説明

転動装置部品の検査方法及び転動装置部品用検査装置

【課題】転動装置部品の表面に付着した異物の影響を受けることなく地疵などの欠陥が転動装置部品の内部に存在しているか否かを精度よく検査することのできる転動装置部品の検査方法を提供する。
【解決手段】地疵などの欠陥が転動装置部品の内部にあるか否かを電磁誘導センサ11により検査する際に、転動装置部品の表面に異物除去部材17を軽く押し当て、転動装置部品の表面に付着した異物19を異物除去部材17により電磁誘導センサ11の手前で除去しながら欠陥の有無を検査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受、ボールねじ、直動案内軸受装置等の転動装置の部品を検査する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ころ軸受の転動体素材や軌道輪素材として用いられる棒鋼は、一般に、鋼材を圧延して製鋼される。このため、地疵などの欠陥が棒鋼の内部に存在していることが多く、従って、ころ軸受の転動体素材や軌道輪素材として棒鋼を用いる場合には、地疵などの欠陥が棒鋼の内部に存在しているか否かを検査する必要がある。
地疵などの欠陥が棒鋼の内部に存在しているか否かを検査する場合、棒鋼を軸心回りに回転させながら欠陥の有無を電磁誘導により検査することが考えられる。また、これらの素材を鍛造等に型取りした研削加工や超仕上げ加工前の前加工を施した部材にも適用可能である。さらに、研削加工や超仕上げ加工した後の部品にも適用可能である。
【0003】
しかしながら、棒鋼を軸心回りに回転させながら欠陥の有無を電磁誘導により検査する場合、棒鋼の表面に異物が付着していると棒鋼の内部に存在している欠陥を精度よく検出することが困難になるという問題がある。
また、地疵などの欠陥が転動装置部品の内部に存在するか否かを検査する方法としては、超音波探傷を利用した検査方法がある(例えば、特許文献1参照)。しかし、この検査方法は超音波探傷プローブと被検査面との間に油、水等の超音波伝達媒体を介在させる必要があるため、検査後に被測定物を洗浄する必要があり、検査コストの上昇を招くなどの問題がある。
【特許文献1】特開平11−337537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上述した問題点に着目してなされたものであり、その目的は、転動装置部品の表面に付着した異物の影響を受けることなく地疵などの欠陥が転動装置部品の内部に存在しているか否かを精度よく検査することのできる転動装置部品の検査方法及び転動装置部品用検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、転動装置部品に交流磁界を付与する励磁コイルと、この励磁コイルから転動装置部品に付与された交流磁界の磁束密度の変化を検出するための誘導コイルとを有する電磁誘導センサを用い、かつ前記転動装置部品と前記電磁誘導センサを相対移動させながら前記転動装置部品の表面または内部に存在する欠陥、表面硬さ、焼入れ深さ、金属組織変化、異材混入のいずれかを検査する転動装置部品の検査方法であって、前記転動装置部品を検査する際に前記転動装置部品の表面に異物除去部材の先端を軽く接触させ、前記転動装置部品の表面に付着した異物を前記異物除去部材により前記電磁誘導センサの手前で除去しながら前記転動装置部品の検査を行うことを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、請求項1記載の転動装置部品の検査方法において、前記異物除去部材が弾性体であることを特徴とする。
請求項3記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、請求項2記載の転動装置部品の検査方法において、前記弾性体が刷毛、ウレタン、ゴム、プラスチックのいずれかであることを特徴とする。
【0007】
請求項4記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、転動装置部品に交流磁界を付与する励磁コイルと、この励磁コイルから転動装置部品に付与された交流磁界の磁束密度の変化を検出するための誘導コイルとを有する電磁誘導センサを用い、かつ前記転動装置部品と前記電磁誘導センサを相対移動させながら前記転動装置部品の表面または内部に存在する欠陥、表面硬さ、焼入れ深さ、金属組織変化、異材混入のいずれかを検査する転動装置部品の検査方法であって、前記電磁誘導センサの先端面を前記転動装置部品の表面形状に合わせた形状としたことを特徴とする。
