説明

透光性セラミックス

【課題】本発明の目的は、低い融点を有することから低温での焼結が可能であり、相対密度が高く透明性に優れるとともに種々の熱的特性にも優れる安価な透光性セラミックスを提供することにある。
【解決手段】本発明の透光性セラミックスは、ZnとAlとを含む酸化物またはMgとZnとAlとを含む酸化物である複合酸化物からなるものであって、該複合酸化物は、単結晶または多結晶体であり、かつスピネル型結晶構造を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピネル型結晶構造を有する複合酸化物からなる透光性セラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に液晶表示装置等において液晶は、表面を汚れや外気から保護することを目的として、その表面に何らかの保護層を形成させて用いられている。液晶をCRT等に用いる場合は、そのような保護層として透明プラスチックが用いられておりその目的を達成している。また、携帯電話等における液晶画面の保護は、強度を要求されるためそのような保護層としてガラス等を用いる場合がある。
【0003】
最近では、このような液晶画面の表裏に透明な保護層(透明基板)を形成することによりその表面を透明化し(このような構造のものを液晶パネルという)、この液晶パネルの一方から光を当て、レンズ等で透過光を調整した液晶プロジェクターが市販されている。このような液晶プロジェクターにおける液晶画面を保護する透明基板は、汚れや外気から単に液晶画面を保護するだけではなく、近接する光源によって液晶画面が加熱されることを防止する断熱的な保護と、該光源からの光により液晶画面に発生する吸熱現象に伴う昇温を放熱する放熱目的とを兼ね備えることが要求される。そして、該透明基板自体も昇温するため、このような透明基板には耐熱性も要求される。
【0004】
したがって、このような用途における透明基板としては通常ガラスを用いることが考えられるところ、通常のガラスの熱伝導性を20〜30倍程度向上させた単結晶サファイアを使用することが提案されている(特許文献1)。このような単結晶サファイアは、強度も高く石英ガラスに比べ非常に硬いため、透明基板を薄くすることができるというメリットも期待される。また、このような単結晶サファイアは非常に高価であるため、それ単独で用いることは経済的に困難であるが、ガラスと併用することによりこの問題は解消することができるとされている。
【0005】
このように単結晶サファイアは、高価であるものの耐熱性と光透過性、および液晶の温度上昇を抑える等の液晶プロジェクター用の透明基板に要求される諸特性を備えるためその使用が期待されてきた。しかしながら、単結晶サファイアには複屈折なる特性があるため、液晶プロジェクターの組み立て時において結晶軸の方位を合わせる等の複雑な作業を要し、製造効率を低下させるとともに単結晶サファイア自体が高価であるということと相俟って製造コストを高騰させるという問題があった。
【0006】
この問題を解決するために、複屈折性を有さずかつ安価な透明基板材料として適する様々な物質が検討されており、そのような物質のひとつとして透光性セラミックスであるスピネルセラミックスが提案されている(特許文献2)。このスピネルセラミックスは、化学式MgAl24で示される立方晶セラミックスであり、熱伝導率が高く透明な材料である。
【0007】
しかし、このようなスピネルセラミックスは、融点が2140℃と高く焼結しにくいという特性を有している。このため、このスピネルセラミックスを比較的低温で焼結させると気孔が残存してしまい透明にはならないという問題があった。この問題を解決するために、気孔の残存を低減させ緻密化を促進させようとすると高い焼結温度が必要とされ炉の消費電力が高くなる等の製造コストを高騰させるという問題があった。
【特許文献1】特開2000−284700号公報
【特許文献2】特開2007−065696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述のような現状に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、低い融点を有することから低温での焼結が可能であり、相対密度が高く透明性に優れるとともに種々の熱的特性にも優れる安価な透光性セラミックスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決するためにスピネル型結晶構造を有する種々のセラミックスを検討したところ、Znを含む一連のセラミックスは融点が低いことから焼結温度を低下させることが可能であり相対密度の高い焼結体が安価に得られるとの知見が得られ、この知見に基づきさらに検討を重ねることによりついに本発明を完成させたものである。
