説明

近距離レーダー測定用のマルチスタティックセンサ装置およびこのセンサ装置の駆動方法

対象物までの距離を測定するマルチスタティックセンサ装置は、送信ユニット(Tn)および受信ユニット(Rm)を有しており、これらはそれぞれ1つずつ高周波数発振器(HFO‐Tn,HFO‐Rm)およびパルス発生器(PG‐Tn,PG‐Rm)を有している。パルス発生器(PG‐Tn,PG‐Rm)には信号発生器からクロック信号(TS,RS)が供給され、ここでクロック信号(TS,RS)は共通のデータバス(B)を介して送信ユニット(Tn)および受信ユニット(Rm)へ伝送される。これにより高周波数発振器(HFO‐Tn,HFO‐Rm)の高周波数信号の確定的な位相比が形成される。
さらに上述のセンサ装置の駆動方法では、まず2つのクロック信号が共通のデータバス(B)を介して送信ユニットおよび受信ユニットへ供給される。次に送信ユニットから信号が対象物へ送信される。さらにデータバス(B)を介して受信ユニット(Rm)を通って得られたクロック信号が対象物(O)での反射信号と混合され、ここから評価可能な測定信号が形成される。ここで距離軸線での測定信号のキャリブレーションは共通のデータバスのクロック信号のゼロ点を求めることにより行われる。これによりデータバスを介した2つのクロック信号の位相が比較される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は近距離レーダー測定用のマルチスタティックセンサ装置およびこのセンサ装置の駆動方法に関する。
【0002】
パルスレーダーセンサ装置およびその駆動方法は以前から多様な形式で存在しており、例えば後掲の文献[1][2][3]からも公知である。パルスレーダーセンサは、工業測定技術では充填レベルセンサに、自動車技術では駐車支援システムのセンサまたは近距離センサとして衝突回避・周囲のマッピング・自動ナビゲーションのために、さらに搬送技術ではロボットやコンベヤシステムなどに使用されている。通常パルスレーダーセンサは、中心周波数約1〜100GHz、典型的なパルス長200ps〜2nsでの適用分野で使用される。大きな測定帯域幅のためにこの種のセンサは以前からウルトラワイドバンドレーダー(UWB‐RADAR)と称されている。ほぼ全てのパルスレーダーセンサに共通するのは、測定信号がきわめて大きな帯域幅を有しているため、通常の技術ではこれを直接にピックアップして処理することができないということである。このためほぼ全ての従来のセンサがいわゆるシーケンシャルサンプリングシステムを採用している。シーケンシャルサンプリング方式は、すでに初期のディジタルサンプリングオシロスコープからも周知であるが、サンプリング時点のシフトにより測定信号が複数の測定サイクルにわたってシーケンシャルにサンプリングされる方式のことである。
【0003】
パルスレーダーの回路技術手段は例えば上述の従来技術から知られる。従来技術の文献には、所定の反復周波数CLK‐Tx(Clock-Transmission)を有する送信パルスが説明されており、この送信パルスが送信され、反射された受信信号がサンプリング装置によって反復周波数CLK‐Rx(Clock-Reception)でピックアップされる。送信シーケンスの周波数とサンプリングシーケンスの周波数との相違がわずかであれば、2つのシーケンスの位相は緩慢にオフセットされる。サンプリング時点から送信時点への緩慢なオフセットはシーケンシャルサンプリング過程に作用する。
【0004】
図1には冒頭に言及した形式で動作するパルスレーダーの周知の例が示されている。送信ユニットでは送信クロック発生器Aがクロック周波数CLK‐Txを形成し、これによりパルス発生器Bが周期的に短い電圧パルスを形成する。この短いパルスにより続いて高周波数発振器Cがスイッチオンされ、オン時間中に高周波数の振動が形成され、これが送信信号DとしてアンテナEを介して送信される。受信分岐または受信ユニットには、受信クロック発生器A,パルス発振器B,高周波数発振器Cを備えた同一のパルス発生器チェーンが設けられる。発振器Cからのパルス信号はミキサMへ出力され、さらにこのミキサは他方側から供給される受信信号Dのサンプリング装置として働く。送信分岐の送信信号Dの信号成分は対象物Oで反射され、受信信号Dとして戻って受信アンテナEへ達し、これと発振器Cからの低周波数帯域の信号とがミキサMで混合される。これにより形成されるサンプリングパルスシーケンスはバンドパスフィルタBPFを介して平滑化され、最終的に測定信号LFS(Low Frequency Signal)が得られる。
