説明

逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスタとその製造方法

【課題】ダイシング工程や搬送中の振動などの衝撃があって割れやクラックが生じても、IGBTの逆方向耐圧が劣化しないような逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスタおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】n型半導体基板の表面側にMOSゲート構造を有する活性領域と該活性領域の周囲の耐圧構造部とを有し、裏面側にはp型コレクタ層を備え、前記耐圧構造部の外周部に、前記表面側と前記裏面側とを繋ぐように配置されるp型分離層が裏面側で前記p型コレクタ層に電気的に接続される構成を有する逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスタにおいて、前記p型分離層が裏面側の前記p型コレクタ層に接続する部分における、基板面に平行方向の幅が60μm以上である逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスタとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置などに使用される、双方向の耐圧特性を有する逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(以降、逆阻止IGBT)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力用半導体素子の一つであるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)は、汎用インバータ、ACサーボ、無停電電源(UPS)またはスイッチング電源などの産業分野から、電子レンジ、炊飯器またはストロボなどの民生機器分野へと拡大してきている。さらに、図8(a)に示すAC(交流)/AC変換用の直接リンク形変換回路等のマトリックスコンバータの小型化、軽量化、高効率化、高速応答化および低コスト化を図るために必要な双方向スイッチング素子100の小型化、軽量化、低コストが求められるようになった。
【0003】
しかし、従来のIGBTは直流電源回路で使用されることが多く、その場合、逆耐圧能力を必要としないので、逆耐圧に信頼性があるような作り方を採っていない。そのため、従来のIGBTで双方向スイッチング素子100aを構成するには、図8(b)に示すように、IGBT50に逆阻止電圧用のダイオード51を直列接続した上で、IGBTを逆並列接続する必要がある。その結果、オン時の発生損失がその分大きくなり、電力変換装置の変換効率が低下するという問題が生じる。さらに、素子点数が多くなるので、変換装置の小型化、軽量化、低コスト化にも影響を及ぼす。
【0004】
順阻止耐圧と同等の逆阻止耐圧の両方の耐圧信頼性を有するIGBTがあれば、前記直列接続ダイオードが不要になる。すなわち、信頼性のある逆耐圧を持ったIGBTを逆並列接続すれば、図8(c)に示すようなコンパクトで高信頼性の双方向スイッチング素子とすることができる。このような逆阻止IGBTの構造および製造方法については既に公知になっているものがある。
【0005】
そのような逆阻止IGBTの構造の一つに、半導体基板の表面側にMOSゲート構造を形成し、この半導体基板の外周側面部と裏面側に、MOSゲート構造を含む活性領域を取り囲むようにp領域(側面に形成されるp領域と裏面側pコレクタ層とを合わせた領域)を形成し、裏面のpコレクタ層の厚さを1μm程度とする逆阻止IGBTの構造が開示されている(特許文献1)。
【0006】
すなわち、IGBTの逆耐圧の高信頼性を保持するために、逆耐圧を負担する接合であるpコレクタ層とnベース層の間のコレクタ接合の端部を、従来のようにチップ化の際の切断面に露出させたままにするのではなく、表面側に湾曲させて表面に露出する接合端部を絶縁膜で保護する構造にしたのである。具体的には、図9の逆阻止IGBTの中央部の活性領域30とその外周の耐圧構造部20とその外側のチップの最外周端部に表面側と裏面側とを繋ぐp型領域(以降、p型分離層1と表記)を形成し、チップ表面のp領域(チャネルストッパー4)とチップ裏面のpコレクタ層6とを電気的に接続する構造とするのである。前記p型分離層1は、所望の耐圧を保持するために必要なウェハ厚さ以上の拡散深さになるように、表面側から深いボロン拡散を実施することにより形成される。その後、p型分離層1を形成したウェハは、ウェハプロセスの終了後、個別のIGBTにチップ化するために、ダイシングブレードなどによりp型分離層1の中央でウェハ全体では格子状に切断するダイシング工程を経てチップ化される(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−319676号公報
