軸受用ボス
【課題】内周側に軸受けが取り付けられる円筒体と外形の異なるパイプ材とを滑らかなビード形状をもった溶接部によって接合して、応力集中を緩和できる軸受け用ボスを提供する。
【解決手段】外径寸法および内径寸法が異なる円筒体12とパイプ材13とを突合せた状態で、両者間に生じる外周側段差部14のうち大径な円筒体のエッジ部12Cにレーザビーム26を照射する。この場合、レーザビームは、円筒体とパイプ材との突合せ部を溶融させるだけでなく、円筒体のエッジ部をも溶融させるので、溶融金属全体の容積を増大させることができる。これにより、各円筒部とパイプ材との間に、アンダフィルがない滑らかな外周側ビード部と、凸状部がない滑らかな内周側ビード部とを備えた溶接部を形成することができ、この溶接部によって円筒体とパイプ材との間を強固に接合することができる。
【解決手段】外径寸法および内径寸法が異なる円筒体12とパイプ材13とを突合せた状態で、両者間に生じる外周側段差部14のうち大径な円筒体のエッジ部12Cにレーザビーム26を照射する。この場合、レーザビームは、円筒体とパイプ材との突合せ部を溶融させるだけでなく、円筒体のエッジ部をも溶融させるので、溶融金属全体の容積を増大させることができる。これにより、各円筒部とパイプ材との間に、アンダフィルがない滑らかな外周側ビード部と、凸状部がない滑らかな内周側ビード部とを備えた溶接部を形成することができ、この溶接部によって円筒体とパイプ材との間を強固に接合することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベルに装備される作業装置の軸受部等に好適に用いられる軸受用ボスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建設機械としての油圧ショベルは、土砂の掘削作業等を行うための作業装置を備えている。そして、この作業装置は、ブーム、アーム、バケット等を軸受装置を介して互いに回動可能に連結することにより構成されている。
【0003】
ここで、アームとバケットとの間に設けられる軸受装置を例に挙げると、この軸受装置は、アームの先端側に固着して設けられた円筒状の軸受用ボスと、バケットに固着して設けられ軸受用ボスを挟む一対のブラケットと、これら軸受用ボスと各ブラケットとに挿通された連結ピンとにより大略構成され、アーム側の軸受用ボスとバケット側の各ブラケットとは連結ピンによって回動可能に連結される構成となっている。
【0004】
この場合、軸受用ボスは、通常、内周側にスリーブ軸受が取付けられる左,右一対の円筒体と、該各円筒体間を連結するパイプ材とにより大略構成され、各円筒体とパイプ材とは、互いの端面を突合せた状態でアーク溶接等の手段を用いて接合されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−289237号公報
【0006】
しかし、円筒体とパイプ材とをアーク溶接によって接合する場合には、両者の突合せ部に与えられる入熱量が大きくなり、溶接後に歪が生じ易くなるという問題や、円筒体とパイプ材との突合せ部に開先加工を施す必要があり、工数が増大してしまうという問題がある。
【0007】
これに対し、アーク溶接よりも溶接対象物に対する入熱量が小さい溶接方法として、レーザ溶接、電子ビーム溶接、プラズマ溶接等の高エネルギ密度溶接が知られており、この高エネルギ密度溶接は、アーク溶接に比較して、溶接速度が速く深い溶込みが得られ、かつ溶接後の変形(歪)が少ない等の特徴がある。
【0008】
そして、このプラズマ溶接を用いることにより、厚肉な円筒体とこの円筒体と等しい外径寸法を有する薄肉なパイプ材とを接合してなる円筒状の継手が提案されている(特許文献2)。
【0009】
【特許文献2】特開昭59−189092号公報
【0010】
ここで、この従来技術による継手は、円筒体のうちパイプ材が突合わされる端面に環状な溝を形成することにより、円筒体とパイプ材との突合せ部の肉厚をほぼ等しくした状態で、円筒体とパイプ材との突合せ部をプラズマ溶接によって接合する構成となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上述した従来技術による継手は、円筒体とパイプ材とをプラズマ溶接によって接合する前作業として、円筒体の端面に溝加工を施す必要があり、工数が増大してしまうという問題がある。
【0012】
また、従来技術による継手は、互いに突合わされる円筒体の端面とパイプ材の端面との間に面粗さによる隙間がある場合には、円筒体とパイプ材とを接合するための溶融金属が、両者間に形成された隙間の容積分だけ不足してしまう。これにより、円筒部とパイプ材との間に形成された溶接部の外周側に、溶融金属の不足に応じた窪み部(アンダフィル)が形成され、このアンダフィル部分に応力が集中して継手が早期に破損してしまうという問題がある。
【0013】
さらに、従来技術による継手は、円筒体とパイプ材との突合せ部の肉厚を等しくすることにより、両者の突合せ部の内周面がほぼ同一面となっている。このため、円筒体とパイプ材との突合せ部の内周側に溶融金属が流込むことにより、溶接部の内周側に凸状に突出する裏波ビード部が形成されてしまい、この凸状の裏波ビード部に応力が集中することにより継手が早期に破損してしまうという問題がある。
【0014】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、円筒体とパイプ材との間を滑らかなビード形状をもった溶接部によって接合することができ、応力集中を緩和することができるようにした軸受用ボスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決するため、請求項1の発明に係る軸受用ボスは、内周側に軸受が取付けられる円筒体と、円筒体の外径寸法とは異なる外径寸法を有すると共に円筒体の内径寸法とは異なる内径寸法を有するパイプ材と、円筒体の端面とパイプ材の端面とを突合せた状態で両者間に生じる段差部を外周側から溶接することにより形成された溶接部とにより構成してなる。
【0016】
請求項2の発明は、溶接部は、円筒体とパイプ材との間に生じる段差部のうち大径な部材のエッジ部に対し高エネルギビームを照射することにより形成したことにある。
【0017】
請求項3の発明は、溶接部は、円筒体とパイプ材とを同心状に突合わせた状態で回転させつつ両者間に生じる段差部を全周に亘って溶接することにより形成したことにある。
【0018】
請求項4の発明は、円筒体の突合せ面の外径寸法は、パイプ材の突合せ面の外径寸法よりも大きく設定したことにある。
【0019】
請求項5の発明は、円筒体の突合せ面の外径寸法は、パイプ材の突合せ面の外径寸法よりも小さく設定したことにある。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明によれば、円筒体の端面とパイプ材の端面とを突合せた状態で両者間に生じる段差部を外周側から溶接することにより、円筒体とパイプ材とが加熱されて溶融するときに、円筒体とパイプ材のうち外径寸法が大きな部材が多く溶融する分、全体として溶融金属の容積を増大することができる。これにより、円筒体とパイプ材との突合せ面に面粗さによる隙間(ギャップ)が形成されていたとしても、この隙間の容積に相当するだけの溶融金属の余剰分を確保することができ、円筒体とパイプ材との突合せ部の外周面にアンダフィルがない滑らかな止端部形状を有する溶接ビードを形成することができる。
【0021】
一方、円筒体とパイプ材との突合せ部の内周側には、両者の内径寸法の違いによる段差部が形成されているので、円筒体とパイプ材との突合せ部の外周側から内周側に向けて貫通するように流込んだ溶融金属は、円筒体とパイプ材との間に生じた内周側の段差部に付着して凝固する。これにより、円筒体とパイプ材との突合せ部の内周側に、滑らかな止端部形状を有する裏波ビード部を形成することができる。
【0022】
この結果、円筒体とパイプ材との突合せ部に、滑らかなビード形状をもった溶接部を形成することができ、軸受用ボスの応力集中を低減することができる。しかも、溶接作業の前作業として円筒体またはパイプ材の突合せ面に対する端面処理等を行なう必要がなく、この分、軸受用ボスの生産性を高めることができる。
【0023】
請求項2の発明によれば、円筒体とパイプ材との間に生じる段差部のうち大径な部材のエッジ部に高エネルギビームを照射することにより、この大径な部材のエッジ部が溶融した分、全体として溶融金属の容積を増大することができる。従って、円筒体とパイプ材との突合せ面に面粗さによる隙間が形成されていたとしても、この隙間によって溶融金属の不足を招くことがなく、円筒体とパイプ材との間に良好な溶接部を形成することができる。
【0024】
しかも、高エネルギビームを照射することにより、円筒体とパイプ材との間の段差部に与えられる入熱量を小さくすることができ、溶接後の歪を抑えることができる。また、円筒体とパイプ材との突合せ部の外周側から内周側に亘って深い溶込みを得ることができるので、円筒体とパイプ材との間を溶接部によって強固に接合することができる。
【0025】
請求項3の発明によれば、同心状に突合わせた円筒体とパイプ材とを回転させつつ、両者間に生じる段差部に溶接を施すことにより、円筒体とパイプ材との間に溶接部を全周に亘って形成することができる。従って、回転する円筒体とパイプ材との間の段差部に対し、高エネルギビームを照射することにより、円筒体とパイプ材との間に全周に亘って環状な溶接部を形成することができる。これにより、高エネルギビームの照射位置を正確に位置決めすることができ、円筒体とパイプ材との間に良好な溶接部を形成することができる。
