説明

軸シール装置とそれを用いたポンプ装置及びブレーキ液圧制御装置

【課題】軸シール装置のシール部材が回転可能な部材に引きずられて回転不可の部材に対して相対回転するときの力を利用して前記シール部材の軸方向移動を阻止できるようにすることを課題としている。
【解決手段】相対回転する第1部材1と第2部材2、貫通穴2aの内周面と第1部材1の外周面との間の隙間を封止するシール部材3、第2部材2とシール部材3の相対回転を規制する回転規制部4、及びシール部材3の軸方向移動規制部5を有しており、回転規制部4は、第2部材2に設けた第1当接部4aと、シール部材3に設けた第2当接部4bと、傾斜面4cとを備え、その第1当接部4aと第2当接部4bが傾斜面4cにて当接し、その傾斜面4cの作用で、シール部材3が軸方向移動規制部5のストッパ面5aに押し当てられてこのシール部材3の軸方向移動が阻止されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、相対回転する部材間の隙間、例えば、回転軸とそれを貫通させた部材との間の隙間をシールするのに適した軸シール装置と、それを用いたポンプ装置及び車両のブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキ液圧制御装置に用いる動力駆動のポンプとして、例えば、下記特許文献1に示されるようなものがある。そのポンプは、周知の内接歯車式ポンプが採用されている。
【0003】
回転軸によって駆動されるその特許文献1のポンプは、内部に導入されたブレーキ液の外部への洩れを防止するために、軸シール装置による第1シール部とオイルシールによる第2シール部を併設して2重シールを行っている。第1シール部は、内部の液室に圧力が印加されたときを考慮したものであって、微小洩れを許容する。
【0004】
第1シール部を洩れたブレーキ液は、第1シール部と第2シール部間に形成された中間室に溜る。その中間室に洩れたブレーキ液の中間室からの洩れ出しを、第2シール部のオイルシールによって阻止するようにしている。
【0005】
また、第1シール部を構成する軸シール装置は、ポンプ収納室の開口を閉じるプラグに組付けられ、そのプラグを貫通したポンプ駆動用の回転軸との所謂供回りを防止するために、回り止めを施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−278086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前掲の特許文献1のシール構造では、図12に示すように、プラグ44に設けた回り止めピン43を、シール部材41に設けた切欠き部42に係合させて軸シール装置40の回り止めを行っている。
【0008】
ところが、この構造では、切欠き部42と回り止めピン43との間に、不可避の軸方向隙間gが生じ、その隙間の範囲でシール部材41が軸方向に移動することが許容される。そのために、第1シール部で封止したポンプの吸入室に圧力が加わったときなどにはシール部材41が中間室側に向けて軸方向に移動し得る。その移動が原因で中間室の容積が縮小し、その容積縮小によって中間室の圧力が上昇するため、中間室内のブレーキ液が第2シール部を通過して外部に洩れ出る。
【0009】
シール部材41の軸方向移動量はさほど大きくはないが、中間室の圧力上昇は中間室に洩れたブレーキ液の累積量が多くなるにつれて顕著になるので、僅かな移動でも中間室の内圧がオイルシールによるシール圧を超える事態が起こってそのときに中間室内のブレーキ液が外部に洩れる。
【0010】
また、シール部材41の軸方向移動によって、マスタシリンダで発生させたブレーキ液圧の無駄な消費が起こる。前記ポンプの吸入室は、マスタシリンダが非作動のときにポンプがリザーバの液を吸入可能となすためにカット弁とマスタシリンダのマスタ圧室を経由してリザーバに接続されている。その接続は、マスタシリンダが発生させた液圧でカット弁が閉弁して断たれるようになっているが、カット弁が閉弁するまでにマスタシリンダの液圧が吸入室に流れる。このとき、シール部材41が軸方向に移動して吸入室の容積が拡大するとマスタシリンダから吸入室に流れる液量が増加してマスタシリンダの昇圧特性にも悪影響が出る。