【0010】
すなわち、本発明の透光性セラミックスは、ZnとAlとを含む酸化物またはMgとZnとAlとを含む酸化物である複合酸化物からなるものであって、該複合酸化物は、単結晶または多結晶体であり、かつスピネル型結晶構造を有することを特徴とする。
【0011】
ここで、上記複合酸化物は、化学式Mg(1-x)ZnxAl24(ただし0<x≦1)で示されることが好ましく、より好ましくは化学式Mg(1-x)ZnxAl24(ただし0.2≦x≦1)で示され、さらに好ましくは化学式Mg(1-x)ZnxAl24(ただし0.8≦x≦1)で示される。
【0012】
また、上記透光性セラミックスは、上記複合酸化物以外の第二相を含まないことが好ましく、焼結体であることが好ましい。
【0013】
一方、本発明は、上記の透光性セラミックスを用いたカラー液晶プロジェクター用の光学素子にも関し、この光学素子を用いたカラー液晶プロジェクターにも関する。
【0014】
さらに本発明は、上記の透光性セラミックスを製造する製造方法にも関し、この製造方法は、上記複合酸化物を構成する少なくとも1種の元素を含む原料粉末を準備する準備工程と、該原料粉末を成形することにより成形体を得る成形工程と、該成形体を焼結することにより焼結体を得る焼結工程と、該焼結体を熱間静水圧プレスすることにより透光性セラミックスを完成する熱間静水圧プレス工程と、を含む。
【0015】
また、本発明にかかる別の製造方法は、上記複合酸化物を構成する少なくとも1種の元素を含む原料粉末として水酸化物粉末を準備する水酸化物粉末準備工程と、該水酸化物粉末を成形することにより仮成形体を得る仮成形工程と、該仮成形体を加熱することにより加熱仮成形体を得る加熱工程と、該加熱仮成形体を熱間鍛造することにより熱間鍛造体を得る熱間鍛造工程と、該熱間鍛造体を焼結することにより焼結体を得る焼結工程と、該焼結体を熱間静水圧プレスすることにより透光性セラミックスを完成する熱間静水圧プレス工程と、を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の透光性セラミックスは、低い融点を有することから低温での焼結が可能であり、相対密度が高く透明性に優れるとともに種々の熱的特性にも優れ、かつ安価であるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<透光性セラミックス>
本発明の透光性セラミックスは、ZnとAlとを含む酸化物またはMgとZnとAlとを含む酸化物である複合酸化物からなるものであって、該複合酸化物は、単結晶または多結晶体であり、かつスピネル型結晶構造を有する。このように本発明の透光性セラミックスは、単結晶として作製されていてもよいし、多結晶体として作製されていてもよい。しかし、その結晶構造はスピネル型結晶構造であることを要する。このような結晶構造を有することにより、複屈折のない透明な材料になるという効果を達成することができる。
【0018】
ここで、スピネル型結晶構造とは、スピネル(MgAl24)と化学組成は異なるがスピネルと同型の結晶構造を有することを意味する。このようなスピネル型結晶構造は、AB24(ただしAは2価の元素でありBは3価の元素である)の化学式で示される複合酸化物で示されることが知られている。
【0019】
なお、本発明でいう「透光性」とは、実質的に透明であることをいい、たとえば本発明の透光性セラミックスの厚みが1mmである場合において、420〜680nmの波長領域の光の直線透過率が85%以上となる場合をいう。このように本発明の透光性セラミックスは、透明性に優れるものであるが、これは複合酸化物中の気孔および残留ポアが十分に排除されることによりもたらされるものと考えられる。このため、本発明の透光性セラミックスは、相対密度(当該複合酸化物の理論値に対する密度を%表示したもの)が99%以上であることが好ましい。
【0020】
このように本発明の透光性セラミックスは、透明性に優れるとともに耐熱性、断熱性、放熱性等の各種熱的特性にも優れるものである。また、本発明の透光性セラミックスは、光学的に等方性であるという特性を示す。以上のような優れた各特性は、当該透光性セラミックスが焼結体である場合に有利に示されるため、本発明の透光性セラミックスは、焼結体であることが好ましい。
【0021】
<複合酸化物>
本発明の透光性セラミックスを構成する複合酸化物は、化学式Mg(1-x)ZnxAl24(ただし0<x≦1)で示されることが好ましく、より好ましくは化学式Mg(1-x)ZnxAl24(ただし0.2≦x≦1)で示され、さらに好ましくは化学式Mg(1-x)ZnxAl24(ただし0.8≦x≦1)で示される複合酸化物である。