【0026】
請求項4の発明によれば、円筒体とパイプ材とを突合せたときには、大径な円筒体のエッジ部がパイプ材から突出することにより、両者の外周側に段差部が形成される。従って、円筒体のエッジ部に高エネルギビームを照射して円筒体とパイプ材とを溶融させたときには、円筒体のエッジ部が溶融した分、全体として溶融金属の容積を増大することができ、円筒体とパイプ材との間に良好な溶接部を形成することができる。
【0027】
請求項5の発明によれば、円筒体とパイプ材とを突合せたときには、大径なパイプ材のエッジ部が円筒体から突出することにより、両者の外周側に段差部が形成される。従って、パイプ材のエッジ部に高エネルギビームを照射して円筒体とパイプ材とを溶融させたときには、パイプ材のエッジ部が溶融した分、全体として溶融金属の容積を増大することができ、円筒体とパイプ材との間に良好な溶接部を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る軸受用ボスの実施の形態を、油圧ショベルのアーム先端に設けられるアームボスに適用した場合を例に挙げ、図1ないし図14を参照しつつ詳細に説明する。
【0029】
まず、図1ないし図8は本発明の第1の実施の形態を示している。ここで、図1中の1は油圧ショベルを示し、該油圧ショベル1は、クローラ式の下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3と、上部旋回体3の前部側に俯仰動可能に設けられた作業装置4とにより大略構成されている。
【0030】
そして、作業装置4は、上部旋回体3に取付けられたブーム4Aと、該ブーム4Aの先端側に取付けられたアーム4Bと、該アーム4Bの先端側に取付けられたバケット4Cとにより大略構成され、アーム4Bとバケット4Cとは軸受装置5を介して回動可能に連結されている。
【0031】
ここで、アーム4Bとバケット4Cとの間を連結する軸受装置5は、図2に示すように、アーム4Bの先端側に固着して設けられた後述の軸受用ボス11と、バケット4Cに固着して設けられ軸受用ボス11を挟んで互いに対面する一対のブラケット6,6と、該各ブラケット6と軸受用ボス11とに挿通される連結ピン7と、軸受用ボス11の両端部内周側に圧入して取付けられ内周側で連結ピン7を回転可能に支持する円筒状のスリーブ軸受8,8とにより大略構成されている。そして、軸受用ボス11の内周側はグリス収容部9となり、このグリス収容部9内に収容されたグリスによって各スリーブ軸受8と連結ピン7との摺動部が常時潤滑されている。
【0032】
11は作業装置4のアーム4B先端側に固着して設けられた本実施の形態による軸受用ボスで、該軸受用ボス11は、図2ないし図4等に示すように、後述の各円筒体12と、パイプ材13と、各溶接部16とにより、全体として中空な円筒状に構成されている。
【0033】
12,12は軸受用ボス11の軸方向の両端部を構成する一対の円筒体で、該各円筒体12は、例えば市販の円筒材を用いることにより、または中実な丸棒材の中心部に穴加工を施すことにより、内周側が軸受取付孔12Aとなった厚肉な円筒状に形成されている。そして、円筒体12の軸受取付孔12Aには、図2に示すようにスリーブ軸受8が圧入して取付けられる構成となっている。また、円筒体12の端面のうち互いに対向する端面は環状な突合せ面12Bとなり、この突合せ面12Bには、後述のパイプ材13が突合わされる構成となっている。
【0034】
13は軸受用ボス11の軸方向の中間部を構成するパイプ材で、該パイプ材13は、円筒体12よりも薄肉な円筒状に形成されている。また、パイプ材13の軸方向の両端面は、各円筒体12の突合せ面12Bに突合わされる突合せ面13Aとなっている。そして、パイプ材13の両端側は、後述の溶接部16によって各円筒体12に接合される構成となっている。
【0035】
ここで、図4に示すように、円筒体12の突合せ面12Bの外径寸法をD1とし、パイプ材13の突合せ面13Aの外径寸法をD2とすると、円筒体12(突合せ面12B)の外径寸法D1はパイプ材13(突合せ面13A)の外径寸法D2よりも大きく設定されている(D1>D2)。また、円筒体12の内径寸法(軸受取付孔12Aの孔径)をd1とし、パイプ材13の内径寸法をd2とすると、円筒体12の内径寸法d1はパイプ材13の内径寸法d2よりも小さく設定されている(d2>d1)。
【0036】
従って、図4および図5に示すように、各円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の突合せ面13Aとを同心状に突合わせた状態では、円筒体12とパイプ材13との外周側には、両者の外径寸法の違いにより環状な外周側段差部14が形成され、大径な円筒体12のエッジ部12Cがパイプ材13から環状に突出する。一方、円筒体12とパイプ材13との内周側には、両者の内径寸法の違いにより環状な内周側段差部15が形成される。
【0037】
16,16は各円筒体12とパイプ材13の両端側との間に形成された溶接部で、該各溶接部16は、円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の突合せ面13Aとを突合せた状態で、両者間に生じる外周側段差部14のうち大径な円筒体12のエッジ部12Cに対して外周側から後述のレーザビーム26を照射することにより形成されるものである。
【0038】
ここで、各溶接部16は、図6等に示すように、円筒体12の外周面とパイプ材13の外周面との間に滑らかな円弧状に形成された外周側ビード部16Aと、円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の内周面との間に滑らかな円弧状に形成された内周側ビード部(裏波ビード部)16Bとを有している。そして、各溶接部16は、各円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の突合せ面13Aとの間に全周に亘って環状に形成され、円筒体12とパイプ材13との間を強固に接合するものである。
【0039】
ここで、各溶接部16は、円筒体12とパイプ材13との間に生じる外周側段差部14にレーザ溶接を施すことにより形成されるもので、以下、このレーザ溶接法について図4ないし図6を参照しつつ説明する。
【0040】
図4において、21は円筒体12とパイプ材13とを回転させる回転装置で、この回転装置21は、モータ等を備えた回転源22と、基端側が回転源22に接続された回転軸23と、該回転軸23の先端側を回転可能に支持する軸受24と、回転軸23に軸方向に移動可能に設けられた一対の円錐台状の固定具25,25とにより大略構成されている。
【0041】
そして、各円筒体12とパイプ材13の内周側に回転軸23を挿通し、各円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の突合せ面13Aとを同心状に突合せた状態で、これら円筒体12とパイプ材13とを固定具25を用いて回転軸23に固定することにより、各円筒体12とパイプ材13とが、回転軸23と共に一体に回転する構成となっている。
【0042】
ここで、各円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の突合せ面13Aとを同心状に突合せた状態では、円筒体12の外周縁とパイプ材13の外周縁との間には環状な外周側段差部14が形成され、円筒体12の内周縁とパイプ材13の内周縁との間には環状な内周側段差部15が形成される。
【0043】
そして、回転軸23を回転させながら、円筒体12とパイプ材13との間に形成された外周側段差部14のうち大径な円筒体12のエッジ部12Cに対し、レーザ溶接機(図示せず)から出力された高エネルギビームとしてのレーザビーム26を外周側から照射する。
【0044】
これにより、レーザビーム26は、円筒体12のエッジ部12Cを溶融させると共に、円筒体12とパイプ材13との突合せ部を溶融させ、当該突合せ部を外周側から内周側に亘って深く溶込ませる。従って、円筒体12とパイプ材13とを溶融させて得られた溶融金属の全体の容積は、円筒体12のエッジ部12Cが溶融した分だけ増大している。
【0045】
そして、溶融金属の一部は、円筒体12のエッジ部12Cからパイプ材13側へと流込み、溶融金属の多くは、円筒体12とパイプ材13との間に形成された外周側段差部14から内周側段差部15に向けて貫通するように流込む。これにより、図6に示すように、円筒体12とパイプ材13との突合せ部の外周側から内周側に亘って、溶融金属が凝固してなる溶接部16を形成することができる。
【0046】
ここで、円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の突合せ面13Aとの間には、面粗さによる隙間(ギャップ)が形成されているが、この隙間の容積に相当するだけの溶融金属の余剰分は、円筒体12のエッジ部12Cを溶融させることで確保されている。従って、円筒体12とパイプ材13との間に形成される隙間によって溶融金属が不足することはなく、円筒体12とパイプ材13との間を接合するために十分な量の溶融金属を確保することができる。
