説明

転写用型およびその製造方法ならびに転写用型を用いた転写物の製造方法

【課題】簡便かつ安価に光透過性及び耐破壊性に優れた転写用型、特にナノインプリントに適する転写用型等を提供する。
【解決手段】本発明の転写用型は、透光材料からなる第1基材と、該第1基材上にゾルゲル法により形成され、前記第1基材よりも低屈折率の透光材料からなり所定の微細凹凸形状が付与された型面をもつ第1表面被覆層との複層構造を有する。また、本発明の転写用型の製造方法は、透光材料からなる第1基材上に所定のゾル液を塗布する工程と、原型を押し当てた状態で加熱、保持してゲル層を硬化させて所定の微細凹凸形状が付与された型面を持つ第1表面被覆層を形成する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性および耐破壊性に優れた転写用型およびその製造方法ならびに転写用型を用いた転写物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の微細な凹凸パターンを基材上に形成する方法の一つとしてナノインプリント技術が挙げられる。ナノインプリント技術は、レコード盤作製に端を発するインプリント技術をさらに発展させたものであって、一般にサブミクロンから数ミクロン程度の微細形状を基板上に転写成型するために、熱可塑性樹脂や紫外線硬化樹脂をシリコン基板等の基材に塗布した後、型を押し当てて型の形状を転写する技術である。光学的な手法を用いた加工技術の場合は光の波長が微細加工限界となるが、ナノインプリント技術ではさらに微細なナノレベルの加工が可能であるため、集積回路の微細化、集積化を進める上で重要な技術である。また、産業への利用について考えたとき、製造費を安価にし製造時間を短縮することは製造物のコスト削減に直結するため重要な課題である。
【0003】
ナノインプリント技術用の転写用型を製作する従来の手段としては、例えば図1に示すように電子線描画法、リソグラフィー技術もしくはドライエッチング技術などで表面形状を転写する方法、電子線描画法等で既に製作された高価な転写用型を複製するため、さらに反転転写用型としてNi電鋳型を形成する方法(例えば特許文献1)がある。また転写方法としては、プラスチック基材上に型を押圧した状態で赤外線を照射することで、樹脂を加熱し塑性変形させて転写成形する方法(例えば特許文献2)等がある。
【0004】
しかしながら、電子線描画法、およびリソグラフィー法もしくはドライエッチング法はいずれも非常に高価な装置を必要とする。また、転写用型に用いる基材は通常シリコンや石英といった単一の脆性材料からなり、しかも市販され入手可能な基材は概して比較的薄い(例えばSi基板で0.5mm程度)場合が多いため、仮に転写用型と転写材料の間に異物などが入り込んだ場合、この異物を挟みこんで亀裂や割れが生じやすい。また、転写用型が単一の脆性材料からなる場合には、光の反射防止機能が存在しないため、転写用型として光硬化樹脂を使用して転写用型の型の裏側から光を照射すると表面で光を反射する結果として材料の光透過性が低くなり、光のロスが生じるため好ましくない。さらに、電子線描画法は、1本1本パターンを形成する方法であるため、製作に長時間を必要とする。
【0005】
また、特許文献1記載の方法は、Niが光を通さないため型の裏面から光を照射しても転写用材料には光が到達しないため転写用材料として光硬化樹脂を用いる場合には適さない。またNi電鋳型は薄い(例えば2mm程度)単一膜であるため反りやすく十分な転写精度が得られないという問題もある。さらに特許文献2記載の方法もまた単一のプラスチック基材に微細凹凸形状を形成する方法であるため、単一材料による前述したような問題がある。
【0006】
さらにまた、特許文献3には、基板上および/または微細な凹凸パターンを有する有機樹脂製型上に、加水分解・縮重合し得るゾルゲル溶液を用いて塗布膜を形成し、この基板および型を接合押圧して塗布膜を型の凹凸パターンを有する膜とし、その後、型を膜体から離型し、この膜体を加熱することにより微細パターンを転写する技術が開示されている。しかしながら、この転写物は液晶表示用セルのスペーサー付き基板、回折格子や結像素子等の光学部品の製造に用いられるものであって、ナノインプリント用の転写用型としての使用を目的にしたものではない。
