説明

近赤外線遮蔽材料微粒子分散体および近赤外線遮蔽体および近赤外線遮蔽材料分散体の製造方法

【課題】着色力を改善した複合タングステン酸化物微粒子が媒体中に分散している近赤外線遮蔽材料微粒子分散体、近赤外線遮蔽体および近赤外線遮蔽材料微粒子分散体の製造方法を提供する。
【解決手段】近赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散してなる近赤外線遮蔽材料微粒子分散体であって、前記近赤外線遮蔽材料微粒子が、一般式LixMyWOz(但し、Mは、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgのうちから選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦x<1.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の微粒子Bを含有し、
前記複合タングステン酸化物Bの微粒子が、六方晶の結晶構造を有する微粒子であることと、前記近赤外線遮蔽材料微粒子の粒子直径は1nm〜500nmであることを特徴とする近赤外線遮蔽材料微粒子分散体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持ち、かつ着色力の強い酸化物材料微粒子を媒体に分散させた近赤外線遮蔽材料微粒子分散体、当該近赤外線遮蔽材料微粒子分散体より製造した近赤外線遮蔽体、近赤外線遮蔽材料分散体の製造方法に関する。詳しくは、リチウムが固溶した複合タングステン酸化物微粒子を含有する近赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散されて成る近赤外線遮蔽材料微粒子分散体、近赤外線遮蔽体および近赤外線遮蔽材料分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種建築物や車両の窓材等の分野において、可視光線を十分に取り入れながら近赤外領域の光を遮蔽し、明るさを維持しつつ室内の温度上昇を抑制することを目的とした近赤外線遮蔽体の需要が急増し、これに伴って近赤外線遮蔽材料や近赤外線遮蔽ガラス等の開発が盛んになされている。
【0003】
特許文献1では、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族およびVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも一種の金属イオンを含有する複合タングステン酸化物を設け、前記第1層上に第2層として透明誘電体膜を設け、該第2層上に第3層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族およびVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属イオンを含有する複合タングステン酸化物膜を設け、かつ前記第2層の透明誘電体膜の屈折率が前記第1層および前記第3層の複合タンスステン酸化物膜の屈折率よりも低くすることにより、高い可視光透過率および良好な熱線遮蔽性能が要求される部位に好適に使用することができる熱線遮断ガラスが提案されている。
【0004】
特許文献2では、特許文献1と同様の方法で、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として第1の誘電体膜を設け、該第1層上に第2層としてタングステン酸化物膜を設け、該第2層上に第3層として第2の誘電体膜を設けた熱線遮断ガラスが提案されている。
【0005】
特許文献3では、特許文献1と同様の方法で、透明な基板上に、基板側より第1層として同様の金属元素を含有する複合タングステン酸化物膜を設け、前記第1層上に第2層として透明誘電体膜を設けた熱線遮断ガラスが提案されている。
特許文献4では、水素、リチウム、ナトリウムまたはカリウムなどの添加材料を含有する三酸化タングステン(WO)、三酸化モリブデン(MoO)、五酸化ニオブ(Nb)、五酸化タンタル(Ta)、五酸化バナジウム(V)および二酸化バナジウム(VO)の一種以上から選択された金属酸化物膜を、CVD法あるいはスプレ−法で被覆され250℃程度で熱分解して形成された太陽光遮蔽特性を有する太陽光制御ガラスシ−トが提案されている。
【0006】
特許文献5には、タングステン酸を加水分解して得られたタングステン酸化物を用い、該タングステン酸化物に、ポリビニルプロリドンという特定の構造の有機ポリマ−を添加することにより、太陽光が照射されると光線中の紫外線が、該タングステン酸化物に吸収され、励起電子とホ−ルとが発生し、少量の紫外線量により5価のタングステンの出現量が著しく増加して、着色反応が速くなることに伴って着色濃度が高くなると共に、光を遮断することによって5価タングステンが極めて速やかに6価に酸化されて、消色反応が速くなる特性を用い、太陽光に対する着色および消色反応が速く、着色時近赤外域の波長1250nmに吸収ピ−クが現れ、太陽光の近赤外線を遮断することができる太陽光可変調光断熱材料が得られることが提案されている。
【0007】
また、特許文献6には、六塩化タングステンをアルコ−ルに溶解し、そのまま溶媒を蒸発させるか、若しくは加熱還流した後溶媒を蒸発させ、その後100℃〜500℃で加熱することにより、三酸化タングステン若しくはその水和物または両者の混合物からなる粉末を得ること、該タングステン酸化物微粒子を用いてエレクトロクロミック素子が得られること、多層の積層体を構成し膜中にプロトンを導入したときに当該膜の光学特性を変化させることができること、などを提案している。
【0008】
また、特許文献7には、メタ型タングステン酸アンモニウムと水溶性の各種金属塩とを原料とし、約300〜700℃に加熱しながら、その混合水溶液の乾固物に対して不活性ガス(添加量;約50vol%以上)または水蒸気(添加量;約15vol%以下)を添加した水素ガスを供給することにより、MxWO3(M;アルカリIa族、IIa族、希土類などの金属元素、0<x<1)で表される種々のタングステンブロンズの調製方法が提案されている。
【0009】
さらに、特許文献8には、タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子から成る近赤外線遮蔽材料微粒子分散体、近赤外線遮蔽体、および近赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法、並びに近赤外線遮蔽材料微粒子が提案されている。
