説明

軽量吸音ポリウレタン成型品

【課題】ポリウレタンのチップ状物から出来上がるウレタン成型品において、低密度を実現しつつ硬さ、撓み難さの両立を図り、しかも吸音性能も満足する軽量吸音ポリウレタン成型品を提供する。
【解決手段】ポリウレタン発泡材を粉砕してなるポリウレタンチップにおいて最小のチップ(C1)の最短の一辺は8mm以上であり、かつ最大のチップ(C2)の最長の一辺は25mm以下であることを満たすチップとする原料ポリウレタンチップ11、反毛材よりなる反毛糸状片12、ウレタン系接着剤13とを混合し水蒸気を導入しながらプレス成型してなり、原料ポリウレタンチップと反毛糸状片との重量混合割合が20:80ないし80:20を満たし、かつ、ポリウレタン成型品の密度が0.03〜0.07g/cm3であり、プッシュプルゲージを用いた計測において28N以上の荷重を満たすポリウレタン成型品10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量吸音ポリウレタン成型品に関し、特に成型品の密度の増加を抑えると共にその撓みを抑制し、吸音性能を確保したポリウレタン成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡ポリウレタンのチップ状物からウレタン成型品を製造する場合、ポリウレタンのチップ状物と、必要により反毛にウレタン系接着剤を添加し十分に混合する。混合物を所定の型内に入れて適宜水分とともに加熱する。この反応によりウレタン系接着剤にウレタン結合が生成され、前記のチップ状物や反毛は互いに結合されて成型品となる(例えば特許文献1,2,3等参照)。
【0003】
ウレタンチップは発泡ポリウレタンに由来する多孔質であるため、出来上がるウレタン成型品は比較的軽量に仕上げることができる。また、原材料となるウレタンチップは成形不良により廃棄されるポリウレタンのクッション材等から得ることができ、反毛は各種の衣料品、繊維製品より得ることができる。
【0004】
廃棄物の再利用の観点から、これらの原材料の利用は好ましい。このようにして出来上がるポリウレタン成型品は、その軽さと吸音特性を生かして、例えば、自動車用の床板材等にも用途が広がっている(特許文献4等参照)。特に車載用の内装品は燃費向上のため軽量化が急務である。その一方、走行時の車内空間の静穏さ、快適性を求める要望も高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−117155号公報
【特許文献2】特開2001−200462号公報
【特許文献3】特開2003−238729号公報
【特許文献4】特開2005−178287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者はこの種のポリウレタン成型品において、ポリウレタンチップの大きさや反毛の混合割合をさらに鋭意研究した結果、ウレタン成型品において、軽さと硬さ、撓み難さの両立を図り、しかも好適な吸音性能も具備したポリウレタン成型品を得るに至った。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、ポリウレタンのチップ状物から出来上がるウレタン成型品において、低密度を実現しつつ硬さ、撓み難さの両立を図り、しかも吸音性能も満足する軽量吸音ポリウレタン成型品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、請求項1の発明は、ポリウレタン発泡材を粉砕してなるポリウレタンチップにおいて最小のチップ(C1)の最短の一辺は8mm以上であり、かつ最大のチップ(C2)の最長の一辺は25mm以下であることを満たすチップとする原料ポリウレタンチップと、反毛材よりなる反毛糸状片と、ウレタン系接着剤とを混合し水蒸気を導入しながらプレス成型してなるポリウレタン成型品であって、前記原料ポリウレタンチップと前記反毛糸状片との重量混合割合が20:80ないし80:20を満たし、かつ、前記ポリウレタン成型品の密度が0.03〜0.07g/cm3であることを特徴とする軽量吸音ポリウレタン成型品に係る。
【0009】