【0047】
そして、円筒体12のエッジ部12Cからパイプ材13側へと流込んだ溶融金属は、円筒体12の外周面からパイプ材13の外周面に向けて円弧状に延びた状態で凝固する。これにより、円筒体12の外周面とパイプ材13の外周面との間に、アンダフィルがなく、滑らかな円弧状の止端部形状を有する外周側ビード部16Aを形成することができる。
【0048】
一方、円筒体12とパイプ材13との間の外周側段差部14から内周側段差部15へと流込んだ溶融金属は、円筒体12の突合せ面12Bとのぬれ性により該突合せ面12Bに沿って下方へと流れ、パイプ材13の内周面と円筒体12の突合せ面12Bとの間に円弧状に付着した状態で凝固する。これにより、円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の内周面との間に、凸状部がない滑らかな止端部形状を有する円弧状の内周側ビード部(裏波ビード部)16Bを形成することができる。
【0049】
このようにして、回転装置21を用いて円筒体12とパイプ材13とを同心状に突合わせた状態で回転させつつ、円筒体12とパイプ材13との間に形成された外周側段差部14のうち円筒体12のエッジ部12Cに外周側からレーザビーム26を照射することにより、図3および図6に示すように、円筒体12とパイプ材13との間に全周に亘って環状な溶接部16が形成された軸受用ボス11を得ることができる。
【0050】
この場合、円筒体12の外周面とパイプ材13の外周面との間に形成された外周側ビード部16Aは、アンダフィルがなく滑らかな円弧状の止端部形状を有している。一方、円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の内周面との間に形成された内周側ビード部16Bも、滑らかな円弧状の止端部形状を有している。このため、外周側ビード部16A、内周側ビード部16Bに応力が集中するのを抑えることができ、溶接部16によって円筒体12とパイプ材13との間を強固に接合することができる。この結果、応力集中が低減され強度に優れた軸受用ボス11を形成することができる。
【0051】
ここで、本実施の形態による軸受用ボス11の比較例として、外径寸法および内径寸法が等しい円筒体とパイプ材を用い、これら円筒体とパイプ材との突合せ部にレーザ溶接を施して溶接部を形成した場合について、図7および図8を参照して説明する。
【0052】
まず、図7に示すように、外径寸法および内径寸法が等しい円筒体27とパイプ材28とを同心状に突合せた状態で回転させつつ、これら円筒体27とパイプ材28との突合せ部にレーザビーム26を照射することにより、円筒体27とパイプ材28とを溶融させる。
【0053】
この場合、円筒体27の突合せ面とパイプ材28の突合せ面との間に隙間(ギャップ)がある場合には、円筒体27とパイプ材28とを接合するための溶融金属が、両者間に形成された隙間の容積分だけ不足してしまう。これにより、図8に示すように、円筒体27とパイプ材28との間に形成された溶接部29の外周側に、溶融金属の不足に応じたアンダフィル29Aが形成されてしまう。
【0054】
一方、円筒体27とパイプ材28との突合せ部の内周面はほぼ同一面となっているため、両者の突合せ部の内周側に溶融金属が流込むことにより、溶接部29の内周側に凸状の裏波ビード部29Bが形成されてしまう。
【0055】
このように、外径寸法および内径寸法が等しい円筒体27とパイプ材28とを突合せ、両者の突合せ部にレーザビーム26を照射して溶接部29を形成した場合には、溶接部29の外周側にはアンダフィル29Aが形成され、溶接部29の内周側には凸状の裏波ビード部29Bが形成され、これらアンダフィル29A、凸状の裏波ビード部29Bに応力が集中して破損し易くなることが確認された。
【0056】
これに対し、本実施の形態による軸受用ボス11は、外径寸法および内径寸法が異なる円筒体12とパイプ材13とを用い、これら円筒体12とパイプ材13とを突合せた状態で両者間に生じる外周側段差部14のうち円筒体12のエッジ部12Cにレーザビーム26を照射することにより、円筒体12とパイプ材13との間に溶接部16を形成する構成となっている。
【0057】
このため、レーザビーム26によって円筒体12とパイプ材13との突合せ部を溶融させるだけでなく、円筒体12のエッジ部12Cを溶融させることができるので、この円筒体12のエッジ部12Cが溶融した分だけ溶融金属全体の容積を増大させることができる。
【0058】
これにより、円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の突合せ面13Aとの間に隙間(ギャップ)が形成されていたとしても、この隙間の容積に相当するだけの溶融金属の余剰分を確保することができ、円筒体12とパイプ材13との間に形成された溶接部16の外周側に、アンダフィルがない外周側ビード部16Aを形成することができる。
【0059】
即ち、溶融金属の容積が増大する分、円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の突合せ面13Aとの間に形成される隙間を許容することができるので、例えばレーザ溶接の前作業として円筒体12の突合せ面12B、パイプ材13の突合せ面13Aに対する端面処理等を行なう必要がなく、この分、軸受用ボス11の生産性を高めることができる。
【0060】
一方、円筒体12とパイプ材13との突合せ部の内周側には、両者の内径寸法の違いによる内周側段差部15が形成されているので、円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の内周面との間に、凸状部がない滑らかな止端部形状を有する内周側ビード部16Bを形成することができる。
【0061】
これにより、円筒体12とパイプ材13との間を接合する溶接部16の外周側ビード部16A、内周側ビード部16Bに応力が集中するのを抑えることができ、強度に優れた軸受用ボス11を形成することができる。
【0062】
また、軸受用ボス11の溶接部16は、円筒体12とパイプ材13との間に形成された外周側段差部14にレーザビーム26を照射することにより形成されている。このため、円筒体12とパイプ材13とに与えられる入熱量を小さくすることができ、溶接後の軸受用ボス11の歪を抑えることができる。しかも、円筒体12とパイプ材13との突合せ部の外周側から内周側に亘って深い溶込みを得ることができ、円筒体12とパイプ材13との間を溶接部16によって強固に接合することができる。
【0063】
また、本実施の形態による軸受用ボス11は、同心状に突合わせた円筒体12とパイプ材13とを回転させつつ、両者間の外周側段差部14にレーザビーム26を照射することにより、円筒体12とパイプ材13との間に全周に亘って環状な溶接部16を形成している。従って、回転する円筒体12とパイプ材13とに対し、固定されたビームヘッド(図示せず)からレーザビーム26を照射することができるので、レーザビーム26の照射位置を正確に位置決めすることができ、円筒体12とパイプ材13との間に良好な溶接部16を形成することができる。また、ビームヘッドを移動させる必要がないので、レーザ溶接機側の機構を簡素化することができる。
【0064】
次に、図9ないし図12は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、円筒体の突合せ面の外径寸法をパイプ材の突合せ面の外径寸法よりも小さく設定したことにある。なお、本実施の形態では上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0065】
図中、31は本実施の形態による軸受用ボスで、この軸受用ボス31は、第1の実施の形態による軸受用ボス11とほぼ同様に、後述の各円筒体32、パイプ材33、各溶接部36により全体として中空な円筒状に構成されている。しかし、本実施の形態による軸受用ボス31は、各円筒体32の突合せ面の外径寸法がパイプ材33の突合せ面の外径寸法よりも小さく設定されている点で、第1の実施の形態による軸受用ボス11とは異なっている。
【0066】
32,32は軸受用ボス31の軸方向の両端部を構成する一対の円筒体で、該各円筒体32は、内周側が軸受取付孔32Aとなった厚肉な円筒状に形成され、この軸受取付孔32Aにはスリーブ軸受等の軸受が取付けられるものである。また、円筒体32の端面のうち互いに対向する端面は、後述のパイプ材33が突合わされる環状な突合せ面32Bとなっている。
【0067】
33は軸受用ボス31の軸方向の中間部を構成するパイプ材で、該パイプ材33は、円筒体32よりも薄肉な円筒状に形成されている。また、パイプ材33の軸方向の両端面は、各円筒体32の突合せ面32Bに突合わされる突合せ面33Aとなっている。そして、パイプ材33の両端側は、後述の溶接部36によって各円筒体32に接合される構成となっている。
【0068】
ここで、図10に示すように、円筒体32の突合せ面32Bの外径寸法をD3とし、パイプ材33の突合せ面33Aの外径寸法をD4とすると、円筒体32(突合せ面32B)の外径寸法D3はパイプ材33(突合せ面33A)の外径寸法D4よりも小さく設定されている(D4>D3)。また、円筒体32の内径寸法(軸受取付孔32Aの孔径)をd3とし、パイプ材33の内径寸法をd4とすると、円筒体32の内径寸法d3はパイプ材33の内径寸法d4よりも小さく設定されている(d4>d3)。
