説明

透明導電膜の製造方法、透明導電膜、導電性繊維の製造方法、導電性繊維、カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液、カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液の製造方法および電子機器

【課題】塗布プロセスを用いて、色味がなく、透明導電性の高い透明導電膜を低コストで容易に製造することができる透明導電膜の製造方法およびそれに用いるカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を提供する。
【解決手段】表面に親水基を付与したカーボンナノチューブに対して親水性の導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下となるように混合し、溶媒に分散させ、カーボンナノチューブの濃度を0.1g/L以上2.0g/L以下とすることにより、カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を製造する。このカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を透明基材上に塗布することにより透明導電膜を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、透明導電膜の製造方法、透明導電膜、導電性繊維の製造方法、導電性繊維、カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液、カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液の製造方法および電子機器に関する。この発明は、例えば、ディスプレイ、タッチパネル、太陽電池などに用いられる透明導電膜あるいは導電性シートなどに用いられる導電性繊維に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、透明導電膜の材料としてはインジウム−錫酸化物(ITO)が主に用いられているが、機械的特性が悪く、曲げなどに弱いため、屈曲可能なプラスチック基板を用いたディスプレイ、太陽電池などの柔軟性が求められる用途には適していない。また、ITOを構成するインジウムは資源が少なく、高価であるという問題がある。さらに、ITOはスパッタリング法などの真空プロセスを用いて成膜するため、設備およびプロセスコストが高くなるという問題がある。これらの理由により、ITOの代替材料を塗布プロセスにより塗布することにより透明導電膜を成膜することが検討されている。
【0003】
そのITO代替材料の候補としては、導電性ポリマーやカーボンナノチューブなどが検討されている。そのうち、導電性ポリマーは分散液の調製が容易で塗布プロセスに適しているが、一般的に透明導電性が低く、比較的透明導電性が高いPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)などは強い青みを有しているために、作製した導電膜が青みを帯びてしまうという問題がある。
【0004】
他方、カーボンナノチューブは非常に高い導電性を有しているが、溶媒中への分散が非常に困難で、一般的にはSDS(硫酸ドデシルナトリウム)などの界面活性剤などを分散剤として用いることで分散させている。しかしながら、SDSは導電性を有していないため、これらを用いて導電膜を作製した場合、導電性が著しく低下してしまうという問題がある。
【0005】
そのため近年では、カーボンナノチューブを導電性ポリマーを用いて分散させる手法が検討されている(例えば、特許文献1参照)。この手法では、溶媒への分散性の低いカーボンナノチューブを、水溶性の導電性ポリマーを導電性分散剤として用いることで良好に分散させ、この分散液を用いて導電膜を作製している。しかしながら、この分散液では、カーボンナノチューブを分散させるのに必要な導電性ポリマーの量が相対的に多い。このため、この分散液を用いて導電膜を作製した際に導電性ポリマーの色味を反映してしまうとともに、カーボンナノチューブ同士の導電パスが形成されにくいため、高い導電性の透明導電膜を得ることが困難である。また、導電性ポリマーによってカーボンナノチューブの分散性は向上しているが、高濃度の分散液を作製することが困難である。分散液の濃度が高くならないと、印刷などによって低抵抗の導電膜を作製する際に、分散液を何度も繰り返して塗布する必要性が出てくるため、プロセス上の大きなデメリットとなる。
【0006】
また、カーボンナノチューブ・導電性高分子の分散液が検討されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、このカーボンナノチューブ・導電性高分子分散液では、上記と同様にカーボンナノチューブに対する導電性ポリマーの量が多く、また溶液中のカーボンナノチューブの濃度も低いため、色味がなく、透明導電性が高く、高濃度の分散液を作製することが困難である。
【0007】
また、導電性ポリマーの中で最も有望なものとして上記のPEDOTが広く知られている。PEDOTに関しては、NMP(n−メチルピロリドン)、エチレングリコール、DMSO(ジメチルスルホキシド)などの添加剤をPEDOT溶液に対して数重量%(wt%)添加することで、PEDOTの導電性を大きく向上させることが知られている。しかしながら、PEDOTはカーボンナノチューブとは必ずしも親和性が良好でないため、カーボンナノチューブを含む分散液に添加することは、分散液の分散性を大きく落とすことが予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3913208号明細書
【特許文献2】特開2008−50391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、従来の技術では、塗布プロセスを用いて、色味がなく、透明導電性の高い透明導電膜を製造することは困難であった。
