説明

転舵装置

【課題】 既存のサスペンション機構を大幅に変更せずにサスペンション機構に組み合わせることが可能であると共に、サスペンション機構に組み合わせた全体をコンパクトにすることが可能な転舵装置を提供する。
【解決手段】 本発明の転舵装置20によれば、転舵モータ40及び差動式減速機30を含む装置本体20Hと、装置本体20Hに対して回動する転舵出力部材56とが、キングピン軸J1と略同軸上に配置されているので、キングピン軸J1と交差する方向への転舵装置20の突出が抑えられる。これにより、従来の転舵装置に比べて既存のダブルウィッシュボーンサスペンション機構11Wの構成を大幅に変更せずに転舵装置20を組み合わせることができ、それらダブルウィッシュボーンサスペンション機構11Wと転舵装置20とを組み合わせた全体をコンパクトにすることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に備えた複数の転舵輪を独立して転舵可能な転舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の転舵装置として、図9に示したコンセプトカーに搭載された転舵装置1が知られている。この転舵装置1は、左右の転舵輪2,2の上方にそれぞれ設けられ、図10(A)に示すように鉛直方向を向いた鉛直出力シャフト3を転舵モータ4で回転駆動する。そのために、転舵モータ4の回転軸が水平方向に向けられ、転舵モータ4のロータシャフト4Rにウォームギヤ4Gが固定されている(図10(B)参照)。そして、そのウォームギヤ4Gと、鉛直出力シャフト3に固定されたウォームホイール3Gとが噛合している。また、鉛直出力シャフト3の下端部には回転盤5が固定されており、その回転盤5から垂下されたアーム6の下端部に転舵輪2が回転可能に軸支されている。これにより、転舵モータ4にて鉛直出力シャフト3を回転駆動すると、各転舵輪2が鉛直出力シャフト3の回転中心をキングピン軸J1にして転舵する(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−112300号公報(段落[0024]、第3図,第4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、車両には、路面の凹凸による振動を吸収するためにサスペンション機構が不可欠である。その代表例のダブルウィッシュボーンサスペンション機構やストラッドサスペンション機構は、車両本体から略水平横方向に延びた可動アームを備え、その可動アームの先端に連結されたハブキャリアにハブ盤が回転可能に軸支されている。そして、ハブ盤に転舵輪が固定され、可動アームとハブキャリアとの連結部分を通過するキングピン軸を中心にして転舵輪が転舵する。
【0004】
しかしながら、上記した従来の転舵装置1では、ウォームホイール3Gとウォームギヤ4Gとを介して転舵モータ4と鉛直出力シャフト3とが連結されているため、転舵モータ4がキングピン軸J1から離れた配置となり(図10(B)参照)、転舵装置1を設置するためには、キングピン軸J1と直交する方向に広い設置スペースが必要であった。
【0005】
従って、上記した既存のサスペンション機構のキングピン軸に、転舵装置1の鉛直出力シャフト3の回転中心を一致させて組み付けた場合には、転舵装置1とハブキャリア等とが干渉し、その干渉を避けるためには、既存のサスペンション機構を大幅に変更する必要があると共に、転舵装置1とサスペンション機構とを組み合わせた全体が大型化するという問題が生じていた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、既存のサスペンション機構を大幅に変更せずにそのサスペンション機構に組み合わせることが可能であると共に、サスペンション機構に組み合わせた全体をコンパクトにすることが可能な転舵装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る転舵装置は、転舵輪が固定されたハブ盤を回転可能に軸支するハブキャリアと、そのハブキャリアと車両本体との間に差し渡されて略水平に延びかつ上下に傾動可能な可動アームとを有するサスペンション機構を備えた車両のうち、転舵輪毎に別々に設けられて各転舵輪を転舵する転舵装置であって、転舵輪の転舵中心であるキングピン軸と略同軸上に、転舵モータと、転舵モータのステータを含む装置本体と、転舵モータにより装置本体に対して回動駆動される転舵出力部とを配置して備え、ハブキャリア又は可動アームの何れか一方に装置本体が固定され、他方に転舵出力部が等速ジョイントを介して固定されたところに特徴を有する。