請求項2の発明は、前記ポリウレタン成型品が、下記のプッシュプルゲージを用いた計測において28N以上の荷重を満たす請求項1に記載の軽量吸音ポリウレタン成型品に係る。
【0010】
プッシュプルゲージによる計測は、厚さ20mmで均一なポリウレタン成型品の上に外直径50mm、内直径30mm、高さ25mmのアルミニウム製リングを載置し、前記リングの内側に直径25mmの当接円盤部を備えたプッシュプルゲージを垂直に立て、前記プッシュプルゲージの当接円盤部をポリウレタン成型品の内部側へ押し下げたときの数値を読みとる。
【0011】
請求項3の発明は、前記ポリウレタン成型品が自動車用床材として用いられる請求項1又は2に記載の軽量吸音ポリウレタン成型品に係る。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明に係る軽量吸音ポリウレタン成型品によると、ポリウレタン発泡材を粉砕してなるポリウレタンチップにおいて最小のチップの最短の一辺は8mm以上であり、かつ最大のチップの最長の一辺は25mm以下であることを満たすチップとする原料ポリウレタンチップと、反毛材よりなる反毛糸状片と、ウレタン系接着剤とを混合し水蒸気を導入しながらプレス成型してなるポリウレタン成型品であって、前記原料ポリウレタンチップと前記反毛糸状片との重量混合割合が20:80ないし80:20を満たし、かつ、前記ポリウレタン成型品の密度が0.03〜0.07g/cm3であるため、低密度を実現しつつ防音性能も満足することができた。
【0013】
請求項2の発明に係る軽量吸音ポリウレタン成型品によると、請求項1の発明において、前記ポリウレタン成型品が、プッシュプルゲージを用いた計測において28N以上の荷重を満たすため、低密度を実現しながら硬さ、撓み難さの両立を図ることができた。
【0014】
請求項3の発明に係る軽量吸音ポリウレタン成型品によると、請求項1又は2の発明において、前記ポリウレタン成型品が自動車用床材として用いられるため、ポリウレタン成型品の強度、撓みにくさと吸音性能を備えることから、変形が生じにくく自動車等の内装材として好適な部材を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の軽量吸音ポリウレタン成型品の一例を示す全体斜視図である。
【図2】図1の軽量吸音ポリウレタン成型品の製造工程を示す概略工程図である。
【図3】原料ポリウレタンチップを示す模式図である。
【図4】プッシュプルゲージによる計測を示す模式図である。
【図5】プッシュプルゲージによる計測を示す押し下げ前の断面模式図である。
【図6】プッシュプルゲージによる計測を示す押し下げ後の断面模式図である。
【図7】原料ポリウレタンチップを示す比較写真である。
【図8】音響透過損失に関するグラフである。
【図9】残響室法吸音率に関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示すポリウレタン成型品10は、原料ポリウレタンチップ11と、反毛糸状片12と、ウレタン系接着剤13とからなる。続く図2に示すように、原料ポリウレタンチップ11、反毛糸状片12、及びウレタン系接着剤13は所定量ずつ計量、混合された後、型20内に適量投入される。型内に水蒸気Vpの熱と水分が導入され、同時にプレスされる。この熱と水分を伴ってウレタン系接着剤は硬化して型内形状となって成型品10が出来上がる。当該成型品の形状は板状、ブロック状等の適宜の形状である。特に出来上がるポリウレタン成型品の用途に応じて、穴あきや厚さの変化等の成型品の形状、さらには大きさも自由に設計される。符号21はプレス型(下型)、22は押下板(上型)である。
【0017】
請求項1の発明に規定するように、原料ポリウレタンチップ11は、ポリウレタン発泡材を粉砕したポリウレタンチップからなる。特に粉砕に際し、通常のポリウレタン成型品の製造に用いるポリウレタンチップよりも個々のチップを大きめに粉砕したことに特徴がある。具体的に図3に示すように、原料ポリウレタンチップ11は、最小のポリウレタンチップC1における最短の一辺D1は少なくとも8mm以上を大きさのチップであり、かつ、最大のポリウレタンチップC2における最長の一辺D2は25mm以下を満たす範囲の大きさのチップである。これに対し、一般的なポリウレタン成型品に用いるポリウレタンチップC3は粒径2〜5mm前後の粉砕物である。
