説明

軸受部材及びポンプ

【課題】軸受の脱離を確実に防止できる軸受部材及びポンプを提供すること。
【解決手段】ポンプ装置1に用いられるポンプ5は、回転軸6及び軸受部材50が貫通する貫通孔37に形成された固定溝(溝部)38と、回転軸6に固定されるスリーブ51、固定溝38に係合する軸受部(軸受)52、及び、固定溝38の内径としめしろを有し、ポンプケース30と同一材料で形成された止め輪53を有する軸受部材50と、を備え、固定溝38に軸受部52を係合後、固定溝38に止め輪53をしまりばめで嵌合することで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受部材及びポンプに関し、特に軸受の固定に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液体を供給するポンプには、回転軸とポンプケースとの摺動により発生する磨耗や齧り付き等を防止、及び、回転軸の回転ブレを防止するために、軸受部材を用いて、ポンプケースに回転軸を摺動可能に支持する方法がられている。このような軸受部材は、ポンプケースに固定され、SiC、樹脂及びセラミック等により形成された軸受と、回転軸に固定されたスリーブとにより構成されている。このような軸受部材をポンプに用い、回転軸のスリーブとポンプケースの軸受とを摺動させることで、回転軸をポンプケースに軸支(支持)することが可能となる。
【0003】
このような軸受をポンプケースへ固定する方法は、軸受を接着剤や充填剤を用いてポンプケースに密着固定する方法や、ゴム剤等の樹脂(合成樹脂を含む)等によりモールドして固定する方法が知られている。これらのような軸受の一例として、摺動面をセラミックにより形成されたセラミック軸受が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
このように軸受部材は、軸受を接着剤や充填剤等でポンプケースに密着固定することで、軸受の脱離及び回転軸との供回りを防止する。
【特許文献1】特開平05−065921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような軸受部材では、次のような問題があった。即ち、接着剤や充填剤を用いてポンプケースに軸受を固定する方法では、接着剤や充填剤の塗布が不十分であると、軸受は、ポンプケースから脱離する虞や回転軸と供回りする虞がある。このような軸受の脱離は軸心方向に軸受が移動しておこるため、軸受とスリーブとは離間することとなる。このため、スリーブとポンプケースとの間に隙間が発生し、回転軸の軸支機能の損失に陥る虞がある。また、軸受の供回りが発生すると、スリーブ、軸受及びポンプケース等の構成品が互いに摺動し、偏摩耗(摩耗)する虞がある。これらの軸支機能の損失や摩耗が発生すると、回転軸が芯ブレを伴って回転することがある。このような芯ブレを伴った回転軸の回転や軸支機能の損失は、回転軸及び軸受部材を含む各構成品に通常使用では印加されない異常な負荷が加わり、ポンプの破損となるおそれがある。
【0006】
接着剤を用いて軸受をポンプケースに固定する方法では、使用目的、液質及び液温等のポンプの使用条件及び使用環境によっては、使用可能な接着剤が限定される。さらに、異種材料を接着剤にて固定するのは困難であることもある。また、軸受の交換やポンプケースの破棄時等に、ポンプケースと軸受との分別が困難であり、作業性が悪い。
【0007】
ゴム等により軸受の表面をモールドしてポンプケースに固定する方法では、軸受をポンプケースに固定するためのゴムの成型が困難であり、また、経年変化によるゴムの劣化により、ポンプケースから脱離する虞もある。
【0008】
また、接着剤、充填剤及びゴムのモールドにより軸受をポンプケースに固定する方法は、組立時の作業性が悪く、組立工程の増加や組立時間の増大にもなる。
【0009】
そこで本発明は、軸受部材及びポンプに関し、特に軸受の脱離を確実に防止できるものを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明の軸受部材及びポンプは次のように構成されている。
【0011】
