から信号に基づいて、アキシアル磁気軸受6に制御信号を出力すると共に、ラジアル位置検出センサ14,15からの信号に基づいて、第1および第2ラジアル磁気軸受7,8に制御信号を出力するようになっている。
【0029】
上記モータ4は、ロータ20と、ステータ21とを有する。上記ロータ20は、リング状の2極永久磁石で構成されており、回転軸3の外周面に固定されている。また、上記ステータ21は、図示しない電機子コイルを有している。電機子コイルに適切に電流を流すことにより、ロータ20をステータ21に対して高速回転させて、ロータ20が固定された回転軸3を高速回転させるようになっている。
【0030】
上記アキシアル磁気軸受6は、回転軸3をアキシアル方向に磁気的に非接触支持している。詳しくは、上記アキシアル磁気軸受6は、回転軸3のアキシアル方向の両端面を、アキシアル方向の両側から挟むように配置された1対の電磁石(数は2個)を有している。上記アキシアル磁気軸受6の上記電磁石の磁力は、上記コントローラからの制御信号によって適切に制御されるようになっている。アキシアル磁気軸受6は、毎分数万回転で回転する回転軸3の位置をアキシアル方向に精密に制御して、回転軸3のアキシアル方向のぐらつきを抑制して、回転軸3を、アキシアル方向において所定位置に精密に位置させるようになっている。
【0031】
一方、上記第1および第2ラジアル磁気軸受7,8は、回転軸3をラジアル方向に磁気的に非接触支持している。詳しくは、上記第1および第2ラジアル磁気軸受7,8の夫々は、回転軸3をラジアル方向の両側から挟むように配置された互いに直交する2対の電磁石(各ラジアル磁気軸受において、電磁石の数は4個)を有している。上記第1および第2ラジアル磁気軸受7,8の夫々の上記電磁石の磁力は、上記コントローラからの制御信号によって適切に制御されるようになっている。上記第1および第2ラジアル磁気軸受7,8は、毎分数万回転で回転する回転軸3の位置をラジアル方向に精密に制御して、回転軸3のラジアル方向のぐらつきを抑制して、回転軸3を、ラジアル方向において所定位置に精密に位置させるようになっている。
【0032】
上記第1のタッチダウン軸受部10は、第1および第2ラジアル磁気軸受7,8が制御不能になったときに回転軸3をラジアル方向に機械的に支持するようになっている。また、上記第2のタッチダウン軸受部11は、アキシアル磁気軸受6、または、第1および第2ラジアル磁気軸受7,8が制御不能になったときに、回転軸3をアキシアル方向およびラジアル方向に機械的に支持するようになっている。
【0033】
上記第1のタッチダウン軸受部10および第2のタッチダウン軸受部11は、第1および第2ラジアル磁気軸受7,8が制御不能になったときに、回転軸3を支持することによって、第1および第2ラジアル磁気軸受7,8と回転軸3との接触や、ロータ20とステータ21との接触等を確実に防止するようになっている。
【0034】
図2は、図1における上記第1のタッチダウン軸受部10近傍の模式断面図である。
【0035】
上記第1のタッチダウン軸受部10は、ハウジング部材2の内周円筒面58と回転軸3の外周面59との間に配置されている。上記第1のタッチダウン軸受部10は、転がり軸受の一例としての総玉軸受70と、形状記憶合金製の環状の変形部材52と、環状部材としての円筒部材54とを備える。
【0036】
上記総玉軸受70は、外輪31、内輪32および複数の玉34を有する。上記外輪31は、ハウジング部材2の内周面に内嵌されて固定されている。上記外輪31は、その内周面に軌道溝51を有している。上記内輪32は、外輪31の径方向の内方に位置している。上記内輪32は、軌道溝53を有し、その軌道溝53は、外輪31の軌道溝51に径方向に対向している。上記玉34は、転動体を構成している。上記複数の玉34は、外輪31の軌道溝51と内輪32の軌道溝53との間に周方向に配置されている。
【0037】
上記変形部材52は、環状部材である。上記変形部材52は、チタンとニッケルの合金や、鉄−マンガン−ケイ素合金(鉄系形状記憶合金)等の周知の形状記憶合金からなっている。上記変形部材52は、内輪32の径方向の内方に位置している。上記変形部材52の外周面は、内輪32の内周面に溶接やリベット接合や緊迫力等で固定されている。
【0038】
図3は、上記形状部材52の斜視図である。
【0039】
図3に示すように、上記形状部材52は、環状であって、波形の形状を有している。上記形状部材52の外周面80および内周面81の夫々は、周方向の位置によって径方向の存在位置が変動する波形状の面になっている。上記外周面80に存在する波の波長および振幅は、一定であり、また、内周面81に存在する波の波長および振幅は、一定である。また、外周面80および内周面81の夫々に存在する波は、その波の一波長の周方向の位相をa[rad]とし、Nをある自然数とすると、aN=2π[rad]の関係が成立している。