【0018】
なお、原料ポリウレタンチップ11は粉砕によるためいずれも不定形状である。また、原料ポリウレタンチップ11を得るためのポリウレタン発泡材の粉砕において、不可抗力として上記範囲以外のチップが混入する場合もある。この場合にあっても、本発明の範囲内の大きさのチップは、任意に抽出したチップにおいて70〜90%の個数を占める。この様子については図7の対比写真が参考となる。
【0019】
最小の原料ポリウレタンチップの最短の一辺が8mmよりも短く(小さく)なる場合、出来上がる成型品が緻密になるため、硬さ、撓み難さは実現できる。しかし、緻密になりすぎるため成型品の密度は重くなり、軽量化は難しい。また、成型品の構造が緻密となることにより吸音性能も低下しがちである。このことから、最小の原料ポリウレタンチップの最短の一辺の長さは8mm以上、好ましくは12mm以上、より好ましくは15mm以上となる。
【0020】
次に、最大の原料ポリウレタンチップの最長の一辺が25mmよりも大きくなる場合、出来上がる成型品の密度増加を抑えることができる。しかしながら、成型品となった後のチップの大きさに起因する成型品の部位毎の強度や形状のばらつきが生じるため好ましくない。すなわち、製品価値、構造上等の難点が生じる。そのため、最大の原料ポリウレタンチップの最長の一辺の長さ25mm以下、好ましくは22mm以下、より好ましくは20mm以下となる。
【0021】
原料ポリウレタンチップに混ぜ合わされる反毛糸状片は、廃棄される衣料品の服地、あるいは布地等の破砕物より得られる。反毛糸状片の長さ、太さ、状態、繊維の種類、材質等は原料となる布地に応じて適宜である。その中において、反毛糸状片は概ね全長5〜50mmとすることが好ましい。反毛糸状片の全長が5mmを下回る場合、細か過ぎて出来上がる成型品に硬さや撓み難さを発揮することが難しい。また、防音性能への寄与が少なくなり好ましくない。反毛糸状片の全長が50mmを上回る場合、原料ポリウレタンチップとの混ざり方(均一な混合)が悪くなり、出来上がる成型品の品質の安定性を保つことが難しくなる。
【0022】
ポリウレタン成型品を形成するに当たり、反毛糸状片を加える主な理由は、出来上がるポリウレタン成型品に後記する硬さや撓み難さを付与するためである。当然ながら、原料ポリウレタンチップとウレタン系接着剤のみからポリウレタン成型品を形成することは可能である。この場合、ウレタン系接着剤の含浸、その後の熱硬化に伴い、個々のチップ同士は圧着して接着剤により接着され、ひとつの塊となる。ただし、原料ポリウレタンチップ同士は、単に周囲のチップとの接着となるため、ポリウレタン成型品全体でみると、必ずしも十分な硬さを生じさせるものではないと考えられる。
【0023】
これに対して、原料ポリウレタンチップに適度な長さの反毛糸状片が加わることによりチップと反毛の繊維が互いに絡まり合う。そして、ウレタン系接着剤はポリウレタンチップと共に反毛糸状片にも染み込む。このため、隣接し合うポリウレタンチップのみならず、個々のチップの間に存在する反毛糸状片が足場となることによって周囲の反毛糸状片が絡まっている多数のチップがまとめ上げられ、三次元に広がるような網状の塊を形成することになる。結果的に、ポリウレタンチップのみから形成する場合よりもポリウレタン成型品に適度な硬さや撓み難さが生じると推察される。
【0024】
ウレタン系接着剤13については、公知のTDI、MDI等の各種イソシアネートを好適な比率で調合し、NCO含有率が6ないし25重量%の範囲内である一液硬化型等の公知品が用いられる。ウレタン系接着剤の添加量は接着剤の種類や成形条件、成型品に求められる性能、用途等に応じて必要量となる。
【0025】