【0011】
この発明は、上記の不具合をなくすために、軸シール装置のシール部材が回転可能な部材に引きずられて回転不可の部材に対して相対回転するときの力を利用して前記シール部材の軸方向移動を阻止できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、この発明においては、第1部材と、
貫通穴を有し、その貫通穴に挿通された前記第1部材に対して相対回転する第2部材と、
前記貫通穴の内周面と前記第1部材の外周面との間の隙間を封止する当該内周面及び外周面に対して相対回転可能なシール部材と、
前記第1部材及び第2部材のいずれか一方と前記シール部材の相対回転を規制する回転規制部と、
前記シール部材の軸方向移動規制部とを有しており、
前記回転規制部は、前記第1部材及び第2部材のいずれか一方に設けた第1当接部と、前記シール部材に設けた第2当接部と、この第1当接部及び第2当接部の少なくとも一方に含ませた、周方向と軸方向の2方向に面変位が生じる向きに傾いた傾斜面を備え、
前記軸方向移動規制部は、前記第1部材と第2部材の少なくとも一方に設けたストッパ面を備え、
前記第1部材及び第2部材の一方の部材に対して、前記シール部材が他方の部材に引きずられて一方向に相対回転したときに、前記第1当接部と第2当接部とが前記傾斜面にて当接することで、前記シール部材が前記ストッパ面に当接して当該シール部材の軸方向移動が阻止されるように構成された軸シール装置を提供する。
【0013】
この軸シール装置は、前記シール部材とストッパ面との当接力を過度に大きくしないようにするためには、前記傾斜面を前記第2当接部に設けてその傾斜面に前記第1当接部を当接させ、さらに、前記第1部材と第2部材との相対回転の回転方向に対する前記傾斜面の傾斜角を前記ストッパ面側ほど小さくし、前記シール部材が前記ストッパ面に当接した位置で前記第1当接部と第2当接部との当接が前記傾斜面の傾斜角の大きい部位でなされるようにしたものが好ましい。
【0014】
この発明は、上記軸シール装置を採用したポンプ装置とブレーキ液圧制御装置も併せて提供する。前者のポンプ装置は、液体を汲み上げる動力駆動のポンプと、このポンプの吸入口に通じた第1の液室と、その第1の液室に隣接する第2の液室と、その第1,第2の液室間を区画する第1の隔壁と、前記第2の液室を外部から区画する第2の隔壁と、この第2の隔壁及び第1の隔壁の双方を貫通したポンプ駆動用の回転軸と、この発明の軸シール装置とを備える。そして、前記回転軸を前記第1部材とし、前記第1の隔壁を前記第2部材として前記第1の隔壁と前記回転軸との間にこれ等の間の隙間を封止する前記軸シール装置を配置して第1シール部を形成し、さらに、前記第2の隔壁と前記回転軸との間にこれ等の間の隙間を封止する第2シール部を設けて構成される。
【0015】
一方、後者のブレーキ液圧制御装置は、マスタ液圧室にブレーキ操作に応じた液圧を発生し、その液圧をホイールシリンダに供給するマスタシリンダと、そのマスタシリンダが非作動状態にあるときに前記マスタ液圧室に連通するリザーバと、各種センサからの車両挙動情報に基づいて制動力制御の必要性を判断する電子制御装置と、その電子制御装置からの指令に基づいてホイールシリンダ圧の加圧・減圧・保持を行う動力駆動のポンプが含まれた液圧制御ユニットとを有し、
前記ポンプの吸入ポートに通じた吸入室が前記マスタ液圧室経由で前記リザーバに接続され、
前記吸入室と、その吸入室に隣接する中間室と、その吸入室と中間室間を区画する、前記ストッパ面の形成された第1の隔壁と、前記中間室を外部から区画する第2の隔壁と、この第2の隔壁及び第1の隔壁の双方を貫通したポンプ駆動用の回転軸と、この発明の軸シール装置とを備え、前記回転軸を前記第1部材とし、前記第1の隔壁を前記第2部材として前記ストッパ面よりも前記吸入室側で前記第1の隔壁と前記回転軸との間にこれ等の間の隙間を封止する前記軸シール装置を配置して第1シール部を形成し、さらに、前記第2の隔壁と前記回転軸との間にこれ等の間の隙間を封止する第2シール部を設けて構成される。