【0007】
こうした状況の中で、ナノレベルの微細構造を樹脂材料に成形する際の転写用型として、光透過性が高く壊れにくい転写用型を開発する必要があった。
【0008】
【特許文献1】特開2006−130841号公報
【特許文献2】特開2006−88517号公報
【特許文献3】特開平6−114334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ゾルゲル法を用いて、簡便かつ安価に光透過性及び耐破壊性に優れた転写用型、特にナノインプリントに適する転写用型を提供する。また本発明の別の目的は、転写用型を簡便かつ安価に製造することができる転写用型の製造方法を提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、転写物、特に転写用型を簡便かつ安価に製造するための反転転写用型を製造することができる転写物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目標を達成するため、本発明の要旨構成は以下の通りである。
【0011】
(1)透光材料からなる第1基材と、該第1基材上にゾルゲル法により形成され、前記第1基材よりも低屈折率の透光材料からなり所定の微細凹凸形状が付与された型面をもつ第1表面被覆層との複層構造を有することを特徴とする転写用型。
【0012】
(2)前記第1基材は結晶質材料、非晶質材料もしくは結晶化ガラス材料からなる前記(1)に記載の転写用型。
【0013】
(3)前記結晶質材料はシリコンである前記(2)に記載の転写用型。
【0014】
(4)前記非晶質材料は石英、ソーダライムガラスもしくはボロシリケートガラスである前記(2)に記載の転写用型。
【0015】
(5)前記結晶化ガラス材料は、結晶成分がβ−石英固溶体結晶もしくはβ−ユークリプタイト固溶体を主たる析出結晶として含む結晶化ガラス材料である前記(2)に記載の転写用型。
【0016】
(6)前記第1表面被覆層は、RSi(OC2H5)3、RSi(OCH3)3およびRSiCl3(Rは官能基)で表される少なくとも1種の化合物と酸水溶液とで主として構成されるゾル液を用いて形成してなる前記(1)〜(5)のいずれかに記載の転写用型。
【0017】
(7)転写用型は第1表面被覆層の上にさらに離型層を有する前記(1)〜(6)のいずれかに記載の転写用型。
【0018】
(8)透光材料からなる第1基材上に所定のゾル液を塗布する工程と、原型を押し当てた状態で加熱、保持してゲル層を硬化させて所定の微細凹凸形状が付与された型面を持つ第1表面被覆層を形成する工程を有する転写用型の製造方法。
【0019】
(9)前記第1基材は結晶質材料、非晶質材料もしくは結晶化ガラス材料である前記(8)に記載の転写用型の製造方法。
【0020】
(10)前記結晶質材料はシリコンである前記(9)に記載の転写用型の製造方法。
【0021】
(11)前記非晶質材料は石英、ソーダライムガラスもしくはボロシリケートガラスである前記(9)に記載の転写用型の製造方法。
【0022】
(12)前記結晶化ガラス材料は、結晶成分がβ−石英固溶体結晶もしくはβ−ユークリプタイト固溶体を析出結晶として含む結晶化ガラス材料である前記(9)に記載の転写用型の製造方法。
【0023】
(13)前記所定のゾル液がRSi(OC2H5)3、RSi(OCH3)3およびRSiCl3(Rは官能基)で表される少なくとも1種の化合物と酸水溶液とを含有する組成を有する前記(8)〜(12)のいずれか1項に記載の転写用型の製造方法。
【0024】
(14)前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の転写用型を用いて、その表面被覆層の型面の微細な凹凸形状が転写された転写物を製造する方法であって、第2基材上に所定の樹脂を塗布しこの塗布した樹脂に前記転写用型を押し当てた状態でこの転写用型の型面の裏側から光を照射することにより前記樹脂を硬化させて第2表面被覆層を形成し、その後離型することを特徴とする転写物の製造方法。
【0025】
(15)前記転写物は、第2基材が第1基材と同一の透光材料からなり、第2表面被覆層が第1表面被覆層と同一の透光材料からなり、前記転写用型の型面を形成するための反転転写用型である前記(14)に記載の転写物の製造方法。
