説明

農作業機

【課題】 エンジンから作業装置4への伝動系にPTOクラッチを介装した農作業機において、一時休止においても無駄にエンジンが高回転作動することを回避して燃費の向上を図る。
【解決手段】 エンジン8の調速機構21を制御可能に構成し、PTOクラッチ18の切り状態および走行停止状態の両者が検知されることに基づいて調速機構21を所定のアイドリングセット状態になるまでアクセルダウン制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業装置としてモーアを連結した草刈機や、作業装置としてロータリ耕耘装置を連結した農用トラクタなどの農作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
上記農作業機の一例である草刈機は、エンジンからモーアへの伝動系にPTOクラッチを介装して、機体前部に連結したモーアを任意に駆動停止できるよう構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−206219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に農作業機に搭載されたエンジンの調速機構は任意の操作位置に保持可能なハンドアクセルレバーによる調節操作によってアクセルセットされるものであり、通常の作業中は最高回転にアクセルセットして高いエンジン出力で作業走行を行う。
【0004】
しかし、上記構成によると、作業の途中でPTOクラッチを切って作業装置を休止するとともに走行を停止して作業走行を一時休止したような場合、エンジンは高回転で駆動され続けることになって燃料が無駄に消費されることになる。もちろん、ハンドアクセルレバーでアクセルダウン操作したりエンジンを停止すればよいのであるが、一時休止のつど逐一このような操作を行うことは煩わしく、往々にして高回転のままにしておかれることが多い。
【0005】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、一時休止においても無駄にエンジンが高回転作動することを回避して燃費の向上を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、エンジンから作業装置への伝動系にPTOクラッチを介装した農作業機において、
エンジンの調速機構を制御可能に構成し、前記PTOクラッチの切り状態および走行停止状態の両者が検知されることに基づいて前記調速機構を所定のアイドリングセット状態になるまでアクセルダウン制御する制御手段を備えてあることを特徴とする。
【0007】
上記構成によると、作業の途中でPTOクラッチを切って作業装置を休止するとともに走行を停止して作業走行を一時休止すると、これが検知されて自動的にアクセルダウン制御が行われ、エンジンはアイドリングセット状態で消費燃料少なく作動する。
【0008】
従って、第1の発明によると、作業途中の一時休止においても無駄にエンジンが高回転作動することを回避して燃費の向上を図ることができる。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記PTOクラッチの切り状態および走行停止状態の両者が検知されない状態では前記調速機構を所定の高速回転セット状態にアクセルアップ制御するよう、前記制御手段を構成してあるものである。
【0010】
上記構成によると、作業の途中でPTOクラッチを切って作業装置を休止するとともに走行を停止して作業走行を一時休止すると自動的にアクセルダウン制御が行われるが、再び走行を開始、あるいは、PTOクラッチを入れて作業装置の駆動を再開すると、エンジンは自動的に高速回転セット状態にアクセルアップ制御されることになり、ただちに作業走行を行っても走行負荷や作業負荷によってエンジンストップが発生するようなことはない。
【0011】
第3の発明は、上記第2の発明において、
前記高速回転セット状態を人為調節保持するアクセル調節具を備えてあるものである。
【0012】
上記構成によると、アクセルダウン制御によってアイドリングセット状態に制御された後、走行あるいは作業走行を再開すると人為設定された元の高速回転セット状態にアクセルアップ制御されることになり、予め設定したエンジン出力での走行や作業走行を行うことができる。
【0013】
第4の発明は、上記第1〜3のうちのいずれか一つの発明において、
走行速度を前後進の切換えが可能な無段変速装置によって変速するよう構成し、この無段変速装置を操作する変速操作具が中立位置にあることを検知して前記走行停止状態と認識するよう、前記制御手段を構成してあるものである。
【0014】
上記構成によると、例えば、変速操作具の支軸の回動位置を1個のリミットスイッチで検知するような簡単な構造で走行停止状態を的確に検知することができ、上記第1〜3のうちのいずれか一つの発明の上記効果をもたらすとともに、走行停止状態の検知構造を安価に構成することができる。
【0015】
第5の発明は、上記第1〜4のうちのいずれか一つの発明において、
エンジン冷却水の設定以上の高温状態が設定時間以上継続されると前記調速機構を所定のアイドリングセット状態になるまでアクセルダウン制御するよう、前記制御手段を構成してあるものである。
【0016】