回転体を挿入させる挿入孔、及び、この挿入孔の前記回転体に対向する内周縁部に設けられた底部を有する円環状の溝部を有するケーシングに組み込まれた軸受部材において、前記回転体の外周に嵌合されたスリーブと、一方の端面が前記底部に対向して前記溝部に係合され、その内周面が前記スリーブの外周面と摺接する円筒状の軸受と、前記溝部の前記軸受の他方の端部側に嵌合される止め輪と、を備えることを特徴とする。
【0012】
モータにより回転駆動可能に接続された回転軸と、この回転軸の回転に追従して回転可能に固定されたインペラと、このインペラを収納するとともに、前記回転軸を貫通させる貫通孔、及び、この貫通孔の前記回転軸に対向する内周縁部に設けられた底部を有する円環状の溝部を有するポンプケースと、前記回転軸の外周に嵌合されたスリーブ、その一方の端面が前記底部に対向して前記溝部に係合され、その内周面が前記スリーブの外周面と摺接する円筒状の軸受、及び、前記溝部の前記軸受の他方の端部側に嵌合される止め輪を具備する軸受部材と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、軸受の脱離を確実に防止することが可能な軸受部材及びポンプを提供するが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本発明の一実施の形態に関わる軸受部材50を用いたポンプ装置1の一部切欠を示す側面図、図2は同軸受部材50を用いたポンプ5の構成を示す拡大断面図、図3は同軸受部材50の構成を示す断面図、図4は同軸受部材50の構成を示す上面図である。なお、図1中Fは水の流れを、Jはポンプケース30の収納部を、Kはポンプケース30の流水路を、それぞれ示している。
【0015】
図1に示すようにポンプ装置1は、例えば、縦型の多段ポンプであり、使用流体は水等が用いられる。このような、ポンプ装置1は、モータ2と、このモータ2に接続された第1連結部材3と、第1連結部材3に接続された第2連結部材4と、この第2連結部材4に接続されたポンプ5と、モータ2に第1連結部材3及び第2連結部材4を介して接続され、ポンプ5の一部を構成する回転軸(回転体)6と、を備えている。
【0016】
モータ2は、モータの回転力を外部に伝達可能な回転軸であるモータ軸2aを有するDCモータが用いられる。
【0017】
第1連結部材3は、円筒状の軸受ケース11と、この軸受ケース11内に設けられた第1継手12と、この第1継手12を軸支する複数(図1中3つ)の軸受13と、軸受13を軸受ケース11に固定させる固定具14と、を備えている。
【0018】
第1継手12は、2つの異なる外径を有する円筒体に形成されており、モータ2側に大径部が、ポンプ5側に小径部が配置されるよう、軸受ケース11内に収納されている。第1継手12は、その大径部側でモータ軸2aを少なくとも回転方向に固定可能に形成されている。第1継手12は、第1継手12の回転を駆動体、ここでは後述する第2連結部材4の第2継手16に伝達可能な伝達部15を小径部側に有している。
【0019】
第2連結部材4は、第2継手16と、この第2継手16をその内部に収納する継手ケース17と、を備えている。
第2継手16は、例えば、ボルト等により一対の半円筒部材を一体に結合することで円筒状に組立可能に形成されている。また、第2継手16は、円筒状に組立てることで、伝達部15及び回転軸6を固定可能に形成されている。なお、ここで、第2継手16による伝達部15及び回転軸6の固定方法は、例えば、伝達部15にキーを、第2継手16の一方にキー溝を設け、キーにより固定するとともに、第2継手16の他方及び回転軸6にそれぞれ孔部を設けてピンにより固定する方法等でよい。なお、このような固定方法は適宜設定可能である。
【0020】
継手ケース17は、モータ2に軸受ケース11を介してボルトBにより固定可能に形成されている。また、継手ケース17は、回転軸6が貫通するとともに、継手ケース17と回転軸6との間には、回転軸6が回転摺動可能なメカニカルシールが設けられている。
【0021】
ポンプ5は、回転軸6と、この回転軸6に固定された複数のインペラ20と、インペラ20をそれぞれ覆う(収納する)とともに、互いに積層された複数のポンプケース(ケーシング)30と、インペラ20及びポンプケース30の間に設けられたライナリング40と、回転軸6及びポンプケース30の間に設けられた軸受部材50とを備えている。
