説明

輻射伝熱制御膜

【課題】基盤の色調を維持しつつ太陽光のエネルギーを効率よく反射して太陽光による基盤の加熱を抑制することができ、住宅等の冷房負荷を低減することができる輻射伝熱制御膜を提供する。
【解決手段】所定の粒径を有する第1微粒子12が、太陽光の近赤外線成分を散乱可能に、所定の粒子密度で、可視光に対して透明な基材11中に分布している。第1微粒子12の粒径より小さい粒径を有する第2微粒子13が、太陽光の紫外線成分を散乱可能に、所定の粒子密度で基材11中に分布している。第1微粒子12および第2微粒子13は、酸化チタン、アルミナまたはジルコニアから成っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輻射伝熱制御膜に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅や工場等の冷房負荷の低減は、地球温暖化問題に貢献する。冷房負荷低減のため、建築物の外装表面に白色塗料を塗布すると、太陽光のエネルギー吸収を低減し、室内の加熱を防ぐことができる。しかし、屋根材などの色を白色系にすることは、住宅や建物等の外観上、好ましくない場合が多い。
【0003】
このため、従来、太陽光の遮熱コーティングとして、日射反射率が13%以上の着色顔料のみで構成される塗料(例えば、特許文献1参照)や、図6に示すように、粒径0.3μm程度の白色顔料の微粒子51や、粒径1μm程度の顔料の微粒子を、屋根材や外壁などの基盤52に分散させたものが用いられている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−90042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の塗料や、粒径0.3μm程度の白色顔料を分散させたものは、太陽光を良く反射するが、視覚的に白く見えるため、照り返しの眩しさや住宅家屋の美観を損ねるという課題があった。また、粒径1μm程度の顔料を分散させたものは、白熱電球の赤外線のように比較的長波長の赤外線の反射には適しているが、太陽光の近赤外成分の反射特性は良くないという課題があった。さらに、有色基盤52に微粒子51を直接分散させたものは、太陽光の全波長成分が基盤52に含まれている色素等に吸収されるため、微粒子による反射効率が減少し、輻射加熱が増大するという課題もあった。
なお、太陽光に含まれる紫外線は、プラスチックなどの有機材料を劣化させ、強度を低下させる場合が多い。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、基盤の色調を維持しつつ太陽光のエネルギーを効率よく反射して太陽光による基盤の加熱を抑制することができ、住宅等の冷房負荷を低減することができる輻射伝熱制御膜を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1の本発明に係る輻射伝熱制御膜は、可視光に対して透明な基材と、太陽光の近赤外線成分を散乱可能に、前記基材中に分布した所定の粒径を有する第1微粒子とを、有することを特徴とする。
【0008】
第1の本発明に係る輻射伝熱制御膜は、主に、住宅の屋根材や外壁などの基盤の上に設けられる。第1の本発明に係る輻射伝熱制御膜は、基材が可視光に対して透明であるため、基盤の色調を維持することができる。また、基材中に分布した第1微粒子により、太陽光のエネルギー量の約40%を占める近赤外線成分を散乱することができるため、近赤外線エネルギーを効率よく反射して太陽光による基盤の加熱を抑制することができる。これにより、夏季などの日射が強い時期に、住宅等の冷房負荷を低減することができ、冷房効率を高めることができる。なお、太陽光の近赤外線は、波長が約0.7〜約2.5μmである。可視光線は、波長が約0.36〜約0.7μmである。
【0009】