ところで、特許文献1〜3に記載の熱線遮断材は、主にスパッタリング法、蒸着法、イオンプレ−ティング法および化学気相法(CVD法)などの真空成膜方式による乾式法を用いた方法で製造される。このため、大型の製造装置を必要とし製造コストが高くなるという課題がある。また、熱線遮断材の基材が高温のプラズマに曝されたり、成膜後加熱を必要としたりすることになるため、フィルムなどの樹脂を基材とする場合には別途、設備上、成膜条件の検討を行う必要があった。
【0010】
また、特許文献4に記載の太陽光制御被覆ガラスシ−トは、原料をCVD法、またはスプレ−法と熱分解法との併用によりガラス上に被膜形成するが、前駆体となる原料が高価であること、高温で分解すること、などからフィルムなどの樹脂を基材とする場合には別途、成膜条件の検討を行う必要があった。
【0011】
さらに、特許文献5〜6に記載の太陽光可変調光断熱材料、エレクトロクロミック素子は、紫外線や電位差によりその色調を変化させる材料であるため膜の構造が複雑であり、色調変化が望まれない用途分野には適用が困難であった。
さらに、特許文献7にはタングステンブロンズの調製方法が記載されているが、得られた粉体の粒子直径や、光学特性の記載が皆無である。これは、当該タングステンブロンズの用途として電解装置や燃料電池の電極材料および有機合成の触媒材料が考えられ、本発明の様に、太陽光線遮蔽用途ではないとためと考えられる。
【0012】
他方、特許文献1〜7に記載された上述の従来技術と較べ、特許文献8においては近赤外線遮蔽体の製造に用いられるタングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子が提案され、これ等酸化物微粒子は優れた可視光透過性と良好な近赤外線遮蔽効果を有している。このため、各種建築物や車両の窓材等の分野において好適に利用される近赤外線遮蔽体として注目されている。
【0013】
しかし、特許文献8には、タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子に関して記載されているが、着色力については十分満足すべきものでなく改善の余地が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平8−59300号公報
【特許文献2】特開平8−12378号公報
【特許文献3】特開平8−283044号公報
【特許文献4】特開2000−119045号公報
【特許文献5】特開平9−127559号公報
【特許文献6】特開2003−121884号公報
【特許文献7】特開平8−73223号公報
【特許文献8】特許第4096205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、可視光線を十分に透過し、ハ−フミラ−状の外観を有さず、基材への成膜に際し大掛かりな製造装置を必要とせず、成膜時に高温熱処理も不要でありながら、複合タングステン酸化物微粒子で近赤外線を効率よく遮蔽し、近赤外線遮蔽材料微粒子分散体、近赤外線遮蔽体および近赤外線遮蔽材料微粒子分散体の製造方法を提供することである。より詳しくその課題を説明すれば、着色力を改善した複合タングステン酸化物微粒子が媒体中に分散している近赤外線遮蔽材料微粒子分散体、近赤外線遮蔽体および近赤外線遮蔽材料微粒子分散体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため本発明者等が鋭意研究を継続した結果、近赤外線遮蔽機能を有する微粒子として、一般式MyWOz(但し、Mは、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgのうちから選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物(以下に述べるリチウムが固溶された複合タングステン酸化物と区別するため複合タングステン酸化物Aと称する)の微粒子を原料とし、かつ、一般式LixMyWOz(但し、Mは、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgのうちから選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦x<1.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)と表記される組成となるようにリチウムを含有する化合物を上記原料に添加して得られる混合体を大気中若しくは不活性ガス雰囲気中で焼成した後、還元性ガス雰囲気中または還元性ガスと不活性ガスの混合雰囲気中で熱処理して得られる前記複合タングステン酸化物(リチウムが固溶される前の上記複合タングステン酸化物Aと区別するため複合タングステン酸化物Bと称する)が、複合タングステン酸化物Aをに対して着色力が増加することを発見し、かつ、近赤外線遮蔽材料微粒子分散体に複合タングステン酸化物Bを用いると複合タングステン酸化物Aよりも使用量が削減できることを見出し、本発明に至った。
【0017】
すなわち、請求項1に係る発明は、
近赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散してなる近赤外線遮蔽材料微粒子分散体おいて、
前記近赤外線遮蔽材料微粒子が、一般式LixMyWOz(但し、Mは、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgのうちから選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦x<1.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の微粒子Bを含有し、前記複合タングステン酸化物Bの微粒子が、六方晶の結晶構造を有する微粒子であることと、前記近赤外線遮蔽材料微粒子の粒子直径は1nm〜500nmであることを特徴とする。
【0018】
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に係る近赤外線遮蔽材料微粒子分散体おいて、
