説明

透明導電フィルム及びその製造方法

【課題】表面抵抗が小さく、透明度が高く、かつ反りの生じ難い透明導電フィルム及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】透明な基材フィルム2と、基材フィルム2の表面にスパッタリングにより形成したITOからなる透明導電膜3とを有する透明導電フィルム1。透明導電膜3は、3回以上に分けて断続的にスパッタリングすることにより、3層以上のスパッタ層(第1スパッタ層31、第2スパッタ層32、第3スパッタ層33)の積層体として形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機エレクトロルミネッセンス素子等における透明電極、電磁波遮蔽フィルム、透明フィルムヒータ等に用いられる透明導電フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機エレクトロルミネッセンス素子等における透明電極、電磁波遮蔽フィルム、透明フィルムヒータ等として、透明導電フィルムが用いられている。該透明導電フィルムは、PET(ポリエチレンテレフタレート)等からなる基材フィルムの表面に、ITO(インジウム−スズ酸化物)からなる透明導電膜をスパッタリングにより形成することにより得られる(特許文献1参照)。
【0003】
例えば、上記透明導電フィルムを、携帯電話やパソコンの表示部に用いる無機エレクトロルミネッセンス素子の電極として用いる場合、無機エレクトロルミネッセンス素子の輝度向上のために、上記透明導電フィルムの低抵抗化が求められる。これに伴い、透明導電膜の厚みを大きくすることが求められる。
【0004】
しかしながら、ITOからなる透明導電膜を、一度のスパッタリングにより厚く形成すると、クラックが入りやすく、透明導電膜の透明度が低下するおそれがある。また、基材フィルムと透明導電膜との間に応力が発生して、透明導電フィルムに反りが生ずるおそれがある。
その結果、実用性に優れた透明導電フィルムを得ることが困難となる。
【0005】
【特許文献1】特開2001−332134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、表面抵抗が小さく、透明度が高く、かつ反りの生じ難い透明導電フィルム及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、透明な基材フィルムと、該基材フィルムの表面にスパッタリングにより形成したITOからなる透明導電膜とを有する透明導電フィルムであって、
上記透明導電膜は、3回以上に分けて断続的にスパッタリングすることにより、3層以上のスパッタ層の積層体として形成されていることを特徴とする透明導電フィルムにある(請求項1)。
【0008】
次に、本発明の作用効果につき説明する。
上記透明導電膜は、上述のごとく、3回以上に分けて断続的にスパッタリングすることにより、3層以上のスパッタ層の積層体として形成されている。このように、透明導電膜を1層とするよりも多層膜とした方が、歪み、発熱による焼けが少なく、またクラックも入りにくいため、透明導電膜の透明度を向上させることができ、ひいては透明度の高い透明導電フィルムを得ることができる。また、上記透明導電膜の応力を低減することができるため、透明導電フィルムの反りを抑制することができる。
【0009】
また、上述のごとく、透明度の向上、反りの抑制を図ることができるため、透明導電膜の膜厚を大きくすることが可能となる。これにより、表面抵抗の小さい透明導電フィルムを得ることができる。
【0010】
以上のごとく、本発明によれば、表面抵抗が小さく、透明度が高く、かつ反りの生じ難い透明導電フィルムを提供することができる。
【0011】
第2の発明は、透明な基材フィルムの表面にITOをスパッタリングすることより透明導電膜を形成して透明導電フィルムを製造する方法において、
上記ITOのスパッタリングを3回以上に分けて断続的に行い、3層以上のスパッタ層の積層体として上記透明導電膜を形成することを特徴とする透明導電フィルムの製造方法にある(請求項6)。
【0012】
上記製造方法においては、上述のごとく、ITOのスパッタリングを3回以上に分けて断続的に行う。これにより、上記透明導電膜を3層以上のスパッタ層の積層体として形成することができ、上述したごとく、透明導電膜の透明度を向上させて、透明度の高い透明導電フィルムを得ることができると共に、透明導電フィルムの反りを抑制することができる。