【0026】
(16)前記所定の樹脂は、紫外線照射により硬化する物性を持つ樹脂である前記(14)または(15)に記載の転写物の製造方法。
【0027】
(17)前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の転写用型を用いて、その第1表面被覆層の型面の微細な凹凸形状が転写された転写物を製造する方法であって、第3基材に前記転写用型を押し当てた状態でこの転写用型の型面の裏側から光を照射することにより、前記樹脂を軟化させて前記第3基材の表面に前記転写用型の型面の微細凹凸形状を転写し、その後冷却して離型することを特徴とする転写物の製造方法。
【0028】
(18)前記第3基材は、光の照射によって軟化する物性を持つプラスチック材料からなる前記(17)に記載の転写物の製造方法。
【0029】
(19)前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の転写用型を用いて、その表面被覆層の型面の微細な凹凸形状が転写された転写物を製造する方法であって、第4基材上に熱軟化樹脂を塗布し、この塗布した熱軟化樹脂に、前記転写用型を押し当てた状態で、前記熱軟化樹脂を軟化点以上に加熱して軟化させた後、軟化点未満に冷却して第3表面被覆層を形成し、その後離型することを特徴とする転写物の製造方法。
【0030】
(20)第4基材がガラス材料からなり、第3表面被覆層が熱可塑性樹脂からなる前記(19)記載の転写物の製造方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、ゾルゲル法を用い複層構造を形成することにより、光透過性及び耐破壊性に優れた転写用型、特にナノインプリントに適する転写用型の提供が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図2(a)~(c)は、本発明の転写用型の製造方法の工程を示したものであり、図中1は転写用型、2は基材、3は第1表面被覆層、4は型面、そして5は原型(反転転写用型)である。本発明の転写用型1は、第1基材2と第1表面被覆層3との被覆構造で構成されている。
【0033】
本発明者は、転写用型において高透過性と耐破壊性を向上させるため鋭意検討を行った。その結果、転写用型を単一材料で構成する場合に比べて、透光材料からなる第1基材2と該第1基材2上にゾルゲル法により形成され、前記第1基材2よりも低屈折率の透光材料からなり所定の微細凹凸形状が付与された型面をもつ第1表面被覆層3との複層構造で構成する場合の方が、光透過性が格段に向上し、さらに第1表面被覆層3の存在により、耐破壊性も向上することを見出した。すなわち本発明の転写用型は、具体的には透光材料からなる第1基材と該第1基材上にゾルゲル法により形成され、前記第1基材よりも低屈折率の透光材料からなり所定の微細凹凸形状が付与された型面をもつ第1表面被覆層との複層構造を有することことにある。
【0034】
第1基材2は、結晶質材料、非晶質材料もしくは結晶化ガラス材料からなることが好ましい。前記結晶質材料としては例えばシリコンが挙げられ、前記非晶質材料としては例えば石英、ソーダライムガラスもしくはボロシリケートガラスが挙げられ、そして前記結晶化ガラス材料としては例えば結晶成分がβ−石英固溶体結晶もしくはβ−ユークリプタイト固溶体を主たる結晶成分として含む結晶化ガラス材料が挙げられる。ここで、「主たる」とはこの成分を50質量%以上含むことを示す。特に耐熱性を重視する場合には、結晶化ガラス材料であるゼロデュア(登録商標)およびクリアセラム(登録商標)のような、いわゆるゼロ膨張ガラスを用いることが好ましい。
【0035】