【0022】
また、ポンプ5は、最下段のポンプケース30に接続され、吸込口61及び吐出口62を形成する流路カバー60と、複数のポンプケース30の外周を覆うとともに、ポンプケース30の最上段から吐出口62まで流路を形成する円筒状の吐出流路部64とを備えている。なお、流路カバー60の吸込口61は、ポンプケース30への流路を形成しており、吐出口62は、最下段のポンプケース30とは、流路が遮断されている。
【0023】
インペラ20は、例えばステンレスや樹脂等で形成され、インペラ20の外周側に設けられた吐出口21と、インペラ20の一方の主面側(図1中下方)に設けられた吸込口22と、を有している。
【0024】
ポンプケース30は、例えばステンレスで形成され、上側底部30a及び下側底部30bを有する二重底の椀状、且つ、その中心側が後述する貫通口35及び貫通孔37により開口して形成されている。ポンプケース30は、ポンプケース30の側面及び上側底部30aにより形成され、その内部がインペラ20を収納する収納部Jと、上側底部30a下面及び下側底部30b上面との間に設けられた隙間であって、且つ、収納部の中心側からポンプケース30の外周方向へ開口して形成される流水路Kと、を備えている。また、ポンプケース30は、流水路Kのポンプケース30の外周側から内周側へ延設され、上側底部30a及び下側底部30bを連続させることで、水の流れを案内する複数の仕切壁30cを備えている。
【0025】
このようなポンプケース30は、ポンプケース30を積層し接続させた際に、ポンプケース30の収納部Jから、次段のポンプケース30の流水路Kの仕切壁30c間を介して次段のポンプケース30の収納部Jへと連続する水の流れFを形成する。
【0026】
また、ポンプケース30は、ポンプケース30の上面に設けられた凸状接続部32と下面側外周部に設けられた凹状接続部33とを備えている。ポンプケース30は、上下に隣り合う凸状接続部32と凹状接続部33とを接続させることでポンプケース30を複数段接続可能に形成されている。また、ポンプケース30の凸状接続部32の内周部には、シール溝34が設けられており、このシール溝34に樹脂製のOリングSが装着されている。
【0027】
ポンプケース30は、収納部Jと流水路Kとの間の上側底部30aに設けられ、収納部Jに配置されたインペラ20の吸込口22の外周面と所定の隙間により離間する貫通口35と、貫通口35の内周縁部に設けられ、ライナリング40が設けられる円環状の嵌合溝36とを備えている。また、ポンプケース30は、回転軸6及び軸受部材50を貫通(挿入)する貫通孔(挿入孔)37と、貫通孔37の内周縁部に形成され、後述する軸受部52が固定される固定溝(溝部)38が設けられている。なお、固定溝38は、例えば、貫通孔37を収納部J側から切削加工することで、底部38aを有する円筒状の溝に形成されている。即ち、貫通孔37の内周面は、底部38aの内周面となる。
【0028】
下側底部30bは、その中心側であって、貫通孔37の周囲に設けられ、収納部J側(上方)に突出することで、固定溝38の内周面を構成する突出部30dを有している。この突出部30dは、その上端が後述する軸受け52及び止め輪53を組み合わせた高さと略同一の高さに形成されるとともに、下側底部30bから突出部30d上端まで滑らかな曲線で連続して形成されている。
【0029】
ライナリング40は、嵌合溝36に配置され、樹脂やCAC系の銅合金等により形成された円環状のライナリング本体41と、このライナリング本体41を覆うとともに、嵌合溝36に圧入可能に形成されたカバー42とを備えている。
【0030】
ライナリング本体41は、嵌合溝36にカバー42を圧入した際に、カバー42の内周面に略同一となる外周径であって、インペラ20の吸込口22側の外周面と所定の微小隙間を形成する内周径を有している。
【0031】
カバー42は、その側断面(側面)形状が円弧状に形成されたL字状の断面形状に形成されている。また、カバー42の外周径は、嵌合溝36の内径よりも少し大きな径に形成されている。圧入したカバー42の側面は、カバー42の外径が嵌合溝36の内径より少し大きな径のため、嵌合溝36側面をその復元力により押圧し、カバー42が固着される。