【0008】
請求項5記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、請求項4記載の転動装置部品の検査方法において、前記電磁誘導センサと前記転動装置部品は交流磁界の磁力線が前記転動装置部品に対して90度となるように、それぞれの形状が規定されていることを特徴とする。
請求項6記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、請求項1〜5のいずれか一項記載の転動装置部品の検査方法において、前記転動装置部品の素材が棒鋼であることを特徴とする。
【0009】
請求項7記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、請求項1〜5のいずれか一項記載の転動装置部品の検査方法において、被検出部材は素材となる部材を鍛造により、転動装置部品として型取りした部材であることを特徴とする。
請求項8記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、請求項1〜5のいずれか一項記載の転動装置部品の検査方法において、被検出部材は転動装置部品として研削加工または超仕上げ加工した部材であることを特徴とする。
【0010】
請求項9記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、転動装置部品に交流磁界を付与する励磁コイルと、この励磁コイルから転動装置部品に付与された交流磁界の磁束密度の変化を検出するための誘導コイルとを有する電磁誘導センサを用い、かつ前記転動装置部品と前記電磁誘導センサを相対移動させながら前記転動装置部品の表面または内部に存在する欠陥、表面硬さ、焼入れ深さ、金属組織変化、異材混入のいずれかを検査する転動装置部品の検査方法であって、前記転動装置部品を検査する際に前記転動装置部品の表面に異物除去部材の先端を接触させ、前記転動装置部品の表面に付着した異物を前記異物除去部材により前記電磁誘導センサの手前で除去しながら前記転動装置部品の検査を行うようにし、かつ前記電磁誘導センサの先端面を前記転動装置部品の表面形状に合わせて検査を行うようにしたことを特徴とする。
【0011】
請求項10記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、請求項1記載の検査方法に用いられる転動装置部品用検査装置であって、転動装置部品に交流磁界を付与する励磁コイルと該励磁コイルから転動装置部品に付与された交流磁界の磁束密度の変化を検出するための誘導コイルとを有する電磁誘導センサと、前記誘導コイルに発生した誘導起電力の振幅と位相のうち少なくとも一方の変化量を測定するデータ処理部と、前記データ処理部の出力を閾値と比較して合否判定する判定部とを具備したことを特徴とする。
【0012】
請求項11記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、請求項4記載の検査方法に用いられる転動装置部品用検査装置であって、転動装置部品に交流磁界を付与する励磁コイルと該励磁コイルから転動装置部品に付与された交流磁界の磁束密度の変化を検出するための誘導コイルとを有する電磁誘導センサと、前記誘導コイルに発生した誘導起電力の振幅と位相のうち少なくとも一方の変化量を測定するデータ処理部と、前記データ処理部の出力を閾値と比較して合否判定する判定部とを具備したことを特徴とする。
【0013】
請求項12記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、請求項9記載の検査方法に用いられる転動装置部品用検査装置であって、転動装置部品に交流磁界を付与する励磁コイルと該励磁コイルから転動装置部品に付与された交流磁界の磁束密度の変化を検出するための誘導コイルとを有する電磁誘導センサと、前記誘導コイルに発生した誘導起電力の振幅と位相のうち少なくとも一方の変化量を測定するデータ処理部と、前記データ処理部の出力を閾値と比較して合否判定する判定部とを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、転動装置部品の表面に付着した異物が異物除去部材により電磁誘導センサの手前で除去されるため、転動装置部品の表面に付着した異物によって検査精度が低下することを防止することができる。また、地疵などの欠陥が転動装置部品の内部に存在しているか否かを検査する際に、超音波探傷法を利用しないで済み、検査後に転動装置部品を洗浄する必要がないので、検査コストの上昇を招くことなく転動装置部品を精度よく検査することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
