説明

軸受鋼

新規な軸受鋼組成と軸受を形成する方法を提供する。軸受鋼組成は、炭素0.4から0.8重量%、窒素0.1から0.2重量%、クロム12から18重量%、モリブデン0.7から1.3重量%、シリコン0.3から1重量%、マンガン0.2から0.8重量%、及び鉄78から86.3重量%からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼と軸受の分野に関する。さらに詳しくは、本発明は新規な軸受鋼の組成と軸受を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受は2つの部品間の拘束相対運動を許容する装置である。転動要素軸受は内外レースウェイとこれらの間に配置された複数の転動要素(ボール又はローラ)とからなる。長期間の信頼性と性能のためには、種々の要素は転がり接触疲労、摩耗及びクリープに対する高い抵抗性を有することが重要である。
【0003】
最新の鋼は鋼製品の所望の用途に依存して鉄と合金元素を組み合せて製造される。クロムは一般的な合金元素であり、腐食と錆に耐えるために使用される。ステンレス鋼及び外科用ステンレス鋼は最小10%のクロムを含有する。
【0004】
ステンレス鋼の組成の一例はボーラーN360イソエクストラ(Bohler N360 isoextra(登録商標))である。この鋼は、0.30重量%炭素(C)、0.60重量%シリコン(Si)、0.40重量%マンガン(Mn)、15.00重量%クロム(Cr)、1.00重量%モリブデン(Mo)、0.40重量%窒素(N)からなる。この鋼は、耐食性、マルテンサイト硬化ステンレス鋼であり、高硬度と圧縮強度を呈する。
【0005】
ボーラーN360イソエクストラは、加圧エレクトロスラグ再溶解(P−ESR)プロセスを使用して製造されている。P−ESRプロセスでは、消耗電極が保護雰囲気下で水冷型の気スラグ溜まりに浸される。電流(通常はAC)が、電極と形成されるインゴットの間を通過してスラグを過熱し、金属の滴が電極から溶融される。滴はスラグを通って水冷型の底部まで移動し、そこで固化する。スラグ溜まりはインゴット形態で上方に搬送される。精製された金属材料の新しいインゴットは型の底からゆっくりと形成される。形成されたインゴットは均一であり、外側から内側に固化するので従来のキャストインゴットでのコアの弱さに関連した問題を克服する。
【0006】
Bohler N360 isoextra(登録商標)を製造するのに使用される保護雰囲気は窒素からなり、製造される鋼の窒素含有量を増加する。固体窒素保持添加物が溶湯に添加されてもよい。窒素は安価な鋼の特性を向上する合金元素として魅力的である。再溶融中の液相の金属滴の滞留時間が非常に短いために、気相を介して収集される窒素は最小であるが、システムの高圧は溶融金属に導入された添加物から窒素の漏出を防止する。
【0007】
年輪パターンやそばかす(freckle)の形成といったような種々の欠陥が再溶解インゴットで生じる。さらに、電極からの樹枝状骨格(dendrite skeleton)や小破片はインゴットの構造的欠陥を生成する。このプロセスは、溶解中に漂遊磁界により望ましくなく攪拌される分離過敏(segregation-sensitive)合金では使用することはできない。漂遊磁界の効果を回避するために、炉は一般に同軸であるように設計され、これは生成される鋼のサイズや形状を制限する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、代替の鋼組成を提供し、該代替組成を製造する代替の方法を提供し、従来技術と関連する問題のいくつかを解消し又は少なくとも軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の局面によると、本発明は、
炭素 約0.4から約0.8重量%
窒素 約0.1から約0.2重量%
クロム 約12から約18重量%
モリブデン 約0.7から約1.3重量%
シリコン 約0.3から約1重量%
マンガン 約0.2から約0.8重量%及び
鉄 約78から約86.3重量%
からなる軸受鋼組成を提供する。
【0010】
好ましくは、鉄は不可避的不純物とともに組成の残部を構成する。
【0011】
第2の局面によると、本発明はここに記載の組成から形成された軸受部材を提供する。
【0012】
第3の局面によると、本発明は本発明による軸受部材からなる軸受を提供する。
【0013】
