説明

農用トラクタのフレーム構造

【課題】 転倒保護フレームの姿勢変更を合理的に行うことによって、エンジンボンネットの開閉操作に支障を来たすことが少ない農用トラクタのフレーム構造を提供する。
【解決手段】 エンジンボンネット5を、エンジンフレーム14に固定されているサイドボンネット部5Aと、サイドボンネット部5Aの上方に配置され開放自在なアッパーボンネット部5Bとで構成する。エンジンボンネット5とそのエンジンボンネット5の後方に位置するハンドルポスト7との隣接部位の横側方に転倒保護フレーム10を設ける。転倒保護フレーム10を上下向き立ち姿勢と前倒れ姿勢とに切換可能に機体固定部に支持するとともに、前倒れ姿勢で転倒保護フレーム10の上面10dが、サイドボンネット部5Aとアッパーボンネット部5Bとの境界線Aより下方に位置すべく構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転倒保護フレームを設けてある農用トラクタのフレーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
前記転倒保護フレームを設けるに、運転席の後方でかつ両サイドフェンダーに亘って設けていた(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−343182号公報(段落番号〔0016〕、及び、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した転倒保護フレームは、トラクタの転倒時に運転者等を保護するために設けられるものであるが、輸出国での要請等により、前記エンジンボンネットとそのエンジンボンネットの後方に位置するハンドルポストとの隣接部位に転倒保護フレームを設けることが要請される。
このように、エンジンボンネットとハンドルポストの横側方に位置させて転倒保護フレームを設ける場合に、果樹園等での作業時に、転倒保護フレームを上下向き立ち姿勢に維持することはできず、その場合に転倒保護フレームの姿勢変更を如何に行うかが問題となる。
【0005】
本発明の目的は、転倒保護フレームの姿勢変更を合理的に行うことによって、エンジンボンネットの開閉操作に支障を来たすことが少ない農用トラクタのフレーム構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔構成〕
請求項1に係る発明の特徴構成は、エンジンボンネットを、機体フレームに固定されているサイドボンネット部と、前記サイドボンネット部の上方に配置され開放自在なアッパーボンネット部とで構成し、前記エンジンボンネットとそのエンジンボンネットの後方に位置するハンドルポストとの隣接部位の横側方に転倒保護フレームを設け、前記転倒保護フレームを上下向き立ち姿勢と前倒れ姿勢とに切換可能に機体固定部に支持するとともに、前記前倒れ姿勢で前記転倒保護フレームの上面が、前記サイドボンネット部と前記アッパーボンネット部との境界線と同一高さ位置か又は下方に位置すべく構成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0007】
〔作用〕
エンジンボンネットとそのエンジンボンネットの後方に位置するハンドルポストとの隣接部位の横側方において、上下向き立ち姿勢にある転倒保護フレームを、前倒れ姿勢に切り換えることとしたので、果樹園での作業において、転倒保護フレームがトラクタの作業移動に支障を来たすことは少なくなった。
そして、前倒れ姿勢において転倒保護フレームの上面が、前記サイドボンネット部と前記アッパーボンネット部との境界線と同一高さ位置か又は下方に位置すべく構成してあるので、転倒保護フレームより横外側方に位置する運転者がアッパーボンネット部とサイドボンネット部との境界線を視認し易く、そのアッパーボンネット部を開放姿勢に切り換える際に転倒保護フレームが邪魔になり難く、操作も容易である。
【0008】
〔効果〕
転倒保護フレームを前倒れ姿勢に設定する際に、アッパーボンネット部とサイドボンネット部との境界線位置との高さ関係に意を配して設定することによって、アッパーボンネット部を開放操作する等の他の操作に影響を与え難い構成のものを提供できるに至った。
