説明

転がり軸受

【課題】回転駆動体の振動を軽減可能な転がり軸受を安価に提供する。
【解決手段】クラッチレリーズ軸受10(転がり軸受)において、軸受部品としての外輪11、内輪12、シール15の芯金15a、シール16の芯金16a及びガイド17が、制振鋼材としての制振鋼板で形成される。外輪11及び内輪12の各軌道面11a,12aには、例えばNi基合金、Co基合金などによる硬質被膜層CLがそれぞれ形成される。エンジンの振動が外輪11、内輪12、シール15の芯金15a、シール16の芯金16a及びガイド17により減衰されてクラッチレリーズ軸受10から他部材への振動が軽減される。また、硬質被膜層CLによって各軌道面11a,12aの硬度が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転がり軸受に関し、特にプレス製の軸受部品を備えた転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の転がり軸受として、軌道輪及び芯金が鋼板プレス製とされたクラッチレリーズ軸受が知られている(特許文献1参照)。また、保持器が鋼板プレス製とされたスラストころ軸受も知られている(特許文献2参照)。このように軸受部品としてプレス成形品を使用することで、車体重量を軽量化することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2006−189086号公報
【特許文献2】特開2007−232114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、軸受は、外輪及び内輪のうちの一方が回転駆動体に組み付けられ、他方が固定体に組み付けられて一方が他方に対して相対回転するのが一般的である。このため、回転駆動体の振動が軸受の内外輪等を経て固定体へ伝達され易い。特に、クラッチレリーズ軸受は、その直前にエンジンが配置される構成とされているため、エンジンの振動が直に伝達される。そして、この振動はクラッチレリーズ軸受からトランスミッションを経てボデー系の各部位へ伝播され、不快な振動の発生原因となるおそれが高い。また、この振動は、騒音発生の原因ともなる。クラッチレリーズ軸受以外の軸受においても、上記と同様の問題を発生させるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、回転駆動体の振動を軽減可能な転がり軸受を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、プレス製の軸受部品を備えた転がり軸受において、軸受部品が制振鋼材で形成されていることを特徴とする。なお、制振鋼材としては、例えば高分子材料を2枚の鋼で挟んで固着してなる複合型の他、例えばFe−Al−Si系合金、Fe−Cr系合金などの非複合型(合金型)のものを採用することが可能である。なお、プレス製の軸受部品としては、内輪や外輪の軌道輪、転動体を保持する保持器、シールの芯金等が挙げられる。
【0007】
これによれば、回転駆動体の振動が軸受に伝達された際、伝達された振動が軸受を構成する軸受部品により減衰されるため、軸受から他部材への振動が軽減されて不快な振動の発生を防止することが可能である。
【0008】
本発明の実施に際して、軸受部品には、硬質被膜層が形成されているとよい。なお、硬質被膜層としては、Ni基合、Co基合金などを溶射溶融して形成される被膜層の他、PVD法(物理蒸着法)やCVD法(化学蒸着法)等により気相成長して形成される被膜層を採用することが可能である。これによれば、硬質被膜層によって軸受部品の耐磨耗性を高めることができ、所定の硬度が要求される軸受部品(例えば、軌道輪)にも十分に適用することが可能である。
【0009】
この場合、硬質被膜層は、プレス成形後に形成されるようにしてもよい。これによれば、硬質被膜層の破損を防止することができる。なお、溶射溶融処理により硬質被膜層を形成した場合には、フュージング処理(溶射被膜を溶融して基材に溶着させる処理)における所定の高温度での加熱過程によって、プレス成形により制振機能が低下した軸受部品の制振性能を回復させる効果を得ることが可能である。
【0010】
また、上記において、硬質被膜層は、耐磨耗性の要求される部位に形成されるようにしてもよい。耐磨耗性の要求される部位にのみ硬質被膜層を形成することで、硬質被膜処理の効率化、コストの削減化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