【0032】
軸受部材50は、スリーブ51と、軸受部(軸受)52と、止め輪53と、を備えている。
スリーブ51は、例えばSiC(炭化珪素)系のセラミックにより円筒状に成型されており、回転軸6に嵌合することで固定されている。スリーブ51は、その内径が、回転軸6に嵌合可能に、回転軸6の外径と略同一に形成されている。また、スリーブ51は、貫通孔37の内径よりその外径が小さく形成されている。
【0033】
軸受部52は、例えばSiC系のセラミックによりその内径が貫通孔37の内径より小径の円筒状に形成され、その内周面がスリーブ51と摺接可能に形成されている。軸受部52は、その内周径が、スリーブ51の外周面と接触可能、且つ、摺動可能に形成され、スリーブ51が軸受部52の内周面を滑らかに回転可能に形成されることで、回転軸6を軸支可能に形成されている。即ち、軸受部52は、スリーブ51及び軸受部52との隙間(寸法公差)が、スリーブ51の回転時に摺動可能であって、齧り付きが防止可能、且つ、回転軸6の回転時に偏心やぶれが生じない所定の隙間に形成されている。また、軸受部52は、その一方の端面が底部38aに対向して固定溝38に係合される。
【0034】
なお、軸受部52には回転軸6との供回りを防止する防止手段が設けられている。例えば、軸受部52の底部38aと接する端面に凸部を設け、底部38aに切欠き部を設け、凸部と切欠き部とを係合させることで供回りを防止してもよい。
【0035】
止め輪53は、ポンプケース30と熱膨張率(熱膨張係数)が略同一となるように、同一材料のステンレス材で形成され、その断面が方形のリング状に形成されている。止め輪53は、軸受部52の底部38aに対向する端面とは他方の端面側に対向して固定溝38に嵌合される。なお、止め輪53とポンプケース30とは、同一材料を用いることで、熱膨張率が同一となるが、同一材料でなくとも、熱膨張率が略同等の性質であれば適用できる。
【0036】
詳しく述べると、止め輪53は、その内径が軸受部52の内径より大径に形成されている。また、止め輪53は、その外径が固定溝38の内径と略同一径に形成されるとともに、その外径と固定溝38の内径との寸法公差にしめしろを有する寸法公差で形成されている。
【0037】
このような止め輪53は、その一端面が軸受部52の端面と当接させて固定溝38に挿入する。この際、止め輪53外径と固定溝38内径とは、その寸法公差にしめしろを有する寸法公差で形成しているため、しまりばめ、例えば冷しばめにより嵌合させる。
【0038】
このような冷しばめによる止め輪53と固定溝38との組立について説明する。
先ず、止め輪53を冷却させ、止め輪53を収縮させる。ここで、止め輪53の冷却は、止め輪53を低温環境に設定した恒温槽に所定の時間曝すことで冷却してもよく、また、ドライアイス等により冷却してもよい。即ち、止め輪53が収縮すれば、どのような手法による冷しばめであってもよい。
【0039】
次に、冷却した止め輪53を、軸受部52が挿入(係合)された固定溝38へ挿入(嵌入)させる。このとき、止め輪53の端面を軸受部52の端面へ当接させながら係合させる。なお、固定溝38(ポンプケース30)の材料と止め輪53の材料とは、同一の熱膨張率を有しているため、同一温度で止め輪53と固定溝38がしめしろを有していても、冷却された止め輪53が収縮していることから、固定溝38へ止め輪53を挿入することが可能となる。この止め輪53の端面を軸受部52の端面へ押圧させる際に、所定の圧力とし、圧力を印加させながら止め輪53の温度を常温まで上昇させることで、止め輪53を軸受部52に干渉させて止め輪53により軸受部52の供回り防止をしてもよい。
【0040】
しめしろが大きい場合であって、止め輪53を固定溝38へ挿入する際に、互いに干渉する場合には、固定溝38を熱するか、又は、止め輪53を固定溝38へ圧入してもよい。
【0041】
固定溝38へ止め輪53を係合させたら、常温に曝すことで、止め輪53が膨張する(冷却前の常温の寸法に戻る)。固定溝38と止め輪53とは、しめしろを有する寸法公差で形成されているため、止め輪53が固定溝38に嵌合し、固定されることとなる。
【0042】