さらに、請求項1の発明にあっては、原料ポリウレタンチップ11と反毛糸状片12との重量混合割合において、20:80ないし80:20の範囲の割合が満たされる。記載の数値範囲は重量部(重量パーセント)の表記となる。原料ポリウレタンチップと反毛糸状片との混合において、反毛糸状片の重量割合が増すほど吸音性能は向上する。ただし、反毛糸状片が80重量部を超える(原料ポリウレタンチップが20重量部を下回る)場合、後記の実施例から明らかなように、反毛糸状片の重量が増して原料ポリウレタンチップが減ることにより比重が増加する。また、反毛の割合が上昇することに伴い材料原価も向上するため、好ましいとはいえない。次に、反毛糸状片が20重量部よりも少なくなる(原料ポリウレタンチップが80重量部を上回る)場合、反毛糸状片の混入に起因する強度の確保が難しくなる。
【0026】
これらの点を勘案して、原料ポリウレタンチップと反毛糸状片との重量部(重量パーセント)による重量混合割合において、20:80ないし80:20の範囲の割合となる。これに軽量化や原料価格等も加味して、好ましくは、原料ポリウレタンチップと反毛糸状片との重量混合割合は30:70ないし70:30、より好ましくは、原料ポリウレタンチップと反毛糸状片との重量混合割合は30:70ないし50:50となる。
【0027】
さらに、ポリウレタン成型品には軽量であることが求められる。そのため、最終的なポリウレタン成型品の密度は0.03〜0.07g/cm3の範囲内に規定される。この密度は、既存の吸音性ポリウレタン成型品よりも密度を10%ないし50%軽減した値である。例えば後記の実施例の従来品は0.08g/cm3であり、本発明品は0.05g/cm3である。ポリウレタン成型品の上限の密度である0.07g/cm3は、本発明の目的を鑑み既存品よりも軽量化の改善を図って得た値である。0.03g/cm3よりも密度の小さいポリウレタン成型品は、原料ポリウレタンチップと反毛糸状片との重量混合割合を調節しても作成することができなかった。そこで、0.03g/cm3が下限の密度といえる。また、密度が小さくなりすぎる場合、ポリウレタン成型品としての強度の低下が問題となる。つまり、極度に成型品が変形しやすくなる。そこで、既存のポリウレタン成型品よりも密度の改善、軽量化を進めつつ、強度確保を満たそうとした結果、前記の密度の範囲値となる。
【0028】
続いて請求項2の発明に規定するように、また、後記の実施例からも明らかなように、本発明のポリウレタン成型品は、次のプッシュプルゲージを用いた計測において28N以上の荷重を満たす強度を備える。つまり、ポリウレタン成型品は、その密度を減少させているにも関わらず、強度、撓みにくさを備えることとなる。
【0029】
図4ないし図6に基づいてプッシュプルゲージを用いた計測の詳細を説明する。測定に際し、まず、厚さ20mmで均一なポリウレタン成型品10(テストボード)が準備される。次にこのポリウレタン成型品10の上に外直径50mm、内直径30mm、高さ25mmのアルミニウム製リング30が載置される。そして、同リング30の内側に直径25mmの当接円盤部41を備えたプッシュプルゲージ40が垂直に立てられる。そして、プッシュプルゲージの当接円盤部がポリウレタン成型品の内部側へ押し下げられたときの数値が読み取られる。なお、ポリウレタン成型品10における測定位置毎のばらつきを考慮して、ひとつのポリウレタン成型品当たり2〜3箇所異なる場所で測定して平均値を求めた。この平均値をもって当該ポリウレタン成型品(テストボード)における荷重(N)として評価した。図中の符号42はプッシュプルゲージの目盛り、43はシャフトである。
【0030】
後記の実施例から明らかなように、密度を減らしつつ既存品のポリウレタン成型品と同等の荷重を発揮すれば、既存品から本発明品への代替は有利となる。そのため、前記の好例な原料ポリウレタンチップと反毛糸状片の重量混合割合を加味した上で、プッシュプルゲージを用いた計測において少なくとも28N以上、好ましくは30N以上の荷重値(下限値)を満たすことが必要となる。なお、この荷重値はポリウレタン成型品に占める反毛糸状片の重量混合割合が増すほど高まるため、上限については特段の規定をしていない。ただし、反毛糸状片の重量混合割合が増えすぎることによる不具合から前記の好例な原料ポリウレタンチップと反毛糸状片の重量混合割合が勘案され、最大42N、好ましくは39Nが製造上の上限と想定される。
【0031】