前記近赤外線遮蔽材料微粒子が、一般式MyWOz(但し、Mは、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgのうちから選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物Aとリチウムを含有する化合物との混合体を大気中若しくは不活性ガス雰囲気中で焼成した後、還元性ガス雰囲気中または還元性ガスと不活性ガスの混合雰囲気中で熱処理して得られる一般式一般式LixMyWOz(但し、Mは、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgのうちから選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦x<1.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の微粒子Bであることと、前記近赤外線遮蔽材料微粒子の粒子直径は1nm〜500nmであることを特徴とする。
【0019】
請求項3に係る発明は、
請求項2に係る近赤外線遮蔽材料微粒子分散体において、
上記リチウム元素を有する化合物が炭酸リチウムであることを特徴とする。
【0020】
請求項4に係る発明は、
請求項1から3に係る近赤外線遮蔽材料微粒子分散体において、
前記媒体が、樹脂またはガラスであることを特徴とする。
【0021】
請求項5に係る発明は、
請求項4に係る近赤外線遮蔽材料微粒子分散体において、
前記樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコ−ル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレ−ト樹脂、フッ素樹脂、ポリカ−ボネ−ト樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラ−ル樹脂の内のいずれか1種類以上であることを特徴とする。
請求項6に係る発明は、
請求項1から5に係る近赤外線遮蔽材料微粒子分散体が、板状またはフィルム状に形成されたものであることを特徴とする近赤外線遮蔽体である。
請求項7に係る発明は、
近赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散してなる近赤外線遮蔽材料微粒子分散体の製造方法おいて、
前記近赤外線遮蔽材料微粒子が、一般式MyWOz(但し、Mは、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgのうちから選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物Aの微粒子を原料とし、かつ、一般式LixMyWOz(但し、Mは、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgのうちから選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦x<1.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)と表記される組成となるようにリチウムを含有する化合物を上記原料に添加して得られる混合体を大気中若しくは不活性ガス雰囲気中で焼成した後、還元性ガス雰囲気中または還元性ガスと不活性ガスの混合雰囲気中で熱処理して得られることと、前記近赤外線遮蔽微材料粒子と媒体に分散すること特徴とする。
【0022】
請求項8に係る発明は、
請求項7に係る近赤外線遮蔽材料微粒子分散体の製造方法おいて、上記リチウム元素を有する化合物が炭酸リチウムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、複合タングステン酸化物微粒子にリチウムを固溶することにより、着色力が高くなるため、複合タングステン酸化物微粒子本来の高透明性と日射遮蔽特性を維持したままフィラ−使用量すなわち近赤外線遮蔽材料微粒子を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】六方晶を有する複合タングステン酸化物の結晶構造の模式図。
【図2】実施例1に係る分散液中の微粒子のTEM像。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の近赤外線遮蔽材料微粒子分散体は、リチウムが固溶した複合タングステン酸化物微粒子を含有する近赤外線遮蔽材料微粒子が分散していることを特徴とする本発明の近赤外線遮蔽材料微粒子分散体である。
【0026】
1.近赤外線遮蔽材料微粒子
近赤外線領域において吸収を持つ本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子は、
一般式LixMyWOz(但し、Liはリチウム、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦x<1.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記されるリチウムが固溶した六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物Bの微粒子で構成されることを特徴とするものである。
【0027】
まず、一般式LixMyWOzと一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物において、タングステン(W)の組成を1としたときの酸素(O)の組成比zは、各一般式のカッコ中に示されているように2.2以上3.0以下である。組成比zがこの範囲の場合、材料としての化学的安定性を得ることができるため、有効な近赤外線遮蔽材料として適用できる。また、タングステン(W)の組成を1としたときの元素(M)の組成比yは、各一般式のカッコ中に示されているように光学特性の観点から0.1以上0.5以下であることを要する。yの値が0.1未満であると、一般式LixMyWOzおよび一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物が化合物として不安定になり、WO3やWO2等の異相が析出する。また、yの値が大きいほど近赤外線吸収特性は向上するが、上記複合タングステン酸化物が化合物として安定に存在する最大の値は0.5以下であり、好ましくは0.33付近である。
【0028】
また、一般式LixMyWOzおよび一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子が六方晶の結晶構造を有する場合、この微粒子の可視光領域での透過性が向上しかつ近赤外域での吸収性が向上する。この六方晶の結晶構造の模式的な平面図である図1を参照して説明する。図1において、符号1で示すWO単位にて形成される8面体が、6個集合して六角形の空隙(トンネル)が構成され、当該空隙中に、符号2で示す元素(M)が配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。