また、上述のごとく、透明導電膜の膜厚を大きくすることが可能となり、表面抵抗の小さい透明導電フィルムを得ることができる。
【0013】
以上のごとく、本発明によれば、表面抵抗が小さく、透明度が高く、かつ反りの生じ難い透明導電フィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
上記第1の発明(請求項1)又は第2の発明(請求項6)において、各スパッタ層は、SnO2(酸化スズ)の混入割合を互いに異ならせることもできる。SnO2が多いと表面抵抗が高くなるが、表面の平滑性が良好となる。それ故、例えば、表層のスパッタ層におけるSnO2の混入割合を高くし、その他のスパッタ層におけるSnO2の混入割合を低くすることにより、全体として表面抵抗が低く、表面平滑性に優れた透明導電膜を得ることができる。
【0015】
また、スパッタリングを断続的に行う際の間隔は、例えば10〜60秒であることが好ましい。
上記間隔が10秒未満の場合には、上記透明導電膜が、一度にスパッタリングして形成した場合と同様の結晶構造となり、3層以上の層構造となりにくく、本発明の作用効果を充分に得ることが困難となるおそれがある。一方、上記間隔が60秒を超える場合には、生産性が低下するおそれがある。
【0016】
また、上記各スパッタ層は、それぞれ10〜100nmの膜厚を有することが好ましい(請求項2、請求項7)。
この場合には、表面抵抗が小さく、透明度が高く、かつ反りの生じ難い透明導電フィルムを確実に得ることができる。
上記膜厚が10nm未満の場合には、透明導電フィルムの表面抵抗を小さくすることが困難となるおそれがある。一方、上記膜厚が100nmを超える場合には、透明導電フィルムの透明度の向上、反りの抑制が困難となるおそれがある。
【0017】
また、上記基材フィルムは、PET(ポリエチレンテレフタレート)からなることが好ましい(請求項3、請求項8)。
この場合には、透明度の高い透明導電フィルムを、容易かつ安価に得ることができる。
【0018】
また、上記基材フィルムと上記透明導電膜との間には、ポリエステル系の接着剤層が介在していることが好ましい(請求項4、請求項9)。
この場合には、上記基材フィルムと上記透明導電膜との間の密着性を確保して、耐久性に優れた透明導電フィルムを得ることができる。また、上記接着剤層によって、基材フィルムと上記透明導電膜との間の応力を緩和し、透明導電膜にクラックが入ることを防ぐことができる。
【0019】
また、上記ポリエステル系の接着剤層は、ポリエステルを主成分とする接着剤であり、例えばファル酸、マレイン酸、テレフタル酸にエチレングリコール又はテトラメチレングリコールを組合せ、第3成分としてイソフタル酸やポリテトラメチレンエーテルグリコールなどを共重合させたものなどが挙げられる。
また、上記基材フィルム2の厚みは、例えば25〜188μmとすることができる。上記厚みが25μm未満の場合には、透明導電フィルムの強度を充分に確保することが困難となるおそれがある。一方、上記厚みが188μmを超える場合には、透明導電フィルムの透明度が低下するおそれがある。
【0020】
また、上記接着剤層は、表面エネルギーが30〜80mN/mであることが好ましい(請求項5、請求項10)。
この場合には、一層耐久性に優れた透明導電フィルムを得ることができる。
上記表面エネルギーが30mN/m未満の場合には、上記基材フィルムと上記透明導電膜との間の密着性を確保して、透明導電フィルムの耐久性を確保することが困難となるおそれがある。一方、上記表面エネルギーが80mN/mを超える場合には、透明導電フィルムの製造が困難となるおそれがある。
【実施例】
【0021】
本発明の実施例にかかる透明導電フィルム及びその製造方法につき、図1、図2を用いて説明する。
本例の透明導電フィルム1は、図1に示すごとく、透明な基材フィルム2と、該基材フィルム2の表面にスパッタリングにより形成したITOからなる透明導電膜3とを有する。
該透明導電膜3は、3回に分けて断続的にスパッタリングすることにより、3層のスパッタ層、即ち第1スパッタ層31と第2スパッタ層32と第3スパッタ層33との積層体として形成されている。
【0022】
上記第1スパッタ層31、第2スパッタ層32、及び第3スパッタ層33は、それぞれ
10〜100nmの膜厚を有する。