基材は、可視光に対して透明であればいかなるものであってもよく、例えばプラスチックやガラスなどから成っていてもよい。第1微粒子は、白色の微粒子など、太陽光の近赤外線成分を散乱可能であればいかなるものから成ってもよい。また、第1微粒子は、可視光成分や波長10μm程度の長波長赤外線に対する散乱効果が小さいことが好ましい。この場合、基盤の色調を維持する効果に優れるとともに、基盤の放射冷却を阻害しないため、基盤の加熱抑制効果にも優れている。また、第1の本発明に係る輻射伝熱制御膜は、塗膜から成り、溶媒中に第1微粒子を分布させた塗料を基盤上に塗って形成されてもよい。
【0010】
第1の本発明に係る輻射伝熱制御膜で、前記第1微粒子は酸化チタン、アルミナ、ジルコニア、または、金属粒子から成ることが好ましい。また、前記第1微粒子は、粒径が0.6〜0.9μmの酸化チタン、粒径が5.0〜8.0μmのアルミナ、粒径が0.7〜3.0μmのジルコニア、または、粒径が0.3〜1.5μmの金属粒子から成ることが好ましい。金属粒子は、アルミニウム、ニッケル、コバルト、金または銀から成ることが好ましい。特に、前記第1微粒子は、粒径が0.6〜0.9μmの酸化チタンから成り、前記基材中に0.43〜4.3g/m2の粒子密度で分布していることが好ましい。この場合、特に、第1微粒子による基盤の加熱抑制効果に優れている。
【0011】
第2の本発明に係る輻射伝熱制御膜は、可視光に対して透明な基材と、太陽光の紫外線成分を散乱可能に、前記基材中に分布した所定の粒径を有する第2微粒子とを、有することを特徴とする。
【0012】
第2の本発明に係る輻射伝熱制御膜は、主に、住宅の屋根材や外壁などの基盤の上に設けられる。第2の本発明に係る輻射伝熱制御膜は、基材が可視光に対して透明であるため、基盤の色調を維持することができる。また、基材中に分布した第2微粒子により、太陽光の紫外線成分を散乱することができるため、紫外線エネルギーを効率よく反射してプラスチック製の基盤等が紫外線により変質するのを防ぐことができる。これにより、基盤の劣化や強度低下を防止することができ、基盤の寿命を延ばすことができる。なお、太陽光の紫外線は、波長が約0.001〜約0.36μmで、太陽光のエネルギー量の約5%を占めている。
【0013】
基材は、可視光に対して透明であればいかなるものであってもよく、例えばプラスチックやガラスなどから成っていてもよい。第2微粒子は、白色の微粒子など、太陽光の近赤外線成分を散乱可能であればいかなるものから成ってもよい。また、第2微粒子は、可視光成分や波長10μm程度の長波長赤外線に対する散乱効果が小さいことが好ましい。この場合、基盤の色調を維持する効果に優れるとともに、基盤の放射冷却を阻害しないため、基盤の加熱抑制効果も得られる。また、第2の本発明に係る輻射伝熱制御膜は、塗膜から成り、溶媒中に第2微粒子を分布させた塗料を基盤上に塗って形成されてもよい。さらに、基材中に第2微粒子だけでなく、第1微粒子が分布していてもよく、この場合、基盤の変質防止効果と同時に、基盤の加熱を抑制する効果も得られる。
【0014】
第2の本発明に係る輻射伝熱制御膜で、前記第2微粒子は酸化チタン、アルミナ、ジルコニア、または、金属粒子から成ることが好ましい。また、前記第2微粒子は、粒径が0.06〜0.10μmの酸化チタン、粒径が0.6〜1.0μmのアルミナ、粒径が0.06〜0.3μmのジルコニア、または、粒径が0.01〜0.3μmの金属粒子から成ることが好ましい。金属粒子は、アルミニウム、ニッケル、コバルト、金または銀から成ることが好ましい。特に、前記第2微粒子は、粒径が0.06〜0.10μmの酸化チタンから成り、前記基材中に0.088〜0.88g/m2の粒子密度で分布していることが好ましい。この場合、特に、第2微粒子による基盤の変質防止効果に優れている。
【0015】
第3の本発明に係る輻射伝熱制御膜は、可視光に対して透明な基材と、太陽光の近赤外線成分を散乱可能に、前記基材中に分布した所定の径を有する第1気泡とを、有することを特徴とする。
【0016】
第3の本発明に係る輻射伝熱制御膜は、主に、住宅の屋根材や外壁などの基盤の上に設けられる。第3の本発明に係る輻射伝熱制御膜は、基材が可視光に対して透明であるため、基盤の色調を維持することができる。また、基材中に分布した第1気泡により、太陽光のエネルギー量の約40%を占める近赤外線成分を散乱することができるため、近赤外線エネルギーを効率よく反射して太陽光による基盤の加熱を抑制することができる。これにより、夏季などの日射が強い時期に、住宅等の冷房負荷を低減することができ、冷房効率を高めることができる。