本発明のポリウレタン成型品は、ポリウレタン成型品は多孔質のポリウレタンチップや反毛糸状片を含むため、吸音特性に優れていることが知られている。そこで、ポリウレタン成型品の吸音性能や断熱性能等から屋根や壁に施工する壁材、床材等の住宅用建材として用いてもよく、船舶等のエンジンルームから船室に伝わる騒音の軽減を目的とする船内用部材、さらには、産業機械、工作機械等の騒音源を被覆する部材としても用いることができる。むろん、これらに限定されることはなく、適用対象は自由である。
【0032】
その中においても、請求項3の発明に規定するように、主にフロアサイレンサー等の自動車用床材として用いられる。これは車体とカーペットの間に介在され、フロアを平らにするために用いられる。例えば、本発明のポリウレタン成型品を用いた自動車用床材は、エンジン音や走行時の騒音を車内空間へ伝わり難くして車内の静音性、快適性を高める。また、車載材料としても前記のとおり軽量化が可能となるため、走行時の燃費向上に貢献することができる。特に前述のとおり、ポリウレタン成型品は強度、撓みにくさを備えることから、自動車用床材として用いた際の変形が生じにくく自動車等の内装材として好適である。なお、エンジンルームとダッシュボードの間に設置され、吸音目的で使用されるダッシュサイレンサーとしても有効である。吸音性能については後記の実施例が参照される。
【実施例】
【0033】
[ポリウレタン成型品の試作]
原料ポリウレタンチップとして、図7の写真左側に掲示のポリウレタン発泡材の粉砕物を用いた。この原料ポリウレタンチップは、概ね最小のポリウレタンチップの最短の一辺は8mm以上であり、かつ最大のポリウレタンチップの最長の一辺は25mm以下であることを満たすべく粉砕時の設定を調整した。ひとつずつのチップの大きさ平均すると約15mmである。反毛糸状片については、雑反毛、フェルトの原料等の布地を粉砕しておよそ50mm程度の糸状を用いた。ウレタン系接着剤は一液硬化型を用いた。
【0034】
発明者は、原料ポリウレタンチップと反毛糸状片との配合割合を重量比で90:10から10:90まで変化させた9種類のポリウレタン成型品(テストボード)を試作した(試作例1ないし試作例9、後記表1参照)。
試作例1=原料ポリウレタンチップと反毛糸状片の重量混合割合が90:10
試作例2=原料ポリウレタンチップと反毛糸状片の重量混合割合が80:20
試作例3=原料ポリウレタンチップと反毛糸状片の重量混合割合が70:30
試作例4=原料ポリウレタンチップと反毛糸状片の重量混合割合が60:40
試作例5=原料ポリウレタンチップと反毛糸状片の重量混合割合が50:50
試作例6=原料ポリウレタンチップと反毛糸状片の重量混合割合が40:60
試作例7=原料ポリウレタンチップと反毛糸状片の重量混合割合が30:70
試作例8=原料ポリウレタンチップと反毛糸状片の重量混合割合が20:80
試作例9=原料ポリウレタンチップと反毛糸状片の重量混合割合が10:90
【0035】
各試作品の寸法は、一辺が350mm、厚さ20mmの正方形の均一な厚さの板状とし、いずれの試作例についても出来上がった後の密度(ρ)を0.05g/cm3とするように型内への投入量を加減して作成した。試作品のポリウレタン成型は公知の成型手法(図2参照)に準じ、原料ポリウレタンチップ、反毛糸状片、及びウレタン系接着剤を均一に混合して型内に投入し、水蒸気を同型内に導入して成形した。各試作例とも同じ型を使用した。ひとつの試作例における品質のばらつきを緩和するため、ひとつの試作例あたり9枚のポリウレタン成型品のテストボードを作成した。具体的に試作例1−1ないし1−9等である。他の試作例も同様である。
【0036】
併せて、比較例となる既存品の性能を評価するべく、図7の写真右側に掲示のポリウレタン発泡材の粉砕物と、ウレタン系接着剤(試作例に使用と同じ)を均一に混合して型内に投入し、水蒸気を同型内に導入して成形した。各比較例も試作例と同じ型を使用し、9枚のポリウレタン成型品のテストボードを作成した。比較例に用いた原料ポリウレタンチップの大きさは、平均すると5〜6mm程度である。反毛糸状片を含まず原料ポリウレタンチップのみからなる比較例のポリウレタン成型品の密度(ρ)は0.08g/cm3であった。比較例についても0−1ないし0−9と表記した。