a.第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態を図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の第1実施形態に係るクラッチレリーズ軸受10の縦断面図である。クラッチレリーズ軸受10は、外輪回転式の自動調心タイプのものであり、外輪11と内輪12との間にボール13(転動体)及び保持器14が配置されている。
【0012】
外輪11は、プレス成形品であり、その内周面にはボール13の軌道面11aが形成されている。外輪11の軸方向の一端側(図1では左端側)には、湾曲しながら径方向内向きに延びる内鍔部11bが一体に形成され、この内鍔部11bにダイヤフラムスプリング(図示省略)が当接するようになっている。外輪11の軸方向の他端側(図1では右端側)には、断面略L字状の芯金15aを有するシール15が取り付けられている。シール15は、内輪12の外周面に接触しており、外輪11と内輪12間を密封している。
【0013】
内輪12は、調心ゴムを介してスリーブ(図示省略)に取り付けられている。この内輪12は、プレス成形品であり、その外周面にはボール13の軌道面12aが形成されている。
【0014】
内輪12の軸方向の一端側(図1では右端側)には、平面状に径方向外向きに延びる外鍔部12bが一体に形成され、この外鍔部12bに、スリーブに固定されたプレート(レリーズフォークに押される部材)が当接するようになっている。内輪12の軸方向の他端側(図1では左端側)には、平面状に径方向内向きに延びる内鍔部12cが一体に形成され、この内鍔部12cには断面略L字状の芯金16aを有するシール16が取り付けられている。シール16は、外輪11における内鍔部11bの内周面に接触しており、外輪11と内輪12間を密封している。なお、内輪12における外鍔部12b寄りには、調心ゴムを保持するための段付き円筒状にプレス成形されたガイド17が取り付けられている。
【0015】
ところで、この第1実施形態では、外輪11、内輪12、シール15の芯金15a、シール16の芯金16a及びガイド17が、制振鋼材としての制振鋼板で形成されている。この制振鋼板は、例えば熱可塑性粘弾性樹脂などの高分子材料DPを2枚の鋼で挟んで固着してなる複合拘束型のものであり、振動時に高分子材料DPの曲げ変形によって鋼との間でせん断ずれを起こし、振動エネルギーを熱エネルギーに変換することでエンジンからの振動を減衰させる機能を有している。
【0016】
また、外輪11及び内輪12の各軌道面11a,12aには、例えばNi基合金、Co基合金などによる硬質被膜層CLがそれぞれ形成されている。具体的には、外輪11及び内輪12をそれぞれ所定形状にプレス成形した後、外輪11及び内輪12の各軌道面11a,12aにNi基合金、Co基合金などを可燃性ガスによる燃焼炎等を利用して溶射し、膜状の積層体として付着させる。この積層体を例えば950〜1250℃で各軌道面11a,12aに溶融溶着(フュージング処理)させることで、積層体の各軌道面11a,12aへの結合力を強化することができる。外輪11及び内輪12の各軌道面11a,12aは、硬質被膜層CLの形成により、500〜800Hvの硬さが確保されるようになる。なお、外輪11及び内輪12の各軌道面11a,12aは、溶融溶着処理後に研磨加工等の仕上げ加工が施される。
【0017】
以上の説明からも明らかなように、この第1実施形態では、エンジンの振動がクラッチレリーズ軸受10に伝達された際、伝達された振動が外輪11、内輪12、シール15の芯金15a、シール16の芯金16a及びガイド17により減衰されるため(共振振幅の減衰、振動速度の減衰など)、クラッチレリーズ軸受10から他部材への振動が軽減されて不快な振動の発生を防止することが可能である。
【0018】
また、この第1実施形態では、外輪11及び内輪12の各軌道面11a,12aに硬質被膜層CLがそれぞれ形成されているので、各軌道面11a,12aの耐磨耗性を高めることができる。また、外輪11及び内輪12のプレス成形後に、各軌道面11a,12aに硬質被膜層CLが形成されるので、硬質被膜層CLの破損が防止される。
【0019】
(変形実施形態)
上記第1実施形態では、制振鋼材として複合拘束型の制振鋼板を用いたが、これに代えて、例えば非複合型(合金型)の制振鋼合金を用いてもよい。この制振鋼合金は、例えばFe−Al−Si系合金、Fe−C−Si系合金、Fe−Cr系合金、Fe−Cr−Al系合金、Fe−Cr−Mo系合金などである。この制振鋼合金を用いた場合、外輪11及び内輪12のプレス成形後に、各軌道面11a,12aに硬質被膜層CLを形成することで、硬質被膜層CLの破損が防止されることに加えて、プレス成形による塑性変形等により制振機能が低下した外輪11及び内輪12の制振性能を回復させることが可能である。