【発明の効果】
【0016】
この発明の軸シール装置は、第1部材及び第2部材の、一方の部材にシール部材が引きずられることによって起こるシール部材と他方の部材との相対回転が、前記第1当接部と第2当接部との相互当接によって阻止される。その際に、第1当接部と第2当接部とが傾斜面の位置で互いに当接することから、当接部に軸方向の分力が生じ、その力でシール部材が前記ストッパ面に向けて軸方向に付勢される。
【0017】
これにより、シール部材が前記ストッパ面に押し当てられ、第1部材と第2部材とが相対回転することでその状態が維持される。また、第1部材と第2部材との相対回転が止まったときにも、シール部材が被シール面との間に生じる摩擦抵抗でストッパ面との当接点に保持され、シール部材の軸方向移動がなくなってその軸方向移動に起因した不具合が解消される。
【0018】
なお、前記傾斜面の傾斜角を前記ストッパ面側ほど小さくして、前記シール部材が前記ストッパ面に当接した位置で前記第1当接部と第2当接部との当接が前記傾斜面の傾斜角の大きい部位でなされるようにしたものは、シール部材が前記ストッパ面に当接した位置では傾斜面の傾斜角が大きくなっているため、傾斜面の作用による軸方向付勢力が和らげられる。
【0019】
シール部材とストッパ面との当接力が過大な場合に、仮に回転軸が軸振れしたりすると、これに伴い、シール部材とストッパ面とが径方向に相対移動して摩耗が生じたり、或いは、その径方向の相対移動に係る抵抗力(摩擦力)が大きくなって回転軸の回転抵抗が増す。そのため、その不具合の抑制策としてシール部材に加える力をできる限り小さく抑えるのがよい。傾斜面の角度を変化させた上記の構成によれば、その要求に応えることができる。
【0020】
この発明のポンプ装置は、第1シール部を構成する軸シール装置の軸方向変位が起こらない。従って、前記第1シール部と第2シール部との間に配置される第2の液室の容積変化が起こらず、第2の液室の圧力上昇が原因となる第2の液室から外部への液洩れが起こり難くなる。
【0021】
また、この発明のブレーキ液圧制御装置は、第1シール部を構成する軸シール装置の軸方向変位が防止されるため、ポンプの吸入室の容積が拡大せず、その吸入室の容積拡大によるマスタシリンダの昇圧特性の悪化が抑制され、さらに、中間室に溜まったブレーキ液が第2シール部から洩れ易くなることも抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)この発明の軸シール装置の一例の概要を示す断面図、(b)同上の装置の回転軸の(a)図の右側面での回転方向を示す図
【図2】図1の軸シール装置を第1部材(回転軸)を外した状態にして示す断面図
【図3】図1のIII−III線に沿った断面図
【図4】この発明の軸シール装置に設ける傾斜面の変形例を示す断面図
【図5】第1当接部と第2当接部が当接する傾斜面を回転不可の部材に設けた例を示す図
【図6】第1当接部と第2当接部が当接する傾斜面の設置位置を変化させた図
【図7】(a)傾斜面を溝の側面で構成した図、(b)(a)図のX−X線部の断面図
【図8】この発明のポンプ装置の一例の概要を示す断面図
【図9】図8のポンプ装置の要部の拡大断面図
【図10】図8のポンプ装置に設けられた内接歯車式ポンプの一例の端面図
【図11】この発明のブレーキ液圧制御装置の一例の概要を示す図
【図12】従来の軸シール装置におけるシール部材の周り止め構造を示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明の軸シール装置とポンプ装置とブレーキ液圧制御装置の実施の形態を、添付図面の図1〜図11に基づいて説明する。図1〜図3は、軸シール装置の一例を示している。この軸シール装置8は、第1部材1、第2部材2、シール部材3、シール部材の回転規制部4及びシール部材の軸方向移動規制部5を組み合わせて構成されている。