【0022】
前述のようにスピネル(MgAl24)は、液晶プロジェクターの透明基板等の透明材料として期待されるものであるが、その融点が高いことから焼結温度も高くなり、以って低い焼結温度で透明性の高い特性を有するものを作製することは困難であった。そこで、このスピネルに対してZnを固溶させることにより融点を低下させ、これにより比較的低い焼結温度での焼結を可能とし、高い透明性を有するセラミックスを安価に製造できるとしたものが本発明の透光性セラミックスである。因みにスピネルのMgを実質的に全てZnで置き換えたZnAl24(上記化学式においてx=1のもの)の融点は1960℃であり、スピネルの融点2140℃よりもほぼ200℃近く低いものとなる。このように本発明の複合酸化物は、融点が低いことから焼結温度を低く設定し得るため非常に有利である。なお、当該複合酸化物においてMgとZnとは、あらゆる組成比においてスピネル型結晶構造を維持することができ、さらにZnAl24の結晶構造もスピネル型結晶構造である。なお、このようなスピネル型結晶構造は、粉末X線回折等により確認することができる。
【0023】
ここで、上記化学式におけるxは、0<x≦1となるものであるが、その下限はより好ましくは0.2以上であり、さらに好ましくは0.8以上であることが好適である。xが0.2未満では融点の低下が比較的小さく、焼結温度を低下させる効果も小さくなる。MgAl24にZnが固溶すると熱伝導率が低下する傾向がある。熱伝導率の低下は、xが0.2〜0.6の範囲で大きくなるが、0.8を超えると熱伝導率はむしろMgAl24よりも高くなる傾向がある。ZnAl24の熱伝導率はこの固溶体系で最も大きい。0.8を超えると融点の低下も顕著となり焼結温度を低下させる効果が大きくなるため、好ましくはxは0.8〜1.0が好適である。
【0024】
なお、本発明の透光性セラミックスは、当該複合酸化物からなるものであるが、特にこのような複合酸化物以外の第二相を含まないことが好ましい。このような第2相は、スピネル型結晶構造の屈折率と異なる屈折率を有するため、両者の界面において光の散乱が発生し、これにより透明性が低下するためである。たとえば、ZnAl24にTiが含まれると、融点は最大で1600℃程度まで低下して極めて焼結し易くなるが、第二相としてMgTiO3が共析して透明性を阻害することになる。
【0025】
<コーティング層>
本発明の透光性セラミックスは、その表面にコーティング層を形成することができる。このようなコーティング層は、特に該透光性セラミックスより屈折率の低い材料で構成される場合、光の透過性が良好となる(すなわち透明性が向上する)ため好ましい。このようなコーティング層は単層であってもよいし複層であってもよいが、金属弗化物と金属酸化物から選ばれる層を2種以上組合わせた複層とすると、透光性セラミックスとの密着性もよく、かつ環境安定性に優れたものとなる。
【0026】
このようにコーティング層を複層にする場合、金属酸化物としては、たとえばSiO2、TiO2、Al23、Y23、Ta25、ZrO2等を挙げることができ、また金属弗化物としては、たとえばMgF2、YF3、LaF3、CeF3、BaF2等を挙げることができる。
【0027】
このようなコーティング層は、金属酸化物からなる層と金属弗化物からなる層とを2層〜20層程度交互に積層させたものとすることも好ましい。このようなコーティング層の厚みは、通常5μm以下とすることが好ましい。
【0028】
なお、このようなコーティング層は、物理蒸着法(PVD法)により形成することが好ましく、公知のスパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法等で実施できる。特に、イオンアシスト、プラズマアシストを併用すると膜性能が向上するため好ましい。
【0029】
<用途>
本発明の透光性セラミックスは、上記のような特性を有するため、通常の光学レンズに要求される物性を満足する。そして、本発明の透光性セラミックスは、特に光学的に等方性であることから、液晶パネルを組み立てる際に結晶軸の方位を気にすることなく組み立てることができるため、カラー液晶プロジェクター用の光学素子(すなわち透明基板)として用いることが有用である。また、本発明の透光性セラミックスは、透明性(光透過性)がよいため光源からの光による熱吸収も少なく、以って液晶の昇温を熱放散できるため、この観点からもカラー液晶プロジェクター用の光学素子(すなわち透明基板)として用いることが有用である。なお、本発明は、このような光学素子を用いたカラー液晶プロジェクターにも関する。
【0030】
<製造方法>