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の転舵装置において、サスペンション機構は、可動アームとして、上下に対向配置されたアッパーアームとロワーアームとを備えかつ、それらアッパーアームとロワーアームとの先端間にハブキャリアを挟持したダブルウィッシュボーンサスペンション機構であり、装置本体は、アッパーアームとロワーアームとに挟まれた領域に配置されて、ハブキャリアに固定されたところに特徴を有する。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1に記載の転舵装置において、サスペンション機構は、可動アームとして、上下に対向配置されたアッパーアームとロワーアームとを備えかつ、それらアッパーアームとロワーアームとの先端間にハブキャリアを挟持したダブルウィッシュボーンサスペンション機構であり、装置本体は、アッパーアームの上面側又はロワーアームの下面側の何れかに固定されたところに特徴を有する。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1に記載の転舵装置において、サスペンション機構は、ハブキャリアの下端部に可動アームが連結されかつ、ハブキャリアの上端部と車両本体との間が、キングピン軸と同軸上に延びたダンパーで連結されたストラッドサスペンション機構であり、装置本体は、可動アームとダンパーとに挟まれた領域に配置されて、ハブキャリアに固定されたところに特徴を有する。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1に記載の転舵装置において、サスペンション機構は、ハブキャリアの下端部に可動アームが連結されかつ、ハブキャリアの上端部と車両本体との間が、キングピン軸と同軸上に延びたダンパーで連結されたストラッドサスペンション機構であり、装置本体は、可動アームの下面側に固定されたところに特徴を有する。
【0012】
請求項6の発明に係る転舵装置は、転舵輪が固定されたハブ盤を回転可能に軸支したハブキャリアと、ハブキャリアの下端部と車両本体との間に差し渡されて略水平方向に延び、車両本体に対して上下に揺動可能な可動アームと、転舵輪の転舵中心であるキングピン軸と同軸上に配置されて、ハブキャリアの上端部から斜め上方に延び、車両本体とハブキャリアとの間で伸縮するダンパーとを有したストラッドサスペンション機構搭載の車両のうち、転舵輪毎に別々に設けられて各転舵輪を転舵する転舵装置であって、キングピン軸と略同軸上に、転舵モータと、転舵モータのステータを含む装置本体と、転舵モータにより装置本体に対して回動駆動される転舵出力部とを配置して備え、装置本体を、ダンパーの下端部とハブキャリアの上端部との間に挟みかつそれらダンパーの下端部とハブキャリアの上端部との何れか一方に固定し、他方に転舵出力部を固定したところに特徴を有する。
【0013】
請求項7の発明は、請求項1乃至6の何れかに記載の転舵装置において、入力軸と出力軸とを同軸上に備えた減速機を装置本体に設け、減速機の入力軸に転舵モータの回転軸を連結する一方、減速機の出力軸に転舵出力部を連結したところに特徴を有する。
【0014】
請求項8の発明は、請求項1乃至6の何れかに記載の転舵装置において、転舵モータはダイレクトドライブモータであって、そのダイレクトドライブモータのステータが装置本体を構成すると共に、ダイレクトドライブモータのロータが転舵出力部を構成したところに特徴を有する。
【0015】
請求項9の発明は、請求項1に記載の転舵装置において、サスペンション機構は、マルチリンクサスペンション機構であるところに特徴を有する。
【0016】
請求項10の発明に係る転舵装置は、転舵輪が固定されたハブ盤を回転可能に軸支したハブキャリアと、ハブキャリアの下端部と車両本体との間に差し渡されて略水平方向に延び、車両本体に対して上下に揺動可能な可動アームと、転舵輪の転舵中心であるキングピン軸と平行な軸上に配置されて、ハブキャリアの上端部から斜め上方に延び、車両本体とハブキャリアとの間で伸縮するダンパーとを有したマルチリンクサスペンション機構搭載の車両のうち、転舵輪毎に別々に設けられて各転舵輪を転舵する転舵装置であって、キングピン軸と略同軸上に、転舵モータと、転舵モータのステータを含む装置本体と、転舵モータにより装置本体に対して回動駆動される転舵出力部とを配置して備え、装置本体を、ダンパーに固定されたリンク部材とハブキャリアの上端部との間に挟みかつそれらリンク部材とハブキャリアの上端部との何れか一方に固定し、他方に転舵出力部を固定したところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0017】
[請求項1の発明]