本発明の第1の実施形態に係る転動装置部品用検査装置の概略構成を図1に示す。同図に示される転動装置部品用検査装置は、転動装置部品等の被測定物1に交流磁界を付与する励磁コイル2と、この励磁コイル2のインピーダンス変化量を検出するインピーダンス変化検出回路(データ処理部)3と、このインピーダンス変化検出回路3で検出された励磁コイル2のインピーダンス変化量を予め設定された閾値と比較して欠陥等の有無を判定する判定装置(判定部)4と、この判定装置4の判定結果を表示する表示装置5とを備えており、判定装置4は、インピーダンス変化検出回路3で検出された励磁コイル2のインピーダンス変化量が閾値より大きいと転動装置部品の内部に地疵などの欠陥が存在すると判定するように構成されている。
【0016】
また、第1の実施形態に係る転動装置部品用検査装置は記録装置6を備えており、判定装置4の判定結果は記録装置6により記録用紙等の記録媒体に記録されるようになっている。なお、図1中7は励磁コイル2に交流電流を供給する交流電源である。
このように構成される転動装置部品用検査装置を用いて転動装置部品の内部に地疵などの欠陥が存在するか否かを検査する場合は、先ず、転動装置部品の表面に励磁コイル2を近づけ、この状態で交流電源7から励磁コイル2に交流電流を供給すると、励磁コイル2が励磁状態となることによって励磁コイル2から転動装置部品に交流磁界が付与される。このとき、転動装置部品に付与された交流磁界の磁束密度は転動装置部品の内部に存在する欠陥の大きさに応じて変化し、励磁コイル2のインピーダンスは交流磁界の磁束密度に応じて変化する。
【0017】
したがって、励磁コイル2のインピーダンス変化量をインピーダンス変化検出回路3で測定し、その測定値を予め設定された閾値と比較することによって、転動装置部品の内部に地疵などの欠陥が存在するか否かを精度よく検査することができる。よって、地疵などの欠陥を探傷する方式として超音波探傷を用いた場合のように、超音波探傷プローブと被検査面との間に油、水等の超音波伝達媒体を介在させる必要がなく、検査後の洗浄工程が不要となるので、検査コストの上昇を抑えることができる。
【0018】
次に、本発明の第2の実施形態に係る転動装置部品用検査装置の概略構成を図2に示す。同図に示される転動装置部品用検査装置は棒鋼等の被測定物1に交流磁界を付与する励磁コイル11aと、この励磁コイル11aから被測定物1に付与された交流磁界の磁束密度の変化を検出するための誘導コイル11bとを備えており、これらの両コイル11a,11bは1つの筐体内に収容されて電磁誘導センサ11を構成している。
【0019】
また、第2の実施形態に係る転動装置部品用検査装置は誘導コイル11bのインダクタンス変化(誘導コイル11bに発生した誘導起電力の大きさ)を検出するインダクタンス変化検出回路(データ処理部)12と、このインダクタンス変化検出回路12で検出された誘導コイル11bのインダクタンス変化を予め設定された閾値と比較して欠陥の有無を判定する判定部としての判定装置13と、この判定装置13の判定結果を表示する表示装置14とを備えており、判定装置13では、誘導コイル11bに発生した誘導起電力の振幅変化量または位相変化量が閾値より大きいと被測定物1の内部に欠陥が存在すると判定するように構成されている。
【0020】
さらに、第2の実施形態に係る転動装置部品用検査装置は記録装置15を備えており、判定装置13の判定結果は記録装置15により記録用紙等の記録媒体に記録されるようになっている。
図3は円筒ころ軸受の転動体素材や軌道輪素材として用いられる棒鋼の内部に欠陥が存在するか否かを電磁誘導センサにより検査するときの方法を説明するための図であり、以下、同図を参照して本発明に係る検査方法を説明する。
【0021】