【0010】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、塗布プロセスを用いて、色味がなく、透明導電性の高い透明導電膜を低コストで容易に製造することができる透明導電膜の製造方法を提供することである。
【0011】
この発明が解決しようとする他の課題は、カーボンナノチューブ、導電性ポリマーなどにより構成された、色味がなく、透明導電性の高い透明導電膜およびそのような透明導電膜を用いる電子機器を提供することである。
【0012】
この発明が解決しようとするさらに他の課題は、カーボンナノチューブ、導電性ポリマーなどにより構成された、色味がなく、透明導電性の高い透明導電膜の製造に用いて好適なカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液およびその製造方法を提供することである。
上記課題および他の課題は本明細書の記述によって明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、この発明は、
表面に親水基を付与したカーボンナノチューブに対して親水性の導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下となるように混合し、溶媒に分散させた、上記カーボンナノチューブの濃度が0.1g/L以上2.0g/L以下のカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を透明基材上に付着させる工程を有する透明導電膜の製造方法である。
【0014】
また、この発明は、
表面に親水基を付与したカーボンナノチューブに対して親水性の導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下となるように混合し、溶媒に分散させた、上記カーボンナノチューブの濃度が0.1g/L以上2.0g/L以下のカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を透明基材上に付着させることにより製造される透明導電膜である。
【0015】
また、この発明は、
表面に親水基を付与したカーボンナノチューブに対して親水性の導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下となるように混合し、溶媒に分散させた、上記カーボンナノチューブの濃度が0.1g/L以上2.0g/L以下のカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を繊維の表面に付着させる工程を有する導電性繊維の製造方法である。
【0016】
また、この発明は、
表面に親水基を付与したカーボンナノチューブに対して親水性の導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下となるように混合し、溶媒に分散させた、上記カーボンナノチューブの濃度が0.1g/L以上2.0g/L以下のカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を繊維の表面に付着させることにより製造される導電性繊維である。
【0017】
また、この発明は、
表面に親水基を付与したカーボンナノチューブに対して親水性の導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下となるように混合し、溶媒に分散させた、上記カーボンナノチューブの濃度が0.1g/L以上2.0g/L以下のカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液である。
【0018】
また、この発明は、
表面に親水基を付与したカーボンナノチューブに対して親水性の導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下となるように混合し、溶媒に分散させ、上記カーボンナノチューブの濃度を0.1g/L以上2.0g/L以下とするカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液の製造方法である。
【0019】
また、この発明は、
表面に親水基を付与したカーボンナノチューブに対して親水性の導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下となるように混合し、溶媒に分散させた、上記カーボンナノチューブの濃度が0.1g/L以上2.0g/L以下のカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を透明基材上に付着させることにより製造される透明導電膜を有する電子機器である。
【0020】
上記の各発明において、カーボンナノチューブ、親水性の導電性ポリマーおよび溶媒としては従来公知のものを用いることができ、必要に応じて選ばれる。透明基材および繊維としても従来公知のものを用いることができ、必要に応じて選ばれる。繊維は典型的には合成繊維である。
【0021】
カーボンナノチューブの表面に親水基を付与する方法は特に限定されないが、典型的には、カーボンナノチューブの表面を酸で処理することにより親水基を付与する。この処理に用いる酸としては従来公知のものを用いることができ、必要に応じて選ばれるが、具体例を挙げると、塩酸、過酸化水素水、硝酸、硫酸などである。
【0022】
カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液中における、表面に親水基を付与したカーボンナノチューブに対する親水性の導電性ポリマーの重量比は、より色味のない透明導電膜を得る観点からは、好適には1以上2以下とする。好適には、カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液における波長750nmの光に対する吸光度の波長450nmの光に対する吸光度の比が0.8以上1.2以下である。