【0005】
測定信号で良好な信号ノイズ比SNRを達成するためには、発振器C、Cが1シーケンスの全てのパルスにわたって確定的な(つまり非確率的な)位相比を有することが重要である。ただし発振器C,Cによって形成されるパルスの確定的関係は容易には得られない。なぜならこれらの発振器の動作が相互に分離されているからである。パルス発生器B,Bをスイッチオンするパルス信号が高周波数発振器C,Cの周波数帯域の高調波を形成するように構成されていれば、この関係が達成される。高調波により発振器C,Cはスイッチオン時に確率的には発振せず、信号B,Bの高調波に対してコヒーレントにオンとなる。信号およびパルス発生器B,Bの高調波はスイッチオン過程ではつねに等しいため、発振器C,Cはつねに特徴的な固定の始動フェーズで振動する。つまり信号は送信信号シーケンスおよびサンプリング信号シーケンスによって定められた確定的な位相比および時間比で相互に生じる。
【0006】
送信パルスとサンプリングパルスとの確定的関係を保証する方法も従来技術から知られており、ここでは一般に、連続的に動作する個々の固定周波数発振器が使用され、そこからスイッチを介して必要なパルスが導出される。また個別のアンテナE,Eに代えて、共通の送受信アンテナを使用することも知られている。この場合には送受信信号は例えば方向性カプラを介して相互に分離される。
【0007】
多くの適用分野で、レーダーセンサにより1次元の距離を測定するだけでなく、多次元のオブジェクトシーンをシミュレートできると有利である。例えば3次元のシーンマッピング、ひいては対象物までの正確な距離測定のために、センサまたはその測定方向を運動させて種々の位置または種々の方向で測定したり、および/または空間的に分布された複数のセンサを有するシステムを使用して測定したりする。このようなシステムは例えば後掲の文献[4]から“マルチスタティックセンサシステム”として知られている。空間的に分布された複数の送受信機を有するマルチスタティックセンサシステムでは、それぞれの送信機が信号を送信し、オブジェクトシーンで反射された反射信号を全ての受信機が検出する。しかしこのような装置の駆動方法には、空間的に分布された送受信分岐を相互に結合して高周波数信号源の位相が確定的な比を生じるようにすることがきわめて困難になってしまうという欠点がある。
【0008】
上述したように、確定的な位相比は良好な信号ノイズ比を得るための前提条件である。ただし高周波数信号を共通の信号源から導出し、高周波数線路を介して空間的に分布させることは特に商業利用上望ましくない。これは高いコストや信号減衰のみならず、伝送される信号の分散も引き起こすからである。そのため一般に複数の発振器を結合する位相制御回路がそもそも使用できない。
【0009】
したがって本発明の基礎とする課題は、低コストかつ正確な距離測定を行えるマルチスタティックセンサ装置およびこのセンサ装置の駆動方法を提供することである。
【0010】
この課題は独立請求項の特徴部分に記載の構成により解決される。
【0011】
対象物までの距離を測定するマルチスタティックセンサ装置は、送信ユニットTnおよび受信ユニットRmを有しており、これらはそれぞれ少なくとも1つずつ高周波数発振器HFO‐Tn,HFO‐Rmおよびパルス発生器PG‐Tn,PG‐Rmを有している。本発明では、パルス発生器PG‐Tn,PG‐Rmに信号発生器からクロック信号TS,RSが供給され、ここでクロック信号TS,RSは共通のデータバスBを介して送信ユニットTnおよび受信ユニットRmへ伝送される。これにより高周波数発振器HFO‐Tn,HFO‐Rmの高周波数信号の確定的な位相比が形成される。
【0012】
クロック信号はクロック発生器のステータスから既知となる固定の周波数比を有している。
【0013】
送信ユニットTnのパルス発生器PG‐Tnは有利には回路Swnを介してデータバスBへ接続され、これにより送信ユニットは制御ユニットによって制御された状態で作動される。データバスBから受信ユニットへの接続も同様に回路を介して行われる。
【0014】
上述のセンサ装置の駆動方法では、まず2つのクロック信号が共通のデータバスBを介して送信ユニットおよび受信ユニットへ供給される。次に送信ユニットから信号が対象物へ送信される。さらにデータバスBを介して受信ユニットRmを通って得られた信号が対象物Oで反射した受信信号と混合され、ここから評価可能な測定信号が形成される。ここで距離軸線での測定信号のキャリブレーションは共通のデータバスのクロック信号のゼロ点を求めることにより行われる。これにより2つのクロック信号の位相がデータバスを介して比較される。