【特許文献2】特開2010−287592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記ダイシング工程では、チップの裏面側の切断端部で割れまたはクラックがしばしば発生し、その影響がnベース層に達することにより、IGBTの逆方向耐圧が劣化し、不良となることがある。またはダイシング後のチップの次工程への搬送中に、振動などによる衝撃がチップに加わり、割れまたはクラックが発生する惧れもある。
【0009】
本発明は、以上述べた点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、ダイシング工程や搬送中の振動などの衝撃があって割れやクラックが生じても、IGBTの逆方向耐圧が劣化しないような逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスタおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記本発明の目的を達成するために、n型半導体基板の表面側にMOSゲート構造を有する活性領域と該活性領域の周囲の耐圧構造部とを有し、裏面側にはp型コレクタ層を備え、前記耐圧構造部の外周部に、前記表面側と前記裏面側とを繋ぐように配置されるp型分離層が裏面側で前記p型コレクタ層に電気的に接続される構成を有する逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスタにおいて、前記p型分離層が裏面側の前記p型コレクタ層に接続する部分における、基板面に平行方向の幅が60μm以上である逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスタとする。この逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスでは、前記p型分離層が裏面側の前記p型コレクタ層に接続する部分における、基板面に平行方向の幅を300μm以下とすることが望ましい。
【0011】
前記本発明の目的を達成するために、ダイアモンド粉末を練りこんで成型してなるダイシングブレードを高速回転させて、ウェハから格子状パターンで切り出す切断工程を有する前記逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスタの製造方法とする。この製造方法では、前記p型分離層は、p型不純物イオン注入と熱拡散により形成することが好ましい。また、前記製造方法では、前記p型分離層は、p型不純物を含む材料を塗布し、熱拡散により形成することもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ダイシング工程や搬送中の振動などの衝撃があって割れやクラックが生じても、IGBTの逆方向耐圧が劣化しないような逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスタおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の逆阻止IGBTの製造方法に関するウェハプロセスを説明するためのp型分離層を中心とするウェハの要部断面図である(その1)。
【図2】本発明の逆阻止IGBTの製造方法に関するウェハプロセスを説明するためのp型分離層を中心とするウェハの要部断面図である(その2)。
【図3】本発明の逆阻止IGBTの製造方法に関するウェハプロセスを説明するためのp型分離層を中心とするウェハの要部断面図である(その3)。
【図4】本発明の逆阻止IGBTの製造方法に関するウェハプロセスを説明するためのp型分離層を中心とするウェハの要部断面図である(その4)。
【図5】本発明の逆阻止IGBTの逆耐圧特性の劣化前後の逆方向の電圧−電流特性図である。
【図6】本発明の実施例1にかかる逆阻止IGBTの切断端部を含む断面図である。
【図7】コレクタ側のp型分離層幅とダイシング後の不良率との相関関係図である。
【図8】AC/AC変換用の直接リンク形変換回路のマトリックスコンバータの等価回路図である。
【図9】一般的なIGBTの端部の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスタおよびその製造方法にかかる実施例について、図面を参照して詳細に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する実施例の記載に限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