【0023】
好適には、カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を透明基材上に付着させる前に透明基材の表面を親水性処理する。こうすることで、透明基材に対する透明導電膜の密着性の向上を図ることができる。典型的には、カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を透明基材上に付着させる前に透明基材の表面に紫外線処理(UV処理)またはプラズマ処理を施すことにより透明基材の表面を親水性処理する。あるいは、カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を透明基材上に付着させる前に透明基材の表面にシランカップリング剤または親水性の導電性ポリマーを塗布することにより透明基材の表面を親水性処理する。
【0024】
透明導電膜の表面による光の反射を防止し、あるいは、透明導電膜の表面を保護するためには、好適には、透明導電膜の最表面に反射防止処理および/または表面保護処理を施す。
【0025】
導電性ポリマーの導電性向上のために添加剤を用いる場合、好適には、この添加剤は、カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液に含ませるのではなく、導電性ポリマーに加えてこの添加剤を溶解させた溶液を別途塗布することにより用いる。すなわち、カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を塗布した後、その上に導電性ポリマーおよび添加剤を溶解させた溶液を塗布する。こうすることで、カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液中のカーボンナノチューブの分散性を低下させずに、最終的に得られる透明導電膜における導電性ポリマーの導電性の向上を図ることができる。添加剤としては従来公知のものを用いることができ、使用する導電性ポリマーに応じて適宜選ばれる。
【0026】
上記の透明導電膜の製造方法あるいは透明導電膜によれば、シート抵抗値が10Ω/□以上10000Ω/□以下で全光線透過率が70%以上の透明導電性が良好な透明導電膜を得ることができる。また、透明導電膜の波長750nmの光に対する透過率と波長450nmの光に対する透過率との差が5%以下の透明導電膜、すなわち可視光領域での透過率がほぼ一定の透明導電膜を得ることができる。
この透明導電膜は、透明導電性フィルムあるいは透明導電性シートとして用いることができる。
【0027】
電子機器は透明導電膜を用いる限り各種のものであってよいが、具体的には、例えば、液晶ディスプレイ(LCD)や有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(有機ELディスプレイ)などのディスプレイ、タッチパネルなどであり、透明導電膜の用途も問わない。
【0028】
上述のように構成されたこの発明においては、カーボンナノチューブ同士のネットワークが良好に形成されるため、高い導電性の透明導電膜を得ることができる。また、親水性のカーボンナノチューブを用いていることにより、カーボンナノチューブを高濃度に分散させることができる。また、カーボンナノチューブがネットワークを形成するとともに、表面に親水基を付与しているために親水性が高いことにより、例えば透明基材の表面の親水性を高めることで透明基材に対する透明導電膜の密着性の向上を図ることができる。また、カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液におけるカーボンナノチューブ濃度を高くすることができるため、塗布プロセスの簡略化を図ることができる。また、様々な濃度のカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を得ることができるので、多種多様な印刷プロセスに用いることができる。また、カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液におけるカーボンナノチューブに対する導電性ポリマーの重量比を適切に選ぶことにより、色味をなくすことができる。そして、このカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を用いることにより、色味のない透明導電膜を製造することができる。また、導電性ポリマーの添加剤を後から塗布することで、カーボンナノチューブの分散性を落とさずに、導電性ポリマーの導電性を向上させ、最終的に得られる透明導電膜の導電性の向上を図ることができる。また、このカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液は高濃度で基材に対する高い密着性、高い導電性を実現することができる。このため、透明基材だけでなく、合成繊維などからなる繊維そのもの、各種の繊維状の材料、各種の平坦性のない材料、弾力性や伸縮性などのある透明材料などの広範な対象物への塗布が可能になる。
【発明の効果】
【0029】
この発明によれば、色味がなく、透明導電性の高い透明導電膜の製造に用いて好適なカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を得ることができる。そして、このカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を用いた塗布プロセスを用いて、色味がなく、透明導電性の高い透明導電膜を低コストで容易に得ることができる。そして、この透明導電膜を電子機器の透明導電膜に用いることにより、高性能の電子機器を得ることができる。また、塗布プロセスを用いて、色味がなく、透明導電性の高い透明導電性繊維を低コストで容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】PEDOT/カーボンナノチューブ比を変化させたカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液の吸光度の測定結果を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」とする)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液およびその製造方法)