【0020】
b.第2実施形態
上記第1実施形態等では、本発明の転がり軸受をクラッチレリーズ軸受10に適用した場合について説明したが、例えば図2(a),2(b)に示すようなスラストころ軸受20に適用してもよい。
【0021】
スラストころ軸受20は、針状ころ21(転動体)を保持する保持器22と、保持器22を収容する軌道輪23とを備えており、保持器22及び軌道輪23が何れもプレス成形により形成されている。これら保持器22及び軌道輪23を制振鋼板又は制振鋼合金で形成することにより、上記第1実施形態と同様、スラストころ軸受20から他部材への振動が軽減されて不快な振動の発生を防止することが可能である。この場合、軌道輪23に硬質被膜層CLを形成することで、軌道輪23の硬度を確保することができる。
【0022】
c.第3実施形態
また、本発明の転がり軸受を、例えば図3に示すようなシェル形ころ軸受30に適用してもよい。シェル形ころ軸受30は、外輪31(軌道輪)と針状ころ32(転動体)とを備えており、外輪31がプレス成形により形成されている。この外輪31を制振鋼板又は制振鋼合金で形成することにより、上記第1実施形態等と同様、シェル形ころ軸受30から他部材への振動が軽減されて不快な振動の発生を防止することが可能である。この場合、外輪31の軌道面31aに硬質被膜層CLを形成することで、外輪31の硬度を確保することができる。
【0023】
d.第4実施形態
また、本発明の転がり軸受を、例えば図4に示すような円すいころ軸受40に適用してもよい。円すいころ軸受40は、外輪41及び内輪42よりなる軌道輪の間に円すいころ43が保持器44によって保持されたものであり、保持器44がプレス成形により形成されている。この保持器44を制振鋼板又は制振鋼合金で形成することにより、上記第1実施形態等と同様、円すいころ軸受40から他部材への振動が軽減されて不快な振動の発生を防止することが可能である。
【0024】
なお、硬質被覆層CLは、溶射溶融して形成する場合に限らず、例えばPVD法やCVD法等により形成してもよい。
【0025】
また、本発明は、上記した第1〜第4実施形態に係る転がり軸受に限らず、プレス製の軸受部品を備えた各種の転がり軸受に幅広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態に係るクラッチレリーズ軸受の縦断面図。
【図2】(a)は本発明の第2実施形態に係るスラストころ軸受の平面図。(b)は(a)の正面断面図。
【図3】本発明の第3実施形態に係るシェル形ころ軸受の縦断面図。
【図4】本発明の第4施形態に係る円すいころ軸受の縦断面図。
【符号の説明】
【0027】
10 クラッチレリーズ軸受(転がり軸受)
11 外輪(軸受部品)
11a 軌道面
12 内輪(軸受部品)
12a 軌道面
15,16 シール
15a,16a 芯金(軸受部品)
17 ガイド(軸受部品)
DP 高分子材料
CL 硬質被膜層
20 スラストころ軸受(転がり軸受)
22 保持器(軸受部品)
23 軌道輪(軸受部品)
30 シェル形ころ軸受(転がり軸受)
31 外輪(軸受部品)
40 円すいころ軸受(転がり軸受)
44 保持器(軸受部品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス製の軸受部品を備えた転がり軸受において、
前記軸受部品は、制振鋼材で形成されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記軸受部品には、硬質被膜層が形成されている請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記硬質被膜層は、前記軸受部品のプレス成形後に形成される請求項2に記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−168082(P2009−168082A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5114(P2008−5114)
【出願日】平成20年1月14日(2008.1.14)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】