棒鋼の内部に欠陥が存在するか否かを検査する場合は、図3に示すように、刷毛あるいはウレタン、ゴム、プラスチック等の弾性体からなる異物除去部材17を棒鋼16の表面に軽く押し当てる。次に、この状態で棒鋼16の表面に電磁誘導センサ11を近づけた後、棒鋼16を図中矢印方向に回転させる。そして、電磁誘導センサ11の励磁コイル11aに交流電流を供給し、励磁コイル11aから棒鋼16に交流磁界を付与すると、電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに誘導起電力が発生する。このとき、電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに発生した誘導起電力は棒鋼16に付与された交流磁界の磁束密度に応じて変化し、交流磁界の磁束密度は棒鋼16の内部に存在する地疵などの欠陥の大きさに応じて変化する。
【0022】
したがって、電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに発生した誘導起電力の振幅変化量または位相変化量をインダクタンス変化検出回路12で検出し、インダクタンス変化検出回路12で検出された誘導起電力の振幅変化量または位相変化量を予め設定された閾値と比較することで、地疵などの欠陥が棒鋼16の内部に存在しているか否かを精度よく検査することができる。これにより、地疵などの欠陥を探傷する方式として超音波探傷を用いた場合のように、超音波探傷プローブと被検査面との間に油、水等の超音波伝達媒体を介在させる必要がなく、検査後の洗浄工程が不要となるので、検査コストの上昇を抑えることができる。
【0023】
また、地疵などの欠陥が棒鋼16の内部に存在しているか否かを電磁誘導センサ11により検査する際に、刷毛あるいは弾性体からなる異物除去部材17を棒鋼16の表面に軽く押し当てると、棒鋼16の表面に付着した異物19(図3参照)が異物除去部材17により電磁誘導センサ11の手前で除去される。したがって、棒鋼16の表面に付着した異物19によって検査精度が低下することを防止することができる。
【0024】
上述した第2の実施形態では、検査対象物として棒鋼を例示したが、棒鋼以外のものでも本発明を適用することができる。また、棒鋼の内部に存在する欠陥の有無を検査する場合を例示したが、たとえば、表面硬さ、焼入れ深さ、金属組織変化、異材混入の有無などを検出する場合にも本発明を適用することができる。
次に、図4〜図6を参照して本発明の第3の実施形態について説明する。
【0025】
図4は本発明の第3の実施形態に係る転動装置部品用検査装置の概略構成を示す図であり、同図に示される転動装置部品用検査装置は、もみ抜き保持器20を載置するためのターンテーブル21と、このターンテーブル21の上方に設けられた電磁誘導センサ11と、この電磁誘導センサ11をターンテーブル21の上面に対して垂直に支持する支持軸22と、この支持軸22を介して電磁誘導センサ11をX軸回り(図中矢印θ方向)に揺動駆動するセンサ揺動機構23と、このセンサ揺動機構23を介して電磁誘導センサ11を図中Z軸方向に昇降駆動するセンサ昇降機構24と、電磁誘導センサ11を図中X軸方向及びY軸方向に動かして電磁誘導センサ11を位置決めするセンサ位置決め機構25と、ターンテーブル21を図中X軸方向に動かしてもみ抜き保持器20を位置決めする位置決め機構26とを備えている。
【0026】
電磁誘導センサ11の概略構成を図5に示す。同図に示されるように、電磁誘導センサ11は被検査物に交流磁界を付与する励磁コイル11aと、この励磁コイル11aから被検査物に付与された交流磁界の磁束密度の変化を検出するための誘導コイル11bとからなり、励磁コイル11a及び誘導コイル11bは1つの筐体内に収容されている。なお、図4中27は円筒ころ軸受の外輪、28は円筒ころ軸受のころを示している。
【0027】
このような構成の転動装置部品用検査装置を用いてもみ抜き保持器20の内部に巣などの欠陥が存在しているか否かを検査する場合は、もみ抜き保持器20をターンテーブル21上に載置した後、刷毛あるいはウレタン、ゴム、プラスチック等の弾性体からなる異物除去部材17をもみ抜き保持器20の端面に軽く押し当てる。次に、センサ揺動機構23、センサ昇降機構24、センサ位置決め機構25及び位置決め機構26を駆動して電磁誘導センサ11をもみ抜き保持器20の端面に近づけると共に、ターンテーブル21を図中反時計方向に回転させる。そして、この状態で電磁誘導センサ11の励磁コイル11aに交流電流を供給してもみ抜き保持器20に交流磁界18(図6参照)を付与すると、電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに誘導起電力が発生する。このとき、誘導コイル11bに発生した誘導起電力の大きさはもみ抜き保持器20に付与された交流磁界18の磁束密度に応じて変化し、交流磁界18の磁束密度はもみ抜き保持器20の内部に存在する欠陥の大きさに応じて変化する。