2.第2の実施の形態(透明導電膜およびその製造方法)
3.第3の実施の形態(導電性繊維およびその製造方法)
【0032】
〈1.第1の実施の形態〉
[カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液およびその製造方法]
第1の実施の形態によるカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液は、表面に親水基を付与したカーボンナノチューブに対して親水性の導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下となるように混合し、溶媒に分散させ、カーボンナノチューブの濃度を0.1g/L以上2.0g/L以下とすることにより得られる。
【0033】
カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであっても多層カーボンナノチューブであってもよく、直径や長さは特に限定されない。このカーボンナノチューブは、基本的にはどのような方法により合成したものであってもよいが、具体的には、例えば、レーザーアブレーション法、電気的アーク放電法、化学気相成長(CVD)法などにより合成することができる。
【0034】
カーボンナノチューブの表面に付与する親水基は、例えば、ヒドロキシ基(−OH)、カルボキシ基(−COOH)、アミノ基(−NH2 )、スルホ基(−SO3 H)などである。カーボンナノチューブの表面に付与する親水基の量は必要に応じて選ばれる。カーボンナノチューブの表面に親水基を付与するためには、好適には、カーボンナノチューブの表面を塩酸、過酸化水素水、硝酸、硫酸などの酸で処理する。好適には、酸を常温より高い温度に加熱して処理を行うが、これに限定されるものではなく、常温の酸で処理を行ってもよい。酸の加熱温度は使用する酸に応じて適宜決められる。処理時間は、必要な量の親水基がカーボンナノチューブの表面に付与されるように、使用する酸および処理温度に応じて適宜選ぶことができる。
【0035】
親水性(あるいは水溶性)の導電性ポリマーとしては従来公知のものを用いることができ、必要に応じて選ばれる(例えば、特許文献1参照)。親水性の導電性ポリマーとしては、例えば、フェニレンビニレン、ビニレン、チエニレン、ピロリレン、フェニレン、イミノフェニレン、イソチアナフテン、フリレン、カルバゾリレンなどを繰り返し単位として含むπ共役系高分子の骨格またはこのπ共役系高分子の窒素原子上に、酸性基を有するか、酸性基で置換されたアルキル基またはエーテル結合を含むアルキル基を有するものを用いることができる。親水性の導電性ポリマーの中でも、スルホン酸基および/またはカルボキシ基を有するものが、溶媒への溶解性、導電性、成膜性の点で好適に用いられる。ポリマーの繰り返し単位の総数に対するスルホン酸基および/またはカルボキシ基を有する繰り返し単位の含有量が50%以上の親水性の導電性ポリマーは、水、含水有機溶媒などの溶媒への溶解性が非常に良好なため、好適に用いられる。スルホン酸基および/またはカルボキシ基を有する繰り返し単位の含有量は、より好適には70%以上、さらに好適には90%以上、最も好適には100%である。
【0036】
カーボンナノチューブおよび導電性ポリマーを分散させる溶媒としては、これらのカーボンナノチューブおよび導電性ポリマーを分散させることができる限り、基本的にはどのような溶媒を用いてもよく、従来公知の各種のものを用いることができる。この溶媒としては、具体的には、水、アルコール類、ケトン類、エチレングリコール類、プロピレングリコール類、アミド類、ピロリドン類、ヒドロキシエステル類、アニリン類などが用いられる。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブタノールなどが挙げられる。ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。エチレングリコール類としては、例えば、エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテルなどが挙げられる。プロピレングリコール類としては、例えば、プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテルなどが挙げられる。アミド類としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。ピロリドン類としては、例えば、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドンなどが挙げられる。ヒドロキシエステル類としては、例えば、ジメチルスルオキシド、γ−ブチロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチル、β−メトキシイソ酪酸メチル、α−ヒドロキシイソ酪酸メチルなどが挙げられる。アニリン類としては、例えば、アニリン、N−メチルアニリンなどが挙げられる。
【0037】
〈実施例1〜10〉
カーボンナノチューブとして、株式会社名城ナノカーボン社製のMeijo−Arcを使用した。このカーボンナノチューブに対して100℃過酸化水素水中で12時間加熱精製を行った。この処理により、カーボンナノチューブの水に対する分散性も向上したことから、不純物の除去だけでなく、カーボンナノチューブ自身の親水性も向上したことがわかった。親水性が向上したのはカーボンナノチューブの表面に−OH基が付与されたことによる。比較例として、未精製のカーボンナノチューブを用いた分散液も作製した。