【0009】
請求項2に係る発明の特徴構成は、請求項1に係る発明において、前記転倒保護フレームを、前記機体固定部に取り付け固定された下部フレームと、前記下部フレームに揺動可能に取り付けられたアーチ状の上部フレームとで構成し、前記アーチ状の上部フレームを、前記下部フレームに揺動可能に取り付けられた左右の立上げ部と、左右の立上げ部を連結する横向き繋ぎ部とで構成し、前記転倒保護フレームの前記前倒れ姿勢で前記横向き繋ぎ部を、前記エンジンボンネットに設けられている前照灯の下方に位置すべく構成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0010】
〔作用効果〕
つまり、転倒保護フレームの構成として、機体固定部に枢支された左右の立上げ部とその立上げ部同士を連結する横向き繋ぎ部とで構成してあり、前倒れ姿勢において横向き繋ぎ部がエンジンボンネットの前方に位置することとなるので、ここでも、横向き繋ぎ部の高さ位置が問題となる。
そこで、横向き繋ぎ部を前照灯より下方に配置することによって、照明効果を低下させることとならず、作業移動時の前方視認性の低下を未然に回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
農用トラクタについて説明する。図1及び図2に示すように、農用トラクタは、前後輪1,2を備えた走行機体3の前部に、エンジン4をカバーするエンジンボンネット5を設けるとともに、エンジンボンネット5の後方に補強アーチフレーム6を間に挟んでハンドルポスト7を配置し、このハンドルポスト7の後方に運転座席8を配置して操縦部を構成し、運転座席8の両側方に後輪2,2を覆うフェンダー9を配置し、エンジンボンネット5とハンドルポスト7との隣接する部位に対応して前転倒保護フレーム10を配置するとともに、運転座席8の後方に後転倒保護フレーム11を配置する構成を採っている。
【0012】
前転倒保護フレーム10の取付け構造について説明する。ここでは、左右両側方に取付構造があるが、左右一方のみで説明する。図2及び図3に示すように、ミッションケース12及びそのミッションケース12から前方に向けて延出している機体フレームとしてのエンジンフレーム14の側面に沿った状態で板部材13Aをボルト止めするとともに、その板部材13Aに直交する状態の箱状部材13Bを機体横外側方に向けて延出し、箱状部材13Bの先端に後記する前転倒保護フレーム10の下部フレーム10Aを取り付け固定することとしてある。箱状部材13Bと下部フレーム10Aの後面側に補強板13Cを固着してある。
【0013】
以上、板部材13A、箱状部材13B、補強板13Cを一体に組み込み形成して、全体として前転倒保護フレーム10を支持する取付ブラケット13を構成する。取付ブラケット13が取り付け固定されているミッションケース12、及び、エンジンフレーム14を機体固定部と称する。
【0014】
前転倒保護フレーム10について説明する。図2及び図3に示すように、前転倒保護フレーム10を、取付ブラケット13に取り付け固定された下部フレーム10Aと、下部フレーム10Aに揺動可能に取り付けられたアーチ状の上部フレーム10Bとで構成する。
【0015】
図3及び図4に示すように、下部フレーム10Aは長方形断面の角フレームであり、その上端部にチャンネル状のブラケット16を取付固定してある。チャンネル状ブラケット16は左右にフランジ部16A、16Aを配置し、その左右のフランジ部16A、16Aの間に上部フレーム部10Bの下端部を入れ込ませて、その上部フレーム10Bの下端部とブラケット16の左右フランジ部16A、16Aを貫通する支持ピン15によって連結してある。上部フレーム10Bは支持ピン15の軸芯回りで上下揺動自在に支持されている。
左右にフランジ部16A、16Aの下端同士を繋ぎフレーム16Bで連結して、ブラケット16の強化を図っているとともに、上部フレームBを前倒れ姿勢に切り換えた場合に、この繋ぎフレーム16Bで上部フレームBを受止め、繋ぎフレーム16Bにストッパとしての機能を果させている。
【0016】