【0029】
この六角形の空隙に元素(M)の陽イオンが添加されて存在するとき、近赤外線領域の吸収が向上する。ここで、一般的には、イオン半径の大きな元素(M)を添加したとき当該六方晶が形成されるので好ましい。
【0030】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物粒子が均一な結晶構造を有するとき、元素(M)の添加量yは、上述したように0.1以上0.5以下であり、好ましくは0.33付近である。酸素(O)の組成比z=3のとき、yの値が0.33となることで、元素(M)が六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0031】
また、一般式LixMyWOzで表記されるリチウムが固溶した複合タングステン酸化物B微粒子が、上述した六方晶以外に、正方晶、立方晶のタングステンブロンズの構造をとるときも近赤外線遮蔽材料として有効である。上記リチウムが固溶した複合タングステン酸化物B微粒子がとる結晶構造によって、近赤外線領域の吸収位置が変化する傾向があり、この近赤外線領域の吸収位置は、立方晶よりも正方晶のときが長波長側に移動し、更に六方晶のときは正方晶のときよりも長波長側に移動する傾向がある。また、上記吸収位置の変動に付随して、可視光線領域の吸収は六方晶が最も少なく、次に正方晶であり、立方晶はこの中では最も大きい。よって、より可視光領域の光を透過し、より近赤外線領域の光を遮蔽する用途には、上述したように六方晶のタングステンブロンズを用いることが必要である。但し、ここで述べた光学特性の傾向は、あくまで大まかな傾向であり、添加元素の種類や、添加量、酸素量によっても変化するものであり、これに限定されるわけではない。従って、一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物A微粒子と、炭酸リチウム等のリチウム元素を有する化合物を反応させて製造した、一般式LixMyWOzで表記されるリチウムが固溶した複合タングステン酸化物B微粒子に、上述した六方晶以外の、正方晶、立方晶のタングステンブロンズ構造が若干含まれていても本発明の近赤外線遮蔽材料として使用することは可能である。
【0032】
次に、一般式LixMyWOzで表記される複合タングステン酸化物Bにおいて、タングステン(W)の組成を1としたときのリチウム(Li)の組成比xは、一般式のカッコ中に示されているように0.1≦x<1.0である。より望ましくは、xは0.1以上でかつ、一般式LixMyWOzのxとyの和が0.1≦x+y<1.0である。六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物では、酸素(O)の組成比z=3のとき、上記WO単位にて形成される8面体が6個集合して構成する六角形の空隙以外に、同じくWO単位にて形成される8面体が3個集合して三角形の空隙(トンネル)が構成される。すなわち、M元素とは異なるサイトが存在するが、三角形の空隙中にリチウムが配置すると考えられる。
【0033】
ここで、上記リチウム(Li)が固溶しているとは、リチウム元素を有する化合物から供給される添加リチウムの一部若しくは全てが固溶している状態をいう。そして、この固溶している状態は、複合タングステン酸化物BのX線回折による結晶相の同定を行えば確認することができる。すなわち、複合タングステン酸化物BのX線回折を行い、複合タングステン酸化物Aに帰属するピークのみが認められれば、リチウム元素を有する化合物から供給される添加リチウムの全てが固溶しているといえる。
【0034】
ところで、一般式LixMyWOzで表記されるリチウムが固溶した複合タングステン酸化物Bで構成される本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子は、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するためその透過色調は青色系となる。また、本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子の粒子直径については、近赤外線遮蔽材料微粒子の使用目的によって適宜選定することができる。まず、透明性を保持した目的に使用する場合は500nm以下の粒子直径を有していることが好ましい。この理由は、500nmよりも小さい粒子は散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光領域の視認性を保持し同時に効率よく透明性を保持することができるからである。特に可視光領域の透明性を重視する場合は、粒子による散乱を更に考慮することが好ましい。
【0035】
上記粒子による散乱の低減を重視するときは、粒子直径は200nm以下、好ましくは100nm以下がよい。この理由は、粒子の粒子直径が小さければ、幾何学散乱若しくはミー散乱による400nm〜780nmの可視光線領域の光の散乱が低減される結果、近赤外線遮蔽体が曇りガラスのようになって鮮明な透明性が得られなくなる弊害を回避できるからである。すなわち、粒子直径が200nm以下になると、上記幾何学散乱若しくはミー散乱が低減しレイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に反比例して低減するため、粒子直径の減少に伴って散乱が低減し透明性が向上するからである。更に、粒子直径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは粒子直径が小さい方が好ましく、粒子直径が1nm以上であれば工業的な製造は可能である。
【0036】
本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子の粒子直径を500nm以下に選定することにより、樹脂やガラス等の媒体中に近赤外線遮蔽材料微粒子を分散させて成る近赤外線遮蔽材料微粒子分散体のヘイズ値は、可視光透過率85%以下でヘイズ30%以下とすることができる。尚、ヘイズが30%よりも大きい値であると曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られない。
【0037】