【0015】
距離軸線とは、距離測定の測定曲線の時間に対する特性であると解されたい。
【0016】
特に、装置のアパーチャエレメントを高周波数側に接続しなくてよいので、コスト上有利である。各送信ユニットおよび各受信ユニットの高周波数発振器も相互に接続する必要はない。
【0017】
本発明を実施例に則して詳細に説明する。
【0018】
図2には本発明のマルチスタティックセンサ装置が示されている。図3には図2のセンサ装置を車両の駐車支援システムに適用する実施例が示されている。図4には本発明の装置で使用される受信ユニットの構造が示されている。
【0019】
図2のマルチスタティックセンサ装置はn個の送信ユニットT1〜Tnとm個の受信ユニットR1〜Rmとを有する。これらは送信分岐および受信分岐とも称される。システムの中心的なエレメントはデータバスBであり、このバス上を図1の信号A,Aが伝送される。当該のデータバスを介してn個の送信ユニットおよびm個の受信ユニットの全てが図2のクロック信号TS,RSを受け取る。マルチプレクサ回路Sw1〜Swnは制御ユニットCUを介してn個の送信ユニットT1〜Tnのうちいずれか1つをその時点でアクティブな送信機として選択する。m個の受信ユニットは全て並列に受信を行う。
【0020】
特に有利には、マルチスタティックセンサ装置はn個の送信ユニットTnおよびm個の受信ユニットRmを有しており、ここでn,mはそれぞれ1以上の整数である。ユニットはそれぞれ少なくとも1つの高周波数発振器HFO‐Tn,HFO‐Rmおよび少なくとも1つのパルス発生器PG‐Tn,PG‐Rmおよび少なくとも1つのアンテナETn,ERmを有している。送信ユニットTnには第1のクロック源で形成されたクロック信号TSが供給される。受信ユニットRmはミキサMIXを有しており、第2のクロック源で形成されたクロック信号RSと受信アンテナERmで受信された信号とが供給される。2つのユニットTn,Rmは制御ユニットCUへ接続されている。ここでパルス発生器PG‐Tn,PG‐Rmは共通のデータバスBへ接続されており、これにより送信ユニットおよび受信ユニットにはデータバスBを介してそれぞれクロック信号が供給される。データバスBを介した共通のクロック信号により、高周波数信号の確定的な位相比が各ユニットの高周波数発振器HFO‐Tn,HFO‐Rmから得られる。
【0021】
以下に、低コストかつ任意に実現可能なバイスタティックパルスレーダーセンサまたはマルチスタティックパルスレーダーセンサの有利なモジュールコンセプトを示す。2つの基本ユニット、すなわち送信ユニットTnおよび受信ユニットRmから成るチップセットが用いられる。2つのユニットは次のような機能を有する。
1.送信ユニットTnは、アンテナ出力側前方の高周波数発振器HFO‐Tn、制御パルス発生器PG‐Tn、場合により(図示されていない)フィルタHF‐FLT、および場合により集積セラミックアンテナETnから成る。フィルタはアンテナETnの出力側の前方に配置され、送信信号を許可条件(Vereinigten Staaten FCC15.3)に適合するように制御する。
2.受信ユニットRmは、高周波数発振器HFO‐Rm、制御パルス発生器PG‐Rm、ミキサMIX、場合により低ノイズ増幅器、サンプルアンドホールド素子、場合によりミキサの直接後方に接続された(図示されていない)バンドパスフィルタ、場合によりフィルタHF‐FLT、および場合により集積セラミックアンテナERmから成る。フィルタはアンテナERmの入力側の後方に配置され、障害信号を抑圧する。
【0022】
受信ユニットおよび送信ユニットに対するクロック源は有利には共通の制御ユニットCUによって制御される。
【0023】
それぞれのユニットからの送信信号および受信信号を符号化できることは自明である。
【0024】
測定プロセスの全体は次のように行われる。まず1つの送信ユニットT1を、制御ユニットCUによってアクティブな送信分岐として選択するか、またはデータバスBを介してマルチプレクサ回路Swによってイネーブルする。選択された送信ユニットは、図1に示されているように、送信信号Dを形成する。この信号は例えば対象物Oで反射され、冒頭に言及したシーケンシャルサンプリング方式でm個の受信分岐R1〜Rmで並列に受信される。続いて同じ測定プロシージャが残り全てのn個の送信分岐に対して反復される。例えば送信アンテナETnおよび受信アンテナERmが異なる位置に配置されている場合、n個の送信分岐およびm個の受信分岐でn*m個の不可逆の測定路が生じ、n個またはm個の従来のモノスタティックレーダーセンサまたはバイスタティックレーダーセンサでn個のみまたはm個のみの測定路を用いる駆動時よりもかなり大きくなる。送信分岐および受信分岐に対して共通のアンテナEを採用する場合には、つねに1〜n個、つまりn+(n−1)+(n−2)+...+1個の不可逆の測定路の累和が得られる。送信分岐および受信分岐の数はユニットの個数nまたはm以下である。