本発明の透光性セラミックスを製造する製造方法は、上記複合酸化物を構成する少なくとも1種の元素を含む原料粉末を準備する準備工程と、該原料粉末を成形することにより成形体を得る成形工程と、該成形体を焼結することにより焼結体を得る焼結工程と、該焼結体を熱間静水圧プレス(HIP)することにより透光性セラミックスを完成する熱間静水圧プレス工程と、を含む。
【0031】
ここで、上記準備工程は、特に限定されることはなくこのような原料粉末を得ることができる調製方法であればいずれの方法をも採用することができる。原料粉末としては、1種もしくは2種以上のものを用いることができる。このような原料粉末の化学組成は特に限定されないが、上記複合酸化物を構成する少なくとも1種の元素を含む酸化物を用いることが好ましい。たとえば、ZnO粉末およびAl23粉末に必要に応じてMgO粉末を配合した混合粉末を用いることができる。この場合の配合比は、最終的に製造される複合酸化物の化学量論組成となるように配合することが好ましい。また、このような原料粉末の平均粒子径は1μm以下とすることが好ましい。
【0032】
次いで、上記成形工程も、特に限定されることはなくこのような成形体を得ることができる方法であればいずれの方法をも採用することができる。なお、得られる成形体の大きさや形状は特に限定されない。
【0033】
続いて、上記焼結工程は、目的とする複合酸化物の融点より300〜400℃程度低い比較的低温度で行なうことができる。焼結時には、成形体の上に、ZnOやZnAl24等の亜鉛の酸化物粉末をかぶせることが好ましい。スピネル構造中の亜鉛は昇華しやすいので、亜鉛を含む粉末をかぶせることにより成形体表面からの亜鉛の昇華を防止する効果が高い。
【0034】
次いで、上記熱間静水圧プレス工程は、圧力媒体は特に限定されるものではないが工業的に入手可能な不活性ガスを用いることが好ましい。温度は、一般には焼結温度よりもやや高い温度に設定することにより、焼結時に含有されていた閉気孔を潰して透光性を改善する効果がある。
【0035】
その後、1000℃程度の温度でアニール処理した後、室温まで冷却すれば、本発明の透光性セラミックスを製造することができる。
【0036】
このように最終的に熱間静水圧プレス(HIP)工程を施すことにより複合酸化物中の気孔および残留ポアが十分に排除され、透光性(420〜680nmの波長領域の光の直線透過率)が飛躍的に向上したものとなる。したがって、本発明において熱間静水圧プレスすることは極めて重要である。なお、本発明の熱間静水圧プレス工程には、上記のようにアニール処理や冷却操作も含まれるものとする。
【0037】
なお、原料粉末として酸化物を用いる場合は上記のような製造方法で製造することができるが、原料粉末としてより安価な水酸化物を用いる場合は次のような製造方法を採用することが好ましい。すなわち、本発明にかかる別の製造方法は、上記複合酸化物を構成する少なくとも1種の元素を含む原料粉末として水酸化物粉末を準備する水酸化物粉末準備工程と、該水酸化物粉末を成形することにより仮成形体を得る仮成形工程と、該仮成形体を加熱することにより加熱仮成形体を得る加熱工程と、該加熱仮成形体を熱間鍛造することにより熱間鍛造体を得る熱間鍛造工程と、該熱間鍛造体を焼結することにより焼結体を得る焼結工程と、該焼結体を熱間静水圧プレスすることにより透光性セラミックスを完成する熱間静水圧プレス工程と、を含むものである。
【0038】
このように原料粉末として水酸化物粉末を用いる場合は、成形を熱間鍛造で行うことが好ましい。水酸化物粉末の成形体をそのまま焼結すると、約400℃以上の温度で水酸化物が酸化物に転化する際に大きな体積収縮が生じて、室温時よりも相対密度が低下した状態から焼結が始まるために、緻密化しにくくなる。そこで、水酸化物粉末を一旦仮成形した後、焼結炉とは別の大気炉において400℃以上で加熱し、この加熱仮成形体を予め400℃程度に加熱しておいた鍛造型に装填し、通常のセラミックスの成形圧力よりも遙かに高い圧力である数千kg/cm2の圧力で熱間鍛造する。大気炉での過熱で水酸化物は酸化物に転化し、その温度のままで高圧で鍛造することで、より相対密度の高い成形体となるのである。
【0039】
ここで、上記水酸化物粉末準備工程は、特に限定されることはなくこのような水酸化物粉末を得ることができる調製方法であればいずれの方法をも採用することができる。たとえば、Zn(OH)2粉末およびAl(OH)3粉末に必要に応じてMg(OH)2粉末を配合した混合粉末を用いることができる。この場合の配合比は、最終的に製造される複合酸化物の化学量論組成となるように配合することが好ましい。また、このような水酸化物粉末の平均粒子径は1μm以下とすることが好ましい。
【0040】