第4の局面によると、本発明は鋼軸受部品を形成する方法を提供する。この方法は、粉末鋼組成を提供する工程と、粉末鋼組成を熱間静水圧プレス成形(hot isostatic pressing)して部品を形成する工程とからなる。
【0014】
次に、一例である添付図面を参照して本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の方法の実施形態の概略図を示す。
【図2】本発明の方法の実施形態における工程のフローチャートを示す。
【図3】炭素含有量を変化させ、窒素含有量を一定の0.15重量%にした本発明の組成の相平衡状態図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をさらに説明する。次の節では、本発明の異なる局面/態様をさらに詳細に規定する。規定された各局面/態様は、これに反することが明確に示されていない限り、他の任意の1又は複数の局面/態様と組み合わせてもよい。特に、好ましい又は有利であると示された如何なる特徴も、他の好ましい又は有利であると示された1又は複数の特徴とも組み合わせてもよい。
【0017】
軸受鋼組成は、0.1から0.2重量%、好ましくは0.11から0.18重量%、さらに好ましくは0.13〜0.17重量%の量の窒素を含む。窒素含有量は鋼製品の硬度を増加するのに役立つ。しかし高温で製鋼プロセス中のオーステナイトにおける窒素濃度は、クロム、マンガン、モリブデン濃度に依存し、このため、これらの合金元素の含有量を増加されない限り、組成にさらに窒素を導入することは困難である。さらに、圧力金属学の助けを借りて窒素含有量を増加することができる。
【0018】
炭素は、合計で0.4から0.8重量%、好ましくは0.45から0.7重量%、さらに好ましくは0.45から0.6重量%含まれる。炭素は形成される鋼製品の硬度を増加するのに役立つ。炭素が0.4重量%未満であると、硬度が不十分となる。炭素溶解度はクロム濃度と逆に関連しており、クロム重量%が増加すると、最終組成における炭素含有量が減少しやすい。
【0019】
好ましくは、存在する炭素と窒素の組合せパーセントは、0.5から1重量%、さらに好ましくは0.5から0.88重量%、さらに好ましくは0.5から0.77重量%、最も好ましくは0.5から0.7重量%である。これらの範囲は最終鋼組成の最大の硬度を提供することが分かった。
【0020】
圧力金属学という複雑なさらなる工程の助けを借りることなく、組成に窒素をさらに導入することの困難性を補償するためには、炭素量は0.45から0.6重量%が好ましい。これは、前述した炭素及び窒素の好ましい合計量を提供する。この炭素量と約0.15重量%の窒素量との合計は、硬化後のオーステナイト又はマルテンサイト中に保持される可溶性格子間原子の最大量により、容認できる硬度/負荷特性を提供することができる。
【0021】
図3は、0.15重量%の窒素量と可変炭素量を有する本発明の組成に対する計算擬2元系状態図(等値線)図を示す。0.3重量%の炭素量では、δ−フェライト相は約1227℃で形成する。オーステナイト領域は、約0.45重量%の炭素量で最も広範囲(温度に関して)にあるように思われ、最良の加工性を許容する。
【0022】
0.45重量%の炭素と0.15重量%以上の窒素のオーステナイト組成に対して全炭素溶解度を仮定すると、全C+N量は約0.6重量%に達する。この値は58HRCを超える硬度値を提供する。図3は、γ/γ+L(液体)相線が急激に減少していないので、炭素量はさらに増加してもよいことを示している。
【0023】
クロムは、12から18重量%、好ましくは15から17重量%、さらに好ましくは15.5から16.5重量%の量で含まれる。クロムは鋼に対する改良された耐食性を提供する。クロムは金属表面に硬質酸化物を導き、腐食を抑制する。
【0024】
モリブデンは、0.7から1.3重量%、好ましくは0.9から1.1重量%の量で含まれる。鋼にモリブデンを添加することは重いサービスに対して靱性を与え、特に耐熱合金を提供する。従来の炭素鋼は0.5重量%未満のMoを有するが、本発明の組成では他の合金元素とともにより多量のモリブデンを有し、硬度のような機械的特性を向上する。
【0025】
シリコンは、0.3から1重量%、好ましくは0.5から0.9重量%の量で含まれる。
【0026】
マンガンは、0.2から0.8重量%、好ましくは0.3から0.6重量%の量で含まれる。マンガンは、焼入性を増加し、鋼の強度に貢献する。
【0027】