また、上記基材フィルム2は、PET(ポリエチレンテレフタレート)からなる。
また、上記基材フィルム2と上記透明導電膜3との間には、ポリエステル系の接着剤層4が介在している。該接着剤層4としてはポリエステル系を用いる。また、接着剤層4は、表面エネルギーが30〜80mN/mである。
【0023】
次に、本例の透明導電フィルム1の製造方法につき具体的に説明する。
まず、厚み25〜188μmのPETからなる基材フィルム2を用意する。そして、該基材フィルム2の表面にポリエステル系の接着剤層4を、ロールコーター法等の手段により、0.2μmの膜厚で形成する。
【0024】
そして、接着剤層4を設けた基材フィルム2の表面に、図2に示すごとく、ITOをスパッタリングすることにより透明導電膜3を形成する。
スパッタリングに当っては、まず、スパッタ装置のチャンバ内に、接着剤層4を設けた基材フィルム2をセットする。即ち、図2に示すごとく、長尺の基材フィルム2を、スパッタ装置のチャンバ内の台座ドラム51に沿わせるにようにして配置する。
【0025】
スパッタ装置は、回転する台座ドラム51に対向配置された少なくとも3個のターゲット(第1のITOターゲット521、第2のITOターゲット522、第3のITOターゲット523)を有する。第1のITOターゲット521はSnO2を5%含むITOからなり、第2のITOターゲット522はSnO2を10%含むITOからなり、第3のITOターゲット523はSnO2を20%含むITOからなる。
【0026】
そして、チャンバ内を2×10-4Paの真空度とした後、O2(酸素)を10%添加したAr(アルゴン)ガスを、チャンバ内が4×10-1Paとなるまで導入する。
次いで、図2の矢印Aに示すように基材フィルム2を0.5〜5m/分の搬送速度で移動させながら、第1のITOターゲット521により2〜3W/cm2の出力にて、スパッタリングを1〜5秒間行う。これにより、膜厚40nmのITOからなる第1スパッタ層31を形成する。
次いで、第2のITOターゲット522により、2〜3W/cm2の出力にて、スパッタリングを1〜5秒間行う。これにより、膜厚40nmのITOからなる第2スパッタ層32を形成する。
【0027】
次いで、第3のITOターゲット523により、2〜3W/cm2の出力にて、スパッタリングを1〜5秒間行う。これにより、膜厚40nmのITOからなる第3スパッタ層33を形成する。
以上により、図1に示すごとく、3層のスパッタ層の積層体として、膜厚120nmの透明導電膜3が得られ、基材フィルム2の表面に接着剤層4を介して透明導電膜3が積層された透明導電フィルム1が得られる。
【0028】
このように、上記基材フィルム2における同一箇所については、ITOのスパッタリングが断続的に行われる。そして、第1のITOターゲット521によるスパッタリングの終了から、第2のITOターゲット522によるスパッタリングの開始までの間隔、及び第2のITOターゲット522によるスパッタリングの終了から、第3のITOターゲット523によるスパッタリングの開始までの間隔は、それぞれ約10〜60秒である。
なお、上記各条件等は単なる一例であり、本発明は、これに限定されない。
【0029】
次に、本例の作用効果につき説明する。
上記透明導電膜3は、上述のごとく、3回に分けて断続的にスパッタリングすることにより、図1に示すごとく、3層のスパッタ層、即ち第1スパッタ層31、第2スパッタ層32、第3スパッタ層33の積層体として形成されている。このように、透明導電膜3を1層とするよりも多層膜とした方が、歪み、発熱による焼けが少なく、またクラックも入りにくいため、透明導電膜3の透明度を向上させることができ、ひいては透明度の高い透明導電フィルム1を得ることができる。
即ち、例えば透明導電フィルム1の透明度を従来に対して約5%向上させることができる。この透明度の比較は、光線透過率を測定することにより行うことができる。
【0030】
また、上記透明導電膜3の応力を低減することができるため、透明導電フィルム1の反りを抑制することができる。
即ち、例えば、透明導電フィルム1の反り量を5%未満にすることができる。即ち、10cm当りの反り上がり高さを5mm未満とすることができる。
【0031】
また、上述のごとく、透明度の向上、反りの抑制を図ることができるため、透明導電膜3の膜厚を大きくすることが可能となる。これにより、表面抵抗の小さい透明導電フィルム1を得ることができる。例えば、透明導電フィルム1の表面抵抗値を10〜50Ω/□とすることができる。