図2及び図3に示すように、ブラケット16には、支持ピン15を貫通させる孔以外に上下二つの孔16a、16bが設けてあり、上部フレーム10Bの下端部にも、支持ピン15を貫通させる孔以外に一つの孔10bが穿設されている。ブラケット16と上部フレーム10Bとに形成された孔16a、16bと孔10bとに止付けピン17を差込固定することによって、上部フレーム10Bをブラケット16に対して固定できる。
【0017】
以上のような構成により、上部フレーム10Bの孔10bとブラケット16の上孔16aとに亘って止付けピン17を貫通させると、上部フレーム10Bを上下向き立ち姿勢に維持することができる。この状態から止付けピン17を抜いて上部フレーム10Bを前下方に揺動させ、上部フレーム10Bの孔10bとブラケット16の下孔16bとに亘って止付けピン17を貫通させると、上部フレーム10Bを前倒れ姿勢に維持することができる。
【0018】
図2及び図3に示すように、エンジンボンネット5を、両サイドボンネット部5A、5Aの上方にアッパーボンネット部5Bを設け、このアッパーボンネット部5Bを後端位置に設けてある支点回りで上下揺動可能に構成してある。アッパーボンネット部5Bの前端部の下方には、フロントボンネット5Cがエンジンフレーム14に取り付けてある。
上記構成においては、アッパーボンネット部5Bを単独で揺動開放できるように構成したが、アッパーボンネット部5Bとともにフロントボンネット5Cも一体で揺動開放できるようにしてもよい。
【0019】
これに対して、図2に示すように、転倒保護フレーム10の上部フレーム10Bを前倒れ姿勢に設定した状態で、上部フレーム10Bの上面10dが、アッパーボンネット部5Bとサイドボンネット部5Aとの境界線Aより下方に位置する状態に設定する。
【0020】
図2及び図3に示すように、上部フレーム10Bをアーチ形状に構成し、下部フレーム10Aに揺動可能に取り付けられた左右の立上げ部10a,10aと、左右の立上げ部10a、10aを連結する横向き繋ぎ部10cとで構成する。転倒保護フレーム10の前倒れ姿勢で横向き繋ぎ部10cを、エンジンボンネット5に設けられている前照灯18の下方に位置すべく構成してある。
【0021】
オーバーフェンダー19の構成について説明する。ここで使用されるオーバーフェンダー19は、農用トラクタが運転キャビン20を備えている構成のものに適用されるものであり、運転キャビン20を備えないトラクタに使用される通常のフェンダー9に比べて横幅の広いものである。その構成について説明する。図6及び図7に示すように、オーバーフェンダー19は、運転座席8の近くに位置する内側フェンダー部19Aと、その外側に位置する外側フェンダー部19Bと、内側フェンダー部19Aと外側フェンダー部19Bとの間に位置する中間フェンダー部19Cとで構成される。
【0022】
ここで、オーバーフェンダー19に使用される、内側フェンダー部19Aと、その外側に位置する外側フェンダー部19Bとは、前記した通常のフェンダー9を構成していたものである。つまり、通常のフェンダー9は内側フェンダー部19Aと外側フェンダー部19Bとを一体形成したものであるのに対して、オーバーフェンダー19に使用される、内側フェンダー部19Aと外側フェンダー部19Bとは、機体前後方向に沿った線で、レーザー切断装置等の切断手段を使用して二部材に分割されたものである。
【0023】
この二つに分割された内側フェンダー部19Aと、外側フェンダー部19Bとの間に単なる板材を中間フェンダー部19Cとして介在させているだけであり、中間フェンダー部19Cの左右両端を、内側フェンダー部19Aの外側フェンダー部19Bに対向する縁部と、その外側フェンダー部19Bの内側フェンダー部19Aに対向する縁部とに重ね合わせて一体化することによって、通常のフェンダー9に比べて横幅が広く、その広い横幅部分で運転キャビン20の支柱20Aを支持するオーバーフェンダー19を形成することができる。
【0024】
これに対して、別個のオーバーフェンダー19を作成する方法もある。つまり、図9及び図10に示すように、通常のフェンダー9を其の侭使用し、新たに、オーバーフェンダー19用のオーバーフェンダー部19Dを別部品として製作し、このオーバーフェンダー部19Dにおける前記通常のフェンダー9に対向する一端を、その通常のフェンダー9の外側フェンダー部19Bに被せてボルト等で取り付ける構成を採ることによって、オーバーフェンダー19を構成している。