【0017】
基材は、可視光に対して透明であればいかなるものであってもよく、例えばプラスチックやガラスなどから成っていてもよい。また、第1気泡は、可視光成分や波長10μm程度の長波長赤外線に対する散乱効果が小さいことが好ましい。この場合、基盤の色調を維持する効果に優れるとともに、基盤の放射冷却を阻害しないため、基盤の加熱抑制効果にも優れている。また、第3の本発明に係る輻射伝熱制御膜は、塗膜から成り、溶媒中に第1気泡を分布させた塗料を基盤上に塗って形成されてもよい。さらに、基材中に第1気泡だけでなく、第1微粒子や第2微粒子が分布していてもよく、この場合、基盤の加熱抑制効果と同時に、基盤の変質防止効果も得られる。
【0018】
第3の本発明に係る輻射伝熱制御膜で、前記第1気泡は、直径が0.7〜50μmであることが好ましい。この場合、特に、第1気泡による基盤の加熱抑制効果に優れている。
【0019】
第4の本発明に係る輻射伝熱制御膜は、可視光に対して透明な基材と、太陽光の紫外線成分を散乱可能に、前記基材中に分布した所定の径を有する第2気泡とを、有することを特徴とする。
【0020】
第4の本発明に係る輻射伝熱制御膜は、主に、住宅の屋根材や外壁などの基盤の上に設けられる。第4の本発明に係る輻射伝熱制御膜は、基材が可視光に対して透明であるため、基盤の色調を維持することができる。また、基材中に分布した第2気泡により、太陽光の紫外線成分を散乱することができるため、紫外線エネルギーを効率よく反射してプラスチック製の基盤等が紫外線により変質するのを防ぐことができる。これにより、基盤の劣化や強度低下を防止することができ、基盤の寿命を延ばすことができる。
【0021】
基材は、可視光に対して透明であればいかなるものであってもよく、例えばプラスチックやガラスなどから成っていてもよい。また、第2気泡は、可視光成分や波長10μm程度の長波長赤外線に対する散乱効果が小さいことが好ましい。この場合、基盤の色調を維持する効果に優れるとともに、基盤の放射冷却を阻害しないため、基盤の加熱抑制効果も得られる。また、第4の本発明に係る輻射伝熱制御膜は、塗膜から成り、溶媒中に第2気泡を分布させた塗料を基盤上に塗って形成されてもよい。さらに、基材中に第2気泡だけでなく、第1微粒子や第1気泡、第2微粒子が分布していてもよく、この場合、基盤の変質防止効果と同時に、基盤の加熱を抑制する効果も得られる。
【0022】
第4の本発明に係る輻射伝熱制御膜で、前記第2気泡は、直径が0.05〜0.2μmであることが好ましい。この場合、特に、第2気泡による基盤の変質防止効果に優れている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、基盤の色調を維持しつつ太陽光のエネルギーを効率よく反射して太陽光による基盤の加熱を抑制することができ、住宅等の冷房負荷を低減することができる輻射伝熱制御膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図3は、本発明の第1の実施の形態の輻射伝熱制御膜を示している。
図1に示すように、輻射伝熱制御膜10は、基材11と第1微粒子12と第2微粒子13とを有している。なお、輻射伝熱制御膜10は、住宅の屋根材や外壁などの基盤1の上に設けられている。
【0025】
基材11は、可視光に対して透明である。基材11は、例えば、可視光に対して透明なプラスチックやガラス、透明塗料から成っている。基材11は、基盤1が放射する波長10μm程度の長波長赤外線を遮断しないよう、大略10μm〜1mm程度の厚さで形成されている。なお、基材11は、ガラスから成るとき、1μm程度の厚さであってもよい。
【0026】
第1微粒子12は、例えば酸化チタン、アルミナ、ジルコニア、または、金属粒子から成り、所定の粒径を有している。第1微粒子12は、太陽光の近赤外線成分を散乱可能に、所定の粒子密度で基材11中に分布している。