請求項1の転舵装置では、転舵輪の転舵中心であるキングピン軸と略同軸上に、転舵モータと、装置本体と、装置本体に対して回動する転舵出力部とを配置して備えたので、キングピン軸と交差する方向への転舵装置の突出が抑えられる。そして、ハブキャリア又は可動アームの何れか一方に装置本体を固定し、他方に等速ジョイントを介して転舵出力部を固定したので、転舵モータを駆動して各転舵輪を車両本体に対して転舵することができると共に、可動アームが上下に傾動する際に生じる可動アームとハブキャリアとの間の角度変化を、等速ジョイントで吸収することができる。これらにより、従来の転舵装置に比べて既存のサスペンション機構の構成を大幅に変更せずに転舵装置を組み合わせることができ、それらサスペンション機構と転舵装置とを組み合わせた全体をコンパクトにすることが可能になる。
【0018】
[請求項2の発明]
転舵輪が駆動されない車両では、ダブルウィッシュボーンサスペンション機構のうちアッパーアームとロワーアームとに挟まれた領域がデッドスペースになる。そして、請求項2の構成では、そのデッドスペースに転舵装置を収めたので省スペース化が図られる。
【0019】
[請求項3の発明]
転舵輪が駆動される車両では、ダブルウィッシュボーンサスペンション機構のアッパーアームとロワーアームとの間に転舵輪を回転駆動するためのドライブシャフトが配置される。そして、請求項3の転舵装置によれば、転舵装置のうち比較的大きな装置本体をアッパーアームの上面側又はロワーアームの下面側の何れかに固定したので、アッパーアームとロワーアームとの間にドライブシャフトを配置するスペースを確保することができる。
【0020】
[請求項4の発明]
転舵輪が駆動されない車両では、ストラッドサスペンション機構のうち可動アームとダンパーとに挟まれた領域がデッドスペースになる。そして、請求項4の構成では、そのデッドスペースに転舵装置を収めたので省スペース化が図れる。
【0021】
[請求項5の発明]
転舵輪が駆動される車両では、ストラッドサスペンションのうちダンパーと可動アームとに挟まれた領域に転舵輪を回転駆動するためのドライブシャフトが配置される。そして、請求項5の転舵装置によれば、ストラッドサスペンション機構において、転舵装置のうち比較的大きな装置本体を、可動アームの下面側に固定したので、ダンパーと可動アームとの間にドライブシャフトを配置するスペースを確保することができる。
【0022】
[請求項6の発明]
請求項6の転舵装置では、転舵モータと、装置本体と、装置本体に対して回動する転舵出力部とが、キングピン軸と略同軸上に配置されているので、キングピン軸と交差する方向への転舵装置の突出が抑えられる。これにより、従来の転舵装置に比べて既存のストラッドサスペンション機構の構成を大幅に変更せずに転舵装置を組み合わせることができかつ、それらストラッドサスペンション機構と転舵装置とを組み合わせた全体をコンパクトにすることが可能になる。
【0023】
[請求項7の発明]
請求項7の構成によれば、転舵モータの出力をその転舵モータの同軸上に配置された減速機で減速して転舵出力部に伝達することができる。
【0024】
[請求項8,9,10の発明]
請求項8の構成によれば、転舵モータがダイレクトドライブモータであるから、減速機構を設けずに比較的大きな出力トルクを発生させハブキャリアに付与することができる。なお、本発明は、マルチリンクサスペンション機構を備えた車両の転舵装置に適用することもできる(請求項9,10の発明)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
[第1実施形態]
以下、本発明の一実施形態を図1及び図2に基づいて説明する。図1には、車両の前輪10(本発明に係る「転舵輪」に相当する)を支持するダブルウィッシュボーンサスペンション機構11Wが示されている。ダブルウィッシュボーンサスペンション機構11Wは、車両本体12から水平横方向に延びたアッパーアーム13とロワーアーム14とを備えている。これらアッパーアーム13とロワーアーム14とは上下方向で対向し、車両本体12に対して上下に傾動可能に連結されている。また、アッパーアーム13は、ロワーアーム14より短くなっており、その短い分だけ、車両本体12におけるアッパーアーム13の傾動支持部が、ロワーアーム14の傾動支持部より前輪10側に配置されている。そして、アッパーアーム13とロワーアーム14の先端部が前輪10に対して略同じ位置まで接近しており、それらアッパーアーム13とロワーアーム14の先端部の間にハブキャリア15が挟持されている。また、ハブキャリア15には、図示しないハブ盤が回転可能に軸支されており、そのハブ盤に前輪10が固定されている。
【0026】