【0025】
このように、二つのオーバーフェンダー19を製作する方法を提示したが、通常のフェンダー9を利用する第2方法によると、オーバーフェンダー部19Dを形成する為に、通常のフェンダー9を形成する為の金型とは別固の金型を必要とする。これに対して、中間フェンダー部19Cを使用する第1方法によると、通常のフェンダー9を内側フェンダー部19Aと外側フェンダー部19Bとに分割することが必要ではあるが、中間フェンダー部19Cとしては、単なる板材を使用するだけであるので、金型を容易する必要がなく、製造コスト上有利である。
【0026】
〔別実施形態〕
(1) 転倒保護フレーム10の上部フレーム10Bを前倒れ姿勢に設定した状態で、上部フレーム10Bの上面が、アッパーボンネット部5Bとサイドボンネット部5Aとの境界線Aより下方に位置するのではなく、境界線Aと同一高さ位置であってもよい。
(2) 転倒保護フレーム10の構成としては、アーチ状の上部フレーム10Bと下部フレーム10Aとを屈折しない状態に一体形成し、下部フレーム10Aの下端部を機体固定部に枢支することによって、アーチ状の上部フレーム10Bと下部フレーム10Aとを一体で前倒れ姿勢に切り換える構成を採ってもよい。
(3) アッパーボンネット部5Bとしては、揺動式に開放するものではなく、単に持上げ開放できるだけのものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】農用トラクタを示す全体側面図
【図2】エンジンボンネットと転倒保護フレームを示す側面図
【図3】エンジンボンネットと転倒保護フレームを示す正面図
【図4】転倒保護フレームにおける下部フレームと上部フレームとの連結ブラケットを示す斜視図
【図5】運転キャビンを備えた農用トラクタを示す平面図
【図6】中間フェンダー部を備えたオーバーフェンダーを示す正面図
【図7】中間フェンダー部を備えたオーバーフェンダーを示す平面図
【図8】図7におけるA―A線断面図
【図9】別のオーバーフェンダーを示す平面図
【図10】図9におけるB―B線断面図
【符号の説明】
【0028】
5 エンジンボンネット
5A サイドボンネット部
5B アッパーボンネット部
7 ハンドルポスト
10 転倒保護フレーム
10A 下部フレーム
10B 上部フレーム
10a 立上げ部
10c 横向き繋ぎ部
10d 上面
14 機体フレーム(エンジンフレーム)
18 前照灯
A 境界線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンボンネットを、機体フレームに固定されているサイドボンネット部と、前記サイドボンネット部の上方に配置され開放自在なアッパーボンネット部とで構成し、前記エンジンボンネットとそのエンジンボンネットの後方に位置するハンドルポストとの隣接部位の横側方に転倒保護フレームを設け、前記転倒保護フレームを上下向き立ち姿勢と前倒れ姿勢とに切換可能に機体固定部に支持するとともに、前記前倒れ姿勢で前記転倒保護フレームの上面が、前記サイドボンネット部と前記アッパーボンネット部との境界線と同一高さ位置か又は下方に位置すべく構成してある農用トラクタのフレーム構造。
【請求項2】
前記転倒保護フレームを、前記機体固定部に取り付け固定された下部フレームと、前記下部フレームに揺動可能に取り付けられたアーチ状の上部フレームとで構成し、前記アーチ状の上部フレームを、前記下部フレームに揺動可能に取り付けられた左右の立上げ部と、左右の立上げ部を連結する横向き繋ぎ部とで構成し、前記転倒保護フレームの前記前倒れ姿勢で前記横向き繋ぎ部を、前記エンジンボンネットに設けられている前照灯の下方に位置すべく構成してある請求項1記載の農用トラクタのフレーム構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−62743(P2008−62743A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241519(P2006−241519)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】