第1被覆層3は、RSi(OC2H5)3、RSi(OCH3)3、およびRSiCl3の少なくとも1つの化合物と、酸水溶液とで主として構成されるゾル液を用いて形成することが好ましい。ここでRはH、CH3、C2H5、およびC6H5の群から選択される官能基である。酸水溶液は加水分解に必須であり、HCl、H2SO4、HCOOH、CH3COOHおよびHNO3の群から選択される酸を水で希釈して0.01〜1.0Mのものを使用することが好適である。ここで、0.01M未満であるとゲル化反応が遅くプロセス時間が長くなる傾向があり、1.0Mを超えると硬化が速すぎて成形できないおそれがある。またゾル溶液中にさらにポリエチレングリコールおよび/またはアルコールを含有させることが好ましい。Si原料がSi(OC2H5)4のみからなる場合には、ポリエチレングリコールをゾル液中に5〜20質量%含有させることが好ましく、5質量%未満であると膜硬度が高すぎて成形できないおそれがあり、20質量%を超えると硬化しにくくなるおそれがある。またポリエチレングリコールの分子量は400〜2000であることが好ましく、分子量が400未満であると膜硬度が高すぎて成形できないおそれがあり2000を超えると硬化しにくくなるおそれがある。アルコールは、エタノール、メタノールおよびイソプロピルアルコールの群から選択され、ゾル溶液中のアルコール含有量は10〜40質量部であることが好ましい。10質量部未満であると液の均一撹拌が困難となり40質量部を超えると十分な塗膜厚みが得られないおそれがある。
【0036】
また本発明では、転写用型の裏側を表面での反射を抑制するため、第1表面被覆層を構成する透光材料の屈折率を第1基材よりも低屈折率にする。具体的には、第1表面被覆層の屈折率を1.40〜1.56とし、これらの屈折率の差を大きくすることが好ましい。あるいは第1基材をシリコンにした場合は、屈折率は4.2程度であるので被覆層との間で十分な屈折率差が得られる。さらに、型面の微細凹凸形状は、具体的には10〜1000nmの凹凸形状を意味する。
【0037】
さらに、転写用型1は第1表面被覆層の上にさらに離型層を有することが好ましい。尚、本発明において第1表面被覆層3を形成するゾル溶液中にRSi(OC2H5)3、RSi(OCH3)3、およびRSiCl3(Rは官能基)の少なくとも1つの化合物を含有する場合には、RがCH3、C2H5、C6H5の群から選択される疎水性の置換基であると、この置換基が離型性を有するため、この場合には離型層の形成は必ずしも必要としない。
【0038】
本発明の転写用型の製造方法は、透光材料からなる第1基材2上に所定のゾル液を塗布する工程と、原型(反転転写用型)を押し当てた状態で加熱、保持してゲル層を硬化させて所定の微細凹凸形状が付与された型面4を持つ第1表面被覆層3を形成する工程とを有する。前記加熱温度は50〜150℃とすることが好ましく、加熱温度が50℃未満であると硬化に長時間を要し、150℃超だと気泡が発生しやすい。保持時間は0.05〜2時間とすることが好ましく、保持温度が0.05時間未満であると硬化せず、2時間超であると熱処理コストの増加に伴って製造コストが増加する。この処理により第1被覆層3の表面に微細凹凸形状が付与され、RSi(OC2H5)3、RSi(OCH3)3、RSiCl3およびSi(OC2H5)4(Rは官能基)の少なくとも1つの化合物を加水分解した後、脱水縮合してゲル層を硬化させる。その後、該硬化したゲル層を焼成して膜中に残存する有機物を除去するにより本発明の転写用型を製造することができる。
【0039】
本発明による転写用型は光透過性が高く、高温でも安定であるため、転写用型の裏側から光を照射することにより、光硬化性樹脂、熱硬化樹脂等の様々な材料を変形させて、型面の微細な凹凸形状が転写された転写物を製造することができる。また、この製造方法により製造した転写用型を用いて、電子線描画法等により作製した高価な原型を複製することも可能である。さらに、本発明の転写用型は複層構造であるため剛性が高く繰り返し転写をしても単一材料の転写用型よりも割れにくい。
【0040】
次に本発明に従う転写物の製造方法について説明する。
【0041】
前記転写用型を用いた第1の転写物の製造法は、まず第2基材上に、紫外線等の光を照射することによって硬化する物性を持つ樹脂を塗布し、この塗布した樹脂に前記転写用型を押し当てた状態でこの転写用型の型面の裏側から所定の光を照射することにより前記樹脂を硬化させて第2表面被覆層を形成する。その後離型することによってその表面被覆層の型面に微細な凹凸形状が転写された転写物を製造する。
【0042】