【0037】
[プッシュプルゲージを用いた荷重の計測]
前出の図4ないし図6を参照のとおり、試作例等のポリウレタン成型品の上に外直径50mm、内直径30mm、高さ25mmのアルミニウム製リング(重さ約85g)を載置した。そして、同リング30の内側に直径25mmの当接円盤部を備えたプッシュプルゲージ(株式会社イマダ製:普及型メカニカルフォースゲージFBシリーズ)を垂直に立て、プッシュプルゲージの当接円盤部をポリウレタン成型品の内部側へ押し下げ、このときの数値を読み取った。前記のアルミニウム製リングはプッシュプルゲージの押し下げ深さの目安となる。ちょうど同リングにプッシュプルゲージの下端が接触した時点を計測時とした。
【0038】
なお、試作例等のポリウレタン成型品における測定位置毎のばらつきを考慮して、ひとつの試作例のポリウレタン成型品のテストボード1枚当たり2〜3箇所異なる場所で測定して平均値を求め、さらに、同一試作例の9枚のテストボード全てについても同様に測定し、9枚のテストボードにおける平均を求め、最終的な試作例における荷重値(N)とみなした。この結果は、表1のとおりである。
【0039】
【表1】

【0040】
比較例と試作例1の対比から、原料ポリウレタンチップの1個あたりの大きさ(粒径)を大きくしたとしても、比較例の既存品と試作例はプッシュプルゲージを用いた荷重の計測において同等の荷重値を示した。しかも、密度の低下を実現することができた。
【0041】
次に、試作例2から試作例9までの同密度のポリウレタン成型品についての荷重値(N)の結果から、原料ポリウレタンチップと反毛糸状片の重量混合割合において反毛糸状片の割合が高まるほど、押圧に対する強度が増すことがわかった。比較例の荷重値との対比から、ポリウレタン成型品に占める反毛糸状片の重量混合割合は少なくとも20重量部以上であることが望ましい。ポリウレタン成型品に占める反毛糸状片の重量混合割合が90重量部にも達する場合、荷重値の頭打ちや低下となり効果が期待できなくなることから、ポリウレタン成型品に占める反毛糸状片の重量混合割合の上限は80重量部となる。
【0042】
形式上、ポリウレタン成型品に占める反毛糸状片の重量混合割合が増すほど好例であると考えることができる。しかしながら、原料ポリウレタンチップの重量割合が減りすぎる場合、同密度であるとしてもポリウレタン成型品自体が緻密化してしまう。このため、後記する吸音に関する性能低下が否めない。また、原料ポリウレタンチップと反毛糸状片との価格差、調達の容易さ、資源の再利用性の簡便さも考慮すべき事項となる。従って、好ましくは、原料ポリウレタンチップと反毛糸状片との重量混合割合は30:70ないし70:30、より好ましくは、原料ポリウレタンチップと反毛糸状片との重量混合割合は30:70ないし50:50となる。
【0043】
[吸音性能の測定、評価]
発明者は試作したポリウレタン成型品について、吸音性能がどのように変化するのかを測定した。吸音性能の測定は「音響透過損失」及び「残響室法吸音率」の2種類とした。両方法に試作例3のポリウレタン成型品と従来品となる比較例のポリウレタン成型品を供し測定した。試作例3のポリウレタン成型品は原料ポリウレタンチップと反毛糸状片との重量混合割合が比較的安定した配合であり、設備稼働や経費の面からも好例となるためである。
【0044】
「音響透過損失」は、JIS−A−1416等の規格に規定されているように、例えば建物の壁や窓等の材料、構造物の遮音性を表す数値であり、ある材料や構造物が部屋の外部から入射する音の大きさと、その材料や構造物を透過して部屋に内部に入った音の大きさとの差を表す。そこで、発明者はフロアサイレンサー等の自動車用床材として用いた際の車内空間への音の伝わり難さの評価に好例と考え、ポリウレタン成型品の「音響透過損失」を測定した。「音響透過損失」の単位は「dB」であり、1/3オクターブバンド毎の中心周波数帯(Hz)別で測定した。数値(dB)が大きくなるほど遮音性能が高まる傾向にある。
【0045】