【0025】
ただし、得られる測定情報の範囲にとって、n個の送信分岐とm個の受信分岐とを加算した和、つまり全体数が重要となる。この場合mおよびnはそれぞれ1以上の任意の整数である。得られた測定路について、周知の三角法またはホログラフィ法またはトモグラフィアルゴリズムのでの計算により、2次元または3次元のオブジェクトシーンが再構成され、対象物までの距離を計算することができる。
【0026】
センサ装置全体を最適に動作させ、正確な測定プロセスを達成するために、有利には距離測定においてゼロ点が求められる。ゼロ点とは送信分岐Tnの高周波数発振器HFO‐Tnおよび受信分岐Rmの高周波数発振器HFO‐Rmからの信号エッジが正確に同相である時点のことである。エッジとは例えば信号の終了前の定義された数の周期であると解されたい。
【0027】
有利には、クロック信号TS,RS間の位相比較をデータバスBに沿った所定のポイントで行う。なぜならこれらの信号は位相オフセットを有しているからである。オフセット量は計算により補償される。ゼロ点を検出するための位相比較は通常の位相比較器、すなわち図1に示されているフリップフロップΔφによって行われる。ここでデータバスのケーブル長およびその無駄時間は測定プロセスの知識の基礎となる。位相比較の評価ユニットは最適には直接にデータバスBに接続されているか、または制御ユニットCUの構成要素となっている。
【0028】
ゼロ点はさらにクロック信号TS,RSのクロックエッジのオフセット、温度および経年劣化に起因して信号線路のエラーが生じ、誤って定義されることがある。特にデータバスの線路タイプを選択する際に、有利にはクロック信号TS,RSからデータバスを介して到来するトリガ信号のエッジはできるだけ等しく維持されなければならない。これは低いクロック周波数(典型的には100kHz〜10MHz)では比較的簡単に実現可能である。ただし高い周波数でのトリガエッジの同期は、高周波数信号の位相オフセットが信号のきわめて小さい始動時間差またはデータバスのジオメトリ変化によって著しく増幅されてしまうため、困難である。したがって低いクロック周波数のほうが有利である。これによりデータバスBは適合化回路網ANへ最適に接続される。この種の適合化回路網は約50Ωの抵抗値を有しており、従来技術から周知である。
【0029】
測定プロセスで高い精度を達成するために、例えばクロック源のクロック信号TS,RSをデータバスBを介してやり取りしたり、または少なくとも異なる長さの線路を伝送させたりする。得られた信号と元のクロック信号とを比較することにより補正量が得られ、また測定プロセスに関する値がキャリブレーションされる。この場合キャリブレーションのたびに通常の測定過程を行う(つまり送信ユニットへの回路を閉成する)。クロック信号はデータバスシステムの両側または両端部へ供給される。このとき直接に連続して2回ずつ距離測定が行われる。つまり第1の測定ではデータバスの一方側へ、第2の測定ではデータバスの他方側へクロックが供給される。このようにデータバスにおいてほぼ同一の2つのエコープロフィルが得られるが、これらは特徴的なオフセット量のぶんだけ相互にずれている。当該のオフセット量ひいては相応の補正値は、特徴的な最大値の位置から直接に、または距離測定の測定曲線の2つのプロフィルの相関から求められる。ただしここで基本的には任意の他のクロック供給手段も適用可能である。例えば各送信ユニットおよび各受信ユニットに固有のクロック源を設け、選択的にデータバスにクロックを供給してもよい。
【0030】
ゼロ点を求める他の手段として、信号を横伝搬によって直接に(つまり反射を介さずに送信ユニットから受信ユニットへ)伝送し、評価することもできる。この信号は反射信号と比べると強く際立っており、簡単に識別することができる。この特徴を増幅するために、横伝搬が可能なようにアンテナE,Eを配向する。これに代えて送信分岐と受信分岐とのあいだの線路の構造を横伝搬に対して構成してもよい。送信ユニットと受信ユニットとのあいだの直接のクロストークはゼロ点を用いれば簡単かつ直接にキャリブレーションすることができる。
【0031】