このように構成された軸受部材50を有するポンプ装置1では、モータ2によりモータ軸2aが回転すると、モータ軸2aから、第1連結部材3及び第2連結部材4を介して回転軸6が回転(駆動)することとなる。回転軸6が駆動することで、回転軸6に固定されているインペラ20も追従して回転する。このような回転軸6の回転により、インペラ20の吸込口22から水が吸込まれ、増圧されるとともに、インペラ20の吐出口21から水が吐出される。このように、インペラ20の吸込口22から吸い込まれた水は、インペラ20内部を介することで、増圧しながら順次インペラ20内を通過し、水の流れFに示すように揚水されることとなる。
【0043】
このとき、インペラ20により水が増圧されるため、最下段のポンプケース30内と最上段のポンプケース30内とでは、その圧力に差が発生する。即ち、流路カバー60の吸込口61から吸い込まれた水は、最下段のポンプケース30のインペラ20により増圧されて2段目のポンプケース30内へと移動する。次に、この増圧された水が、2段目のポンプケース30内でさらに増圧され、次のポンプケース30内へと移動する。
【0044】
このように、水は、増圧が繰り返されながら次のポンプケース30への移動を繰返し、最上段のポンプケース30で増圧された水が、吐出流路部64を介して流路カバー60の吐出口62へと移動する。
【0045】
このようなポンプ装置1の作動時においては、回転軸6の回転力や水圧が軸受部52に印加されるが、軸受部52にこれらの外力が印加されて軸受部52が脱離方向に移動しても、止め輪53に当接することとなる。このような、ポンプ装置1に用いる軸受部材50は、止め輪53をしまりばめにより固定溝38に固定することで、止め輪53は固定溝に嵌合しているため、軸受部52の脱離を防止することが可能となる。
【0046】
また、ポンプ装置1の使用によるポンプ5の温度の上昇、又は、使用流体が高温流体であるときには、ポンプ5の各構成品は熱膨張する。このような場合であっても、ポンプケース30と止め輪53とは、同一材料に形成することで、熱膨張率が同一となり、ポンプケース30の固定溝38及び止め輪53が共に熱膨張するため、熱膨張による止め輪53のポンプケース30からの脱離を防止することができる。即ち、ポンプケース30だけが膨張し止め輪53が脱離することが防止される。
【0047】
例えば、従来の技術のように、止め輪53を用いずに、接着剤だけで軸受部を固定した場合を説明する。ポンプ装置の運転時に、回転軸は、モータにより常時回転し、回転軸に設けられたスリーブの外周面と軸受部の内周面とは摺動する。
【0048】
しかし、スリーブの外径と軸受部の内径とは、齧り付きが防止され、且つ、回転軸の回転時に偏心やぶれが生じないような所定の隙間が設けられている。このため、スリーブと軸受部との摺動時に、軸受部には回転方向の回転モーメントが発生する、即ち、軸受部にスリーブと供回りする回転力が加わることとなる。
【0049】
このような回転力が印加する状態で、さらに、ポンプ装置の使用環境及び経年期間、及び、軸受部及びポンプケースの材質による接着機能の低下や損失により、軸受部が固定溝から固定解除する虞がある。また、ポンプケースが熱膨張することで、軸受部と固定溝との間隔が広がり、接着剤が剥離する虞もある。
【0050】
しかし、止め輪53を用いることで、たとえ固定溝38に軸受部52が固定されていない状態となった場合であっても、止め輪53は固定溝38に嵌合されており、止め輪53により、軸受部52が固定溝38から脱離することを確実に防止することが可能となる。
【0051】
このように軸受部52の脱離を確実に防止することで、回転軸6を確実に軸支可能となり、回転軸6の芯ブレ等を防止することが可能となる。これにより、ポンプ装置1の信頼性の向上にもなる。特に、ポンプ装置1として複数のインペラ20及びポンプケース30を有する多段ポンプを用いる場合、回転軸6の長さが長くなり、モータ2から離間するにしたがい、回転軸6の回転時に芯ブレが発生しやすくなる。このような状態で、軸受52が脱離すると、異常回転が発生し、ポンプ装置1の機能低下や機能停止となり、ポンプ装置1の破損となる虞もある。しかし、軸受部52の脱離を防止し、確実に回転軸6を軸支可能とすることで、ポンプ装置1の機能低下を防止し、ポンプ装置1の信頼性を向上させることにもなる。