【0038】
導電性ポリマーとしては、PEDOT/PSS(H.C.Stark社製Baytron P、固形分1.2wt%)を使用した。
【0039】
カーボンナノチューブをPEDOT溶液とともに水中に加え、ホモジナイザーを用いて10分間超音波処理を行った後に、エタノールを加えてさらに20分間ホモジナイザー処理を行い、カーボンナノチューブを溶液中に完全に分散させた。こうしてカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を作製した。このカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液の組成および成分を変化させてカーボンナノチューブの分散性を調べた結果を表1に示す。比較例1〜3および実施例1〜10は精製を行ったカーボンナノチューブを用いたカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液、比較例4、5は未精製のカーボンナノチューブを用いたカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を用いた場合である。各分散液中の水:エタノール比は1:10〜1:3になるように調整した。分散液中の水の比率が高くなるほど塗布はしにくくなるが、分散性は水の比率が高いほど良くなっていた。
【0040】
【表1】

【0041】
表1からわかるように、精製したカーボンナノチューブを用いた場合(比較例1〜3および実施例1〜10)、カーボンナノチューブ単体では分散性は総じて良くないが、PEDOTを加えることで溶液中に分散するようになった(実施例1〜10)。一方、未精製のカーボンナノチューブを用いた場合(比較例4、5)には、PEDOTを加えてもカーボンナノチューブはほとんど分散しなかった(比較例5)。実施例1〜10のように、カーボンナノチューブ濃度やカーボンナノチューブに対するPEDOTの比率(PEDOT/カーボンナノチューブ比)を変えた結果、PEDOT/カーボンナノチューブ比で0.5以上4以下、カーボンナノチューブの濃度が0.1g/L以上2.0g/L以下で分散性が良好な分散液が得られた。
【0042】
カーボンナノチューブが良好に分散した分散液のうち、比較例1および実施例5〜7に対して、分光光度計で吸光度の測定を行った。その際、適度に光が透過するように、分散液にエタノールを加えて2倍〜10倍程度に希釈をしてから測定を行った。その結果を図1に示す。図1には、比較をしやすいように、測定した吸光度曲線に対して、450nmから750nmの領域における吸光度の総和が等しくなるように規格化した吸光度曲線のデータを示す。PEDOT/カーボンナノチューブ比が高い場合は、PEDOTの光吸収の影響を大きく受けるため、長波長側での吸光度が大きくなっているが、PEDOT/カーボンナノチューブ比が増加するとともに吸光度曲線がフラットになっている。比較例1のようにカーボンナノチューブのみになってしまうと逆に短波長側の吸収が若干大きくなってしまうが、実施例6、7のようにPEDOT/カーボンナノチューブ比が1以上2以下では可視光領域の色味は小さく抑えられており、PEDOT/カーボンナノチューブ比が1付近では可視光領域の色味はほとんどなくなっている。この結果から、PEDOT/カーボンナノチューブ比を適切に調整することで、色味を制御した分散液の調製が可能であることがわかる。
【0043】
以上のように、この第1の実施の形態によれば、色味がなく、透明導電性が高く、しかもカーボンナノチューブの濃度が高くて印刷プロセス適合性が高い優れたカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を得ることができる。
【0044】
〈2.第2の実施の形態〉
[透明導電膜およびその製造方法]
第2の実施の形態による透明導電膜の製造方法においては、第1の実施の形態によるカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を用いて印刷プロセスにより透明導電膜を製造する。
【0045】
具体的には、表面に親水基を付与したカーボンナノチューブに対して親水性の導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下となるように混合し、溶媒に分散させた、カーボンナノチューブの濃度が0.1g/L以上2.0g/L以下のカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を用い、印刷プロセスにより透明基材上に印刷することにより透明導電膜を製造する。
【0046】
透明基材は種々のものであってよく、必要に応じて選択することができる。具体的には、この透明基材としては、ガラス、石英などを用いることができるが、フレキシブルな基材としては各種の透明プラスチック基材を用いることができる。透明プラスチック基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネートなどからなるものを用いることができるが、これに限定されるものではない。透明プラスチック基材としては、ポリエチレンテレフタレートなどからなるものを用いることができる。印刷方法は特に限定されないが、例えば、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、平板印刷法、凸版印刷法、オフセット印刷法、凹版印刷法、ゴム版印刷法、スクリーン印刷法などを用いることができる。
【0047】
この製造方法により、透明基材上に、カーボンナノチューブおよび導電性ポリマーからなる透明導電膜を製造することができる。この透明導電膜は、カーボンナノチューブに対して導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下含む。
【0048】
〈実施例11〜18〉