前記転写用型を用いた第2の転写物の製造法は、第3基材、好適には光の照射によって軟化する物性を持つプラスチック材料からなる第3基材上に前記転写用型を押し当てた状態で転写用型の型面の裏側から光を照射し、前記樹脂を軟化させて前記第3基材の表面に前記転写用型の型面の微細凹凸形状を転写し、その後冷却して離型することによって、その前記第3基材の表面に微細な凹凸形状が転写された転写物を製造する。
【0043】
前記転写用型を用いた第3の転写物の製造法は、まず第4基材上にPMMA、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリイミドおよびポリアミドの群から選択される熱可塑性樹脂を塗布し、この塗布した樹脂に前記転写用型を押し当てた状態で軟化点以上に加熱し、その後軟化点未満に冷却することによって前記樹脂を硬化させて第3表面被覆層を形成する。その後離型することによってその表面被覆層の型面に微細な凹凸形状が転写された転写物を製造する。また、軟化点はそれぞれ選択した樹脂の物性値による。このように製造した転写物は、転写用型の型面が精度良く転写された転写物であるが、特に本発明では電子線描画法等により作製した高価な原型である反転転写用型を製造することができる点で有利である。
【0044】
尚、上述したところは本発明の実施形態の一例を示したにすぎず、特許請求の範囲内において種々の態様を取ることができる
【実施例】
【0045】
(実施例1)
原型(反転転写用型)としては電子線描画法により作製した溝付き基板を用い、0.05molのSi(OC2H5)4を主成分とし、0.1Mの酸水溶液を0.3mol、分子量600のポリエチレングリコールを0.005mol、およびエタノールを0.25mol加えたゾル液を石英基板に塗布した。この石英基板に原型を押し当てた状態で60℃で2時間保持し、ゲル膜を硬化させた。硬化したゲル膜を500℃で焼成し、膜内に残る有機物を除去することにより転写用型を得た。得られた転写用型の型面に離型処理を施した後、ナノインプリント転写用型としての性能を検討した。
【0046】
まず、紫外線硬化樹脂を基材に塗布し、前記転写用型を押し当てて型面の裏側から紫外線を照射した。その後、離型することで転写用型の微細凹凸形状が紫外線硬化樹脂に転写されていることがAFM(原子間力顕微鏡)評価により確認できた。
【0047】
次に別の基材にPMMAを溶剤に溶かし前記基材に塗布した後、軟化点まで加熱し軟化させた状態で前記転写用型を押し当て軟化点未満に温度を下げた後、離型した。得られたPMMAは転写用型と同様の微細凹凸構造が転写されていることがAFM評価により確認できた。以上の結果から、今回の転写用型が光ナノインプリントや熱ナノインプリントの転写用型として利用できることが実証された。
【0048】
またそれぞれの転写後に離型する際に転写用型の表面の一部に基材を当てることで傷を付けたが、その後繰り返し転写、離型テストを30回実施しても型が割れることはなく、転写された微細凹凸構造も問題ないことがAFM評価により確認できた。傷を詳細に確認したところ、転写用型の表面被覆層のみに傷が認められたが基材までは傷が到達していないことがSEM(走査電子顕微鏡)評価により判明した。
【0049】
以上の結果から、本発明の転写用型は基材上に剛性の高い無機材料の微細凹凸を容易に形成でき、2層からなる被覆層構造のため傷など発生しても割れにくく紫外線が透過するため、これを転写用型として用いることで光ナノインプリントや熱ナノインプリントが容易に行うことができ、微細凹凸形状を持つ光学素子などを安価に提供できることが明らかになった。
【0050】
(実施例2)
原型(反転転写用型)としては電子線描画法により作製した溝付き基板を用い、0.05molのSi(OC2H5)4を主成分とし、0.1Mの酸水溶液を0.3mol、分子量400のポリエチレングリコールを0.005mol、およびエタノールを0.25mol加えたゾル液をシリコン基板に塗布した。このシリコン基板に原型を押し当てた状態で60℃で2時間保持し、ゲル膜を硬化させた。硬化したゲル膜を500℃で焼成し、膜内に残る有機物を除去することにより樹脂転写用の転写用型を得た。得られた転写用型の型面に離型処理を施した後、ナノインプリント転写用型としての性能を検討した。
【0051】