【0027】
第2微粒子13は、例えば酸化チタン、アルミナ、ジルコニア、または、金属粒子から成り、第1微粒子12の粒径より小さい粒径を有している。第2微粒子13は、太陽光の紫外線成分を散乱可能に、所定の粒子密度で基材11中に分布している。
基盤1は、黒色などの有色の基盤から成っている。
【0028】
なお、具体的な一例では、第1微粒子12は、粒径が0.75μmの酸化チタン、または、粒径が6.3μmのアルミナから成っている。第1微粒子12は、粒径が0.75μmの酸化チタンから成るとき、基材11中に0.43〜4.3g/m2の粒子密度で分布している。第2微粒子13は、粒径が0.086μmの酸化チタン、または、粒径が0.80μmのアルミナから成っている。第2微粒子13は、粒径が0.086μmの酸化チタンから成るとき、基材11中に0.088〜0.88g/m2の粒子密度で分布している。
【0029】
次に、作用について説明する。
輻射伝熱制御膜10は、基材11が可視光に対して透明であり、第1微粒子12および第2微粒子13共に、可視光の散乱効果が小さいため、基盤1の有する色調を維持することができる。また、基材11中に分布した第1微粒子12により、太陽光のエネルギー量の約40%を占める近赤外線成分を散乱することができるため、近赤外線エネルギーを効率よく反射して太陽光による基盤1の加熱を抑制することができる。これにより、夏季などの日射が強い時期に、住宅等の冷房負荷を低減することができ、冷房効率を高めることができる。
【0030】
さらに、基材11中に分布した第2微粒子13により、太陽光の紫外線成分を散乱することができるため、紫外線エネルギーを効率よく反射して、紫外線による加熱を抑制するだけでなく、プラスチック製の基盤1等が紫外線により変質するのを防ぐこともできる。これにより、基盤1の劣化や強度低下を防止することができ、基盤1を保護して基盤1の寿命を延ばすことができる。このように、輻射伝熱制御膜10は、屋根や外壁などの外観を損ねることなく、太陽光による加熱を抑制し、基盤1の変質を防止することができる。
【0031】
また、基材11、第1微粒子12および第2微粒子13が、波長10μm程度の長波長赤外線に対する散乱効果が小さく、長波長輻射の放射による基盤1からの放熱を妨げないため、太陽光による加熱抑制効果および冷房負荷の低減効果をより高めることができる。特に、第1微粒子12および第2微粒子13が酸化チタンから成る場合、第1微粒子12および第2微粒子13共に、基盤1が放射する波長10μm程度の長波長赤外線に対しては散乱効果がないため、基盤1の放射冷却を阻害することなく、太陽光による過熱を防止することができる。
【0032】
なお、輻射伝熱制御膜10は、瓦や外装タイルなどのセラミックスの基盤1に使用する場合、粒径および粒子密度を最適化した第1微粒子12および第2微粒子13を、釉薬に混入して焼成することにより、同様な効果を得ることができる。また、粒径および粒子密度を最適化した第1微粒子12および第2微粒子13を透明塗料に分散させ、基盤1上に一定厚さで塗布することにより、同様な効果を得ることもできる。粒径および粒子密度を最適化した第1微粒子12および第2微粒子13を分散させたプラスチックフィルムを基盤1上に融着または接着させることにより、同様な効果を得ることもできる。
【0033】
[第1微粒子12および第2微粒子13による反射特性の評価]
以下に、輻射伝熱制御膜10の第1微粒子12および第2微粒子13による反射特性の評価を行った。微粒子による後方散乱効率を式(1)のように定義する。
【数1】

【0034】
単一粒子の散乱効率Qsca、前方散乱パラメータa1は、Mie散乱理論により求めることができる。前方散乱パラメータaは、散乱の非対称性を表し、3のとき完全前方散乱、−3のとき完全後方散乱、0のとき等方散乱を示す。酸化チタン粒子およびアルミナ粒子に対し、式(1)により後方散乱効率Qsca,backの波長依存性を計算し、その結果をそれぞれ図2および図3に示す。図2および図3中には、無次元化した人間の可視光に対する標準比視感度(明所視)ならびに無次元化した近似的な太陽ふく射(T=5762K)および基盤1から放射される光エネルギー(T=300K)の単色放射能による波長特性も示している。