【0069】
従って、図10および図11に示すように、各円筒体32の突合せ面32Bとパイプ材33の突合せ面33Aとを同心状に突合わせた状態では、円筒体32とパイプ材33との外周側には、両者の外径寸法の違いにより環状な外周側段差部34が形成され、大径なパイプ材33のエッジ部33Bが円筒体32から環状に突出する。一方、円筒体32とパイプ材33との内周側には、両者の内径寸法の違いにより環状な内周側段差部35が形成される。
【0070】
36,36は各円筒体32とパイプ材33の両端側との間に形成された溶接部で、該各溶接部36は、円筒体32とパイプ材33とを突合せた状態で、両者間に生じる外周側段差部34のうち大径なパイプ材33のエッジ部33Bに対して外周側からレーザビーム26を照射することにより形成されるものである。
【0071】
ここで、各溶接部36は、円筒体32の外周面とパイプ材33の外周面との間に滑らかな円弧状に形成された外周側ビード部36Aと、円筒体32の突合せ面32Bとパイプ材33の内周面との間に滑らかな円弧状に形成された内周側ビード部(裏波ビード部)36Bとを有している。そして、各溶接部36は、各円筒体32の突合せ面32Bとパイプ材33の突合せ面33Aとの間に全周に亘って環状に形成され、円筒体32とパイプ材33との間を強固に接合するものである。
【0072】
ここで、軸受用ボス31の溶接部36は、第1の実施の形態による軸受用ボス11の溶接部16と同様に、各円筒体32とパイプ材33とを、突合せ面32B,33Aが同心状となるように突合せた状態で回転装置21によって一体に回転させつつ、円筒体32とパイプ材33との間に形成された外周側段差部34のうち大径なパイプ材33のエッジ部33Bに外周側からレーザビーム26を照射することにより形成される(図10参照)。
【0073】
この場合、レーザビーム26は、パイプ材33のエッジ部33Bを溶融させると共に、円筒体32とパイプ材33との突合せ部を溶融させるため、溶融金属の全体の容積は、パイプ材33のエッジ部33Bが溶融した分だけ増大している。
【0074】
そして、溶融金属の一部は、パイプ材33のエッジ部33Bから円筒体32側へと流込み、溶融金属の多くは、円筒体32とパイプ材33との間に形成された外周側段差部34から内周側段差部35に向けて貫通するように流込む。これにより、図12に示すように、円筒体32とパイプ材33との突合せ部の外周側から内周側に亘って、溶融金属が凝固してなる溶接部36を形成することができる。
【0075】
この場合、円筒体32の突合せ面32Bとパイプ材33の突合せ面33Aとの間に、面粗さによる隙間(ギャップ)が形成されていたとしても、この隙間の容積に相当するだけの溶融金属の余剰分が確保されている。これにより、円筒体32の外周面とパイプ材33の外周面との間に、アンダフィルがなく、滑らかな円弧状の止端部形状を有する外周側ビード部36Aを形成することができる。
【0076】
一方、円筒体32とパイプ材33との間の外周側段差部34から内周側段差部35へと流込んだ溶融金属は、円筒体32の突合せ面32Bとのぬれ性により該突合せ面32Bに沿って下方へと流れ、パイプ材33の内周面と円筒体32の突合せ面32Bとの間に円弧状に付着した状態で凝固する。これにより、円筒体32の突合せ面32Bとパイプ材33の内周面との間に、凸状部がない滑らかな止端部形状を有する円弧状の内周側ビード部(裏波ビード部)36Bを形成することができる。
【0077】
かくして、本実施の形態においても、外径寸法および内径寸法が異なる円筒体32とパイプ材33とを同心状に突合わせた状態で回転させつつ、円筒体32とパイプ材33との間に形成された外周側段差部34のうち大径なパイプ材33のエッジ部33Bに外周側からレーザビーム26を照射することにより、各円筒部32とパイプ材33との間に、全周に亘って環状な溶接部36を形成することができる。
【0078】
この場合、各円筒部32とパイプ材33との間に形成された溶接部36は、アンダフィルがない滑らかな止端部形状を有する外周側ビード部36Aと、凸状部がない滑らかな止端部形状を有する内周側ビード部36Bとを備えているので、溶接部36によって円筒体32とパイプ材33との間を強固に接合することができ、応力集中が低減され強度に優れた軸受用ボス31を形成することができる。
【0079】
なお、上述した第1の実施の形態では、図5等に示すように、外周面と突合せ面12Bとが略直角に交わる円筒体12を用いた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば図13および図14に示す変形例のように、内周側が軸受取付孔12A′となり、突合せ面12B′の外周縁部が全周に亘って面取りされた円筒体12′を用いてもよい。
【0080】
この場合、円筒体12′のエッジ部12C′の外径寸法D1′は、パイプ材13の外径寸法D2よりも大きく設定され(D1′>D2)、円筒体12′とパイプ材13との間には外周側段差部14′と内周側段差部15′とが形成されている。そして、この外周側段差部14′のうち大径な円筒体12′のエッジ部12C′に外周側からレーザビーム26を照射することにより、円筒体12′とパイプ材13との間に、滑らかな止端部形状を有する外周側ビード部16A′と内周側ビード部16B′とを備えた溶接部16′を形成する構成としてもよい。
【0081】
また、上述した各実施の形態では、円筒体12(32)とパイプ材13(33)とをレーザ溶接によって接合した場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば電子ビーム溶接、プラズマ溶接等の他の溶接方法を用いてもよい。
【0082】
また、上述した各実施の形態では、円筒体12(32)よりも薄肉なパイプ材13(33)を用いた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、円筒体よりも厚肉なパイプ材を用いる構成としてもよい。
【0083】
また、上述した各実施の形態では、油圧ショベル1のアーム4Bとバケット4Cとを連結する軸受装置5に用いられる軸受用ボス11(31)を例に挙げている。しかし、本発明はこれに限らず、例えばブーム4Aとアーム4Bとを連結する軸受装置に用いられる軸受用ボス等にも広く適用することができる。
【0084】
さらに、上述した各実施の形態では、軸受用ボスを装備する建設機械として油圧ショベルを例に挙げたが、本発明はこれに限らず、例えば油圧クレーン、ホイールローダ、ブルドーザ等の他の建設機械に装備される軸受用ボスに広く適用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】第1の実施の形態による軸受用ボスが適用される軸受装置を備えた油圧ショベルを示す正面図である。
【図2】軸受用ボスが適用される軸受装置を図1中の矢示II−II方向からみた断面図である。
【図3】第1の実施の形態による軸受用ボスを単体で示す断面図である。
【図4】円筒体とパイプ材とを同心状に突合わせた状態で両者の突合せ部をレーザ溶接する状態を示す断面図である。
【図5】円筒体とパイプ材との突合せ部に形成された外周側段差部にレーザビームを照射した状態を拡大して示す断面図である。
【図6】円筒体とパイプ材との間に形成された溶接部を拡大して示す断面図である。
【図7】第1の実施の形態に対する比較例による円筒体とパイプ材との突合せ部にレーザビームを照射した状態を示す断面図である。
【図8】比較例による円筒体とパイプ材との間に形成された溶接部を拡大して示す断面図である。
【図9】第2の実施の形態による軸受用ボスを単体で示す断面図である。
【図10】円筒体とパイプ材とを同心状に突合わせた状態で両者の突合せ部をレーザ溶接する状態を示す断面図である。
【図11】円筒体とパイプ材との突合せ部に形成された外周側段差部にレーザビームを照射した状態を拡大して示す断面図である。
【図12】円筒体とパイプ材との間に形成された溶接部を拡大して示す断面図である。
【図13】変形例による円筒体とパイプ材との突合せ部にレーザビームを照射した状態を拡大して示す図5と同様な断面図である。
【図14】変形例による円筒体とパイプ材との間に形成された溶接部を拡大して示す図6と同様な断面図である。
【符号の説明】
【0086】
5 軸受装置
6 ブラケット
7 連結ピン
8 スリーブ軸受(軸受)
11,31 軸受用ボス
12,32,12′ 円筒体
12A,32A,12A′ 軸受取付孔
12B,13A,32B,33A,12B′ 突合せ面
12C,33B,12C′ エッジ部
13,33 パイプ材
14,34,14′ 外周側段差部
15,35,15′ 内周側段差部
16,36,16′ 溶接部
21 回転装置
26 レーザビーム(高エネルギビーム)
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベルに装備される作業装置の軸受部等に好適に用いられる軸受用ボスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建設機械としての油圧ショベルは、土砂の掘削作業等を行うための作業装置を備えている。そして、この作業装置は、ブーム、アーム、バケット等を軸受装置を介して互いに回動可能に連結することにより構成されている。
【0003】
