説明

軸受装置

【課題】温度センサで所望の位置の温度を測定でき且つ配線の取り回し性に優れた軸受装置を提供する。
【解決手段】温度センサTSからの配線が、外輪11に形成された貫通する孔11d等を通して外部に延在しているので、温度を測定するのに最適な内部の場所に温度センサTSを配置することで高精度な測定を行うことができ、更に外輪11に孔11d等を形成することで、温度センサTSより孔11d等を介して軸受の側面など任意の場所への配線の引き出しが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度センサ装置を備える軸受装置に関し、特に、自動車の電装部品、エンジン補機であるオルタネータや中間プーリ、カーエアコン用電磁クラッチ、水ポンプ、ハブユニット、ガスヒートポンプ用電磁クラッチ、コンプレッサ、リニアガイド装置、ボールねじ等に用いられると好適な軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転部品を支持する軸受装置は、一度組み込まれると定期的な検査が行われないケースが多く、かかる場合、温度異常に起因する不具合が発生したときに初めて内部を検査することが多かった。また鉄道車両や風車等の軸受の場合は、一定期間使用した後に、軸受装置やその他の部分について分解し検査が行われる。したがって、温度異常に起因する不具合を事前に予測することが難しかった。これに対し、温度センサを軸受装置に取り付けて温度変化を測定することで、致命的な不具合が発生する前に軸受の異常を発見しようとする試みがある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−130263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の技術によれば、温度センサとして積層サーミスタを用いており、それからの配線は、内輪に設けられた溝を介して外部へと引き出されている。しかるに、内輪に形成した溝を介して配線を引き出す場合、内輪の表面に沿って這わせる必要があり、配線の長さが長くなるという問題がある。又、薄形の温度センサであれば、軸受内部の奥に配置することも可能であるが、そこからどのようにして配線を引き出すかが問題となっている。
【0004】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、温度センサで所望の位置の温度を測定でき且つ配線の取り回し性に優れた軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の軸受装置は、
外輪と、内輪と、両輪間に配置された転動体とを有する転がり軸受と、前記転がり軸受の内部の温度を測定する温度センサとを有する軸受装置において、
前記温度センサからの配線は、前記軸受装置の構成部品に形成された貫通孔を通して外部に延在していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、前記温度センサからの配線が、前記軸受装置の構成部品に形成された貫通孔を通して外部に延在しているので、温度を高精度に測定するのに最適な内部の場所に前記温度センサを配置した場合でも、いずれかの構成部品に貫通孔を形成することで、前記温度センサより前記貫通孔を介して任意の場所への配線を引き出すことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態に用いる転がり軸受の軸線方向断面図である。軸受装置(転がり軸受ともいう)10は、外輪11と、内輪12と、両輪11,12間に配置された転動体としての玉13と、玉13を周方向に等間隔に保持する保持器14と、両輪11,12間を密封する円盤状のシール15,15とを有する。玉13は、窒化珪素や炭化珪素等のセラミック製とすることもできる。
【0008】
外輪11は、その内周において、軌道面11aと、両端近傍に形成された取り付け溝11b、11bを有する。内輪12は、その外周において、軌道面12aと、両端近傍に形成されたシール溝12b、12bを有する。
【0009】
シール15は、略ドーナツ板状の金属板材(SPCCやSECC等)からなり鈎部以外の主部と鈎部とを備えた芯金15aと、芯金15aの内径側に一体的に加硫成形された合成ゴム(ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等)製のリップ部15bと、芯金15aの外径側に一体的に加硫成形された合成ゴム製の取り付け部15cと、を有する。シール15は、取り付け部15cを弾性変形させながら、外方から取り付け溝11bに係合させることで、外輪11に取り付けられる。かかる状態で、リップ部15bの先端はシール溝12bに接触している。なお、軸受装置10のシールは、接触ゴムシールに限らず、非接触ゴムシール、非接触鋼板など限定されない。外輪11の軌道面11aの中央には、温度センサTSが玉13に非接触の状態で形成されている。図1において、温度センサTSの厚さは誇張して示されている。
【0010】
温度センサTSの製造方法について説明する。まず、温度センサを配置したい部材の表面(ここでは外輪11の軌道面11aに形成された浅い周溝又はくぼみ11c)に、1μm厚のDLC(ダイヤモンドライクカーボン)などの耐高温絶縁性薄膜Mを形成する。その上に、インクジェット方式により銀被膜で微細なセンサパターンPを形成する。その後、センサパターンPを焼成することで温度センサTSを、接着剤等を用いることなく外輪11上に配置することができる。実装場所によっては、温度センサの配線をも同様にパターニングしてもよい。
【0011】
センサパターンPは、例えば銀の超微粒子が独立状態で分散している分散液を、微細ノズルよりインクとして耐高温絶縁性薄膜M上に吐出することによって形成される。吐出されたインクは、焼成または低真空ガス中に放置することで蒸発することから、強い銀被膜を得ることができる。銀に限らず、金や銅、アルミなどの微粒子を用いることで、導電性薄膜を形成できる。尚、インクジェット方式による薄膜の形成については、例えば特開2003−209341号公報に詳細に記載されているので、以下説明しない。又、センサパターンPは、インクジェット方式以外の方法で形成されても良い。