【0035】
図2に示すように、酸化チタンの場合、粒径dPが0.086μmのとき、紫外線成分の後方散乱効率が高く、粒径dPが0.75μmのとき近赤外線成分の後方散乱効率が高いことが確認できる。また、図3に示すように、アルミナの場合、粒径dPが0.80μmのとき、紫外線成分の後方散乱効率が高く、粒径dPが6.3μmのとき近赤外線成分の後方散乱効率が高いことが確認できる。このため、第1微粒子12は、粒径が0.75μmの酸化チタン、または、粒径が6.3μmのアルミナから成り、第2微粒子13は、粒径が0.086μmの酸化チタン、または、粒径が0.80μmのアルミナから成ることが好ましく、これらの場合、特に基盤1の加熱抑制効果および基盤1の変質防止効果に優れているといえる。
【0036】
次に、微粒子の混入量、すなわち粒子密度について検討を行った。一般に、微粒子による光の光学厚さτが1から10程度のとき、微粒子の散乱による効果が発揮されることから、微粒子の混入量を求めた。微粒子の真密度をρとすると、微粒子の最適混入量Wは、式(2)で表される。
【数2】

【0037】
式(2)によれば、第1微粒子12が、粒径dPが0.75μmの酸化チタンから成る場合、基材11に0.43〜4.3g/m2の粒子密度で混入したとき、散乱による最適な効果が得られ、基盤1の加熱抑制効果に優れているといえる。また、第2微粒子13が、粒径dPが0.086μmの酸化チタンから成る場合、基材11に0.088〜0.88g/m2の粒子密度で混入したとき、散乱による最適な効果が得られ、基盤1の変質防止効果に優れているといえる。なお、式(2)において、酸化チタンの真密度ρを4.2g/cm3とし、散乱効率Qscaは極大値を示す波長の値を用いて計算を行った。すなわち、図2に示すように、粒径dPが0.75μmの酸化チタンのとき、極大値の波長は1.14μmで、散乱効率は4.91、粒径dPが0.086μmの酸化チタンのとき、極大値の波長は0.358μmで、散乱効率は2.74として計算を行った。
【0038】
輻射伝熱制御膜10は、第1微粒子12および第2微粒子13の粒径および粒子密度を、太陽光の近赤外線および紫外線を良好に反射しつつ、可視光および長波長赤外線に対しては十分な透過性を持つように制御することにより、基盤1の色調を維持しつつ、優れた基盤1の加熱抑制効果および基盤1の変質防止効果を得ることができる。
【0039】
図4および図5は、本発明の第2の実施の形態の輻射伝熱制御膜を示している。
図4に示すように、輻射伝熱制御膜30は、基材31と第1気泡32と第2気泡33とを有している。なお、輻射伝熱制御膜30は、住宅の屋根材や外壁などの基盤1の上に設けられている。
【0040】
基材31は、可視光に対して透明である。基材31は、例えば、可視光に対して透明なプラスチックやガラス、透明塗料から成っている。基材31は、基盤1が放射する波長10μm程度の長波長赤外線を遮断しないよう、大略10μm〜1mm程度の厚さで形成されている。なお、基材31は、ガラスから成るとき、1μm程度の厚さであってもよい。
【0041】
第1気泡32は、所定の直径を有し、太陽光の近赤外線成分を散乱可能に、基材31中に分布している。第2気泡33は、第1気泡32の直径より小さい直径を有し、太陽光の紫外線成分を散乱可能に、基材31中に分布している。なお、具体的な一例では、第1気泡32は、直径が5μmであり、第2気泡33は、直径が0.1μmである。
基盤1は、黒色などの有色の基盤から成っている。
【0042】
次に、作用について説明する。
輻射伝熱制御膜30は、基材31が可視光に対して透明であり、第1気泡32および第2気泡33共に、可視光の散乱効果が小さいため、基盤1の有する色調を維持することができる。また、基材31中に分布した第1気泡32により、太陽光のエネルギー量の約40%を占める近赤外線成分を散乱することができるため、近赤外線エネルギーを効率よく反射して太陽光による基盤1の加熱を抑制することができる。これにより、夏季などの日射が強い時期に、住宅等の冷房負荷を低減することができ、冷房効率を高めることができる。