ここで、アームとバケットとの間に設けられる軸受装置を例に挙げると、この軸受装置は、アームの先端側に固着して設けられた円筒状の軸受用ボスと、バケットに固着して設けられ軸受用ボスを挟む一対のブラケットと、これら軸受用ボスと各ブラケットとに挿通された連結ピンとにより大略構成され、アーム側の軸受用ボスとバケット側の各ブラケットとは連結ピンによって回動可能に連結される構成となっている。
【0004】
この場合、軸受用ボスは、通常、内周側にスリーブ軸受が取付けられる左,右一対の円筒体と、該各円筒体間を連結するパイプ材とにより大略構成され、各円筒体とパイプ材とは、互いの端面を突合せた状態でアーク溶接等の手段を用いて接合されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−289237号公報
【0006】
しかし、円筒体とパイプ材とをアーク溶接によって接合する場合には、両者の突合せ部に与えられる入熱量が大きくなり、溶接後に歪が生じ易くなるという問題や、円筒体とパイプ材との突合せ部に開先加工を施す必要があり、工数が増大してしまうという問題がある。
【0007】
これに対し、アーク溶接よりも溶接対象物に対する入熱量が小さい溶接方法として、レーザ溶接、電子ビーム溶接、プラズマ溶接等の高エネルギ密度溶接が知られており、この高エネルギ密度溶接は、アーク溶接に比較して、溶接速度が速く深い溶込みが得られ、かつ溶接後の変形(歪)が少ない等の特徴がある。
【0008】
そして、このプラズマ溶接を用いることにより、厚肉な円筒体とこの円筒体と等しい外径寸法を有する薄肉なパイプ材とを接合してなる円筒状の継手が提案されている(特許文献2)。
【0009】
【特許文献2】特開昭59−189092号公報
【0010】
ここで、この従来技術による継手は、円筒体のうちパイプ材が突合わされる端面に環状な溝を形成することにより、円筒体とパイプ材との突合せ部の肉厚をほぼ等しくした状態で、円筒体とパイプ材との突合せ部をプラズマ溶接によって接合する構成となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上述した従来技術による継手は、円筒体とパイプ材とをプラズマ溶接によって接合する前作業として、円筒体の端面に溝加工を施す必要があり、工数が増大してしまうという問題がある。
【0012】
また、従来技術による継手は、互いに突合わされる円筒体の端面とパイプ材の端面との間に面粗さによる隙間がある場合には、円筒体とパイプ材とを接合するための溶融金属が、両者間に形成された隙間の容積分だけ不足してしまう。これにより、円筒部とパイプ材との間に形成された溶接部の外周側に、溶融金属の不足に応じた窪み部(アンダフィル)が形成され、このアンダフィル部分に応力が集中して継手が早期に破損してしまうという問題がある。
【0013】
さらに、従来技術による継手は、円筒体とパイプ材との突合せ部の肉厚を等しくすることにより、両者の突合せ部の内周面がほぼ同一面となっている。このため、円筒体とパイプ材との突合せ部の内周側に溶融金属が流込むことにより、溶接部の内周側に凸状に突出する裏波ビード部が形成されてしまい、この凸状の裏波ビード部に応力が集中することにより継手が早期に破損してしまうという問題がある。
【0014】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、円筒体とパイプ材との間を滑らかなビード形状をもった溶接部によって接合することができ、応力集中を緩和することができるようにした軸受用ボスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決するため、請求項1の発明に係る軸受用ボスは、内周側に軸受が取付けられる円筒体と、円筒体の外径寸法とは異なる外径寸法を有すると共に円筒体の内径寸法とは異なる内径寸法を有するパイプ材と、円筒体の端面とパイプ材の端面とを突合せた状態で両者間に生じる段差部を外周側から溶接することにより形成された溶接部とにより構成してなる。
【0016】
請求項2の発明は、溶接部は、円筒体とパイプ材との間に生じる段差部のうち大径な部材のエッジ部に対し高エネルギビームを照射することにより形成したことにある。
【0017】
請求項3の発明は、溶接部は、円筒体とパイプ材とを同心状に突合わせた状態で回転させつつ両者間に生じる段差部を全周に亘って溶接することにより形成したことにある。
【0018】
請求項4の発明は、円筒体の突合せ面の外径寸法は、パイプ材の突合せ面の外径寸法よりも大きく設定したことにある。
【0019】
請求項5の発明は、円筒体の突合せ面の外径寸法は、パイプ材の突合せ面の外径寸法よりも小さく設定したことにある。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明によれば、円筒体の端面とパイプ材の端面とを突合せた状態で両者間に生じる段差部を外周側から溶接することにより、円筒体とパイプ材とが加熱されて溶融するときに、円筒体とパイプ材のうち外径寸法が大きな部材が多く溶融する分、全体として溶融金属の容積を増大することができる。これにより、円筒体とパイプ材との突合せ面に面粗さによる隙間(ギャップ)が形成されていたとしても、この隙間の容積に相当するだけの溶融金属の余剰分を確保することができ、円筒体とパイプ材との突合せ部の外周面にアンダフィルがない滑らかな止端部形状を有する溶接ビードを形成することができる。
【0021】
一方、円筒体とパイプ材との突合せ部の内周側には、両者の内径寸法の違いによる段差部が形成されているので、円筒体とパイプ材との突合せ部の外周側から内周側に向けて貫通するように流込んだ溶融金属は、円筒体とパイプ材との間に生じた内周側の段差部に付着して凝固する。これにより、円筒体とパイプ材との突合せ部の内周側に、滑らかな止端部形状を有する裏波ビード部を形成することができる。
【0022】
この結果、円筒体とパイプ材との突合せ部に、滑らかなビード形状をもった溶接部を形成することができ、軸受用ボスの応力集中を低減することができる。しかも、溶接作業の前作業として円筒体またはパイプ材の突合せ面に対する端面処理等を行なう必要がなく、この分、軸受用ボスの生産性を高めることができる。
【0023】
請求項2の発明によれば、円筒体とパイプ材との間に生じる段差部のうち大径な部材のエッジ部に高エネルギビームを照射することにより、この大径な部材のエッジ部が溶融した分、全体として溶融金属の容積を増大することができる。従って、円筒体とパイプ材との突合せ面に面粗さによる隙間が形成されていたとしても、この隙間によって溶融金属の不足を招くことがなく、円筒体とパイプ材との間に良好な溶接部を形成することができる。
【0024】
しかも、高エネルギビームを照射することにより、円筒体とパイプ材との間の段差部に与えられる入熱量を小さくすることができ、溶接後の歪を抑えることができる。また、円筒体とパイプ材との突合せ部の外周側から内周側に亘って深い溶込みを得ることができるので、円筒体とパイプ材との間を溶接部によって強固に接合することができる。
【0025】
請求項3の発明によれば、同心状に突合わせた円筒体とパイプ材とを回転させつつ、両者間に生じる段差部に溶接を施すことにより、円筒体とパイプ材との間に溶接部を全周に亘って形成することができる。従って、回転する円筒体とパイプ材との間の段差部に対し、高エネルギビームを照射することにより、円筒体とパイプ材との間に全周に亘って環状な溶接部を形成することができる。これにより、高エネルギビームの照射位置を正確に位置決めすることができ、円筒体とパイプ材との間に良好な溶接部を形成することができる。
【0026】
請求項4の発明によれば、円筒体とパイプ材とを突合せたときには、大径な円筒体のエッジ部がパイプ材から突出することにより、両者の外周側に段差部が形成される。従って、円筒体のエッジ部に高エネルギビームを照射して円筒体とパイプ材とを溶融させたときには、円筒体のエッジ部が溶融した分、全体として溶融金属の容積を増大することができ、円筒体とパイプ材との間に良好な溶接部を形成することができる。
【0027】
請求項5の発明によれば、円筒体とパイプ材とを突合せたときには、大径なパイプ材のエッジ部が円筒体から突出することにより、両者の外周側に段差部が形成される。従って、パイプ材のエッジ部に高エネルギビームを照射して円筒体とパイプ材とを溶融させたときには、パイプ材のエッジ部が溶融した分、全体として溶融金属の容積を増大することができ、円筒体とパイプ材との間に良好な溶接部を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る軸受用ボスの実施の形態を、油圧ショベルのアーム先端に設けられるアームボスに適用した場合を例に挙げ、図1ないし図14を参照しつつ詳細に説明する。
【0029】
まず、図1ないし図8は本発明の第1の実施の形態を示している。ここで、図1中の1は油圧ショベルを示し、該油圧ショベル1は、クローラ式の下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3と、上部旋回体3の前部側に俯仰動可能に設けられた作業装置4とにより大略構成されている。
【0030】
そして、作業装置4は、上部旋回体3に取付けられたブーム4Aと、該ブーム4Aの先端側に取付けられたアーム4Bと、該アーム4Bの先端側に取付けられたバケット4Cとにより大略構成され、アーム4Bとバケット4Cとは軸受装置5を介して回動可能に連結されている。
【0031】