【0028】
したがって、電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに発生した誘導起電力の振幅変化量または位相変化量を測定し、その測定値を予め設定された閾値と比較することで、巣などの欠陥がもみ抜き保持器20の内部に存在するか否かを精度よく検査することができる。
また、巣などの欠陥がもみ抜き保持器20の内部に存在するか否かを電磁誘導センサ11により検査する際に、刷毛あるいはウレタン、ゴム、プラスチック等の弾性体からなる異物除去部材17をもみ抜き保持器20の端面に軽く押し当てると、もみ抜き保持器20の端面に付着した異物が異物除去部材17により電磁誘導センサ11の手前で除去される。したがって、もみ抜き保持器20の端面に付着した異物によって検査精度が低下することを防止することができる。
【0029】
図7に、本発明の第4の実施形態に係る転動装置部品用検査装置の概略構成を示す。同図に示される転動装置部品用検査装置は、もみ抜き保持器20を載置するためのターンテーブル21と、このターンテーブル21の上方に設けられた電磁誘導センサ11と、この電磁誘導センサ11をターンテーブル21の上面に対して水平に支持する支持軸29とを備えており、電磁誘導センサ11には、刷毛あるいはウレタン、ゴム、プラスチック等のの弾性体からなる二つの異物除去部材17,17がもみ抜き保持器20の内周面に接触するように設けられている。
【0030】
また、第4の実施形態に係る転動装置部品用検査装置は、支持軸29を介して電磁誘導センサ11をZ軸回り(図中矢印θ方向)に揺動駆動するセンサ揺動機構30と、このセンサ揺動機構30を介して電磁誘導センサ11を図中Z軸方向に昇降駆動するセンサ昇降機構24と、電磁誘導センサ11を図中X軸方向及びY軸方向に動かして電磁誘導センサ11を位置決めするセンサ位置決め機構25とを備えており、ターンテーブル21は検査対象物を位置決めする位置決め機構26により図中X軸方向に移動可能となっている。
【0031】
なお、電磁誘導センサ11は、図3に示すように、検査物に交流磁界を付与する励磁コイル11aと、この励磁コイル11aから被検査物に付与された交流磁界の磁束密度の変化を検出するための誘導コイル11bとから構成されている。
このような構成の転動装置部品用検査装置を用いてもみ抜き保持器20の内部に巣などの欠陥が存在しているか否かを検査する場合は、先ず、もみ抜き保持器20をターンテーブル21上に載置する。次に、センサ揺動機構30、センサ昇降機構24、センサ位置決め機構25及び位置決め機構26を駆動して電磁誘導センサ11の先端をもみ抜き保持器20の内周面に近づけた後、ターンテーブル21を図中反時計方向に回転させる。そして、この状態で電磁誘導センサ11の励磁コイル11aに交流電流を供給してもみ抜き保持器20に交流磁界を付与すると、電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに誘導起電力が発生する。このとき、誘導コイル11bに発生した誘導起電力の大きさはもみ抜き保持器20に付与された交流磁界の磁束密度に応じて変化し、交流磁界の磁束密度はもみ抜き保持器20の内部に発生した欠陥の大きさに応じて変化する。
【0032】
したがって、電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに発生した誘導起電力の振幅変化量または位相変化量を測定し、その測定値を予め設定された閾値と比較することで、巣などの欠陥がもみ抜き保持器20の内部に存在しているか否かを精度よく検査することができる。
また、電磁誘導センサ11の先端をもみ抜き保持器20の内周面に近づけると、電磁誘導センサ11に設けられた二つの異物除去部材17,17がもみ抜き保持器20の内周面に接触する。そして、異物除去部材17,17がもみ抜き保持器20の内周面に接触すると、もみ抜き保持器20の内周面に付着した異物が異物除去部材17,17により電磁誘導センサ11の手前で除去される。したがって、もみ抜き保持器20の内周面に付着した異物によって検査精度が低下することを防止することができる。