鉄は、78から86.3重量%の量で、好ましくは組成の残部として、他の不可避的不純物とともに含まれる。
【0028】
存在してもよい他の元素は、酸素、リン、硫黄を含む。これらの元素は0.02重量%以下の量で存在していることが好ましい。リン量は好ましくは0.01重量%を超えない。硫黄量は好ましくは0.002重量%を超えない。酸素量は好ましくは0.0001重量%を超えない。
【0029】
本発明による軸受部品に使用する鋼は不可避的不純物を含んでもよいが、合計で組成の0.5重量%を超えることがないことが理解される。好ましくは、合金は組成の0.3重量%以下、さらに好ましくは組成の0.1重量%以下の量で不可避的不純物を含む。リンおよび硫黄量は好ましくは最小に維持される。
【0030】
本発明による合金は、前述した元素から基本的に構成されてもよい。したがって、必須であるこれらの元素に加えて、指定していない他の元素がこれらの存在により組成の基本的特性が影響を受けないのであれば組成に存在していてもよいことは、評価されるであろう。
【0031】
硬化する前に、本発明による鋼は典型的には支配的相としてオーステナイトからなっている。すなわち、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%、さらに好ましくは少なくとも90重量%のオーステナイトである。好ましい実施形態では、組成は実質的に全オーステナイトである。すなわち、少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも98重量%、さらに好ましくは少なくとも99重量%のオーステナイトである。オーステナイトは、炭素と酸素の金属性の非磁性固溶体であり、723℃の臨界温度以上で従来の鋼に形成する。これは、面心立方(FCC)構造を有し、高比率の炭素を固溶体に保持することを許容する。鋼組成が焼き入れ及び焼き戻しされるとき、炭化物/炭窒化物と残留オーステナイトを有する焼き戻しマルテンサイト構造を示すであろう。鋼の相及び構造は当業者に公知である。
【0032】
オーステナイトがゆっくりと冷却されるなら、構造はフェライトとセメンタイトの混合(通常はパーライトとベイナイトの構造形態)に変化することができる。急速冷却ではマルテンサイトが形成されることになる。冷却速度はこれらの相の相対的比率すなわち鋼の機械的特性(例えば、硬度、引張強度)を決定する。焼き入れ(マルテンサイト変態を誘引する)、その後の焼き戻し(マルテンサイト及び残留オーステナイトを破壊し、炭化物/炭窒化物を析出する)は、高特性鋼の最も一般的な熱処理である。硬化及び/又は焼き戻し後に深い冷却処理(deep cooling treatment)を行ってもよい。
【0033】
軸受に適用するために、本発明の鋼組成は好ましくは、マルテンサイト、残留オーステナイト、析出炭化物及び/又は炭窒化物からなる微細構造を有する。
【0034】
本発明で採用される方法は、粉末冶金の形態である。粉末冶金は典型的には次の3つの主な処理工程からなる成形製造技術に基づいている。
・粉末化:処理材料を物理的に粉末化し、多くの個々の小粒子に分離する
・成型:粉末を型に注入し、又はダイを通過させ、寸法的に所望の製品に近い弱凝集構造を形成する
・圧縮:成型品を圧縮し、選択的に高温にさらし、最終製品を形成する
【0035】
本発明の方法は、前述した軸受鋼から軸受部品の少なくとも摩耗部分を形成する。鋼は所定量の多くの元素からなる。
【0036】
本方法で使用される組成は好ましくは生成される最終製品の組成に相当する。しかしならが、大部分の元素の重量パーセントは本質的に一定のままであり、窒素含有量はおそらくは脱気により僅かに減少する。本発明の熱間静水圧プレス成形工程により初期に生成される組成は、圧倒的にオーステナイトであり、好ましくはその組成はさらなる処理工程を受けてマルテンサイト相を導入する。したがって、本発明により製造される軸受部品はいくらかの残留オーステナイト(1−30重量%)といくらかの炭化物/炭窒化物(<5重量%)を有する微細構造からなる。
【0037】
粉末鋼組成は従来の技術、例えば溶解るつぼで適切な原料を溶解することにより形成することが好ましい。溶解された成分は本発明の方法を使用することで粉末化することができる。適切な原料は、粗元素、又は熱で分解する原料の酸化物又は塩を含む。原料は組成が完全に溶解するのを補償するために1500℃を超える温度で溶解するのが好ましい。温度が低いと、δ−フェライトのような固形分の析出物が生成する。溶解物は誘導炉で生成され、及び/又は誘導加熱取鍋に流し込み、ここでさらなる合金元素を保護雰囲気で添加することができる。溶解物はプロセスの間、攪拌して温度制御することができる。霧化の前に、溶解物はタンディッシュ(tundish)に流し込み、ここで例えば保護スラグカバー又は不活性雰囲気で保護する。