ここで、アーム4Bとバケット4Cとの間を連結する軸受装置5は、図2に示すように、アーム4Bの先端側に固着して設けられた後述の軸受用ボス11と、バケット4Cに固着して設けられ軸受用ボス11を挟んで互いに対面する一対のブラケット6,6と、該各ブラケット6と軸受用ボス11とに挿通される連結ピン7と、軸受用ボス11の両端部内周側に圧入して取付けられ内周側で連結ピン7を回転可能に支持する円筒状のスリーブ軸受8,8とにより大略構成されている。そして、軸受用ボス11の内周側はグリス収容部9となり、このグリス収容部9内に収容されたグリスによって各スリーブ軸受8と連結ピン7との摺動部が常時潤滑されている。
【0032】
11は作業装置4のアーム4B先端側に固着して設けられた本実施の形態による軸受用ボスで、該軸受用ボス11は、図2ないし図4等に示すように、後述の各円筒体12と、パイプ材13と、各溶接部16とにより、全体として中空な円筒状に構成されている。
【0033】
12,12は軸受用ボス11の軸方向の両端部を構成する一対の円筒体で、該各円筒体12は、例えば市販の円筒材を用いることにより、または中実な丸棒材の中心部に穴加工を施すことにより、内周側が軸受取付孔12Aとなった厚肉な円筒状に形成されている。そして、円筒体12の軸受取付孔12Aには、図2に示すようにスリーブ軸受8が圧入して取付けられる構成となっている。また、円筒体12の端面のうち互いに対向する端面は環状な突合せ面12Bとなり、この突合せ面12Bには、後述のパイプ材13が突合わされる構成となっている。
【0034】
13は軸受用ボス11の軸方向の中間部を構成するパイプ材で、該パイプ材13は、円筒体12よりも薄肉な円筒状に形成されている。また、パイプ材13の軸方向の両端面は、各円筒体12の突合せ面12Bに突合わされる突合せ面13Aとなっている。そして、パイプ材13の両端側は、後述の溶接部16によって各円筒体12に接合される構成となっている。
【0035】
ここで、図4に示すように、円筒体12の突合せ面12Bの外径寸法をD1とし、パイプ材13の突合せ面13Aの外径寸法をD2とすると、円筒体12(突合せ面12B)の外径寸法D1はパイプ材13(突合せ面13A)の外径寸法D2よりも大きく設定されている(D1>D2)。また、円筒体12の内径寸法(軸受取付孔12Aの孔径)をd1とし、パイプ材13の内径寸法をd2とすると、円筒体12の内径寸法d1はパイプ材13の内径寸法d2よりも小さく設定されている(d2>d1)。
【0036】
従って、図4および図5に示すように、各円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の突合せ面13Aとを同心状に突合わせた状態では、円筒体12とパイプ材13との外周側には、両者の外径寸法の違いにより環状な外周側段差部14が形成され、大径な円筒体12のエッジ部12Cがパイプ材13から環状に突出する。一方、円筒体12とパイプ材13との内周側には、両者の内径寸法の違いにより環状な内周側段差部15が形成される。
【0037】
16,16は各円筒体12とパイプ材13の両端側との間に形成された溶接部で、該各溶接部16は、円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の突合せ面13Aとを突合せた状態で、両者間に生じる外周側段差部14のうち大径な円筒体12のエッジ部12Cに対して外周側から後述のレーザビーム26を照射することにより形成されるものである。
【0038】
ここで、各溶接部16は、図6等に示すように、円筒体12の外周面とパイプ材13の外周面との間に滑らかな円弧状に形成された外周側ビード部16Aと、円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の内周面との間に滑らかな円弧状に形成された内周側ビード部(裏波ビード部)16Bとを有している。そして、各溶接部16は、各円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の突合せ面13Aとの間に全周に亘って環状に形成され、円筒体12とパイプ材13との間を強固に接合するものである。
【0039】
ここで、各溶接部16は、円筒体12とパイプ材13との間に生じる外周側段差部14にレーザ溶接を施すことにより形成されるもので、以下、このレーザ溶接法について図4ないし図6を参照しつつ説明する。
【0040】
図4において、21は円筒体12とパイプ材13とを回転させる回転装置で、この回転装置21は、モータ等を備えた回転源22と、基端側が回転源22に接続された回転軸23と、該回転軸23の先端側を回転可能に支持する軸受24と、回転軸23に軸方向に移動可能に設けられた一対の円錐台状の固定具25,25とにより大略構成されている。
【0041】
そして、各円筒体12とパイプ材13の内周側に回転軸23を挿通し、各円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の突合せ面13Aとを同心状に突合せた状態で、これら円筒体12とパイプ材13とを固定具25を用いて回転軸23に固定することにより、各円筒体12とパイプ材13とが、回転軸23と共に一体に回転する構成となっている。
【0042】
ここで、各円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の突合せ面13Aとを同心状に突合せた状態では、円筒体12の外周縁とパイプ材13の外周縁との間には環状な外周側段差部14が形成され、円筒体12の内周縁とパイプ材13の内周縁との間には環状な内周側段差部15が形成される。
【0043】
そして、回転軸23を回転させながら、円筒体12とパイプ材13との間に形成された外周側段差部14のうち大径な円筒体12のエッジ部12Cに対し、レーザ溶接機(図示せず)から出力された高エネルギビームとしてのレーザビーム26を外周側から照射する。
【0044】
これにより、レーザビーム26は、円筒体12のエッジ部12Cを溶融させると共に、円筒体12とパイプ材13との突合せ部を溶融させ、当該突合せ部を外周側から内周側に亘って深く溶込ませる。従って、円筒体12とパイプ材13とを溶融させて得られた溶融金属の全体の容積は、円筒体12のエッジ部12Cが溶融した分だけ増大している。
【0045】
そして、溶融金属の一部は、円筒体12のエッジ部12Cからパイプ材13側へと流込み、溶融金属の多くは、円筒体12とパイプ材13との間に形成された外周側段差部14から内周側段差部15に向けて貫通するように流込む。これにより、図6に示すように、円筒体12とパイプ材13との突合せ部の外周側から内周側に亘って、溶融金属が凝固してなる溶接部16を形成することができる。
【0046】
ここで、円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の突合せ面13Aとの間には、面粗さによる隙間(ギャップ)が形成されているが、この隙間の容積に相当するだけの溶融金属の余剰分は、円筒体12のエッジ部12Cを溶融させることで確保されている。従って、円筒体12とパイプ材13との間に形成される隙間によって溶融金属が不足することはなく、円筒体12とパイプ材13との間を接合するために十分な量の溶融金属を確保することができる。
【0047】
そして、円筒体12のエッジ部12Cからパイプ材13側へと流込んだ溶融金属は、円筒体12の外周面からパイプ材13の外周面に向けて円弧状に延びた状態で凝固する。これにより、円筒体12の外周面とパイプ材13の外周面との間に、アンダフィルがなく、滑らかな円弧状の止端部形状を有する外周側ビード部16Aを形成することができる。
【0048】
一方、円筒体12とパイプ材13との間の外周側段差部14から内周側段差部15へと流込んだ溶融金属は、円筒体12の突合せ面12Bとのぬれ性により該突合せ面12Bに沿って下方へと流れ、パイプ材13の内周面と円筒体12の突合せ面12Bとの間に円弧状に付着した状態で凝固する。これにより、円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の内周面との間に、凸状部がない滑らかな止端部形状を有する円弧状の内周側ビード部(裏波ビード部)16Bを形成することができる。
【0049】
このようにして、回転装置21を用いて円筒体12とパイプ材13とを同心状に突合わせた状態で回転させつつ、円筒体12とパイプ材13との間に形成された外周側段差部14のうち円筒体12のエッジ部12Cに外周側からレーザビーム26を照射することにより、図3および図6に示すように、円筒体12とパイプ材13との間に全周に亘って環状な溶接部16が形成された軸受用ボス11を得ることができる。
【0050】
この場合、円筒体12の外周面とパイプ材13の外周面との間に形成された外周側ビード部16Aは、アンダフィルがなく滑らかな円弧状の止端部形状を有している。一方、円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の内周面との間に形成された内周側ビード部16Bも、滑らかな円弧状の止端部形状を有している。このため、外周側ビード部16A、内周側ビード部16Bに応力が集中するのを抑えることができ、溶接部16によって円筒体12とパイプ材13との間を強固に接合することができる。この結果、応力集中が低減され強度に優れた軸受用ボス11を形成することができる。
【0051】