【0032】
また、第1スパッタ層31、第2スパッタ層32、及び第3スパッタ層33は、それぞれ10〜100nmの膜厚を有するため、表面抵抗が小さく、透明度が高く、かつ反りの生じ難い透明導電フィルム1を確実に得ることができる。
また、上記基材フィルム2は、PETからなるため、透明度の高い透明導電フィルム1を、容易かつ安価に得ることができる。
【0033】
また、基材フィルム2と透明導電膜3との間には、ポリエステル系の接着剤層4が介在しているため、基材フィルム2と透明導電膜3との間の密着性を確保して、耐久性に優れた透明導電フィルム1を得ることができる。また、上記接着剤層4によって、基材フィルム2と透明導電膜3との間の応力を緩和し、透明導電膜3にクラックが入ることを防ぐことができる。
また、上記接着剤層4は、表面エネルギーが30〜80mN/mであるため、一層耐久性に優れた透明導電フィルム1を得ることができる。
【0034】
以上のごとく、本例によれば、表面抵抗が小さく、透明度が高く、かつ反りの生じ難い透明導電フィルム及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例における、透明導電フィルムの断面図。
【図2】実施例における、スパッタリング方法の説明図。
【符号の説明】
【0036】
1 透明導電フィルム
2 基材フィルム
3 透明導電膜
31 第1スパッタ膜
32 第2スパッタ膜
33 第3スパッタ膜
4 接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な基材フィルムと、該基材フィルムの表面にスパッタリングにより形成したITOからなる透明導電膜とを有する透明導電フィルムであって、
上記透明導電膜は、3回以上に分けて断続的にスパッタリングすることにより、3層以上のスパッタ層の積層体として形成されていることを特徴とする透明導電フィルム。
【請求項2】
請求項1において、上記各スパッタ層は、それぞれ10〜100nmの膜厚を有することを特徴とする透明導電フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記基材フィルムは、PETからなることを特徴とする透明導電フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記基材フィルムと上記透明導電膜との間には、ポリエステル系の接着剤層が介在していることを特徴とする透明導電フィルム。
【請求項5】
請求項4において、上記接着剤層は、表面エネルギーが30〜80mN/mであることを特徴とする透明導電フィルム。
【請求項6】
透明な基材フィルムの表面にITOをスパッタリングすることより透明導電膜を形成して透明導電フィルムを製造する方法において、
上記ITOのスパッタリングを3回以上に分けて断続的に行い、3層以上のスパッタ層の積層体として上記透明導電膜を形成することを特徴とする透明導電フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項6において、上記各スパッタ層は、それぞれ10〜100nmの膜厚を有することを特徴とする透明導電フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7において、上記基材フィルムは、PETからなることを特徴とする透明導電フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか一項において、上記基材フィルムと上記透明導電膜との間には、ポリエステル系の接着剤層を介在させることを特徴とする透明導電フィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項9において、上記接着剤層は、表面エネルギーが30〜80mN/mであることを特徴とする透明導電フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−164745(P2006−164745A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354415(P2004−354415)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】