【0038】
以下、粉末冶金学的工程のそれぞれについて、本発明の方法に関連させてさらに詳細に説明する。
【0039】
第1工程は鋼組成の粉末を準備する。粉末は振ったり傾けると自由に流動する多数の極微粒子からなる乾燥したバルク固体である。粉末は特別な下位分類の粒状材料である。特に、粉末は細かい粒サイズを有し、このために流動するときに塊を形成しやすい粒状材料に言及している。本発明によると、鋼組成の粉末は1μmから1000μm、好ましくは10μmから250μm、さらに好ましくは50μmから125μmの粒子サイズを有することが好ましい。
【0040】
粉末を生成する一つの技術は、霧化である。この技術は溶解鋼組成から特に好ましい相を捕集することができるので、特に好ましい。粉砕、研削、化学反応、遠心崩壊、電解析出のような他の技術も公知である。
【0041】
霧化は、例えば、溶解金属流れを中圧でオリフィスに押し通し、あるいは霧化チャンバ内で高圧ガス硫により溶解金属流れを崩壊させることにより達成してもよい。溶解金属流れがガス、又はノズル若しくはオリフィスと接触すると、組成は温度が低下し、オーステナイト形成を助長する。好ましくはチャンバはガスで満たされ、溶解物金属ジェットのさらなる乱れを促進する。好ましくは、霧化は溶解金属組成を1又は複数のガス噴流、好ましくは例えば空気、窒素、又は不活性ガスと接触させることで生じる。
【0042】
代案として、単純な霧化として、液体金属を十分な高速でオリフィスに押し通して粉末を精製するのに必要な乱流を与えることにより使用してもよい。ノズル振動、ノズル非対称、多重の衝撃流れ、大気ガスへの溶解金属注入は、霧化の範囲を増加するのに使用することができる。
【0043】
鋼組成が粉末として提供されると、オプションとして、密封シールされた容器に不活性ガス下で保管することができる。代案として、遅延を最小にして使用することができる。
【0044】
第2工程では、粉末を型に設置する。好ましい実施形態では、板金の成形溶接により形成される軟鋼製カプセル内に粉末を缶詰めにすることからなる。このような型又はカプセルは最終製品に所望の形状を与えるように設計される。代案として、型は当業者に公知の耐熱材料で形成してもよい。複合製品は、異なる粉末用の別の区画を有するカプセル又は型を設計し、あるいは固形材料の部品を粉末とともに封入することで、製造することができる。
【0045】
粉末は、上昇温度及び極高真空にさらして、粉末から空気や水蒸気を除去することが好ましい。型は、熱間静水圧プレスする前にシールすることが好ましい。高圧不活性ガスと上昇温度を適用した結果、内部空隙を除去することができ、材料全体に強い冶金学的結合を形成することができる。その結果、均一な微細粒子サイズと100%に近い密度を有する清浄な均質材料となる。
【0046】
熱間静水圧プレス(HIP)成形中、充填された型又はカプセルは、従来のHIPプレスに設置して、そこで高圧と高温を受ける。圧力、温度及び時間のHIPパラメータは、材料に完全な密度と必要な特性を与えるように決定される。適切な温度は、組成がγ相(例えば図3の相状態図のγ領域)にある温度である。すなわち、約1350から1100℃、好ましくは1300から1200℃である。適切な圧力は、200MPaまであるが、理想的には約100MPaである。圧力は、10から150MPa、さらに好ましくは95から105MPaであってもよい。低温始動からの処理時間(すなわち温度が上昇するのに必要な時間を含む)は、1分から24時間、さらに好ましくは1時間から10時間、最も好ましくは2時間から8時間である。
【0047】
好ましくは、熱間静水圧プレスは不活性雰囲気で行なう。適切な不活性雰囲気は、アルゴンのような希ガスを含む。他の好ましい実施例では、熱間静水圧プレスは方法及び装置が過度に複雑化するのを回避するために空気下で行う。
【0048】
本発明の一つの実施形態によると、本方法は、さらに熱間静水圧プレスされた軸受部品(製品)を窒化(又は表面硬化)する工程を含む。このような処理工程は、過剰であり、望ましくない。本発明の方法はこのような工程を必要とすることなく適度に硬い製品を提供するからである。窒化は、製品の少なくとも表面部分を硬化するのに役立つ。したがって、最終製品又は組成はそうでなく達成されたものよりも高い窒素含有量で提供される。