ここで、本実施の形態による軸受用ボス11の比較例として、外径寸法および内径寸法が等しい円筒体とパイプ材を用い、これら円筒体とパイプ材との突合せ部にレーザ溶接を施して溶接部を形成した場合について、図7および図8を参照して説明する。
【0052】
まず、図7に示すように、外径寸法および内径寸法が等しい円筒体27とパイプ材28とを同心状に突合せた状態で回転させつつ、これら円筒体27とパイプ材28との突合せ部にレーザビーム26を照射することにより、円筒体27とパイプ材28とを溶融させる。
【0053】
この場合、円筒体27の突合せ面とパイプ材28の突合せ面との間に隙間(ギャップ)がある場合には、円筒体27とパイプ材28とを接合するための溶融金属が、両者間に形成された隙間の容積分だけ不足してしまう。これにより、図8に示すように、円筒体27とパイプ材28との間に形成された溶接部29の外周側に、溶融金属の不足に応じたアンダフィル29Aが形成されてしまう。
【0054】
一方、円筒体27とパイプ材28との突合せ部の内周面はほぼ同一面となっているため、両者の突合せ部の内周側に溶融金属が流込むことにより、溶接部29の内周側に凸状の裏波ビード部29Bが形成されてしまう。
【0055】
このように、外径寸法および内径寸法が等しい円筒体27とパイプ材28とを突合せ、両者の突合せ部にレーザビーム26を照射して溶接部29を形成した場合には、溶接部29の外周側にはアンダフィル29Aが形成され、溶接部29の内周側には凸状の裏波ビード部29Bが形成され、これらアンダフィル29A、凸状の裏波ビード部29Bに応力が集中して破損し易くなることが確認された。
【0056】
これに対し、本実施の形態による軸受用ボス11は、外径寸法および内径寸法が異なる円筒体12とパイプ材13とを用い、これら円筒体12とパイプ材13とを突合せた状態で両者間に生じる外周側段差部14のうち円筒体12のエッジ部12Cにレーザビーム26を照射することにより、円筒体12とパイプ材13との間に溶接部16を形成する構成となっている。
【0057】
このため、レーザビーム26によって円筒体12とパイプ材13との突合せ部を溶融させるだけでなく、円筒体12のエッジ部12Cを溶融させることができるので、この円筒体12のエッジ部12Cが溶融した分だけ溶融金属全体の容積を増大させることができる。
【0058】
これにより、円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の突合せ面13Aとの間に隙間(ギャップ)が形成されていたとしても、この隙間の容積に相当するだけの溶融金属の余剰分を確保することができ、円筒体12とパイプ材13との間に形成された溶接部16の外周側に、アンダフィルがない外周側ビード部16Aを形成することができる。
【0059】
即ち、溶融金属の容積が増大する分、円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の突合せ面13Aとの間に形成される隙間を許容することができるので、例えばレーザ溶接の前作業として円筒体12の突合せ面12B、パイプ材13の突合せ面13Aに対する端面処理等を行なう必要がなく、この分、軸受用ボス11の生産性を高めることができる。
【0060】
一方、円筒体12とパイプ材13との突合せ部の内周側には、両者の内径寸法の違いによる内周側段差部15が形成されているので、円筒体12の突合せ面12Bとパイプ材13の内周面との間に、凸状部がない滑らかな止端部形状を有する内周側ビード部16Bを形成することができる。
【0061】
これにより、円筒体12とパイプ材13との間を接合する溶接部16の外周側ビード部16A、内周側ビード部16Bに応力が集中するのを抑えることができ、強度に優れた軸受用ボス11を形成することができる。
【0062】
また、軸受用ボス11の溶接部16は、円筒体12とパイプ材13との間に形成された外周側段差部14にレーザビーム26を照射することにより形成されている。このため、円筒体12とパイプ材13とに与えられる入熱量を小さくすることができ、溶接後の軸受用ボス11の歪を抑えることができる。しかも、円筒体12とパイプ材13との突合せ部の外周側から内周側に亘って深い溶込みを得ることができ、円筒体12とパイプ材13との間を溶接部16によって強固に接合することができる。
【0063】
また、本実施の形態による軸受用ボス11は、同心状に突合わせた円筒体12とパイプ材13とを回転させつつ、両者間の外周側段差部14にレーザビーム26を照射することにより、円筒体12とパイプ材13との間に全周に亘って環状な溶接部16を形成している。従って、回転する円筒体12とパイプ材13とに対し、固定されたビームヘッド(図示せず)からレーザビーム26を照射することができるので、レーザビーム26の照射位置を正確に位置決めすることができ、円筒体12とパイプ材13との間に良好な溶接部16を形成することができる。また、ビームヘッドを移動させる必要がないので、レーザ溶接機側の機構を簡素化することができる。
【0064】
次に、図9ないし図12は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、円筒体の突合せ面の外径寸法をパイプ材の突合せ面の外径寸法よりも小さく設定したことにある。なお、本実施の形態では上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0065】
図中、31は本実施の形態による軸受用ボスで、この軸受用ボス31は、第1の実施の形態による軸受用ボス11とほぼ同様に、後述の各円筒体32、パイプ材33、各溶接部36により全体として中空な円筒状に構成されている。しかし、本実施の形態による軸受用ボス31は、各円筒体32の突合せ面の外径寸法がパイプ材33の突合せ面の外径寸法よりも小さく設定されている点で、第1の実施の形態による軸受用ボス11とは異なっている。
【0066】
32,32は軸受用ボス31の軸方向の両端部を構成する一対の円筒体で、該各円筒体32は、内周側が軸受取付孔32Aとなった厚肉な円筒状に形成され、この軸受取付孔32Aにはスリーブ軸受等の軸受が取付けられるものである。また、円筒体32の端面のうち互いに対向する端面は、後述のパイプ材33が突合わされる環状な突合せ面32Bとなっている。
【0067】
33は軸受用ボス31の軸方向の中間部を構成するパイプ材で、該パイプ材33は、円筒体32よりも薄肉な円筒状に形成されている。また、パイプ材33の軸方向の両端面は、各円筒体32の突合せ面32Bに突合わされる突合せ面33Aとなっている。そして、パイプ材33の両端側は、後述の溶接部36によって各円筒体32に接合される構成となっている。
【0068】
ここで、図10に示すように、円筒体32の突合せ面32Bの外径寸法をD3とし、パイプ材33の突合せ面33Aの外径寸法をD4とすると、円筒体32(突合せ面32B)の外径寸法D3はパイプ材33(突合せ面33A)の外径寸法D4よりも小さく設定されている(D4>D3)。また、円筒体32の内径寸法(軸受取付孔32Aの孔径)をd3とし、パイプ材33の内径寸法をd4とすると、円筒体32の内径寸法d3はパイプ材33の内径寸法d4よりも小さく設定されている(d4>d3)。
【0069】
従って、図10および図11に示すように、各円筒体32の突合せ面32Bとパイプ材33の突合せ面33Aとを同心状に突合わせた状態では、円筒体32とパイプ材33との外周側には、両者の外径寸法の違いにより環状な外周側段差部34が形成され、大径なパイプ材33のエッジ部33Bが円筒体32から環状に突出する。一方、円筒体32とパイプ材33との内周側には、両者の内径寸法の違いにより環状な内周側段差部35が形成される。
【0070】
36,36は各円筒体32とパイプ材33の両端側との間に形成された溶接部で、該各溶接部36は、円筒体32とパイプ材33とを突合せた状態で、両者間に生じる外周側段差部34のうち大径なパイプ材33のエッジ部33Bに対して外周側からレーザビーム26を照射することにより形成されるものである。
【0071】
ここで、各溶接部36は、円筒体32の外周面とパイプ材33の外周面との間に滑らかな円弧状に形成された外周側ビード部36Aと、円筒体32の突合せ面32Bとパイプ材33の内周面との間に滑らかな円弧状に形成された内周側ビード部(裏波ビード部)36Bとを有している。そして、各溶接部36は、各円筒体32の突合せ面32Bとパイプ材33の突合せ面33Aとの間に全周に亘って環状に形成され、円筒体32とパイプ材33との間を強固に接合するものである。
【0072】
ここで、軸受用ボス31の溶接部36は、第1の実施の形態による軸受用ボス11の溶接部16と同様に、各円筒体32とパイプ材33とを、突合せ面32B,33Aが同心状となるように突合せた状態で回転装置21によって一体に回転させつつ、円筒体32とパイプ材33との間に形成された外周側段差部34のうち大径なパイプ材33のエッジ部33Bに外周側からレーザビーム26を照射することにより形成される(図10参照)。
【0073】
この場合、レーザビーム26は、パイプ材33のエッジ部33Bを溶融させると共に、円筒体32とパイプ材33との突合せ部を溶融させるため、溶融金属の全体の容積は、パイプ材33のエッジ部33Bが溶融した分だけ増大している。
【0074】