ロワーアーム14のうち先端寄り位置には、ダンパー17の下端部が傾動可能に連結されている。ダンパー17は、ロワーアーム14から斜め内側上方に延びてアッパーアーム13を通過し、車両本体12における前輪10の斜め上方部分(図示せず)に連結されている。また、ダンパー17の外側には、その上端寄り位置に圧縮コイルスプリング18が挿通され、ダンパー17の伸縮に伴ってこの圧縮コイルスプリング18も伸縮するようになっている。
【0027】
アッパーアーム13の先端部とハブキャリア15の上端部とは、ボールジョイント16によって連結されている。このボールジョイント16は、アッパーアーム13に回転自在に保持されたボール部16Bからシャフト16Sを突出して備え、そのシャフト16Sがハブキャリア15の上端部に固定されている。
【0028】
ハブキャリア15のうち略水平横方向の内側を向いた内面15Nには、本発明に係る転舵装置20が固定されている。図2に示すように転舵装置20の装置本体20Hは、円筒形の本体ケース21の内部に差動式減速機30及び転舵モータ40を収容してなる。差動式減速機30及び転舵モータ40は、共に全体として略円柱形状をなし、本体ケース21の同軸上に配置されている。詳細には、転舵モータ40は、本体ケース21内に嵌合固定されたモータハウジング41を備え、モータハウジング41の内面にはステータ43が固定されている。また、ステータ43の内側にロータ45が挿通されて、モータハウジング41の両端部に設けられたベアリング42,42により回転可能に軸支されている。さらに、転舵モータ40の上端部には、回転位置センサ50(例えば、レゾルバ)が備えられ、この回転位置センサ50によってロータ45の回転位置を検出することができる。
【0029】
差動式減速機30は、本体ケース21のうち転舵モータ40の下端部に収容されている。差動式減速機30は、入力回転リング31と出力回転リング32とを同軸上に並べて備えている。また、入力回転リング31は本体ケース21に固定され、出力回転リング32は本体ケース21に対して回転可能に支持されている。これら入力回転リング31及び出力回転リング32の内周面には、細かい複数の歯が形成されると共に、例えば、入力回転リング31の歯数が、出力回転リング32の歯数より2n歯(以下、「n」は1以上の整数とする)だけ少なくなっている。また、入力回転リング31及び出力回転リング32の内側には共通して可撓リング33が嵌合されている。その可撓リング33の外周面には、入力回転リング31及び出力回転リング32の歯に共通して噛合可能な細かい複数の歯が備えられている。
【0030】
可撓リング33の内側には、モータ入力盤34が配置され、そのモータ入力盤34と可撓リング33との間には複数のボール35が収容されている。モータ入力盤34の外周形状は略楕円形になっており、これにより可撓リング33がモータ入力盤34に対応した略楕円形に弾性変形し、可撓リング33の歯と入力回転リング31及び出力回転リング32の歯とが周方向の2箇所で噛合している。
【0031】
モータ入力盤34には転舵モータ40のロータ45が一体回転可能に連結されている。そして、転舵モータ40の駆動によりモータ入力盤34が回転すると、可撓リング33と入力回転リング31及び出力回転リング32との噛合位置が周方向で移動していき、入力回転リング31に対して出力回転リング32が、歯数が少ない分(2n歯分)だけ多く回転する。即ち、入力回転リング31に対して出力回転リング32が差動する。
【0032】
入力回転リング31の下方には、転舵出力部材56(本発明に係る「転舵出力部」に相当する)が設けられている。転舵出力部材56は、円板体56Aの下面中心から円筒部56Bを突出した構造をなしている。一方、ロワーアーム14の先端部からは上方に向けて固定支柱57が起立しており、この固定支柱57の上端部が円筒部56B内に収容され、これら固定支柱57と円筒部56Bとによって等速ジョイント58が構成されている。具体的には、固定支柱57の上端部は、側方に膨出した形状をなし、その膨張部分の周面には複数の縦溝57Mが形成されている。また、これに対応して円筒部56Bの内周面にも複数の縦溝56Mが形成され、これら円筒部56Bの縦溝56Mと固定支柱57の縦溝57Mとを対向させた部分にそれぞれボール59が収容されている。これにより、円筒部56Bと固定支柱57とが全方向に相対的に傾動可能かつ、転舵出力部材56と固定支柱57とが一体回転可能に連結されている。なお、この等速ジョイント58は、ゴムブーツ20Bによって覆われている。
【0033】