まず、得られた転写用型は赤外線を透過することが分光光度計評価で確認できた。プラスチック基板にこの型を接合した状態で型面の裏側からCO2レーザーを照射することにより樹脂を軟化させて型面を転写した後、冷却してから離型することで転写用型の微細凹凸形状をプラスチック基板上に転写できることがAFMによる評価により確認できた。また、転写用型として20回使用しても破損せず、転写された微細凹凸構造も問題ないことがAFM評価により確認できた。
【0052】
以上の結果から、基板にシリコンを選択して本発明の転写用型を作製した場合、型面の裏側から赤外線を照射することによって、赤外線によって軟化する転写材料の表面に型面の微細凹凸構造を転写できることが実証できた。
【0053】
(実施例3)
原型(反転転写用型)としては電子線描画法により作製した溝付き基板を用い、0.05molのCH3(OC2H5)3を主成分とし、0.1Mの酸水溶液を0.2mol、およびエタノールを0.05mol加えたゾル液をソーダライムガラス基板上に塗布した。このソーダライムガラス基板に原型を押し当てた状態で60℃、2時間保持しゲル膜を硬化させた。さらに300℃で焼成した後、硬化したゲル膜を原型から離型処理し得られた溝付き基板を焼成すること樹脂転写用の転写用型を得た。
【0054】
得られた基板を転写用型として使用して、ガラス基板上に塗布したPMMAに対して軟化点まで加熱してこの型を加圧した後冷却し、軟化点未満の温度で離型することにより転写物を得た。この転写物をAFM評価した結果、確かに原型の微細構造が転写されていることが確認された。
【0055】
離型する際に転写用型の表面被覆層に基材を当てることによって傷を付けたが、この後繰り返し転写、離型を実施しても転写用型が割れなかった。詳細に傷を観察したところ、表面被覆層のゾルゲル膜には傷があるものの基材までは達していないことがSEMによる評価により判明した。また、離型剤なしで10回転写、離型することができた。
【0056】
以上の結果により、本発明の転写用型は樹脂の軟化点以上においても表面の微細凹凸構造が維持されるため、熱ナノインプリントの転写用型として使用できることが明らかになった。
【0057】
(比較例)
石英上にレジストを塗布し、電子線描画もしくは現像により微細溝パターンを形成したレジストをマスクとしてドライエッチングにより石英基板上に微細溝パターンを形成し、この後離型処理を施して転写用型とした。基板上に塗布したPMMAを加熱して軟化させここに転写用型を押し当て、軟化点未満まで温度を下げた後離型することによって転写用型の型面形状を樹脂に転写した。これと同様の繰り返し転写、離型を行ったところ、誤って基材の角を転写用型にぶつけて傷を付けてしまった。その後繰り返し転写、離型実験を行ったところ、3回目の離型時に転写用型が破損した。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、ゾルゲル法を用い、複層構造を形成することにより、簡便かつ安価に光透過性及び耐破壊性に優れた転写用型、特にナノインプリントに適する転写用型の提供が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】従来の原版作製プロセスを示す図である。
【図2】本発明に伴う転写用型の製造方法の主要工程を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0060】
1転写用型
2基材
3第1表面被覆層
4型面
5原型(又は反転転写用型)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光材料からなる第1基材と、該第1基材上にゾルゲル法により形成され、前記第1基材よりも低屈折率の透光材料からなり所定の微細凹凸形状が付与された型面をもつ第1表面被覆層との複層構造を有することを特徴とする転写用型。
【請求項2】
前記第1基材は結晶質材料、非晶質材料もしくは結晶化ガラス材料からなる請求項1に記載の転写用型。
【請求項3】
前記結晶質材料はシリコンである請求項2に記載の転写用型。
【請求項4】
前記非晶質材料は石英、ソーダライムガラスもしくはボロシリケートガラスからなる請求項2に記載の転写用型。
【請求項5】