【0040】
再度、図2を参照して、上記円筒部材54は、変形部材52の径方向の内方に位置している。上記円筒部材54は、円筒外周面と、円筒内周面とを有している。上記円筒部材54の外周面は、変形部材52の内周面に溶接やリベット接合や、緊迫力等によって固定されている。一方、上記円筒部材54の内周面は、回転軸3を取り囲んでいる。上記磁気軸受6,7,8が、正常に駆動している状態で、上記円筒部材54は、回転軸3の外周面に径方向に間隔をおいて位置している。
【0041】
上記構成のターボ分子ポンプにおいて、電源異常や停電等により電源側からの電力の供給が停止されて電源電圧が低下すると、上記モータ4が、発電機として電圧を出力するようになっている。具体的には、上記モータ4は、電源電圧が低下すると、位置検出センサ14,15,16、各磁気軸受6,7,8の磁気軸受駆動回路(図示せず)およびモータドライバ(図示せず)に、回生電力を供給するようになっている。上記モータ4から供給される回生電力が磁気軸受6,7,8を駆動できる間、磁気軸受6,7,8は、上記回生電力によって磁気浮上制御されるようになっている。
【0042】
上記モータ4の回転速度が下がり、モータ4からの回生電力が磁気軸受7,8の駆動に必要な電力よりも低下すると、磁気軸受7,8の磁気浮上制御が停止するようになっている。上記磁気軸受7,8の磁気浮上制御が停止すると、第1のタッチダウン軸受部10が、磁気軸受7,8の替わりに回転軸3をラジアル方向に機械的に支持すると共に、第2のタッチダウン軸受11が、磁気軸受7,8の替わりに回転軸3をラジアル方向に機械的に支持するようになっている。第2のタッチダウン軸受11は、磁気軸受6の磁気浮上制御が停止すると、回転軸3をアキシアル方向に機械的に支持する役割も担っている。
【0043】
上記第1のタッチダウン軸受部10は、詳細には次のように動作するようになっている。すなわち、上記磁気軸受7,8の磁気浮上制御が停止すると、回転軸3の外周面が、円筒部材54の内周面に接触する。すると、上記円筒部材54を介して回転軸3からの衝撃を受けた変形部材52が、衝撃を受けた方向に変形することにより、回転軸3が円筒部材54に及ぼしたエネルギーの大きな量を吸収する。
【0044】
また、上記回転軸3の外周面が、円筒部材54の内周面に接触して内輪32と外輪31との相対回転による、内輪32と複数の玉34との転がり摩擦及び外輪31と複数の玉34との転がり摩擦によって回転のエネルギーが失われて、回転軸3の回転速度が徐々に低下して、総玉軸受70が、その運転の継続によりある程度昇温すると、変形部材52が総玉軸受70からの熱によって、元の形状に復元するようになっている。
【0045】
上記第1実施形態の転がり軸受装置によれば、上記内輪32の内周面と、回転軸3の外周面との間に、径方向に変形可能である形状記憶合金製の変形部材52を備えるから、内輪32の内周面が回転軸3の外周面から直接大きな衝撃を受けることがない。したがって、軌道輪(外輪31、内輪32)と玉34との間に、瞬時かつ過大な径方向の荷重が作用することを抑えられる。したがって、軌道輪(外輪31、内輪32)と玉34との間に発生する摩擦力を低減できて、軌道輪と玉34との間に過大な摩擦力が発生しにくくできるから、玉34が軌道輪に対してロックすることを抑制できて、玉34および軌道輪に焼付きが発生することを抑制できる。
【0046】
また、上記第1実施形態の転がり軸受装置によれば、内輪32の内周面と回転軸3の外周面との間に配置される変形部材52が、形状記憶合金からなるから、変形部材52が変形し易くて、変形部材52のその変形によって、回転軸3が円筒部材54に接触することに起因する衝撃を吸収することができる。したがって、従来例で説明した磁気軸受装置と異なり、回転軸3が大きな反作用を受けて暴れることがない。更に述べると、上記内輪32の内周面と軸部材3の外周面との間に配置される変形部材52が、形状記憶合金からなるから、タッチダウン後に総玉軸受70が運転されることによって総玉軸受70の温度がある程度上昇して初めて変形部材52の形状が元の形状に復元することになる。したがって、上記総玉軸受70の温度がある程度上昇するまでには、時間が十分に経過して、回転軸3の回転速度が低速になっているから、この時点で変形部材52の形状が元の形状に復元しても、回転軸3が暴れることがない。したがって、このタッチダウン軸受部10は、回転軸3が暴れることを抑制できて、回転軸3との片当たりに起因する総玉軸受70の損傷を抑制できる。
【0047】