【0024】
第2部材2は貫通穴(軸穴)2aを有し、その貫通穴2aに第1部材1が挿通され、その第1部材1と第2部材2が相対回転するようになっている。図示の軸シール装置の第1部材1は回転軸であり、ここでは第2部材2が回転不可である。
【0025】
シール部材3は、摩擦係数の小さな材料、例えば、4フッ化樹脂(PTFE)などのフッ素系樹脂で形成された摺動シール材3aとゴムシール3bを組み合わせたものを示したが、これに限定されるものではない。全体が同一材料で一体に形成されたシール部材を用いることも考えられる。
【0026】
このシール部材3は、貫通穴2aの内周面と第1部材1の外周面との間の隙間を封止する。このシール部材3は、貫通穴2aの内周面と第1部材1の外周面に対して相対回転が許容され、第1部材1が回転するとその第1部材1に引きずられて一緒に回転しようとする(所謂供回りする)。その供回りによって、シール部材3と回転不可の第2部材2は相対回転することになる。
【0027】
回転規制部4は、シール部材3と第2部材2の相対回転を限定された範囲に規制する。この回転規制部4は、図2に示す要素、即ち、回転不可の部材(図のそれは第2部材2)に設けた第1当接部4aと、シール部材3の摺動シール材3aに設けた第2当接部4bと、この第1当接部4a、第2当接部4bの少なくとも一方に含ませる傾斜面4c(図のそれは第2当接部4bに形成されている)とで構成されている。
【0028】
また、軸方向移動規制部5は、回転不可の第2部材2にシール部材3を受け止めるストッパ面5aを設けて構成されている。
【0029】
回転規制部4の傾斜面4cは、周方向(第2部材2とシール部材3の相対回転方向)と軸方向の2方向に面変位が生じる向きに傾いている。
【0030】
図示の軸シール装置8は、シール部材3が第1部材1の外周に配置され、貫通穴2aの内周面との間に介在される。ゴムシール3bは、締め代を有している。その締め代により、摺動シール材3aと第1部材(回転軸)1との間、摺動シール材3aとゴムシール3bとの間及びゴムシール3bと貫通穴2aの内周面との間でそれぞれ面圧を生じ、貫通穴2aの内周面と第1部材1の外周面との間の隙間が封止され、同時に、第1部材1の回転中の軸振れも抑制される。
【0031】
また、第1部材1が図3の矢印方向に回転すると、シール部材3が引きずられて同方向に回転(供回り)しようとし、その際の回転の力が第1当接部4aと第2当接部4bの当接点に働く。第1当接部4aと第2当接部4bは、傾斜面4cの位置で互いに当接しており、その当接点に、回転による力の分力(図1のFx)が軸方向に作用し、その分力でシール部材3がストッパ面5aに押し付けられて軸方向移動が阻止される。
【0032】
なお、前記分力Fxは、第1部材1の回転が止まっているときには発生しないが、このときにも、仮に、シール部材3に、これを分力Fxと反対方向に戻そうとする圧力が作用しても、シール部材3は被シール面との間に働く摩擦力によってストッパ面5aとの当接位置に保持される。従って、第1部材1の回転、停止が繰り返されてもシール部材3の軸方向移動は起こらない。
【0033】
なお、傾斜面4cは、第1部材1と第2部材2の相対回転の回転方向に対する傾斜角θを一定に設定してもよいが、シール部材3のストッパ面5aに押し付けられる部分の当接力を小さくするためには、図4に示すように、その傾斜角θをストッパ面5a側ほど小さくしておくと好ましい。
【0034】
シール部材3がストッパ面5aに当接した位置で第1当接部4aと第2当接部4bの当接が傾斜面4cの傾斜角の大きい部位でなされるようにすることで、ストッパ面5aに対する押し付け圧(当接力)を軽減することができる。
【0035】
図5は、傾斜面4cを第1当接部4a側に設けた例を示している。このように、傾斜面4cは回転不可の部材に設けてもよい。第1当接部4aと第2当接部4bの双方に設けることも可能である。また、第1当接部4aは、図1のピンや図5の突起状物のほか、任意形状のものでよい。
【0036】