上記構成によると、上記第1〜4のうちのいずれか一つの発明の上記効果をもたらすとともに、アクセルダウン制御を有効に利用してエンジンのオーバーヒートを未然に回避することができる。
【0017】
なお、この場合、エンジン冷却水の設定以上の高温状態が設定時間以上継続されたことをブザーやランプなどで報知するように構成すると、アクセルダウン制御の原因を容易に認識することができ、クールダウン運転や冷却水の補給などの措置を速やかにとることができ、実用上の利便性が更に高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1および図2に本発明に係る農作業機の一例である乗用型草刈機の側面および平面がそれぞれ示されている。この乗用型草刈機は、向き固定の前輪1と操向可能な後輪2を備えた四輪駆動型の走行機体3の前部に作業装置としてのモーア4が油圧駆動されるリフトアーム5を介して昇降可能に連結された基本構成を備えている。
【0019】
前記走行機体3の下部に配備された主フレーム6の後部には、ラジエータ7を前置きにした水冷式のエンジン8が搭載されて、上下に揺動開閉可能なエンジンボンネット9で覆われた原動部10が構成され、この原動部10の前方に運転座席11が配備されるとともに、原動部10と運転座席11との間に位置させてアーチ形の転倒保護フレーム12が立設配備され、さらに運転座席11の前方に後輪2を操向するステアリングハンドル13が配備されている。
【0020】
図3の伝動系統図に示すように、エンジン8からの出力は機体前部に配備された油圧式の無段変速装置(HST)15に入力されて前進域および後進域において無段に変速された後、その前部に連結された伝動ケース16内のギヤ減速機構35で減速されて前輪1に伝達されるとともに、伝動ケース16内で分岐された走行系動力が後輪2に軸伝達されるようになっている。なお、前記無段変速装置15は運転部における足元右側に配備された変速ペダル(変速操作具)17に連動連結されており、変速ペダル17を前方に踏み込むに連れて中立から前進側に増速され、また、変速ペダル17を後方に踏み込むに連れて中立から後進側に増速され、変速ペダル17の踏み込みを解除すると中立に復帰するよう構成されている。
【0021】
また、無段変速装置15に入力された動力の一部がそのまま伝動ケース16に入力され、ギヤ減速機構36およびPTOクラッチ18を経てケース前端のPTO軸19に伝達され、このPTO軸19から取り出された作業用動力で前記モーア4が駆動されるようになっている。そして、PTOクラッチ18は運転座席の横側に配備されたPTOクラッチレバー20に連係されており、PTOクラッチレバー20の前方操作によってPTOクラッチ18が「入」となり、後方操作によってPTOクラッチ18が「切」に切換えられるようになっている。
【0022】
図4に示すように、前記エンジン8に装備された調速機構21には「低速」側にバネ付勢された調速レバー22が備えられるとともに、この調速レバー22がハンドアクセルレバー(アクセル調節具)23および電動モータ24によって人為的および電気的に制御操作されてアクセルセットが行われるようになっており、以下、この調速機構21のアクセルセット構造について説明する。
【0023】
前記ハンドアクセルレバー23は運転部に揺動操作可能かつ任意の操作位置に摩擦保持可能に配備されており、このハンドアクセルレバー23と前記調速レバー22とが操作ワイヤ25で連動連結されている。そして、この操作ワイヤ25の調速機構側のアウタ端が、前記電動モータ24によって2位置に切換え揺動されるワイヤ受け部材26に連結支持されている。
【0024】
前記ワイヤ受け部材26は通常は「基準」位置にあり、このワイヤ支持状態でハンドアクセルレバー23を最低速度「min」から最高速度「max」の範囲で調節することで、調速レバー22をストッパ27で受け止め規制されるアイドリングから最高速の範囲で任意にアクセルセットすることができるようになっている。また、電動モータ24によって前記ワイヤ受け部材26が「減速」位置に切換えられると、操作ワイヤ25を弛める方向にアウタ端が変位され、ハンドアクセルレバー23の操作位置にかかわらず調速レバー22がアイドリングまで付勢復帰されるようになっている。
【0025】
前記電動モータ24を正逆に作動制御する制御装置28には、前記PTOクラッチレバー20が「切」位置に操作されたことを検知するセンサとしてのリミットスイッチ29と、前記変速ペダル17の支軸30が「中立」にあることを検知するセンサとしてのリミットスイッチ31が接続されている。
【0026】
そして、図5の制御フロー図に示すように、PTOクラッチレバー20が「切」位置に操作されたことが検知されていない状態、あるいは、ペダル軸30が「中立」にあることが検知されていない状態、のいずれかが判断されると、電動モータ24はワイヤ受け部材26を「基準」位置に保持する。つまり、PTOクラッチ18が入れられている状態、あるいは、走行している状態の少なくともいずれかの状態である時には調速機構21はハンドアクセルレバー23の操作位置に対応したアクセルセット状態となる。
【0027】