図3には自動車における駐車支援システムのレーダーとして構成された本発明の装置が示されている。自動車BPのバンパに4つのレーダーセンサ1〜4が配置されている。共通のトリガ/制御/評価ユニット5からレーダーセンサに結合されたデータバスBへ信号が供給される。レーダーセンサのアンテナ(図2を参照)は、主伝搬方向yのほか、バンパに対して垂直にさらなる信号エネルギが横方向xへ送信されるように構成されている。これにより前述の横伝搬でのゼロ点検出を行うことができる。前述したように、有利には、送信アンテナおよび受信アンテナは特に測定プロセスの精度を向上させるために各レーダーセンサ1〜4内では空間的に分離されている。
【0032】
送信ユニットまたは受信ユニットを正確に構成するために次のようにする。すなわち、通常、高周波数モジュールは例えばテフロンまたはエポキシベースの有機材料から成る配線板上に構成される。一般に有利には、高周波数モジュールエレメントはできるだけ小さなユニットとして製造する。しかし波長と材料による構造サイズとが関連しているため、小さな構造サイズを達成するのは困難である。このような装置に代えて、回路を薄膜セラミクス上に構成すれば、製造は簡単になるがコストはよけいにかかってしまう。
【0033】
このため、レーダーモジュールまたはレーダーモジュールのコンポーネントを特に有利にはLTCCモジュール(低温焼結セラミックモジュール:Low Temperature Cofired Ceramic Module)とする。LTCCベースの高周波数構造体は比較的大きな誘電定数と積層技術とのためにコンパクトに実現できる。LTCCベースのモジュールの製造は低コストで、材料製造プロセスにとっても有利である。
【0034】
高周波数のLTCCモジュールとしての有利なレーダーユニット(ここでは受信ユニット)が図4に示されている。LTCCモジュールR1上には例えば高周波数発振器HFO‐R1、高周波数発振器を駆動するための制御パルス発生器PG‐R1、およびミキサMIXが集積されている。
【0035】
LTCCモジュールR1からアンテナER1の端子まではディジタル信号または低周波数信号のみが外部へ達する(図2のLFS‐1〜LFS‐mを参照)ので、モジュールR1は問題なく低コストで残りの回路内へ集積可能である。アンテナER1がセラミクスへ集積されない場合には、モジュールを直接にパッチアンテナまたはスロットアンテナER1の供給点へ実装できるので特に有利である。パッチアンテナは例えば2層の薄板として構成されており、薄板の前面はアンテナ構造体を、後面はLTCCモジュールを支持する。ここで後面は必要な給電電力およびアース面積を有する。LTCCモジュールはきわめて小さいので、これを供給点でアンテナの前面に直接に実装したり、場合によってはこれを保護層または適合化層に埋め込むこともできる。このときにもアンテナのフィールドパターンは障害をほとんど受けない。
【0036】
上述のエレメントを備えたLTCCレーダーモジュールの有利な構造が図4に示されている。HF回路R1はここでは複数の層(HF層)HFLから成る。LTCC基板の表面には内側の層へ集積できない半導体素子、例えばミキサMIX、高周波数発振器HFO‐R1またはパルス発生器PG‐R1が実装される。実装技術として特に周知のSMT実装またはフリップチップ実装が用いられる。LTCCモジュールそのものはいわゆるボールグリッド技術BGまたはランドグリッド技術LGにより標準の配線板LPへ取り付けることができる。有利にはバイアス回路網BNおよびフィルタIFを集積することもできる。
【0037】
文献リスト
[1]米国特許第3117317号明細書
[2]米国特許第4132991号明細書
[3]米国特許第4521778号明細書
[4]M.Vossiek, H.Ermert, "An Ultrasonic Sensor System for Location Gauging and Recognition of Small Workpieces", Sensor 95.7 "Internat. Fachmesse mit Kongress fuer Sensoren, Messaufnehmer u. Systeme 1995"
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】従来技術によるパルスレーダーを示す図である。
【図2】本発明のマルチスタティックセンサ装置を示す図である。
【図3】図2のセンサ装置を車両の駐車支援システムに適用する実施例を示す図である。