【0049】
適切な窒化プロセスは、当業者に公知であり、ガス窒化、液体又は塩浴窒化、イオン又はプラズマ窒化を含む。ガス窒化では、ドナーは窒素に富んだガス、通常はアンモニア(NH)であり、予熱された製品と接触する。好ましくは、これは200から800℃で達成され、少なくとも30分間滞留するように許容される。アンモニアが加熱された加工品と接触すると、窒素と水素に分離(disassociate)される。窒素は表面から材料の中心まで拡散する。
【0050】
液体又は塩浴窒化は、窒素供与媒体はシアン化塩のような窒素含有塩である。使用される温度は典型的には550−600℃である。
【0051】
プラズマ窒化は、窒素イオンのプラズマに依存し、集中的及び特殊な窒化を許容する。
【0052】
本発明の方法はらに、仕上工程、及び/又は焼き戻し及び/又は焼なまし工程を含むことができる。前述した深い冷却温度に加えて、他の可能な工程は硬化された製品の応力除去焼鈍とすることができる。このような工程は当業者に公知である。材料のタイプと適用に依存して、製品は熱処理、機械加工、種々の形式の品質制御、例えば超音波検査、ダイ浸透テスト、機械的特性のテストなどを受ける。型として軟質鋼シートを使用する場合、機械加工又は酸洗いにより除去することができる。
【0053】
仕上工程の例は、研削及び研磨を含む。焼戻し工程の例は、100から500℃の間、好ましくは200から450℃の間、10分から24時間、好ましくは30分から3時間の間で焼き戻しすることを含む。窒化のような硬化工程を使用される場合、品物を硬化後で焼戻し前に氷点下温度(好ましくは−70℃から−80℃)に冷却することが望ましい。好ましくは、氷点下処理は空中で−80℃にて2時間行う。好ましくは、焼戻しは他の硬化工程なしに行うことができるが、空中で200℃にて2時間実行する。
【0054】
他の仕上工程は、熱間加工、又は熱間圧延である。これらの技術は、当業者に公知である。熱間加工とは金属をその再結晶温度以上にて塑性的に変形させる工程をいう。再結晶温度以上であることにより、金属は変形中に再結晶する。再結晶は、材料に降伏強度及び硬度を低下し延性を高めることになる歪み硬化が生じないようにするため重要である。処理温度は一般に材料の溶融温度の0.6である。熱間圧延は特に好まれるものではないが、最終所望寸法に至らしめるために使用される。
【0055】
熱間圧延は、熱間で加工する金属加工プロセスであり、スラブやビレットのような大きな金属片を再結晶温度以上に加熱し、ローラ間で変形させてより薄い断面を形成する。熱間圧延は同じ段数で冷間加工よりも薄い断面を生成する。熱間圧延は再結晶により金属の平均粒子サイズを減少するが、等軸微細構造を維持する。
【0056】
例えばP−ESRよりも本発明の方法を使用して、本発明者らは、高耐食性を示す軸受部品を製造することができることを発見した。さらに、本発明の方法は従来の方法を超える多くの効果を提供する。
【0057】
熱間静水圧プレスされた材料の空隙率(porosity)の減少により、機械的性質を向上し、加工性を増加することができる。HIPプロセスは内部ボイドを排除し、清浄で堅固な接合と緻密で均一な微細構造を生成する。これらの特徴は、溶接、鋳造、又はP−ESRでは不可能である。内部ボイドの事実上の排除により、部品性能が強化され、疲労強度が向上する。HIPプロセスのさらなる利点は、機械加工を必要としないニアネットシェイプ(near-net shape)を生成する能力である。
【0058】
溶融操作において、「相律(phase rule)」が全ての純元素及び結合元素に適用され、特定の組成に存在できる液相及び固相の分布を厳密に決定する。しかしながら、粉末冶金学を使用することにより、固液相変化の考慮は無視でき、プロセスは、鋳造、押出し、又は鍛造技術よりも柔軟性がある。したがってさもなければ分解又は崩壊するような部品を製造することができる。本実施例の場合、所望の組成の安定アーステナイト相は従来のプロセス(溶接、鋳造、P−ESR)では狭く(温度に関して)、特許請求の範囲で請求している粉末冶金プロセスはそうでなければ生じるような不純物のない安定した相の製造ができる。
【0059】
特許請求の範囲で請求している製造プロセスは、非常に小さなスクラップを生成し、異なる製品形状を製造できる。このプロセスが行える許容誤差は、非常に正確であり、軸方向寸法が+/−0.02cm、半径方向寸法が+/−0.05cmの範囲である。