実施例1〜3、5〜7、9、10により作製されたカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液をバーコーター(ギャップ100μm)を用いてPET基板(東レ製 ルミラーU34 厚み100μm、全光線透過率92%)上に塗布することによって透明導電膜を作製した(実施例11〜18)。塗布は60℃に加熱したホットプレート上で行った。分散液を塗布後、添加剤として用いるDMSOをイソプロピルアルコールで10倍に希釈したPEDOT溶液を同様に塗布することで、PEDOTの導電性を向上させた。
【0049】
DMSOなどの添加剤は、従来は塗布前に分散液に加えるのが一般的であるが、カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液に直接DMSOを加えたところ、事前に懸念していたようにカーボンナノチューブの分散性が著しく低下してしまったため、上述のように後から塗布することでこの問題を解決した。
【0050】
作製した透明導電膜の特性を測定した結果を表2に示す。表2からわかるように、PEDOT/カーボンナノチューブ比が減少するに従ってシート抵抗が低下するとともに、波長750nmと450nmとの透過率の差がなくなり、色味のない透明導電膜を作製することができる。
【0051】
【表2】

【0052】
この第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態によるカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を透明基材上に塗布することにより、色味がなく、透明導電性が高い透明導電膜を低コストで容易に得ることができる。この透明導電膜は、種々の電子機器あるいは電子素子に用いることができる。電子機器あるいは電子素子は、およそ透明導電膜を用いるものである限り全てのものが含まれ、用途や機能を問わない。具体的には、例えば、タッチパネル、ディスプレイ、太陽電池、光電変換素子、電界効果トランジスタ(FET)(薄膜トランジスタ(TFT)など)、分子センサーなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0053】
〈3.第3の実施の形態〉
[導電性繊維およびその製造方法]
第2の実施の形態による導電性繊維の膜の製造方法においては、第1の実施の形態によるカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を用いて印刷プロセスにより導電性繊維を製造する。
【0054】
具体的には、表面に親水基を付与したカーボンナノチューブに対して親水性の導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下となるように混合し、溶媒に分散させた、カーボンナノチューブの濃度が0.1g/L以上2.0g/L以下のカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を用い、ディップ法などにより繊維の表面に透明導電膜を形成して導電性繊維を製造する。透明導電膜を形成する繊維は透明であっても不透明であってもよい。透明な繊維を用いた場合には透明導電性繊維を製造することができ、不透明な繊維を用いた場合には不透明導電性繊維を製造することができる。
【0055】
透明導電膜を形成する繊維は種々のものであってよく、必要に応じて選択することができる。この繊維としては典型的には合成繊維が用いられるが、これに限定されるものではない。合成繊維としては、例えば、アクリル繊維、アセテート繊維などのほか、ポリエステル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンなどからなる繊維などを用いることができる。
【0056】
この製造方法により、透明または不透明な繊維の表面に、カーボンナノチューブおよび導電性ポリマーからなる透明導電膜を形成することができ、これによって透明または不透明な導電性繊維を製造することができる。この透明導電膜は、カーボンナノチューブに対して導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下含む。
【0057】
この第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態によるカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を繊維上に塗布することにより、透明または不透明な導電性繊維を低コストで容易に得ることができる。特に、透明繊維を用いた場合には、色味がなく、透明導電性が高い透明導電性繊維を得ることができる。この導電性繊維は種々の用途に用いることができるが、例えば、透明または不透明な導電性シートの製造に用いることができる。
【0058】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0059】
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に親水基を付与したカーボンナノチューブに対して親水性の導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下となるように混合し、溶媒に分散させた、上記カーボンナノチューブの濃度が0.1g/L以上2.0g/L以下のカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を透明基材上に付着させる工程を有する透明導電膜の製造方法。
【請求項2】
上記重量比が1以上2以下である請求項1記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項3】
上記カーボンナノチューブの表面を酸で処理することにより上記親水基を付与する請求項2記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項4】