回転規制部4は、図6に示すように、シール部材3のストッパ面5aに受け支えられる側に設けてもよく、シール部材3の軸方向途中に設けることもできる。また、図1ではシール部材3に切欠き部6を設けてそこに傾斜面4cを形成したが、図7に示すように、シール部材3の外周に溝7を設けてその溝の溝底から立ち上がる側面の一部を傾斜面4cにしても構わない。
【0037】
さらに、第1部材1が固定され、第2部材2が回転する構造では、回転規制部4を第1部材1とシール部材3との間に設ける。
【0038】
次に、この発明のポンプ装置の実施の形態を図8〜図10に基づいて説明する。図示のポンプ装置10は、ハウジング11の内部に、回転軸12と、その回転軸に駆動されるポンプ13と、このポンプの吸入口に連通した第1の液室14と、その第1の液室に隣接する第2の液室15を設けている。
【0039】
さらに、ハウジング11の内部に、第1,第2の液室14,15間を区画する第1の隔壁16と、前記第2の液室15を外部から区画する第2の隔壁17と、回転軸12の外周面と第1の隔壁16の内周面との間の隙間をシールする第1シール部18と、回転軸12の外周面と第2の隔壁17の内周面との間の隙間をシールする第2シール部19を設けている。
【0040】
回転軸12は、複数個所が軸受20に支持されている。また、この回転軸12は、第1の隔壁16と第2の隔壁17の双方を貫通してハウジング11内に配置されている。
【0041】
ポンプ13は、図8,10に示す内接歯車式のポンプを設けている。内接歯車式のポンプ13は、歯数差が1歯のインナーロータ13aとアウターロータ13bを偏心配置にして組み合わせた既知のポンプであって、インナーロータ13aが回転軸12によって回転駆動される。このとき、アウターロータ13bが従動回転し、両ロータ間に形成されるポンプ室(ポンピングチャンバ)の容積が増減して、液体の吸入、吐出がなされる。
【0042】
このポンプ13は、インナーロータ13aとアウターロータ13bをケーシング21に組み込んでポンプユニットを構成し、そのポンプユニットをハウジング11内の収納室に挿入し、収納室の入口をプラグ22で閉鎖してハウジング11の内部に組み込んでいる。
【0043】
第1の液室14は、ケーシング21とプラグ22との間に形成されている。また、第2の液室15は、第1の液室14を臨む側にストッパ面5aを設けた第1の隔壁16に対して第1の液室14と反対側に隣接して形成されている。
【0044】
第1の隔壁16と第2の隔壁17は、共にプラグ22の一部で構成されている。そして、回転軸12の外周面と第1の隔壁16の内周面との間の隙間が第1シール部18によってシールされ、回転軸12の外周面と第2の隔壁17の内周面との間の隙間が第2シール部19によってシールされている。
【0045】
第1シール部18は、この発明の軸シール装置8で構成され、第2シール部19はオイルシール23で構成されている(図9参照)。
【0046】
軸シール装置8は、図1で説明したものを設けている。ここでは回転軸12を図1の第1部材1、プラグ22を図1の第2部材2とみなし、第1の液室14と第2の液室15との間に図1の軸シール装置8を配置して第1シール部18を形成している。
【0047】
軸シール装置8は、図を簡略化したが、摺動シール材とゴムシールを組み合わせたシール部材を採用し、いずれか一方が傾斜面を含む第1当接部と第2当接部を設けて回転軸に引きずられて供回りするシール部材3とプラグ22の相対回転でシール部材3にストッパ面5aへの押し付け力が加わるようにしたものである。
【0048】
図11に、この発明の車両用ブレーキ液圧制御装置の実施の形態を示す。このブレーキ液圧制御装置30は、マスタシリンダ31と、このマスタシリンダ31が非作動状態のときに当該マスタシリンダのマスタ液圧室31aに連通するリザーバ32と、車輪速センサ、減速度センサ、ヨーセンサなどの各種センサ(図示せず)から入力される車両挙動情報に基づいて制動力制御の必要性を判断する電子制御装置33と、その電子制御装置33からの指令に基づいてホイールシリンダ34の加圧・減圧・保持を行う液圧制御ユニット35を有する。