【0012】
図2は、温度センサTSのセンサパターンPを示す拡大図である。外部に接続される配線は、曲がりくねったパターン線TSaの両端にある端子部TSb、TSbに接続される。パターンPは、全体の幅が200μmで、線幅が30μm程度の微細な形状である。センサパターンPを形成した部位が熱膨張により変形した場合、パターン線TSaの長さが変化し、その抵抗値が変化するため、外部から流した電流の変化を検出することで、温度を精度良く測定できる。
【0013】
図1において、温度センサTSを外輪11の軌道面11a内の位置Aに配置する場合、外輪11を半径方向に貫通する孔11dを形成し、温度センサTSに接続した配線Rを孔11dを通して半径方向外部へと導き出すようにできる。尚、例えば外輪11が不図示の円筒部内に配置されるような場合、配線Rを軸受10の半径方向に引き出せないことがある。かかる場合、外輪11の外周に軸線方向の溝11eを形成し、温度センサTSに接続した配線Qを孔11dと溝11eとを介して軸線方向外部に引き出すこともできる。或いは、外輪11の側面から穿孔することにより、内部で孔11dに交差する軸線方向の孔11fを形成し、温度センサTSに接続した配線Pを孔11dと孔11fとを介して、外輪11の側面から軸線方向外部に引き出すこともできる。
【0014】
本実施の形態によれば、温度センサTSからの配線が、外輪11に形成された貫通する孔11d等を通して外部に延在しているので、温度を測定するのに最適な内部の場所に温度センサTSを配置することで高精度な測定を行うことができ、更に外輪11に孔11d等を形成することで、温度センサTSより孔11d等を介して軸受の側面など任意の場所への配線の引き出しが可能となる。
【0015】
本実施の形態の変形例として、温度センサTSを、外輪11の軌道面11a以外の内周面における位置Bに配置することもできる。かかる場合、取り付け溝11bの底に、更に軸線方向に向かう溝11gを形成し、温度センサTSに接続した配線Sを溝11gを介して軸線方向外部に引き出すこともできる。又、本実施の形態の別な変形例として、温度センサTSを、シール15の芯金15aの内側面における位置Cに配置することもできる。かかる場合、シール15を軸線方向に貫通する孔15dを形成し、温度センサTSに接続した配線Tを孔15dを介して軸線方向外部に引き出すこともできる。
【0016】
本発明者らは、上記方法により作製された温度センサTSを、実施例として外輪11の軌道面11a(位置A)に取り付けると共に、比較例として外輪11の外周面(位置A’)に取り付けて、軸受装置を動作させたときの温度上昇をシミュレーションした。その結果を図3に示す。なお、シミュレーションに用いた仕様は、以下の通りである。
軸受:日本精工(株)製の6203(呼び番号)単列深溝玉軸受
回転数:10,000min-1
回転時間:1時間
【0017】
図3から明らかなように、比較例のように温度センサTSを軸受装置10の外部に配置した場合と比較して、実施例のように温度センサTSを軸受装置10の内部に配置すると、軸受装置の温度変化をレスポンス良く測定できることがわかる。本実施の形態の温度センサTSは、軸受10の構成部品である外輪11の表面に形成された絶縁性薄膜M上に、インクジェット方式によりパターニングされた導電性薄膜Pを有するので、かかる導電性薄膜Pにより精度良く且つレスポンス良く軸受の温度を測定できる。従って、レスポンスの良い温度測定を通じて、異常な温度上昇が予兆として現れる軸受装置に生じる不具合を精度良く予測することが可能となる。
【0018】
以上、本発明を実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定して解釈されるべきではなく、適宜変更・改良が可能であることはもちろんである。例えば上述の温度センサに限らず、積層サーミスタ等種々のセンサを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施の形態にかかる軸受装置の軸線方向断面図である。
【図2】温度センサTSのセンサパターンPを示す拡大図である。
【図3】軸受装置を動作させたときの温度上昇をシミュレーションした結果を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
10 軸受
11 外輪
11a 軌道面
11b 取り付け溝
12 内輪
12a 軌道面
12b シール溝
13 玉
14 保持器
15 シール
15a 芯金
15b リップ部
TS 温度センサ
TSa パターン線
TSb 端子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、内輪と、両輪間に配置された転動体とを有する転がり軸受と、前記転がり軸受の内部の温度を測定する温度センサとを有する軸受装置において、
前記温度センサからの配線は、前記軸受装置の構成部品に形成された貫通孔を通して外部に延在していることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
前記貫通孔は前記外輪に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記軸受装置はシールを含み、前記貫通孔は前記シールに形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−64182(P2008−64182A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241496(P2006−241496)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】