【0033】
図8に、本発明の第5の実施形態に係る転動装置部品用検査装置の概略構成を示す。同図に示される転動装置部品用検査装置は、もみ抜き保持器20を載置するためのターンテーブル21と、このターンテーブル21の上方に設けられた電磁誘導センサ11と、この電磁誘導センサ11をターンテーブル21の上面に対して水平に支持する支持軸29と、この支持軸29を介して電磁誘導センサ11をZ軸回りに揺動駆動するセンサ揺動機構30と、このセンサ揺動機構30を介して電磁誘導センサ11を図中Z軸方向に昇降駆動するセンサ昇降機構24と、電磁誘導センサ11を図中X軸方向及びY軸方向に動かして電磁誘導センサ11を位置決めするセンサ位置決め機構25とを備えている。なお、電磁誘導センサ11は、図3に示すように、被検査物に交流磁界を付与する励磁コイル11aと、この励磁コイル11aから被検査物に付与された交流磁界の磁束密度の変化を検出するための誘導コイル11bとから構成されている。
【0034】
図9は電磁誘導センサ11の先端部を示す図であり、同図に示されるように、もみ抜き保持器20の内径を2R、もみ抜き保持器20の内周面20aと電磁誘導センサ11の先端面11cとの間のギャップをΔRとすると、電磁誘導センサ11の先端面11cはR−ΔRの曲率半径で曲面状に形成され、かつもみ抜き保持器20の内周面20aに対して凸状に湾曲している。
【0035】
このような構成の転動装置部品用検査装置を用いてもみ抜き保持器20の内部に巣などの欠陥が存在しているか否かを検査する場合は、先ず、もみ抜き保持器20をターンテーブル21上に載置した後、センサ揺動機構30、センサ昇降機構24及びセンサ位置決め機構25を駆動して電磁誘導センサ11の先端をもみ抜き保持器20の内周面に近づける。そして、この状態で電磁誘導センサ11の励磁コイル11aに交流電流を供給してもみ抜き保持器20に交流磁界を付与すると、電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに誘導起電力が発生する。このとき、誘導コイル11bに発生した誘導起電力の大きさはもみ抜き保持器20に付与された交流磁界の磁束密度に応じて変化し、交流磁界の磁束密度はもみ抜き保持器20の内部に発生した欠陥の大きさに応じて変化する。
【0036】
したがって、電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに発生した誘導起電力の振幅変化量または位相変化量を測定し、その測定値を予め設定された閾値と比較することで、巣などの欠陥がもみ抜き保持器20の内部に存在しているか否かを精度よく検査することができる。
また、電磁誘導センサ11の先端面11cをもみ抜き保持器20の内周面に合わせた形状にしたことで、誘導起電力の変化を感度よく捉えることができる。
【0037】
図10に、本発明の第6の実施形態に係る転動装置部品用検査装置の概略構成を示す。同図に示される転動装置部品用検査装置は、円筒ころ軸受の外輪27を載置するためのターンテーブル21と、このターンテーブル21の上方に設けられた電磁誘導センサ11と、この電磁誘導センサ11をターンテーブル21の上面に対して水平に支持する支持軸29と、この支持軸29を介して電磁誘導センサ11をZ軸回りに揺動駆動するセンサ揺動機構30と、このセンサ揺動機構30を介して電磁誘導センサ11を図中Z軸方向に昇降駆動するセンサ昇降機構24と、電磁誘導センサ11を図中X軸方向及びY軸方向に動かして電磁誘導センサ11を位置決めするセンサ位置決め機構25とを備えており、電磁誘導センサ11は、図5に示すように、被測定物に交流磁界を付与する励磁コイル11aと、この励磁コイル11aから被測定物に付与された交流磁界の磁束密度の変化を検出するための誘導コイル11bとから構成されている。電磁誘導センサ11の先端面は、誘導起電力の変化を感度よく捉えることができるよう、円筒ころ軸受の外輪外径面に合わせた凹形状としてある。
【0038】