さて、転舵装置20は、等速ジョイント58における円筒部56Bの中心と、ボールジョイント16(図1参照)のボール部16Bの中心とを結ぶ線上に、装置本体20Hの中心軸(即ち、転舵モータ40及び差動式減速機30の中心軸)を配置した状態にしてハブキャリア15に固定されている。そのために、図1に示すように、本体ケース21の側面から例えば1対の対座突片21Tが張り出しており(図1には、一方の対座突片21Tのみが示されている)、これに対応してハブキャリア15からは1対の台座突部15Tが突出している。そして、台座突部15Tに対座突片21Tを重ねて、対座突片21Tを貫通したボルトにより本体ケース21がハブキャリア15に固定されている。
【0034】
本実施形態の転舵装置20の構成は以上である。この転舵装置20は、車両における左右の前輪毎に別々に設けられ、ステアバイワイヤシステムの一部を構成している。即ち、この車両では、図示しないステアリング(ハンドル)と前輪10との間が機械的に切り離され、ステアリングの操舵角を舵角センサ(図示せず)で検出し、その舵角センサの検出結果に応じて操舵制御装置(図示せず)が各転舵装置20の転舵モータ40を駆動し、各前輪10を転舵する。具体的には、転舵モータ40が駆動されると、転舵装置20Hに対して転舵出力部材56が回転する。ここで、転舵出力部材56は、等速ジョイント58を介してロワーアーム14に固定されているので、転舵装置20Hがロワーアーム14に対して回転し、その転舵装置20Hと共にハブキャリア15がアッパーアーム13及びロワーアーム14に対して旋回する。この結果、前輪10が、装置本体20Hの中心軸をキングピン軸J1にして転舵する。
【0035】
ところで、車両の走行中に路面の凹凸を通過すると、アッパーアーム13及びロワーアーム14が上下に傾動し、前輪10が車両本体12に対して上下動する。そして、ダンパー17と圧縮コイルスプリング18とにより路面の凹凸による衝撃を吸収する。ここで、アッパーアーム13及びロワーアーム14の傾動に伴って、ハブキャリア15とアッパーアーム13との間の角度及びハブキャリア15とロワーアーム14との間の角度が僅かに変化する。本実施形態では、これら角度の変化をボールジョイント16と等速ジョイント58とにより吸収することができる。
【0036】
このように本実施形態の転舵装置20によれば、転舵モータ40及び差動式減速機30を含む装置本体20Hと、装置本体20Hに対して回動する転舵出力部材56とをキングピン軸J1と略同軸上に配置したので、キングピン軸J1と交差する方向への転舵装置20の突出が抑えられる。これにより、従来の転舵装置に比べて既存のダブルウィッシュボーンサスペンション機構の構成を大幅に変更せずに転舵装置20を組み合わせることができ、ダブルウィッシュボーンサスペンション機構11Wと転舵装置20とを組み合わせた全体をコンパクトにすることが可能になる。また、本実施形態では、ダブルウィッシュボーンサスペンション機構11Wのうちアッパーアーム13とロワーアーム14とに挟まれたデッドスペースに転舵装置20を収めたので省スペース化が図られる。これにより、ダブルウィッシュボーンサスペンション機構11Wと転舵装置20とを組み合わせた全体を、より一層コンパクトにすることが可能になる。
【0037】
[第2実施形態]
本実施形態は、図3に示されており、第1実施形態とは、主として転舵装置20の配置が異なる。以下、第1実施形態と同一の構成に関しては同一符号を付して重複説明を省略し、第1実施形態と異なる構成に関してのみ説明する。
【0038】
本実施形態では、ロワーアーム14の下面側に転舵装置20の装置本体20Hが固定されている。また転舵出力部材56の円筒部56B(図2参照)は、ロワーアーム14に貫通形成した図示しない貫通孔内に回転可能に収容されている。一方、固定支柱57は、ハブキャリア15の下端部から突出した下側突部15Bに固定されて垂下している。そして、固定支柱57の下端部が円筒部56B内に収容され、前記した等速ジョイント58を構成している。なお、本実施形態の転舵装置には、ゴムブーツ20Bが設けられていない。
【0039】
ところで、本実施形態の車両は、例えばFF車であって前輪10が回転駆動される。そのために、アッパーアーム13とロワーアーム14との間には、ドライブシャフト19が設けられ、そのドライブシャフト19の先端が、ハブキャリア15を貫通してハブ盤(図示せず)に固定されている。
【0040】
本実施形態の構成は以上である。本実施形態の転舵装置20によれば、転舵装置20のうち比較的小さい転舵出力部材56をハブキャリア15に固定する一方、比較的大きな装置本体20Hをロワーアーム14の下面側に固定したので、アッパーアーム13とロワーアーム14との間にドライブシャフト19を配置するスペースを確保することができ、転舵装置20とダブルウィッシュボーンサスペンション機構11Wとドライブシャフト19とを組み付けた全体をコンパクトな構成にすることができる。