【0043】
さらに、基材31中に分布した第2気泡33により、太陽光の紫外線成分を散乱することができるため、紫外線エネルギーを効率よく反射して、紫外線による加熱を抑制するだけでなく、プラスチック製の基盤1等が紫外線により変質するのを防ぐこともできる。これにより、基盤1の劣化や強度低下を防止することができ、基盤1を保護して基盤1の寿命を延ばすことができる。このように、輻射伝熱制御膜30は、屋根や外壁などの外観を損ねることなく、太陽光による加熱を抑制し、基盤1の変質を防止することができる。
【0044】
また、基材31、第1気泡32および第2気泡33が、波長10μm程度の長波長赤外線に対する散乱効果が小さく、長波長輻射の放射による基盤1からの放熱を妨げないため、太陽光による加熱抑制効果および冷房負荷の低減効果をより高めることができる。
【0045】
なお、輻射伝熱制御膜30は、瓦や外装タイルなどのセラミックスの基盤1に使用する場合、直径および分布密度を最適化した第1気泡32および第2気泡33を、釉薬に混入して焼成することにより、同様な効果を得ることができる。また、直径および分布密度を最適化した第1気泡32および第2気泡33を透明塗料に分散させ、基板上に一定厚さで塗布することにより、同様な効果を得ることもできる。直径および分布密度を最適化した第1気泡32および第2気泡33を分散させたプラスチックフィルムを基盤1上に融着または接着させることにより、同様な効果を得ることもできる。
【0046】
[第1気泡32および第2気泡33による反射特性の評価]
以下に、輻射伝熱制御膜30の第1気泡32および第2気泡33による反射特性の評価を行った。まず、基材31は屈折率1.5のポリエチレン製のプラスチックから成るものとし、第1気泡32および第2気泡33の屈折率を1.0とし、式(3)で示される輻射伝熱制御膜30の紫外光反射率ρUV、式(4)で示される輻射伝熱制御膜30の近赤外光反射率ρNIR、および式(5)で示される輻射伝熱制御膜30の可視光の反射率ρVISを計算した。ここで、λは波長(μm)、ρは後方散乱効率(=Qsca,back)、IはBirdモデルを用いたときの太陽放射、ηは人間の明所における標準比視感度である。なお、気泡の体積割合fと厚さtとの積をパラメータとして、その値を0.5μmとしている。
【0047】
【数3】

【数4】

【数5】

【0048】
次に、紫外光反射率ρUVおよび近赤外光反射率ρNIRを、それぞれ可視光の反射率ρVISで除した値RUV/VIS=ρUV/ρVISおよびRNIR/VIS=ρNIR/ρVISを計算し、その結果を、図5に示す。なお、RUV/VISおよびRNIR/VISの値が大きい方が、可視光の反射を押さえて、紫外光や近赤外光を多く反射できることを示している。図5に示すように、紫外光に対しては、気泡直径が0.1μmにおいて最大の反射効果を示し、近赤外光に対しては、大略0.7−50μmの気泡直径で効率良く反射できることが確認できる。
【0049】
このように、第1気泡32は、粒径dPが5μmのとき、近赤外線成分の反射効率が高く、第2気泡33は、粒径dPが0.1μmのとき、紫外線成分の反射効率が高い。このため、これらの場合、特に基盤1の加熱抑制効果および基盤1の変質防止効果に優れているといえる。また、気泡の体積割合fと輻射伝熱制御膜30の厚さtとの積は、0.1〜3μmが適当である。
【0050】
輻射伝熱制御膜30は、第1気泡32および第2気泡33の直径および分布密度を、太陽光の近赤外線および紫外線を良好に反射しつつ、可視光および長波長赤外線に対しては十分な透過性を持つように制御することにより、基盤1の色調を維持しつつ、優れた基盤1の加熱抑制効果および基盤1の変質防止効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る輻射伝熱制御膜は、ファイバーグラス強化プラスチック製の外装板や屋根材、コンクリート製またはセラミック製の瓦屋根材等の外板材、一般建材などの輻射伝熱制御や、自動車の加熱防止等の様々な分野に適用することができる。