次いで、上記仮成形工程は、上記水酸化物粉末を成形する工程であるが、得られる仮成形体の大きさや形状は特に限定されない。
【0041】
続いて、上記加熱工程は、400〜700℃程度の温度で上記仮成形体を加熱して加熱仮成形体を得る工程であり、上記熱間鍛造工程は、この加熱仮成形体を熱間鍛造する工程である。
【0042】
なお、その後に行なわれる焼結工程と熱間静水圧プレス工程とは、上記で既に説明した条件と同様の条件を採用することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
以下のようにして表1に記載した透光性セラミックスを製造した。
【0045】
(a)準備工程
原料粉末として平均粒径がそれぞれ0.3μmであるMgO粉末、ZnO粉末およびAl23粉末を準備した。これらの粉末を表1に記載したモル比(該当する粉末を含まないものは「なし」と表記し、モル比は「0」とした)で配合した。このモル比は最終的に得られる透光性セラミックスの化学量論組成に一致するものである(表1中、HIP体の項において「化学式中のx」として上記化学式中の「x」を表記した)。なお、用いた原料粉末は全て純度99.99%以上である。
【0046】
(b)成形工程
上記で配合された原料粉末を圧力250kg/cm2で成形することにより成形体(直径20mm、厚み5mm)を作製した。
【0047】
(c)焼結工程
上記で作製された成形体をカーボン製ルツボの底に装填し、その上にZnAl24の粉末を成形体が完全に隠れるように装填した。これを焼結炉に装填し、大気雰囲気、大気圧で表1に記載した焼結温度で2時間焼結することにより焼結体を得た。
【0048】
(d)熱間静水圧プレス工程
上記で得られた焼結体をアルゴンガス中、表1記載の温度(HIP温度)まで800℃/時で昇温し、表1記載の各圧力下で1時間保持することにより熱間静水圧プレス処理を行なった。その後、1000℃で24時間アニール処理し、室温まで0.5℃/分の冷却速度で徐冷した。その後、表面を研磨加工することにより透光性セラミックス(厚み1mm)を製造した。表1中、サンプルNo.1〜5が本発明の透光性セラミックスであり、サンプルNo.6〜7が比較例の透光性セラミックスである。なお、かかる透光性セラミックスの生成相の結晶構造が「スピネル型」であるか否かを粉末X線回折で確認し、「スピネル型結晶構造」を有するものには「スピネル」と表記した。
【0049】
<実施例2>
以下のようにして表2に記載した透光性セラミックスを製造した。
【0050】
(e)水酸化物粉末準備工程
原料粉末として平均粒径がそれぞれ0.3μmであるMg(OH)2粉末、Zn(OH)2粉末およびAl(OH)3粉末を準備した。これらの粉末を表2に記載したモル比(該当する粉末を含まないものは「なし」と表記し、モル比は「0」とした)で配合した。このモル比は最終的に得られる透光性セラミックスの化学量論組成に一致するものである(表2中、HIP体の項において「化学式中のx」として上記化学式中の「x」を表記した)。なお、用いた原料粉末は全て純度99.99%以上である。
【0051】
(f)仮成形工程
上記で配合された原料粉末を圧力50kg/cm2で成形することにより仮成形体(直径20mm、厚さ5mm)を作製した。
【0052】
(g)加熱工程
上記で作製された仮成形体を管状大気炉にて700℃に加熱し、その温度で15分保持することにより、加熱仮成形体を得た。
【0053】
(h)熱間鍛造工程
上記で得られた加熱仮成形体を100トン熱間鍛造装置の金型内に装填した。なお、この金型は金型に内蔵されているヒーターを用いて予め400℃に加熱しておいた。そして、この加熱仮成形体を圧力9000kg/cm2で熱間鍛造することにより熱間鍛造体を得た。
【0054】
(i)焼結工程
上記で得られた熱間鍛造体を、実施例1の(c)焼結工程と同様にして焼結することにより焼結体を得た。
【0055】
(j)熱間静水圧プレス工程
上記で得られた焼結体を、実施例1の(d)熱間静水圧プレス工程と同様にして熱間静水圧プレスを行なった。その後、1000℃で24時間アニール処理し、室温まで0.5℃/分の冷却速度で徐冷した。その後、表面を研磨加工することにより透光性セラミックス(厚み1mm)を製造した。表2中、サンプルNo.11〜13が本発明の透光性セラミックスであり、サンプルNo.14が比較例の透光性セラミックスである。なお、かかる透光性セラミックスの生成相の結晶構造が「スピネル型」であるか否かを粉末X線回折で確認し、「スピネル型結晶構造」を有するものには「スピネル」と表記した。
【0056】
<評価>
(1)相対密度
上記実施例1および2の成形体(仮成形体)、焼結体、およびHIP体(透光性セラミックス)の相対密度(当該複合酸化物の理論値に対する密度を%表示したもの)をアルキメデス法により測定し、その結果を表1および表2に示す。