【0041】
[第3実施形態]
本実施形態は、図4に示されており、主として、第2の実施形態と転舵装置20の配置を異ならせた構造になっている。以下、第2の実施形態と同一の構成に関しては、同一符号を付して重複した説明を省略し、第2の実施形態と異なる構成に関してのみ説明する。
【0042】
本実施形態では、アッパーアーム13とハブキャリア15との間に備えたボールジョイント16のシャフト16Sがアッパーアーム13から上方に突出している。そして、ハブキャリア15の上端部から突出した上側突部15Aが、アッパーアーム13の先端部上方に配置されて、そこにシャフト16Sが固定されている。また、これと同じボールジョイント16が、ロワーアーム14の先端とハブキャリア15の下側突部15Bとの間にも設けられている。
【0043】
さて、アッパーアーム13からは上方に向けて装置支持壁13Tが突出している。そして、その装置支持壁13Tに転舵装置20の装置本体20Hが固定されている。また、上側突部15Aの先端部から上方に固定支柱57が起立しており、転舵装置20の円筒部56B(図示せず)と固定支柱57とから等速ジョイント58が構成されている。本実施形態の構成によっても第2実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0044】
[第4実施形態]
本実施形態は、図5に示されており、ストラッドサスペンション機構11Sに支持された前輪10を転舵装置20にて転舵する構成になっている。ストラッドサスペンション機構11Sでは、ハブキャリア15の上端部にダンパー支持部15Cが備えられ、そのダンパー支持部15Cにダンパー17の下端部が回転可能かつ直動不能に連結されている。また、ダンパー17の上端部は、車両本体12に対して傾動可能かつダンパー17の軸回りに回転不能に固定されている。さらに、ダンパー17は、前輪10の転舵中心のキングピン軸J1と同軸上に延びている。そして、ハブキャリア15に固定された転舵装置20とロワーアーム14(本発明におけるストラッドサスペンション機構の「可動アーム」に相当する)の先端部とが等速ジョイント58を介して連結されている。上記構成以外は、第1実施形態と同様であるので、同一部位には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0045】
本実施形態の構成によれば、転舵モータ40及び差動式減速機30を含む装置本体20Hと、装置本体20Hに対して回動する転舵出力部材56とが、キングピン軸J1と略同軸上に配置されているので、キングピン軸J1と交差する方向への転舵装置20の突出が抑えられる。これにより、従来の転舵装置に比べて既存のストラッドサスペンション機構の構成を大幅に変更せずに転舵装置20を組み合わせることができ、それらストラッドサスペンション機構11Sと転舵装置20とを組み合わせた全体をコンパクトにすることが可能になる。また、ストラッドサスペンション機構11Sのうちロワーアーム14とハブキャリア15におけるダンパー17との連結部分とに挟まれたデッドスペースに転舵装置20を収めたので転舵装置20とストラッドサスペンション機構11Sとを組み合わせた全体をよりコンパクトにすることが可能になる。
【0046】
[第5実施形態]
本実施形態は、図6に示されており、主として、ロワーアーム14の下面側に転舵装置20の装置本体20Hを固定した点が前記第4実施形態と異なる。そして、その転舵装置20の転舵出力部材56とハブキャリア15との間の連結構造は、第2実施形態と同じ構成になっている。上記構成以外は、第4実施形態と同様であるので、同一部位には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0047】
本実施形態では、ストラッドサスペンション機構11Sにおいて、転舵装置20の装置本体20Hを、ロワーアーム14の下面側に固定したので、ダンパー17とロワーアーム14との間にドライブシャフト19を配置するスペースを確保することができる。これにより、転舵装置20とストラッドサスペンション機構11Sとドライブシャフト19とを組み合わせた全体をコンパクトな構成にすることができる。
【0048】
[第6実施形態]
本実施形態は、図7及び図8に示されている。以下、第4及び第5の実施形態と異なる構成に関してのみ説明し、第4及び第5の実施形態と同一の構成に関しては、同一部位には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0049】