このような構成の転動装置部品用検査装置を用いて外輪27の内部に地疵などの欠陥が存在しているか否かを検査する場合は、外輪27をターンテーブル21上に載置した後、刷毛あるいはウレタン、ゴム、プラスチック等の弾性体からなる異物除去部材17を外輪27の外周面に軽く押し当てる。次に、センサ揺動機構30、センサ昇降機構24及びセンサ位置決め機構25を駆動して電磁誘導センサ11を外輪27の外周面に近づけると共に、ターンテーブル21を図中時計方向に回転させる。そして、この状態で電磁誘導センサ11の励磁コイル11aに交流電流を供給して外輪27に交流磁界を付与すると、電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに誘導起電力が発生する。このとき、誘導コイル11bに発生した誘導起電力の大きさは外輪27に付与された交流磁界の磁束密度に応じて変化し、交流磁界の磁束密度は外輪27の内部に発生した欠陥の大きさに応じて変化する。
【0039】
したがって、電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに発生した誘導起電力の振幅変化量または位相変化量を測定し、その測定値を予め設定された閾値と比較することで、地疵などの欠陥が外輪27の内部に存在しているか否かを精度よく検査することができる。
また、地疵などの欠陥が外輪27の内部に存在しているか否かを電磁誘導センサ11により検査する際に、刷毛あるいはウレタン、ゴム、プラスチック等の弾性体からなる異物除去部材17を外輪27の外周面に接触させると、外輪27の外周面に付着した異物が異物除去部材17により電磁誘導センサ11の手前で除去される。したがって、外輪27の外周面に付着した異物によって検査精度が低下することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る転動装置部品用検査装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る転動装置部品用検査装置の概略構成を示す図である。
【図3】棒鋼の内部に欠陥が存在するか否かを電磁誘導センサにより検査するときの方法を説明するための図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る転動装置部品用検査装置を示す図である。
【図5】電磁誘導センサの概略構成を示す図である。
【図6】電磁誘導センサの励磁コイルから転動装置部品に付与される交流磁界を説明するための図である。
【図7】本発明の第4の実施形態に係る転動装置部品用検査装置を示す図である。
【図8】本発明の第5の実施形態に係る転動装置部品用検査装置を示す図である。
【図9】電磁誘導センサの先端部を示す図である。
【図10】本発明の第6の実施形態に係る転動装置部品用検査装置を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
2 励磁コイル
3 インピーダンス変化検出回路
4,13 判定装置
5,14 表示装置
6,15 記録装置
11 電磁誘導センサ
11a 励磁コイル
11b 誘導コイル
12 インダクタンス変化検出回路
16 棒鋼
17 異物除去部材
18 交流磁界
20 もみ抜き保持器
21 ターンテーブル
22,29 支持軸
23,30 センサ揺動機構
24 センサ昇降機構
25 センサ位置決め機構
27 外輪
28 ころ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動装置部品に交流磁界を付与する励磁コイルと、この励磁コイルから転動装置部品に付与された交流磁界の磁束密度の変化を検出するための誘導コイルとを有する電磁誘導センサを用い、かつ前記転動装置部品と前記電磁誘導センサを相対移動させながら前記転動装置部品の表面または内部に存在する欠陥、表面硬さ、焼入れ深さ、金属組織変化、異材混入のいずれかを検査する転動装置部品の検査方法であって、
前記転動装置部品を検査する際に前記転動装置部品の表面に異物除去部材の先端を接触させ、前記転動装置部品の表面に付着した異物を前記異物除去部材により前記電磁誘導センサの手前で除去しながら前記転動装置部品の検査を行うことを特徴とする転動装置部品の検査方法。
【請求項2】
請求項1記載の転動装置部品の検査方法において、前記異物除去部材が弾性体であることを特徴とする転動装置部品の検査方法。
【請求項3】
請求項2記載の転動装置部品の検査方法において、前記弾性体が刷毛、ウレタン、ゴム、プラスチックのいずれかであることを特徴とする転動装置部品の検査方法。
【請求項4】