前記結晶化ガラス材料は、結晶成分がβ−石英固溶体結晶もしくはβ−ユークリプタイト固溶体を主たる析出結晶として含む結晶化ガラス材料である請求項2に記載の転写用型。
【請求項6】
前記第1表面被覆層は、RSi(OC2H5)3、RSi(OCH3)3およびRSiCl3(Rは官能基)で表される少なくとも1種の化合物と酸水溶液とで主として構成されるゾル液を用いて形成してなる請求項1〜5のいずれかに記載の転写用型。
【請求項7】
転写用型は第1表面被覆層の上にさらに離型層を有する請求項1〜6のいずれかに記載の転写用型。
【請求項8】
透光材料からなる第1基材上に所定のゾル液を塗布する工程と、原型を押し当てた状態で加熱、保持してゲル層を硬化させて所定の微細凹凸形状が付与された型面を持つ第1表面被覆層を形成する工程を有する転写用型の製造方法。
【請求項9】
前記第1基材は結晶質材料、非晶質材料もしくは結晶化ガラス材料からなる請求項8に記載の転写用型の製造方法。
【請求項10】
前記結晶質材料はシリコンである請求項9に記載の転写用型の製造方法。
【請求項11】
前記非晶質材料は石英、ソーダライムガラスもしくはボロシリケートガラスからなる請求項9に記載の転写用型の製造方法。
【請求項12】
前記結晶化ガラス材料は、結晶成分がβ−石英固溶体結晶もしくはβ−ユークリプタイト固溶体を主たる析出結晶として含む結晶化ガラス材料である請求項9に記載の転写用型の製造方法。
【請求項13】
前記所定のゾル液がRSi(OC2H5)3、RSi(OCH3)3およびRSiCl3(Rは官能基)で表される少なくとも1種の化合物と酸水溶液とを含有する組成を有する請求項8〜12のいずれか1項に記載の転写用型の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の転写用型を用いて、その表面被覆層の型面の微細な凹凸形状が転写された転写物を製造する方法であって、第2基材上に所定の樹脂を塗布しこの塗布した樹脂に前記転写用型を押し当てた状態でこの転写用型の型面の裏側から光を照射することにより前記樹脂を硬化させて第2表面被覆層を形成し、その後離型することを特徴とする転写物の製造方法。
【請求項15】
前記転写物は、第2基材が第1基材と同一の透光材料からなり、第2表面被覆層が第1表面被覆層と同一の透光材料からなり、前記転写用型の型面を形成するための反転転写用型である請求項14に記載の転写物の製造方法。
【請求項16】
前記所定の樹脂は、紫外線照射により硬化する物性を持つ樹脂である請求項14または15に記載の転写物の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の転写用型を用いて、その第1表面被覆層の型面の微細な凹凸形状が転写された転写物を製造する方法であって、第3基材に前記転写用型を押し当てた状態でこの転写用型の型面の裏側から光を照射することにより、前記樹脂を軟化させて前記第3基材の表面に前記転写用型の型面の微細凹凸形状を転写し、その後冷却して離型することを特徴とする転写物の製造方法。
【請求項18】
前記第3基材は、光の照射によって軟化する物性を持つプラスチック材料からなる請求項17に記載の転写物の製造方法。
【請求項19】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の転写用型を用いて、その表面被覆層の型面の微細な凹凸形状が転写された転写物を製造する方法であって、第4基材上に熱軟化樹脂を塗布し、この塗布した熱軟化樹脂に、前記転写用型を押し当てた状態で、前記熱軟化樹脂を軟化点以上に加熱して軟化させた後、軟化点未満に冷却して第3表面被覆層を形成し、その後離型することを特徴とする転写物の製造方法。
【請求項20】
第4基材がガラス材料からなり、第3表面被覆層が熱可塑性樹脂からなる請求項19記載の転写物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−233855(P2009−233855A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199900(P2006−199900)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】