即ち、本実施形態では、図7に示すようにハブキャリア15の上側突部15Cとダンパー17との間に、本発明に係る転舵装置20が取りつけられている。この転舵装置20の転舵出力部材56は、円板体56Aの下面中心から下側連結軸56Jを突出した構造をなしている。また、本体ケース21の上端部からは、下側連結軸56Jの同軸上に上側連結軸21Jが突出している。これら下側連結軸56J及び上側連結軸21Jの外周面には、共に複数の縦溝が形成されている。そして、下側連結軸56Jが、ハブキャリア15の上側突部15Cに形成された軸挿入孔に挿入されて回転不能に固定されると共に、上側連結軸21Jがダンパー17の下端部に形成した軸挿入孔に挿入されて回転不能に固定されている。
【0050】
ハブキャリア15の下側突部15Bと可動アーム14の先端部との間は、ボールジョイント16によって連結されている。具体的には、ボールジョイント16のボール部16Bが可動アーム14に回転自在に保持され、そのボール部16Bから上方に突出したシャフト16Sがハブキャリア15の下側突部15Bに固定されている。
【0051】
本実施形態の転舵装置20の構成は以上である。本実施形態の転舵装置20によっても上記第4及び第5の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0052】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0053】
(1)前記第1〜第5の実施形態では、転舵モータ40に差動式減速機30を組み合わせた構成になっていたが、転舵モータとしてダイレクトドライブモータを用い、差動式減速機30を備えない構成にしてもよい。
【0054】
(2)前記第1〜第5の実施形態では、転舵装置20にて前輪10を転舵する構成であったが、車両に備えた前輪及び後輪のそれぞれに転舵装置を設けて、4輪の全てを転舵可能としてもよい。
【0055】
(3)前記第6実施形態では、転舵装置20の装置本体20Hがダンパー17に固定され、転舵出力部材56がハブキャリア15に固定されていたが、それとは逆に、転舵装置20の装置本体20Hをハブキャリア15に固定し、転舵出力部材56をダンパー17に固定してもよい。
【0056】
(4)前記各実施形態では、ダブルウィッシュボーンサスペンション機構又はストラッドサスペンション機構を備えた車両の転舵装置に本発明を適用したが、マルチリンクサスペンション機構を備えた車両の転舵装置に本発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第1実施形態に係る転舵装置及びダブルウィッシュボーンサスペンション機構の側面図
【図2】転舵装置の側断面図
【図3】第2実施形態の転舵装置及びダブルウィッシュボーンサスペンション機構の側面図
【図4】第3実施形態の転舵装置及びダブルウィッシュボーンサスペンション機構の側面図
【図5】第4実施形態の転舵装置及びストラッドサスペンション機構の側面図
【図6】第5実施形態の転舵装置及びストラッドサスペンション機構の側面図
【図7】第6実施形態の転舵装置及びストラッドサスペンション機構の側面図
【図8】転舵装置の側断面図
【図9】従来の転舵装置を備えた車両の斜視図
【図10】(A)転舵装置の側面図、(B)転舵装置の平面図
【符号の説明】
【0058】
10 前輪
11S ストラッドサスペンション機構
11W ダブルウィッシュボーンサスペンション機構
12 車両本体
13 アッパーアーム
14 ロワーアーム
15 ハブキャリア
19 ドライブシャフト
20 転舵装置
20H 装置本体
30 差動式減速機
40 転舵モータ
56 転舵出力部材
57 固定支柱
58 等速ジョイント
J1 キングピン軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵輪が固定されたハブ盤を回転可能に軸支するハブキャリアと、そのハブキャリアと車両本体との間に差し渡されて略水平に延びかつ上下に傾動可能な可動アームとを有するサスペンション機構を備えた車両のうち、前記転舵輪毎に別々に設けられて各転舵輪を転舵する転舵装置であって、
前記転舵輪の転舵中心であるキングピン軸と略同軸上に、転舵モータと、前記転舵モータのステータを含む装置本体と、前記転舵モータにより前記装置本体に対して回動駆動される転舵出力部とを配置して備え、前記ハブキャリア又は前記可動アームの何れか一方に前記装置本体が固定され、他方に前記転舵出力部が等速ジョイントを介して固定されたことを特徴とする転舵装置。
【請求項2】
前記サスペンション機構は、前記可動アームとして、上下に対向配置されたアッパーアームとロワーアームとを備えかつ、それらアッパーアームとロワーアームとの先端間に前記ハブキャリアを挟持したダブルウィッシュボーンサスペンション機構であり、