上記酸が塩酸、過酸化水素水、硝酸または硫酸である請求項3記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項5】
上記カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液における波長750nmの光に対する吸光度の波長450nmの光に対する吸光度の比が0.8以上1.2以下である請求項4記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項6】
上記カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を上記透明基材上に付着させる前に上記透明基材の表面を親水性処理する請求項5記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項7】
上記カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を上記透明基材上に付着させる前に上記透明基材の表面に紫外線処理またはプラズマ処理を施すことにより上記透明基材の表面を親水性処理する請求項6記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項8】
上記カーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を上記透明基材上に付着させる前に上記透明基材の表面にシランカップリング剤または親水性の導電性ポリマーを塗布することにより上記透明基材の表面を親水性処理する請求項6記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項9】
最表面に反射防止処理および/または表面保護処理を施す請求項6記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項10】
上記透明導電膜のシート抵抗値が10Ω/□以上10000Ω/□以下で全光線透過率が70%以上である請求項6記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項11】
上記透明導電膜の波長750nmの光に対する透過率と波長450nmの光に対する透過率との差が5%以下である請求項6記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項12】
表面に親水基を付与したカーボンナノチューブに対して親水性の導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下となるように混合し、溶媒に分散させた、上記カーボンナノチューブの濃度が0.1g/L以上2.0g/L以下のカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を透明基材上に付着させることにより製造される透明導電膜。
【請求項13】
上記重量比が1以上2以下である請求項12記載の透明導電膜。
【請求項14】
表面に親水基を付与したカーボンナノチューブに対して親水性の導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下となるように混合し、溶媒に分散させた、上記カーボンナノチューブの濃度が0.1g/L以上2.0g/L以下のカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を繊維の表面に付着させる工程を有する導電性繊維の製造方法。
【請求項15】
上記重量比が1以上2以下である請求項14記載の導電性繊維の製造方法。
【請求項16】
表面に親水基を付与したカーボンナノチューブに対して親水性の導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下となるように混合し、溶媒に分散させた、上記カーボンナノチューブの濃度が0.1g/L以上2.0g/L以下のカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を繊維の表面に付着させることにより製造される導電性繊維。
【請求項17】
上記重量比が1以上2以下である請求項16記載の導電性繊維。
【請求項18】
表面に親水基を付与したカーボンナノチューブに対して親水性の導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下となるように混合し、溶媒に分散させた、上記カーボンナノチューブの濃度が0.1g/L以上2.0g/L以下のカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液。
【請求項19】
表面に親水基を付与したカーボンナノチューブに対して親水性の導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下となるように混合し、溶媒に分散させ、上記カーボンナノチューブの濃度を0.1g/L以上2.0g/L以下とするカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液の製造方法。
【請求項20】
表面に親水基を付与したカーボンナノチューブに対して親水性の導電性ポリマーを重量比で0.5以上4以下となるように混合し、溶媒に分散させた、上記カーボンナノチューブの濃度が0.1g/L以上2.0g/L以下のカーボンナノチューブ・導電性ポリマー複合分散液を透明基材上に付着させることにより製造される透明導電膜を有する電子機器。

【図1】
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【公開番号】特開2012−124107(P2012−124107A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275800(P2010−275800)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】