図1〜図4に示す半導体基板の断面図を参照して、本発明の逆阻止IGBTの製造方法について、発明部分に係わるp型分離層を中心に詳細に説明する。図1は、逆阻止IGBT100の切断予定部10を含む耐圧構造部20付近の半導体基板の断面図である。ただし、逆阻止IGBT100としての動作にかかわる主電流経路を含む活性領域は図示していない。以下の説明では、半導体基板という場合は、単体のデバイスチップとチップとして切り出す前のウェハの両方またはいずれか一方を意味する。ウェハという場合は、デバイスチップに切り出す前の円板状の半導体基板を意味する。
【0016】
まず、工程の初めに酸化膜マスク等(図示せず)の形成後、p型分離層1の拡散を行う。600Vの耐圧クラスでは120μm、1200Vの耐圧クラスでは210μm程度の深さの拡散を必要とする。その後、マスク材を除去し、表面側のMOS構造を含む活性領域(図6参照)およびガードリングとなるp層2および金属フィールドプレート3などの電界緩和構造、pチャネルストッパー4、保護膜5などを含む耐圧構造部20等をよく知られた通常のプロセス技術を用いて作成する。この通常のプロセス技術については、煩雑になるので、詳述しない。この工程まで完了すると図1の断面図の状態になる。
【0017】
次に、図2のp型分離層1を中心とする部分の逆阻止IGBT100の断面図に示すように裏面から半導体基板(ウェハ)を研削し、設計耐圧で決まる所定の厚さまで薄くする。600V耐圧の素子では100μm程度、1200V耐圧の素子では、190μm程度の研削後の厚さにする。この際、p型分離層1が裏面側(コレクタ側)に露出することが必要である。
【0018】
ウェハ研削後、図3の断面図に示すように、裏面にpコレクタ層6とコレクタ電極7を形成してウェハプロセスが完了する。このようにチップ端に形成されたp型分離層1と裏面のpコレクタ層6とが接続することにより、有効な逆耐圧を有する逆阻止IGBT100が作製できる。
【0019】
ウェハプロセス完了後、回転するダイシングブレードにより、図4の断面図に示すようにp型分離層1の中央部で切断する。すなわち、ウェハからチップを切り出すダイシング工程が必要である。半導体基板(ウェハ)全体でみると、格子状パターンの切断になり、ダイス形状のIGBTチップが切り出される。
【0020】
ところが、このダイシング工程では、微小なダイアモンド粉末を成形材に練りこんで形成される15μm〜25μm程度の厚さのダイシングブレード(図示せず)を高速回転させることにより、ウェハを物理的に切断するので、チップ端のシリコン切断面に、切断面から内部に向かう小クラック9が発生することは避けられない。このクラック9の先端がp型分離層1とpコレクタ層6との内側にあるnベース層8に達すると、図5の逆方向の電流電圧特性図に示すように逆方向耐圧特性が劣化することになる。
【0021】
さらに、ダイシング直後に生じたクラック9の先端がnベース層8に達しない状態でありチップの電気特性が良好であっても、その後のチップ搬送中の振動などによりクラック9が進行し、先端がnベース層8に達したり、さらにクラック9が進行してチップ端の欠けの状態にまでなると、特性が劣化し不良となる。またさらに、チップの段階では特性劣化が生じない程度のクラック9の幅であっても、モジュールなどの組み立てにおける半田付けなどの作業の際に熱履歴が加わると、前述と同様に、クラック9が進行して特性劣化を起こすことがしばしば見られた。このクラック幅とはチップの切断面からクラックの先端までの基板面に平行な方向による最短距離であり、クラックの線または面に沿った長さではない。
【0022】
本発明の製造方法により製造した逆阻止IGBTの実施例を図6の断面図に示す。図6では、本発明を説明するために、チップの切断部近傍を拡大して示している。逆阻止IGBTのチップの切断面の観察により、ダイシング工程によりチップ端で発生するクラック9の幅は、チップに切断後の搬送中の振動および組み立て工程における熱履歴や長期間の通電期間後を含めても、99%以上の確率で50μm以下であることが判明した。従って、pコレクタ層6に近い側のp型分離層の幅D(切断面からの距離)をこのクラック9の最大幅以上にすることにより、クラック9が発生し進行してもp型分離層1内に納まるので、nベース層8にクラック先端が達せず、逆耐圧の劣化が発生しない。以下図6の符号の説明をする。符号7はコレクタ電極、8はnベース層、11はpベース層、12はnエミッタ領域、13はゲート酸化膜、14はゲート電極、15はエミッタ電極、20は耐圧構造部、30は活性領域である。
【0023】
図7に示す、pコレクタ層6に近い側のp型分離層幅Dとダイシング後の不良率の相関図から、コレクタ側p型分離層幅Dが60μm以上の場合、ダイシング後の不良率が実質的に無くなることが分かる。従って、コレクタ側のp型分離層幅Dを60μm以上にすることにより、ダイシング時に避けられない微小クラックの発生があっても、クラックによる逆耐圧特性劣化を防ぐことができる。
【0024】