したがって、第1実施形態の転がり軸受装置によれば、上記総玉軸受70に焼付きが発生することを抑制できると共に、総玉軸受70に損傷が発生することを抑制できる。
【0048】
また、上記第1実施形態の転がり軸受装置によれば、総玉軸受70の外輪31がハウジング部材2に当接しているから、外輪31の損傷を抑制できる。
【0049】
また、上記第1実施形態の転がり軸受装置によれば、上記変形部材52の径方向の内方側の面および外方側の面の夫々が、周方向の位置によって径方向の存在位置が変動する波形状の面であるから、変形部材52の径方向の変動幅を大きくすることができる。したがって、変形部材52の径方向の衝撃の吸収能力を優れたものにすることができる。
【0050】
また、上記第1実施形態の転がり軸受装置によれば、上記変形部材52が、内輪32の内周面に固定され、変形部材52の径方向の内方側の面に、円筒部材54が固定されているから、例えば、波形状の変形部材が直接回転軸に接触する場合と異なり、回転軸がその波形状の変形部材の一部に引っかかるようなことがない。したがって、上記変形部材52で衝撃を吸収しながら、円筒部材54の内周面で回転軸3を円滑に支持することができる。
【0051】
尚、上記第1実施形態の転がり軸受装置では、転がり軸受が、総玉軸受70であったが、この発明では、転がり軸受は、保持器を有する玉軸受であっても良い。また、この発明では、転がり軸受は、ころ軸受等の玉軸受以外の転がり軸受であっても良い。
【0052】
また、上記第1実施形態の転がり軸受装置では、変形部材52の内周側に円筒部材54が固定されて、タッチダウン時において、円筒部材54が、回転軸3に接触する構成であったが、この発明では、円筒部材がなくて、タッチダウン時において、形状記憶合金からなる変形部材が軸部材またはハウジングに直接接触する構成であっても良い。
【0053】
また、上記第1実施形態の転がり軸受装置では、上記変形部材54が、環状部材であったが、この発明では、変形部材は、非環状部材であっても良い。例えば、変形部材は、帯状の部材を、その帯状の部材の二つの端面が周方向に対向するように、円弧状かつ周方向に波打つように折り曲げてなる形状であっても良い。
【0054】
また、上記第1実施形態の転がり軸受装置では、変形部材52が、周方向の位置によって、径方向の存在位置が変動する波形状の外周面80および内周面81を有していたが、この発明では、変形部材は、軸方向の位置によって径方向の存在位置が変動する波形状の面を有していても良い。また、この発明では、変形部材は、軸方向の位置によって径方向の存在位置が変動すると共に周方向の位置によって径方向の存在位置が変動する波形状の面を有していても良い。
【0055】
また、上記第1実施形態の転がり軸受装置では、総玉軸受70が軸方向に一つ配置されていたが、この発明では、単列の転がり軸受を軸方向に複数個配置したり、複列転がり軸受を配置したりして、転動体を軸方向に2列以上配置するようにしても良い。また、この発明では、転がり軸受は、中間輪を有していても良い。そして、転動体が、径方向に複列に配置される構成であっても良い。
【0056】
また、上記第1実施形態の転がり軸受装置では、上記総玉軸受70を、ハウジング部材2に対して静止した状態にしたが、この発明では、転がり軸受を、内方部材としての回転軸に対して静止した状態にしても良い。
【0057】
また、上記第1実施形態の転がり軸受装置では、変形部材52を、総玉軸受70と、回転軸3との間に配置したが、この発明では、変形部材を、外方部材としてのハウジング部材と転がり軸受との間に配置すると共に、更なる変形部材を、転がり軸受と内方部材としての回転軸との間に配置しても良い。
【0058】
また、上記第1実施形態の転がり軸受装置では、ハウジング部材2に総玉軸受70を固定したが、この発明では、回転しない内方部材に転がり軸受を固定しても良い。
【0059】
図4は、そのような転がり軸受装置を示す模式図であり、本発明の第2実施形態のターボ分子ポンプの一部の軸方向の部分模式断面図である。
【0060】
第2実施形態の転がり軸受装置は、内方部材の一例としてのハウジング102と、外方部材の一例としての回転軸103と、タッチダウン軸受部110とを備える。
【0061】
第2実施形態では、タッチダウン軸受部110が、回転軸103の一部を構成する筒状の部分の内周面118と、この内周面118よりも径方向の内方に位置するハウジング102の円柱状の部分117の外周円筒面119との間に配置されている点が、タッチダウン軸受部10(図2参照)が、ハウジング2の内周円筒面58と、回転軸3の外周面59との間に配置されている第1実施形態と異なる。
【0062】