尚、本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上の元素を含有する酸化物で被覆されていることは、近赤外線遮蔽材料微粒子の耐候性を向上させる観点から好ましい。
【0038】
2.近赤外線遮蔽材料微粒子の製造
(1)一般式LixMyWOzで表記される複合タングステン酸化物B微粒子の製造
上記一般式LixMyWOz(但し、Liはリチウム、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦x<1.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記されるリチウムが固溶した六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物B微粒子を製造するには、まず、一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物Aを合成し、得られた複合タングステン酸化物A微粒子にリチウム元素を有する化合物を添加し、この混合物を、大気中若しくは不活性ガス雰囲気中で焼成した後、還元性ガス雰囲気中または還元性ガスと不活性ガスの混合雰囲気中で焼成(熱処理)して製造することができる。
【0039】
上記複合タングステン酸化物A微粒子とリチウム元素を有する化合物との混合物を大気中若しくは不活性ガス雰囲気中で焼成した後に、還元性ガスと不活性ガスの混合雰囲気中で焼成(熱処理)する場合、不活性ガス中における還元性ガスの濃度については、焼成(熱処理)温度に応じて適宜選定すれば特に限定されないが、好ましくは20vol %以下、より好ましくは10vol %以下、更に好ましくは7〜0.01vol %である。不活性ガス中における還元性ガスの濃度が20vol %以下であると、複合タングステン酸化物A微粒子の急速な還元を回避することができるからである。
【0040】
焼成温度については雰囲気に応じて適宜選択すればよいが、複合タングステン酸化物A微粒子とリチウム元素を有する化合物との混合物を大気中で焼成する場合には650℃を超え1000℃以下であり、その後に行う還元性ガス雰囲気中または還元性ガスと不活性ガスの混合雰囲気中での焼成(熱処理)温度は400℃以上1000℃以下、好ましくは500℃以上900℃以下である。また、焼成(熱処理)時間は、処理量に応じて適宜選定すればよいが、5分以上10時間以下で十分である。尚、リチウム元素を有する上記化合物には炭酸リチウムが望ましい。
【0041】
また、複合タングステン酸化物A微粒子とリチウム元素を有する化合物との混合物を不活性ガス単独の雰囲気中で焼成する場合には、製造時間の短縮と単相性の観点から、200℃を超え600℃未満、好ましくは300℃を超え500℃未満、より好ましくは350℃を超え450℃未満の条件である。
【0042】
上記焼成(熱処理)温度が低すぎるとリチウム原子の拡散に時間を要するため生産的ではない。反対に焼成(熱処理)温度が高すぎると異相が生成してしまう。一方、複合タングステン酸化物A微粒子とリチウム元素を有する化合物との混合物を大気中若しくは不活性ガス雰囲気中で焼成した後、還元性ガスと不活性ガスの混合雰囲気中で焼成(熱処理)する場合は、還元性ガス濃度に応じてWOが生成しない温度を適宜選定すればよい。このときの焼成(熱処理)時間は、選定した温度に応じて適宜選択すればよい。
【0043】
(2)一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物A微粒子の製造
次に、上記一般式LixMyWOz(但し、Liはリチウム、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦x<1.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記されるリチウムが固溶した六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物Bを得るための原料、すなわち、一般式MyWOz(但し、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物Aの製造方法について説明する。
【0044】
タングステン化合物として、タングステン酸(HWO)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解させた後に溶媒を蒸発させたタングステンの水和物から選ばれる1種以上のタングステン化合物と、M元素(Cs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mg)を有する化合物として、タングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物等のM元素を有する化合物とを乾式混合し、得られた混合粉体を、不活性ガス単独または不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下において1ステップで1段焼成して製造するか、あるいは、上記混合粉体を、1ステップ目の不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下で焼成しかつ2ステップ目の不活性ガス雰囲気下において焼成する2段焼成して製造する方法が例示される。尚、上記タングステン化合物に替えてタングステン酸化物微粒子を用いてもよい。
【0045】
また、上記方法とは異なる製造方法として以下の方法が例示される。すなわち、タングステン化合物として、タングステン酸(HWO)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解させた後に溶媒を蒸発させたタングステンの水和物から選ばれる1種以上のタングステン化合物と、上記M元素の塩を含む水溶液とを湿式混合して調製された混合液を乾燥して乾燥粉を得、得られた乾燥粉を、不活性ガス単独または不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下において1ステップで1段焼成して製造するか、あるいは、上記乾燥粉を、1ステップ目の不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下で焼成しかつ2ステップ目の不活性ガス雰囲気下において焼成する2段焼成して製造する方法が例示される。尚、上記タングステン化合物に替えてタングステン酸化物微粒子を用いてもよい。また、上記M元素の塩としては特に限定されるものでなく、例えば、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩等が挙がられる。また、湿式混合して調製された上記混合液を乾燥させる際の乾燥温度や時間は、特に限定されるものでない。