【0060】
本発明の方法及び組成は、軸受部品のような鋼製品を製造するのに使用することができる。軸受部品は典型的には焼き入れ及び焼き戻しを含むプロセスにより形成されてきた。この結果、微細構造は一般的に残留オーステナイト及び炭化物及び/又は炭窒化物を有するマルテンサイトからなる。一つの実施形態では、軸受部品は硬化により表面摩耗部をマルテンサイトとした実質的にオーステナイトであってもよい。代案として、製品全体は従来の方法により焼き戻しされ、硬化されて、マルテンサイト硬化製品を生成してもよい。
【0061】
また本発明はここに記載の方法及び鋼組成により形成された軸受部品を提供する。軸受部品は転動要素、内輪、外輪のいずれか一つであってもよい。
【0062】
軸受部品の少なくとも摩耗部分は、ここの記載された方法及び組成により形成される。摩耗部分例えば軸受輪の軌道面は、軸受輪の本体から別個に形成して、拡散接合、溶接のような従来の接合技術により接合してもよい。
【0063】
また本発明は、ここに記載された軸受部品からなる軸受を提供する。
【0064】
軸受は、例えば車両のホイール、風車の羽根、洗濯機のドラムのような回転部品を保持し支持する多くの異なるタイプの機械に使用されてもよい。本発明は特に大サイズの軸受(LSB)用の軸受輪の製造に適している。LSBは450cm以上の外径を有する。
【0065】
本発明の軸受は、タービン軸受、特に風力タービン、風車軸受としての使用に適している。このような利用分野では、高い耐食性と強度特性が重要である。
【0066】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、軸受の摩耗部を軸受部品の本体に付着するのに使用することができる。すなわち、軸受部品の本体は成形品の一部を形成し、摩耗部は熱間静水圧プレスを使用して表面にクラッドする。したがって、例えば、安価な材料を粉末鋼組成の薄い層で被覆し、転動接触疲労に耐える適切な表面を生成することができる。これは必要とされる部分にのみ高価な耐摩耗材料を設置することでコストを低減する。この結果、不必要なコストペナルティを伴うことなく耐摩耗特性が向上する。クラッドの他の利点は、金属、金属間、セラミック粉末間のような、そうでなければ不適合な材料間の接合を生成することができることである。
【0067】
製品としての鋼組成の硬度は、好ましくは50HRC以上、さらに好ましくは55HRC又は58HRC以上である。硬度は、当業者に公知のロックウェル硬度試験により測定される。HRCは98Nの小荷重と、1372Nのダイヤモンドコーン大荷重で測定される。
【実施例】
【0068】
図1と2を参照して、ステンレス鋼軸受の製造を限定されない実施例として説明する。
【0069】
図1に示すように、鋼組成6を誘導炉5に準備した。所望の組成を与えるのに必要な成分2を誘導炉5に供給した。交流電源に接続され、誘導炉5に設置された2つの電極4を使用し、成分2を加熱し、溶解鋼組成6を提供した。オプションとして、溶解組成6は霧化前に保護雰囲気下でタンディッシュ(不図示)に保持することができる。
【0070】
成分2を選択して、以下の鋼組成6を提供した。
【表1】

【0071】
鋼組成6が完全に溶解すると、鋼組成76を誘導炉5から膨張チャンバ10にゆっくりと排出した。溶解鋼組成6はブロワ8から供給される窒素空気噴流と接触させた。吹き付けられた鋼組成6は多数の細かく分散した線状の鋼12になり、乱流により膨張チャンバ10内で次第に断片化し、粉末14になった。粉末14は膨張チャンバ10の底部に収集した。
【0072】
包装工程16では、粉末14を軸受部品の本体を成形するように形作られた軟鋼型18に装入し、軽く圧縮して弱い凝集体を形成した。
【0073】
熱間静水圧プレス工程20では、充填した型を1200℃の温度及び95MPaの圧力に3時間さらした。熱間静水圧プレスはアルゴン雰囲気で行った。
【0074】
仕上処理工程24では、軟鋼型18を酸洗い(pickling)により除去し、軸受部品を取り出した。軸受部品は実質的に全てオーステナイトであった。軸受部品は焼戻し及び硬化工程にさらして、マルテンサイト硬化軸受部品を形成した。
【0075】
前述の工程は以下に要約することができる。
1.誘導炉5で成分2とともに溶解するこことで、鋼組成6を準備する
2.膨張チャンバ10内で空気噴流を用いる霧化により、鋼組成6を粉末化する
3.鋼粉末14を型18に詰める
4.型20の熱間静水圧プレス20を行う