従って、クラックが入ったチップが、チップでは良品と判定されても、複数チップを1つのパッケージにするモジュール組み立て工程の際の半田付けなどの熱ストレスにより、クラックが進行して特性不良となることを抑制することができる。その結果、良品率向上の効果が期待でき、製品コストの低減につながる。
【0025】
コレクタ側のp型分離層幅Dを広げる方法として、p型分離層拡散のための、半導体基板の表面側に形成する酸化膜マスクの開口幅を広げる第1方法、半導体基板へのp型分離層の拡散深さをより深くして基板の面方向への拡散広がり幅を大きくする第2方法、より厚さが薄いダイシングブレードを使用する等の第3方法がある。第3の方法は、ダイシングブレードの厚さはもともと薄いので、さらに薄くするには限界がある。第2の方法はもともと長時間拡散であるので、さらに長くすることはプロセスの負担が大きくなり決して容易な方法ではない。第1の方法は酸化膜マスク幅を変えるだけなので、前述の3方法の中では最も簡単で容易な方法である。しかし、p型分離層部分は、本来、素子としては無効領域である。従って、コレクタ側のp型分離層幅Dを広げすぎると、無効面積が増えることになる。その結果チップサイズの増大、または、活性面積の減少など、いずれにしてもチップコストの上昇を招くことになる。従って、チップの片側のコレクタ側のp型分離層幅Dの上限は概ね300μmであり、このp型分離層幅D以下であることが望ましい。
なお、p型分離層1とpコレクタ層6は裏面の欠落部からの漏れ電流を防ぐために、できるだけ深い領域を形成したいが、深い領域を形成しようとすると半導体基板の表面側の不純物濃度が低下してしまう。また、金属電極とのオーミック性を高めるためには表面側の不純物濃度を高くしたい要望がある。この両者の要望をかなえるためには、多段でボロンをイオン注入してpコレクタ層6を形成するのがよく、例えば、150keVの加速エネルギーでドーズ量は5×1012cm−2〜5×1014cm−2とする深いp領域と、45keVの加速エネルギーでドーズ量は1×1013cm−2〜1×1015cm−2とする浅いp領域を形成してもよい。このように、多段のイオン注入を行い、深いpコレクタ層6とすることで、クラック9の先端がnベース層8に達することを確実に防ぐことができる。
【符号の説明】
【0026】
1 p型分離層
2 p
3 金属フィールドプレート
4 pチャネルストッパー
5 保護膜
6 pコレクタ層
7 コレクタ電極
8 nベース層
9 pベース領域
10 切断予定部
11 n+エミッタ領域
12 ゲート絶縁膜
14 ゲート電極
15 エミッタ電極
20 耐圧構造部
30 活性領域
100 逆阻止IGBT

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型半導体基板の表面側にMOSゲート構造を有する活性領域と該活性領域の周囲の耐圧構造部とを有し、裏面側には第2導電型コレクタ層を備え、前記耐圧構造部の外周部に、前記表面側と前記裏面側とを繋ぐように配置される第2導電型分離層が裏面側で前記第2導電型コレクタ層に電気的に接続される構成を有する逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスタにおいて、前記第2導電型分離層が裏面側の前記第2導電型コレクタ層に接続する部分における、基板面に平行方向の幅が60μm以上であることを特徴とする逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ。
【請求項2】
前記第2導電型分離層が裏面側の前記第2導電型コレクタ層に接続する部分における、基板面に平行方向の幅が300μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ。
【請求項3】
ダイアモンド粉末を練りこんで成型してなるダイシングブレードを高速回転させて、ウェハから格子状パターンで切り出す切断工程を有することを特徴とする請求項1記載の逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスタの製造方法。
【請求項4】
前記第2導電型分離層は、第2導電型不純物イオン注入と熱拡散により形成する請求項3に記載の逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスタの製造方法。
【請求項5】
前記第2導電型分離層は、第2導電型不純物を含む材料を塗布し、熱拡散により形成する請求項3に記載の逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−12652(P2013−12652A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145493(P2011−145493)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】