【0046】
そして、上記混合粉体または乾燥粉を不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下で焼成する場合、不活性ガス中における還元性ガスの濃度については、焼成温度に応じて適宜選定すれば特に限定されないが、好ましくは20vol %以下、より好ましくは10vol %以下、更に好ましくは7〜0.01vol %である。不活性ガス中における還元性ガスの濃度が20vol %以下であると、上記混合粉体または乾燥粉中のタングステン化合物の急速な還元を回避することができるからである。
【0047】
焼成温度については雰囲気に応じて適宜選定すればよいが、上記混合粉体または乾燥粉を不活性ガス単独の雰囲気下で焼成する場合は、一般式MyWOzで表記される複合タングステン酸化物A微粒子としての結晶性や着色力の観点から500℃を超え1200℃以下、好ましくは1100℃以下、より好ましくは1000℃以下である。一方、上記混合粉体または乾燥粉を不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下で焼成する場合は、還元性ガス濃度に応じてWOが生成しない温度を適宜選定すればよい。更に、2段焼成して複合タングステン酸化物A微粒子を製造する場合は、1ステップ目の不活性ガスと還元性ガスの混合ガス雰囲気下において100℃以上650℃以下で焼成し、2ステップ目の不活性ガス雰囲気下において500℃を超え1200℃以下で焼成する条件が、近赤外線遮蔽特性の観点から好ましい条件として例示される。このときの焼成処理時間は、焼成温度に応じて適宜選択すればよいが、5分以上10時間以下で十分である。
【0048】
ここで、タングステン酸(HWO)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解させた後に溶媒を蒸発させたタングステンの水和物、および、タングステン酸化物微粒子から選ばれる1種以上のタングステン化合物に対し、タングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物等のM元素を有する化合物を上述した乾式混合法を用いて添加するとき、M元素を有する化合物としては酸化物、水酸化物が好ましい。
【0049】
また、上記乾式混合は、市販の擂潰機、ニーダー、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等で行えばよい。
【0050】
3.近赤外線遮蔽材料微粒子分散体と近赤外線遮蔽体
一般式LixMyWOz(但し、Liはリチウム、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦x<1.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記されるリチウムが固溶した六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物Bの微粒子で構成される本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子の適用方法としては、この微粒子を適宜媒体中に分散し所望の基材表面に形成する方法がある。この方法は、予め高温で焼成した近赤外線遮蔽材料微粒子を、基材中若しくはバインダーによって基材表面に結着させることが可能なため、樹脂材料等の耐熱温度の低い基材材料への応用が可能であり、形成の際に大型の装置を必要とせず安価であるという利点を有している。
【0051】
尚、複合タングステン酸化物Bの微粒子で構成される本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子は導電性を有するため、連続的な膜として使用した場合、携帯電話等の電波を吸収反射して妨害する恐れがある。しかし、上記近赤外線遮蔽材料微粒子をマトリックス中に分散させた場合は、粒子一つ一つが孤立した状態で分散しているため電波透過性を発揮することから汎用性を有する。
【0052】
以下、上記近赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散して成る本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子分散体と、この近赤外線遮蔽材料微粒子分散体を用いて製造される本発明に係る近赤外線遮蔽体について説明する。
(1)微粒子を液体媒体中に分散し、基材表面に薄膜状に形成する方法
本発明に係る近赤外線遮蔽材料を微粒子化した近赤外線遮蔽材料微粒子を適宜液体媒体中に分散させて近赤外線遮蔽材料微粒子の分散液を得るか、あるいは、上記近赤外線遮蔽材料微粒子を適宜溶媒と混合して得られた混合物を湿式粉砕して近赤外線遮蔽材料微粒子の分散液を得る。
【0053】
そして、得られた近赤外線遮蔽材料微粒子の分散液に樹脂媒体を添加した後、適宜基材表面にコーティングして塗膜を形成し、然る後に溶媒を蒸発させて所定方法により樹脂を硬化させることにより、近赤外線遮蔽材料微粒子が樹脂媒体中に分散した薄膜(近赤外線遮蔽体)の形成が可能となる。尚、コーティングの方法は、近赤外線遮蔽材料微粒子を含有する樹脂膜(塗膜)を基材表面上に均一にコートできれば特に限定されず、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法等が例示される。また、近赤外線遮蔽材料微粒子を直接バインダー樹脂中に分散させたものは、基材表面に塗布後、溶媒を蒸発させる必要がないため、環境的、工業的に好ましい。
【0054】
上記樹脂媒体としては、例えば、UV硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂、常温硬化型樹脂、熱可塑性樹脂等が目的に応じて適宜選定可能である。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等が挙げられる。これ等の樹脂は、単独使用であっても混合使用であってもよい。また、金属アルコキシドを用いたバインダーの利用も可能である。上記金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zr等のアルコキシドが代表的である。これ等の金属アルコキシドを用いたバインダーは、加熱等により加水分解・縮重合させることで、酸化物膜を形成することが可能である。