そして、溶融金属の一部は、パイプ材33のエッジ部33Bから円筒体32側へと流込み、溶融金属の多くは、円筒体32とパイプ材33との間に形成された外周側段差部34から内周側段差部35に向けて貫通するように流込む。これにより、図12に示すように、円筒体32とパイプ材33との突合せ部の外周側から内周側に亘って、溶融金属が凝固してなる溶接部36を形成することができる。
【0075】
この場合、円筒体32の突合せ面32Bとパイプ材33の突合せ面33Aとの間に、面粗さによる隙間(ギャップ)が形成されていたとしても、この隙間の容積に相当するだけの溶融金属の余剰分が確保されている。これにより、円筒体32の外周面とパイプ材33の外周面との間に、アンダフィルがなく、滑らかな円弧状の止端部形状を有する外周側ビード部36Aを形成することができる。
【0076】
一方、円筒体32とパイプ材33との間の外周側段差部34から内周側段差部35へと流込んだ溶融金属は、円筒体32の突合せ面32Bとのぬれ性により該突合せ面32Bに沿って下方へと流れ、パイプ材33の内周面と円筒体32の突合せ面32Bとの間に円弧状に付着した状態で凝固する。これにより、円筒体32の突合せ面32Bとパイプ材33の内周面との間に、凸状部がない滑らかな止端部形状を有する円弧状の内周側ビード部(裏波ビード部)36Bを形成することができる。
【0077】
かくして、本実施の形態においても、外径寸法および内径寸法が異なる円筒体32とパイプ材33とを同心状に突合わせた状態で回転させつつ、円筒体32とパイプ材33との間に形成された外周側段差部34のうち大径なパイプ材33のエッジ部33Bに外周側からレーザビーム26を照射することにより、各円筒部32とパイプ材33との間に、全周に亘って環状な溶接部36を形成することができる。
【0078】
この場合、各円筒部32とパイプ材33との間に形成された溶接部36は、アンダフィルがない滑らかな止端部形状を有する外周側ビード部36Aと、凸状部がない滑らかな止端部形状を有する内周側ビード部36Bとを備えているので、溶接部36によって円筒体32とパイプ材33との間を強固に接合することができ、応力集中が低減され強度に優れた軸受用ボス31を形成することができる。
【0079】
なお、上述した第1の実施の形態では、図5等に示すように、外周面と突合せ面12Bとが略直角に交わる円筒体12を用いた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば図13および図14に示す変形例のように、内周側が軸受取付孔12A′となり、突合せ面12B′の外周縁部が全周に亘って面取りされた円筒体12′を用いてもよい。
【0080】
この場合、円筒体12′のエッジ部12C′の外径寸法D1′は、パイプ材13の外径寸法D2よりも大きく設定され(D1′>D2)、円筒体12′とパイプ材13との間には外周側段差部14′と内周側段差部15′とが形成されている。そして、この外周側段差部14′のうち大径な円筒体12′のエッジ部12C′に外周側からレーザビーム26を照射することにより、円筒体12′とパイプ材13との間に、滑らかな止端部形状を有する外周側ビード部16A′と内周側ビード部16B′とを備えた溶接部16′を形成する構成としてもよい。
【0081】
また、上述した各実施の形態では、円筒体12(32)とパイプ材13(33)とをレーザ溶接によって接合した場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば電子ビーム溶接、プラズマ溶接等の他の溶接方法を用いてもよい。
【0082】
また、上述した各実施の形態では、円筒体12(32)よりも薄肉なパイプ材13(33)を用いた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、円筒体よりも厚肉なパイプ材を用いる構成としてもよい。
【0083】
また、上述した各実施の形態では、油圧ショベル1のアーム4Bとバケット4Cとを連結する軸受装置5に用いられる軸受用ボス11(31)を例に挙げている。しかし、本発明はこれに限らず、例えばブーム4Aとアーム4Bとを連結する軸受装置に用いられる軸受用ボス等にも広く適用することができる。
【0084】
さらに、上述した各実施の形態では、軸受用ボスを装備する建設機械として油圧ショベルを例に挙げたが、本発明はこれに限らず、例えば油圧クレーン、ホイールローダ、ブルドーザ等の他の建設機械に装備される軸受用ボスに広く適用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】第1の実施の形態による軸受用ボスが適用される軸受装置を備えた油圧ショベルを示す正面図である。
【図2】軸受用ボスが適用される軸受装置を図1中の矢示II−II方向からみた断面図である。
【図3】第1の実施の形態による軸受用ボスを単体で示す断面図である。
【図4】円筒体とパイプ材とを同心状に突合わせた状態で両者の突合せ部をレーザ溶接する状態を示す断面図である。
【図5】円筒体とパイプ材との突合せ部に形成された外周側段差部にレーザビームを照射した状態を拡大して示す断面図である。
【図6】円筒体とパイプ材との間に形成された溶接部を拡大して示す断面図である。
【図7】第1の実施の形態に対する比較例による円筒体とパイプ材との突合せ部にレーザビームを照射した状態を示す断面図である。
【図8】比較例による円筒体とパイプ材との間に形成された溶接部を拡大して示す断面図である。
【図9】第2の実施の形態による軸受用ボスを単体で示す断面図である。
【図10】円筒体とパイプ材とを同心状に突合わせた状態で両者の突合せ部をレーザ溶接する状態を示す断面図である。
【図11】円筒体とパイプ材との突合せ部に形成された外周側段差部にレーザビームを照射した状態を拡大して示す断面図である。
【図12】円筒体とパイプ材との間に形成された溶接部を拡大して示す断面図である。
【図13】変形例による円筒体とパイプ材との突合せ部にレーザビームを照射した状態を拡大して示す図5と同様な断面図である。
【図14】変形例による円筒体とパイプ材との間に形成された溶接部を拡大して示す図6と同様な断面図である。
【符号の説明】
【0086】
5 軸受装置
6 ブラケット
7 連結ピン
8 スリーブ軸受(軸受)
11,31 軸受用ボス
12,32,12′ 円筒体
12A,32A,12A′ 軸受取付孔
12B,13A,32B,33A,12B′ 突合せ面
12C,33B,12C′ エッジ部
13,33 パイプ材
14,34,14′ 外周側段差部
15,35,15′ 内周側段差部
16,36,16′ 溶接部
21 回転装置
26 レーザビーム(高エネルギビーム)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周側に軸受が取付けられる円筒体と、前記円筒体の外径寸法とは異なる外径寸法を有すると共に前記円筒体の内径寸法とは異なる内径寸法を有するパイプ材と、前記円筒体の端面と前記パイプ材の端面とを突合せた状態で両者間に生じる段差部を外周側から溶接することにより形成された溶接部とにより構成してなる軸受用ボス。
【請求項2】
前記溶接部は、前記円筒体と前記パイプ材との間に生じる段差部のうち大径な部材のエッジ部に対し高エネルギビームを照射することにより形成してなる請求項1に記載の軸受用ボス。
【請求項3】
前記溶接部は、前記円筒体と前記パイプ材とを同心状に突合わせた状態で回転させつつ両者間に生じる段差部を全周に亘って溶接することにより形成してなる請求項1または2に記載の軸受用ボス。
【請求項4】
前記円筒体の突合せ面の外径寸法は、前記パイプ材の突合せ面の外径寸法よりも大きく設定してなる請求項1,2または3に記載の軸受用ボス。
【請求項5】
前記円筒体の突合せ面の外径寸法は、前記パイプ材の突合せ面の外径寸法よりも小さく設定してなる請求項1,2または3に記載の軸受用ボス。
【請求項1】
内周側に軸受が取付けられる円筒体と、前記円筒体の外径寸法とは異なる外径寸法を有すると共に前記円筒体の内径寸法とは異なる内径寸法を有するパイプ材と、前記円筒体の端面と前記パイプ材の端面とを突合せた状態で両者間に生じる段差部を外周側から溶接することにより形成された溶接部とにより構成してなる軸受用ボス。
【請求項2】
前記溶接部は、前記円筒体と前記パイプ材との間に生じる段差部のうち大径な部材のエッジ部に対し高エネルギビームを照射することにより形成してなる請求項1に記載の軸受用ボス。
【請求項3】
前記溶接部は、前記円筒体と前記パイプ材とを同心状に突合わせた状態で回転させつつ両者間に生じる段差部を全周に亘って溶接することにより形成してなる請求項1または2に記載の軸受用ボス。
【請求項4】
前記円筒体の突合せ面の外径寸法は、前記パイプ材の突合せ面の外径寸法よりも大きく設定してなる請求項1,2または3に記載の軸受用ボス。
【請求項5】
前記円筒体の突合せ面の外径寸法は、前記パイプ材の突合せ面の外径寸法よりも小さく設定してなる請求項1,2または3に記載の軸受用ボス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−112596(P2006−112596A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303149(P2004−303149)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】
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