前記装置本体は、前記アッパーアームと前記ロワーアームとに挟まれた領域に配置されて、前記ハブキャリアに固定されたことを特徴とする請求項1に記載の転舵装置。
【請求項3】
前記サスペンション機構は、前記可動アームとして、上下に対向配置されたアッパーアームとロワーアームとを備えかつ、それらアッパーアームとロワーアームとの先端間に前記ハブキャリアを挟持したダブルウィッシュボーンサスペンション機構であり、
前記装置本体は、前記アッパーアームの上面側又は前記ロワーアームの下面側の何れかに固定されたことを特徴とする請求項1に記載の転舵装置。
【請求項4】
前記サスペンション機構は、前記ハブキャリアの下端部に前記可動アームが連結されかつ、前記ハブキャリアの上端部と前記車両本体との間が、前記キングピン軸と同軸上に延びたダンパーで連結されたストラッドサスペンション機構であり、
前記装置本体は、前記可動アームと前記ダンパーとに挟まれた領域に配置されて、前記ハブキャリアに固定されたことを特徴とする請求項1に記載の転舵装置。
【請求項5】
前記サスペンション機構は、前記ハブキャリアの下端部に前記可動アームが連結されかつ、前記ハブキャリアの上端部と前記車両本体との間が、前記キングピン軸と同軸上に延びたダンパーで連結されたストラッドサスペンション機構であり、
前記装置本体は、前記可動アームの下面側に固定されたことを特徴とする請求項1に記載の転舵装置。
【請求項6】
転舵輪が固定されたハブ盤を回転可能に軸支したハブキャリアと、
前記ハブキャリアの下端部と前記車両本体との間に差し渡されて略水平方向に延び、前記車両本体に対して上下に揺動可能な可動アームと、
前記転舵輪の転舵中心であるキングピン軸と同軸上に配置されて、前記ハブキャリアの上端部から斜め上方に延び、前記車両本体と前記ハブキャリアとの間で伸縮するダンパーとを有したストラッドサスペンション機構搭載の車両のうち、前記転舵輪毎に別々に設けられて各転舵輪を転舵する転舵装置であって、
前記キングピン軸と略同軸上に、転舵モータと、前記転舵モータのステータを含む装置本体と、前記転舵モータにより前記装置本体に対して回動駆動される転舵出力部とを配置して備え、
前記装置本体を、前記ダンパーの下端部と前記ハブキャリアの上端部との間に挟みかつそれらダンパーの下端部とハブキャリアの上端部との何れか一方に固定し、他方に前記転舵出力部を固定したことを特徴とする転舵装置。
【請求項7】
入力軸と出力軸とを同軸上に備えた減速機を前記装置本体に設け、前記減速機の入力軸に前記転舵モータの回転軸を連結する一方、前記減速機の出力軸に前記転舵出力部を連結したことを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の転舵装置。
【請求項8】
前記転舵モータはダイレクトドライブモータであって、そのダイレクトドライブモータのステータが前記装置本体を構成すると共に、ダイレクトドライブモータのロータが前記転舵出力部を構成したことを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の転舵装置。
【請求項9】
前記サスペンション機構は、マルチリンクサスペンション機構であることを特徴とする請求項1に記載の転舵装置。
【請求項10】
転舵輪が固定されたハブ盤を回転可能に軸支したハブキャリアと、
前記ハブキャリアの下端部と前記車両本体との間に差し渡されて略水平方向に延び、前記車両本体に対して上下に揺動可能な可動アームと、
前記転舵輪の転舵中心であるキングピン軸と平行な軸上に配置されて、前記ハブキャリアの上端部から斜め上方に延び、前記車両本体と前記ハブキャリアとの間で伸縮するダンパーとを有したマルチリンクサスペンション機構搭載の車両のうち、前記転舵輪毎に別々に設けられて各転舵輪を転舵する転舵装置であって、
前記キングピン軸と略同軸上に、転舵モータと、前記転舵モータのステータを含む装置本体と、前記転舵モータにより前記装置本体に対して回動駆動される転舵出力部とを配置して備え、
前記装置本体を、前記ダンパーに固定されたリンク部材と前記ハブキャリアの上端部との間に挟みかつそれらリンク部材とハブキャリアの上端部との何れか一方に固定し、他方に前記転舵出力部を固定したことを特徴とする転舵装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−55409(P2007−55409A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242488(P2005−242488)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】