【0049】
マスタシリンダ31はブレーキ操作部材(ブレーキペダルが一般的)の操作量に応じた液圧を発生する。その液圧がホイールシリンダ34に供給されてブレーキ操作に応じた制動力が車輪に付与される。
【0050】
液圧制御ユニット35には、モータ38に駆動されるポンプ35aが含まれている。液圧制御ユニット35は、そのポンプ35aと、リニア差圧制御弁35bと、増圧用電磁弁35cと、減圧用電磁弁35dと、ホイールシリンダ34から排出されたブレーキ液を一時的に蓄える低圧液溜め35eと、ポンプ35aの吸入ポートをマスタ液圧室31a経由でリザーバ32に接続する通路に配置され、マスタ液圧室31に発生した液圧で作動して閉弁するカット弁35fとを組み合わせたものを例示したが、これに限定されない。
【0051】
ポンプ35aは、図8で説明したポンプ装置と同様の構造である。従って、同一構成に関する部分の説明は省く。図8のポンプ装置の第1の液室14を吸入室36、第2の液室15を中間室37にし、吸入室36をカット弁35fとマスタ液圧室31a経由でリザーバ32に接続している。
【0052】
このような構造であるので、ポンプ35aが低圧液溜め35e内のブレーキ液を汲み上げるときに第1シール部18を構成する軸シール装置8のシール部材が軸方向に動くことは好ましくない。
【0053】
そこで、第1シール部18を、既に説明したこの発明の軸シール装置8で形成して、回転軸12に引きずられて供回りするシール部材3とプラグ22の相対回転でシール部材3にストッパ面5aへの押し付け力が加わるようにしている。中間室37と外部との間に配置する第2シール部19は、従来品と同様にオイルシールで形成されている。
【0054】
なお、以上の説明は、内接歯車を用いたポンプ装置を例に挙げて行ったが、この発明を適用するポンプ装置は、回転軸で駆動されるものであればよい。ベーンポンプや外接歯車式ポンプなども適用対象となる。また、この発明の軸シール装置は、回転軸外周の隙間を2重シール構造で液封することが要求される機器であればその有効性が発揮され、適用対象はポンプ装置に限定されない。
【符号の説明】
【0055】
1 第1部材
2 第2部材
2a 貫通穴
3 シール部材
3a 摺動シール材
3b ゴムシール
4 回転規制部
4a 第1当接部
4b 第2当接部
4c 傾斜面
5 軸方向移動規制部
5a ストッパ面
6 切欠き部
7 溝
8 軸シール装置
10 ポンプ装置
11 ハウジング
12 回転軸
13 ポンプ
14 第1の液室
15 第2の液室
16 第1の隔壁
17 第2の隔壁
18 第1シール部
19 第2シール部
20 軸受
21 ケーシング
22 プラグ
23 オイルシール
30 ブレーキ液圧制御装置
31 マスタシリンダ
31a マスタ液圧室
32 リザーバ
33 電子制御装置
34 ホイールシリンダ
35 液圧制御ユニット
35a ポンプ
35b リニア差圧制御弁
35c 増圧用電磁弁
35d 減圧用電磁弁
35e 低圧液溜め
35f カット弁
36 吸入室
37 中間室
38 モータ
g 軸方向隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材(1)と、貫通穴(2a)を有し、その貫通穴(2a)に挿通された前記第1部材(1)に対して相対回転する第2部材(2)と、
前記貫通穴(2a)の内周面と前記第1部材(1)の外周面との間の隙間を封止する当該内周面及び外周面に対して相対回転可能なシール部材(3)と、
前記第1部材(1)及び第2部材(2)のいずれか一方と前記シール部材(3)の相対回転を規制する回転規制部(4)と、
前記シール部材(3)の軸方向移動規制部(5)とを有し、
前記回転規制部(4)は、前記第1部材(1)及び第2部材(2)のいずれか一方に設けた第1当接部(4a)と、前記シール部材(3)に設けた第2当接部(4b)と、この第1当接部(4a)及び第2当接部(4b)の少なくとも一方に含ませた、周方向と軸方向の2方向に面変位が生じる向きに傾いた傾斜面(4c)を備え、