「残響室法吸音率」は、JIS−A−1409等の規格に規定されているように、例えばある材料や構造物を部屋の内部に配したことにより、当初の何もない状態の部屋のときと比較して残響時間がどれだけ短くなったかを測定し相対化した指標である。これについても、発明者はフロアサイレンサー等の自動車用床材として用いた際、車内空間における騒音の残響の低減への評価に好例と考え、ポリウレタン成型品の「残響室法吸音率」を測定した。「残響室法吸音率」の単位は「%」であり、1/3オクターブバンド毎の中心周波数帯(Hz)別で測定した。数値(%)が大きくなるほど残響の吸収性能が高まる傾向にある。
【0046】
「音響透過損失」及び「残響室法吸音率」の測定では、ポリウレタン成型品(被検査物品)への音の入射条件を限定していない。そのため、実環境での使用条件に適合させやすいと考えられる。
【0047】
図8のグラフは「音響透過損失」の測定結果であり、図9のグラフは「残響室法吸音率」の測定結果である。図8のグラフから、試作例のポリウレタン成型品は比較例の既存品よりも音響透過損失の測定において性能の向上を確認することができた。また、図9のグラフから、残響室法吸音率の測定では、試作例のポリウレタン成型品は比較例の既存品と比較してほぼ同等の性能を得た。これらの測定結果と、前述の試作例のポリウレタン成型品と既存品である比較例との密度の差を加味すると、吸音性能の向上とともに、既存品よりも軽量化が可能であり、しかも、撓みや変形にも強いことが判明した。
【0048】
従って、本発明のポリウレタン成型品は、住宅用建材、船内用部材、機械等の騒音源を被覆する部材、自動車用床材等の騒音を低減し、静穏さが求められる用途により好適であることの確認ができた。特に、軽量化への対応が急務である自動車用床材等の車両用部材の代替が有望である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
軽量吸音ポリウレタン成型品により、低密度を実現しつつ、硬さ、撓み難さとの両立を図り、しかも吸音性能も満足することができる。そこで、新たな自動車用の車載材料等を提供することができる。
【符号の説明】
【0050】
10 ポリウレタン成型品
11 原料ポリウレタンチップ
12 反毛糸状片
13 ウレタン系接着剤
20 型
30 アルミニウム製リング
40 プッシュプルゲージ
41 当接円盤部
C1 最小のポリウレタンチップ
C2 最大のポリウレタンチップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン発泡材を粉砕してなるポリウレタンチップにおいて最小のチップ(C1)の最短の一辺は8mm以上であり、かつ最大のチップ(C2)の最長の一辺は25mm以下であることを満たすチップとする原料ポリウレタンチップと、
反毛材よりなる反毛糸状片と、
ウレタン系接着剤とを混合し水蒸気を導入しながらプレス成型してなるポリウレタン成型品であって、
前記原料ポリウレタンチップと前記反毛糸状片との重量混合割合が20:80ないし80:20を満たし、かつ、前記ポリウレタン成型品の密度が0.03〜0.07g/cm3であることを特徴とする軽量吸音ポリウレタン成型品。
【請求項2】
前記ポリウレタン成型品が、下記のプッシュプルゲージを用いた計測において28N以上の荷重を満たす請求項1に記載の軽量吸音ポリウレタン成型品。
(プッシュプルゲージによる計測:厚さ20mmで均一なポリウレタン成型品の上に外直径50mm、内直径30mm、高さ25mmのアルミニウム製リングを載置し、前記リングの内側に直径25mmの当接円盤部を備えたプッシュプルゲージを垂直に立て、前記プッシュプルゲージの当接円盤部をポリウレタン成型品の内部側へ押し下げたときの数値を読みとる。)
【請求項3】
前記ポリウレタン成型品が自動車用床材として用いられる請求項1又は2に記載の軽量吸音ポリウレタン成型品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−104779(P2011−104779A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258966(P2009−258966)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(396012562)
【Fターム(参考)】