【0052】
また、ポンプ装置1のメンテナンス等において、軸受部52の交換の際には、止め輪53を脱離すれば固定溝38から軸受部52を脱離可能となる。このような止め輪53の脱離は、軸受部52の内径が止め輪53の内径より大径であるため、軸受部52を押圧して脱離させても良い。また、止め輪53のみを部分的に冷却し、収縮させることで、固定溝38から脱離させても良い。このように、止め輪53を脱離させることで軸受部52の交換等の脱離が容易に行なうことが可能となる。
【0053】
このような軸受部52の脱離は、従来の技術のように接着剤を用いた場合であって接着剤が完全に軸受部52と固定溝38とを固定している場合、固定溝38から軸受部52を脱離することができない虞もある。また、軸受部52の脱離ができても、接着剤が固定溝38に付着している虞や、軸受部52の脱離作業が困難を極めることもある。このような場合、軸受部52だけでなく、ポンプケース30も交換する必要があり、メンテナンス性が悪くなる。
【0054】
しかし、止め輪53を用いた軸受部材50とすることで、軸受部52の脱離が容易となり、メンテナンス性を向上することが可能となる。即ち、ポンプ装置1の組立及び分解が容易となり、製造及びメンテナンス時の作業性の向上となる。
【0055】
また、ポンプ装置1の使用に関しても、軸受部52を止め輪53で固定する構造のため、使用流体や使用温度に制限も発生せず、また、ポンプケース30と同一材料を用いることで、使用条件を制限することもない。例えば、化学液等に用いる場合には、ポンプケース30が化学液に耐性を有する材料で形成するため、ポンプケース30と同一材料を用いる止め輪53は、当然用いることが可能となる。同様に、飲料水に用いるポンプ装置1の場合も、ポンプケース30と同一材料により止め輪30を形成するため、軸受部52を固定可能となる。
【0056】
このような使用流体によっては、接着剤は用いることができない場合や、接着能力の低下が発生する場合があるが、止め輪53は、使用に制限がないため、ポンプ装置1の汎用性を向上することにもなる。また、使用流体毎に、接着剤を変更する必要もなく、製造・管理コストの低減にもなる。
【0057】
上述したように、本実施の形態に係る軸受部材50を用いたポンプ装置1によれば、ポンプ装置1の使用流体に係らず止め輪53を確実に固定溝38に固定することで、確実に軸受部52の脱離を防止することが可能となる。また、止め輪53とポンプケース30とを同一材料で形成し、止め輪53を固定溝38にしまりばめにより固定することで、止め輪53を確実に固定するとともに、止め輪53の脱離を容易とすることが可能となる。これにより、ポンプ装置1の組立・分解等の作業性を向上することにもなる。
【0058】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではない。例えば、上述したポンプ装置1は、縦置きの多段ポンプとしたが、横置きでも良く、また、多段ポンプでなくともよく、単段ポンプであってもよい。横置きや単段ポンプであっても、ポンプ装置1と同様に、止め輪53により、軸受部52の脱離を防止することが可能となる。また、上述した止め輪53は断面が方形のリング状としたが、止め輪53の軸受部52と当接する面に凸部を有する構成としてもよい。凸部を有する止め輪53とした場合には、軸受部52の止め輪53と当接する端面に凹部を設け、この凸部と凹部とを干渉させて、軸受部52の供回り防止手段としてもよい。
【0059】
また、上述したポンプケース30と止め輪53との材料は、同一の熱膨張率を有する材料(同一材料)としたが、これに限定されるわけではない。例えば、ポンプ装置1の使用流体の温度が高い場合には、止め輪53の材料は、ポンプケース30の材料より熱膨張率が高い材料であってもよい。これは、止め輪53に熱膨張率が高い材料を用いることで、ポンプ装置1使用時に、止め輪53は、ポンプケース30より熱膨張をおこすため、止め輪53が脱離することがない。即ち、止め輪53がポンプケース30から熱膨張により脱離しない材料であればよい。但し、このように止め輪53の熱膨張率がポンプケース30より大きい場合であって、使用流体又はポンプ装置1が低温となる場合には、止め輪53の脱離の虞がある。このため、たとえ使用流体の温度が高くとも、使用上、低温となる可能性がある使用流体及び使用環境の場合には、止め輪53及びポンプケース30は略同一の熱膨張率を有する材料がよい。