また、PTOクラッチレバー20が「切」位置に操作されている状態、および、ペダル軸30が「中立」にある走行停止状態、のいずれもが検知されていることが判断されると、電動モータ24はワイヤ受け部材26を「減速」位置に作動させる。つまり、モーア4の駆動を停止して走行停止している状態であることが判断されると、調速機構21はアイドリングにまでアクセルダウン制御されるのである。
【0028】
そして、その後、PTOクラッチ18が入れられるか、あるいは、走行が再開されると、ワイヤ受け部材26が「基準」位置に復帰され、調速機構21はハンドアクセルレバー23の操作位置に対応したアクセルセット状態に復帰する。
【0029】
なお、前記制御装置28にはエンジン冷却水の温度を検出する温度センサ32とブザーなどの報知装置33が接続されており、検知した水温が設定値(例えば130°C)以上になると報知装置33が作動してエンジン8が過熱傾向にあることが運転作業者に知らされ、また、その検出状態が設定時間(例えば数秒間)以上継続されると、前記電動モータ24を介して調速機構21がアイドリングにまでアクセルダウン制御されて、エンジン8が自動的にクールダウン運転されるようになっている。
【0030】
〔他の実施例〕
【0031】
(1)上記実施例における前記ワイヤ受け部材26は「基準」位置と「減速」位置の2位置に作動するだけであるので、電動モータ24に変えて電磁ソレノイドを利用することもできる。
【0032】
(2)上記実施例では、調速機構21の調速レバー22とハンドアクセルレバー23とを操作ワイヤ25で機械的に連動連結しているが、サーボ機能を備えた電動モータで調速レバー22を正逆操作可能に構成するとともに、ハンドアクセルレバー23の操作位置をポテンショメータなどで連続的に検知し、ハンドアクセルレバー23の操作位置に応じて電動モータを作動制御することで任意のアクセルセットを行い、かつ、上記検知条件が満たされるとハンドアクセルレバー23によるアクセルセットに優先して調速機構21をアイドリングにアクセルダウン制御する形態で実施することもできる。なお、この構造の場合、ハンドアクセルレバー23に代えてダイヤル式のアクセル調節具を仕様することも可能となる。
【0033】
(3)上記実施例では、アクセルダウン制御の条件が満たされると電動モータ24を作動させて調速機構21をアイドリングセット状態に制御し、その後、アクセルダウン制御の条件が解除されると再びハンドアクセルレバー23で設定された元のアクセルセット状態に復帰するものとしているが、電動モータ24でハンドアクセルレバー23自体を低速方向に強制操作してアクセルダウン制御を行うこともできる。ただし、この構造によると、アクセルダウン制御の条件が解除されてもハンドアクセルレバー23はアイドリング位置に保持されたままとなるので、再度ハンドアクセルレバー23でアクセルセットをし直す必要がある。
【0034】
(4)走行停止状態を検知する手段としては、変速操作具が中立位置にあることを検知する他に、例えば、車軸の回転を回転センサで検知することも可能である。
【0035】
(5)走行用の変速装置としては無段変速装置に限らず、機械式の無段変速装置、儀や式の変速装置、など任意の形態を採用することができ、また、変速操作具として変速レバーを用いるものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】乗用型草刈機の全体側面図
【図2】乗用型草刈機の全体平面図
【図3】伝動系の概略図
【図4】制御ブロック図
【図5】制御フロー図
【符号の説明】
【0037】
8 エンジン
15 無段変速装置
17 変速操作具
18 PTOクラッチ
21 調速機構
23 アクセル調節具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから作業装置への伝動系にPTOクラッチを介装した農作業機において、
エンジンの調速機構を制御可能に構成し、前記PTOクラッチの切り状態および走行停止状態の両者が検知されることに基づいて前記調速機構を所定のアイドリングセット状態になるまでアクセルダウン制御する制御手段を備えてあることを特徴とする農作業機。
【請求項2】
前記PTOクラッチの切り状態および走行停止状態の両者が検知されない状態では前記調速機構を所定の高速回転セット状態にアクセルアップ制御するよう、前記制御手段を構成してある請求項1記載の農作業機。
【請求項3】
前記高速回転セット状態を人為調節保持するアクセル調節具を備えてある請求項2記載の農作業機。
【請求項4】
走行速度を前後進の切換えが可能な無段変速装置によって変速するよう構成し、この無段変速装置を操作する変速操作具が中立位置にあることを検知して前記走行停止状態と認識するよう、前記制御手段を構成してある請求項1〜3のいずれか一項に記載の農作業機。
【請求項5】
エンジン冷却水の設定以上の高温状態が設定時間以上継続されると前記調速機構を所定のアイドリングセット状態になるまでアクセルダウン制御するよう、前記制御手段を構成してある請求項1〜4のいずれか一項に記載の農作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−258060(P2006−258060A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−79602(P2005−79602)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】