【0055】
また、近赤外線遮蔽材料微粒子の分散液等が塗布される上記基材としては、所望によりフィルムでもボードでもよく、形状は限定されない。透明の基材材料としては、PET、アクリル、ウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、フッ素樹脂等が、各種目的に応じて使用可能である。また、樹脂以外ではガラスを用いることができる。
【0056】
(2)固体媒体中に微粒子を分散させ、板(ボード)状、フィルム状に形成する方法
次に、本発明に係る近赤外線遮蔽材料微粒子を用いる別の方法として、微粒子を固体媒体(基材)中に直接分散させてもよい。微粒子を固体媒体(基材)中に分散させるには、基材表面から浸透させてもよいし、基材の溶融温度以上に温度を上げて基材を溶融させた後、微粒子と基材とを混合してもよい。このようにして得られた近赤外線遮蔽材料微粒子を含有する樹脂(近赤外線遮蔽材料微粒子分散体)を、所定の方法でフィルムや板(ボード)状に成形し、近赤外線遮蔽体として応用が可能である。
【0057】
例えば、固体媒体としてのPET樹脂に近赤外線遮蔽材料微粒子を分散する方法として、上述した方法により上記微粒子が分散された分散液をまず調製し、かつ、上記PET樹脂とこの微粒子分散液とを混合した後、分散液を蒸発させてからPET樹脂の溶融温度である300℃程度に加熱し、更に、PET樹脂を溶融させて混合し、冷却することで、微粒子が分散したPET樹脂の作製が可能となる。
【0058】
そして、上記近赤外線遮蔽材料微粒子を粉砕しあるいは分散させる方法は、特に限定されず、例えば、超音波照射、ビーズミル、サンドミル等を使用することができる。また、均一な分散体を得るために、各種添加剤や分散剤を添加したり、pHを調整したりしてもよい。分散剤は用途に合わせて適宜選定可能であり、例えば、高分子系分散剤やシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が挙げられるが、これ等に限定されるものではない。
【実施例】
【0059】
以下に、本発明の実施例を比較例とともに具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。尚、各実施例において、可視光透過率並びに日射透過率は、日立製作所(株)製の分光光度計U−4000を用いて測定し、JIS R 3106に基づいて算出した。また、膜評価においては線径の異なる3種のバ−コ−タ−で成膜し、前記膜の3点プロットから日射透過率40%のときのフィラ−使用量(g/m2)と可視光透過率を求めた。フィラ−使用量は、成膜前後のPET(ポリエチレンテレフタレ−ト)フィルムを一定の寸法に切り取り、その重量を測定することによって算出した。
なお、可視光透過率の測定波長域は380nm〜780nm、日射透過率の測定波長域は200nm〜2600nmである。
【0060】
[実施例1]
水25gに炭酸セシウム9.75gを溶解した水溶液に、タングステン酸45.30gを添加して混合した後、105℃で乾燥し乾燥粉を得た。次に、当該乾燥粉を、Nガスをキャリア−とした1.6%Hガスを供給しながら加熱し、800℃の温度で1時間加熱処理することによってCs0.33WO微粒子を得た。当該焼成粉の粉末X線回折による結晶相の同定の結果、Cs0.33WO単相であることが確認された。リチウムが固溶していると考えられる。
【0061】
次に、前記微粒子10gと炭酸リチウム0.268gを擂潰機で十分混合した後、大気中800℃の温度で6時間加熱処理し、さらに1.6%H/N雰囲気下で20分加熱処理することによってLi0.2Cs0.33WO微粒子aを得た。当該焼成粉の粉末X線回折による結晶相の同定の結果、Cs0.3WO単相(六方晶)であることがわかった。これにより、次に、Cs0.33WO換算で8重量%となるようにLi0.2Cs0.33WOと、高分子系分散剤8重量%(固型分40%)、トルエン84重量%を秤量し、0.3mmφZrO2ビ−ズを入れたペイントシェ−カ−で8時間粉砕・分散処理することによ分散液Aを得た。分散液中のLi0.2Cs0.33WO微粒子の粒径は、図2のTEM像より明らかなように100nm以下であった。
【0062】
次に、上記分散液(A液)66.7重量%と、紫外線硬化樹脂〔東亜合成(株)社製UV3701〕33.3重量%をよく混合してLi0.002Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)を含有する塗布液を調製し、線径の異なる3種のバーコーター(すなわち、番手14、24、30のバー)を用い、厚さ3mmのガラス基板上に上記塗布液を塗布して膜厚が異なる3種の塗膜を形成し、かつ、70℃で1分間乾燥して溶媒を蒸発させた後、高圧水銀ランプにより紫外線を塗膜へ照射して実施例1に係る近赤外線遮蔽体1を得た。近赤外線遮蔽体1の可視光透過率とフィラ−使用量を表1に示す。
【0063】
[実施例2]
Cs0.33WO微粒子10gに対し、炭酸リチウムを2.68×10-3g添加した実施例1の条件に代えて、炭酸リチウムを0.133g添加したことを除いて実施例1と同様にして、比較例2に係るLi0.10Cs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物B微粒子)を製造した。
【0064】
実施例2に係る焼成粉のX線回折による結晶相の同定の結果、Cs0.33WOに帰属するピークのみが認められた。リチウムが固溶していると考えられる。
そして、実施例1と同様、実施例2に係る近赤外線遮蔽体2の可視光透過率とフィラ−使用量を表1に示す。
【0065】
[比較例1]
実施例1において製造したCs0.33WO微粒子(複合タングステン酸化物A微粒子)を近赤外線遮蔽材料微粒子として適用した以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る近赤外線遮蔽体を製造した。
【0066】
尚、比較例1に係るCs0.33WO微粒子は、実施例1と同様、Cs0.33WO単相であった。
また、Cs0.33WO微粒子8重量%となるように実施例1と同様にして調製した分散液(A液)を得た。
そして、実施例1と同様、比較例1に係る近赤外線遮蔽体3の可視光透過率とフィラ−使用量を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