また、本発明に係る輻射伝熱制御膜は、太陽光からの加熱防止塗料やコーティング剤、塗装、紫外線によるプラスチックの劣化防止剤として広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の実施の形態の輻射伝熱制御膜を示す断面図である。
【図2】図1に示す輻射伝熱制御膜の第1微粒子および第2微粒子を構成する酸化チタン粒子の後方散乱効率の波長依存性を示すグラフである。
【図3】図1に示す輻射伝熱制御膜の第1微粒子および第2微粒子を構成するアルミナ粒子の後方散乱効率の波長依存性を示すグラフである。
【図4】本発明の第2の実施の形態の輻射伝熱制御膜を示す断面図である。
【図5】図4に示す輻射伝熱制御膜に関し、可視光に対する太陽光の紫外線および近赤外線の反射比率と気泡直径との関係を示すグラフである。
【図6】従来の微粒子を分散させた基盤を示す断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 基盤
10 輻射伝熱制御膜
11 基材
12 第1微粒子
13 第2微粒子
30 輻射伝熱制御膜
31 基材
32 第1気泡
33 第2気泡



【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光に対して透明な基材と、
太陽光の近赤外線成分を散乱可能に、前記基材中に分布した所定の粒径を有する第1微粒子とを、
有することを特徴とする輻射伝熱制御膜。
【請求項2】
可視光に対して透明な基材と、
太陽光の紫外線成分を散乱可能に、前記基材中に分布した所定の粒径を有する第2微粒子とを、
有することを特徴とする輻射伝熱制御膜。
【請求項3】
前記第1微粒子および前記第2微粒子は酸化チタン、アルミナ、ジルコニア、または、金属粒子から成ることを、特徴とする請求項1または2記載の輻射伝熱制御膜。
【請求項4】
前記第1微粒子は、粒径が0.6〜0.9μmの酸化チタン、粒径が5.0〜8.0μmのアルミナ、粒径が0.7〜3.0μmのジルコニア、または、粒径が0.3〜1.5μmの金属粒子から成ることを、特徴とする請求項1記載の輻射伝熱制御膜。
【請求項5】
前記第1微粒子は、粒径が0.6〜0.9μmの酸化チタンから成り、前記基材中に0.43〜4.3g/m2の粒子密度で分布していることを、特徴とする請求項1記載の輻射伝熱制御膜。
【請求項6】
前記第2微粒子は、粒径が0.06〜0.10μmの酸化チタン、粒径が0.6〜1.0μmのアルミナ、粒径が0.06〜0.3μmのジルコニア、または、粒径が0.01〜0.3μmの金属粒子から成ることを、特徴とする請求項2記載の輻射伝熱制御膜。
【請求項7】
前記第2微粒子は、粒径が0.06〜0.10μmの酸化チタンから成り、前記基材中に0.088〜0.88g/m2の粒子密度で分布していることを、特徴とする請求項2記載の輻射伝熱制御膜。
【請求項8】
前記金属粒子は、アルミニウム、ニッケル、コバルト、金または銀から成ることを、特徴とする請求項3、4または6記載の輻射伝熱制御膜。
【請求項9】
可視光に対して透明な基材と、
太陽光の近赤外線成分を散乱可能に、前記基材中に分布した所定の径を有する第1気泡とを、
有することを特徴とする輻射伝熱制御膜。
【請求項10】
可視光に対して透明な基材と、
太陽光の紫外線成分を散乱可能に、前記基材中に分布した所定の径を有する第2気泡とを、
有することを特徴とする輻射伝熱制御膜。
【請求項11】
前記第1気泡は、直径が0.7〜50μmであることを、特徴とする請求項9記載の輻射伝熱制御膜。
【請求項12】
前記第2気泡は、直径が0.05〜0.2μmであることを、特徴とする請求項10記載の輻射伝熱制御膜。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−460(P2010−460A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162050(P2008−162050)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】