第2実施形態では、第1実施形態と共通の作用効果および変形例については説明を省略することにし、構成および第1実施形態と異なる作用効果についてのみ説明を行うことにする。
【0063】
上記タッチダウン軸受部110は、転がり軸受の一例としての総玉軸受170と、変形部材152と、環状部材としての円筒部材154とを備え、総玉軸受170は、内輪131、外輪133および複数の玉134を有する。
【0064】
上記玉134は、転動体を構成している。上記複数の玉134は、内輪131の軌道溝151と、外輪133の軌道溝153との間に、周方向に複列に配置されている。
【0065】
上記第2実施形態の転がり軸受装置によれば、タッチダウン軸受部110が回転軸103の外周面170よりも径方向の内方に位置しているから、転がり軸受装置をコンパクトに構成できる。
【0066】
尚、上記第1および第2実施形態では、転がり軸受装置を、ターボ分子ポンプに搭載した。しかしながら、本発明の転がり軸受装置を、ターボ分子ポンプではなくて、単なる真空ポンプに搭載しても良いことは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1実施形態のターボ分子ポンプの軸方向の断面図である。
【図2】図1における第1のタッチダウン軸受部近傍の模式断面図である。
【図3】第1のタッチダウン軸受部が備える変形部材の斜視図である。
【図4】本発明の第2実施形態のターボ分子ポンプの一部の軸方向の部分模式断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 ターボ分子ポンプ本体
2,102 ハウジング
3,103 回転軸
4 モータ
6 アキシアル磁気軸受
7 第1ラジアル磁気軸受
8 第2ラジアル磁気軸受
10 第1のタッチダウン軸受部
11 第2のタッチダウン軸受部
31,133 外輪
32,131 内輪
34,134 玉
51,53,151,153 軌道溝
52,152 変形部材
54,154 円筒部材
58 内周円筒面
59 外周面
110 タッチダウン軸受部
118 内周面
119 外周円筒面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道面を有する内輪、軌道面を有する外輪、および、上記内輪の上記軌道面と上記外輪の上記軌道面との間に配置された複数の転動体を有する転がり軸受と、
上記内輪の内周面の径方向の内方に位置する外周面を有する内方部材と、
上記外輪の外周面の径方向の外方に位置する内周面を有する外方部材と、
上記内輪の上記内周面と上記内方部材の上記外周面との間と、上記外輪の上記外周面と上記外方部材の上記内周面との間のうちの少なくとも一方の間に配置されると共に、径方向に変形可能である形状記憶合金製の変形部材と
を備えることを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の転がり軸受装置において、
上記外輪は、上記外方部材の上記内周面に当接している一方、上記変形部材は、上記内輪の内周面を上記内方部材の上記外周面に対して直接または間接的に支持するか、または、上記内輪は、上記内方部材の上記外周面に当接している一方、上記変形部材は、上記外輪の外周面を上記外方部材の上記内周面に対して直接または間接的に支持することを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の転がり軸受装置において、
上記変形部材は、環状または略環状であり、
上記変形部材の径方向の内方側の面および外方側の面のうちの少なくとも一方は、軸方向および周方向のうちの少なくとも一方の方向の位置によって径方向の存在位置が変動する波形状の面であることを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の転がり軸受装置において、
上記変形部材は、上記内輪の上記内周面に固定され、
上記変形部材の径方向の内方側の面に固定された環状部材を備えることを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の転がり軸受装置において、
上記変形部材は、上記外輪の上記外周面に固定され、
上記変形部材の径方向の外方側の面に固定された環状部材を備えることを特徴とする転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−169120(P2010−169120A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10111(P2009−10111)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】