[評価]
表1に示した結果より、実施例1と2に係る近赤外線遮蔽体1と2、比較例1に係る近赤外線遮蔽体3とを比較した。
【0069】
その結果、近赤外線遮蔽体1と2は、日射透過率40%のときの可視高透過率が70%以上とするのにフィラ−使用量が1.4g/m以下である。一方、比較例1に係る近赤外線遮蔽体3は、日射透過率40%のときの可視高透過率が70%以上とするのにフィラ−使用量が1.5g/mを越えるものであった。すなわち、実施例1および2では、近赤外線遮蔽材料微粒子の使用量が、比較例1に比べて減少していることを示し、本発明で用いる近赤外線遮蔽材料微粒子(複合タングステン酸化物B)が、従来の複合タングステン酸化物Aに比べて着色力が向上していることを示している。
【0070】
本発明は、建築分野、輸送機器分野などに用いられる窓材などや電子機器などへ赤外線遮蔽効果を付与する際、好個に利用される。
【符号の説明】
【0071】
1 WO単位
2 元素(M)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散してなる近赤外線遮蔽材料微粒子分散体おいて、
前記近赤外線遮蔽材料微粒子が、一般式LixMyWOz(但し、Mは、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgのうちから選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦x<1.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の微粒子Bを含有し、
前記複合タングステン酸化物Bの微粒子が、六方晶の結晶構造を有する微粒子であることと、
前記近赤外線遮蔽材料微粒子の粒子直径は1nm〜500nmであることを特徴とする近赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項2】
近赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散してなる近赤外線遮蔽材料微粒子分散体おいて、
前記近赤外線遮蔽材料微粒子が、一般式MyWOz(但し、Mは、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgのうちから選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物Aとリチウムを含有する化合物との混合体を大気中若しくは不活性ガス雰囲気中で焼成した後、還元性ガス雰囲気中または還元性ガスと不活性ガスの混合雰囲気中で熱処理して得られる一般式一般式LixMyWOz(但し、Mは、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgのうちから選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦x<1.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物の微粒子Bであることと、
前記近赤外線遮蔽材料微粒子の粒子直径は1nm〜500nmであることを特徴とする請求項1に記載の近赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項3】
上記リチウム元素を有する化合物が炭酸リチウムであることを特徴とする請求項2に記載の近赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項4】
前記媒体が、樹脂またはガラスであることを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の近赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項5】
前記樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコ−ル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレ−ト樹脂、フッ素樹脂、ポリカ−ボネ−ト樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラ−ル樹脂の内のいずれか1種類以上であることを特徴とする請求項4記載の近赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか記載の近赤外線遮蔽材料微粒子分散体が、板状またはフィルム状に形成されたものであることを特徴とする近赤外線遮蔽体。
【請求項7】
近赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散してなる近赤外線遮蔽材料微粒子分散体の製造方法おいて、
前記近赤外線遮蔽材料微粒子が、一般式MyWOz(但し、Mは、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgのうちから選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物Aの微粒子を原料とし、かつ、一般式LixMyWOz(但し、Mは、MはCs、Rb、K、Na、Ba、Ca、Sr、Mgのうちから選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.1≦x<1.0、0.1≦y≦0.5、2.2≦z≦3.0)と表記される組成なるようにリチウムを含有する化合物を上記原料に添加して得られる混合体を大気中若しくは不活性ガス雰囲気中で焼成した後、還元性ガス雰囲気中または還元性ガスと不活性ガスの混合雰囲気中で熱処理して得られることと、
前記近赤外線遮蔽微材料粒子と媒体に分散すること特徴とする近赤外線遮蔽材料微粒子分散体の製造方法。
【請求項8】
上記リチウム元素を有する化合物が炭酸リチウムであることを特徴とする請求項7に記載の近赤外線遮蔽材料微粒子分散体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−63493(P2011−63493A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217540(P2009−217540)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】