【0057】
(2)直線透過率
上記実施例1および2で得られた各透光性セラミックスは、ダイヤモンドスラリーを用いて鏡面研磨を行ない、分光光度計にて直線透過率(厚み1mm)を測定した。その結果、波長420nm〜680nmにおける直線透過率は420nmで最も低くなるため、各透光性セラミックスにおいては420nmにおける直線透過率を測定した。その結果を表1および表2に示す。
【0058】
(3)熱伝導率
上記実施例1および2で得られた各透光性セラミックス(厚み1mm)から直径10mmの試験片を切り出し、レーザーフラッシュ法により室温での熱伝導率を測定した。その結果を表1および表2に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
表1および表2より明らかなように、本発明の透光性セラミックスは、低温で焼結されたもの(すなわち安価に製造できるもの)であるにもかかわらず、比較例の透光性セラミックスに比べ相対密度は高く、直線透過率も高かった。
【0062】
xが1.0、すなわち組成がZnAl24の場合は、MgAl24よりも高い熱伝導率を示した。よって、本発明の透光性セラミックスは、比較的低温で焼結しても相対密度が高く透明性に優れ、組成によっては熱的特性にも優れ、かつ安価であるという優れた効果を有することが確認された。
【0063】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0064】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnとAlとを含む酸化物またはMgとZnとAlとを含む酸化物である複合酸化物からなる透光性セラミックスであって、
前記複合酸化物は、単結晶または多結晶体であり、かつスピネル型結晶構造を有する透光性セラミックス。
【請求項2】
前記複合酸化物は、化学式Mg(1-x)ZnxAl24(ただし0<x≦1)で示される請求項1記載の透光性セラミックス。
【請求項3】
前記複合酸化物は、化学式Mg(1-x)ZnxAl24(ただし0.2≦x≦1)で示される請求項1または2に記載の透光性セラミックス。
【請求項4】
前記複合酸化物は、化学式Mg(1-x)ZnxAl24(ただし0.8≦x≦1)で示される請求項1〜3のいずれかに記載の透光性セラミックス。
【請求項5】
前記透光性セラミックスは、前記複合酸化物以外の第二相を含まない請求項1〜4のいずれかに記載の透光性セラミックス。
【請求項6】
前記透光性セラミックスは、焼結体である請求項1〜5のいずれかに記載の透光性セラミックス。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の透光性セラミックスを用いたカラー液晶プロジェクター用の光学素子。
【請求項8】
請求項7記載の光学素子を用いたカラー液晶プロジェクター。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の透光性セラミックスを製造する製造方法であって、
前記複合酸化物を構成する少なくとも1種の元素を含む原料粉末を準備する準備工程と、
前記原料粉末を成形することにより成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼結することにより焼結体を得る焼結工程と、
前記焼結体を熱間静水圧プレスすることにより透光性セラミックスを完成する熱間静水圧プレス工程と、
を含む透光性セラミックスを製造する製造方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載の透光性セラミックスを製造する製造方法であって、
前記複合酸化物を構成する少なくとも1種の元素を含む原料粉末として水酸化物粉末を準備する水酸化物粉末準備工程と、
前記水酸化物粉末を成形することにより仮成形体を得る仮成形工程と、
前記仮成形体を加熱することにより加熱仮成形体を得る加熱工程と、
前記加熱仮成形体を熱間鍛造することにより熱間鍛造体を得る熱間鍛造工程と、
前記熱間鍛造体を焼結することにより焼結体を得る焼結工程と、
前記焼結体を熱間静水圧プレスすることにより透光性セラミックスを完成する熱間静水圧プレス工程と、
を含む透光性セラミックスを製造する製造方法。

【公開番号】特開2010−30798(P2010−30798A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192168(P2008−192168)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】