5.型20を取り除いて、プレスされた鋼製品を仕上げる
【0076】
軸受部品を分析して、最終組成と特性を確認した。最終組成は表2に示す。
【表2】

【0077】
軸受組成は、優れた耐食性、強度(引張強度)及び硬度を示すことが分かった。
【0078】
硬化中にオーステナイトに十分な格子間スピーシーズ(interstitial species)を溶解させることは、軸受材料に要求される硬度レベルを達成するのに重要であることは明らかである。炭素及び窒素の濃度は、本実施例の場合、0.6重量%に達した。
【0079】
以上のように、本発明は特に高い耐食性、強度及び硬度を有する軸受部品を提供することができた。
【0080】
さらに、粉末冶金合成ルートを使用することで、組成は欠陥や不要な不純物相を回避し、緻密な粒子サイズを有し、大きな耐食性、強度及び硬度を示。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素 0.4から0.8重量%
窒素 0.1から0.2重量%
クロム 12から18重量%
モリブデン 0.7から1.3重量%
シリコン 0.3から1重量%
マンガン 0.2から0.8重量%及び
鉄 78から86.3重量%
からなる軸受鋼組成。
【請求項2】
前記炭素及び窒素を合わせた含有量は全組成の0.5重量%から0.7重量%である請求項1に記載の軸受鋼組成。
【請求項3】
前記鋼組成は、少なくとも一つの元素が以下の量からなる請求項1又は2に記載の軸受鋼組成。
炭素 0.45から0.7重量%
窒素 0.11から0.18重量%
クロム 14から17重量%
モリブデン 0.9から1.1重量%
シリコン 0.5から0.9重量%及び
マンガン 0.3から0.6重量%
【請求項4】
前記鋼組成は、
炭素 0.45から0.6重量%
窒素 0.13から0.17重量%
クロム 15から16.5重量%
モリブデン 0.9から1.1重量%
シリコン 0.5から0.9重量%
マンガン 0.3から0.6重量%及び
残部鉄及び不可避的不純物
からなる請求項1から3のいずれかに記載の軸受鋼組成。
【請求項5】
マルテンサイト、残留オーステナイト、析出炭化物及び/又は炭窒化物からなる微細構造を有する請求項1から4のいずれかに記載の軸受鋼組成。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つによる組成から形成された軸受部品。
【請求項7】
転動要素、内輪及び外輪の少なくともいずれか1つである請求項6に記載の軸受。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の軸受部品からなる軸受。
【請求項9】
軸受部品を形成する方法において、
a)請求項1から5のいずれかに記載の粉末鋼組成を準備し、
b)前記粉末鋼組成を熱間静水圧プレスし、前記部品を形成する
工程からなる軸受部品を形成する方法。
【請求項10】
前記粉末鋼組成は、少なくとも1つのガス噴流と接触させて溶解鋼組成を霧化することにより準備する請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記熱間静水圧プレス工程は、1000℃から1400℃の温度で200MPa以下の圧力で行う請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記熱間静水圧プレス工程は、不活性雰囲気で行う請求項9から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
さらに、
a)表面焼き入れ
b)焼き戻し及び/又は
c)仕上げ
の工程を含む請求項9から12のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−533688(P2012−533688A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521092(P2012−521092)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【国際出願番号】PCT/GB2010/001373
【国際公開番号】WO2011/010088
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(391031465)アクチボラゲット エス ケイ エフ (12)
【氏名又は名称原語表記】AKTIE BOLAGET SKF
【Fターム(参考)】