転動装置部品に交流磁界を付与する励磁コイルと、この励磁コイルから転動装置部品に付与された交流磁界の磁束密度の変化を検出するための誘導コイルとを有する電磁誘導センサを用い、かつ前記転動装置部品と前記電磁誘導センサを相対移動させながら前記転動装置部品の表面または内部に存在する欠陥、表面硬さ、焼入れ深さ、金属組織変化、異材混入のいずれかを検査する転動装置部品の検査方法であって、
前記電磁誘導センサの先端面を該センサが対向する転動装置部品の表面形状に合わせた形状としたことを特徴とする転動装置部品の検査方法。
【請求項5】
請求項4記載の転動装置部品の検査方法において、前記電磁誘導センサと前記転動装置部品は交流磁界の磁力線が前記転動装置部品に対して90度となるように、それぞれの形状が規定されていることを特徴とする転動装置部品の検査方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載の転動装置部品の検査方法において、前記転動装置部品の素材が棒鋼であることを特徴とする転動装置部品の検査方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項記載の転動装置部品の検査方法において、被検出部材は素材となる部材を鍛造により、転動装置部品として型取りした部材であることを特徴とする転動装置部品の検査方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項記載の転動装置部品の検査方法において、被検出部材は転動装置部品として研削加工または超仕上げ加工した部材であることを特徴とする転動装置部品の検査方法。
【請求項9】
転動装置部品に交流磁界を付与する励磁コイルと、この励磁コイルから転動装置部品に付与された交流磁界の磁束密度の変化を検出するための誘導コイルとを有する電磁誘導センサを用い、かつ前記転動装置部品と前記電磁誘導センサを相対移動させながら前記転動装置部品の表面または内部に存在する欠陥、表面硬さ、焼入れ深さ、金属組織変化、異材混入のいずれかを検査する転動装置部品の検査方法であって、
前記転動装置部品を検査する際に前記転動装置部品の表面に異物除去部材の先端を接触させ、前記転動装置部品の表面に付着した異物を前記異物除去部材により前記電磁誘導センサの手前で除去しながら前記転動装置部品の検査を行うようにし、かつ前記電磁誘導センサの先端面を前記転動装置部品の表面形状に合わせて検査を行うようにしたことを特徴とする転動装置部品の検査方法。
【請求項10】
請求項1記載の検査方法に用いられる転動装置部品用検査装置であって、転動装置部品に交流磁界を付与する励磁コイルと該励磁コイルから転動装置部品に付与された交流磁界の磁束密度の変化を検出するための誘導コイルとを有する電磁誘導センサと、前記誘導コイルに発生した誘導起電力の振幅と位相のうち少なくとも一方の変化量を検出するデータ処理部と、前記データ処理部の出力を閾値と比較して合否判定する判定部とを具備したことを特徴とする転動装置部品用検査装置。
【請求項11】
請求項4記載の検査方法に用いられる転動装置部品用検査装置であって、転動装置部品に交流磁界を付与する励磁コイルと該励磁コイルから転動装置部品に付与された交流磁界の磁束密度の変化を検出するための誘導コイルとを有する電磁誘導センサと、前記誘導コイルに発生した誘導起電力の振幅と位相のうち少なくとも一方の変化量を測定するデータ処理部と、前記データ処理部の出力を閾値と比較して合否判定する判定部とを具備したことを特徴とする転動装置部品用検査装置。
【請求項12】
請求項9記載の検査方法に用いられる転動装置部品用検査装置であって、転動装置部品に交流磁界を付与する励磁コイルと該励磁コイルから転動装置部品に付与された交流磁界の磁束密度の変化を検出するための誘導コイルとを有する電磁誘導センサと、前記誘導コイルに発生した誘導起電力の振幅と位相のうち少なくとも一方の変化量を測定するデータ処理部と、前記データ処理部の出力を閾値と比較して合否判定する判定部とを具備したことを特徴とする転動装置部品用検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−32681(P2008−32681A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−8091(P2007−8091)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】