前記軸方向移動規制部(5)は、前記第1部材(1)及び第2部材(2)の少なくとも一方に設けたストッパ面(5a)を備え、
前記第1部材(1)と第2部材(2)の一方の部材に対して、前記シール部材(3)が他方の部材に引きずられて一方向に回転したときに、前記第1当接部(4a)と第2当接部(4b)とが前記傾斜面(4c)にて当接することで、前記シール部材(3)が前記ストッパ面(5a)に当接して当該シール部材(3)の軸方向移動が阻止されるように構成された軸シール装置。
【請求項2】
前記傾斜面(4c)を前記第2当接部(4b)に設けてその傾斜面(4c)に前記第1当接部(4a)を当接させ、さらに、前記第1部材(1)と第2部材(2)との相対回転の回転方向に対する前記傾斜面(4c)の傾斜角(θ)を前記ストッパ面(5a)側ほど小さくし、前記シール部材(3)が前記ストッパ面(5a)に当接した位置で前記第1当接部(4a)と第2当接部(4b)との当接が前記傾斜面(4c)の傾斜角の大きい部位でなされるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の軸シール装置。
【請求項3】
液体を汲み上げる動力駆動のポンプ(13)と、このポンプの吸入口に通じた第1の液室(14)と、その第1の液室(14)に隣接する第2の液室(15)と、その第1,第2の液室(14,15)間を区画する第1の隔壁(16)と、前記第2の液室(15)を外部から区画する第2の隔壁(17)と、この第2の隔壁(17)及び第1の隔壁(16)の双方を貫通したポンプ駆動用の回転軸(12)と、請求項1又は2に記載の軸シール装置(8)とを備え、前記回転軸(12)を前記第1部材(1)とし、前記第1の隔壁(16)を前記第2部材(2)として前記第1の隔壁(16)と前記回転軸(12)との間にこれ等の間の隙間を封止する前記軸シール装置(8)を配置して第1シール部(18)を形成し、さらに、前記第2の隔壁(17)と前記回転軸(12)との間にこれ等の間の隙間を封止する第2シール部(19)を設けたポンプ装置。
【請求項4】
マスタ液圧室(31a)にブレーキ操作に応じた液圧を発生し、その液圧をホイールシリンダ(34)に供給するマスタシリンダ(31)と、そのマスタシリンダが非作動状態にあるときに前記マスタ液圧室(31a)に連通するリザーバ(32)と、各種センサからの車両挙動情報に基づいて制動力制御の必要性を判断する電子制御装置(33)と、その電子制御装置(33)からの指令に基づいてホイールシリンダ圧の加圧・減圧・保持を行う動力駆動のポンプ(35a)が含まれた液圧制御ユニット(35)とを有し、
前記ポンプ(35a)の吸入ポートに通じた吸入室(36)が前記マスタ液圧室(35a)経由で前記リザーバ(32)に接続され、
前記吸入室(36)と、その吸入室(36)に隣接する中間室(37)と、その吸入室(36)と中間室(37)間を区画する、前記ストッパ面(5a)の形成された第1の隔壁(16)と、前記中間室(37)を外部から区画する第2の隔壁(17)と、この第2の隔壁(17)及び第1の隔壁(16)の双方を貫通したポンプ駆動用の回転軸(12)と、請求項1又は2に記載の軸シール装置(8)とを備え、前記回転軸(12)を前記第1部材(1)とし、前記第1の隔壁(16)を前記第2部材(2)として前記ストッパ面(5a)よりも前記吸入室(36)側で前記第1の隔壁(16)と前記回転軸(12)との間にこれ等の間の隙間を封止する前記軸シール装置(8)を配置して第1シール部(18)を形成し、さらに、前記第2の隔壁(17)と前記回転軸(12)との間にこれ等の間の隙間を封止する第2シール部(19)を設けたブレーキ液圧制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−77762(P2012−77762A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220552(P2010−220552)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】