【図4】本発明の装置で使用される受信ユニットの構造を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信ユニット(Tn)および受信ユニット(Rm)を有しており、これらはそれぞれ1つずつ高周波数発振器(HFO‐Tn,HFO‐Rm)およびパルス発生器(PG‐Tn,PG‐Rm)を有している
対象物までの距離を測定するマルチスタティックセンサ装置において、
パルス発生器(PG‐Tn,PG‐Rm)に信号発生器からクロック信号(TS,RS)が供給され、ここでクロック信号(TS,RS)は共通のデータバス(B)を介して送信ユニット(Tn)および受信ユニット(Rm)へ伝送され、これにより高周波数発振器(HFO‐Tn,HFO‐Rm)からの高周波数信号の確定的な位相比が形成される
ことを特徴とするマルチスタティックセンサ装置。
【請求項2】
送信ユニットおよび受信ユニットはそれぞれアンテナ(ETn,ERm)を有する、請求項1記載の装置。
【請求項3】
受信ユニットはミキサ(MIX)を有する、請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
クロック源がデータバスの種々の位置に配置されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の装置。
【請求項5】
クロック源がデータバスの端部に配置されている、請求項4記載の装置。
【請求項6】
送信ユニットおよび受信ユニットは高周波数のLTCCモジュールとして構成されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の装置。
【請求項7】
受信ユニット内では付加的に、低ノイズ増幅器および/またはバンドパスフィルタおよび/または高周波数フィルタおよび/またはサンプルアンドホールド素子が他のコンポーネントに接続されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の装置。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項記載のセンサ装置の駆動方法において、
クロック源からクロック信号(TS,RS)を共通のデータバス(B)を介して送信ユニット(Tn)および/または受信ユニット(Rm)へ供給し、
送信ユニット(Tn)から信号を対象物(O)へ送信し、反射信号(REF)とクロック信号とを受信ユニットで混合し、ここから評価可能な測定信号を形成し、
ここでクロック信号のキャリブレーションをデータバス上のクロック信号のゼロ点を求めることにより行い、これによりデータバスを介した2つのクロック信号の位相を比較する
ことを特徴とするセンサ装置の駆動方法。
【請求項9】
データバス(B)の所定の位置での検査に基づいて位相比較を行い、ゼロ点を求める、請求項8記載の方法。
【請求項10】
2つのクロック信号の位相を比較することによりゼロ点を求め、該ゼロ点をデータバス(B)の2つの端部へ供給する、請求項8または9記載の方法。
【請求項11】
クロック信号をデータバスの種々の長さにわたって伝送し、元のクロック信号と比較して補正量を導出することにより、クロック信号のキャリブレーションを行う、請求項8から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
位相比較をフリップフロップにより行う、請求項8から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
制御ユニットによりマルチプレクサ回路を介して送信ユニットを作動する、請求項8から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
全ての受信ユニットを作動し、対象物で反射した受信信号を並列に受信する、請求項8から13までのいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−504963(P2006−504963A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−548843(P2004−548843)
【出願日】平成15年10月31日(2003.10.31)
【国際出願番号】PCT/EP2003/012188
【国際公開番号】WO2004/042419
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
テフロン
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【Fターム(参考)】