【0060】
また、上述した固定溝38と止め輪53との嵌合は、冷しばめを用いるとしたが、別のしまりばめであってもよい。例えば、焼きばめでもよく、また、圧入しまりばめでも良い。
【0061】
さらに、上述した例では、ポンプ装置1に止め輪53を用いるとしたが、ポンプに限定されるわけではない。例えば、ポンプ以外の回転体を軸支する軸受部材であってもよい。この他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施の形態に関わる軸受部材を用いたポンプ装置の一部切欠を示す側面図。
【図2】同軸受部材を用いたポンプの構成を示す拡大断面図。
【図3】同軸受部材の構成を示す断面図。
【図4】同軸受部材の構成を示す上面図。
【符号の説明】
【0063】
1…ポンプ装置、2…モータ、2a…モータ軸、3…第1連結部材、4…第2連結部材、5…ポンプ、6…回転軸、11…軸受ケース、12…第1継手、13…軸受、14…固定具、15…伝達部、16…第2継手、17…継手ケース、20…インペラ、21…吐出口、22…吸込口、30…ポンプケース(ケーシング)、30a…上側底部、30b…下側底部、30c…仕切壁、30d…突出部、32…凸状接続部、33…凹状接続部、34…シール溝、35…貫通口、36…嵌合溝、37…貫通孔(挿入孔)、38…固定溝(溝部)、38a…底部、40…ライナリング、41…ライナリング本体、42…カバー、50…軸受部材、51…スリーブ、52…軸受部(軸受)、53…止め輪、60…流路カバー、61…吸込口、62…吐出口、64…吐出流路部、B…ボルト、J…収納部、K…流水路、S…Oリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体を挿入させる挿入孔、及び、この挿入孔の前記回転体に対向する内周縁部に設けられた底部を有する円環状の溝部を有するケーシングに組み込まれた軸受部材において、
前記回転体の外周に嵌合されたスリーブと、
一方の端面が前記底部に対向して前記溝部に係合され、その内周面が前記スリーブの外周面と摺接する円筒状の軸受と、
前記溝部の前記軸受の他方の端部側に嵌合される止め輪と、
を備えることを特徴とする軸受部材。
【請求項2】
前記ケーシングと前記止め輪とは熱膨張率が同一の金属材料で形成され、
前記溝部と前記止め輪とは、前記溝部の内径及び前記止め輪の外径の寸法公差にしめしろを有し、
前記止め輪は、しまりばめにより前記溝部に嵌合することを特徴とする請求項1に記載の軸受部材。
【請求項3】
前記しまりばめは、冷やしばめであることを特徴とする請求項2に記載の軸受部材。
【請求項4】
モータにより回転駆動可能に接続された回転軸と、
この回転軸の回転に追従して回転可能に固定されたインペラと、
このインペラを収納するとともに、前記回転軸を貫通させる貫通孔、及び、この貫通孔の前記回転軸に対向する内周縁部に設けられた底部を有する円環状の溝部を有するポンプケースと、
前記回転軸の外周に嵌合されたスリーブ、その一方の端面が前記底部に対向して前記溝部に係合され、その内周面が前記スリーブの外周面と摺接する円筒状の軸受、及び、前記溝部の前記軸受の他方の端部側に嵌合される止め輪を具備する軸受部材と、
を備えることを特徴とするポンプ。
【請求項5】
前記ポンプケースと前記止め輪とは熱膨張率が同一の金属材料で形成され、
前記溝部と前記止め輪とは、前記溝部の内径及び前記止め輪の外径の寸法公差にしめしろを有し、
前記止め輪は、しまりばめにより前記溝部に嵌合することを特徴とする請求項4に記載のポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−96124(P2010−96124A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268889(P2008−268889)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000148209)株式会社川本製作所 (161)
【Fターム(参考)】